・・・随分長い間、花蝶を呆けたように眺めていたようだ。
僕は我に帰り、遥けき道の前方を見据える。視線の外で黒い蝶がクスッと嗤ったような気がした。
気になって再び彼岸花へ視線を戻すと、そこには蝶など居らず、ただ我が世を誇るかのように咲く真紅があるのみだった。
玄じいに貰った地図を頼りに(地図には妖怪の縄張りとか、危険な地形などがこと細かに記されていた。
(案外玄じいはマメだな)僕はひたすら歩き続けた。
危険な妖怪の縄張りを迂回し、崩れやすい崖、今にも切れそうな吊り橋、よからぬ人間達の仕掛けた罠などを全て回避し得たのは
・・・この、玄じいの地味な贈り物のお陰だろう。僕は心の中で玄じいに感謝した。
だが、玄じいの地図がいかに心づくしに溢れた、頼りになるものだったとしても、突発的な出来事は避けようが無い。
この日、僕は妖怪と名乗る少女に出会った。
彼女の名は・・・
集落を出てから今迄、ずっと歩きづくめで、貧弱な僕はさすがに疲れてしまっていた。
少し休もうと一旦道端の岩に腰を下ろしたのを合図に、張り続けた気が切れたのか、深い疲労で立ち上がることが出来なくなっていた。
「・・・しばらく休むか・・・。」
一人呟き食事を取り、少し目を閉じた。
ふと気づくと、辺りは既に日が落ちてきていて俗に言う『逢魔が刻』になっていた。
太陽と月の境界、この時間帯には色々と良くないものが寄ってくるのだ。と物知りのトヨ婆さんが言ってたのを思い出した。
肌寒いような生暖かいような胡乱げな風が吹き抜ける。
「・・・・・・。」
嫌な事を思い出してしまった。僕はこの場に居ない婆さんを恨んだ。
「・・・ええと、隠れやすい場所は・・・と。」
玄じいの愛の地図を見て、僕は愕然とした。
「・・・・・・無い。」
少し休みすぎて、安全に休める場所まで辿り着けなかったようだ。
辺りの気温がぐんと下がったように感じる。
「・・・・・・どうしよう、玄じい・・・?」
無論返事などある筈が無いのだが・・・
『・・・ふふふ、わたしとたのしくあそべばいいんじゃないかなぁ?』
辺りは既に宵闇。背後の暗がりからあどけない少女の声が僕の問いに答えた。
「・・・・・・。」
背筋を嫌な汗が流れる・・・恐怖で崩れ落ちそうな体を叱咤し、僕は・・・振り向かずに反対方向へと駆け出した!
自慢じゃないが、僕は臆病だ。喧嘩をすれば必ず負け、夜中は怖くて厠にも行けない。
そう、婆さんの所で読んだ『外の世界の書物』に出てくる眼鏡をかけた丸顔の少年。
困ったことがあったらすぐ逃げて、胡散臭い青い魔神に泣きつくというアレだ。まさに僕はその少年と瓜二つなのだ。
こういう状況での唯一つの取り柄・・・・・・そう、にげることだーーーーーッ!!!!
あっけにとられてるだろう少女を尻目に、ただ僕は前へ、前へと駆け続けた!!
前へ!!
前へ!!
兎に角前へ!!!!
息が続かなくなるまで僕は駆け続けた。そして、限界は訪れた。
「・・・ハァハァ、ハァ・・・・」
さすがにここまで離れれば追ってはこれまい。僕は前のめりに倒れこんだ。
『ん~?おっかけっこはもーおわり~?』
甘かった。現実は本のように、都合よくは出来ていない。
こうなったら・・・
僕は相手に気取られぬように、慎重に懐に手を入れた・・・
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・無い。
どうやら余りに激しく走り続けたので、この状況を打開しうる唯一の手段『スペルカード』を落っことしてしまった様だ。
「・・・・・・どうしよう。」
少女が答える
『だ~か~ら~!あなたは食べてもいい人類?』
ぶんぶんと首がもげんばかりに振り、拒否する。
『・・・ふ~ん。まぁいいや、いちおう聞いただけだから。』
ほっとしたのもつかの間。少女はにっこりと笑いかけ
『いただきま~す』
嗚呼、もう駄目なのか・・・ごめん、姉さま。僕はここで・・・
そのとき、僕の前に夜目にも眩しい紅い髪の少女が踊りこんだ
「ちょっとまったぁーーーー!!!!」
『え?』
可愛らしい声をあげ、僕に覆いかぶさろうとしていた少女は・・・踏みこんできた紅髪の少女の打撃を受け、夜空に消えていった・・・。
「ふ~。危ない所だったわね?私の名前は『紅美鈴』ほら、これ貴方の落し物でしょ?」
そう言い包みに入った『スペルカード』を僕に手渡す。
「あ、ありがとうございます。」
礼を言う僕をさえぎり彼女はあろうことか
「あはは、いいっていいって!どうせ貴方は私に食べられちゃうんだから~」
「は?」
間抜けな声を出す僕。彼女は納得顔で
「あぶなかった~。咲夜さんに門番をクビにされて、もう碌に人間たべてなかったのよね~。私は一生懸命しごとしてるのに咲夜さんったら
『貴方は役立たずだから、クビ。』ですもん・・・鬼だわ。ねぇ?貴方もそう思うでしょー?」
「は、はぁ・・・。大変ですね・・・美鈴さん。」
キラーン!へたれた顔で愚痴ていた彼女の目が光る。
「・・・貴方。いま、なんて・・・」
「え?大変だなぁ・・・って」
「違う違う!そのあとよ!!」
「あ・・・美鈴さんって、間違えていましたか・・・?」
すると彼女は感極まったかのように号泣しだした。
「うわぁああああん!!名前で、なまえで呼んでくれたーーー!!!!」
さっぱり状況について行けない・・・。
しばらく泣き続けた彼女は、ぐしぐしと目を擦りながら言った。
「・・・貴方は、ひっく、いいひとみたいだから、ううう、食べないであげるわ~~~。」
「はぁ、どうも・・・。」
「うう・・・色々と辛いこともあるだろうけど、貴方も頑張るのよ~~~。」
そう言い置き、彼女は此処ではない何処かへ飛んで行ってしまった。
どうやら、僕は命拾いしたらしい・・・。
今日は、生まれて初めて妖怪というものにあった。
金髪で紅いリボンをした怖い少女。
鮮やかな紅髪の少女、『紅美鈴』。
二人に出会い、札を使うまでも無く助かった僕は・・・
・・・運が良かったのだろう。多分。
そして夜が明け、僕は歩き続け・・・やがて目的の竹林のまえに辿り着いた。
なんで少年は中国、・・・・・じゃなくて美鈴の事知ってたのですか?
文面から考えて初見なのは間違いなさそうですが、複線なら次回の話ではそこらへん宜しくお願い致します。
おそらくこの部分で聞いた言葉のオウム返しでしょう^^
この位の長さで連投するなら、もうちょっと纏めて欲しいと思います。
出来ることならそうしたいのですが、技術、無いんです。
かなり行き当たりばったりな展開なので(その場の勢いだけで書いた)
続きを書けるかどうかも・・・なんか自信なくなってきました。ごめんなさい。
落ち着いてがんばってくださいな。
中国クビになったのーッ!?