とっぷりと夜の帳が降りた幻想郷、博麗神社。
何やら変な人が集まって変な事ばかりしてるともっぱらの噂のこの場所で、今日も今日とて実にろくでもない事が巻き起ころうとしていた。
「何が七色の魔法使いだ! それはアレか? 自分の根元には夢という名の宝物が埋まってるって事をさりげなくアピールしてるつもりか? えぇ!?」
「根元ってそれじゃ私が地面から生えてる系の生物みたいじゃない! そういう魔理沙なんかいっつも地味~なモノクロの服着てるんだから大人しく竹林に引きこもって笹でもかっ喰らってればいいのよ!!」
夜のしじまを大声で切裂き、境内で凄まじい口論を繰り広げる魔理沙とアリス。二人とも相当興奮しているらしく、魔理沙に至っては今にもスペルカードを取り出さんとして身構えている。先程は実際にアリスがスペルカードを発動させようとしたのだが、たまたまその時上空を飛んでいたミスティアが睡眠時無呼吸症候群を起こしアリスの頭上に墜落してきたので間一髪事無きを得た。
「……あの二人まだやってる。何が原因かは知らないけどよくもまああそこまで頭に血を上らせられるものね。もしかして逆立ちでもしてるのかしら」
「私が見た限りではちゃんと足で立ってるけど」
そんなふたりを縁側から見ながら溜息をつく霊夢と、何故かうっとりとした表情のパチュリー。
ちなみにアリスは誰も居ない隙に霊夢を手篭めにしようと目論んで神社に来ていたのだが、そこに魔理沙がパチュリーと共に現れた為計画が台無しになってしまった。喧嘩の理由もそれである。
余談だがパチュリーはいつもの様に本を借りに来た魔理沙をストーキングしている内に結局ここまで付いて来てしまったらしい。
「ところで今私の眼前で貴方のお菓子をお嬢様が食べてるんだけど、その衝撃的な事実についてどう思う?」
「なッ!?」
霊夢は振り向くと同時に気を失いかけた。何時の間にか現れたレミリアが彼女の分のお菓子を食べていたのである。
ふたつあった紅白まんじゅうが今は跡形も無い。まるでこの世の終わりのような表情になる霊夢。
「ああん、もうパチェったら……言わなきゃばれないのに」
「れ、レミリアッ! アンタ……い、何時の間に!?」
「それはアレよ。お菓子が紅白まんじゅうだと言うのが大きかったわね。霊夢とおまんじゅうがオーバーラップしちゃって、私としたことがついムラムラと」
「答えになってない! って言うかアンタ紅と白なら何でもいいの!?」
「もう、おまんじゅう2つ食べ逃した位でそんなに怒らないでよぉ。そんなんじゃストレスで止め処無く太るわよ? ま、こんなに甘いおまんじゅうだったら食べたらもっと太るだろうけど」
「ふ、太ッ……!? こ、この超絶若作り吸血鬼! 人のおまんじゅうを食べた上にその減らず口、断じて許せないわ! 表に出なさいッ! 結界のすきまに落とし込んでやる! キェェェェー!!」
外に飛び出していく霊夢とレミリア。
何やら「私が勝ったら血を吸わせて」だの「うるさいだまれ夢想封印」等と言った声が聞こえてくるが、パチュリーは全くそれを意に介さず、未だにアリスと漫才を繰り広げている魔理沙へ、とろけそうな甘い表情でうっとりとした熱視線を注いでいた。
「ええい埒があかん! どうやら私とアリスはこの問題については決して相容れないみたいだな! マスタースパークで素晴らしき夢の世界に強制送還してやるからそこでたっぷり霊夢と乳繰り合ってる妄想でも見てくるといいぜ!」
「それはこっちの台詞よ! 魔理沙こそ私の弾幕で蚊トンボみたいに消し飛ぶがいいわ! このイルカ色のハイメガキャノン女!」
「はぁ……それにしても魔理沙……ああやって怒ってる顔もまた一段とそそ……あらいけない、鼻血が……あぅ」
ついにスペルカードを取り出した魔理沙の凛々しい表情を見て、つと鼻血が滴る。
せいぜい小指の先程の微々たる量だったが、世紀の病弱美少女パチュリーにしてみれば洗面器一杯分の血を一気にぶちまけた様なものだった。
貧血を起こし、あくまでも可憐に幽玄に病弱っぽく『ドッシャアァッ』と倒れるパチュリー。
そこにまた、誰かが博麗神社へと入ってきた。
「今晩はー。レミリア様にパチュリー様、いますかー? そろそろお戻りになられませんと……咲夜さんが心配してましたよー?」
それは主に名前関連が悲劇のヒロイン中国こと紅美鈴だった。
口論から弾幕バトルに発展した魔理沙とアリスを横目に境内の中に入ってくる。
その際に何やら境内の端でぴくぴくと痙攣しているミスティアが目に入ったがあえて見て見ぬふりをした。
「お嬢様は大騒ぎしてるからすぐ見付かったけど、パチュリー様は……あッ! ぱ、パチュリー様ッ!?」
空と地面でレーザーやら人形やら針弾やらが飛び交う惨劇が展開されているのにちっとも動じない美鈴。
しばらくきょろきょろと辺りを見回していたが、縁側でぶっ倒れているパチュリーを見るなり、あわてて駆け寄り抱き起こす。
「しっかりしてくださいパチュリー様! ああ、ひどい出血……どうしてこんな……!」
パチュリーの鼻からは未だに血が滴り落ちている。
ちなみに鼻血程度の出血でもパチュリーにとっては常人の動脈出血に匹敵すると紅魔館内ではもっぱらの噂である。しかし事態の重大さとは裏腹に、パチュリーの表情に実に穏やかかつ安らかで何より倒錯的だった。
「あぁんもう魔理沙ったらぁ……。もっと優しくしてくれなきゃ私あまりの興奮に思わず耳から出血しちゃいそゴフ!!」
どれ程凄絶な妄想をしたのか豪快に血を吐くパチュリー。
美鈴は間一髪でその血を回避したので二次災害の発生は免れた。
一つの尊い命が救われた奇跡の瞬間だが、もう一つの命は大ピンチだ。
「と、吐血ーッ!? 流石はパチュリー様、幻想郷随一の病弱美少女! 吐きっぷりがすっごく様になってますって大丈夫ですかーッ!?」
鼻血による出血多量でぶっ倒れ、さらに妄想で血を吐くというのははたして病弱美少女にカテゴライズしていいものか。美鈴の脳裏に一瞬そんな考えが浮かんだが、この際それは大して重要ではないのですぐに思考を放棄した。
「ゴホ! ゴホ! はぁ……わ、私……魔理沙の手にかかって死ねるのなら本望どころかもう死んでもいい位に幸せよ……うふふ……ウフフゴフ! ゴフゴフ!」
そりゃ確かに死んでもいい位幸せではあろう。むしろその場合は実際に死んでいる。
魔理沙は何時の間にやらすっかり殺人鬼だ。妄想の中で。
ちなみにこの時美鈴は色々な部分に対して「駄目だこりゃ」と思ったのだがあえて口には出さなかった。
「パチュリー様お気を確かに! 問題は凄く深そうですけど傷は比較的浅いですよ!」
しかしいくら肩を揺すり頬を叩き大声で呼びかけてみても全く正気に戻る気配が無い。
余談だがこの時鼓動を確かめる振りをしてこっそり胸のサイズを測っていたのは美鈴本人しか知らない秘密である。
「と、とりあえず応急処置だけでもッ!」
そう言ってパチュリーの胸の上に両手を重ね、精神を集中させる美鈴。しかし今美鈴のやろうとしている事は、こと出血多量の場合においてはさらなる大惨事を引き起こす悪魔の所業であるという事に突っ込む者は誰もいなかった。
ざわ、と周囲の木々が悲鳴を上げ、ぐにゃりと美鈴の周りの空間が歪んだ次の瞬間。
「破ッ!」
ッドン、と、天地を揺るがす神の雷の如き轟音が辺りに響き渡った。
そのあまりの衝撃に境内の草木が折れそうに揺れ木の葉が散り、挙句の果てには美鈴の「気」で博麗神社を中心に光のドームが形成された。
「紅魔館メイド必殺奥義その445、『爆裂心臓抹殺ー冶』! これで一安し……って、あ、あれ!?」
凄まじい光の中で誇らしげに語る美鈴。しかしその光が引いたときに彼女の目に飛び込んできたものは、半分くらい地面にめり込んでいる見るも無残なパチュリーの姿だった。
どうやら美鈴はあまりの混乱に心臓マッサージと輸血を間違えるという幻想郷史上稀に見る大偉業を成し遂げてしまったらしい。
「なッ…何なの、今の光!? って美鈴じゃない」
今の今まで霊夢と乱痴気騒ぎを繰り広げていたレミリアが美鈴の側に降り立った。頭に数十本ほど針弾が刺さっているのが実にチャーミングかつデンジャラスである。
後にこの針弾は『霊夢からの愛情の証』と言う世紀末なタイトルを付けられて紅魔館のレミリアの部屋に飾られる事になるのだがそれはまた別の話である。
「お、お嬢様! パチュリー様がいきなり血を吐いたと思ったら、次の瞬間には何故か大爆発して地面に埋まっちゃって……!」
四次元空間的に捻じ曲げられた事実を伝える美鈴。まさか自分が出血多量状態のパチュリーにあろう事か寸勁でトドメを刺しました、等とは口が裂けて耳の穴まで到達しても言えるわけがないので当然と言えば当然の反応である。
ちなみに霊夢は先程の爆発で吹き飛び魔理沙に激突して気を失っていた。さらには霊夢に激突された衝撃で魔理沙も吹き飛び、アリスが巻き添えを食ってしまい三人まとめてぶっ倒れているのだが、悲しいことにそれを気にする余裕がある者はいなかった。
「すごく危険な状態なんです! 早く輸血しないとパチュリー様が……!」
「困ったわねぇ。血を吸うんだったら私の専売特許だけど、増やすとなると……。ところで美鈴、パチュリーの胸の辺りにある凄まじい手形は一体何を意味するのかしら」
「それはきっと俗に言う蜃気楼ですよ」
華麗にレミリアの言葉をスルーする美鈴。レミリアもそんな瑣末事をいちいち追及している暇は無いと思ったのかあっさりと納得した。とりあえず今はパチュリーの命をどうやって助けるかが問題なのだ。命を助けなければならなくなった原因が余りにも変態的だというのはこの際置いておく。
「まあ死ぬことはないと思うけど……大至急紅魔館に搬送してあげて頂戴」
「は、はい!」
パチュリーを背負い、颯爽と飛び立とうとする美鈴。と、そこでふと咲夜の言った事を思い出しレミリアに向き直った。
「そうだお嬢様。咲夜さんが早く帰ってきてくださいって言ってましたよ? 咲夜さんったら目が真っ赤な上に枕がびしょ濡れで、あまつさえ部屋に戻った後『寂しいよー寂しいよーうわーんお嬢様ー』って謎の呪文を唱えてましたので、なるべく早くお帰りになってくださいね」
「ええ、分かったわ。ところで咲夜の熱はまだ下がらないの?」
「いえ、熱は下がったんですけど咳とくしゃみと鼻水と頭痛と涙と倦怠感が止まらないらしくて」
「つまり全然治ってないってことね。流石に冷蔵庫プレイはまずかったかしら」
「(……冷蔵庫? プレイ?)今日も咲夜さんが『こんな顔じゃお嬢様の前に出て行けない』って事で私がお迎えに参ったんですよ。それではお先に失礼します! 手話ッ血!」
気合の掛け声と共に、空気を切り裂きながら夜空を駆けて行く美鈴。レミリアはしばらくの間飛び立った美鈴を眺めていたが、美鈴の飛び立った方角から「ドッゴオォンメキメキズズゥン」等と言う不吉な音が聞こえた辺りでそちらに背を向けた。
そして、その幼く可憐な見た目からは想像も出来ない妖艶かつ狂気じみた笑みを浮かべる。
「さてと(はぁと)これで邪魔者はいなくなった事だし……うふふ」
いそいそと気絶した霊夢に歩み寄っていくレミリア。よほど激突の衝撃が凄まじかったか、霊夢だけではなく魔理沙もアリスもついでにミスティアも目を覚ます気配が無い。倒れている霊夢を優しく抱き起こし、そっと頬に手を添える。血を吐いている病弱美少女に寸剄をブチかましたどこかの門番とは大違いだ。
「キレイな肌……ああ、このすべすべの柔肌を唇で愛撫して舌でねっとりと味わって、唾液でぐちゅぐちゅに汚れた首筋に私の牙を突立てて……。うふ、うふふふふ……想像しただけで思わず運命を操作して
美鈴は中国じゃなくてアゼルバイジャン出身だって事にしちゃいそうなくらい昂ぶるわ」
霊夢の服をはだけさせつつ、先程のパチュリーなど足元にも及ばないほど倒錯的で変態的な事を口走るレミリア。とは言え吸血鬼にとっては特別変なことでも無いので倒錯的と言うのは正しくないかも知れない。所変われば品変わる、郷に入っては郷に従え。人間のモノサシだけで世界を見てはいけない。人種差別は良くない事だ。そもそも人ではないが。
「さて、一刻も早く帰らないと咲夜が心配だから……早速いただきまーす(はぁと)」
咲夜を心配しつつ自分の目的もちゃっかり達成すると言う高等技術を披露するレミリア。伊達に五百年生きているだけの事はある、おばあちゃんの知恵袋的な神業だった。とりあえず霊夢の貞操とか人間としての命とかその他諸々が絶体絶命の危機だ。
そうこうしている内にも、レミリアの口はじわじわと霊夢の首筋に迫っていく。
「霊夢……好きよ(はぁと)」
そして、ついにレミリアの牙が霊夢の肌に突き刺さろうとした、まさにその時である。
「今晩は~。藍があんまり仕事しろ仕事しろってうるさいから……逃げて……来……」
突然境内に出現した何者かが脳天気な声をあげる。それは知る人ぞ知る、暇でスキマで年増でぐーたらな大妖怪、八雲紫だった。
「……う」
「……え」
お互いの姿を確認するなり固まってしまうレミリアと紫。
そりゃ確かに知人同士が夜の境内で乳繰り合ってたら、見た方も見られた方も驚くに決まっている。
レミリアは抱きかかえていた霊夢の頭を思わず取り落としたし、紫はまるで両親の情事を偶然目撃してしまった子供のような、筆舌に尽くしがたい微妙で絶妙で凄惨な表情をしている。
「……月餓鬼霊根」
「葬根」
耳鳴りがするほどの沈黙の後、ようやく紫が言葉を搾り出した。
しかし二人ともあまりの衝撃に言語中枢にダメージを受けてしまったらしく、どことなく不気味な響きの日本語を発している。ちなみにこの際どうでもいい事だが葬根と言っているのがレミリアだ。
「あの、まあ、えっと、何かしら……その……うん、よし、分かったわ。私は何も見なかった、それでいいわね?」
「え……あ……うん、まあ、そうしてくれると私としても助かるような錯覚に陥るわ」
「そ、そう? それならいいんだけど……うん、まあ……じゃあ、もう帰るわ。一刻も早く」
「あっ、あらそう……その……夜道は気を付けて、この辺変な雀とか十進法小娘とか色々いるから…」
そそくさと消える紫。
レミリアはこの時、こんな事になる位だったら霊夢の巫女装束を半分だけはだけさせてハァハァしたり
首筋だけではなく上半身をくまなく撫でくりまわして頬擦りしたりあまつさえ袴の内側に手を差し入れるか差し入れないか悩んだりしてないでとっとと血を吸っておけば良かったと、五百年生きてきた中で三本の指に入る程後悔した。
「……迂闊だったわ。私とした事が表面的な事象の変化に囚われてその先にあるものを予測できなかったなんて……」
はぁ、と大きな溜息をつくレミリア。
「ま、あのコアラ女の乱入は予想外ではあったけど……でもこれで今度こそ霊夢は……うふふ」
「──私がどうしたって?」
気を取り直して振り向いたレミリアの表情が凍る。
まるで地獄の悪鬼に「おお我が愛しき妹よ」とでも告白されたかの様な、絶望に顔があるとすればこんな感じになるだろう凄まじい顔だ。
「あ、あら……おはよう霊夢。お目覚めはいかがかしら?」
「すっきりとは起きられたけど最悪よ。具体的に言うと後頭部の辺りが……ところでレミリア」
「ひっ!?」
にたぁ、と悪鬼羅刹のごとき笑みを浮かべる霊夢。
紅い悪魔と呼ばれるレミリアが震え上がるほどの恐ろしい表情。
その顔のまま、じわりじわりと後ずさるレミリアに詰め寄っていく。
「あ、あ……ちょ、ちょっと待っ……その、これは……」
「あら、冷や汗なんて珍しいじゃない? 何か怖いものでも見たのかしら?」
「あっ……!」
と、ついにレミリアの背中が近くの木に当たった。
まさに行き止まりで袋小路かつ絶体絶命で危険が危ない。
飛べばいいのに、霊夢の異常な迫力に押されてもはや冷静な思考はできなくなっていた。
「ねぇ……レミリア?」
「は、はひ!?」
「何故か首筋がびしょ濡れになってる上に服が半分脱げてるんだけど、犯人に心当たりは無いかしら?」
霊夢の右手がレミリアの頬を軽く挟み、ついと持ち上げた。
普段のレミリアならば大喜びする筈の実に意味深な体勢だが、今の閻魔大王も裸足で逃げ出しそうな状態の霊夢がやると逆効果どころか相手を呪い殺しかねない凄まじい負のエネルギーが溢れ出すだけだった。
「あう……や、やだ……許して……」
あまりの恐怖に目尻に涙を浮かべ上目遣いで哀願するレミリア。その仕草の可憐さと言ったらその手の趣味がない、例えばそこらの毛玉すら虜にしかねないほどだった。
「あら……許してって……そう、やっぱりレミリアがやったのね……?」
「! ふ…ふぇ……ご、ごめんなさい……ごめんなさい……」
ねっとりと嘗め回すようにレミリアの顔を覗き込む霊夢。
じわじわと真綿で首を締められるような恐怖とプレッシャーにより、どういうわけか子ども返りしてしまうレミリア。
余談だが幼児期に虐待を受けた子供は「今虐待されてるのは自分ではない別の誰かだ」という考えで精神を防衛し、自分の中に「虐待を受ける用の自分」を作り出しその結果多重人格となるケースが多いと言われているがこの際それは関係無い。
「うふ、おまんじゅうのつまみ食いと私に対する暴言と度の過ぎたセクハラ……高くつくわよ?」
それと後頭部、と付け加えて霊夢が哂った。先程レミリアが霊夢を石畳の上に落としたのが原因であろう出血で真紅の血化粧を施された禍々しい表情だった。もはやれみりゃと化したレミリアには心的外傷を負わせかねない素敵すぎる笑顔のまま、恐怖心を煽るようないやらしい手つきでゆっくりとレミリアの体をなぞって行く。
「や、やだぁ……ふぇ……さ…さくや……たすけて、たすけてぇ……」
レミリアがぽろぽと涙を零しながら必死に哀願する。
しかし色々と危険な境地に達している霊夢の脳内では、もはやレミリアに対する仕返し以外の思考は一切破棄されていた。身体を捩るレミリアを強引に引き寄せて、耳元でぽつりと霊夢が囁く。
「喰うわよ」
鬼神降臨。
・ ・ ・
「ぅ……ぁ、あ……」
「ふー……あぁ、もうこれ以上無いってくらいスッキリしたわ(はぁと)」
恐怖と絶望の渦巻く狂気の宴が終わった。
いいチャンスだとばかりにレミリアに関係の無いストレスやその他諸々もぶちまけて、未だかつて無いほどの素敵で爽やかな笑顔を浮かべる霊夢とは対照的に、カタストロフをその身に刻み付けられたカーニバルの主賓であるレミリアは糸の切れた操り人形のように地面にへたり込んで、風が吹いたらさらさらと崩れていきそうなくらいに無残な姿となっていた。
まったく外傷が無いのが逆に恐ろしさを醸し出している。
なにやら先程レミリアに襲われかけた霊夢の様に服が半分ほどはだけているが詳しくは不明。
「今回はこの位で勘弁してあげるわ。もう帰っていいわよ、お疲れ様(はぁと)」
「う……うわ──ん! れいむのばかー! へんたい! きちく! ちくわ! べっこうめがねー!」
よく分からない罵詈雑言と共に猛スピードで飛び立っていくレミリア。よほど恐ろしい仕打ちを受けたのだろう、あっと言う間に見えなくなってしまった。
その割にはどことなく頬がほんのりと赤く染まっていたりして、これだから女の子って不思議的な情緒を醸し出しているのが実に興味深いがそれと同時に実にどうでもいい。
「柑橘類の味だったわ……それにしてもコレ、やっぱり私が直すのかしら」
謎の台詞を発し、何故か物凄く乱れている巫女装束を整える霊夢。ぐるりと荒れ果てた境内を見渡し、そしてひとつ溜息をついた。
「ま、原因はともかく最初に暴れだしたのは私だし……って、丁度いいのが二人程転がってるじゃない。
おーい、起きなさーい」
未だ気絶している魔理沙とアリスに近づいて声をかける霊夢。
しかし何度呼びかけても目を覚ます気配は無かった。
しびれを切らした霊夢がこうなったらメガトンパンチのひとつやふたつお見舞いしてやろうかと魔理沙に手をかけたその時である。
「れいむ──!!」
「のわ──!?」
がばしゃー、と、いきなり魔理沙が跳ね起きてそのまま霊夢を押し倒した。
あまりにも急な出来事に一瞬霊夢の反応が遅れ、成す術も無く魔理沙に組み伏せられてしまう。
「ちょっ……な、何す……な、何なのその色んな劣情とか渦巻いてる濁った目はー!?」
そう、今の魔理沙はまさに野獣と化していた。
目はギンギラギンにさりげなく怪しい光を放っているし、呼吸も異常なほど荒く、肌寒い夜中だと言うのに汗を掻いている。そして何より口の端からかすかによだれが垂れているのがこの上ないほど恐ろしい。まるで凶暴な肉食動物が待ちに待った獲物を捉えた時のような表情をしている。
「くくく……霊夢……ズルイぜ……私をほったらかしにしてレミリアとあんな……うふ、うふふ……ズルイ……うらやましい……」
「あんなって……ま、まさか魔理沙……気絶したフリして──」
最悪のシナリオが実現してしまった事に気付く霊夢。即ち、レミリアへの「おしおき」を魔理沙に見られた、と。
しかし今更気付いても現実はこれっぽっちも変えられない。人間は何時の世も過ちを犯してから後悔する愚かな生き物なのか。霊夢は今「後の祭り」という言葉の意味を痛いほど感じていた。
「我慢の限界だぜ──────!」
「いや──────! 喰われるぅぅぅぅぅぅ!」
色魔降臨。
・ ・ ・
「リンガリングコールドとはよく言ったものねぇ、妖夢」
「幽々子様……正しくは『因果応報』なのでは……」
どっとはらい
大体、介護するのに必殺奥義って!
不幸じゃない中国を久しぶりに見た気が……
持ち味、多分イキてますよ。作者様の持ち味が随所の活きのいい小ネタと寸止めエロスであるのならば(何)。
とりあえず、冷蔵庫プレイとやらの詳細が気になります(笑)。
素直に笑わせていただきました!
願わくば、その省略されたシーンを是非m(博霊大結界
抹殺するんだか治すんだか^^;。
セリフの中の修飾節が少し長めに感じたのですが
そこは、各キャラの妄想の暴走っぷりを表しているという事でしょうか。
全体的には面白かったです。
次回作も楽しみにしています。
欲を言えば、アリスにもうひと壊れ(?)して欲しかったかも。
>あまりの混乱に心臓マッサージと輸血を間違えるという幻想郷史上稀に見る大偉業
この歴史を見た瞬間に慧音が音を立てて茶を噴き出しそうな間違いですな(笑)
笑えますねぇ
特に前半は思わずツッコミを入れたくなる表現がGOOD。
>アリスは誰も居ない隙に霊夢を手篭めにしようと…
するな♪とか…。
最後の方は行き過ぎかとも思ったが、コレはコレで面白かった。
お仕置きの中身がヒジョーに気になります。
霊夢、鬼畜すぎ&怖すぎです…(笑)
まあ、オチは『因果応報』なわけですね。
特に霊夢とレミリア(れみりゃ)。
笑いが止まってくれねぇゼ
幽夢~Inanimate Dreamを聞きながら。
面白かったです。
オチの魔理沙はアリスが止めると信じています。