春の白玉楼。
例年通り今年も見事な桜が咲き乱れている。
だがその桜に去年までの華やかさは感じられず、どこか物悲しげに私の目に映る。
舞い散る花びらの中、友人のもとへと私は足を進める。
いつの日だったか、白玉楼の春がとても騒がしく賑やかになった年があった。
そんな遙か遠い記憶を思い出しながら。
友人は一際大きい桜を眺めていた。
庭一面満開の桜の中、その桜だけが春を忘れたように、花びらをつけていない。
西行妖の根元に、亡霊姫。
「幽々子」
「・・・紫?」
振り返った幽々子の顔を見て、私は全てを悟る。
「寂しくなるわね、ここも」
「あの子はよく生きたわ」
幽々子は再び西行妖を見上げる。
彼女の目には、桜の花が見えているのだろうか。
「そうね。吸血鬼たちのほうがずいぶんと早かったわ」
私も幽々子と並んで花のない桜を見上げた。
「あの子、最後になんて言ったと思う?これで私も一人前の幽霊ですね、そう言って笑いながら」
「・・・そう」
「一人前の幽霊になっても、留まらないなら仕方ないじゃない。ねえ?」
そう言って幽々子は力なく笑う。
霊夢や魔理沙たちも冥界に留まることなく、この世を去っていった。
彼女たちは一生懸命に生きていたのだ。
それはもう現世にこれっぽっちも未練なんてないくらい、精一杯に。
「これで残されたのは私たち2人だけね」
「私はとっくの昔に死んでるわよ。残ったのは紫だけよ」
「・・・そうだったわね」
わかっていた。
いつかこの日が来ることを私は誰よりも理解していた。
永遠を生きるものは常に孤独で無ければならない。
さもなくば孤独より辛い思いをすることを理解していた。
しかし私は友人たちを選んでしまった。
いつだっただろうか。
遠い昔、霊夢に蓬莱の薬を勧めたことがあった。
『私は人間として生きてきちんと人間として死にたいの』
そう言って彼女は笑った。
「そろそろこの桜、咲かせてもいいわよね」
幽々子が西行妖を眺めながらそう呟く。
西行妖の開花。
それは輪廻の再開、幽々子の消滅を意味する。
「・・・そうね。あなたも十分に生きたわ」
「いやだからもう死んでるって」
そういって幽々子はにっこりと笑った。
桜の花びらにも似た、儚い笑顔だった。
****
博麗神社―――跡地。
かつてここも満開の桜が咲き乱れていた時が、あった。
主を失った神社はその機能を失い、後はただ年月を重ね崩壊するだけになった。
数百年という年月は、一つの建物を飲み込むのに十分過ぎる時だった。
「藍」
「はい、紫様」
「とうとう私だけになっちゃった」
「はい、紫様」
「懐かしいわね。花見に、月見」
私は藍と名付けた式神に話しかけている。
知能を持たない、本当の式神。
八雲藍が死んだ時、私はもう生き物を式にすることをやめた。
「またやりたいわ。みんなで」
「はい、紫様」
「魔理沙が神社のお酒を勝手に持ってきて、霊夢がそれに悪態をつくの」
「はい、紫様」
「吸血鬼が日傘差しながらやってきて、そのメイドが館から料理を持ってくるのよ」
「はい、紫様」
「それで藍と橙がみんなにお酌して周るんだわ」
「はい、紫様」
「また、やりたいわ。みんなでまた・・・」
でもそれはもう叶うことは無い。
私はそっと式神の式を解き札に戻す。
パサリ、と。
1枚の札が地面に落ちて私は本当に1人になった。
私は境界を操る妖怪。
もう二度と手に入ることの無い思い出を抱き、生と死の境界で生き続ける。
ずっと、1人で。
例年通り今年も見事な桜が咲き乱れている。
だがその桜に去年までの華やかさは感じられず、どこか物悲しげに私の目に映る。
舞い散る花びらの中、友人のもとへと私は足を進める。
いつの日だったか、白玉楼の春がとても騒がしく賑やかになった年があった。
そんな遙か遠い記憶を思い出しながら。
友人は一際大きい桜を眺めていた。
庭一面満開の桜の中、その桜だけが春を忘れたように、花びらをつけていない。
西行妖の根元に、亡霊姫。
「幽々子」
「・・・紫?」
振り返った幽々子の顔を見て、私は全てを悟る。
「寂しくなるわね、ここも」
「あの子はよく生きたわ」
幽々子は再び西行妖を見上げる。
彼女の目には、桜の花が見えているのだろうか。
「そうね。吸血鬼たちのほうがずいぶんと早かったわ」
私も幽々子と並んで花のない桜を見上げた。
「あの子、最後になんて言ったと思う?これで私も一人前の幽霊ですね、そう言って笑いながら」
「・・・そう」
「一人前の幽霊になっても、留まらないなら仕方ないじゃない。ねえ?」
そう言って幽々子は力なく笑う。
霊夢や魔理沙たちも冥界に留まることなく、この世を去っていった。
彼女たちは一生懸命に生きていたのだ。
それはもう現世にこれっぽっちも未練なんてないくらい、精一杯に。
「これで残されたのは私たち2人だけね」
「私はとっくの昔に死んでるわよ。残ったのは紫だけよ」
「・・・そうだったわね」
わかっていた。
いつかこの日が来ることを私は誰よりも理解していた。
永遠を生きるものは常に孤独で無ければならない。
さもなくば孤独より辛い思いをすることを理解していた。
しかし私は友人たちを選んでしまった。
いつだっただろうか。
遠い昔、霊夢に蓬莱の薬を勧めたことがあった。
『私は人間として生きてきちんと人間として死にたいの』
そう言って彼女は笑った。
「そろそろこの桜、咲かせてもいいわよね」
幽々子が西行妖を眺めながらそう呟く。
西行妖の開花。
それは輪廻の再開、幽々子の消滅を意味する。
「・・・そうね。あなたも十分に生きたわ」
「いやだからもう死んでるって」
そういって幽々子はにっこりと笑った。
桜の花びらにも似た、儚い笑顔だった。
****
博麗神社―――跡地。
かつてここも満開の桜が咲き乱れていた時が、あった。
主を失った神社はその機能を失い、後はただ年月を重ね崩壊するだけになった。
数百年という年月は、一つの建物を飲み込むのに十分過ぎる時だった。
「藍」
「はい、紫様」
「とうとう私だけになっちゃった」
「はい、紫様」
「懐かしいわね。花見に、月見」
私は藍と名付けた式神に話しかけている。
知能を持たない、本当の式神。
八雲藍が死んだ時、私はもう生き物を式にすることをやめた。
「またやりたいわ。みんなで」
「はい、紫様」
「魔理沙が神社のお酒を勝手に持ってきて、霊夢がそれに悪態をつくの」
「はい、紫様」
「吸血鬼が日傘差しながらやってきて、そのメイドが館から料理を持ってくるのよ」
「はい、紫様」
「それで藍と橙がみんなにお酌して周るんだわ」
「はい、紫様」
「また、やりたいわ。みんなでまた・・・」
でもそれはもう叶うことは無い。
私はそっと式神の式を解き札に戻す。
パサリ、と。
1枚の札が地面に落ちて私は本当に1人になった。
私は境界を操る妖怪。
もう二度と手に入ることの無い思い出を抱き、生と死の境界で生き続ける。
ずっと、1人で。
後、由々子様が蓬莱の薬勧めるなら、相手は霊夢ではなく妖夢では?
そこに少しだけ違和感がありました。
確かに霊夢に進めたのは解りませんでしたが、妖夢は半霊、つまり半分死んでいる状態なので、不死というものに反発するのかもしれませんね。
紫もいつかは生と死の境界の狭間が曖昧になり消滅してゆくのでしょうか・・・?
補足ですが霊夢に薬を進めたのは紫です わかりにくくてすいません・・・
多少文章にざらつきはありましたがそれでも良いものでした
ゆかりんに限らず長寿者は、今までにもこういう事に直面した事が有るんでしょうかね・・・
残されたことのない自分には、語るには重過ぎることで…
まさに自分も死にたい気分になりました…
しかしここは幻想郷、きっといつになっても
霊夢や魔理沙、幽界や紅魔館の人々に代わるような騒がしくも楽しい人たちが
次々と生まれてくる・・・
そういう未来を紫のために心から祈りたくなりました。
何やら久々に心にジーンとくる作品で感想を書くに書けません
嗚呼、自分の表現力の乏しさをこれほど呪った事は久々ですわい・・・
それが永久に続いていくとなると恐ろしい物を感じます
どこまでもどこまでも大切な思い出、戻れない過去を大切に生きていく
思い出は美しくてもそこに今の自分がいないというのは切ないです
ただ置いていかれるのではなく新たに来る人がいる未来を望みます
いいものを本当にありがとうございました、私も今を大切に生きよう
長く生きている紫だからこそ、生と死の境さえ曖昧であるからこそ死への感情をどう捉えられていたのか・・・
悲しくも良い作品でした。