むか~し、むかし。とおいむかしのものがたり。
少女が一人泣いていた。大きな屋敷に一人ぼっち、明かりもつけずに泣いていた。
ああ、どうしてこんなことになってしまったのかしら。私が何をしたというの。
むか~し、むかし。とおいむかしのものがたり。
少女が一人やってきた。赤い服着たちんどん屋、泣いてる少女の元へとやってきた。
どうしたの、どうしたの。どうしてあなたは泣いてるの。
赤い服着たちんどん屋、涙の理由を問いかける。されども少女は答えない。うずくまったまま泣き続ける。
答えてくれないなら仕方がない。私は私はちんどん屋、嬉しいこととか楽しいことが大好きさ。悲しいこととか辛いことなんか大嫌い。
私は私はちんどん屋、悲しいことなんて全部、楽しいことへと変えてしまおう。
赤い服着たちんどん屋、 そう言い残して去ってった。
むか~し、むかし。とおいむかしのものがたり。
赤い服着たちんどん屋、その日のうちに戻ってきた。大きな荷物、背中に背負って戻ってきた。
持ってきたのはいろんな楽器。小さなものから大きなものまで多種多様。取り出す楽器の中にはグランドピアノまで。そんな大きなものなんか、一人じゃ決して持てないような。
こんなにいっぱいの楽器をどうやって持ってきたかって。答えは簡単、私は実は騒霊なんだ。ポルターガイストなんてお手のもの。全部飛ばして持ってきた。
赤い服着たちんどん屋、聞かれてもいないのに得意気に答えた。
さあさあ、楽しい宴の始まりだ。楽器を鳴らして盛り上がろう。
いっせいに鳴り響く楽器の音。和音もなにも関係ない。ただただ鳴り響く。騒がしければそれで良い。そんな感じで鳴り響く。
これでは少女もたまらない。顔を上げ、耳をふさいで睨みつける。
赤い服着たちんどん屋、少女の顔が向いていることに気がついた。気がついたなら音を止め、得意気な顔して笑いかけた。
どうかな、どうかな。楽しかったでしょ。
そんなわけがあるはずない。少女はすぐまた下を向き、否定の態度をとってみせる。
赤い服着たちんどん屋、少女の様子にちょっぴりしょんぼり。だけどもだけども諦めない。
次こそ絶対笑わせてやる~。
そう言い残して去ってった。後に残るは楽器の山。さすがに少女もうんざりか。
せめて後片付けくらいはしていって。
少女は一人つぶやいた。
むか~し、むかし。とおいむかしのものがたり。
赤い服着たちんどん屋、今日も懲りずにやってきた。今度は少女を一人連れてきた。白い服着たちんどん屋、にこにこ笑顔のちんどん屋。
こっちは私の姉さんだ。いつも笑顔で笑ってる。あなたもつられて笑おうよ。
少女はちょっぴり顔を上げた。目の前、にこにこ笑顔のちんどん屋。少女はむすっと睨みつけ、笑顔と真顔の睨めっこ。
けっこう時間が過ぎ去った。少女は全く笑わない。白い服着たちんどん屋、さすがにこれでは困り顔。にこにこ笑顔もにがにが笑顔に変わっていった。
赤い服着たちんどん屋、これでも無理かとため息ついた。だけどもだけども諦めない。
次こそ絶対笑わせてやる~。
そう言い残して去ってった。後に残るは白い服着たちんどん屋。どうしましょうかと微笑みかけた。答えぬ少女にため息ついて、白い服着たちんどん屋、妹追いかけ出ていった。
少女もすっかり呆れ果てたのか。今度は一人になっても喋らなかった。
むか~し、むかし。とおいむかしのものがたり。
赤い服着たちんどん屋、今日も今日とてやってきた、またまた少女を連れてやってきた。黒い服着たちんどん屋、なぜだかすごくとまどい顔。
ところで私はなにをしに、こんな場所へと連れられたんだ。
黒い服着たちんどん屋、どうやらなにも知らずに来たらしい。赤い服着たちんどん屋、ちっちっちっと、指を振り。
わかってないなぁ姉さんは。こういう時にはなんにも聞かずに、微笑むものよ。
黒い服着たちんどん屋、そういうものかとうなずいた。
いやいやそれは違うでしょう。
少女の小さなつぶやきは、ちんどん屋たちに届かない。いやいや少女は届かせる気などはさらさらない。
納得顔の姉さん置いて、赤い服着たちんどん屋、少女に対して向き直る。
今度も私の姉さんだ。姉さん性格暗いから、あなたと絶対うまがあう。
少女は少しむっとした。赤い服着たちんどん屋、悪気がないからたちが悪い。
さあ姉さん、あの娘と仲良くなっちゃって。そうしてあの娘を笑わせてあげて。
黒い服着たちんどん屋、妹の頼みは断れない。よくわからないまま少女と話す。あれこれ話し掛けるが少女の口は結ばれたまま、うんともすんとも動かない。
黒い服着たちんどん屋、妹の期待にこたえるために、ただひたすらに話しつづけた。そんな必死な姿をみていると、少女もさすがに心が痛む。けれども少女は話をしない。ただひたすらに睨みつける。
赤い服着たちんどん屋、今日も無理かとため息ついた。でもでもまだまだ諦めないぞ。
次こそ絶対笑わせてやる~。
そう言い残して去ってった。今日も姉さん残して去ってった。後に残ったちんどん屋、置いてかれたことすら気付かずに、せっせとせっせと言葉を紡ぐ。さすがに少女も不憫に思い、初めて言葉を投げかけた。
あなたの妹。ここからすでに出ていったわ。
黒い服着たちんどん屋、少女の言葉に喜んだ。やっと話してくれたと喜んだ。置いていかれたはしたけれど、それで少女が喋ったのなら、こんなに嬉しいことはない。そうさ彼女もちんどん屋、騒いで騒いで楽しむやつら。少女と騒いで楽しみたいのさ。
むか~し、むかし。とおいむかしのものがたり。
少女が一人座っていた。なにもない部屋、明かりもつけずに座っていた。少女は思う、最近全く泣いていない。ちんどん屋がやってきてから泣いていない。
初めて来た日は楽器の片づけ。
次に来た日はにらめっこ。
そして昨日は延々と、夜が更けるまで話しかけられた。
四日前まで泣いていた、三日前から泣いていない。まだまだずっと悲しんでいる。けれどもなんだか泣く気にならない。
そろそろあいつが来るころかしら。
ちんどん屋のこと思い出し、少女は小さなため息ついた。三日も続けてやってきた、今日もやっぱり来るだろう。
けれども今日にかぎってやってこない。赤い服着たちんどん屋。今日にかぎってやってこない。
どうしたのかしら、ちんどん屋。呼んでもないのにやってきて、勝手に騒いで去ってって。また来るぞと言ってやってこない。
どうしたのかしら、ちんどん屋。あなたがやってこないなら。一人私は泣いていよう。
むか~し、むかし。とおいむかしのものがたり。
少女が一人泣いていた。広い屋敷で一人ぼっち、明かりもつけずに泣いていた。夕暮れすぎのおうまがどき。もう日が暮れるというときに、やっとあいつが現れた。
赤い服着たちんどん屋、今日もしっかりやってきた。だけどもなぜか暗い顔、ちんどん屋には似合わない。
どうしたのかしら今日はやけに遅いじゃない。
少女は初めて言葉をかけた。少女の方から声をかけた。けれども赤い服着たちんどん屋、沈んだ顔したままでいる。
いろいろいっぱい考えた、けれどもなんにも思いつかなかった。
赤い服着たちんどん屋、ぽつりぽつりと話し始めた。
私にできる楽しいこと、全部やっても無理だった。今日はいっぱい考えた。けれどもなんにも出てこない。
私は私はちんどん屋。騒いで楽しくするのが私の仕事。だけどもまだまだ見習いで、なったばかりのちんどん屋。できることなど数少ない。
どうしたらいいのかな、どうしたらあなたを笑わせられるのかな。
少女はじっと見つめていた。なにも喋らず見つめていた。
けれどもたった一つだけ、私ができることがあった。楽しいことではないけれど、楽しかったことだった。私のたった一人の産みの親、彼女が残した一つの歌。上手く歌える自信はないけれど、とってもとっても明るい歌。
赤い服着たちんどん屋、そうして歌を歌いだす。それは確かに拙い歌。けれどもとても心地よい、そんな気持ちにさせる歌。
だけども少女にとっては悲しい歌詞、一人ぼっちの少女にとって、それはとっても悲しい歌詞だった。
歌が終ってちんどん屋。少女の顔見てため息ついた。
やっぱり楽しくなかったかな。
少女は問いかけ無視して問い返す。
どうして私を笑わせようとしているの。どうして放っておいてくれないの。
そんなの決っているじゃない。となりで泣いてる人がいる。そんなときに騒いでも楽しい気分にならないじゃない。
それならわざわざここに来て、騒がなければいいじゃない。騒ぎたい人の所へ行って、思う存分騒げばいいわ。
いやいや、それはできない相談ね。私は私はちんどん屋、この幻想郷全てが騒ぐ場所。私が騒いでいる場所で泣いてるやつなどいちゃいけない。
なんてはた迷惑な考え方、なんて自己中心的な考え方。そんな理由でずかずかと私の所へやって来ないで。
そうはいかない、私の生まれた理由は賑やかし。だからどんな場所でも騒がなきゃ。
生まれた理由なんて勝手なことを言わないで。そんなものがあるのなら、私が生まれることなどなかったろうに。
そんなことはないはずだよ。あなたにだって絶対生まれた理由があるはずだよ。
私に生まれた理由があるとすれば、それは周りを不幸にすることかしらね。
そんなことはないはずだよ。あなただって絶対他人を笑わせるために生まれてきたんだよ。
私のことなんか知らないくせに、勝手なことを言わないで。私のことなんか知らないくせに、私がどれだけ多くの人に不幸を振りまいたのかも知らないくせに。
うん、私はあなたのことを知らないよ。けれども私は知ってるよ、私を生んでくれた人は私ら姉妹の所為で不幸になったのだから。私がまだ生まれてもいないころのことだけどね。彼女は家族と離れ離れになってしまったわ。
……え。
私ら姉妹の能力の元は一人の少女を不幸にさせた。私ら姉妹の能力の元は一人の少女に寂しい思いをさせた。だから私ら姉妹の能力は、そこら中を賑やかにしなけりゃいけないの。
つまりはあなたの賑やかしはその人への贖罪なのかしら。
そういうこともあるかもしれない。けれども基本は賑やかなのが好きだから。私があなたを笑わせて、あなたが誰かを笑わせて、その誰かがまた違う誰かを笑わせて、回りまわって自分の所へ戻ってくる。そうなったらとっても楽しいじゃない。
呆れた話ね。そんな夢物語、まず私が笑わないから実現は不可能ね。
そう簡単には諦めないよ。
赤い服着たちんどん屋、そう言い残して去ってった。今日も駄目だとしょんぼりしながら去ってった。赤い服着たちんどん屋、後ろで微笑む少女に気付かずに次こそ絶対笑わせてやると去ってった。
ちんどん屋が去った後、少女は微笑みながら小さくつぶやいた。
私の能力が誰かを幸せにすることは出来ないと思うけど、なにか私に出来る事があるのかもしれない。
むか~し、むかし。とおいむかしのものがたり。
赤い服着たちんどん屋、今日こそ笑わせてやるとやってきた。少女の元へとやってきた。なのになぜだか少女の姿が見当たらない。屋敷の中には見当たらない。
赤い服着たちんどん屋、少女を探して外に出た。ご近所さんのお話に耳を澄ましてみてみたら、少女の話題で持ち切りだ。
ご近所さんの話では、西行寺家のお嬢さん、今朝方はやくに村を出た。
ご近所さんの話では、あの恐ろしい鬼っ子がやっとこの村出ていった。
ご近所さんの話では、死を呼ぶ娘がやっとこの村出ていった。
ご近所さんの話では、これで村のみんなも安心だ。
ご近所さんの話では、よかったよかっためでたしめでたし。
……そんなの全然めでたくないよ。
それからずいぶん後のはなし、今からほんのちょっぴり昔のはなし。
赤い服着たちんどん屋、あれからいっぱい考えた。少女が村から出ていったのは、私の所為なのだろうかと。後先考え行動すれば、こんな結果にならなかったのだろうかと。
赤い服着たちんどん屋、それから少し賢くなった。後々のことを考えるようになった。
赤い服着たちんどん屋、他人は彼女を狡猾と呼ぶ。それでも彼女は気にしない。不幸な結果にならないのなら、彼女は自ら狡猾になろう。
今からほんのちょっぴり昔のはなし。
赤い服着たちんどん屋、姉さんたち連れ冥界行った。
偶然知り合った半幽霊の話では、西行寺の名を持つ少女がいるらしい。
春を集めにやってきた幼い半幽霊の話では、死を呼ぶ少女がいるらしい。
赤い服着たちんどん屋、半幽霊に案内されて少女の元へとやってきた。
あの時出会った少女が一人、確かにそこにたたずんでいた。
姿は昔と変わらなかった。あの後すぐに亡霊になったとわかってしまう。
けれども少女は笑っていた。
あの時見ることができなかった笑顔をみせていた。
少女はどうやら生前の記憶が全くないようだ。ちんどん屋のことも全くわからない。
けれどもそれで少女が笑っていられるのなら、忘れられたことなど気にならない。
少女の過去が封印するほど悲しいのなら、ちんどん屋の記憶もなかったことへと変えてしまおう。
やあ、はじめまして。私は私はちんどん屋、楽しいこととか嬉しいことが大好きさ。悲しいことや辛いことは大嫌い。私は私はちんどん屋、騒いで騒いで楽しむために、結界越えてやってきた。さあさあ一緒に騒ごうか。
あらあらそれはとっても楽しそう。ここは冥界、亡霊の園。死してなお遊び続ける者の場所。いつでも飲めや歌えやの大騒ぎ、賑やかしなら大歓迎よ。
少女は亡霊になってしまったけれど。
少女は過去の記憶をなくしてしまったけれど。
現在少女は笑っている、憂いもなしに笑っている。それならそれでいいじゃない。
これならこれで、めでたしめでたし Happy End!!
それからちょっぴり時がたち、幻想郷に春が訪れたころのはなし。
博麗神社の巫女さんに、あんたらどうして冥界に、行きはじめたのか聞かれたら。
赤い服着たちんどん屋、にっこり笑ってこう答えた。
「そういえば、なんで冥界に行くことになったんだっけ~」
少女が一人泣いていた。大きな屋敷に一人ぼっち、明かりもつけずに泣いていた。
ああ、どうしてこんなことになってしまったのかしら。私が何をしたというの。
むか~し、むかし。とおいむかしのものがたり。
少女が一人やってきた。赤い服着たちんどん屋、泣いてる少女の元へとやってきた。
どうしたの、どうしたの。どうしてあなたは泣いてるの。
赤い服着たちんどん屋、涙の理由を問いかける。されども少女は答えない。うずくまったまま泣き続ける。
答えてくれないなら仕方がない。私は私はちんどん屋、嬉しいこととか楽しいことが大好きさ。悲しいこととか辛いことなんか大嫌い。
私は私はちんどん屋、悲しいことなんて全部、楽しいことへと変えてしまおう。
赤い服着たちんどん屋、 そう言い残して去ってった。
むか~し、むかし。とおいむかしのものがたり。
赤い服着たちんどん屋、その日のうちに戻ってきた。大きな荷物、背中に背負って戻ってきた。
持ってきたのはいろんな楽器。小さなものから大きなものまで多種多様。取り出す楽器の中にはグランドピアノまで。そんな大きなものなんか、一人じゃ決して持てないような。
こんなにいっぱいの楽器をどうやって持ってきたかって。答えは簡単、私は実は騒霊なんだ。ポルターガイストなんてお手のもの。全部飛ばして持ってきた。
赤い服着たちんどん屋、聞かれてもいないのに得意気に答えた。
さあさあ、楽しい宴の始まりだ。楽器を鳴らして盛り上がろう。
いっせいに鳴り響く楽器の音。和音もなにも関係ない。ただただ鳴り響く。騒がしければそれで良い。そんな感じで鳴り響く。
これでは少女もたまらない。顔を上げ、耳をふさいで睨みつける。
赤い服着たちんどん屋、少女の顔が向いていることに気がついた。気がついたなら音を止め、得意気な顔して笑いかけた。
どうかな、どうかな。楽しかったでしょ。
そんなわけがあるはずない。少女はすぐまた下を向き、否定の態度をとってみせる。
赤い服着たちんどん屋、少女の様子にちょっぴりしょんぼり。だけどもだけども諦めない。
次こそ絶対笑わせてやる~。
そう言い残して去ってった。後に残るは楽器の山。さすがに少女もうんざりか。
せめて後片付けくらいはしていって。
少女は一人つぶやいた。
むか~し、むかし。とおいむかしのものがたり。
赤い服着たちんどん屋、今日も懲りずにやってきた。今度は少女を一人連れてきた。白い服着たちんどん屋、にこにこ笑顔のちんどん屋。
こっちは私の姉さんだ。いつも笑顔で笑ってる。あなたもつられて笑おうよ。
少女はちょっぴり顔を上げた。目の前、にこにこ笑顔のちんどん屋。少女はむすっと睨みつけ、笑顔と真顔の睨めっこ。
けっこう時間が過ぎ去った。少女は全く笑わない。白い服着たちんどん屋、さすがにこれでは困り顔。にこにこ笑顔もにがにが笑顔に変わっていった。
赤い服着たちんどん屋、これでも無理かとため息ついた。だけどもだけども諦めない。
次こそ絶対笑わせてやる~。
そう言い残して去ってった。後に残るは白い服着たちんどん屋。どうしましょうかと微笑みかけた。答えぬ少女にため息ついて、白い服着たちんどん屋、妹追いかけ出ていった。
少女もすっかり呆れ果てたのか。今度は一人になっても喋らなかった。
むか~し、むかし。とおいむかしのものがたり。
赤い服着たちんどん屋、今日も今日とてやってきた、またまた少女を連れてやってきた。黒い服着たちんどん屋、なぜだかすごくとまどい顔。
ところで私はなにをしに、こんな場所へと連れられたんだ。
黒い服着たちんどん屋、どうやらなにも知らずに来たらしい。赤い服着たちんどん屋、ちっちっちっと、指を振り。
わかってないなぁ姉さんは。こういう時にはなんにも聞かずに、微笑むものよ。
黒い服着たちんどん屋、そういうものかとうなずいた。
いやいやそれは違うでしょう。
少女の小さなつぶやきは、ちんどん屋たちに届かない。いやいや少女は届かせる気などはさらさらない。
納得顔の姉さん置いて、赤い服着たちんどん屋、少女に対して向き直る。
今度も私の姉さんだ。姉さん性格暗いから、あなたと絶対うまがあう。
少女は少しむっとした。赤い服着たちんどん屋、悪気がないからたちが悪い。
さあ姉さん、あの娘と仲良くなっちゃって。そうしてあの娘を笑わせてあげて。
黒い服着たちんどん屋、妹の頼みは断れない。よくわからないまま少女と話す。あれこれ話し掛けるが少女の口は結ばれたまま、うんともすんとも動かない。
黒い服着たちんどん屋、妹の期待にこたえるために、ただひたすらに話しつづけた。そんな必死な姿をみていると、少女もさすがに心が痛む。けれども少女は話をしない。ただひたすらに睨みつける。
赤い服着たちんどん屋、今日も無理かとため息ついた。でもでもまだまだ諦めないぞ。
次こそ絶対笑わせてやる~。
そう言い残して去ってった。今日も姉さん残して去ってった。後に残ったちんどん屋、置いてかれたことすら気付かずに、せっせとせっせと言葉を紡ぐ。さすがに少女も不憫に思い、初めて言葉を投げかけた。
あなたの妹。ここからすでに出ていったわ。
黒い服着たちんどん屋、少女の言葉に喜んだ。やっと話してくれたと喜んだ。置いていかれたはしたけれど、それで少女が喋ったのなら、こんなに嬉しいことはない。そうさ彼女もちんどん屋、騒いで騒いで楽しむやつら。少女と騒いで楽しみたいのさ。
むか~し、むかし。とおいむかしのものがたり。
少女が一人座っていた。なにもない部屋、明かりもつけずに座っていた。少女は思う、最近全く泣いていない。ちんどん屋がやってきてから泣いていない。
初めて来た日は楽器の片づけ。
次に来た日はにらめっこ。
そして昨日は延々と、夜が更けるまで話しかけられた。
四日前まで泣いていた、三日前から泣いていない。まだまだずっと悲しんでいる。けれどもなんだか泣く気にならない。
そろそろあいつが来るころかしら。
ちんどん屋のこと思い出し、少女は小さなため息ついた。三日も続けてやってきた、今日もやっぱり来るだろう。
けれども今日にかぎってやってこない。赤い服着たちんどん屋。今日にかぎってやってこない。
どうしたのかしら、ちんどん屋。呼んでもないのにやってきて、勝手に騒いで去ってって。また来るぞと言ってやってこない。
どうしたのかしら、ちんどん屋。あなたがやってこないなら。一人私は泣いていよう。
むか~し、むかし。とおいむかしのものがたり。
少女が一人泣いていた。広い屋敷で一人ぼっち、明かりもつけずに泣いていた。夕暮れすぎのおうまがどき。もう日が暮れるというときに、やっとあいつが現れた。
赤い服着たちんどん屋、今日もしっかりやってきた。だけどもなぜか暗い顔、ちんどん屋には似合わない。
どうしたのかしら今日はやけに遅いじゃない。
少女は初めて言葉をかけた。少女の方から声をかけた。けれども赤い服着たちんどん屋、沈んだ顔したままでいる。
いろいろいっぱい考えた、けれどもなんにも思いつかなかった。
赤い服着たちんどん屋、ぽつりぽつりと話し始めた。
私にできる楽しいこと、全部やっても無理だった。今日はいっぱい考えた。けれどもなんにも出てこない。
私は私はちんどん屋。騒いで楽しくするのが私の仕事。だけどもまだまだ見習いで、なったばかりのちんどん屋。できることなど数少ない。
どうしたらいいのかな、どうしたらあなたを笑わせられるのかな。
少女はじっと見つめていた。なにも喋らず見つめていた。
けれどもたった一つだけ、私ができることがあった。楽しいことではないけれど、楽しかったことだった。私のたった一人の産みの親、彼女が残した一つの歌。上手く歌える自信はないけれど、とってもとっても明るい歌。
赤い服着たちんどん屋、そうして歌を歌いだす。それは確かに拙い歌。けれどもとても心地よい、そんな気持ちにさせる歌。
だけども少女にとっては悲しい歌詞、一人ぼっちの少女にとって、それはとっても悲しい歌詞だった。
歌が終ってちんどん屋。少女の顔見てため息ついた。
やっぱり楽しくなかったかな。
少女は問いかけ無視して問い返す。
どうして私を笑わせようとしているの。どうして放っておいてくれないの。
そんなの決っているじゃない。となりで泣いてる人がいる。そんなときに騒いでも楽しい気分にならないじゃない。
それならわざわざここに来て、騒がなければいいじゃない。騒ぎたい人の所へ行って、思う存分騒げばいいわ。
いやいや、それはできない相談ね。私は私はちんどん屋、この幻想郷全てが騒ぐ場所。私が騒いでいる場所で泣いてるやつなどいちゃいけない。
なんてはた迷惑な考え方、なんて自己中心的な考え方。そんな理由でずかずかと私の所へやって来ないで。
そうはいかない、私の生まれた理由は賑やかし。だからどんな場所でも騒がなきゃ。
生まれた理由なんて勝手なことを言わないで。そんなものがあるのなら、私が生まれることなどなかったろうに。
そんなことはないはずだよ。あなたにだって絶対生まれた理由があるはずだよ。
私に生まれた理由があるとすれば、それは周りを不幸にすることかしらね。
そんなことはないはずだよ。あなただって絶対他人を笑わせるために生まれてきたんだよ。
私のことなんか知らないくせに、勝手なことを言わないで。私のことなんか知らないくせに、私がどれだけ多くの人に不幸を振りまいたのかも知らないくせに。
うん、私はあなたのことを知らないよ。けれども私は知ってるよ、私を生んでくれた人は私ら姉妹の所為で不幸になったのだから。私がまだ生まれてもいないころのことだけどね。彼女は家族と離れ離れになってしまったわ。
……え。
私ら姉妹の能力の元は一人の少女を不幸にさせた。私ら姉妹の能力の元は一人の少女に寂しい思いをさせた。だから私ら姉妹の能力は、そこら中を賑やかにしなけりゃいけないの。
つまりはあなたの賑やかしはその人への贖罪なのかしら。
そういうこともあるかもしれない。けれども基本は賑やかなのが好きだから。私があなたを笑わせて、あなたが誰かを笑わせて、その誰かがまた違う誰かを笑わせて、回りまわって自分の所へ戻ってくる。そうなったらとっても楽しいじゃない。
呆れた話ね。そんな夢物語、まず私が笑わないから実現は不可能ね。
そう簡単には諦めないよ。
赤い服着たちんどん屋、そう言い残して去ってった。今日も駄目だとしょんぼりしながら去ってった。赤い服着たちんどん屋、後ろで微笑む少女に気付かずに次こそ絶対笑わせてやると去ってった。
ちんどん屋が去った後、少女は微笑みながら小さくつぶやいた。
私の能力が誰かを幸せにすることは出来ないと思うけど、なにか私に出来る事があるのかもしれない。
むか~し、むかし。とおいむかしのものがたり。
赤い服着たちんどん屋、今日こそ笑わせてやるとやってきた。少女の元へとやってきた。なのになぜだか少女の姿が見当たらない。屋敷の中には見当たらない。
赤い服着たちんどん屋、少女を探して外に出た。ご近所さんのお話に耳を澄ましてみてみたら、少女の話題で持ち切りだ。
ご近所さんの話では、西行寺家のお嬢さん、今朝方はやくに村を出た。
ご近所さんの話では、あの恐ろしい鬼っ子がやっとこの村出ていった。
ご近所さんの話では、死を呼ぶ娘がやっとこの村出ていった。
ご近所さんの話では、これで村のみんなも安心だ。
ご近所さんの話では、よかったよかっためでたしめでたし。
……そんなの全然めでたくないよ。
それからずいぶん後のはなし、今からほんのちょっぴり昔のはなし。
赤い服着たちんどん屋、あれからいっぱい考えた。少女が村から出ていったのは、私の所為なのだろうかと。後先考え行動すれば、こんな結果にならなかったのだろうかと。
赤い服着たちんどん屋、それから少し賢くなった。後々のことを考えるようになった。
赤い服着たちんどん屋、他人は彼女を狡猾と呼ぶ。それでも彼女は気にしない。不幸な結果にならないのなら、彼女は自ら狡猾になろう。
今からほんのちょっぴり昔のはなし。
赤い服着たちんどん屋、姉さんたち連れ冥界行った。
偶然知り合った半幽霊の話では、西行寺の名を持つ少女がいるらしい。
春を集めにやってきた幼い半幽霊の話では、死を呼ぶ少女がいるらしい。
赤い服着たちんどん屋、半幽霊に案内されて少女の元へとやってきた。
あの時出会った少女が一人、確かにそこにたたずんでいた。
姿は昔と変わらなかった。あの後すぐに亡霊になったとわかってしまう。
けれども少女は笑っていた。
あの時見ることができなかった笑顔をみせていた。
少女はどうやら生前の記憶が全くないようだ。ちんどん屋のことも全くわからない。
けれどもそれで少女が笑っていられるのなら、忘れられたことなど気にならない。
少女の過去が封印するほど悲しいのなら、ちんどん屋の記憶もなかったことへと変えてしまおう。
やあ、はじめまして。私は私はちんどん屋、楽しいこととか嬉しいことが大好きさ。悲しいことや辛いことは大嫌い。私は私はちんどん屋、騒いで騒いで楽しむために、結界越えてやってきた。さあさあ一緒に騒ごうか。
あらあらそれはとっても楽しそう。ここは冥界、亡霊の園。死してなお遊び続ける者の場所。いつでも飲めや歌えやの大騒ぎ、賑やかしなら大歓迎よ。
少女は亡霊になってしまったけれど。
少女は過去の記憶をなくしてしまったけれど。
現在少女は笑っている、憂いもなしに笑っている。それならそれでいいじゃない。
これならこれで、めでたしめでたし Happy End!!
それからちょっぴり時がたち、幻想郷に春が訪れたころのはなし。
博麗神社の巫女さんに、あんたらどうして冥界に、行きはじめたのか聞かれたら。
赤い服着たちんどん屋、にっこり笑ってこう答えた。
「そういえば、なんで冥界に行くことになったんだっけ~」
どんな重っ苦しい話からでもハッピーエンドになってしまうのが
東方の魅力の一つだと思っています。
「少女」が幽々子嬢だと分かったときは驚きました。
眼球から冷や汗が染み出してきました。
しょっぱいじゃないですか、
どうしてくれるんですか、ありがとうございます。
最初はオリキャラかと思ったんですが、ゆゆさまといわれて、半分ビックリ半分納得です。
すごくリリカらしさが出ていますね。
「いつのどの作品だ」とか「いまさら言われても」と(僕は)思ってしまったので
できればそういうことは「最初に」「なんという題の話なのか」というのを書いてほしかったです
まぁ、わからなくても良い作品には変わらないので80点
そしてこういう「アレってあの人だったのか!」となる作品は個人的に好きなので+10点
すみません、配慮が足りませんでした。
でも、一晩考えてみましたが、作品の最初に注釈を入れるのは自分としてはやりたくないなと思います。
なんというか、内容以外の部分を書くことに抵抗を覚えてしまうので。
なので、やはりリンクさせる場合には前の作品を読んでなくても大丈夫な方向でこれからは書きたいと思います。
作品名に関してはなんというか自分の作品名を書くのが気恥ずかしくて、前々作とか書いてしまいました。作品名は「もう歌しか聞こえない」作品集その8に置いてあります。
久々に泣かせてもらった。GJごちそうさま。
でもルナサのほうが好き(ぇ