Coolier - 新生・東方創想話

散る魂、散らぬは想い

2004/11/29 10:44:29
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―――――――――ゆらゆら

 体が不思議と軽く感じられる。
 まるで一羽の、いや一枚の羽毛になったようだ。
 風か波に揺られるように自分の体が流されている。
 どこに流れ着くのか、何で流されているのか、全てが分からない。
 いや――――――――――――――――――もうすぐ分かると思う。

―――――――――ひらひら

 気付いたら自分の視界に何かが見える。
 周りは綺麗なピンク色をした花弁が舞い上がっていた。
 私の体を美しい螺旋を描きながらひらひらと。
 それが私の体を誘導しているのか・・・・・。
 それともこれは、―――――――――誘われていると言った方が正しいのかな?

―――――――――こっちにいらっしゃい

 今度は声が聞こえてくる。
 これもまた周りの花弁に負けず劣らず美しい声。
 その声だけで魅了されてしまいそう。
 別にその声に従おうとしたわけでもないのに、私は自然と目が開いていく。

 

 きっと、目が覚めた時・・・・私は知らない場所に落ちているのだろう―――――――――








「・・・・・・・・・・・・・・ん」

 一人の少女の目がゆっくりと開いていく。
 目に見えるのは異質な空。
 そして満開の桜が目に飛び込んできた。
 地面に寝そべっていた体を起こし、辺りをぐるっと見回す。
 自分の家とは違う、まったく見知らぬ世界。
 そんな所で目を覚ましたらいやでも不思議に思う。

「・・・・・・・ここは・・」
「冥界よ」
「!!」

 突然の返答に思わず体がびくっとしてしまう。
 声がした方向を見れば、桜の木々を潜り抜け一人の女性がこちらに向かって歩いてくる。
 顔立ちは女性と言うより少女の方が近いだろう。
 舞い散る桜の花弁よりも綺麗な髪をなびかせ、咲き誇る桜の木よりも凛々しいその姿は同性の者ですら見惚れてし
まいそうだ。
 ゆっくりと、その少女は自分に近寄ってくる。

「冥界・・・・・?」
「言葉通りよ。ここは死者のみが集う都。つまり死んだ者が住んでいるという事よ」

 死者のみが集う、そんな場所に自分が居るとなると、それはつまり自分も死んだという事になる。
 でもなぜか、少女にはここの空気は合ってない感じがする。

「・・・それじゃあ、私は死んだの?」
「・・・・・その事については後で説明するわ。付いて来て」

 そう言うと少女がまた来た道を戻ろうとする。
 そのまま、すたすたと歩き始めてしまい慌ててその後を追いかける。
 目の前を歩く少女が通るたび、桜が応えるかのように華麗な散り桜を披露する。
 ゆっくりと、せっかく咲いた命を一人の少女の為に散らすかのように。
 歩いている途中、少女が一度またこちらを向きなおして

「ようこそ白玉楼へ。西行寺家の主、西行寺 幽々子自ら歓迎するわ。レイラ・プリズムリバー」

 と少女の名前と、自分の名前をあげてくれた。
 




 桜のみが咲き誇るこの庭は優雅であったがそれと同時に異常だった。
 
     綺麗だが――――――――――――――――穢い
                           優雅だが――――――――――――――――醜い
 
 レイラが足を一歩前に出せば、先に散った桜の花弁がその風圧で少々浮き上がる。
 そしてそれが風に乗り、一度散ったはずの命が再び生き返った――――――――そしてまた散り晒す。
 一度死んだはずの命が、また仮の形で生き返ったように魅せる姿が何てすばらしく可笑しい事か。
 それは幸福か、不幸か?
 幽々子と名のる少女が通った軌跡を描いて散った桜がレイラのせいで再びその命を蘇らそうとする。
 
 いや・・・・・・――――――蘇らせたのは私かな?
 
 名残り惜しいのはレイラの方なのか、それとも桜の方なのか、もしくは両方か。
 幽々子が通った時の桜が綺麗すぎて、それをレイラはもう一度見たいと思った。
 桜の方は、もう一度舞い上がりたいと思ってレイラの歩いた風圧を使っている。
 一体、魅せられて甘い夢に恋焦がれて無理に縋ろうとしているのはどちらかな。
 所詮は一回散った命など、蘇ったと言うにはあまりにも無粋でしょうがない事。
 たかが仮初の命と言っても、それは死でも生でもない作られた見せ掛けの幻影。
 舞い上がった桜の花弁は、まだ己が生きていると魅せようとしているのだろう。
 だがそれも幻影、散ったものは蘇られないのだから潔く散り晒せばいいものを。

「・・・・・さて、この辺りでいいかしら」

 だがそれでも已む事はなし。
 それが結局は生きている、もしくは死んでいるものの定めなのかもしれない。

「一体何をなさる御つもりなんですか?このような場所で」

 広い桜の海にぽっかりと開いた丸い平地。
 そこには桜の花弁一枚も散っていなかった。
 まるでそこは生の桜の木も死の桜の花弁も近寄れない―――――――――――無。

「ここに来た理由はただ一つ、私がこれからする事を誰にも見られたくないから」
「・・・・そのする事とは?」
「・・・・・・直で聞かせてもらうわ。あなたが産み出した――――あの三人の幻影はなに?」

 突如、幽々子から殺気が放たれる。
 その殺気に応えてか、円を描いていた桜の木が一斉に花弁を舞い散らせた。
 幽々子とレイラを囲むよう風が渦を巻き、その風が花弁を抱き締め二人を覆い尽くす。
 まるで二人の意志が外部の侵入を妨げるような桜花結界。

「・・・・・姉たちの事でしょうか?」
「・・・姉?あの作られた幻影を姉ですって?――く・・・・あははははは」

 さぞ可笑しそうに冷笑を浮かべる幽々子。
 だがレイラはいたって平然としていた。

「・・・・何がおかしいのでしょうか?」
「ははは・・・・ごめんなさい。まさか生でも死でもない幻影を姉と呼ぶなんて思ってもみなかったから」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」

 ・・・・・・何て恐ろしい静けさだろう。
 幽々子の冷笑が止まると同時にまったくの無音空間だった。
 あんなに桜の花弁を渦巻かせている風の音すらまったくしない。
 嵐の前の静けさと言うやつか、何か可笑しな事があった後の静けさほど怖いものはない。

「まあ、だからこそ聞きたいんだけれどね」
「・・・・・・どうしても話さなければなりませんか?」
「当然よ。その為にあなたをここに呼んだんだから」
「呼んだ?」
「私が持つ『死を操る能力』簡単に言えば生きているものを死に誘う事が出来るの。それであなたをここに呼んだの」

 つまり冥界に着く前に聞こえた声は幽々子のもの。
 その声に誘われてレイラは冥界にやって来た。
 周りに見えた花弁はおそらく桜、死に誘う時に魅了すると言う意味で一躍買っているのだろう。

「まず最初に、あの幻影をどうやって作ったのか、そしてなぜ作ったのか聞かせてもらいましょうか」
「強制ですか?」

 当然のように幽々子の首が縦に動く。
 ここで「言えない」と言ったところで、おそらく幽々子は様々な方法で聞き出そうとするだろう。
 あえて冥界に呼んでまで聞き出そうとするのだから、よっぽどご立腹と見える。
 だが、直感だが、レイラは幽々子が殺気立てているのは姉を作った事ではなく、その先の事についてだと思った。
 作るだけなら別にレイラでなくても出来るし、作ったとしてもたかが幻影なら問題にならない。

「私の家は元々裕福な家でした。ですが、とある事故によって家は崩壊。それにより私と三人の姉は別々に引き取ら
れる事になりました」

 過去を思い出しながら語っているのか、レイラの視線は遠くでも近くでもない、自分の心の中にだけある光景を覗
き込んでいるようだった。

「だけど、私だけはどうしても思い出の屋敷から別れる事が出来なかった。私だけが屋敷に残り、一人で思い出に縛
られながら生きてきました。そして―――――その時思ったんです。例え姿だけでも姉たちが居てくれればと」

 事故が起こる前、レイラの父はマジックアイテムを買っていた。
 それにはこう書かれていた。

  『汝が望む姿、己の心に曇りなきその姿があるのなら、汝の意思は意志を通じて霊と言う名の形となるだろう』

 レイラが望んだ姉たちの姿、それは楽器を演奏する姿だった。

  長女ルナサが弾くはヴァイオリン。
  次女メルランが吹くはトランペット。
  三女リリカが奏でるはパーカッション。

 よく庭で三人がそれぞれの楽器を片手に練習する姿を見ていた。
 時には一緒に演奏をしたりもするが、上手くいかなかったりする事も多くその度に喧嘩をしていた。
 その愚痴を聞いたり宥めたりするのがレイラの仕事の一つ。
 大きな庭は音楽の音だけじゃなく、そういった事でもよく騒がしくなったものだ。
 だからこそそれがいい。
 楽器を演奏する三人の姿は本当に生き生きとしていた。
 例え上手くいかなくて喧嘩をしたりしても、どこか楽しそうでしょうがない。
 そんな面白おかしな騒がしい姿こそ、レイラがこよなく愛した姉たちの姿。
 そしてその思いをマジックアイテムに通して出来たのが――――――――――騒霊(ポルターガイスト)である。
 
「・・・・だけど霊と言えど所詮は幻影の形。形だけは映し出せても中身までは無理なはず」

 その話を聞いた幽々子の手は強く握られ、わなわなと震えていた。
 最初にレイラが作った時はもちろん幽々子言う通りただの幻影にすぎなかった。
 姿はあっても喋る事はないし、食事もしない。
 だけどそれは消える事もなかった。
 そこは、流石ただの幻影でなく霊と言ったところだろう。
 霊、誰もが知る意味では精神・死者の魂。
 この場合の霊は前者の方で、精神と言うのはレイラの想い。
 つまりレイラの想いが作り出した霊である以上、レイラの想いが費えない限り霊も消える事はない。
 本来はそれだけの霊で、後は姿が見えるだけのはずだった。
 それが、いつの日かレイラに話しかけるようになった。
 いきなり話しかけられた時は倒れそうになったのをレイラは覚えている。
 そんな日々がしばらく続くうちに、少しずつ三人はありえない事をしだした。
 ―――――――成長、姿は変わらなくても、一般の生活を身に付けていったのだ。
 そう、幽々子が殺意を抱いた理由はここにある。

「最初は私のやっている事を見ているだけだったのが、いつかそれを見よう見真似で手伝うようになり、最終的には
それを会得しました。まるで生きてるかのように・・・・・・・」

 ありえない事だった。
 成長も行動も考えるもしないはずなのに、レイラが作り出した騒霊は時間と共に確実に成長していった。
 家事全般は出来るし、話すことも出来るし、レイラを気遣う事も出来る。
 そして楽器を演奏する事も。
 それはもう――――――――――本当の姉のように・・・・・・。

「魂と言うのは生と生の交わりによって宿るもの。それが年月と共に死となり肉体を放れた魂は新たな生に宿る。人、
それを輪廻転生と呼ぶわ」

 生あるものには死がやってくる。
 それは魂があるものなら逆らえない事だ。
 一部を除いても、それがこの世の生死の掟。
 だが、稀であるが魂が輪廻転生せず、そのまま残る事がある。
 何かこの世に心残りがある、そう言ったものはその想いからか魂がこの世に留まるのだ。
 簡単な例で言えば地縛霊がそれに値する。
 中にはあえて霊のまま生きようとするものもいるが。
 生としての生き方があれば、死としての生き方もあるという事だろう。
 まあこれはただの余談にすぎない。
 重要なのは、生きているものと、死んでいるものの共通点、魂があるという事。
 生は肉体に留まった魂、死は魂そのもの。
 魂そのものの姿を人は霊と呼ぶ。
 魂は作られたものではなく、元々存在しているのだ。
 生き物が死ぬ事によって、生から解き放たれた魂はまた違う性に宿るか、そのまま霊として生きるか。
 生と生の交わりで出来るのは魂を宿す事、魂を作る事ではない。
 つまり魂そのものを作る事は不可能なのだ。
 なのに・・・・レイラのあれは

「あなたが生み出した騒霊、あれは確実に魂の形になろうとしているわ」

 レイラが作り出した幻影、あれは生まれた訳じゃなく作られたので魂はない。
 しかし、それが確実に魂の形となりつつある。
 道具によって作られそうな魂、死を操る幽々子にとっては見過ごせるものじゃなかった。

「だけど、その代償は大きかったみたいね」
「・・・・・・どういう事でしょうか?」
「あら、やっぱり気付いてなかったのね。あの騒霊、魂の形に近づくにつれあなた自身の生を蝕まれている事に」

 生死の掟を破って形となりつつある魂は、その代償として作り出した者の生を喰らっていった。
 この場合の生とは寿命。

「あなたの想いが姿を作ったなら、魂はあなたの生によって作られている。生を奪われているあなたは自然と寿命が
短くなっていくわ」
「・・・・・じゃあもし、私が死ねば姉たちはどうなりますか?」
「簡単な話。あなたが死ぬという事は生の供給源が絶たれるという事。想いも死ぬのだから全て消えてなくなるわ」

 その事実がレイラの頭に大きな衝撃を与えた。
 今レイラは冥界に居る、幽々子に死に誘われて。
 つまりレイラは死んだという事なのだから、レイラの姉も消えてしまったという事。

    ――――――――――――――――――――つまり、姉たちと別れてしまった。
           ――――――――――――――――――――自分のせいでまた姉たちが別れてしまった。

 例え魂がなくとも、笑ってくれたり話しかけてくれたのは真実。
 形だけだとしてもあの姿はレイラの愛した姉そのもの。
 楽器を演奏する姿も喧嘩をする姿も本当にそっくりだった。
 だが、それもレイラが死ぬ事によって再び失われた。

 あの・・・・辛い過去をもう一度繰り返した・・・・・・・

「まだ死んだわけじゃないわよ」
「!!ほ、本当ですか!?」

 突然の事に叫んだレイラも叫ばれた幽々子も驚いてしまう。

「え、ええ。あなたは今仮死状態だから」
「仮死・・・・状態?」
「つまり魂は抜け出しちゃったけど、肉体はまだ生きているって事。私は魂を呼び出しただけだから、まだ肉体に魂
を戻せば生き返れるわ」
「ほ、ほんとうに・・・・」

 レイラが冥界を居心地悪いと感じたのは、まだ完全な死を迎えていないから。
 だがそんな事よりも、姉たちがまだ消えてない事に心からレイラは喜んだ。
 
「だけど、それは寿命が尽きようとしているあなただからこそ出来た事。もし仮に戻ったとしても五分が限界ね。最
後のお別れするぐらいの時間はあるわね」

 だが結局はぬか喜びだと言うのを知らされる。
 五分、あまりにも短すぎる。
 時間があるだけまだましだが、レイラは最後のお別れなどしたくない。
 生きていて欲しい、例え霊だとしても。
 だが魂がないのなら、レイラが死ぬと同時に姉たちも消えてしまう。
 
 ―――――――――――――――そう、魂がないから消えてしまう。

「幽々子さん、姉たちを死に誘う事は出来ないんですか?」
「無理よ。私が死に誘えるのは生きているもののみ。魂を持たないものを死に誘う事など出来ないわ」

 予想通りの返答。
 死に誘う―――――――つまり死を与えるという事。
 
                       与える・・・・・もし

「でしたら・・・・・・」

                     死を姉に与える事が出来るなら

「私の魂を・・・・・・」

                      死んだレイラの魂があれば

「魂を砕いて姉たちに与えてくれませんか?」

             姉たちを死と言う形でこの世に留まらせる事が出来るのではないか?

「な、何ですって!!??!」

 これには幽々子も驚きを隠せなかった。
 魂そのものは死で出来ている。
 魂が死ならば、幽々子の死を操る能力を使えば与える事も出来るはず。
 だが、死でできている魂を与えると言うのは、その魂が死に、違う死として魂が存在するという事。
 死が死ねばその先はない、あるのは―――――――――――――――無。
 もはや生にもなれず、死にもなれない。

「自分が何を言っているか分かってます。・・・・でも、それでも――――――」

 姉に生きてて欲しい。
 レイラの視線は幽々子の視線を一切外さない。
 自分の魂(死)を姉たちに与える。
 その想いに迷いなどなかった。

「・・・・・自分の魂を死なせてまで、あの騒霊たちを守ると?」
「違いますよ。私は守るんじゃありません。私は・・・・


 ――――――――――――――――導くんですよ、姉たちがずっと笑えるように――――――――――――――――


 そのとたん、急に風がざわめきだした。
 あれ程聞こえなかった風の音が急に聞こえ始める。
 一人の少女の気持ちに答えるかのように・・・・・・。
 守るのではなく、導く。
 一体その言葉にどれ程の決意があるか、幽々子にはその強さを感じ取った。

「・・・・目を閉じなさい。そして自分の想う姿を心に念じなさい」

 そう言われてレイラはゆっくり目を閉じていく。
 幽々子の手がレイラの体に触れる――――――――体がないかのよう、するりとレイラの心の臓に手が届く。



 いつも優しく、私を大事にしてくれた―――――――――――――ルナサ姉さん
 たまにちょっと暴走するけど、明るい―――――――――――――メルラン姉さん
 苛められたりもしたけど笑顔が似合う―――――――――――――リリカ姉さん

 今まで本当に有難うございました。
 私はけっして出来のいい妹ではありませんでしたけど、姉さんたちの事はいつも想ってました。
 姉さんたちの笑顔も、温もりも、喧嘩も、そして演奏も全て私の宝物です。
 だからお願い―――――――――――――もう、二度と別れる事が
       ―――――――――――――悲しむ事がないように
 笑って生きてください。
 この魂、姉さんたちに捧げます。
 そして・・・・私の分まで・・・・・・しあ・・・・・・わせ・・・に・・・・・・・―――――――――――――


 
 レイラの魂が消えていくにつれ、風が強くなっていく。
 さらに多くの桜の花弁が風に乗る。
 幽々子の手に更なる力が込められる。
 そして、力に耐えられなくなったレイラの魂は・・・・ぱん、と言う音と共に砕け散った。

 ・ひらひら

 ・・ひらひら

 ・・・ひらひら

「集いなさい」

 幽々子がくるくると手を回すと、それに誘われるかのよう砕けた魂が集まっていく。
 それが、三つの美しい蝶へと姿を変える。
 幽々子の手には、黒と黄色の蝶・白と青の蝶・赤と茶色の蝶がゆっくりと羽ばたいていた。

「行きなさい、己が想う場所へ」

 命令すると同時に、三匹の美しき蝶は飛び立っていった。
 美しい桜の花弁が舞う空へと。
 そこで気付いた、あれ程強かった風が止んでいると。
 上空に巻き上げられた桜の花弁が、風を失くして一気に散り乱れた。
 雨霰と散り降る桜吹雪。

「・・・・・・・・・・」

 幽々子が踵を返す。
 レイラは死んだ、文字通り。
 本来、魂を誰かに与えるなんて不可能な事である。
 ましてや、対象になっていない作りものに魂を与える事は出来ない。
 だがレイラの作ったあれは違う。
 あれは魂の形になろうとしていたもの。
 魂を受け入れられるだけの器が出来ていたからこそ、魂を与える事が出来た。
 だが誰の魂でもいい訳じゃない。
 これは深い縁がある姉妹だからこそ出来た芸当、レイラの想いの強さがあってこそだ。

「・・・・・・届いたわね」

 自分が作り上げた蝶の波動が消えていく。
 ちゃんと騒霊たちにはレイラの死が与えられた。
 これでもう消える事はないだろう。
 作られた霊は今本当に霊として誕生した。

「・・・・・・・醜い」

 いまだに散って止まない桜吹雪。
 あれ程何もなかった地面は、桜の花弁で一面覆い尽くされていた。
 桜の花弁は所詮死んだもの。
 一度散った以上、二度と咲き誇る事など出来やしない。
 風に乗せられまだ生きていると魅せる桜の花弁は儚い存在でしかない。
 桜自身も短命の存在、せっかく咲き誇ってもすぐに散る定め。

「・・・・・・・だからこそ美しい」

 でも、だからこそ桜は美しいと思えるのだ。
 醜さと美しさが合わさって初めて桜は完成する。
 散った桜の花弁も、それが一つの形であるなら美しいと思えるだろう。
 自分の心に残った桜は、永久に散る事などない。
 レイラの魂は醜いものだった。
 だが、レイラの想いは本当に美しかった。




          例えどんなにレイラの魂が散ろうとも、レイラの想いが散る事はないだろう


                     その心に偽りがないのなら


                      想いは永久に咲き誇る

色々と御免なさい状態です。
かなり無理矢理だと思われるかもしれませんね。

今回の主人公はレイラ。
なぜルナサたちはレイラが死んでも留まる事が出来たのか考えた結果、このような文に。

思えば、この三姉妹ネタを出したの初めてだと言うのに気付きました。
そして気になるのは、私の得意なジャンルは一体何なのか?
ほのぼの・シリアス・ダーク・ギャグなど色々書いていて、特定のジャンルはなし。
何て中途半端なんだろう。
まあ、どんなジャンルでも書いてて楽しいんですがね。
MSC
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コメント



0.1100簡易評価
13.60名前がない程度の能力削除
むーん
姉を想うレイラの心・・・私もいただきます
14.70てーる削除
今までにないお話ですね・・
レイラの思いと三姉妹の絆はどれほどの重みがあるのでしょうか・・

妖々夢には悲しいお話が多くあるのは背景上仕方ないのでしょうけども・・
その中で心温まるものがあるのも嬉しいことです・・