Coolier - 新生・東方創想話

八意医院へようこそ! ①~序章

2004/11/16 00:52:11
最終更新
サイズ
5.23KB
ページ数
1
閲覧数
625
評価数
6/38
POINT
1190
Rate
6.23
 季節は過ごしやすい秋を通りすぎ、朝の冷え込みが厳しくなってきた頃。
幻想郷の外れに位置する僕の集落では、おかしな流行り病が蔓延していた。
集落で一番の物知り、トヨ婆さん。集落で唯一医術を嗜む、飲んだくれの玄じいなども口を揃えて
「こんなおかしな病、見たことも聞いたことも無い。」
と首を傾げるのみ。
 玄じいは年がら年中酒を飲んでばかりいて、たまに外に出てきたかと思えば集落のおんなのこ達に抱きついたり、背中に亀甲羅をしょって広場の御神木に登り、てっぺんで腕組みして高笑いしてたり(この時は結局自分で降りられなくなって、お父さん達が苦労して降ろしてたっけ)
・・・とまぁ、ろくでもないヒトだけど腕だけは確かで、僕のお母さんが土地病で三日三晩高熱を出したときも、
何処からともなく入手困難な薬草を揃えてきて助けてくれたりと、凄いお医者様なことは間違いない。
 その玄じいでも判らない病気だなんて、僕にはどうする事もなく、ただ自分たちが罹らないようにお祈りすることしかできなかった。


  小さいながらも活気があった集落は、日に日に異様な雰囲気の蔓延する異界へと堕ちていった

 
昨日、とうとう僕の家にも病の犠牲者がでた。

僕には年の離れた姉さまがいて、こんな時でなければ今頃お隣の優しいお兄さんと結婚して、幸せになってたんだと思う。
病が蔓延してからは、集落の人は皆門戸を閉ざし、見えない脅威におびえる日々を送っていた。
そんな中。いつもどおり、家族4人で過ごしていた時・・・その病は発症した。

物静かでいつも優しい微笑みを浮かべていた姉さま。
僕が友達と喧嘩をして(負けた)泣いて帰ってきたときも、優しく頭を撫でてくれた姉さま。
僕と親友のかず君とでお風呂を覗いた時、困ったような顔で「めっ」と軽く叱ってくれた姉さま。

そんな大好きな姉さまが、
 な ん で こ ん な ・・・

 異変はまったく唐突だった

少し疲れた様子で茶碗を持ち、しずしずとご飯を食べていた姉さまが・・・一瞬硬直し、茶碗を取り落とした。
驚いた僕は自分のご飯を放り出し、すぐさま姉さまに駆け寄った。

「ね、姉さま!!どうしたの!?」

苦しげな様子でぎこちなく僕のほうを見やる姉さま。

「・・・OO君(僕の名前)、来ては、だめ・・・。ふふ、どうやら、私も、あの人と、同じ、病に罹っちゃった、みたい、ね・・・。」

「・・・・・・!!う、うそだ!ねぇ、悪い冗談はやめてよ・・・・・・ねぇ、さま・・・。」

「だい、じょう、ぶ・・・あなたは、ほんとうは、とても、つよ、い、こ・・・だから・・・私が、いな、くても桃尾央大尾央オオ大大尾大尾大尾大尾大尾大尾大尾大尾大尾大大尾大尾大尾大尾大尾大尾大尾大大尾大大尾大おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!??」

激しく痙攣を始める姉さまのからだ。もう、誰の目にも手遅れなのは明らかだった。

「ねえさま!ねえさま!ねえさま!!ねえさまーーーーーーーーっ!!!!」

しばらくして、唐突に姉さまの体は動かなくなった。

呆然とする僕たち一家の前で、かって姉さまだった「モノ」は口を開いた。


『・・・・・・・・・テ、ん、こぉ・・・・』


お父さんが悲痛な顔で姉さまの名前を呟く。
「・・・くっ。静流・・・・・・なんてことだ・・・」

お母さんが顔を背け泣き崩れる。
「あ、ああ、あああ、しずるぅぅうう!?わぁああああああああああ・・・・」

僕はどうする事もできず、ただ立ち尽くすことしか出来なかった。
「・・・・・・・・・ねえさま。」


狼狽する家族を尻目に、姉さま、いや・・・姉さまの形をしたなにかは変異を続ける・・・。


『・・・く、はぁ・・・く、く、くくくっ、くあはははははははははははははは!!』


徐々に姉さまの面影は薄れ、獣のような哄笑が響き渡る。
そして、一際高く獣は叫んだ。



「「「「テンコーーーーーー!!!!」」」」



家中のみならず、集落中にその雄たけびはこだました。

集落の家々は幾度と無く繰り返された悲劇を思い、悲嘆に暮れた。


『テンコー!テンコー!テンコーーー!!』


獣は意味不明の単語を繰り返し、恍惚とした表情でおもむろに衣服をスパーーーンと脱ぎ捨てる。


『嗚呼、テンコー!テンコー!テンコー愉しーーーー!!!!!』


衣服を脱ぎ捨て、獣は戸口めがけて駆け出し、そのまま戸を突き破り走り去っていった。
遠ざかる咆哮。遠くのほうで、新たに加わった仲間を祝福するような雄たけびが聴こえたような気がした・・・。


「・・・・・・・・・。」


取り残され、唖然とする僕たち。表に転がった戸の残骸が、否応無く現実を突きつける。
戸口から吹き付ける寒風が、僕たちを嘲笑うかのようだった・・・・・・。




      そして、夜が明けた




翌日、僕はある決意を秘め、玄じいの元を訪れた。
以前酒に酔った玄じいがした四方山話を問いただすために。

・・・この集落からそう遠くないところに不思議な竹林があり、若かかりし日にそこに迷い込んだ玄じいが辿り着いた、奇妙な医院。そこで彼はあらゆる病を治す薬を調合するという医師(銀髪の少女と言っていたから、今頃はおばさんだろう)に逢ったという。
そこで彼は不治のものと諦めていた不能(よくわからないが、こわい病気なんだろう)を快復して貰ったのだと自慢げに話していたのを思い出したからだ。
きっと、そのひとなら変わり果てた姉さまを治すことが出来るに違いない。しかし、玄じいが再度その竹林を訪れても二度と辿り着けなかったという。(今度は大きさがどうのとか愚痴ってたが、今更背を伸ばしたいだなんて玄じいは本当にガキだ)

こんな夢物語、ボケが始まってきた老人のたわごとなのかもしれない。


それでも、僕はその場所を目指す。


道中には怖い妖怪がたくさん居て、喧嘩の弱い僕ではたちまち食べられてしまうかもしれない。


それでも、僕はその場所を目指す。


あるいは、この話は若き日に酔っ払った玄じいがみた白昼夢でしかないのかもしれない。


それでも、僕はその場所を目指す。


怖くないと言ったら、嘘になる。いや、実際足が震えてちびりそうだ。


それでも、僕はその場所を目指す。


でも、それでも、あの姉さまの、幸せそうな微笑を取り戻すためならば・・・僕は。




そして、僕は旅立った。


あー。えーりん出てないですね。まぁ、プロローグということでひとつ。
しん
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.880簡易評価
2.20名前が無い程度の能力削除
オリキャラ主役(?)オリキャラ視点で非常に困難かもしれませんが、頑張ってください。
5.80名前が無い程度の能力削除
病気の種類が・・・
8.30名前が無い程度の能力削除
えーりん・・・久しぶりの出番なのにorz
10.無評価名前が無い程度の能力削除
続き物という事なのでフリーレスで。
病気の症状見てかなり笑いました。
感染源はやっぱり…。
13.無評価しん削除
>オリキャラ主役
私もオリキャラは苦手です。というか、東方の世界に男キャラがいるだけでも許しがたいと思う方です。(でも、慧音の話は良かった)ですが、なぜかこんな形になってたので、あえて主人公に名前を付けず、強い個性(何かの間違いでこんなのに東方キャラ達が惚れるなんてやです。)を極力排したつもりです。
・・・なんかあんまり頑張れないような気がしてきました_| ̄|○
14.60吐血削除
丁度少女幻葬聴いてたので大爆笑しました
15.60名前が無い程度の能力削除
いや、まあ、この手のはギャグだろうなと覚悟して読み始めたのですが、
僕の想像をはるかに超えたところにこのSSは到達しているようです。
20.60名前が無い程度の能力削除
深刻な病気がテンコーとは…
思いっきり吹きました。