キャラ崩壊注意!
「美鈴、結婚しましょう」
「は?」
午前11時57分。
今日も順調に咲夜さんはおかしかった。
「何言ってるんです?いつも以上におかしいですよ?」
「あらそれはどういう意味かしら?私がまるで毎日おかしいとでも言いたげね」
「言いたいです」
一体何をどうしたら先程までの紅茶の話からこうも逸脱した話を脈絡なく生み出せるのか。
その思考回路は足とかに直結してるんじゃないんですか?
「でもね美鈴。これは私が私なりに色々考えた末の英断なのよ」
だから何を考えたんだろう。
「まず思ったのよ。貴女にあんなことやこんなことをしたいって。でも、やっぱりナニをするにも強引にはしちゃいけないじゃない?だから結婚っていう既成事実を作ってから押し倒そうと思ってね」
結局強引にするんですか。
「まぁまぁ落ち着いてください。第一私は門番、貴女はメイド長。立場を考えましょう?ね?」
「愛に障害はつきものよ。燃え上がるのよ美鈴!!」
そういうと咲夜さんは私の眼前に何かを突き付けた。
私はそれを無視して続ける。だって何か見たくないんですもん。
「大体そんな事お嬢様が許す訳ないでs」
「見なさい!!」
そんな私を遮る咲夜さんの大声。久し振りに聞いた。
そこにあったのは一枚の紙。その上の方にある文字が並んでいた。
婚姻届
「はい?」
自分の呆けた声など聴きたくなかった。
その下の方にはサインが。
『この二人の結婚を承諾する。
レミリア・スカーレット』
正午を知らせる鐘の音が鳴った。空しく。
「だからね、美鈴」
咲夜が恐ろしいほどに静かな声で囁く。
「私と結婚しましょう!」
「待てええええええええええええええええええええ!!!!」
叫ぶしか出来なかった。
「お嬢様!!これはいったいどういう事ですか!!」
ばたんと遠慮容赦なく主の部屋の扉を壊す。だって何かよからぬ事企んでそうだし。それくらい良いかなって。
「んぁ?」
帰ってきた返事はカリスマの欠片もない、何とも気の抜けた声だった。
口にはお菓子が咥えられている。チョコレート。美味しそう。
その主は美鈴の姿を見ると飛び起きて言った。
「ああ美鈴!丁度良かったわ!咲夜の話聞いた?」
「聞いたからここに来たんです!」
「そりゃ良かった!」
「良くないです!」
美鈴は困惑とか当惑とかそんなものが入り乱れてますオーラを発し主に怒りを向ける。
当のレミリアは涼しい顔で、更に言ってのけた。
「でね、私も結婚しようと思うのよ」
「はい?霊夢とですか?」
この主は近頃神社の巫女によく会いに行っていたがあの巫女がそんな事を許容するだろうか。
いや、ない。(反語)
「貴女よ!美鈴――――!!」
何の躊躇いも脈絡もないおっぱいダイブ!
「えええええええええええええええええええええええ!!?」
何事ですかああああああ――――!!!
「いやいやいや!待ちましょうって!大体主と門番ですよ!?それから咲夜さんとの結婚認めるとか書いてませんでした?」
「主が言うんだから良ぉし!!!!」
「私が良くないいいいいい!!!」
怖くなって距離を取る。一気に距離を取る。いくら吸血鬼でも一足飛びでは届かない辺りにまで距離を取る。
「ななな何言ってるんですか!!大体今更ですが女同士ですよ!?問題のある事ではないですが少数派ですよ!?」
「ふふふ、外の世界暮らしが長かったんじゃない?この幻想郷では常識はぶち壊してなんぼなのよ!!少数派上等!!!」
駄目だ、とんでもない。
もう駄目だ、ホントに。主に私の貞操が。
どうする?
そんなの決まってる。逃げる。
幸いにもと言うべきか、紅魔館は広い。
この異変としか言いようのない変人達もしばらくすれば元通りになるだろう。
だって昨日までは普通だった!
それまで粘れ、私。
とりあえず冷静に考える。
相手は吸血鬼に咲夜さん。逃げて逃げ切れる訳がない。
なら何で逃げる?怖いからだ。逃げたいからだ。大体常識なんて今更気にしないですよ?
女性同士で何が悪いんだとも思いますが正直言います。
怖い人勘弁。
だって怖いもん。日頃から人間なのに妖怪よりも強かったり妖怪よりも強い人間よりも強い妖怪だったりする人達ですよ。私は命一つしかないです。まだ死にたくない。
私は急いで図書館に向かった。
知恵を借りたい。主にかくれんぼの。
「パチュリー様!お助けを!」
「んぁ?」
何だかデジャヴ。嫌な予感がありありと浮かんできた。
「うふふふふふふふふふふふふふふふふふ」
嫌な予感しかしなくなった。
「あらぁ。美鈴じゃない。待ってたのよ?」
待ってた、そう仰いましたか?
どうしてでしょう?そしてもう一つ。
「あ、あの…パチュリー様…?」
こんなに声が震えているのは久し振りだ…。うん、お嬢様のプリンを食べちゃった時の100倍くらい。
「どうしてこぁちゃん、居ないんですか?」
そう、小悪魔だ。司書の小悪魔だ。彼女がいない。
「ああ、こぁは、」
パチュリーの小さな口が可愛らしく開く。
そう、嫌味なまでに可愛らしく。
「ほら……そこに」
指さされるその場所は、……自分、美鈴の後ろ。
直後、自分の胸が鷲掴みにされた。
「ひゃうっ!?」
「あ、美鈴さんの胸おっきいですねー。私よりだなんて悔しいくらいですがここまでだとかえってすがすがしいようなしかしこの感触まさにマシュマロというか」
「小悪魔!!」
遮るパチュリーの怒声。
「小悪魔。その柔らかおっぱいは私のものよ」
「はい。すみませんでした」
最悪だ。
めいりんは だっとのごとく にげだした!
しかし まわりこまれてしまった!
「パチュリー様!目を覚まして下さい!こんなの普通じゃないですよ!!?」
「あらそう?なら問うわ。普通とは何かしら?そしてその普通とは何を基準とした上で成立する、また成立した時認める価値を持つものだと言いきれるのかしら?そもそも普通という概念は一体どこから生まれたの?それ以前に普通とは存在するもの?人妖問わず全く違ったものが跋扈しているこの世界において普通なんてそれこそ異端だわ。そうは思わないの?それともそんな事すら考えずに私にそんな偏った視点を強いているのかしら?」
「難しい事は分かりません!!ただ私はパチュリー様が怖い!!」
パチュリーの手が、指が、卑猥に動く。わきわき。
……怖い。
「こぁ!捕まえなさい!」
「報酬は?」
「おっぱい揉む権利1分間!」
「御意!」
美鈴の足が自然に、自然に後ずさりを始める。
でもこんな逃げ腰に同情してくれるほど生ぬるい連中じゃない。
目が完全に明後日の方向を向いている。これが、本能から来る恐怖心!
悟った。
きっとお坊さんはこんな風に悟ることってないんだろうなぁ…。もっと穏やかなんだろう。きっと。
こうなった以上逃げる方法はたった一つしかない事を。
「く…攻撃に訴えるのは私の望むやり方ではありませんが…」
強行突破である。
貞操の危機なら仕方ない、実家のおとーちゃんやおかーちゃんも分かってくれるだろう。
紅美鈴、(ピー)歳、未だに純潔守ってます。別に宗教家じゃないけど。
「こぁちゃん!パチュリー様!失礼致します!」
迫りくる悪魔と魔女に、鉄拳制裁!
「彩虹風鈴!!」
「美鈴!この私にそんな攻撃が通用するとでも!?」
「ええ!…これならね!」
美鈴のスペルはパチュリーには向かわず、小悪魔にも向かわず。
まっすぐに本棚に激突した。
これ即ち―――
「新スペル!“紙束”『本棚ドミノ倒し』!!」
「むきゅっ」
「パチュリーさmぐえ!!」
二人は巨大な本棚の下敷きとなった。
流石に動けまい。レミリアなら余裕だろうがあのパチュリーだ。あの重さの下では詠唱すら出来まい。
申し訳ないが逃げよう。
……何処に?
汗が出てきた。
「ちっ…地下室!よし!フランドール様!フランドール様なら…」
その安心は完全なフラグである事にも気付かず、希望に満ち溢れた表情で美鈴は地下を目指した。
地下に向かいながら美鈴は考える。
一体どうしてこんな事になったのか。何か理由がある筈だ。
考えろ、考えろ。
…居るじゃないか。胡散臭くて意味の分からない事をする妖怪代表が。
八雲紫が。
あの意味分からん事当然のようにやる症候群の妖怪なら今回の大異変も平気で起こすだろう。
……許せない。
後で…つまりこの状況をどうにかしてから、問いただしに行こうと決めた。
「フランドール様!」
地下室の扉を開き、――――その瞬間、何かが自分に激突した。
―――それは、
フランドール。
「きゃああ!!妹様!!?」
「やっとめーりん見つけた!」
フランドール・スカーレット。レミリアの妹にして、狂気を孕んだ力の持ち主。
その狂気が暴走する所は、美鈴も何度か見てきた。
そう、あんな惨劇はもう御免だ。
そんな穏やかで平和な願いも叶ってか、最近は狂気に支配される事もなく、平和な毎日を過ごしていた。
しかし、ささやかな願いは崩れ去る運命にある。いや、崩れるからこその祈りだとは…認めたくない。
まずい。
フランドール様…
目が…明後日の方向を向いていますよ?
美鈴は身構える。
「妹様!落ち着いてください!狂気になんて負けないで…」
「めえええええええええええええぇぇぃぃぃぃいいいいいいいりいいいいいいぃぃぃんんんん!!!!!」
「狂気だああああああああああああああああああ!!」
違う意味で狂気の虜になったフランドールに問答無用の掌を叩きこむ。
貞操の危機に加えて肉体維持の危機。
申し訳ないが暴走するフランドールのお戯れは悪夢。
美鈴は紅魔館から逃げ出して博麗神社へと走った。
あのスキマ妖怪は普段何処に居るのか分からない。知っているとしたら霊夢位だろう。
「八雲紫…何処…」
そう呟いて博麗神社に続く階段を前にした時である。
「はろー?門番さん?」
「紫さん!!貴女ですねこの大異変は!何が目的ですか!!」
突然スキマを生み出し現れた紫。咲夜の瞬間移動に慣れているから何とか取り乱さずに済んだ。
しっかりと敵意を向け、紫に威嚇する。自分にどうこうできるとは思えないが、それでもとりあえずは。
しかし、紫のそのいつもの余裕たっぷりの表情が、不意に崩れた。
「いや…それが…ねぇきゃああああああああああああああああああああああああ」
「うふふふふふふふ紫いいい!愛してるわぁねえ一緒にベッドインしましょうさあさあさあさあ!!」
紫の隙間から何者かの手が現れ、紫を捕まえた。そして再びスキマの中に引き込もうとかなり強引な力で引きずり込もうとしている。
「ひいいいいいい!!霊夢!!離して頂戴!!離してええええ!!」
「え…?」
この光景は…先程紅魔館で見てきた私の知り合いの二の舞ですか?
よりにもよって博麗の巫女が?
「紅美鈴!!貴女にこの異変の解決を託すわ犯人はあああああああぁぁぁぁぁ……」
一番肝心な所を伝える事なく紫は自らのスキマに消えていった。
……どうやって紫のスキマに霊夢は入り込んだんだろうか。きっと何かあったんだよ、うん。
納得するしかないじゃないか…。無理矢理でもなんでも。
ただ、一つはっきりした事がある。
この異変、巫女は絶対に解決しない。いや異変だと認知していない。
そして紫はあの様だ。だが一妖怪に託すとはどういうつもりか。
大体何故自分なのか。いや、それは明白か。自分は正常だったからだ。
「でも原因なんて分からないよ…」
ぼやく。
「見つけたわ!」
「へ!?」
聞き慣れた声。そう、変態メイド長、咲夜だ。
「ふふふふふ今日は晴れてるものお嬢様方は出られませんからつまり私と二人きりアーユーオーケー?」
「ノーアイムノット!此処は外ですよ!?TPOを弁えて下さい!」
「屋外プレイがお好きなようね奇遇ね私も貴女と外でと常々思っていたのよそれにTPOは貴女でしょう?」
そこまで一息で言い切った咲夜さんは凄い。けど感心はしない。
「ってTPO私ですか?私おかしいこと言ってません!それにその卑猥に動く手は何ですか!」
「T)とんでもない
P)プルプル
O)おっぱい
よ!そしてこの手は愛しきTPOの為に」
「違うー!」
これは…良くない。いや悪い。
逃げたいけどすぐに追い付かれる。
なら…申し訳ないけどパチュリー様やこぁちゃんと同じ末路を…
「せああ!」
辿って下さい!
「甘いわよ美鈴貴女のTPO位甘い!パーフェクト」
そこまでが前から聞こえ、
「メイド!」
続きは後ろから聞こえた。だがそれは予測通り。何度も見てきた戦い方だ。馬鹿でもなければ頭に入る。
そのまま回し蹴りで対応しようとして、悪寒が走った。
ぴと。
「…ぴと?」
自分の脚が若干心地良い…じゃなかった不気味な感触に襲われた。
咲夜さんの綺麗な手が脚に絡み付いている。
指が動く。
「ひぁっ!?くすぐったいですよ咲夜さん!」
「くすぐってるのよ。ほ~ら、カ・ラ・ダ、火照ってきたんじゃない?」
それが狙いかっ!!
「あ、貴女耳も弱そうね…」
「△○×☆×□!!!」
耳たぶに熱いくらいの刺激。
体がびくんと跳ねてしまう。
息が荒くなる。
自分の声がリズムを乱しているのが分かる。
かなりマズイ。自分の意識があらぬ方向に傾いていくのがありありと分かる。
「ふふ…感動的にして官能的。あら私ってばポエマー?ね?」
そう言って咲夜さんの指が太腿を撫でる。
「はふぅ…ひぁあ!」
「さぁて、貴女も乗り気になった所で本番といきましょうか?」
「は…はい…咲夜…さん…」
「嬉しいわ美鈴。じゃぁ、キス、するわよ…」
美鈴は眼を瞑る。咲夜は唇を近付ける。触れられる位置まで。触れ合う位置まで。
咲夜の視界が美鈴の顔で殆ど埋まり、
「うがっ!?」
咲夜の変な声が突然出た。
「奥義…美鈴☆デコピン…!耐えたぞ…耐えたぞ私ぃぃぃぃぃ!!」
美鈴の雄たけびと共に。
視界が自分だけで埋まった時なら隙が出来ると思っていたが…成功しなかったら貞操は死んでいた。
危なかった…誘惑的な意味でも…。
ちょっとだけ、…ちょっとだけあのままでも良かったような気がしてしまった自分が憎い!
何とかして犯人を捕まえないと…。
「あはは!あの門番面白いなぁ!」
そんな美鈴を遥か上空から眺める人影が一つ。
「どれくらい無事でいられるかしら?そうだ!こうしてみたらもっと面白いかも!」
そう言ってその影は手に持っていた長物を振るう。
何か紅色の気配がその長物を包み、そして地に降り注いだ。
美鈴は走っていた。
この上ない全力疾走で。何故か。それは…
出会った人達が片っ端から愛情の押し売りを始めたからである。
「私の愛を受けろ――!マスタースパーク!!」
「愛じゃない―――!!正気に戻ってくださいぃぃぃ!!」
「神の風に包まれて私と共に(ry」
「貴女は私の人形になって昼も夜も(ry」
「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」
悪夢だ。
何で幻想郷って強い人こんなに多いんでしょうか?
私にはどうしようもない連中ばかりぃぃぃぃ!
「ん?」
そして、気付いた。
自分を追う人数が増えたから、気付く事が出来た。
「“気”が上に上って…戻ってきてる?」
そして追ってくる彼女らの気が普段とは変質した物なのだ。
「気は…上ってる…」
そして変質して彼女らに戻ってきている。
遥か天空に、何かがある。
思い出した。
「前に咲夜さんの言ってた不良天人か!!」
「総頭領娘様…もう良いのでは?というか止めて下さい」
美しい羽衣を纏った大人びている女性が、隣の岩石に座る剣を持った女性に進言している。
しかし、当の剣の女性は聞く耳持たずという風で、
「嫌よ!最初はあのスキマおばさんへの当て付けだったけどさ。あの門番面白いもん!あ、こけた」天界の不良、天子である。
お目付役の様になってしまった自分の身を恨みながら衣玖は盛大に溜め息を吐いた。
「ただの竜宮の使いなんだけどなぁ…」
天子がしたのは単純な事である。人の気質を少しいじったのだ。
前回は気質を天気に変えた。今回は決まった感情を作り出したのだ。
緋想の剣に元来備わっている能力ではないが、物は使いようである。
尤も、それが出来るようになるまでの努力を別の方向に向けてくれという衣玖の願いは無視され続けたが。
「あの門番半死半生よ!どっかの庭師より酷いわね!あはは!」
「聞きましたよ…」
「なっ」
次の瞬間、天子は背後に先程まで見下ろしていた門番の声を聞いた。
その門番の背後には、
「うわ…そいつら全員倒したの?」
美鈴を追っていた人の山。気絶している。
ちなみに本当は気をいじって意識を飛ばしただけだが。
「やるじゃない!でも私は天人!妖怪如きに勝てるかしら!」
「ははは。それは勝ち目無しですねぇ」
「それでもやると言うのなら…え?」
天子のテンションががくんと落ちる。
え?やらないの?
何の為に来たの?
そんな顔をする天子に美鈴はにっこりと、
「でもお灸を据えてあげないといけませんね」
「ふん!結局やるのね!かかってきなさい!」
開戦を宣言した。
美鈴は不敵に笑っていた。
それが衣玖に不信感を募らせた。確か彼女は吸血鬼…レミリアと言ったか、その従者だったはず。普通の妖怪だ。
妖怪で天人と渡り合える者は少ない。もしも彼女、美鈴がそうだと言うのなら吸血鬼に仕えてはいないだろうから、美鈴が勝ち目のない事を分かりながら喧嘩をしようとしているようにしか見えない。
「さぁ行きますよ!身の程知らずの不良天人!」
「来なさい!地を這う愚かな妖怪め!」
天子は剣を手に美鈴に斬りかかる。
その華奢な姿とは打って変わって一振り一振りに空気が唸る力。
美鈴は少しずつ後ずさりを強いられる。
しかし、それは狙い通り。
――――今だ!
天子が勢いを付けて放った突進をしながらの斬撃をひらりとかわし、天子の勢いに重ねて背中に拳を叩き込む。
勢いを殺しきれず先程美鈴を追わせて美鈴に倒された可哀想な面子の山に突っ込んでいき、埋もれた。
美鈴の顔が笑みを浮かべた。…凄惨に。
「ふふふ、やるじゃない妖怪!でもねそんな程度じゃ…誰?」
いつも通りの偉そうな講釈が遮られた。天子の肩を誰かが掴んだからだ。
「ああ、白黒魔女。突っ込んだので起きちゃった?引っ込んでてくれる?私は今戦って…」
言葉を紡ぐのを止めざるを得ない。魔理沙の目はいつもの元気さを通り越して、明後日、その先を見ていた。…怖い。
「な…何よ?」
本能で後ずさりをする天子。声が震えている。
「ひっ!?」
次いで天子から発せられた短い悲鳴。それは同じ目をしているのが魔理沙だけではなく、その人妖の山全員だったから。
「よ…妖怪!あんた何したの!?」
美鈴は答えた。…良い笑顔で。
「私、怖かったんですよ?いつも話している人に襲われて。で、思ったんです。こんな酷い仕打ちをしてくれた犯人さんには同じ様な目に遭ってもらわないとなーって」
良い笑顔で。
「なぁ天子私の愛はもうマスタースパークだぜ」
「貴女こそ私の人形に相応しいわ一生離さないからね」
「神の風は私達を聖なる地に…あーまどろっこしい!ベッドインしましょう!」
「よよよよ妖怪!!あんた何を一体…」
「冥土の土産に教えてあげますよ。私の能力は気を操る程度の能力!あんたがやった事の専門家だあああ!!」
「そんな妖怪が居るのおおおおおおおおおおお!!?」
「はぁ…だから言ったのに…」
衣玖は一人、また総統領様に怒られるなぁ、と小さく零した。
結局天子は貞操をどうにかされる直前で美鈴の恩赦に救われた。
その時の光景は「あんな泣いて土下座する総統領娘様初めて見ました」と衣玖に言わせたほどであったというから可哀想にすらなってくる。
その時の天子の言葉の一部が以下である。
「ごめんなさいごめんなさい本当に申し訳ありませんでしたただとても暇で何もする事がなくてみんな下界で楽しそうにしてたから嫉妬しちゃったんです橋姫のポジション取ったのも反省しています二度とこんなことはしませんからどうかこの通りお許しくださいませ自分がした事の重大さ恐ろしさを自分が受けて初めて理解いたしましたどうか私にご慈愛とお情けをどうかどうか朝ご飯食べて何か退屈だなぁって寝っ転がったら丁度時間が正午丁度ぴったりな時間だったから記念に今までの企みを実行に移そうとか思った私が悪かったのおおおお」
「何で私と紫さんは無事だったんです?」
ついでに気になっていた事を聞いてみた。
「スキマは今回本来はスキマを酷い目に会わせるのが目的だったからで…貴女は何か気をうまく引っ張ってこれなかったから…能力の所為だと思うわ…二度としないわ!許してええええええ」
などとマジ泣きな顔で延々と謝られ、美鈴はもう責める気も失せた。
天子は言われるままに全員の気質を元に戻し、再びこのような事は二度としないと誓いを立てた。
この誓いの光景を見たものは天子が誓いを破る事はないと断言できた。
「ふぅ…とりあえずこれで解決かぁ…。毎回異変解決してる巫女は大変だなぁ…」
心底感心だ。毎回こんな事をやってると思うと気が気でない。今度お賽銭でも入れてあげようか。
「そういえば紫さん無事かなぁ…主に貞操」
紫が自分に仕事を任せた(押し付けた)のも今回の異変が気だったからだろうか。
だとしたらあの状況下でしっかりと私に顔を出した事は尊敬に値する。精神力的に。
でも偶然な気がしてならない…。
そして私は紅魔館に帰る。やっと着いた、平和な日常に戻る。
「ただいま、咲夜さん」
「あらおかえり。何処に行ってたの?」
「えへへ、ちょっと事情があって出かけてました」
「そう。あ、ちょっと仕事たまってるのよ。手伝ってくれる?何でこんなに仕事残ってるのかしら…今日の記憶がないのよね…」
咲夜はそう言って首をかしげる。
「まぁまぁ、仕事って何ですか?手伝いますよ~」
こうして紅魔館に、幻想郷に、平和が戻った。
筈だった。
「ところで美鈴。一つ話があるんだけど…」
「はい?何でしょう咲夜さん」
咲夜は顔をおもいっきり赤面させて、もじもじとしていたが、意を決したようにその言葉を発する。
それでも小さい声だったが、
「私と…結婚しない?」
「……へ?」
美鈴にははっきり聞こえた。
「何か貴女にこれ伝えたような記憶はあるんだけどそのあとの記憶がすっぽり抜けててね…伝えてなかったような気もしちゃったから…ほら見て!お嬢様からお許しのサインも!」
「へ?」
あの…咲夜さん?もしかしてこれは…
…でも天子さんは確かに気を元に戻しましたし今だって咲夜さんの気は正常そのもの…。
そういえばあの天子さんは謝りながらなんて言っていた?
『丁度正午だったから今までの企みを…』
今日最初に婚姻届を見せられたのは何時頃?
覚えてないけど…会話の途中で正午の鐘が鳴ってたような記憶がうっすらと…。
つまり何か?
最初に婚姻届で騒いでた時間にはまだ天子さんは何もしていなかった?
そんな心の動きを気にもかけず咲夜は続ける。
今日の午前の終わりの頃のように。
「美鈴。私は私なりに色々考えた末の英断なのよ」
待て。
「まずね、思ったのよ。貴女にあんなことやこんなことをしたいって。でも、やっぱりナニをするにも強引にはしちゃいけないじゃない?だから結婚っていう既成事実を作ってから押し倒そうと思ってね」
待て。
「だからね、美鈴」
待って。
「私と結婚しましょう!!!」
待ってええええええええええええええええええ!!!!
おわれ
楼閣さんGJw
そして結局、スキマは酷い目にあってるな、計画通りに(笑
乙カレー
2828させていただきました
しかし、れみめーがオレのジャスティス!
狂っていたと思ったら実は素だったとは美鈴の苦労がうなぎ登りだw
そして美鈴、実家があって両親も健在だったとは知らなんだw
1>
にやにやしていってね!
私もにやにやしながら書いてました。
2>
幻想郷はいつも平和なのです。平和も平和、だけどゆっくり休めるような甘っちょろい世界ではない…!
スキマ?ああ…
計画通り(ニヤ
11>
実は『おわれ』は某めーさく(さくめー)同人誌作家さんの同人誌でたまに最後出てくるのです。
もしかしたらご存じかも?
26>
美鈴の受難ですよ。みんな美鈴が好きなのです。
ちなみに私はそんな紅魔館が好きなのです。みんなにダイブされる美鈴もまた書いていきたいのでよろしければまたそんな作品で。
27>
そうなんですよ。あんなに敗北者側な雰囲気でしたが実は当初の目的は達成してるんです。
まぁ代償はでかかったですけどね(笑)
28>
咲夜さんはいたって大真面目なのです。婚姻届も真剣そのものの表情だったに違いありません。
れみめー…だと…!?いいや!さくめーだ!(張り合ってみた
ATM 様>
やばい、そんなこと言われたらめっちゃテンション上がりますよ?自重しろってくらい。
これからも楽しんで頂ける美鈴を…じゃなかった、作品を書いていきたいのでどうぞよしなに。
それからそれから、ちゃっかりATMさん、あなたの作品も待ってますww
31>
咲夜さんは瀟洒なのです。最後まで期待を裏切らない。
瀟洒に勝者。あら、私ってばポエマーね?(阿呆
32>
フルスロットルなのは書いてる途中の私のテンションがぐるぐるだからです。
やっとのこと休めると思って家に着いた瞬間昨日さぼってしまった事がいっぱいあるのを思い出してしまったような疲れ方。おとーちゃんもおかーちゃん、美鈴は良い子に育っています。
私はしょっちゅう暗い過去を書きますがこの美鈴はきっと平和に平和に育ったのでしょう。
40>
いいや、さくめーがジャスティスだ。
いつからぶらぶな二人も書いてみたいけどそんな甘甘な描写は出来ないんだぜ…。
シリアス物を書いていた筈なのに先に完成したのはこれなのです。
美鈴と咲夜は書いててほんわかする。…いや、今回のこれはほんわかってよりは爆発みたいな。
書いてて楽しい、コメントもらって嬉しい、ああ。毎日書いて過ごしたい。
楽しかったです。
何だか知らないう内に目標としていた3000点を超えてますよ?こいつぁびっくりだ。
53>
美鈴おめでとう!!いや本当に美鈴好きとして萃夢想から外された事が悲しくてならない…。
楽しんで頂けて良かったです!
57>
あなたが私か。
くくく、あなたとは良い酒が飲めそうだ(私マダ未成年ヨ
さりげに紫が気の毒なんだがw
62>
いんや、このおr(ナイフだとっ!?
咲夜さんですすみませんでしたごめんなさい美鈴は咲夜さんのもの。異論は認めない。
64>
そうなのです。美鈴、君はいつごろ緋想天に参加してくれるんだい?
紫?…もう何も…言うまい…!
72 >
書いてる間ずっとニヤニヤしてた変人の作品ですから……(ふふふ
きゃっきゃうふふ。
74 >
咲夜さん……ちょっとそろそろ瀟洒の意味を思い出してみようか。
………「瀟洒=狙った獲物は逃さない」ま、こんなもんかな。
まさか自分の作品で70を超える評価数を見ることになるとは。
嬉しい限りでございます。ありがとうございます。
だがGJ
本当に申し訳ありません。
77>
もう駄目です。救えない。
そんな咲夜さんが好きです。大好きです。
振り回される美鈴も大好きです。
ありがとうございましたー!