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東方紅魔郷裏話
『紅い館の領主様』
Stage 2.5 : A Certain Fairy
湖岸に面する紅魔の門前。
私の仕事場でもあるここは、いつにも増して忙しなかった。
『メイド長が倒れた』
ただそれだけで門前の警備が厳しくなるお屋敷が一体どれほどあるだろうかと思案熟考してみるが、そもそもこの幻想郷においてお屋敷といえば、ウチか幽姫の白玉楼、あるいは稗田のお館くらい。
白玉楼にはもとより従者が一人しかおらず、稗田の館に攻めいろうなんて戯けがあろうはずもないわけで。
結局のところ、メイド長が倒れたゆえに門前警備を強化する余裕と必要性を有するのは、我らが紅魔館を除いて他になかった。
そもそもメイド長というものは屋敷内管理を一手に引き受けることをもっぱらの役目とするわけなのだが、しかしそのメイド長がここ紅魔館においては我らが門番長と並んでその防衛力を二分すると言うのだから、話はそう簡単ではない。
その一翼が倒れた今、あとはもう一方を盛り立てる他ないわけで、まさかお嬢様やお客人を矢面に立たせるなんてわけにはいかず、とにかくそんなわけで私たち門番隊は臨時シフトに大幅改変、普段の実に三倍以上の兵力を門前に常駐させているわけだった。
もっともそれでメイド長の穴を埋められているかと問われれば、私は残像で両面宿儺となるほどに、首を横に振らなきゃならないんだろうが。
……あぁ、しかしそれにしてもだ。
私は満天の星空をねめつけながら、グイグイッと眉の間に力をこめた。
お嬢様のあの態度はいくらなんでもあんまりじゃあないだろうか、と、そんな思いが胸中にあるが故である。
そもそもメイド長が倒れたのは過労のためであり、パチュリー様によれば『何日か安静にしてれば治るわ』とのことだったが、その元凶は当然ながらお嬢様に他ならず、然るにそのことを聞いて彼女が口にしたのは『本当に人間って使えないわね』なんて無体で無情な言葉である。
別に賞賛の嵐にまみれさせろとは言わないが、それでも労いのひとつくらいかけてやったってバチなんぞ当たるまいと、とどのつまりはそんな理由で、私は立腹しているのだった。
大体にしてお嬢様は我が侭すぎる。
今回だって『日光がイヤ』なんて理由で幻想郷を霧で覆ってやろうってんだから傍若無人にも程がある。
しかも『紅魔の館を覆うのよ? 紅を除いて一体何色の霧がその資格を持っているというの?』と来たもんだ。
何色もなにも、白い霧以外に一体なにがあるのかと伺いたいところだが、紅魔の主の言葉は絶対。
結局、忠誠心の塊のようなメイド長は、そんな主の我が侭を叶えるべく東へ西へと奔走したのである。
そしてその結果過労でぶっ倒れ、主に無体な言葉を浴びせられるというのだから、まったくもって浮かばれない。
とにかくそんなわけだったから、私はメイド長にだけは決してなるまいと、改めて心に誓うのだった。
……まぁもっとも、私ごときがなれるほどメイド長も甘いもんじゃないわけなのだが。
と、そんな益体もないことをボケーッと考えているのがいけなかった。
「こぉら」
怒気の欠片もない声とともに、チョップが後頭部へと襲い来る。
慌てて振り向けば、そこには困ったような顔をした門番長がいた。
「職務中よ。ボーっとしてちゃダメでしょう?」
「す、すいません……」
幼子を叱り付けるように言う門番長に、私は慌てて頭を下げる。
門番長はやれやれといった風にため息をつき、そしてこう尋ねてきた。
「どうしたの? 何か悩みでもある?」
気を使う程度の能力。
もちろん本来の意味とは違うわけだが、しかしこっちが本当じゃないかと、私はじめ門番隊諸氏はそれを信じて疑わない。
門番長はその能力ゆえに門番隊の多大なる信頼を獲得しており、館内メイド隊などは『お姉さんと子供隊』なんて言って私たちのことを揶揄するほどである。
ちなみに、私たちは館内メイド隊を『お姉様と下僕隊』と呼んでいるが、『お姉様』が誰を指すのかなんて、そんなことは言うまでもない。
閑話休題。
ともあれそんな門番長だったから、部下の悩みには目ざとく反応し、しかもそれが解決しない限り、執拗に部下を追い回すというおせっかいここに極まれりな行動を起こすわけだった。
時折そのしつこさは門番長を困ったちゃんと認識させてくれるわけだが、しかしパチュリー様の『ちょっと過保護じゃないかしら?』という言葉に『それでも私の大事な部下たちですから』と照れもせずに即答する門番長に、私たちは感謝感激感涙するのだ。
さて、とにかくそういったわけで、私は門番長への抵抗を早々に諦め、そもそも抵抗する必要もないわけだが、悩み、というか、今現在私が抱えている不平不満をぶち上げた。
門番長は最初ふんふんと頷いていたが、次第にははぁ、なんて顔になり、私が全てを吐露し終えた頃には、またやれやれといった表情になっていた。
なんだろう、私何かおかしなこと言った?
不可思議な顔を浮かべる私に、門番長は、
「まぁ、気持ちは分からないでもないけどね……」
と言い、そして
「でもきっと、咲夜さんはそう思ってないわよ」
と、また奇怪なことをのたまった。
そう思ってない?
無理難題をふっかけられ、それに対して労いどころか罵声を浴びせる、そんな主人に不満を持っていないと?
どういうこと?
メイド長は聖人君子か、でなけりゃ特殊な性癖の持ち主ですか?
ぐるぐる回るクエスチョンに、私は思わず頭を抱えた。
その様子がおかしいのか、門番長はクスクスと笑っている。
その笑顔は好きですが、ちょっと酷いですよ門番長。
「ごめんごめん。でもどう言えばいいかしら……」
門番長は苦笑いで謝罪しつつ、そして私に説明する言葉を探し始める。
その顔はこの上なく楽しげで、私はこれまで見たことのないその極上の笑顔に思わず我を忘れかけた。
もういっそ同性でもいいやなんて思ったくらいだ。
危険だ。門番長の笑顔は危険すぎる。
「……どうしたの?」
「ひぁう!?」
唐突な呼びかけに、私は思わず素っ頓狂な声をあげる。
気が付けば、門番長は先とうって変わって心配そうな表情で、私の顔を覗き込んでいた。
「ななな、なんでもないですっ! はい! まったく!」
「そ、そう……?」
勢い込む私に圧されたのか、まさにタジタジという擬音がぴったしな様子で後ろへと引く門番長だが、まさか『門番長を襲う算段を練ってました』とは言えない。
私はこの上なくノーマルだ、うん。
門番長は少しばかり怪訝な表情を浮かべていたが、どうやら気を取り戻してくれたようで、またぞろ言葉を探し始めた。
またさっきのほんわかとした笑顔を浮かばせる門番長。
しかし今度はそれに魅せられることはなかった。
耐性が付いたわけじゃない。
それを打ち破るような警告が辺り一帯に響いたからだ。
「敵襲ーっ! 敵襲ーっ!」
斥候に出ていた第六小隊がけたたましく声を張り上げながら飛んでくる。
その声に誘起されるように、門番長の顔が険しくなった。
Stage 3 : Hong Meiling
「第六小隊は任務を斥候から遊撃に切り替え! 正面からは当たらず、敵をスポットBに誘導して! 第一、第二小隊は私と一緒にスポットBに急行、しかる後に敵を撃破! 第三から第五小隊は門前警戒を厳に! 第七以降は甲種警戒態勢で待機!」
門番長の険しい声が飛ぶ。
それぞれが指示に従って慌しく動き回り、そして痛いほどの緊張が門番隊全てを襲っていた。
ここ、紅魔の館の当主様は、齢五百を数える吸血鬼。
およそチンピラ程度の妖怪が相対するには畏れ多い方であり、そういったわけで、そんなチンピラ程度の妖怪がここを襲撃してくるなんてことはほとんどない。
となれば、襲いくるのは往々にして手練以上の魑魅魍魎であり、そんな連中の相手ができるのは門番隊では門番長一人。
さすがに私たちも訓練はされており、足を引っ張るようなことはないが、しかし役に立っているかは甚だ疑問。
加えて今現在は館内防衛力が決定的に手薄であるという事実があり、これで楽天的になれるというなら、そいつはきっと直径十キロほどの太さの神経を持つか、あるいは一ミクロンほども神経を持たないに違いない。
そして私もそんな例外に含まれることなく、ビキビキと引きつる体中の筋肉を無理矢理動かしている次第であった。
と、そんなガチガチになっている私に気づいたのか、
「大丈夫。いつもどおり、演習どおりやればいいの。緊張してたら出てくる結果も出てこないわ」
門番長はポムッと私の頭に手を置き、そう優しく言ってくれた。
「だ、大丈夫ですよ。き、緊張なんてしてませんから」
そう必死に言い繕うが、しかし震える声で言ってるんじゃ説得力の欠片もないわけで、ホント、我ながら情けないことこの上ない。
門番長はそんな私にもう一度にっこりと笑いかけてから離れると、出撃部隊を一瞥し、そして声高らかに
「門番隊、出るわよ!」
宣言した。
湖上に飛び交う激しい弾幕。
お札に針に、なんやらかんやら。
そんな激しい弾幕に、先行していた第六小隊は次々と墜とされていった。
弾幕ルールがあるから死ぬなんてことはほとんどないが、しかしやっぱり見ていて気持ちのいいものじゃあない。
目の前の情景に対して私はといえば、今頃救護隊は大忙しだろうなんて、そんな益体のないことを考える。
あ~、分かってる分かってる。
そんな現実逃避してる場合じゃないって分かってる。
でも人間、辛い現実に真っ向から立ち向かうよりは、いい具合に躱していったほうが長生きできるってもんである。
そもそも人間じゃないなんてツッコミは聞かない。
そんな話は所詮瑣末だ。
重要なのはただ一点。
『人間ってのは本当に妖怪や妖精よりも格下なのか?』
それのみである。
そう思えて仕方のない光景が、今、私の眼前で展開されていた。
正直、絶句した。
妖怪どころか私たち妖精よりも短命で、何の力もないはずの人間が、何故か知らないが空を飛び、第六小隊を蹴散らしているのである。
しかもたった一人で。
まだ人間が大挙してきたというなら分かるが、一体この紅白二色の人間は何を考えて単身乗り込んできたのだろう。
「博麗の巫女……か。面倒なのが出てきたわね」
「博麗? 巫女なんですか、アレ?」
門番長の呟きに、私はもう一度紅白二色をねめつける。
大きく開いた、というかカットされた肩口に、質素とかけ離れたド派手な衣装。
あえて巫女さんぽいところを挙げろと言われれば、それこそ紅白というオメデタイカラー以外に言いようもなく。
彼女を巫女と思うか問えば、きっと幻想郷の九割八分五厘くらいが首を横に振るに違いない。
然るに門番長はアレを巫女と言うわけである。
しかも『博麗の』なんて修飾語付きで。
ならば、こう問わずにはいられまい。
「知ってるんですか? 博麗……でしたっけ? その……巫女?」
「今代の彼女は知らないけどね。彼女の祖母か、曾祖母か、はたまたもっと上の方か。それくらいの巫女とはやりあったことがあるのよ」
「今代?」
「博麗は代々、幻想郷とその秩序の守護を生業とするわ。むしろ神事よりもそっちを本職にしてるんじゃないかしら」
門番長は少しばかり呆れたように、そう私に説明してくれた。
でもそれってホントに巫女なんだろうかと、そんな疑問を抱かずにはいられないが……。
さて、そんなことを考えていると、
「ともあれそんな博麗が出張ってきた。まぁ、こんな霧を出せば当然かもしれないけど」
門番長はそう溜息混じりに呟いて、
「全小隊、下がりなさい」
そんな驚愕的な事をのたまった。
「な、何言ってるんですか門番長! 作戦は!?」
いきなりの発言に私は慌てて具申(?)するが、しかし門番長は涼しい顔で、更にこうのたまうのだ。
「博麗の巫女相手じゃ、門番隊じゃ勝てない。いたずらに吹っかけたって怪我するだけよ」
と。
確かにそれは第六小隊の有様を見れば分かる。多勢に無勢、しかし不利に陥っているのは多勢の方だ。
いや、いっそ不利という言葉すらおこがましい。弾幕ルールがなかったら、こいつはただの虐殺行為。
そんな小隊が二つ分になったからといって『戦局変わるかも』と思えるほど、私は気楽なのーみそ持ってない。
しかし館内警備が手薄になってることもまた事実であって、撃退できないまでも疲弊させる必要があるのではと、私なんかは思うわけである。
と、
「私が行くわ」
門番長がそう静かに言い放った。
「……門番長が?」
「博麗にかろうじて対抗できるとすれば私くらいだもの。必然でしょ」
当然はもうとっくに超えてるらしい。
いや、そりゃ見れば分かるけど……。
「それに私は門番の長よ。紅魔の館の門を守る、その最高責任者。私にはこの身を挺してでもこの場所を守る義務がある」
そう言いながら、険しい表情で紅白を睥睨する門番長。
その顔にはある種の決意すら感じられて、私は何だか嫌な気分になった。
それに感付いたのか、門番長はまたぞろニパッとした笑顔を浮かべて、
「だ~いじょうぶ。私だって簡単に負けるつもりはないわ。痛いのが気持ちいいなんて、そんな趣味ないものね」
なんておちゃらけた風に言った。
きっと私を不安させるまいとしての発言だと思う。
さすが気を使う程度の能力、半端じゃない。
……でも……でも、門番長?
それ、逆効果ですよ。
「……でも、もしものときは咲夜さんに連絡、『背水の陣』を敷きなさい」
……だから、そんなこと言わないでくださいよ。
『背水の陣』
それは門番隊、そして紅魔館全兵力による、退路を絶った最終防衛陣。
門番隊を館内メイド隊に合流させ、メイド長の指揮の下、敵を撃破するという、そんな一か八かの大博打だった。
まさに最後の手段であり、これを敷く権限をもつのが門番長とメイド長のお二方のみという事実からも、濫用してはならないということが窺い知れるわけではあるが、しかし私たち門番隊はまた別の意味で、この方策を嫌悪していた。
ありえない話であるが、もしメイド長がこれをポンポンと発動させるような人間だったら、きっと私たち門番隊は館内メイド隊相手に一戦交えていたに違いない。
そもそもこの『背水の陣』、門番隊全兵力を館内メイド隊に合流させるのが前提となるわけだが、それには当然、相応の時間が必要であり、そしてもちろんその間の時間稼ぎをしなければならないわけである。
そしてこの陣が必要になるような強敵が現れるとなれば、当然その囮は門番長以外にないわけで、とどのつまりが背水の陣とは、大博打である以上に門番長の身を危険に晒す、そんな愚策であるわけだった。
だから、だからきっと、そんな愚策を実行せんとしている私たちは稀代の愚者に違いない。
そして、そんなものを発動させた門番長は究極の愚者に違いない。
そう。
だからこそ、私は一つ、心に誓った。
門番長が無事に戻ってきたら、そのときは心の底から非難してやろうと。
Stage 4 : Patchouli Knowledge
「門番長より下命! 『背水の陣』を敷け! 繰り返す! 『背水の陣』を敷け!」
響き渡る号令に、門前、そして紅魔館全体が慌しくざわめき立つ。
館を守護する兵卒たちは皆、緊張と戸惑いをその顔に湛えていた。
『背水の陣』が意味するところを、知らないものなど一人もいない。
だからこそ、それほどまでの陣を必要とする敵が一体全体何者なのかと私に尋ねてくる者も少なくなく、しかし一刻も早くメイド長に報告せしめんとする私はそんな輩を一切無視し、ただただメイド長の元へと急いでいた。
「ちょっとあなた」
もう幾度目かもしれない、私を呼び止め尋ねる声。
「これは一体どういう状況? 外で何が起こっているの?」
彼女は無視されてもしつこく食い下がるが、しかしそんな応対をわざわざしている暇があろうはずもない。
私はそちらを一瞥もせずに、ただ全力で先へ先へと急いでいた。
「ちょ……! 待ちなさい!」
口調に苛立ちの色が混じってくる。
ここまで食い下がるのもまた珍しいことだが、しかし今現在は緊急時。
悠長にやってる余裕はなく、正直うっとうしいことこの上ない。
いっそ一喝してやればまとわり付いてこなくなるだろうかと、私は振り向きざま息を溜め、大声で
「プリンセスウンディネ」
「ぎゃああああぁっ!?」
絶叫していた。
『何で?』と思うより前に、口に、鼻に水が流れ込んでくるんだから、いやはやたまったもんじゃない……って、いやいやそんな悠長な解説してる場合じゃない……ってだからマズイってコレ、ホントに溺れるいやマジでえええぇぇぇぇ……!
……と、そんな意識が掻き消えるか消えないかの刹那、押し寄せていた津波の如き激流がきれいさっぱり掻き消える。
ゲホゲホと咳き込みつつ酸素を取り込まんとする私の前に現れたのは、動かないはずの大図書館、パチュリー=ノーレッジその人だった。
「パ、パチュリー様?」
「まったく。人の話くらい聞きなさい」
どうやらこの人が犯人のようであったようで、パチュリー様は呆れたような、むっきゅりとした目で私のことを睨んでいた。
……まぁ確かに、相手はお嬢様のご友人。
一門番の立場からして非礼であったのは確かであるが、それでも鉄砲水で押し流すのはやりすぎだと思いますパチュリー様。
「まぁ、これもスキンシップというものよ」
「いやいやいやいや、スキン関係ありませんから」
「それよりこれはどういう状況? 一体何が起こっているの?」
私の不平すらきれいさっぱり流してくれて、パチュリー様はそんなことを尋ねてきた。
まぁ、これ以上言ってもきっと聞いてくれないんだろうなと私は諦念し、
「えーと……侵入者……ですか? なんかそんなのが来たような……来ないような……」
せめてもの報復に渋々といった感をこれでもかというほどに漂わせつつ、判然としない物言いで報告してやった。
これまたどうせ『そう。読書の邪魔だけはしないでね』と引き上げていくんだろうなんて考えからの物言いでもあるのだが、しかしながらパチュリー様は渋い表情を湛えつつ、
「侵入者……。やっぱり博麗の巫女が来たのね」
なんてことをのたまった。
「パチュリー様!? 何で知ってるんですか!? というか『やっぱり』って!?」
果たして、度肝を抜かれたのは私の方だ。
いかに百年生きているとはいえ、百年そのまま引きこもり。
今日の天気を知っているかすらも危うい彼女が、私ですら初めて知った事象を言い当て、挙句『やっぱり』と意味ありげにのたまうのだから、まさに驚天動地の驚きである。
「何よその顔。別段、そこまで驚くような話じゃないわ。私も美鈴と同じ。かつての博麗とやりあったことがあるだけよ」
そんな私の反応を不愉快に思ったのか、パチュリー様は大層つまらなそうにじっとりと私をねめつけ、事も無げにそう仰る。
しかし私はといえば、これにも吃驚仰天していた。
何故かって?
だって考えてもみて欲しい。
彼女は『動かないといえば大図書館、大図書館といえばパチュリー様』と言われるほどのお方である。
出不精のお肉はすべて乳に行くとまで謳われたあのパチュリー様が自らの手で誰かしらと争っただなんて、さて一体どこのどいつが信じようなんて思うのか。
「余計なお世話よ」
「むきゅ」
どうやらいつのまにか声が出ていたらしい。
気が付けば、レイジィトリリトン(エコノミー)が私のドタマに直撃していた。
ものっそ痛い。
しかしパチュリー様はそんな哀れな私に慰めの言葉をかけるでもなく、というかドタマに叩きつけてくれた張本人であるわけで、もちろん謝罪なんてするはずもなく、ある意味必然ではあるのだが、とにかくさらっとすぱっとステキに無視してさっさと話を進めていった。
「で? 今はどういう状況?」
「いや、だから侵入者がですね……」
私はくわんくわんする頭を押さえつつ、再び先の報告を繰り返し……
「そうじゃない。この慌しさは何と聞いてるの。美鈴はどうしたの?」
「……門番長……?」
と、そこでようやっと重大な事実を思い出した。
「そそそそそうだった! 私バカこんなんしてる場合じゃなくってだから何でこんなこといやそれよりも早くメイド長にだから背水の陣敷いて早く……」
「プリンセスウンディネ」
「ぎゃああああぁっ!?」
何故だろう、本日二度目の大洪水。
いっそ散ってしまったほうが楽なんじゃないかと思えるほどの理不尽である。
私はまたも咳き込みつつ、今度はむっきゅり目をした犯人に険しい視線を投げつけた。
「何するんですかっ!?」
私のこれでもかというほどに憤慨をぶつけてみせるが、しかしパチュリー様は涼しい顔して、
「まだ頭が冷めてないみたいね。もう一発逝っておく?」
なんて、剣呑な言葉を吐き出した。
おかげさまで頭に上った血液が一気に踝付近まで落ちていったが、今度は押し流された衝撃と疲労でぶっ倒れそうな勢いだ。
「というか、頭冷やすためにプリンセスウンディネってやりすぎじゃありませんか?」
「刺激的でしょ?」
そんな生死を賭けた刺激はいらない。
「それに、私をぞんざいに扱った罰も兼ねてるもの」
甘い罰など罰ではないわ、と、これまた無感動な物言いで言うパチュリー様。
さすがは悪魔のご友人、その所業もまた洒落にならない、が、
「さて、それより時間も無さそうなことだし、そろそろ話をしてくれるかしら? 嘘偽りなく、正確に、ね」
すみません、反省してますからその無表情な微笑みで迫ってくるのはやめてください。
ぶっちゃけ怖すぎますです、はい。
そんなわけで私は自分の弱さを痛感しつつ、また押し流されないよう細心の注意を払いながら、正確に、そして簡潔に事の次第を説明した。
パチュリー様はその説明に、
「まぁ、美鈴ならそうするでしょうね」
なんてのたまい、しかし、
「でも正気? 咲夜はあくまで人間よ。過労とはいえ、今動かせば死んだっておかしくないわ」
と、そんな無体なことを仰った。
「し、しかし門番長の指示ですし、守りを固めなきゃならないのも確かです。それにメイド長なら……」
「大丈夫って? それこそ楽観というものだわ。確かにあの子を人間と言うのはちょっとばかり抵抗があるけれど、でもそれはあくまで主観論。医学的、生物学的には、あの子は間違いなく人間のか弱い小娘なのよ」
私の抗弁に、しかし何を今更と言った風情で言うパチュリー様。
確かに……それは確かに分かっている。
私の中のもう一人の私がそれを思いっきり否定してみせているが、しかし結局のところメイド長は人間で、元来妖怪や妖精ほどに丈夫な形をしていない。
能力や攻撃力こそ桁外れているが、こと体力に限って言えば、文字通り『人並み』なのだ。
だから、できるならば私だって、メイド長に無理なんかしてほしくはない。
しかし事態が事態である。
門番長が囮になってまで、『背水の陣』を敷こうとしているのだ。
全兵力を集結させるとはいえ、妖精だけでは烏合の衆。
彼女がいて初めて『背水の陣』は完成する。
だから、
「しかしメイド長にはこの館を守る義務があります」
私はそう、パチュリー様に進言した。
パチュリー様はその言葉に、すぅっとその両眼を細める。
あぁ、また怒りを買ってしまったか。
でも知ったことか。
私は事実を言ったまでだ。
その上で叱責されると言うなら、私は本日三度目の水荒行を甘んじて受けてやる。
そう意気込んで、私はぎゅっと目をつぶり、鼻をぐいっとつまんでみせた。
待つ事数瞬。
しかし予期していたはずの水流はいつまでたっても襲って来ず、恐る恐る両の目を開けてみれば、そこにはむっきゅりとした知識人の顔があった。
「そう、そうね。確かにそう。あの子はメイド長だもの。この館を、レミィを守る義務がある」
パチュリー様はグリモワールを開くでもなく、への字をしたその口からブチブチとただ呟くのみ。
その様に、私はいささか不謹慎ながら、しかしホッと胸を撫で下ろした。
なんだ、とっつきにくいとは思ったが、ちゃんと話せば分かってくれる方じゃないか、と。
ならば善は急げ。
失った時間を取り戻すためにも早々にメイド長にご報告せねば、と、そう思って振り返ったところで
「待ちなさい」
またもパチュリー様の止めが入った。
……こんの日陰の引きこもりは……。
内心にイライラを抱えながら、しかし私はその口からスペルが発せられるのを恐れ、能面のような顔を浮かべて彼女の方へと振り返る。
「なんですか?」
極力感情を抑えて問いかける私。
しかし私を呼び止めた彼女はそれに即答することなく、口を開けては、しかし物言わずにうつむくようなことを繰り返していた。
何なんだ、ホントにもう……。
それは、あるいはほんのわずかな時間だったのかもしれないが、しかし刹那の時間でさえ惜しい私には悠久の時の如くにすら思えた。
そして、『言いたいことまとめてから呼び止めてくださいよ』、そんな荒行確定の言葉が思わず口から飛び出そうになった頃、彼女はようやっと、意を決したように口を開いたのだった。
「忙しいところ悪いのだけど、私の方に何人かメイドを回してくれないかしら」
「…………は?」
……って、ちょっと待て。
彼女はそんなことで私を呼び止めたというのか?
私の中のイライラが、グツグツという音に変化する。
そもそも、彼女はお嬢様のお客人であるわけで、いかに背水の陣を敷くとはいえ、その警護をゼロにするなんてことはありえない。
いやまぁ、それを彼女は知らないのかもしれないし、あるいは本当に、忙しい中人材を割くことに少々良心が痛んでいるのかもしれないが。
しかし、これでもかというほど急いでいる私の様というものを、彼女はノミの触覚の先っちょ程度にも理解できないというのだろうか。
「大丈夫ですよ。図書館には二小隊が付くはずです。パチュリー様は必ずお守りしますよ」
私は手短にそれだけ告げると、それ以上問答することも無く、さっさかと踵を返す。
あぁもう、呼吸をする暇すら惜しい。
もう呼び止められたって知るものか。
押し流したけりゃ流すがいい。
いっそ加速されていいかもしれない。
半ば自暴自棄になりながら、私はそんな風に思っていたのだが、
「そう。じゃ、その二小隊に、巫女を図書館に誘導するよう伝えて頂戴」
パチュリー様のそんな台詞に、私は三度振り返ってしまった。
「…………は?」
今度の『…………は?』はさっきとは違う。
言ってしまえば、放心に近い。
えーと、彼女は今何を言った?
『巫女を図書館に連れて来い』と、つまりはそう仰いましたか?
馬鹿な。
そんなことをすればどうなるかなんて、想像に難くない。
彼女に危険が及ぶことはもとより、パチュリー様がパチュリー様たる所以の大図書館、幾千万にも登るグリモワールが、それこそ目も当てられない状況になるだろう。
いくらなんでも幻聴だろうと、私はそんな風に思ったわけなのだが、しかしパチュリー様はといえば、
「あそこには自動迎撃できるグリモワールもあるし、あの子もいる。あそこは私のホームだもの。そう簡単には負けないわ」
なんて、何故かやる気満々だった。
「ちょ……! 一体何を言ってるんですか! 大体何でパチュリー様がそんなこと……!」
私は慌てて抗弁するが、しかしパチュリー様は涼しい顔で、
「何で? 不思議なことを言うのね、あなた。親友を守るのに、何か理由が必要なの?」
と、そう、仰った。
「傍若無人で意地っ張り、いばりんぼで小生意気。ホントどうしようもない奴だけど、それでも私の親友なのよ、あのスカーレットの当主様は。そんな彼女を守りたいと、私が思ってはいけないのかしら?」
……間抜けなことこの上ない。そんなことは分かってる。
でも、なんというか、言葉がまったく出なかった。
正直に言えば、私の耳には彼女の言葉が、特に奇怪なものとして聞こえていた。
そもそも悪魔や妖怪、そして魔法使いなんてものは徹底して個人主義を貫くものである。
もちろん一部の例外はあるものの、普段の、クールというか冷徹というか無感動というか、ともあれそんな典型的な魔法使いであるパチュリー=ノーレッジを知っている者からすれば、それは天変地異の前触れかとすら思える、そんな発言であったのだ。
しかし、一方で私の脳みそはといえば、それを至極当然のものとして認識していた。
むしろそんな顔で『レミィなんて知ったこっちゃないわ』と言われていたなら、私の中のCPUはハングアップしていたに違いない。
そう思わせるほどに、彼女を語るパチュリー様は、優しく暖かな表情を浮かべていた。
「ま、まぁ、もしレミィがやられちゃったら、図書館の書物そろえるのにも一苦労だものね」
と、私の生暖かい視線に気付いたか、パチュリー様はほんのりと頬を桃に染め、言い訳がましくそう付け足したが、しかしまったく逆効果。
あぁ、萌え死にそうです、パチュリー様。
私に時を止める能力が無いのが悔やまれますわ、と、ちょっとばかりメイド長がうらやましくなったが……しかしやっぱりその扱いを考えれば、君子危うきに近寄らず、といったところか。
「ともあれ急いで頂戴。いくら美鈴とはいえ、博麗相手にどこまでやれるか分からないわ。あなたはあなたのなすべきことを。私は、私のなすべきことを。……いいわね」
グリモワールを持つその手にグッと力を込め、決意に満ち満ちた口調で言うパチュリー様。
本来守られるべきお嬢様のご友人にここまで言われてそれを否定できるほど、私は無粋でもなければ無神経でもない。
だからこそ、私の答えるべき言葉なんてのは、最初から決まっていたわけで、私はその場に跪くと、最上の礼をもって、
「パチュリー様の仰せの通りに」
と、そう申し上げるのだった。
Stage 5 : Sakuya Izayoi
パチュリー様の指示を小隊に伝達してから四半刻。
全力などとうに越えてる疾走で、走って飛んで、ようやっと私はこの部屋へと辿り着いていた。
侵入者防止とお嬢様の見栄のために肥大化した屋敷内空間は、きっちりざっくりすっぱりと、私の体力を削っており、私は肩で息をしながら、そのドアへとすがりつく。
この騒動が終わったら館内空間の見直しを進言しようと心に決める私だったが、しかしここで驚愕の事実に、私は唖然とすることになった。
「ドア……開かない……」
ゼイゼイという音にまぎれて、そんな言葉がポツリと漏れる。
私の手が触れるドアノブは、ほんのわずかにすら動こうとはしなかったのだ。
とは言っても、鍵がかかっているだとか、そういった話じゃない。
そもそも鍵がかかっているか否かすら判別できないというんだから、不甲斐ないにも程がある。
情けないことに、乳酸漬けの我が両腕は、もはやピクリとも動こうとせず、『ドアノブをまわす』、ただそれだけの単純作業すら行うことを拒否していた。
「ちょ……動いてよ……お願いだから……」
叱咤激励してみるが、私の肩から突き出た棒はただただ軋みを上げるばかりで、本来の機能を果たそうとはせず、そして更に悪いことに、そんなあまりな現実に、私を支える両足も徐々に脱力していくのだった。
何とかお腹に力を込めて踏ん張ろうと試みるが、それでも私の身体はずりずりずりと落ちていき、まるでお尻が磁石と化したかのように、冷たい床へと張り付いた。
……不甲斐ない。不甲斐なくって涙が出てくる。
『門番長……ごめんなさい……』と、そんな言葉が私の口をついて出た。
当然ながら、そんな言葉が門番長に届くわけも無い。
あくまでそれは、益体も無い、そんな単なる独り言であった。
が、何故だろう。
そんな私の声に呼応するように、進路を遮っていたはずの憎き木製の障壁は、音も立てずに掻き消えた。
「ふぎゅ」
不意の出来事に、扉に預けていた私の身体は部屋の床へとダイブする。
……痛い。
まさかここへきて、床にキスするなんて思わなかった。
しかし、その痛みでこの奇怪なる現象がまごうことなき現実であることを認識できたのも事実である。
まぁ、種を知ってしまえばしょうもない。
ただただ単にメイド長が、時間を止めて扉を開けただけの話なのだが。
「えーと……。何をしているのかしら、っていうツッコミはいる?」
いえ結構です、メイド長。
私はもはや起き上がる気力を振り絞ることすらできず、ごろりと転がって仰向けになる。
非礼は重々承知の上だが、いかんせん、(主に味方の所業をもって)満身創痍のこの身であれば、そのあたりはご容赦願いたいと、切に願う次第であった。
断っておくが、決してメイド長の秘密の花園を覗いてやろうなんて、不埒でよこしまな考えは持っていない。
ホントだってば。
さて、そんなメイド長はといえば、既にいつものミニスカルック。
はて、過労で寝ていたはずでは、と思い、なるほど、と、今さっき時を止めていたことに合点する。
しかし本当に大丈夫なんだろうかと思ったのも事実であって、未だ優れないその顔色に、私は酷く懸念した。
と、そんな私に気付いたか、メイド長は
「大丈夫……とは言わないけど、こんな騒ぎの中で悠長に寝ていられるほど図太くは無いわ。というか、今のあなたよりははるかにマシよ」
と、そんなことをのたまった。
いやはや、ごもっともで。
私はそんな軽口を叩くメイド長にほんのちょっぴり安心し、そしてようやっと落ち着いてきた小さな胸に思いっきり呼気を吸い込むと、ずっと押し留めていたこの言葉を思いっきり吐き出すのだった。
「メイド長、先ほど門番長から『背水の陣』が発令されました。全隊の指揮を、お願いします」
その言葉に、十六夜咲夜がしばしの間、沈黙する。そのとき彼女は小娘となり、その顔に張り付いた表情は、私の胸をグイグイと締め付けた。
メイド長は黙して語らず、門番長もああいった性格であるからして、詳しい話を聞いたことはないが、しかし傍から見ても、二人が気の置けない同士であることは、極めて容易に理解できた。
友人どころか姉妹、時には親子とすら思える二人の関係、その一方が危機的状況にあると知った彼女の気持ちは想像に難くない。
もし私が彼女と同じ立場にあり、彼女と同じ能力を持っていたとしたら、たとえ門番長の思いを無駄にすると分かっていても、きっと門前へすっ飛んでいったことだろう。
だから、
「現状を、報告して頂戴」
そう、冷静に『メイド長としての己』を立て直したメイド長に、私は尊敬と、ほんのちょっとだけ、反発という感情を覚えるのだった。
「……人間が……? たった一人で……? 美鈴を……?」
私の報告を聞き終えたメイド長の顔に、今度は呆然とした表情が浮かぶ。
無理もない。
自らと同じく、紅魔の館、その守りの双璧をなす門番長が、ただの……かどうかは知らないが、人間、それもたった一人に、その……やられたのである。
いかに弾幕戦を不得手とする門番長とはいえ、普通だったらありえない。
そのことは、私以上にメイド長が理解していたわけで、絶句するのも当然といえよう。
余談だが、メイド長は『博麗の巫女』をご存じなかった。
まぁ、門番長やパチュリー様も、先代以前の博麗とやりあったのだそうだし、同じ人間のサイクルにいるメイド長がご存じないというのは当然のことかもしれないが。
それでもちょっぴり安心したのは、やっぱり少しばかり不謹慎だっただろうか。
数瞬の間、唖然としていたメイド長。
しかし、それでもさすがというのだろうか、気を取り直すのもまた早かった。
「メイド第三、第四小隊と門番第七小隊を標的進路上に展開。真っ向から当たらず、中央棟A回廊に誘導して。残り全隊は中央A回廊に結集後、標的進行方向に門番隊全残存兵力、進行方向側面にメイド小隊を配置。前側面一斉攻撃に備えなさい」
私の認識ギリギリのスピードで、ポンポンと指示を飛ばすメイド長。
ただでさえ混乱的なこの現状、しかも信を置く友人の状況を知った上で、それでもなお的確な指示をする彼女に、私は改めて尊敬の念を抱く。
しかし一点だけ、どうしても理解できない命令が耳に残った、それもまた事実であった。
「中央A回廊って……お嬢様の居室前でやるっていうんですか?」
「当然でしょう。それがどうかした?」
いやいやいやいや、だから『どうかした?』とかじゃなくって。
「だって、万一破られたら、お嬢様はすぐ目の前じゃないですか。それ考えたら他でやりあった方が……」
安全、と言いかけて、私は思わず口をつぐんだ。
情けないとか言ってる奴、出来るのならばやってみろ。
メイド長に『お前は何を言っているんだ』と言わんばかりの冷たい視線を投げかけられて、それでも尚且つ言えるのならば。
とゆーか私、そんなにおかしいこと言った?
メイド長は途端に慌てる私を見やり、一つ大きなため息をつくと、まるで子供に言い聞かせるように、ゆっくりとその旨話し始めた。
「いい? お嬢様の居室とまったく別の場所に陣を敷いて、もし標的の誘導に失敗したとしたら、どうなるかなんて簡単に分かるでしょう。それともあなたは私たちを、侵入者を主のもとに素通りさせた、そんな愚かな集団に仕立て上げたいというのかしら?」
ああぁ、怒ってる。
メイド長、ものっそ怒ってる。
顔には笑顔こそ浮かべてはいるが、その背後に『この忙しいのにくだらねぇこと言ってんじゃねぇよ』という文字がはっきりと読み取れるほど、これでもかってくらいに怒ってる。
いや、確かにそう言われれば、うん、そうだなって思うんですよ?
でも、それでもやっぱり万が一ってことがあるわけですし……。
「万が一? 馬鹿なことを言わないで頂戴。私たちはお嬢様、レミリア=スカーレットに仕えるメイドに門番。そして私はその長なのよ。お嬢様への忠誠と自らのプライドにかけて、例え命が尽きようとも、侵入者を通しはしない」
否定されてなお、すがりつくような私の抗弁。
しかしそれすらもメイド長は、強い口調で一蹴した。
その決意たるや、万が一どころか億が一にも、アレがお嬢様の元に辿り着くなどありえない、そう思わせるに十分なものであり、だからこそ、私はそれ以上抗弁するのをやめ、メイド長の命を伝達するために疲弊した身体に鞭打つのだった。
……ただ……そう、ただこれだけは、聞いてもいいですよね、メイド長?
「なんで、そこまでお嬢様のために尽くすんですか?」
普段ならナイフの五本や十本覚悟しなければならないような台詞。
しかしそれは今、驚くほど滑らかに、私の口から生まれ出る。
対してメイド長も、どこぞからナイフを取り出すこともなく、その土気色に化した顔に、しかし満面の笑みを貼り付けて、こう、私に答えるのだった。
「それこそ愚問というものだわ。この名を与えられてより、この身はお嬢様のもの。私の命は、ただお嬢様のためにのみあるのよ」
Stage 6 : Remilia Scarlet
結論を言えば、ここ紅魔館きってのスイーパーですら博麗を排除することは出来なかった。
メイド長が本調子でなかったうえ、やはりアレの力は絶大で、あるいはそれも当然の帰結と言えるものであったが、しかしそれでもなお、その身をもってして彼女を足止めしようとするメイド長の姿を見れば、尊敬の念を抱きこそすれ、嗤うことなどできなかった。
背水の陣が破られた今、お嬢様はもう目の前。
こうなればもう、私のとるべき選択肢はただ一つ。
お嬢様をどこかへ逃がし、捨て身のメイド長すら無慈悲に屠るであろう紅白の巫女を、この身をもって止めること、それのみである。
相手はあれほどのお歴々を退けてきた化け物であるから、私ごときでは三秒もつかも疑問であるが、それでもお嬢様の逃げる時間くらい稼がなくては、身を賭してきた皆々様に申し訳ない。
私はそう意を決すると、目の前に現れた扉を破らんばかりに押し開いた。
「お嬢様! 賊です! お逃げくださ……!」
目いっぱいに声を張り上げ言う私。
しかし全てを言い終える前に、その声はぷっつりと途切れてしまった。
「……お嬢……様……?」
広い室内をぐるりと見渡すが、しかし私の守るべきお方の姿は、その銀糸の髪一筋すらお見受けすることは出来なかった。
はて、もう脱出されたのかしらん、と、そんな考えが私ののーみそを巡っていくが、そこでようやっと、屋上へと続く扉が開いていることに気が付いた。
「上……かな?」
ふと見れば、窓の外では真っ赤な月がその夜空を飾っていた。
お嬢様のことだ。
もしかしたらこの妖月にお月見と洒落込んでいるのかもしれない。
この緊急時にお気楽なものだと、いささかばかり不快の念を覚えるが、今はそんなことを言っている場合でもない。
私は足早に紅の部屋を横切ると、屋上へ続く階段を駆け上がった。
やはりというかなんというか、お嬢様は屋上にいらっしゃった。
月光に照らされて、銀糸の髪と雪の素肌は、ほんのりと紅に染まっている。
この風景を絵の中に封じ込めたら、きっと永世に讃えられる名画になるに違いない。
そんな神秘的な、あるいは悪魔的な光景に、私は思わず息を飲んだ。
『言葉を失う』なんて慣用表現を、まさか己が身で体現するとは思わなかったが、しかし言うべき言葉が出てこなかったのもまた、紛れもない事実である。
「……何の用?」
お嬢様の、ルクリアを思わせるその唇から、透き通るような声がこぼれ出た。
それを、まるで独奏を聞くかのように拝聴していた私だったが、数瞬の後、ようやっとそれが自分に投げかけられた言葉であることに気付き、私は慌てて自らの佇まいを正した。
「賊です! お嬢様、お逃げください!」
叩頭し、端的にそれだけを申し上げる。
おそらく時間はあとわずか。
もういくらもしないうちに、紅白二色の破壊神がここへと辿り着くだろう。
ならば余計なことは一切無用。
要点だけを述べ、早々に退避していただかなければと、そう思っていたわけなのだが、
「……咲夜は?」
お嬢様はといえば、実にのんびりとした調子で、そんなことを聞いてくるのだった。
「は? はぁ。メイド長は残念ながら力及ばず、現在、お嬢様がお逃げになるまでの足止めをしておりますが……」
何を悠長なと思いつつ、それでも主の問いに答えぬわけにはいかない、現状を端的に報告する私だったが、それに対してお嬢様はため息一つ。
はて、何か呆れさせるようなことでも言ったかしらと、自らの台詞を脳内リピートさせてみるが、しかし、
「ほんと、人間って使えないわね」
そんな彼女の一言に、私の浅薄な思慮なんていうものは、一切合財吹き飛んだ。
何が起こったのかなんて聞かないでいただきたい。
きっとそれを最も理解していないのは、他でもない、私自身なのだから。
だがしかし、しかしである。
私の手が彼女の胸倉を掴み上げ、地べたへと組み伏しているこの現状は、紛れもないリアルであった。
なんてことを、と、恐れおののく自分がいる。
このまま殺されてしまうのか、と、諦念する私がいる。
しかし、そんなことすらどうでもよくなってしまうほどに、私の頭と心の中は、複雑に絡まり合った、たった一つの感情で、ぎちぎちと埋め尽くされていた。
「そ……そんな……そんな言い方……! メイド長も……門番長も……パチュリー様だって……! アンタの……アンタのために……!」
目がチカチカする。
心臓がバクバクする。
彼女を押さえつける両腕が、プルプルと震えている。
言葉が出てこない。
言いたいことは山ほどあるのに、音は一つも出てこない。
そんな言葉の代わりだろうか。
両の眼からはボロボロと、涙がとめどなく流れ出た。
吸血鬼の顔がグニャリと歪む。
彼女が彼女と分からないほどに、グニャグニャいびつに曲がっている。
ちょうど良かった。
こんな女の顔なんて、もう一目たりと見たくない。
生き物なんてのは上手くできてると、私は自嘲気味に嗤ってやった。
……悔しかった。
憎悪だとか困惑だとか、そういったものを一切合財混ぜ合わせ、そしてただ、悔しかった。
門番長は『背水の陣』を敷いた。
強大な敵に自らの身を囮とし、門番長としての責務を果たさんとした。
パチュリー様も、紅白の前に立ちふさがった。
本来守られるべき客人が、きっと自分の命よりも大事であろう魔術書を失う覚悟で、親友を守ろうと決起した。
メイド長は病身を押してまでしてお嬢様のために戦った。
いつ事切れてもおかしくない状況で、しかし今なお、アレを止めようと奮戦している。
門番隊も、メイド隊も、皆自らの身を省みず戦ってきたはずだ。
なのに……なのに……コイツ……コイツは……。
私はこぶしを握り締めると、吸血鬼の顔面へと振り下ろす。
二度、三度と、鈍い音が黒い空間に染み入っていく。
……痛い。吸血鬼を打つ右のこぶしが、ズキズキと痛んでいる。
……痛い。頭の中を負の感情が渦巻いて、今にも爆発しそうなほどに痛い。
……痛い。みんなが身を捨ててまで守ろうとした主を守れず、あまつさえ罵倒する自分に、胸がギリギリと締め上げられる。
「……ぅっ……ふっ……ぅくっ……」
喉から嗚咽がこぼれ出る。
彼女を打つ私の腕は、次第に力を失っていき、罵声が嗚咽に完全に切り替わった頃には、私は力なく、彼女の胸に突っ伏していた。
トクントクンと、鼓動が聞こえる。
小さくも確かなその鼓動を聞いて、私はなおさら悲しくなった。
同じ鼓動を持つ彼女たちの思いを、なぜこの人は理解できないのだろうかと、私はひたすら悲しくなった。
と、突っ伏した私の背中に、彼女の小さな手が触れた。
ポンポンと、それは優しく私を叩く。
「……え?」
その不可解な行動に、私は思わず彼女を見上げる。
するとそこには、聖母とすら見まごうほどの、彼女の、優しく柔らかな笑顔があった。
「……あ……」
その宝玉のような微笑みに、私の意識は奪われかけ、そして次の瞬間、
ドゴォッ!
なんて盛大な音とともに、私の意識は飛びかけた。
何だ? 何が起こったんだ?
状況を把握しようにも、込みあがってくる吐き気と咳に、私の思考はパーフェクトフリーズだ。
あぁ、なんか口の中に鉄さびの味がにじんできた。
なんか思いのほか重傷っぽい。
「ふん。妖精風情が、大それたことをしてくれる」
キーンという耳鳴りにまぎれてくる、吸血鬼の憎々しげな声。
腹立たしそうに腕組みをするその幼女は、何故だか知らんが逆立ちしていた。
……いや、逆さまなのは私の方か。
逆転している天と地と、ドロワーズ丸出しの己を見れば、それくらいは嫌でも分かる。
ついでではあるが、私の周辺に転がっている大小さまざまな瓦礫から、私があの怪力幼女に思いっきり投げ飛ばされたであろうことも理解できた。
……あんまし理解したくなかったが。
コツコツコツと、死の足音が近づいてくる。
知らなかった。
死神というのは、どこぞの吸血鬼とおんなじ顔をしているらしい。
今度同僚に自慢してやろう、と、そのとき私は心に決めた。
まぁ、生きて帰れたら、の話であるが。
「さて? 言い残したことはあるかしら?」
私の喉元を引っつかみ、ずりずりと引っ張りあげる吸血鬼。
まぁ、言いたいことは山ほどあるが、そう首を締め付けられちゃ言いたいことも言えやしません。
代わりに私はもう一度、彼女をぶん殴ってやろうと手を伸ばすが、しかし今しがた受けたダメージはやはり大きく、また累積した疲労もあいまって、それはただペチッと間の抜けた音を立て、彼女の顔に当たるだけ。
彼女はそれにいささか顔をしかめるが、しかしすぐに、ニヤリと、嫌味な笑みを貼り付けた。
「なかなか頑張るじゃないか。そんなにアイツらが侮辱されたのが悔しいか?」
えぇもう、はらわたが煮えくり返って、プラズマが発生する思いですよ。
でなけりゃこんなことになっちゃいないというのに、相変わらず意地の悪い。
私は返答代わりに、またもペチリと彼女を打つ。
しかし彼女はといえば、もはや顔をしかめるようなこともせず、ただニヤニヤと嗤っていた。
「勘違いも甚だしいな。いいか妖精、教えてやる。十六夜咲夜は私のものだ。パチュリー=ノーレッジも、紅美鈴も、この館に住まう全てはこのレミリア=スカーレットのものなのだ。この館は我が領土、そこに住まうは我が領民。ならば領主たる私には、これを搾取する権利がある」
……なるほど、大した暴君だ。
謳うように言う彼女の顔をもう一度だけペチリと打つ。
あぁ、これでもう精も根も尽き果てた。
あとはゆっくり、この首が引きちぎられるのを待つとしよう。
思い残したことは山ほどあるが、しかし、それを実行できるほどの余力なんていうものは、もはやこれっぽっちも残ってなんかいなかった。
人間、死ぬ間際には、全てのことに諦念すると聞いているが、どうやら妖精にも大した差異はないらしい。
むしろ、より自然に近い私たちの方が、あるいは生への執着が少ないのかもしれない。
スッと眼を閉じ、待つことしばし。
しかし、瞬き五つするほどの時間が過ぎても、握壊されるはずの私の首は、今なおそこに存在し、転げ落ちるはずの私の頭は、相変わらず身体の上に乗っていた。
はて、と、一度は閉じた眼を開く。
途端、喉を覆っていた圧迫感が一切合財消え失せた。
「むぎゅ」
重力に従い自由落下、お尻をしたたかに打ちつけた私は、そんな間の抜けた声を上げる。
ワンテンポ遅れて喉がようやっと開放されたことを知り、盛大に咳を生み出した。
ひとしきり咳き込んだあと、ゼイゼイと肩で呼吸を整える私。
そんな涙目の視線の先に、大層ご立腹な笑顔を浮かべた、小さな領主が佇んでいた。
「いいか妖精、教えてやる。十六夜咲夜は私のものだ。パチュリー=ノーレッジも、紅美鈴も、この館に住まう全てはこのレミリア=スカーレットのものなのだ。この館は我が領土、そこに住まうは我が領民。ならば領主たる私にのみ、これを搾取する権利がある」
さっきと同じ言葉を繰り返す領主。
しかしそこでようやっと、その怒気が私以外の何かに向いていることを理解した。
「我が領民は私のものだ。その血の一滴、髪一筋すら、奪うものを私は許さん」
領主はじろりと向こうを見やる。
その視線の先には、部屋へと続く扉と階段。
そこに何かの気配があることは、私ですら感じて取れた。
メイド長の身を案じ、私は唇を噛み締める。
と、
「フローゼ=パリッサ」
唐突に、私は己の名を呼ばれた。
「……え……あ……う……?」
状況が飲み込めず、私は眼を白黒させる。
そんな私の頭頂部を、彼女はパコンと軽く叩いた。
「……何をしている、この間抜け」
「え……いや、だって……その……名前……。何で……?」
「『何で名前を知っている?』か? 戯けたことを。領民の名も知らない領主が、一体どこの世界にいるというのだ?」
「…………へ?」
あんまりにもあんまりな彼女のその一言に、私は唖然と口を開いた。
あぁもう心底あきれ果てた。
きっと彼女は本気なんだろう。
どんな偽善的な領主でも言えないような、そんな馬鹿げた物言いを、ニヤリともせず真顔で言いのけ、そしてきっとバカ正直にそれを実践しているのだ、我らが紅い領主様は。
もう嫌になってきた。
お嬢様が、ではない。そんなお嬢様に反逆した自分自身が、だ。
ようやっと理解した。
私たちは彼女の所有物(もの)なのだ。
だからこそ彼女はそれを好き勝手に振り回し、傷つけられれば激怒する。
当然とは思うまい。
たかが所有物を傷つけられたくらいで、ここまで激怒できる人妖が他にどれだけ存在する?
そしてそんなお嬢様だからこそ、門番長も、メイド長も、パチュリー様だって、愛し、命を懸けて守ろうとした。
あぁ、門番長。
あの笑顔のその理由、ようやっと理解しました。
惜しむらくは、それが今更だったことでしょうか。
お嬢様に反逆した今、私の居場所はここにはない。
ならばせめてもの償いに、アレは私が止めてみせる。
私はそう意を決し、扉へと歩を進め、しかしガシッと、まるで子猫か何かのように、首根っこを掴まれた。
……なんで?
「……貴様は私の話を聞いてなかったのか?」
「はい?」
「足りない貴様のためにもう一度だけ言ってやる。私は私のものを私以外が傷つけることを許さんと言ったのだ。なのに自ら傷つきに行く馬鹿がどこにいるんだ、この戯け」
「で、でも……その……反逆を……」
「反逆? アレがか? 咲夜なら六百六十六本もの銀の刃を私に突き立てているところだぞ?」
いや……それもそれでどうかと思いますが……。
「ふん。あれしきのことでこの私が……。随分と侮られたものだな」
お嬢様は不機嫌そうに舌打ちすると、私の顎をグイと引き寄せる。
そして私の抗う間もなく、その唇にキ……え……キス?
「ぅんんんんんんっ!?」
にゅるりと、お嬢様の舌が私の唇を割って入る。
歯を、舌を、口腔内にあるその全てを、お嬢様が蹂躙していく。
……あ、やーらかい……って、そうじゃなくって!
唐突な出来事に、私の頭はいろんな意味でカーニバルだ。
抗うことも出来なければ、自ら舌を絡めていくこともできず、ただ呆然と、私はお嬢様を受け入れている。
一通り口腔を犯し尽くした頃、お嬢様はようやっと私の唇を解放した。
「な……なななななななな……」
言いたいことは山ほどあれど、一つも言葉が出てこない。
初心を言い張るわけでもないが、こいつは刺激が強すぎだ。
そんな私を楽しげに見つめると、お嬢様はニヤリとした笑みをこぼして、
「言っただろう、フローゼ=パリッサ。髪一筋、血の一滴に至るまで、貴様の全ては私のものだ」
と、そんなことを仰った。
なるほど、ぺろりと舐めあげる口の端には、確かに私の血の雫。
しかし血を飲むにしたって、もうすこしやり方ってものがあるんじゃないでしょうかと、意識を失いつつある私は、そう心の中で進言した。
意識を失うその間際。
聞こえる声は、永遠(とわ)に幼き紅い月。
「こんなにも月が紅いから、本気で殺すわよ、博麗の巫女」
After Ending Of 紅魔郷: Flose Parissa
事実は小説より奇なりというが、まさにこの世は奇々怪々。
空想においてヒロインが人外を討つなんてのは、それこそ多くが幻想入りするほどの使い古された、目新しくもない話であるが、しかしまさか現実に、齢五百にも及ぶ吸血鬼を二十にも満たない小娘が調伏する現場なんてものを見るなんて、思ってもいなかった。
そういえば外界には、紅白二色の超人がいたという。
曰く三分ほどで胸の宝玉がピコンピコンとなるのだそうだが、どうやら幻想郷の紅白は、外に宝玉を忘れたらしい。
ともあれ、我らが主は紅白の巫女に退治され、紅霧事変はここに解決を見ることと相成った。
館に刻まれた傷跡は未だ癒えきるものではないが、しかし『触らぬ巫女に祟りなし』と、妖怪妖精一部人間は、人間に対して傍観を決め込むつもり満々である。
唯一復讐を誓っているのは我らが紅魔のお嬢様のみであるのだが、そのお嬢様もニッコニッコと満面の笑みで足しげく神社に通っている辺り、どのあたりまで本気で考えているかは分からない。
曰く、『一度全力で戦ったのだから、もう私のものでしょう?』とのことであったが、『お前のものは俺のもの』……もとい、『お前の全ては俺のもの』とは、一体どこのプレイガールか。
あるいは『隣人に愛を』と説いた彼の者にも勝る、究極の博愛主義かもしれないが、悪魔としてそれはどうだろうと思う昨今である。
今回の事件について、メイド長は『まぁあの人、独占欲強いから』と呆れたように言うわけであるが、しかしそんなニヘラっとした笑みを浮かべていては、説得力は皆無である。
……まぁ、その気持ちは痛いほどよく分かるが。
ちなみに、おおよその事情は説明したものの、あの接吻についてのみ、メイド長には話していない。
私だって命は惜しいし、そこまで空気が読めないわけでもない。
きっとお嬢様が戯れにあの出来事を語ったときが私の命日になるのだろうが、それまではせいぜい生を楽しませていただくことにする。
さて、そんな私であるが、現在、館内メイドと門番の、二足の草鞋を履いている。
別に罰だとか、強制されたとかいうわけでない。
自ら志願しての人事である。
きっといずれ、メイド長になってお嬢様付きに、と、まぁそんな野心を持って望んだ役職であるのだが、しかしさっそく後悔しつつある、そんな今日この頃だ。
さすがにメイドと門番の兼務はきつすぎる、と、つまりはそういった理由であるのだが、それでも門番を辞めない辺り、私も相当重症らしい。
そのうちメイド長のように過労でぶっ倒れるかもしれないが、門番の特権に比べりゃそれも瑣末だ。
どんな特権かって?
そんなの、神社から戻ってこられる愛しい愛しいお嬢様に、満面の笑みを浮かべて、真っ先にこう申し上げられることに決まってるじゃないか。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
彼女がレミリアに最初に抱いた感情や、館の全ては自分のものだと言った
レミリアの行動など、面白いお話でした。
妄想が言語化できずに漏れ出しているような印象を受けました
一人称だから余計そう感じたのかもしれません
なんというか、日記を読まされた気分で小説を読んだ気がしませんでした
あとPNが紛らわしいから改名したとのことですが、
創想話には『東雲』という大御所がいらっしゃいますので、ちゃんと調べましょうね
それが表で、こちらが舞台裏。とても面白かったです。
勢いで読み進められる良い作品でした。
オリキャラの使い方も巧いし感情移入もできた。
名前変わっちゃうと探すの面倒なので固定でお願いします(/ω\)
次回作も楽しみにしてるぜ。
こういうのが良オリキャラっていうんでしょうね。あくまで一妖精の視点から見た紅魔郷、フローゼから見ればレミリアはカリスマ全開なのでしょうな。
紅魔館の妖精はきっとお嬢様か門番長かメイド長のいずれかにたらしこまれたに違いない。
あと妖精って人間より格下だったような…これは単にフローゼの認識なのでしょうか。
このお嬢様こそカリスマの権化だ!
妖精がお嬢様を組み伏している状況を思い描いたのは初めてでした。
おぜうに殴りかかったりとか、なんていうナイスフェアリーw
オリ設定もありましたが違和感なく読めました。
がんばったなぁこの妖精。骨があるぜw
なぜか真っ先に頭に浮かんだのはペプシマンでした
おもしろかったよ
一人称の綺麗な文章で、とても読み易かったですし、
文末がワンパターンにならないようにきちんと工夫されていたのも好印象でした。
そして何よりキャラがとても魅力的に描かれていて読んでいて心地よかったです。
特に、首を絞められながらもレミリアを叩くフローゼが気に入ってしまいました。
その他、『背水の陣』や五面での妖精メイドの配置等もきちんと考えられていて、思わず唸ってしまいました。お見事です。
他の方も指摘されていますが『ともわれ』→『ともあれ』が、辞書の上では正しい表現です。
(でも、グーグルだと『ともあれ』より『ともわれ』の方が、ずっと沢山のページが引っ掛かるんですよね………もうこれは新しい日本語なのかも。)
ともあれ、以下に私が見つけただけの『ともわれ』が使われている部分を抜き出してみました。もしよろしければご活用ください。
>ともわれそんな門番長だったから、~
>もちろん一部の例外はあるものの、普段の、クールというか冷徹というか無感動というか、ともわれそんな典型的な~
>「ともわれ急いで頂戴。いくら美鈴とはいえ、~
>ともわれ、我らが主は紅白の巫女に退治され、紅霧事変はここに解決を見ることと相成った。
最後になりましたが、もう一度。とても面白かったです。
次回の投稿も楽しみにしています。
他に館といえば永遠亭や夢幻館、廃洋館辺りがあるのでそれらのどれかか、
あるいは稗田の館なのでしょうか。
こんなにコメントいただいたことなかったので、もうウッキウキです♪
>煉獄様
これを書こうと思ったとき、一番最初に出たのがレミリアのこの台詞でした。
レミリアは独占欲が強く、それが出来るだけの器量を持っていると思うのですよ。
>2009/06/27 21:30:10様
一応推敲は何度かやったんですが、文章は難しいですね。
ちなみに東雲氏のことに関しましては私も承知しておりますし、ぶっちゃけ大ファンでありますが、しかし私としましてもこのPNは十年来使っているものでありまして馴染みがあり、また更に変更、という話になりますと、せっかくご覧いただいている皆様をまた混乱させるかもしれないということもありますので、今後ともこのPNでやっていこうかと思っております。
申し訳ありませんがご容赦願えますようよろしくお願い申し上げます。
>2009/06/27 21:47:55様
紅魔郷は特に好きな作品で、書いてる途中にも『思い出すため』と幾度となく再プレイ。
ちなみにヘタレシューターな私はNormalでもノーコンクリア成功率5%です。
おぜう強すぎるよおぜう!(泣
>2009/06/27 23:32:50様
>2009/06/28 00:25:15様
オリキャラは賛否ありますんで、いつも評価が気になるんですが、お楽しみいただけたようで幸いです。
>2009/06/27 23:32:50様
上にも書きましたが、PNはもう変えませんよ~。
次回作も頑張ります。
>2009/06/28 00:25:15様
きっと死ぬほど鍛えられたと思いますが、特にメイド長は徹底したスパルタ教育を施したに違いありません。
だって未だに妖精メイドでピチュりますもんorz > Stage5
>2009/06/28 01:42:24様
>2009/06/28 10:55:51様
俺のこの手が光ってうなる! おぜうを倒せと輝き叫(違
>2009/06/28 03:16:44様
>クロスケ様
は、恥ずかしっ!
素で間違えておりましたorz > ともわれ
早速直させていただきました。
>2009/06/28 03:16:44様
求聞史紀読み返してみたら、妖精って人間の大人が容易く撃退できる程度だったみたいですね。
申し訳ありません。
未だ妖精メイドにやられることがあるので、思わず……orz
カリスマおぜうは正義です!
>2009/06/28 06:13:54様
私もお嬢様を組み伏した(デーモンロードクレイドル
>2009/06/28 09:16:28様
ありがとうございます。
>2009/06/28 14:28:30様
あくまで『カリスマ紅魔館』設定でしたから、せっかくならカリスマチックな美鈴も書いてみたいなぁ、と。
もうあだ名では呼ばせない!
(その割に書くときは単語登録めんどくさくて『みすず』で変換していたり)
>2009/06/28 22:43:51様
でも何気に全ダメージ、味方から受けてるんですよねw
ある意味哀れでもありますですw
>2009/06/28 23:45:20様
ちょw
ペプシマンてw
そういえばペプシマンってPSでゲーム化してたんですねw
>クロスケ様
リストアップありがとうございます。
早速訂正させていただきました。 > ともわれ
勉強不足、恥じ入るばかりです。
次も頑張りますので、何卒よろしくお願いします。
ありがとうございました。
>2009/06/29 09:11:34様
すみません、これも誤字です。> ×碑田 ○稗田
永遠亭や夢幻館は……きっとフローゼが認識していなかった……かと……。
(今更忘れてたとか言えない……orz)
ありがとうございます。
>2009/07/09 14:06:32様
コロコロ、と変えたつもりはなかったんですが、もう少々具体的にご指摘いただけると有難く存じます。