望まれない生を与えられ、望む死を奪われ、私は人間を止めた。
人でありながら人で無くなった私は、おなじ人間の者達と住めなくなった。
愛する家族も、友人も、私を知っていた者も私を残して皆死んでしまった。
―――もういい。私は死んでいないだけの無為な存在になってしまった。だから、もう、放って置いて。
構わないで。幾度となく私は彼女を拒絶した。なのに、彼女はいつもと変わらぬ様子で私の下を訪れる。
「お邪魔するよ。今日は邪険な扱いはないんだな…まぁその方が此方としても助かるんだが」
「毎日毎日同じ刻に来て、幾ら拒んでも聞かない奴に疲れただけよ」
「貴女が幾ら拒んでも私は推し通るぞ。私は人間が好きだからな」
「馬鹿馬鹿しい。大体おまえは妖怪でしょう?人間を糧とする妖怪が人間を守るだなんて転地がひっくり返る事態ね」
「そういう妖怪もいるのさ」
とりとめの無い会話。なんだってこの妖怪は私に構ってくるのだろう。人間が好きならば
彼女が守っているという、里の者と戯れていればいい。なのに態々こっちにくる。からかっているのか?
「私は人間ではないよ。それに、おまえに守られる程弱くないよ」
「いいや、貴女は確かに人間―――」
「人間!?何千、何百と姿形からわぬ人間がどこにいる!あらゆる滅手段を行使しても、すぐさま甦る人間がどこにいる!!不老不死の蓬莱人形となった私はもう人間ではない!!……だから、もう構わないで。私はおまえの好きな人間じゃない」
「………貴女は、人形ではない。そして、私は引き下がるつもりは無い。何をされようとも、だ」
何故、そんなにもあっさり言えるのだろう。解らない。解らない。
何故、この妖怪は私を好いてくれるのだろう。解らない―――
「…とりあえず、今日の所は失礼するよ」
「お願いだから、もうこないで…」
「またな」
その日の夜、私は1つの決断をした。
昨日と同じ刻、いつもの様に戸を叩く音がし、そして開けられる。
「お邪魔す…」
「来たのね。来ないで、といったのに」
私は、この妖怪に本気だという事を示した。これ以上構うのなら、殺してしまうぞ。
「本気か?」
「えぇ、本気よ。いい加減おまえとの下らない関係にも飽き飽きした。私はただ放って置いて欲しかっただけ。
おまえが余計なお節介なぞするから、私の平穏は無くなった。だから―――おまえを、殺す」
「そうか…私を殺すか。人間」
「殺すわ。妖怪」
せめてもの情けだ。一瞬にして灰にしてやろう。手を掲げ、全身に炎を纏う。妖怪は棒立ちしたまま私の様子を
見ている。…諦めたか?まぁいい。次で終わりだ。
「さよなら、妖怪。おまえは嫌いだったが、中々に楽しかったよ」
炎が、妖怪を包む。妖怪は悲鳴もあげずに灰になった。あっけない。命とは、こんなに簡単に消えてしまうものか。
本当に、あっけない。私をしつこく構っていた妖怪がいなくなった。次の日から、また何も感じない私の平穏がやってくる―――
「言ったはずだ。私は引き下がるつもりはない、と」
「!?」
どういう事だ?目の前で燃え尽きた妖怪が、事もあろうか私の目の前にたっている。幻術か?いや、そんなはずはない。
確かに、この妖怪は私の炎で燃え尽きた。じゃあ、目の前にいるコイツは…なんなんだ?
「何を…した」
「何もしていないさ。私の力を使っただけ」
「幻術か?ならばそんなまやかし私の炎で」
「貴女の炎は、私が食ったよ」
「…な」
言われて私は違和感を覚える。そうだ…私が纏っていた炎が、ない。力を解除した覚えも無い。
しかもこの妖怪は私の炎を食ったと言う。炎が食える?じゃあ、さっきの出来事も食ったと言うのか?
私は、久しく忘れていたモノが湧き上がってくるのを感じた。
恐怖。
そうだ。
私は、この妖怪が。
―――怖い。
「あ…い…」
「どうした?さっきまでの威勢は何処へいったのだ。私を、殺すのではなかったのか?」
「い…、や…。たす…けて…」
妖怪は、1歩、1歩とにじり寄る。私は、立っていられなくなりズルズルと下がる。
そして、とうとう部屋の隅にまで追い詰められた。
「もう、逃げ場がないな」
「お願い……食べないで…。助けて…怖い、怖いよぉ…」
「不老不死なら食べても甦るんだろう?」
「いやぁ…。痛いのはいやぁ…。助けて…父様…母様…怖いよぉ…」
妖怪が、私の両肩を掴む。私は動けなくなり、目を瞑る。食べられる―――…
「やっぱり、貴女は人間だよ」
妖怪はそう呟いて、
「あっ…?」
身体が包まれる感触。目を開けると、妖怪は私を抱きしめていた。
「妖怪が怖いんだろう?妖怪を怖がって泣く、それは人間しかいないよ」
「…あ、う」
妖怪と目が合う。なんて、優しい顔をしてるんだろう。そういえばこの妖怪をこんなに間近で見たことが無かった。
この妖怪は、おおよそ妖怪らしくもない、子供をあやす母のようだった。
「食べ、ないの…?」
「私は人間が好きだからな。だから、食べない。その代わり、守る」
「……。でも、私なんかを守っても」
「私が、守るのは」
「貴女の、歴史だ」
「!」
歴史。私の道標。生きてきた証。それを、守ってくれる?
「私は歴史を見、そして歴史を守る者。貴女の生きている証を、歴史を、守ろう」
「…私は、不老不死よ。史書は無限に綴られるわ。それでも…守ってくれるの?」
「ああ。何千何万何億年経とうとも貴女の歴史はずっと綴ってみせるよ」
「……じゃあ……ずっと、守ってね……。嘘ついたら、承知しないわよ…」
久々に、1人ではない夜を過ごした。とても、懐かしく。もう無いと思っていた。こうして誰かと過ごすのは―――。
それから、私の生活は少しだけ変化が訪れた。
彼女も里の事があるのでずっと傍に居られないが、毎日私の下に来てくれる。そこまでは別段変わりは無いのだが、
以前と違うことは、彼女がくると嬉しい。という事だ。
「そういえば、名前聞いてなかったわね」
「ああ、そうだったな。結構長い付き合いなのにお互い名前すら知らなかったのだな」
彼女はクスクスと笑う。本当に、この妖怪は妖怪らしくない。
「慧音。上白沢 慧音だ」
「妹紅。藤原 妹紅よ」
望まれない生は終わり告げ、望む死は生へと変わった。
私の生きた証を綴ってくれている者がいるから―――。
人でありながら人で無くなった私は、おなじ人間の者達と住めなくなった。
愛する家族も、友人も、私を知っていた者も私を残して皆死んでしまった。
―――もういい。私は死んでいないだけの無為な存在になってしまった。だから、もう、放って置いて。
構わないで。幾度となく私は彼女を拒絶した。なのに、彼女はいつもと変わらぬ様子で私の下を訪れる。
「お邪魔するよ。今日は邪険な扱いはないんだな…まぁその方が此方としても助かるんだが」
「毎日毎日同じ刻に来て、幾ら拒んでも聞かない奴に疲れただけよ」
「貴女が幾ら拒んでも私は推し通るぞ。私は人間が好きだからな」
「馬鹿馬鹿しい。大体おまえは妖怪でしょう?人間を糧とする妖怪が人間を守るだなんて転地がひっくり返る事態ね」
「そういう妖怪もいるのさ」
とりとめの無い会話。なんだってこの妖怪は私に構ってくるのだろう。人間が好きならば
彼女が守っているという、里の者と戯れていればいい。なのに態々こっちにくる。からかっているのか?
「私は人間ではないよ。それに、おまえに守られる程弱くないよ」
「いいや、貴女は確かに人間―――」
「人間!?何千、何百と姿形からわぬ人間がどこにいる!あらゆる滅手段を行使しても、すぐさま甦る人間がどこにいる!!不老不死の蓬莱人形となった私はもう人間ではない!!……だから、もう構わないで。私はおまえの好きな人間じゃない」
「………貴女は、人形ではない。そして、私は引き下がるつもりは無い。何をされようとも、だ」
何故、そんなにもあっさり言えるのだろう。解らない。解らない。
何故、この妖怪は私を好いてくれるのだろう。解らない―――
「…とりあえず、今日の所は失礼するよ」
「お願いだから、もうこないで…」
「またな」
その日の夜、私は1つの決断をした。
昨日と同じ刻、いつもの様に戸を叩く音がし、そして開けられる。
「お邪魔す…」
「来たのね。来ないで、といったのに」
私は、この妖怪に本気だという事を示した。これ以上構うのなら、殺してしまうぞ。
「本気か?」
「えぇ、本気よ。いい加減おまえとの下らない関係にも飽き飽きした。私はただ放って置いて欲しかっただけ。
おまえが余計なお節介なぞするから、私の平穏は無くなった。だから―――おまえを、殺す」
「そうか…私を殺すか。人間」
「殺すわ。妖怪」
せめてもの情けだ。一瞬にして灰にしてやろう。手を掲げ、全身に炎を纏う。妖怪は棒立ちしたまま私の様子を
見ている。…諦めたか?まぁいい。次で終わりだ。
「さよなら、妖怪。おまえは嫌いだったが、中々に楽しかったよ」
炎が、妖怪を包む。妖怪は悲鳴もあげずに灰になった。あっけない。命とは、こんなに簡単に消えてしまうものか。
本当に、あっけない。私をしつこく構っていた妖怪がいなくなった。次の日から、また何も感じない私の平穏がやってくる―――
「言ったはずだ。私は引き下がるつもりはない、と」
「!?」
どういう事だ?目の前で燃え尽きた妖怪が、事もあろうか私の目の前にたっている。幻術か?いや、そんなはずはない。
確かに、この妖怪は私の炎で燃え尽きた。じゃあ、目の前にいるコイツは…なんなんだ?
「何を…した」
「何もしていないさ。私の力を使っただけ」
「幻術か?ならばそんなまやかし私の炎で」
「貴女の炎は、私が食ったよ」
「…な」
言われて私は違和感を覚える。そうだ…私が纏っていた炎が、ない。力を解除した覚えも無い。
しかもこの妖怪は私の炎を食ったと言う。炎が食える?じゃあ、さっきの出来事も食ったと言うのか?
私は、久しく忘れていたモノが湧き上がってくるのを感じた。
恐怖。
そうだ。
私は、この妖怪が。
―――怖い。
「あ…い…」
「どうした?さっきまでの威勢は何処へいったのだ。私を、殺すのではなかったのか?」
「い…、や…。たす…けて…」
妖怪は、1歩、1歩とにじり寄る。私は、立っていられなくなりズルズルと下がる。
そして、とうとう部屋の隅にまで追い詰められた。
「もう、逃げ場がないな」
「お願い……食べないで…。助けて…怖い、怖いよぉ…」
「不老不死なら食べても甦るんだろう?」
「いやぁ…。痛いのはいやぁ…。助けて…父様…母様…怖いよぉ…」
妖怪が、私の両肩を掴む。私は動けなくなり、目を瞑る。食べられる―――…
「やっぱり、貴女は人間だよ」
妖怪はそう呟いて、
「あっ…?」
身体が包まれる感触。目を開けると、妖怪は私を抱きしめていた。
「妖怪が怖いんだろう?妖怪を怖がって泣く、それは人間しかいないよ」
「…あ、う」
妖怪と目が合う。なんて、優しい顔をしてるんだろう。そういえばこの妖怪をこんなに間近で見たことが無かった。
この妖怪は、おおよそ妖怪らしくもない、子供をあやす母のようだった。
「食べ、ないの…?」
「私は人間が好きだからな。だから、食べない。その代わり、守る」
「……。でも、私なんかを守っても」
「私が、守るのは」
「貴女の、歴史だ」
「!」
歴史。私の道標。生きてきた証。それを、守ってくれる?
「私は歴史を見、そして歴史を守る者。貴女の生きている証を、歴史を、守ろう」
「…私は、不老不死よ。史書は無限に綴られるわ。それでも…守ってくれるの?」
「ああ。何千何万何億年経とうとも貴女の歴史はずっと綴ってみせるよ」
「……じゃあ……ずっと、守ってね……。嘘ついたら、承知しないわよ…」
久々に、1人ではない夜を過ごした。とても、懐かしく。もう無いと思っていた。こうして誰かと過ごすのは―――。
それから、私の生活は少しだけ変化が訪れた。
彼女も里の事があるのでずっと傍に居られないが、毎日私の下に来てくれる。そこまでは別段変わりは無いのだが、
以前と違うことは、彼女がくると嬉しい。という事だ。
「そういえば、名前聞いてなかったわね」
「ああ、そうだったな。結構長い付き合いなのにお互い名前すら知らなかったのだな」
彼女はクスクスと笑う。本当に、この妖怪は妖怪らしくない。
「慧音。上白沢 慧音だ」
「妹紅。藤原 妹紅よ」
望まれない生は終わり告げ、望む死は生へと変わった。
私の生きた証を綴ってくれている者がいるから―――。
それにしてはEXのもこたん通常弾幕が厳しいですな、実は超強いの・・・