時は常に流れつづける。
間違っても同じ時は巡らない。
もし、そんなことがあるとしたら・・・それは時が気まぐれを起こした時だけだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
目覚めてまず感じたのは、雪の白より、空の黒より、憶のグレー。
ある雪山に降り立った。
轟々と吹雪く空、お世辞にもいい天気とは言えない。
冷たさは感じない、寂しさだけがが辺りを包む。恐々と地に足をつけ、その重みと音を確認する。
シャクッ・・・シャクッ・・・
何回踏んでも変わらない音。何回踏んでも変えられない音。音に遅れて心が追いついてくる。
これを聞くのは一年振り、という事になるのだろうか。その答えは自分自身が一番よく知っていた。
自分が目覚めたという事は・・・・・・。
「冬になったってことだから」
誰にともなく呟く。
こんな山奥の雪の中、誰かが聞いているとは思えない。
だからといって大声で叫ぶ必要性はどこにもない。ましてや自分一人・・・それは雪の一握すら動かせないような呟きだった。
その呟きがさらに自分を灰色に染める。
そうして浮かんだのは疑問。次に現れたのは焦燥。そのまた次に気付いたのは目に溜まる涙。最後に浮かんだのは・・・疑問。
シャクッ・・・シャクッ・・・シャクッ・・・シャクッシャクッシャクッ・・・・・・
一歩、二歩・・・何かを確かめるように歩き出す。いや・・・もう歩いてはいない。地を蹴り、空を切り、時を駆けた。
息などあがる筈もなく、ただひたすら獣のように走り続けた。何かから逃げるように。何かに追いつくように。
わからないことがあることはわかっている。ただ答えが見つからない。
・・・なんで?
言葉にすると消えてしまいそうだった。それでも自分には、言葉にする以外他に方法はなかった。
・・・なんで私・・・
足は何時の間にか止まっていた。吹雪く空と、自分の唇だけが動く。
「なんで私・・・まだレティ・・・なの」
空を見上げても答えはわからない。ただそこには時だけが流れていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
カシャン
紅い絨毯の上に紅が広がる。面白いほどに優雅に汚れるそれ。つい見惚れてしまっていた。
「あらあら、お嬢様お怪我は御座いませんか?今すぐ新しいカップと紅茶をご用意いたしますので少々お待ちを」
「ええ、咲───」
瞬きを一つ。
「どうぞお嬢様」
瞳が紅い部屋を映す時には、もうすでに新しいカップに紅い波紋が広がったところであった。仄かに香る湯気が淹れたての証。
相変わらず仕事の速いメイドだった。よくよく見れば絨毯も違うものに変えられている。
普段は気にも留めないのだが、意識してみると多少疑問が残る。自分と同じ、けれど異質、けれど同種の「流れ」を繰る彼女にとってそれは不思議だった。
「咲夜、なぜ時を巻き戻してカップを戻さないの?」
「お教えしましょうか?」
断る理由はない。聞きたいと言ったのは此方だし、何より此方がなんと答えるかが解っていてこのメイドはそれを口にする。
「ぜひ聞きたいわ、暇だし」
「それはですね・・・」
メイドは目を瞑って窓のない部屋から空を見上げた。
「道標がなかったからですよ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
時は流れるモノ。目には見えなくとも、流れ続けるモノ。
季節は巡る。だが、同じ季節が巡る事はない。
春ならば春、決して一年前と同じ春はこない。それは夏も、秋も、冬も同様。
だからこそおかしい。在る筈がないのだ。在り得る筈がないのだ。自分の知る限り、私が知る限り・・・。
多少の記憶を除いて後は忘れてしまう、それがいつもの私。消える前に一度、忘れたくないと願った事もあった。だが翌年目覚めると、馳せた想いすらなんだったのかわからなかった。
それは自然の摂理というものなのか、自分ではどうしようもない大きな壁のようなものに思えて・・・いつしか意識する事を止めていた。
そう、私は諦めた。冬が必ず春へと変わるように、それに決して抗えない事から。だからこそ、諦めた今、諦めた事すら忘れていた今になってなぜ、こんなにも鮮明に、こんなにもはっきりと、こんなにも昨日の事のように・・・去年の冬の全てを憶えていられるのだろうか。
同じ冬は巡らない、なのに私は同じ私を巡った。わかる、自分の事だからこそわかる。私は今・・・私だ。
白い雪を両手に掬い、パァっと宙に舞い上げる。違う。去年より雪の結晶が一割ほど小さい。去年と同じ冬が巡ったわけではない。ましてや去年のままという訳ではない、去年より一年先の今だ。
まぁいいか、などで済まされるほど自分の中で小さな事ではない。だからと言って、喜びに打ち震えてはしゃぎまわる事も出来ない。
消える前にいつも見る走馬灯。目覚めた後には雪のように溶けてしまう小さな小さな灯火。なら今、目覚めた今見る走馬灯は・・・一体なんなのだろう。
なんでもいい、なんでもいいから答えが欲しい。それが唯一の答えでなくてもいいから。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「私は・・・そうね、レティ・ホワイトロックよ」
名乗ったのは初めて、自分でも不思議だった。
目の前で目を回しているのは一匹の妖精。もう聞こえていないのかもしれないが、それでも私は初めて誰かに名乗るという事をした。
「うー・・・私が冷気で負けるなんてぇ・・・」
意識はあったくさい。いきなり喧嘩を売ってきたものだからもっと物騒な奴かと思えば・・・ただ悪戯好きなだけみたいだ。
目に涙を貯め、悔しそうにする様はまさに子供そのもの。ちょっと本気になって相手した自分が悪いような気がしたが、もう少しだけ意地悪をすることにした。
名乗った時もそうだったが、今思えばなぜそんなことを言おうと思ったのか・・・。唐突な事象相手には唐突な事しか思いつかない、きっとたぶんそんな感じ。後先など考えずに私はあの時、口を開いたのだ。そう、それはあまりにも唐突だったから。だから私も唐突になれたのだ。
「あなたは冷気を操るのね、でも私は寒気を操れるの」
それがどうしたという風にこちらを睨んでくる妖精。
ふっふっふ、とわかりやすい含み笑いを踏まえて指を突きつける。
こんな自分、今まで見つけたことなかった。嬉しかったのだろう、今まで言った事もない言葉がすらすらと出てきた。
「『冷』、『寒』・・・同じ気でも私の方が『画数』が多い、だから強いのよ!!」
ガーン!!・・・ガーン・・・ガーン・・・・・・
わかりやすい顔で向こうは打ちひしがれる。思った以上に面白い。
しかしその妖精はどうにも納得がいかないようで、終いには指で画数を計算し始めた。が、途中で指の数が足りなくなったのか余計に頭を悩ませ始めた。
ほんと、見ていて飽きない妖精だった。
これが私と、チルノの出会い。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「そう、そうやって出会ったのよね」
過去の1ページ。記憶の中に残る唯一の書が開かれる。唯一と言うにはあまりにも脆く消えていく儚い書。これを人はなんと言ったか・・・そう、思い出だ。
辿るようにその書のページを開いていく。時折漏れる唇からの浅い呼吸。つられて目尻も緩み、自分では表現しにくい顔。目覚めた後に思い出し笑いが出来るなんて考えた事もなかった。
一人でいつも時を過ごした私に、会いに来るものが現れた。
───レティ
冬を待ち望むものは少なくはないだろうけれど、私が望まれたのは初めてのことだった。
───レーティー!
何度名前を呼ばれたか、それこそ両手では足りない。
───もう、レティの意地悪ー!
あの不器用な膨れっ面でさえ・・・愛しい1ページ。
ゆっくり・・・ゆっくりとページを開いてゆく。
『ああもう、こんな雑魚倒しても何にもなりゃしない!』
あるページに差し掛かってハッとなった。そういえば一つ、去年はいつも送る冬とは違っていた。
冬がなかなか終わらなかった。原因などわからないが、とにかく終わらなかった。
「そういえばあの時は・・・変なメイドとも出会ったんだっけ」
あの時は珍しくて思わずちょっかいを出してしまったが、軽くあしらわれてしまった。
その後しばらくしてから春になった。きっとあの空飛ぶメイドが冬から春に戻したのだろう。
あいつに撃ち落とされて、雪の上に横たわって・・・・・・その後どうなったんだっけ。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
吹きすさぶ風、それは春がくる予兆なのか、気持ちのいいほどの風。
ザッ・・・ザッ・・・ザッ・・・
雪の上を歩く音。チルノかと思ったが、目を開けるとそれは自分を撃ち落したメイドだった。
まさかトドメを刺しにきたのだろうか。決して友好的な視線ではないことは見ればわかる。
「急いでいるんだけど、一つだけ・・・聞きたい事があるわ」
「あれだけの敵意とナイフを投げてきてまだ何か?」
「私勝者、あなた敗者」
「・・・・・・」
痛くないわけではないのだが、よっこいしょと体を起こす。
沈黙を続けても相手は去るだろうが、不思議とそうしようとは思わなかった。
「で、聞きたい事って?」
「ええ、ちょっと気になったのだけれど・・・」
ここで初めてこのメイドに遠慮と言う二文字が顔に浮かんだ。言葉を慎重に選ぶかのようにそれを口にする。
「あなたが落ちる瞬間・・・何であんなに悲しい顔だったの?」
「・・・」
「いえ、悲しいなんてものじゃなかったわ、あれは全てを諦めてた顔だった」
「・・・あなたは、たぶん春を取り戻しにきたんでしょう」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
自分の境遇を語ったのは初めてだった。
その後メイドは素っ気無く「・・・そう」と言って飛び立った。
別に同情して欲しかったわけではない。優しい言葉をかけて欲しかったわけではない。
ただ一度くらいは、そういうことを誰かに話してみてもいいかもしれない、そう思っただけだった。
メイドが飛び去ってしばらくすると、春がやってくるのがわかった。
もう目を瞑っていて何も見ていなかったが、傍でチルノが泣いていたような気もする。でも私は目を開けていたくなかった。
チルノには言えなかった、次の冬にはきっと、あなたの事は覚えていないだろうと。
冬しか逢えないと伝えるだけでも辛かった。とても言えなかった。
次の冬に想いをめぐらせるチルノに、きっと目の前にいたチルノに・・・最後に私はなんと言ったか。
──────ゴメンネ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「・・・道標?」
「ええ、道標です。それがないと咲夜は迷子になってしまうのですよ」
「ふぅん・・・」
よく解らないわといった風に首を傾げる。
「じゃああのカップは元に戻せないの?」
「ええ、カップがそれを望んでいませんから。あの絨毯も、です」
カップが望む・・・馬鹿げた話だ。こういう馬鹿げた話が往来するこの幻想郷、それでも馬鹿げている。
そういう能力者は探せばいるのかもしれない。だが、モノの意思がわかる、という特技がこのメイドにあるとはついぞ聞いた事がない。
例えそんな能力があったとしても、そんな意思を凌駕し施行できるだけの力を持っている。このメイドも・・・そう思う自分も。
だからこそ、飾り気なしの言葉が出てくる。
「モノの意思なんか尊重しなくてもいいじゃない」
するとメイドは少し困ったような顔になった。しかしこれは決して自分の言葉に困惑しているのではない。メイド自身言葉を探っているのだ。
「そうはいきません。もしそれを強行すれば私がカップに嫌われてしまいますわ。お嬢様は嫌われているとわかっているカップで紅茶を飲みたいと思います?」
「叩き割りたくなるわね」
「結局割れてしまいます」
ほら同じことですわ、とクスクス笑うメイド。
それがメイドの本心なのだろう。だがそれでは言葉は足りない。
相手の中で完結していることを自分では仮定だと思って話すのは少々プライドに障るが、このメイド相手に飾っても仕方ないだろう。
それ以上に暇なのだ、要は。
「ならカップ自身が戻して欲しい、と願えば?」
「それでも難しいですね」
これまた難色を示すメイド。
「なぜ?」
「お嬢様は向かい風と追い風どちらが飛びやすいですか?」
「決まってるじゃ・・・」
言ってから解ったのか、ああなるほどと頷く。
それを確認してからメイドはゆっくりと続けた。
「そう、決まってるのですよ」
「・・・つまり、流れに逆らう中それを成そうと思ったら」
「ええ、根性あるのみです」
でもそこまであれには思い入れがあるわけでもありませんからと、おどけるようにメイドは肩をすくめる。
軽く伸びをしてため息を一つつく。それは飽きれた為に出たため息であった。
「それじゃぁ結局、戻る事を望んでいるモノでも咲夜の気分次第ってことでしょう、傲慢だわ」
「だってそんなものいちいち相手にしていたらキリがありませんもの、気まぐれぐらいがちょうどよいのです。それにそれを言うならお嬢様の運命操作もかなり傲慢な力かと」
「私はいいのよ、悪魔だもん」
「それは屁理屈ですわ」
「屁理屈よ」
フッとお互いに笑みが漏れる。丁度カップの底が見えたところだった。
「それでは屁理屈ついでにもう一杯いかがですか?傲慢なお嬢様」
「折角だからいただくわ、傲慢な咲夜」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「レーーーーーーーーーーーーーーーーティーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「うわぁ!」
走馬灯が消え去った。というか逃げていった。
私の名前を知るものは一人しかいない。教えたことがあると覚えているのは一人しかいない。だから逆光で姿が見えにくくとも間違えたりはしない。
「まったくもう、一昨日辺りからそろそろ冬なんじゃないかなーと思って探してたのよ」
嬉しい、憶えられている事がこんなに嬉しい。憶えている事がこんなに嬉しい。
「探して・・・くれてたんだ・・・」
この娘と再会できてやっとわかった。私は喜んでもいいんだ。憶えていることを喜んでもいいんだ。
「うっ、えーっと、去年からずっと・・・待ってたわよ・・・ってレティ!何で泣いてんの!?どっか痛いの!?・・・うー・・・どうしたのよぅ・・・レティ」
繰り返し呼ばれる名。この娘に呼ばれるたびに、私という存在が、無二の証が育って立ちあがる。
「違うの、ゴメンね、チルノ・・・ゴメンね」
「・・・去年もそんなこと言ってたね。レティが消える時・・・私は『また来年ね』って言ってたのにずっとそればっかり、あー!さてはあの時レティ全然聞いてなかったなー」
もう言葉では返せない。
私は自然な事だと思っていた。レティが巡る事は自然な事だと・・・。
だからこそ諦めていた。願っても叶わぬならばと諦めていた。
だけどわかった。
・・・そうなのだ。
忘れていくのは全て自分の為。
自分がそれを望んでいなかっただけ。
心のどこかで、一人だった時を思い出したくなかっただけ。だから私は心に白い錠を作った。そこに閉じこもって、忘れた頃にまた出ていく。
忘れていくから一人がいい、一人だから忘れていく・・・なんて本末転倒。
それを気付かせてくれたのは他ならない。
「レーティー」
顔を覗き込んでくる氷の妖精。
何度も開いては閉じたホワイトロック。でももう前とは違う。開いた先には・・・もう決して見失わない・・・たった一つの・・・。
ベシャ
「・・・むぷ」
雪玉がぶつかってきた。顔を覆うくらいの雪玉。誰が投げたかなんて、そんなもの目を瞑っていてもわかる。
疑問に対する答えは結局見つからなかった。でも代わりに見つけたものがある。それだけで今はもう十分。
自分がどうして巡ることが出来たかより、目の前にある笑顔の方が素敵な事実。
顔に積もった雪を払い落としながら、誰にも聞こえないように呟く。
私は見つけた。私はもう迷わない。私は・・・私。
「もう、チルノったら調子に乗りすぎよ・・っと?」
「あれ、レティどうしたの?」
「いや、なんか・・・」
服のポケットに何か入っているような感じ。今までこんなことにも気付かないほど他に気がいかなかったのだろうか・・・まぁチルノが目の前に来るまで気付かなかったくらいだからそうなのだとは思うが。
無機質的なその感触に少々訝しがるも、取り出してみればそれは何の変哲もないナイフだった。
しかしこのナイフどこかで見覚えがある。
「・・・あ」
あのメイド。私を撃ち落したあのメイドのナイフ。私の話を聞いたあのメイドのナイフだ。
あの時ポケットにナイフが入っていた覚えはないし、入れられた覚えもなかった。
もしかするとあのメイドが・・・。
「どうしたのレティ?」
確証なんてなかった。だけど他に考えられない。
レティはチルノが傍にいることも忘れて、ある場所へ飛んでいった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「しかしめっきり寒くなってきましたねぇ」
「そろそろ冬も近いのかしら」
ズズッと何杯目かの紅茶を飲み干しながら、めんどくさそうに答えるお嬢様。と、そこへ・・・。
ドドドドドドドドドドドドドド!!!
耳を疑いたくなるような騒音が扉の外を駆け抜け・・・
ドドドドドドドドドドドドドド、キキーッ!!
また戻ってきて扉の前で止まった。
勢いよく開けられたその扉からは、なぜか涙目になってる門番が入ってきた。
「咲夜さん・・・私に嫌がらせですかこれは!!」
「入って来て唐突ね、ここにはお嬢様もいらっしゃるのだけど、もう少し礼儀を教え込むべきだったかしら?」
「惚けますか!さっきこんなもの投げてきたでしょう!!」
バンっとテーブルの上に叩きつけられる。それは一本のナイフだった。
「・・・これは」
「どこからどう見ても咲夜さんのナイフです!これが空から降ってきたんですよ、私目掛けて!!」
「空から?」
「ええそうですよ!狙ってるのかと思わんばかりに見事に頬を掠めました!!避けたんですよ!避けた上で頬だったんですよ!!」
「・・・そう・・・お嬢様」
「何?咲夜」
「そろそろ冬なのではありません、どうやら今日から冬のようですわ」
「わかるの?」
「ええ、それはもうばっちりと」
お嬢様は一瞬不思議そうな表情を見せたが、すぐに悟ったような顔つきになった。悪戯っ子のような表情を浮かべて口を開く。
「それは傲慢な結果かしら?」
「気まぐれの結果ですわ、私はちょっと道標を置いてきてしまっただけですから。それに───」
「もっといい道標を見つけたようですよ、今年の冬は」
刀身に息を吹きかけると浮き上がる文字。
小さい銀色の文字は、伝わった熱を失うと同時に消えていった。
あ り が と う 。
間違っても同じ時は巡らない。
もし、そんなことがあるとしたら・・・それは時が気まぐれを起こした時だけだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
目覚めてまず感じたのは、雪の白より、空の黒より、憶のグレー。
ある雪山に降り立った。
轟々と吹雪く空、お世辞にもいい天気とは言えない。
冷たさは感じない、寂しさだけがが辺りを包む。恐々と地に足をつけ、その重みと音を確認する。
シャクッ・・・シャクッ・・・
何回踏んでも変わらない音。何回踏んでも変えられない音。音に遅れて心が追いついてくる。
これを聞くのは一年振り、という事になるのだろうか。その答えは自分自身が一番よく知っていた。
自分が目覚めたという事は・・・・・・。
「冬になったってことだから」
誰にともなく呟く。
こんな山奥の雪の中、誰かが聞いているとは思えない。
だからといって大声で叫ぶ必要性はどこにもない。ましてや自分一人・・・それは雪の一握すら動かせないような呟きだった。
その呟きがさらに自分を灰色に染める。
そうして浮かんだのは疑問。次に現れたのは焦燥。そのまた次に気付いたのは目に溜まる涙。最後に浮かんだのは・・・疑問。
シャクッ・・・シャクッ・・・シャクッ・・・シャクッシャクッシャクッ・・・・・・
一歩、二歩・・・何かを確かめるように歩き出す。いや・・・もう歩いてはいない。地を蹴り、空を切り、時を駆けた。
息などあがる筈もなく、ただひたすら獣のように走り続けた。何かから逃げるように。何かに追いつくように。
わからないことがあることはわかっている。ただ答えが見つからない。
・・・なんで?
言葉にすると消えてしまいそうだった。それでも自分には、言葉にする以外他に方法はなかった。
・・・なんで私・・・
足は何時の間にか止まっていた。吹雪く空と、自分の唇だけが動く。
「なんで私・・・まだレティ・・・なの」
空を見上げても答えはわからない。ただそこには時だけが流れていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
カシャン
紅い絨毯の上に紅が広がる。面白いほどに優雅に汚れるそれ。つい見惚れてしまっていた。
「あらあら、お嬢様お怪我は御座いませんか?今すぐ新しいカップと紅茶をご用意いたしますので少々お待ちを」
「ええ、咲───」
瞬きを一つ。
「どうぞお嬢様」
瞳が紅い部屋を映す時には、もうすでに新しいカップに紅い波紋が広がったところであった。仄かに香る湯気が淹れたての証。
相変わらず仕事の速いメイドだった。よくよく見れば絨毯も違うものに変えられている。
普段は気にも留めないのだが、意識してみると多少疑問が残る。自分と同じ、けれど異質、けれど同種の「流れ」を繰る彼女にとってそれは不思議だった。
「咲夜、なぜ時を巻き戻してカップを戻さないの?」
「お教えしましょうか?」
断る理由はない。聞きたいと言ったのは此方だし、何より此方がなんと答えるかが解っていてこのメイドはそれを口にする。
「ぜひ聞きたいわ、暇だし」
「それはですね・・・」
メイドは目を瞑って窓のない部屋から空を見上げた。
「道標がなかったからですよ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
時は流れるモノ。目には見えなくとも、流れ続けるモノ。
季節は巡る。だが、同じ季節が巡る事はない。
春ならば春、決して一年前と同じ春はこない。それは夏も、秋も、冬も同様。
だからこそおかしい。在る筈がないのだ。在り得る筈がないのだ。自分の知る限り、私が知る限り・・・。
多少の記憶を除いて後は忘れてしまう、それがいつもの私。消える前に一度、忘れたくないと願った事もあった。だが翌年目覚めると、馳せた想いすらなんだったのかわからなかった。
それは自然の摂理というものなのか、自分ではどうしようもない大きな壁のようなものに思えて・・・いつしか意識する事を止めていた。
そう、私は諦めた。冬が必ず春へと変わるように、それに決して抗えない事から。だからこそ、諦めた今、諦めた事すら忘れていた今になってなぜ、こんなにも鮮明に、こんなにもはっきりと、こんなにも昨日の事のように・・・去年の冬の全てを憶えていられるのだろうか。
同じ冬は巡らない、なのに私は同じ私を巡った。わかる、自分の事だからこそわかる。私は今・・・私だ。
白い雪を両手に掬い、パァっと宙に舞い上げる。違う。去年より雪の結晶が一割ほど小さい。去年と同じ冬が巡ったわけではない。ましてや去年のままという訳ではない、去年より一年先の今だ。
まぁいいか、などで済まされるほど自分の中で小さな事ではない。だからと言って、喜びに打ち震えてはしゃぎまわる事も出来ない。
消える前にいつも見る走馬灯。目覚めた後には雪のように溶けてしまう小さな小さな灯火。なら今、目覚めた今見る走馬灯は・・・一体なんなのだろう。
なんでもいい、なんでもいいから答えが欲しい。それが唯一の答えでなくてもいいから。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「私は・・・そうね、レティ・ホワイトロックよ」
名乗ったのは初めて、自分でも不思議だった。
目の前で目を回しているのは一匹の妖精。もう聞こえていないのかもしれないが、それでも私は初めて誰かに名乗るという事をした。
「うー・・・私が冷気で負けるなんてぇ・・・」
意識はあったくさい。いきなり喧嘩を売ってきたものだからもっと物騒な奴かと思えば・・・ただ悪戯好きなだけみたいだ。
目に涙を貯め、悔しそうにする様はまさに子供そのもの。ちょっと本気になって相手した自分が悪いような気がしたが、もう少しだけ意地悪をすることにした。
名乗った時もそうだったが、今思えばなぜそんなことを言おうと思ったのか・・・。唐突な事象相手には唐突な事しか思いつかない、きっとたぶんそんな感じ。後先など考えずに私はあの時、口を開いたのだ。そう、それはあまりにも唐突だったから。だから私も唐突になれたのだ。
「あなたは冷気を操るのね、でも私は寒気を操れるの」
それがどうしたという風にこちらを睨んでくる妖精。
ふっふっふ、とわかりやすい含み笑いを踏まえて指を突きつける。
こんな自分、今まで見つけたことなかった。嬉しかったのだろう、今まで言った事もない言葉がすらすらと出てきた。
「『冷』、『寒』・・・同じ気でも私の方が『画数』が多い、だから強いのよ!!」
ガーン!!・・・ガーン・・・ガーン・・・・・・
わかりやすい顔で向こうは打ちひしがれる。思った以上に面白い。
しかしその妖精はどうにも納得がいかないようで、終いには指で画数を計算し始めた。が、途中で指の数が足りなくなったのか余計に頭を悩ませ始めた。
ほんと、見ていて飽きない妖精だった。
これが私と、チルノの出会い。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「そう、そうやって出会ったのよね」
過去の1ページ。記憶の中に残る唯一の書が開かれる。唯一と言うにはあまりにも脆く消えていく儚い書。これを人はなんと言ったか・・・そう、思い出だ。
辿るようにその書のページを開いていく。時折漏れる唇からの浅い呼吸。つられて目尻も緩み、自分では表現しにくい顔。目覚めた後に思い出し笑いが出来るなんて考えた事もなかった。
一人でいつも時を過ごした私に、会いに来るものが現れた。
───レティ
冬を待ち望むものは少なくはないだろうけれど、私が望まれたのは初めてのことだった。
───レーティー!
何度名前を呼ばれたか、それこそ両手では足りない。
───もう、レティの意地悪ー!
あの不器用な膨れっ面でさえ・・・愛しい1ページ。
ゆっくり・・・ゆっくりとページを開いてゆく。
『ああもう、こんな雑魚倒しても何にもなりゃしない!』
あるページに差し掛かってハッとなった。そういえば一つ、去年はいつも送る冬とは違っていた。
冬がなかなか終わらなかった。原因などわからないが、とにかく終わらなかった。
「そういえばあの時は・・・変なメイドとも出会ったんだっけ」
あの時は珍しくて思わずちょっかいを出してしまったが、軽くあしらわれてしまった。
その後しばらくしてから春になった。きっとあの空飛ぶメイドが冬から春に戻したのだろう。
あいつに撃ち落とされて、雪の上に横たわって・・・・・・その後どうなったんだっけ。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
吹きすさぶ風、それは春がくる予兆なのか、気持ちのいいほどの風。
ザッ・・・ザッ・・・ザッ・・・
雪の上を歩く音。チルノかと思ったが、目を開けるとそれは自分を撃ち落したメイドだった。
まさかトドメを刺しにきたのだろうか。決して友好的な視線ではないことは見ればわかる。
「急いでいるんだけど、一つだけ・・・聞きたい事があるわ」
「あれだけの敵意とナイフを投げてきてまだ何か?」
「私勝者、あなた敗者」
「・・・・・・」
痛くないわけではないのだが、よっこいしょと体を起こす。
沈黙を続けても相手は去るだろうが、不思議とそうしようとは思わなかった。
「で、聞きたい事って?」
「ええ、ちょっと気になったのだけれど・・・」
ここで初めてこのメイドに遠慮と言う二文字が顔に浮かんだ。言葉を慎重に選ぶかのようにそれを口にする。
「あなたが落ちる瞬間・・・何であんなに悲しい顔だったの?」
「・・・」
「いえ、悲しいなんてものじゃなかったわ、あれは全てを諦めてた顔だった」
「・・・あなたは、たぶん春を取り戻しにきたんでしょう」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
自分の境遇を語ったのは初めてだった。
その後メイドは素っ気無く「・・・そう」と言って飛び立った。
別に同情して欲しかったわけではない。優しい言葉をかけて欲しかったわけではない。
ただ一度くらいは、そういうことを誰かに話してみてもいいかもしれない、そう思っただけだった。
メイドが飛び去ってしばらくすると、春がやってくるのがわかった。
もう目を瞑っていて何も見ていなかったが、傍でチルノが泣いていたような気もする。でも私は目を開けていたくなかった。
チルノには言えなかった、次の冬にはきっと、あなたの事は覚えていないだろうと。
冬しか逢えないと伝えるだけでも辛かった。とても言えなかった。
次の冬に想いをめぐらせるチルノに、きっと目の前にいたチルノに・・・最後に私はなんと言ったか。
──────ゴメンネ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「・・・道標?」
「ええ、道標です。それがないと咲夜は迷子になってしまうのですよ」
「ふぅん・・・」
よく解らないわといった風に首を傾げる。
「じゃああのカップは元に戻せないの?」
「ええ、カップがそれを望んでいませんから。あの絨毯も、です」
カップが望む・・・馬鹿げた話だ。こういう馬鹿げた話が往来するこの幻想郷、それでも馬鹿げている。
そういう能力者は探せばいるのかもしれない。だが、モノの意思がわかる、という特技がこのメイドにあるとはついぞ聞いた事がない。
例えそんな能力があったとしても、そんな意思を凌駕し施行できるだけの力を持っている。このメイドも・・・そう思う自分も。
だからこそ、飾り気なしの言葉が出てくる。
「モノの意思なんか尊重しなくてもいいじゃない」
するとメイドは少し困ったような顔になった。しかしこれは決して自分の言葉に困惑しているのではない。メイド自身言葉を探っているのだ。
「そうはいきません。もしそれを強行すれば私がカップに嫌われてしまいますわ。お嬢様は嫌われているとわかっているカップで紅茶を飲みたいと思います?」
「叩き割りたくなるわね」
「結局割れてしまいます」
ほら同じことですわ、とクスクス笑うメイド。
それがメイドの本心なのだろう。だがそれでは言葉は足りない。
相手の中で完結していることを自分では仮定だと思って話すのは少々プライドに障るが、このメイド相手に飾っても仕方ないだろう。
それ以上に暇なのだ、要は。
「ならカップ自身が戻して欲しい、と願えば?」
「それでも難しいですね」
これまた難色を示すメイド。
「なぜ?」
「お嬢様は向かい風と追い風どちらが飛びやすいですか?」
「決まってるじゃ・・・」
言ってから解ったのか、ああなるほどと頷く。
それを確認してからメイドはゆっくりと続けた。
「そう、決まってるのですよ」
「・・・つまり、流れに逆らう中それを成そうと思ったら」
「ええ、根性あるのみです」
でもそこまであれには思い入れがあるわけでもありませんからと、おどけるようにメイドは肩をすくめる。
軽く伸びをしてため息を一つつく。それは飽きれた為に出たため息であった。
「それじゃぁ結局、戻る事を望んでいるモノでも咲夜の気分次第ってことでしょう、傲慢だわ」
「だってそんなものいちいち相手にしていたらキリがありませんもの、気まぐれぐらいがちょうどよいのです。それにそれを言うならお嬢様の運命操作もかなり傲慢な力かと」
「私はいいのよ、悪魔だもん」
「それは屁理屈ですわ」
「屁理屈よ」
フッとお互いに笑みが漏れる。丁度カップの底が見えたところだった。
「それでは屁理屈ついでにもう一杯いかがですか?傲慢なお嬢様」
「折角だからいただくわ、傲慢な咲夜」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「レーーーーーーーーーーーーーーーーティーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「うわぁ!」
走馬灯が消え去った。というか逃げていった。
私の名前を知るものは一人しかいない。教えたことがあると覚えているのは一人しかいない。だから逆光で姿が見えにくくとも間違えたりはしない。
「まったくもう、一昨日辺りからそろそろ冬なんじゃないかなーと思って探してたのよ」
嬉しい、憶えられている事がこんなに嬉しい。憶えている事がこんなに嬉しい。
「探して・・・くれてたんだ・・・」
この娘と再会できてやっとわかった。私は喜んでもいいんだ。憶えていることを喜んでもいいんだ。
「うっ、えーっと、去年からずっと・・・待ってたわよ・・・ってレティ!何で泣いてんの!?どっか痛いの!?・・・うー・・・どうしたのよぅ・・・レティ」
繰り返し呼ばれる名。この娘に呼ばれるたびに、私という存在が、無二の証が育って立ちあがる。
「違うの、ゴメンね、チルノ・・・ゴメンね」
「・・・去年もそんなこと言ってたね。レティが消える時・・・私は『また来年ね』って言ってたのにずっとそればっかり、あー!さてはあの時レティ全然聞いてなかったなー」
もう言葉では返せない。
私は自然な事だと思っていた。レティが巡る事は自然な事だと・・・。
だからこそ諦めていた。願っても叶わぬならばと諦めていた。
だけどわかった。
・・・そうなのだ。
忘れていくのは全て自分の為。
自分がそれを望んでいなかっただけ。
心のどこかで、一人だった時を思い出したくなかっただけ。だから私は心に白い錠を作った。そこに閉じこもって、忘れた頃にまた出ていく。
忘れていくから一人がいい、一人だから忘れていく・・・なんて本末転倒。
それを気付かせてくれたのは他ならない。
「レーティー」
顔を覗き込んでくる氷の妖精。
何度も開いては閉じたホワイトロック。でももう前とは違う。開いた先には・・・もう決して見失わない・・・たった一つの・・・。
ベシャ
「・・・むぷ」
雪玉がぶつかってきた。顔を覆うくらいの雪玉。誰が投げたかなんて、そんなもの目を瞑っていてもわかる。
疑問に対する答えは結局見つからなかった。でも代わりに見つけたものがある。それだけで今はもう十分。
自分がどうして巡ることが出来たかより、目の前にある笑顔の方が素敵な事実。
顔に積もった雪を払い落としながら、誰にも聞こえないように呟く。
私は見つけた。私はもう迷わない。私は・・・私。
「もう、チルノったら調子に乗りすぎよ・・っと?」
「あれ、レティどうしたの?」
「いや、なんか・・・」
服のポケットに何か入っているような感じ。今までこんなことにも気付かないほど他に気がいかなかったのだろうか・・・まぁチルノが目の前に来るまで気付かなかったくらいだからそうなのだとは思うが。
無機質的なその感触に少々訝しがるも、取り出してみればそれは何の変哲もないナイフだった。
しかしこのナイフどこかで見覚えがある。
「・・・あ」
あのメイド。私を撃ち落したあのメイドのナイフ。私の話を聞いたあのメイドのナイフだ。
あの時ポケットにナイフが入っていた覚えはないし、入れられた覚えもなかった。
もしかするとあのメイドが・・・。
「どうしたのレティ?」
確証なんてなかった。だけど他に考えられない。
レティはチルノが傍にいることも忘れて、ある場所へ飛んでいった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「しかしめっきり寒くなってきましたねぇ」
「そろそろ冬も近いのかしら」
ズズッと何杯目かの紅茶を飲み干しながら、めんどくさそうに答えるお嬢様。と、そこへ・・・。
ドドドドドドドドドドドドドド!!!
耳を疑いたくなるような騒音が扉の外を駆け抜け・・・
ドドドドドドドドドドドドドド、キキーッ!!
また戻ってきて扉の前で止まった。
勢いよく開けられたその扉からは、なぜか涙目になってる門番が入ってきた。
「咲夜さん・・・私に嫌がらせですかこれは!!」
「入って来て唐突ね、ここにはお嬢様もいらっしゃるのだけど、もう少し礼儀を教え込むべきだったかしら?」
「惚けますか!さっきこんなもの投げてきたでしょう!!」
バンっとテーブルの上に叩きつけられる。それは一本のナイフだった。
「・・・これは」
「どこからどう見ても咲夜さんのナイフです!これが空から降ってきたんですよ、私目掛けて!!」
「空から?」
「ええそうですよ!狙ってるのかと思わんばかりに見事に頬を掠めました!!避けたんですよ!避けた上で頬だったんですよ!!」
「・・・そう・・・お嬢様」
「何?咲夜」
「そろそろ冬なのではありません、どうやら今日から冬のようですわ」
「わかるの?」
「ええ、それはもうばっちりと」
お嬢様は一瞬不思議そうな表情を見せたが、すぐに悟ったような顔つきになった。悪戯っ子のような表情を浮かべて口を開く。
「それは傲慢な結果かしら?」
「気まぐれの結果ですわ、私はちょっと道標を置いてきてしまっただけですから。それに───」
「もっといい道標を見つけたようですよ、今年の冬は」
刀身に息を吹きかけると浮き上がる文字。
小さい銀色の文字は、伝わった熱を失うと同時に消えていった。
あ り が と う 。
いやん嬉しい。
(人´∀`).☆.。.:*・゚
想いを遂げた黒幕者と恋娘者にほろりと来るお話ですがそれ以上にメイドとお嬢様がイカしてます。
私が思う理想の咲夜さん像がここにありました。
ウィットに富んだ言葉の応酬。
レミリアとの会話は原作の二人を思わずにはいられません。
ご馳走様でした。
咲夜とレミィのいかにも東方らしいやり取りやレティの心情変化、そして相変わらずな中国(笑)などに、幻想郷的な魅力を感じましたね。
結構好きです、こういう雰囲気。
咲夜さんの気まぐれ振りがホントに良い出汁になり、二人の再会をきっちり盛り上げ、最後の台詞でびしっとしまって、ホントにごちそうさまでした。
その2つの話が『道標』というキーワードによって1つに収斂していく展開が、見事に決まっています。
この咲夜さんは粋な事をしてくれますね。しかも咲夜さん本人は、気まぐれと言って憚らない。そこがまた粋。
やはり咲夜さんはこのくらいシャレてないと、と改めて感じました。
レティの名前の由来にも納得。いい物語でした。
これからレティチル組の季節ですが、この物語のような再会をどこかでしているのでしょうか?
こういう物語、自分は大好きです。ごちそうさまでした。