紅魔館の廊下が歪んで見える。赤い絨毯も、白い壁も、橙色のランプも、全てが全て初めからそうであったかのように曲がって、咲夜の気持ちを苛立たせた。
固い廊下は粘度のように柔らかく、踏み出すたびに足を絡め取る。どれだけ優れたバランス感覚があろうと、地面が反抗しては満足に歩くことすら出来ない。咲夜は案の定、廊下に足をとられて無様に転けた。
拍子に手から零れた瓶を見て、ああ、と唸る。
歪んでいたのは自分の方か。
聞き覚えのない酒の銘柄が、自己主張も激しく、咲夜の目の前に転がってきた。僅かに残った酒は廊下が飲み干し、紅茶と血の匂いで満たされた紅魔館にアルコールの香りをまき散らす。
手入れの行き渡った絨毯が、毛布のように咲夜の身体を優しく包んでくれる。起きあがろうともせず、そのまま仰向けに寝ころんだ。仮にこんな奴が廊下の真ん中にいたとしたら、昨日の咲夜は許さないだろう。蹴飛ばすか、場合によってはナイフが飛ぶ可能性もある。
だが、こうして寝そべっているのは当の咲夜。戒める者などどこにもおらず、ただ怠惰に貴重な時間を垂れ流していく。その事が逆に面白くて、腹の底から笑いが零れる。
歪んだ赤い廊下に、咲夜の哄笑が響き渡った。
訝しげに避けて通る妖精メイドの姿もない。自由気ままに歩き回る静寂を打ち破ったのが、瀟洒な従者の馬鹿笑いというのは、果たして喜ぶべきことなのか否か。答える者は周りにおらず、咲夜の酔いは回復不能なまでに身体中まで行き渡っていた。
酔いは確かに回っているのに、不思議と意識は冴え冴えと澄んでいる。柔らかい絨毯に持ち上げられても、睡魔が襲ってこない程度に。
壁に手をつきながら、おぼつかない足取りで紅魔館の扉をくぐる。春先の空気は生ぬるく、お世辞にも気持ちが良いとは言い切れない。例え冬の冷気でも酔いを醒ますには至らないだろうけど、多少の目覚ましぐらいになってくれる。しかるに春の陽気は酔いを認めるようであり、到底酔い覚ましとしては機能しない。
酒臭い息を、空に吐きかける。叢雲が出番を忘れた夜に、顔を覗かせるのは仄かな月と、眩しい星の二つのみ。これを肴に一献傾ければ、さぞや風流な酒宴となった。
しばし時を捨てたように空を見上げ、風が木々をざわつかせる音で現実を思い出す。途端に身体がまたふらふらと、重心が抜けたように揺れるから不思議だ。煉瓦造りの道を踏みしめ、何処へ行くでもなく、しかして足取りはしっかりと目標があるかのように一点を目指す。
丁寧に手入れが行き届いた庭木をよそに、豪奢な造りの門が目に飛び込んできた。紅魔館の中で目を惹く物をあげろと言われたら、紅い館の次にその名を口にするだろう。遠く離れた湖の向こう側からも見える、館に住む者にとっては自慢の門だ。
故に、その門を守るのも紅魔館においては一つのステータスとなる。メイドよりも、門番として選ばれることを妖精達は望んでいた節があった。もっとも、この紅魔館において門番と呼ばれるのは一人しかいない。
紅美鈴。彼女こそが唯一人の門番であり、その他の妖精はいわゆるサポート役でしかなかった。多数の者から恨まれる主、レミリア・スカーレット。その館の門番ともなれば、並大抵の妖怪や妖精では勤まらないのだ。
時折、勝手にシエスタを挟むのが難点だったけれど、概ね咲夜は美鈴を高く評価していた。魔理沙やらアリスやら侵入者をザルの目のように通すことはあっても、招かれざる客を通したことは一度として無い。本当の意味でレミリアへ危害を加えようとする者を逐一に見抜き、鉄壁のようにして守ってきたのだ。
だが、さすがにそれは褒めすぎかもしれない。これだとまるで、美鈴が完璧超人のように聞こえてしまう。度を過ぎたシエスタで妖精共が勝手に入り、それで悪戯をしたことだってあったし、たまに仕事をサボって妖怪共と遊んでいた事だってある。その度に咲夜は追いかけまわし、あの帽子ごとナイフを突き刺してやったものだ。
「ああ、駄目ねぇ……酒が入ると昔のことばかり思い出しちゃう」
脳みそは文字通り味噌になり、歩く振動で記憶ごと揺さぶられる。その刺激が、咲夜に懐かしい思い出を見せるのか。
いや、懐かしいという表現はおかしい。だって、昨日まではそんな日常が送られていたのだから。
「ねえ、美鈴」
五メートルは超えようかという、大きく紅い鉄の門。その門にもたれかかり、抱えた膝に顔を埋めるようにして座り込んでいるのが、紅魔館の門番、紅美鈴だった。咲夜の呼びかけに答えるでもなく、ただじっと何かを待つように座り続けている。
彼女なら犬なら、忠犬の名を与えられても違和感はない。ただ彼女の目は、決して前を見ていなかった。咲夜と同じく、過去という後ろばかりを見ているのだろう。覚りでなくとも、このぐらいの推理は働く。
「そんなとこで俯いてないで、私と一緒に飲みましょうよ。一人で飲むのは寂しすぎるのよ、ねえ美鈴」
話しかけても、美鈴は微動だにしない。寝転けているのかと、咲夜は彼女の肩に手を伸ばした。
静電気でも走ったのかと、一瞬だけ勘違いをする。
手の先に鈍い痛み。咄嗟に痛む箇所を抑え、動揺する視線を美鈴に向けた。
拒絶を示すような、鋭い手の動き。伸ばされた手を払いのけたのは、紛れもなく美鈴の手であり、その目には敵意にも似た憎しみの色が見て取れる。そのくせ、表情はそれを隠そうとするように無表情に徹している。
「飲むなら一人で飲んでください。私は、とっても気が立ってるんです」
敬語こそ使ってくれているものの、敬意などは微塵も感じられない。それこそ、招かれざる客にでも接するかのような態度だ。いや、それよりも幾分か酷い。どんな敵が相手でも、これほどの憎しみを向けた事は無いだろう。
咲夜は戸惑った。酔っぱらいの戯れ言に怒りを覚えるのは理解できても、ここまで憎まれるとは思わなかった。
辛いのは美鈴とて同じ。だからそっとしておいて欲しい気持ちがあっても不思議ではない。それを打ち壊されたことに怒っても良い。でも、どうしてそこまで憎むのか。
じくじくと痛む手を押さえ、咲夜の足はいつのまにか一歩後ろへ退いていた。拒絶された驚きが、咲夜の身体を勝手に動かしたのだ。
「それに、気安く話しかけないで貰えますか。美鈴って呼ぶのも止めてください」
どれだけ冷たく言い放たれても、反論の言葉は出てこない。嗚咽にも似た意味のない呟きぐらいが、今の咲夜に出せる背一杯の声だった。
「だって、私とあなたはもう同僚でも何でもないんですから」
酔いの隙間から突き刺さる現実に、咲夜は顔をしかめ、逃げるように紅魔館へと戻っていった。
美鈴は追わない。追わずに再び顔を埋め、自らが仕えた主の名を呟く。
紅魔館に逃げ帰ったとて、するべき事など最早一つとして無かった。せいぜいがこのまま泣き崩れるか、また酒に溺れるのかの二択。自分の中にもまだ気丈な部分があったらしく、咲夜は美鈴の言葉を打ち払うかのように頭を押さえながら、地下へと足を運んだ。
程よい湿気に満たされた地下の空間は、酒を保存しておくにも適している。だからレミリアやパチュリーは秘蔵の酒を保管する為の部屋を拵えており、自慢のコレクションをそこに収めていた。咲夜が先程まで飲んでいたのは、そこから拝借したものである。
掃除とレミリアの命以外では、訪れたことのない部屋。いや、もう既に一回ほど訪れているか。よほど乱暴に漁ったようで、コレクションの幾つかは石畳の床に飲み干されていた。
赤いワインで出来た絨毯を踏み歩き、めぼしいものを幾つか持って出る。中にはパチュリーの物も含まれているかもしれないが、大した問題ではない。あの魔女は保存する行為が楽しいのだと言い張っており、普段から飲んでいるのは咲夜が飲むような安っぽいものばかり。現にこうして荒らしていても、文句の一つもつけやしない。何をしているのかは、把握しているくせに。
ふと、咲夜は足取りを図書館の方へと向ける。そういえば、パチュリーは何をしているのか。機能から息つく暇もない展開だったので、すっかりこの事が頭から抜け落ちていた。
高級そうな酒を片手に、図書館の扉を押し開く。無駄に重厚な音が響き、視界が一気に広がった。
「さ、咲夜さん!」
真っ先に自分を見つけたのは、司書のような仕事をこなしている小悪魔。本を運ぶ手を休め、突如として現れた訪問者に目を丸くしている。無理もない。いきなり酒臭いメイドがやってきたら、誰だってまずは驚きを覚えるだろう。
左右を確認したが、目当ての人物は居ない。
「パチュリー……様は?」
「パチュリー様でしたら、向こうで読書の真っ最中です」
「ふうん、読書」
俄には信じがたい話だ。こんな状況で、悠々と読書。咲夜が彼女の立場なら、確実に有り得ない。
小悪魔の嘘を暴くために、咲夜は本棚の谷を通り、いつものと全く変わらないパチュリーを見つけた。
「何してるんですか、パチュリー様」
わざと邪魔をするように、テーブルのど真ん中へ酒を立てる。弾みで本も僅かに揺れるが、パチュリーの表情は微動だにしない。咲夜などという存在は最初から無かったのだと、暗に言われているような気分だ。
それが咲夜の神経を更に苛立たせる。
「何であなたは読書なんかしてるんです。どうして、いつもと変わらないんです。そんなの、おかしいでしょ!」
どれだけ声を荒げても、パチュリーは答えない。
とうとう我慢できず、咲夜は強引に本を奪い取った。
しばし虚空を見ていた視線が、咎めるように咲夜の方へ向けられる。
「返しなさい」
「嫌です」
「酒に溺れるのも結構。当たり散らすのも結構。だけど、私の読書の邪魔はしないで。迷惑よ」
冷たい言葉を浴びせられても、今は何ともない。この程度、美鈴からの拒絶に比べればどうということもない。
「だったら質問に答えてくださいよ。あなたはどうして、こんな所で本なんか読んでるんですか」
「魔女だからよ。さぁ、返しなさい」
「それじゃあ答えになってないです」
伸ばされた手から逃げるように、本をパチュリーから遠ざける。
「此処はいつもの紅魔館なんじゃないんですよ。お、お嬢様が!」
躊躇いながらも、その現実を口にする。
「お嬢様が死んでしまったというのに!」
口にして改めて、それが現実なのだと痛感する。どれだけ酒に溺れても、どれだけ他人と接しても、レミリアの死からは逃れられない。
パチュリーは本を取り返すのを諦め、大人しく席についた。
「ええ、そうね。確かにレミィは死んだわ。だからいつもの紅魔館で無いと言えば、その通りよと答える」
レミリアの唯一にして、最も大事な友がパチュリーだと咲夜は聞いていたし、現にその通りだと思っていた。時には言い争うこともあったけれど、二人はどこか咲夜の理解できない部分で繋がっているものだと想像していた。
それは、所詮想像の中だけの話だったのか。パチュリーの冷静な態度を見ていると、そうとしか思えない。
「でもね、だからといって私が悲しまなくちゃいけない理由はないでしょ。レミィは良き親友だったけど、いずれは死に別れると分かっていたし。単にそれが昨日だっただけの話よ。まぁ、悲しくはあるけど読書を止めるほどじゃないわ」
出会えば別れる。蓬莱人もスキマ妖怪だって、その理に縛られるもの。
故に、出会った瞬間から別れのことを思うのはある意味では賢い選択なのかもしれない。だからパチュリーの言葉は、まさに賢者が言うべき台詞で、悪いのはそれを理解できない咲夜の方。そういう風に、捉えることだって出来る。
でも、咲夜は反論した。自分は人間なのだ。賢者のように割り切ることなど出来ない。
「パチュリー様にとって、お嬢様ってのはそんなのに軽いものだったんですか」
「そうよ、と答えればあなたは満足するかしら」
「私は違います。私にとってお嬢様は絶対でしたし、全てでした! だからお嬢様が死んで、私はとても悲しいです! あなたみたいな魔女には分からないでしょうね! ああ、お嬢様! お嬢様!」
叫びに叫び、咲夜はそのまま机に突っ伏せる。それでも口からはお嬢様という単語が漏れだし、パチュリーの溜息を聞いたところで咲夜は意識を手放した。
「小悪魔、部屋にでも送ってあげなさい」
冷血な魔女に、その瞬間だけは感謝の念を送る。
目を開けたら、そこに広がるのはいつもの紅魔館。我が儘なお嬢様に振り回され、美鈴と肩をつきあわせながら苦笑する日々。空想の世界ではありがちな展開を、これほど望んだ目覚めもあるまい。
二日酔いと呼ぶのも生やさしい頭痛と吐き気が、咲夜を乱暴にたたき起こした。生ぬるい妄想など、それで全てあっさりと吹き飛ぶ。頭の中に住む小人が、ノミやトンカチで削っているような痛さに顔をしかめながら、それでも咲夜は気丈にベッドから降りた。
咎める者は最早おらず、寝ていても問題はないのに。メイドとしての習慣が、咲夜を突き動かすのだ。気が付けば、いつのまにか新しいメイド服に着替えていた。袖を通した服の感触が、冷たくて気持ちがいい。
備え付けの水差しは変えるのを忘れたせいか、酷く生暖かく、飲んだのに飲んだ気がしなかった。調理場に行けば、もっと冷えた水があるだろう。水差しを片手に、咲夜は調理場へと向かう。
道中。ふと、何の気まぐれか、足が止まった。
習慣というのは恐ろしい。咲夜が起きた後に向かう場所など、一つしかないのだ。
「……お嬢様」
レミリアの部屋の前で、もういない者の名前を呟く。咄嗟にドアノブへ伸ばした手が、凍ったように動きを止めた。
心の片隅では、レミリアの死をアルコールが見せた悪夢だと思っている。昨日の光景は全て幻で、レミリアは死んでおらず、まだ安からに寝息を立てているのだ。そんな有り得ない幻想が、この扉を開けたら覚めてしまうような気がして、咲夜は躊躇った。
だけど、いつまでも夢を見ているわけにはいかない。悪夢でも良夢でも、夢は覚めなければならない。
意を決し、木製の扉を開く。
薄暗い部屋の中、端の方に備え付けられた天蓋付きのベッドの上。微動だにせず眠るレミリアの胸には、見覚えのある銀のナイフが深々と刺さっていた。昨日見たとおりの光景が、再び咲夜の網膜を刺激する。
二日酔いではない頭痛と吐き気が襲ってきた。我慢しきれず、トイレに駆け込む。
ああ、これは夢じゃないのだ。
胃液と共に吐き出した言葉で、現実を改めて実感すると共に、激しい怒りが湧き上がってくる。よりにもよってレミリアの命を奪った凶器は、咲夜が所有していた秘蔵のナイフだったのだ。
かつて、咲夜もレミリアの命を狙う一人だった。ようやくのことで紅魔館の位置を突き止めた咲夜は、単身で乗り込んだ。
そして見事にレミリアという吸血鬼の前に膝を屈したのだ。特殊な儀法を施された対吸血鬼用のナイフも、使わせて貰えないのなら意味がない。だが仮にこれで心臓を貫いたとしたら、いくら回復力に優れた吸血鬼とて、絶命を免れることは不可能。
だから、たかがナイフ一本でレミリアが死んでしまった事は、咲夜からしてみればさして驚くような事ではない。問題はそのナイフ。レミリアの命を奪うのではなく、守ろうと決めた日から、あのナイフは厳重に厳重を重ねた場所に保管しておいたはず。
本当なら破壊しても良かったのだけれど、吸血鬼に壊されてはたまらないからと馬鹿みたいに固くしてあったのだ。フランドールでもなければ、破壊することはできない。そしてフランドールは、面白そうだから残しておこうよと咲夜の頼みを断った。
迂闊に使われてはたまらないと盗難には気をつけていたはずなのに。どうして持ち出され、そしてレミリアにも気付かれることなく殺すことができたのか。レミリアも馬鹿ではない。誰かが部屋に入ってきたら気付くし、抵抗だってするはず。
だというのに、部屋には争った形跡すらない。まるで寝ているレミリアに、そのままナイフを突き刺したような綺麗さがある。
咲夜は自覚していた。こんな芸当が出来るのは、おそらく自分だけだと。
どんなに厳重に注意しようと、当人ならば意味を成さない。そして咲夜ならば、時を止めてレミリアの心臓を貫くことが出来る。あの時は出来なかったことでも、今のレミリアなら咲夜に気を許しているから、成功する確率は高い。
だが、少なくとも咲夜は知っている。自分が犯人ではないことを。
たとえ酒に溺れても、意識ははっきりとしていたのだ。だからこそ、激しい嫌悪感が身体を襲っているわけだが。
それに、そもそも酒を飲んだのはレミリアの死を確認した後。それまでは素面で、いつも通りメイドとしての業務をこなしていた。
あるいは、あのナイフを残しておこうと言い出したフランドールが犯人なのかもしれない。ふと思いついた仮説はしかし、一瞬にして棄却される。馬鹿馬鹿しい。フランドールが犯人だとしたら、あんなナイフなど使う必要がない。普通に能力を使えば、レミリアとてひとたまりは無い。
地下から脱出する為にレミリアを殺すという動機はある。あるのだが、それにしたって気付かれずに部屋に侵入した方法だって不明だ。レミリアもフランドールには特に警戒していたはず。なにせ自分が地下に閉じこめた相手なのだから、恨みを買っていることぐらい分かっていただろう。
だとすれば、誰がレミリアを殺したのだ。
パチュリーも小悪魔も違うし、美鈴に至って自分と同じくらい有り得ないと断言できる。
とすれば、外の奴らの仕業か。
水差しの水を入れ替えたばかりだが、紅魔館に留まる気はもう失せた。レミリアの死体をあのままにしておくのは気がひけるものの、犯人捜しの方を優先すべきだろう。それをレミリアが望んでいるのかどうかは知らない。ただ、咲夜が我慢ならないだけだ。レミリアを殺しておきながら、犯人だけはのうのうと日常生活を送っていることが。
怒り狂う理性の側で、本能が囁く。本当は、単にレミリアの死から遠ざかりたいだけなのだろうと。こうして誰が犯人か考え、怒りに燃えている間は悲しみに暮れる事がない。そうして自分の気持ちを誤魔化すよりも、レミリアを弔ってやる方が先ではないのか。
理性と本能の言葉を天秤にかける。一切の手を加えることなく、秤は思い切り片手を上げた。
開けっ放しにしていたレミリアの部屋の扉を閉め、鍵をかける。次に扉を開く時は、この世から犯人が消えた時だと、誓いながら。
静寂を尊ぶ紅魔館なれど、針を落とした音まで聞こえるほど静かならば逆にどこか落ち着かない。門番が妖しげな動きをしながら繰り出す掛け声もなく、仕事をしない妖精メイド達が遠くでしているお喋りの声も聞こえない。
ふと窓の外を見ても、広がるのは花に満たされた綺麗な庭園のみ。失って初めて気付く愚かさなど、自分には無縁のものだと思っていたが、やはり咲夜も人間のようだ。今となっては、そんな騒がしさが少し懐かしい。
昔を思い出すように、遠くを見つめながら歩く。窓の外ばかりが視界にあったせいで、暗がりから姿を現す彼女には気付くことが出来なかった。
「ねえ、咲夜」
姉を失ったというのに、フランドールの声には陰りがない。元々気が触れているということもあるが、彼女からしてみればレミリアは消えても困らない存在なのだろう。むしろ助かっているとも言える。だからこそ疑っていたわけだが、やはりフランドールがわざわざ咲夜のナイフを盗んでまで殺すとは思えない。
それでも一応の警戒はしながら、なんでしょうか、と咲夜は答える。
至極楽しそうに、フランドールは言った。
「どこに行くのか知らないけど、気を付けた方がいいよ」
「それは、お嬢様を殺した犯人が彷徨いているからということですか?」
フランドールは首を振る。サイドに束ねた金色の髪が、馬の尻尾のように左右へ揺れた。
「犯人なんて咲夜は怖くないでしょ。いるのはね、それよりもっと恐ろしいもの」
「恐ろしいもの、ですか」
「そう、とっても怖いもの。だから早く逃げないと、捕まっちゃうよ」
愉快げな口調は、この状況を楽しんでいるかのようだ。これで相手がフランドールでなければ、機嫌が悪かったこともあり、確実にナイフが眉間に飛んでいた。
「ご忠告感謝します。以後、気をつけますわ」
「うーん、きっと咲夜は私の言葉なんか全然分かってないんだろうね。でも、いいよ。どうせ、そのうち分かるから」
それだけ言い残すと、フランドールはあっさりと咲夜の横を通り抜けて、何処かへと消えていく。あのフランドールをもってしても恐ろしいと言わしめる存在は気になるものの、だからといって調査を止めるなどという選択肢は存在していない。
この手でレミリアを殺した犯人の息の根を止めるまで、咲夜が立ち止まることはないのだ。
ナイフをいつでも取り出せるよう確認しながら、紅魔館から出て行く咲夜。
とりあえずは、まず美鈴からも話を伺うべきである。門の前にずっといたからといって、何も知らないというわけではない。何か目撃しているかもしれないし、何か知っている可能性もあるのだ。
煉瓦造りの赤絨毯を踏みしめる。
そして咲夜は、フランドールの言葉の意味を知った。
守るべき門を背中に、守るべき館を前に。いつもとは逆の配置で立ちはだかる美鈴が、咲夜に殺意の籠もった視線を向ける。
言葉がなくとも、彼女の思考が容易く読み取れた。何故なら、咲夜が美鈴ならばきっと同じ事をしただろうから。
「お待ちしていました、十六夜咲夜」
「あなたからフルネームで呼ばれるのは、久しぶりね」
一歩近づく。
「私が何をしたいか、聡明なあなたならもう分かっているのでしょう?」
「私が厳重に保管したナイフで、私の能力ならば殺せる方法でお嬢様が死んだ。我ながら、反論の余地は無いわね。違うと言っても、信じてはくれないのでしょ?」
「ええ。それにあなたは、以前お嬢様の命を狙っていましたから動機も充分です」
「そんなつもりなんて、とうの昔に捨てたわ」
「口だけなら何とでも言えます」
「だから手を動かしたと?」
「そしてその足で逃げるつもりですか?」
「真犯人を捜しに行くのよ、と言っても無駄なんでしょうね」
例えば咲夜から見た場合。レミリアが何者かの拳で貫かれ絶命したとしよう。そして現場には美鈴の帽子が落ちていた。そんな如何にもという落とし物、平常時なら罠か何かだと気付く。
どうして、わざわざ自分だと証明するような物を落としたままにするのか。仮に犯人だとしたら、確実に拾って証拠隠滅を図る。
だけど、そんな理屈は通用しないのだ。疑わしきは罰する。少しでも可能性があるのならば、咲夜はお嬢様の仇とばかりに美鈴を殺していただろう。
短絡的に思えるかもしれないが、それほどまでに咲夜と美鈴はレミリアに忠誠を誓っていたのだ。
「真犯人なら私の目の前にいます。だから解決編なんてありません。あるのは、断罪編のみ」
「私を殺しても真犯人は生き残るわよ」
「しつこい。あなたを殺せば、それで終わりなの」
仁王立ちから、左手を前に突き出した格好の構えをとる。放たれる気迫だけで、美鈴の本気が伺えた。言葉でどうこうできるような状況ではない。この場で語れるものがあるとすれば、それは拳ただ一つ。
頭に血が上った相手への対処法は、殴って気絶させて落ち着ける他にない。
拳代わりのナイフを取り出し、美鈴に立ち向かう。
「私が全て終わらせてあげます、十六夜咲夜」
「始まったばかりだというのに、妄言も大概になさい。紅美鈴」
咲夜が高く買っていた美鈴の目も、憤怒に染まると曇ってガラス玉以下になるらしい。弾幕ごっこならいざ知らず、本気の勝負で咲夜に勝てるはずもないのに。
勝てたレミリアの方が異常なのだ。あくまで人間の延長線上にいるような妖怪には、到底咲夜を倒すことなど出来ない。戦わずともそれは理解しているはずなのに、レミリアを殺された怒りが彼女の背中を押しているのだろう。
美鈴が一歩踏み込むより早く、咲夜はこの世の動きを止めた。かつての自分なら、ここで美鈴をバラバラにしていただろう。生憎と、そんな気持ちはもう欠片もないが。
館から縄を持ち出し、それで美鈴を門柱にくくりつける。縄如きで封じられるとも思えないので、咲夜は時が動き出すと同時に身構えた。
「っ!」
驚きの表情の美鈴。
そこへ、容赦のない一撃を叩き込む。気絶する程度の打撃が、美鈴の額に打ち込まれた。
「悪いわね、美鈴。しばらくそこで頭を冷やしてなさい」
意識を失った美鈴に、その声はまったく届かなかった。
いざ紅魔館を出ようとしたところで、咲夜の足は一歩も動かなくなる。怯えや萎縮が時を止めているのではない。いまだ晴れない闇が立ちはだかっているのだ。
踏み出すべき一歩は、果たして何処へ向けたらいいのか。
自分が犯人でないとしたら、確実に犯人はどこかにいるはず。だが、その犯人が誰かも分からないのなら仇討ちも復讐もあったものではない。
加えて、咲夜は名探偵でもなかった。どちらかというと探偵の推理に身を任せ、犯人を追って捕まえる犬のような役割が性に合っている。アリバイだのトリックだのに頭を悩ませるのは、どうにも苦手だ。
ただ、犯人に心当たりが無いわけではない。いつぞやの三妖精なら誰にも見つからずに咲夜のナイフを盗めるだろうし、河童だって光学迷彩があれば可能だ。もっとも、いくら姿を消したところでレミリアを殺すには至らないだろう。
気配は消えない。殺気を感じれば、レミリアだって跳ね起きる。
残る候補が、咲夜の頭に思い浮かんだ。幻想郷でも最強の部類に入る妖怪にして、最も胡散臭い妖怪。あらゆる異変に関わっていそうな彼女ならば、この程度の異変はお手の物だろう。
こんなまどろっこしい手段を使うのかと言われれば疑問だが、可能か不可能かと問われれば可能と答える。八雲紫なら、咲夜のナイフを盗み出し、いとも容易くレミリアを殺すことができるだろう。
問題は、あの妖怪がどこにいるかということ。神出鬼没を地でいく紫を見つけることは、大海に落ちた砂時計を見つけるより難しい。それに会ったとて仇が討てるとは思いがたいが、それは考えるべきことではなかった。例え勝ち目がなくとも、挑むべき戦いなのである。
「あら、咲夜。お出かけだったかしら?」
いまだ門の前で立ちつくす咲夜は、はっと顔をあげた。見覚えのある人形使いが、訝しげな目でこちらを見ている。
「ええ、ちょっと。八雲紫のところまで。あなたはパチュリー様に本を借りにきたの?」
「そのついでに、あなた達の様子も窺いに来たのよ。案の定」
チラリ、と門に縛り付けられた美鈴に視線を向ける。
「色々と大変なことになってるみたいだけど」
聡いアリスのことだ、気絶した美鈴を見ただけである程度は察したのだろう。呆れたように肩をすくめ、立ち去ろうとする。
「ああ、それと一つ言っておくけど八雲紫は犯人じゃないわよ。彼女ではレミリアを殺せない」
唐突な発言に、思わず面食らう。この状況で紫の所へ行くと言ったから、疑っていることを推理するのは容易い。だからそこは驚くべきところではなく、後者の言葉が咲夜の動きを止めたのだ。
犯人では、ないと。
後ろ頭を掻きながら、アリスは淡々と答える。
「何を馬鹿なと思ってるんでしょうけど、これは紛れもない事実。今回の事件、八雲紫には……いえ、八雲紫では絶対に殺せない」
「理由を聞かせて貰えるかしら? それだけ思わせぶりな台詞を残して、まさか此処までという事はないわよね」
「別に勿体ぶるような理由でもないもの。至極単純な話よ」
アリスは言った。
「だって、八雲紫は冬眠してるんですもの」
他の誰でもアリバイにならず、しかし八雲紫にだけは完璧なアリバイとなる冬眠。アリスも咲夜も知っている。一度その眠りに落ちてしまえば、梃子でも大砲でも紫が起きないことを。
自分からなど、それこそ幻想郷の危機だ。何か天変地異が起こっても不思議ではない。
それほどまでに深い冬眠に入ることができる紫。その彼女が起きてレミリアを殺すなど、到底有り得ない話になった。
踏みだそうとした足が、再び元の位置へ戻ってくる。紫が犯人でないとしたら、一体誰がレミリアを?
足だけでなく、疑問も元の位置に納まる。
動かなくなった咲夜に、アリスは落胆の色を見せた。
「てっきりあなたは聡明な方だと思っていたけど、買いかぶりすぎだったかしら。それとも、頭に血が上ってたのはあなたの方?」
石畳を歩くアリスが、小馬鹿にしたような声をあげる。そして、こちらを見ようともせず、そのまま紅魔館へと足を運ぶ。
「あなたにも見つからずにナイフを盗み、誰にも気付かれることなく部屋に入り、レミリアにさとられることなくナイフを突き立てる。そんな芸当が出来る奴なんて、もう後は一人しかいないじゃない」
咲夜の脳裏に浮かび上がる、地霊殿の覚り姉妹。
姉は現役の覚りであったが、確か妹は心を閉ざしているという。その影響か、人の無意識を操る事が出来るそうだ。その能力があれば、アリスの言ったことを現実にするのはさして難しいことではない。
誰もいなくなった容疑者の欄に、新たな名前が刻み込まれる。
アリスへの礼も忘れて、咲夜は地霊殿へと向かった。
「きゃっ!」
時間を止めて、侵入した地霊殿。その主たるさとりの前で、咲夜は時間を動かした。きっと彼女には、いきなり咲夜が現れたように見えるだろう。
「い、いきなり現れないでください!」
座っていたソファーからズレ落ちたままの姿勢で、さとりは怒鳴った。いくら妖怪と言えども、驚いた時は割合可愛い声をあげるものだ。謝罪ではなく、そんな考えが頭を過ぎる。
だがさすがは覚り妖怪。その考えを読み取ったらしく、顔を赤らめながらソファに座り直した。
「コホン、大変お見苦しいところをお見せしました。出来ることなら、忘れてください」
「別にあなたの醜態なんてどうでもいいわ。それより、私にはすべき事があるの。あなたなら、分かっているんでしょう?」
さとりに言葉など不要。だから咲夜は何も言わずに。
そして、さとりも何も聞かなかった。
それでも会話は成立するのだから、覚り妖怪というのは、こういう場合にあってはとても便利な能力を持っているのだと言えよう。
「こいしの居場所でしたら、私は知っています」
「教えなさい、今すぐ」
ナイフにも劣らぬ殺気をぶつけても、さとりが動じる様子はない。それどころかむしろ、先程よりも落ち着いた格好で少々紅茶が零れたティーカップに口をつける。
「それを教えたら、あなたは私の妹を殺そうとするでしょう。そうと知りながら、教える姉がいるとでも?」
分かり切った事だ。元より、穏便な方法で聞き出せるとも思っていない。
咲夜は密かにナイフを握り、しかしそれを見抜かれた。
「物騒な方ですね。出来ることなら、それを仕舞って貰いたいのですが」
「出来ない相談ね」
「仕舞った方が良いと思いますよ。そうでなければ、こいしの居場所を教えることができない」
さとりの口調に、奇妙なものを覚えた。眉を顰め、若干ナイフを握る手を緩める。
「どういうこと?」
「こいしの居場所を教えましょうと、言っているのです」
予想外の言葉が飛び出し、逆に警戒心を覚えた。
「警戒しているようですが、嘘を教えたりはしませんよ。あなた相手にそんなことをしてもすぐにばれるでしょうし。時間を止めている間に確かめれば済む話ですからね」
「だからといって、すぐに信用できるわけじゃないわ。言ったじゃない。大切な妹なんでしょ?」
例えフランドールを監禁したとて、レミリアがフランドールを邪険にしていたというわけではない。確かに敬遠はしていたかもしれない。だが、それは長らく接していなかったから付き合い方が分からないという、ある意味では自業自得のような離れ方。
決して心の底から憎いと思っていたわけではないのだ。
「大切な妹だからこそ、ですよ。ここで庇ったとて、あの子の為にはならない。もしもあなたがナイフを収めるとしたら、それは私ではなくこいしの言葉であるべきなのです」
ティーカップを置く音が、広間に響き渡る。
「此処を出て右に曲がった突き当たりの部屋が、あの子の部屋」
淡々と、事務的に、さとりはそう言った。
彼女にも何か思惑があるのだろう。それが何か、覚りではない咲夜には到底理解できるはずもない。だから、自分に出来ることをしよう。お嬢様の仇を討ち、真犯人を同じ目に遭わせるという、咲夜にしかできない仕事を。
何も言わなくなったさとりを余所に、咲夜は言われた通りのルートを進む。仄かな灯りが窓ガラスを通し、紅魔館を思わせる赤い絨毯を照らし上げた。蝋燭の炎とは違う、儚くも力強い灯り。紅魔館なら確実に、主が遮光させていただろう。
長い廊下を歩ききり、こいしの部屋と書かれたプレートが目に入る。中には誰かが居る気配がする。
咲夜は時を止め、無造作に扉を開けた。ニコニコと満面の笑みを浮かべたこいしが、まるで誰かを待つように、ベッドの上に腰を降ろしてこちらを見ていた。時は相変わらず止まっている。
このまま首を撥ねてやろうかと思う。だが、それではただ復讐に過ぎない。咲夜は気になっていたのだ。どうして、レミリアを殺す必要があったのかと。
こいしならば、まさかレミリアを倒して功名を上げようなどと考えはすまい。そういった俗世からはどこぞの巫女並に縁遠い存在だ。
だとしたら、一体何故?
それが咲夜の頭を駆けめぐり、ナイフの切れ味を鈍らせる。
溜息と共に怒りを吐き出し、剥き身のナイフをこいしの喉元に添えた。そして、そのまま時間を動かす。
「動かないで」
言うまでもなく、こいしは動かない。
「余計な話や嘘をつけば、即座にあなたの喉元を掻っきる。だから素直に真実を吐き出した方が良いわよ。命が惜しいのなら、ね」
低い声で脅しをかけても、一向にこいしは動じない。足をぶらぶらとさせながら、まるで咲夜がいないかのように振る舞っている。
「分かったなら返事をしなさい」
「んー、大丈夫聞こえてるよ。真実を言えば良いんでしょ」
「……そうよ」
あまりのやりづらさに、咲夜の顔色が曇る。悪びれない奴というのにも出会ったことがある。だけど、そういう奴らも危機的に状況にあれば誰だって混乱や動揺の一つぐらいするものだ。
だけど、こいしは全く感情を揺らさない。悪びれないというレベルではなく、そもそも悪いと思っていないのではないか。そう考えるさせるほど、邪気が無いのだ。
だが、無邪気ならば何をしても許されるわけではない。いくらこいしが純粋だろうと、無邪気だろうと、レミリアを殺したというのなら感情も性格も外見も何もかもが関係ない。 咲夜はただ、そのナイフを振るうだけなのだ。
「私が保管しておいたナイフを盗んだのはあなた?」
「ええ、私」
「じゃあ……」
一端呼吸を整え、ナイフを握る手に力を籠めて尋ねた。
「お嬢様を殺したのもあなた?」
こいしは間髪入れず、答えた。
「うん、そうだよ」
躊躇う理由などない。その言葉を聞いた瞬間に、動機も何もどうでもよくなった。
ナイフはこいしの喉に食い込み、
「永琳から頼まれたの」
一筋の血を垂れ流したところで、止まった。
刹那が過ぎれば命を落とす状況にあっても、笑顔のままのこいし。一方の咲夜は冷淡であろうと勤めた表情が、聞き覚えのある名前で脆くも崩れた。
「永琳?」
「そう、永遠亭のお医者さん。彼女が言ったんだよ、私にレミリアを殺して欲しいって」
「そんな、馬鹿な……」
命乞いの嘘をつくような妖怪ではない。だとすれば、こいしの言っていることは真実になる。
永琳が何かしらの理由で、こいしにレミリアの殺害を依頼した。
「別に私は吸血鬼を殺したいわけじゃないけど、報酬くれるって言うから」
こいしの言葉は届かない。咲夜の頭は必死になって、永琳とレミリアの関係を探っていた。もっとも、そんなものは考えてどうこうなるものでもない。そもそも、こいしとレミリアの関係だって有ってないようなものだ。
だが密かに関係があったとしても、それは殺害を依頼するような仲なのか。かつて邪魔をされた恨みというならば、レミリアの他にも被害者が増えるはずだろうし。咲夜だって無事では済まないだろう。
考えるのは性に合わない。直接、本人の口から聞くしかないようだ。
永遠亭に向かいましょう。
現実に意識を向けた咲夜は、そこで初めて、こいしの姿が消えている事に気付いた。
「随分と、乱暴な登場ね」
いきなり姿を現した咲夜を見ても、永琳は全く動じない。こいしはそれを笑顔で迎えたが、永琳は呆れ顔で溜息をついた。
金木犀の香りが鼻腔を刺激し、すぐさま得体のしれない臭いに取って代わられる。医者でもなければ、あまり長居をしたくない場所だ。
「一応診察を残しているんだけど、その様子じゃあ許してくれそうにないわね。まったく、明日が大変だわ」
持っていたカルテを仕舞い込み、永琳は咲夜に向き直る。話が早くて助かるけれど、理解が早すぎて逆に不気味だ。
患者のように目の前へ立ちながら、ナイフを突きつける咲夜。蓬莱人には死が脅しの手段にならないと知っていても、手放すことはできなかった。
「何故、こいしにお嬢様を殺すよう命令したのかしら?」
まどろっこしい駆け引きなど、今はしている場合じゃない。会って早々、咲夜は本題を切り出した。ともすれば物騒な発言に、永琳は眉一つ動かさない。何か思い当たる節があるのか。やはり、こいしの言葉は正しかったようだ。
風邪です、と告げるような淡々とした口調で永琳は答える。
「誰かレミリアを殺せる奴はいないかと、頼まれたからよ」
「た、頼まれた!? あなたも誰かから頼まれたっていうの!」
「そうよ。とある条件と交換に、私はその依頼を引き受けた。そして思い当たる節があったから、こいしへ依頼しに行ったの。レミリアを殺してくれないかと。彼女も条件付きで、何とか引き受けてくれたわ」
死なないと分かっていても、冷淡な永琳の言葉に殺意を押さえることはできなかった。気が付けば手のナイフは姿を消し、永琳の右肩に突き刺さっていた。赤と紺が交差した服が、赤一色に染まろうとしている。
肩のゴミでも払うような仕草で、永琳は無造作にナイフを抜いた。血まみれのナイフを拭き取り、痛いじゃないのよ、と言って返す。その馬鹿にしたかのような態度が更に怒りを増幅させるも、どれだけやっても無駄なのだと冷静な理性が押しとどめる。
「まぁ、あなたの行動も理解できるわ。直接手を下していないとはいえ、斡旋した罪が私にはある。だから殺してやりたいという衝動も納得はできるわ。ただ、私が絶対に死なないだけで」
「だったら!」
机に拳を振り下ろす。書類の束が、驚いたように跳ねた。
「あなたにそれを依頼した人物を教えなさい!」
こいしは逃した、永琳は殺せない。犯人は分かっていくのに、レミリアの敵討ちは一向に進展を見せない。その苛立ちも咲夜の背中を押している。
「一応、黙っておいてくれと言われたんだけど……いいわ。さすがにこれは、あなたにも知る権利がある。身内同士の事なんですもの」
頭にのぼった血が、急速に冷めていく。
「私にレミリアを殺して欲しいと頼んだのは」
変わらぬ平坦な声で、永琳は聞き覚えのある名前を告げた。
「パチュリー・ノーレッジよ」
「思ったよりも、早かったわね」
咲夜を見たパチュリーの第一声。それで永琳の言葉が真実なのだと証明されてしまった。
だが、怒りは湧いてこない。あるにはあるのだが、それよりも疑問が先立ってしまう。
何故、親友を殺すよう頼んだのか。咲夜が見ている限りでは、パチュリーとレミリアは殺し合うような仲ではなかった。何か理由があるのだ。
いつものように読書の最中だったパチュリーは、椅子にもたれかかりながら、重苦しい溜息をつく。
「あなたの訊きたいことは分かるわ。その表情を見れば、さとり妖怪でなくとも心中を読むことができる。気になるんでしょう、私がレミィを殺して欲しいと依頼した理由が」
「その通りです」
考えても考えても、答えは欠片も思い浮かばない。
「でもね、それは説明するほど大層な理由でもないわ。そう、単に煩わしいと思っただけよ。レミィの我が儘が」
どこか呆れるように、遠くを見ながらパチュリーは言う。
「私は本来、一人で黙々と作業をしている時間の方が好きなの。読書の時間を愛おしく思っているの。でも、レミィはそんな事お構いなしに私の時間へ侵入してくる。だから、ちょっと鬱陶しく思っていた」
「……ただ、それだけの為にお嬢様を?」
顔の前を飛び回る蚊を叩きつぶすのとは訳が違う。ただ鬱陶しいだけで殺していては、どんな社会でも成り立たない。いやそもそも、そんな理由で尊敬すべき主を殺されたというのか。
俄には信じがたい話でも、パチュリーの淡々とした様子を見るからに真実なのだと思えてしまう。だとしたら、咲夜のすべき事は一つだけだ。いくら相手が主の親友だとしても、その主を殺すよう命じたのなら躊躇いの気持ちも雲のように吹いて消える。
よもや手にかけることはあるまいと、仕舞っておいたナイフを取り出す。それを見てもパチュリーは、顔色一つ変えなかった。
「レミィを殺させた時点で、こうなることは分かっていたわ。咲夜にしろ美鈴にしろ、間違いなく元凶を許しはしないでしょうから」
「分かっていて、それでも命じたのですね」
「煩わしさが友情を上回れば、誰だってそうすると思わない?」
「思っていたら、私はナイフを握らない」
苦笑を零し、読んでいた本を閉じる。
「もっともね」
そしてパチュリーは、目を閉じた。
咲夜はナイフを振りかぶり、投擲しようとしたところで止まる。
「待ってください!」
駆け込んできた小悪魔が、立ちはだかるように咲夜の前に転げ出る。咄嗟のことで咲夜も動じ、ナイフを投げることを忘れた。
「咲夜さん、違うんです! パチュリー様が命じたわけじゃないんです!」
必死な顔で、主張する小悪魔。
「パチュリー様も脅されていたから、仕方なくレミリア様を殺さないといけなかった。本当はパチュリー様だって、殺したくはなかったんですよ!」
ちらりとパチュリーに視線を移せば、先程の平静が嘘のように顔色を変えている。あれが演技だとしたら、銀幕の世界でも大いに活躍できる。
咲夜はナイフを掲げた姿勢のままで、小悪魔に尋ねた。
「じゃあ、誰かがパチュリー様を脅したと?」
一瞬だけ躊躇った表情を見せ、恐る恐る小悪魔は口を開く。
「そ、それは……」
「小悪魔!」
パチュリーの制止も無視して、その名前が咲夜に告げられた。
「アリス・マーガトロイドさんです」
ここにきて、更に予想外の人物が登場する。驚愕も慣れれば麻痺すると思っていたけれど、何度訪れても驚くものは驚く。
眉根に皺を寄せ、確かめるように名前を呟いた。
「アリス・マーガトロイド」
魔法の森に住む人形使い。何度も紅魔館に訪れているし、現に今日も会ったばかりだ。
もしも本当に彼女が真犯人だとしたら、この盥回しの意味も聞き出さなければならない。こんなまどろっこしい手順まで踏んで、レミリアを殺したのは何故か。
踵を返す咲夜を呼び止める、パチュリーの声。
「ちょっと待って、咲夜」
気持ちは前へ進んでいても、身体は素直に止まってしまう。パチュリーにも一応は、仕える身だったのだ。昨日今日でどうこうなるものでもない。
病人のようにフラフラとおぼつかない足取りでこちらへ近づき、おもむろに肩を叩かれた。
「私がこんな事を言える身じゃないのは分かっているけど、レミィの仇を討ってあげて。もしも我慢ならないのなら、私を殺しても構わない。でもせめて、こんな事をした理由ぐらいは知って逝きたいのよ」
いくら脅されたとはいえ、パチュリーのした事は許されるものでもない。咲夜の心には相変わらず怒りの炎が燃えたぎり、到底消えることはなかった。
だがしかし、その炎はパチュリーを灰にする為のものではない。こんな馬鹿げた伝言ゲームじみた構図を作った、犯人こそが咲夜の標的。
それがアリスだというのなら、死という罰を受けるのはアリスだけでいい。
パチュリーをどうするかは咲夜は決めることではなく、パチュリー自身が考えて導き出すことなのだ。
敢えて返事を返すことはなく、咲夜は無言で紅魔館を後にした。
止まった時間の中、パチュリーがどういう反応を見せたのか、咲夜には分からない。
「あなたに言いたいことは三つ。一つ、私が犯人ならば八雲紫の冬眠について教えない。二つ目、私には動機がない。そして三つ目」
心底から呆れたように、アリスは咲夜を睨み付けた。
「私がどうすればパチュリーを脅せるのよ?」
徐々に覚醒しつつある意識が捉えたのは、どこか聞き覚えのある人たちの声だった。朦朧とする美鈴には、生憎とそれが誰の声かは思い出せない。ただ、確実に紅魔館にいる者の声だとは分かる。
背中の冷たい門の感覚で辛うじて、自分の今の状況だけは思い出せた。咲夜に負けて、門に縛り付けられたのだ。だとすれば声の主達は、紅魔館から外へ出ようとしているのか。
美鈴の直感は告げていた。
この時期、この状況。もしもわざわざ紅魔館から出る者がいたとしたら、それは確実に犯人である。逃走を図ろうとしているに違いないと。
だから咲夜が出てきた時は、もう確実に犯人なのだと断定した。
だけど今にして思えば、あるいは咲夜は美鈴と同じように犯人を探していたのかもしれない。状況は確実に咲夜を指し示していても、やはり美鈴には信じる事ができなかった。自分と同じぐらいレミリアを敬っている咲夜が、主殺しなどという大罪を犯すだなんて。
その迷いが、戦いの勝敗を分けたのかもしれない。薄ぼんやりとした意識の中で、そんな事を思った。
「で、でも大丈夫なんですか? 咲夜さん、戻ってきませんよね?」
「安心なさい。さっき、肩を叩いたでしょう。あの時に時限式の術を施しておいたわ。今頃は急に能力が使えなくなって、焦ってるでしょうね」
「そ、それなら良いんですけど……大体、本当ならもっと早く出れば良かったんです。美鈴さんが縛られた後にすぐ」
「仕方ないじゃない。あれだけの本を捨てて逃げるくらいなら、潔く死んだ方がマシよ」
術に本。その二つの単語から導き出される人物は、紅魔館においては一人しかいない。
声が遠ざかってようやく、美鈴はその人物の名前を思い出した。
どこから間違っていたのだろう。
その問いかけには、頭へ血が上った時点でと答える。冷静な判断を失った時点で、咲夜の負けは決まっていた。
普段の咲夜ならば、絶対に騙されはしない。アリスの返した答えを、パチュリーに向かってぶつけていただろう。
だけど、レミリアの死が咲夜の思考を狂わせたのだ。
大事な主を殺され、冷静でいられるはずもない。悲しみに暮れるのなら、別にそれでも構わなかった。
ただ、犯人捜しをするのなら。咲夜は冷静でいなければならなかったのだ。どちらでもない中途半端な感情が、結局咲夜の目と脳を衰えさせることとなった。
そして、もう一つ。伝言ゲームのような仕組みに惑わされた。
こいしに殺人を依頼したのが永琳で、永琳に殺人者を斡旋して貰ったのがパチュリーだとしたら、そのパチュリーをまた誰かが脅していても不思議ではない。根拠などは一切なくとも、冷静さを失った者にとっては違和感のない構造である。
あるいは嘘を言っているのはアリスの方かとも思った。だが能力が使えなくなった時点で、その可能性は潰える。本人には悪いが、そんな高等な術をアリスが使えるはずもない。仮に使える者がいたとしたら、それは賢者の石すら生成できるパチュリー・ノーレッジをおいて他にはいないのだ。
久々に時を止めることなく、咲夜は飛び続けて紅魔館を目指す。
ただ飛ぶことが、これほど逸るものだとは思わなかった。どうしてもっと早く飛べないのか。どうして、時はこんなに早く過ぎていくのか。
苛立ちが不条理な部分にぶつけられる。
やがて門にくくりつけられた門番が、視界の中に現れた。何か言いたそうに、美鈴はパクパクと口を動かしている。
嫌な予感がする。まるでレミリアの死を確認した、あの時のような嫌な予感が。
顔をしかめながら、咲夜は美鈴の目の前へ降りた。
美鈴はいまだに脳が復帰してないようで、虚ろな目でしかし、はっきりとした声で告げる。
「パ、パチュリー様が、逃げました……」
追おうにも、どちらの方角に逃げたのか分からない。美鈴も、それだけを言ってまた気絶してしまった。
時間さえ止められたのなら、例え何処へ逃げても追いつめることができるのに。いつまで封じられるのか分からないけれど、少なくともパチュリーが逃げ切るまでは能力を使うことはできないだろう。
思い切り、鉄製の門を殴りつける。冷たい鉄の感触に、生ぬるい血の温かさが混じった。
あの時、肩を叩かれた時点で咲夜の敗北は決まっていたのだ。
膝から力が抜け、そのまま崩れ落ちる。
そして咲夜は腹の底から後悔の叫びをあげた。
主の魂を弔うような、悲痛な叫びだったという。
最初はビクビクと怯えていていた小悪魔も、紅魔館からだいぶ離れたところでようやく落ち着いた。それほど怖いのなら無関係を装っていれば火の粉は飛んでこなかったのに。変わり者の悪魔がいたものだ。
久方ぶりの運動に辟易しつつも、ゆっくりと飛んでいく二人。
少し後ろを飛ぶ小悪魔には、これから向かう目的地が何処なのかも分かっていないのだろう。だがそれは、むしろ当然の事と言える。なにせ、パチュリーも分かっていないのだから。
紅魔館を飛びだしたのはいいが、匿ってくれる場所に心当たりはない。あるにはあるけれど、そんな所は真っ先に咲夜が探すだろう。
いっそ外の世界に行くのも手だが、果たして自分を満足させてくれるだけの図書館があるのか。それだけが気がかりだった。
蔵書は全て持ち出せばものの、それを収める箱が無ければ図書館とは呼べない。
「そういえば、永遠亭の医者とかはどうして依頼を受けてくれたんですか? あと、さとり妖怪の妹とかも」
何気ない風に尋ねてくるも、おそらくずっと気になっていたのだろう。好奇心旺盛なくせに、尋ねてこないのを不思議に思っていたが、単にタイミングを計っていただけか。決してグッドタイミングとは呼べないが。
答えていいものか悩んだけれど、どうせ全て終わったことだ。言って支障があるわけでもなし。飛びながら口を開く。
「言っても良いけど……そういえば小悪魔。あの時は死ぬほど驚いたわよ」
「あの時、ですか?」
パチュリーの脳裏には明確に浮かべども、小悪魔には何の事か想像もできていない。
不思議そうに首を傾げる小悪魔に、決定的な答えを与えた。
「脅されていたってところよ」
「ああ、あそこですか」
判でも押すように、手をポンと叩く小悪魔。少々動作がオーバーだけれど、稀にこういう動きをする癖があるらしい。さして目障りになるわけでもないので、文句を言うつもりはない。
「私はてっきり、本当に脅してる相手の名前を言うのかと思ったわよ」
苦笑しながら、小悪魔は頭を掻く。
「嫌ですねえ、さすがの私もそんな恐ろしい真似しませんよ。悪魔にだって、怖いモノの一つや二つあるんですから」
本当に一つや二つで済むのか、はなはだ疑問だった。
「迂闊に言ったら大変ですよ。だってそうじゃないで」
途端、言葉が途切れた。電波が遮断されたのかと思うような、ぶつ切り。
不意に振り返ってみれば、小悪魔が羽のもげた鳥のように墜落している。
「小悪魔……?」
名前を呼んでも、返事はない。そのまま速度を落とすことなく、むしろ加速しながら小悪魔は地上に落下した。
激しい地響きが鳴り、呆然と佇むパチュリーだけが残される。
何の前触れもなく、小悪魔は飛ぶのを止めたのだ。
「あーあ、落ちちゃった」
落下した小悪魔から、背後へと視線を移す。そしてパチュリーは息を止めた。
どうして、彼女が此処にいる。
「でもまぁ、いっか。どうせこうする予定だったし」
悪びれた風もなく、彼女は言った。こいしと同じように、彼女もまた悪意という物とは無縁の少女。
むしろこいしよりも気が触れているだけに、タチが悪いのかもしれない。
「い、妹様……」
不思議そうに、フランドールは首を傾げた。
「どうしたの、パチュリー? こうなることぐらい、聡明なあなたなら分かってたはずでしょ?」
永琳はフランドールの力で自らが死ぬのかどうか確かめる為に、パチュリーの依頼を引き受けた。
こいしはフランドールと戦いたいが為に、永琳からの依頼を引き受けた。
どちらも、フランドールの力と引き替えにした依頼。到底、レミリアがいた頃では叶いそうにない願いだ。
ああ見えても、案外レミリアはフランドールに対して過保護なところがある。そんな提案をしたところで、却下されるのは目に見えていた。
だから、二人も協力したのだろう。邪魔なレミリアを葬ることに。
ただ、パチュリーは違った。単純に親友の命と自分の命を秤に掛けて、より大事な方を選んだに過ぎない。
死にたくないから、親友を売った。
だというのに、何故。
「約束が違うわよ。レミィを殺せる人を紹介したら、私達の命は助けてくれるって言ったじゃない!」
「んー、だから助けたよ。あの時は」
無邪気に、愉しげに、笑顔を向ける。
殺意も圧迫感も有りはしないのに、背筋が凍ったような錯覚を覚えた。
「でも、今は駄目。だってパチュリーは、お姉様を殺したんだもの」
「そっ、それはあなたが殺して欲しいって頼むから!」
「頼んだのは私。でも、殺すための図式を描いたのはパチュリー。だからねえ、殺されても当然なの。お姉様の仇を討つためには、パチュリーも殺さないと駄目なの」
濡れた唇を、淫猥な仕草で舐めとるフランドール。
とても理屈などと呼ぶのも馬鹿らしい、トンデモ理論。だけどその説明で、パチュリーは理解してしまった。
要するに、元からパチュリーを生かすつもりなど無かったのだと。
自由になる為、姉を殺したフランドール。
だけど本当の意味で自由になる為には、パチュリーも消さなければならない。だってパチュリーもフランドールを封じ込めることができるのだから。
自分を閉じこめる可能性がある者を全て抹殺した時、フランドールは本当の意味で自由になれる。
ああ、なんて馬鹿らしい理論。
笑いも起こらない、滑稽な理屈だ。
「親友も手に掛け、咲夜達を欺き、自分の身を守った結末がこれなのね……」
抵抗できるのなら、元から脅しになど屈さない。
パチュリーは乾いた笑いを浮かべながら、空を仰ぎ見た。
最後に見た夜空は、この世のものとは思えないほど綺麗だった。
「じゃあね、パチュリー」
星空を見ながら、フランドールの言葉を最後に、パチュリーはこの世から消えた。
「お姉様によろしく」
でもこうゆう原作じゃありえそうに無いのが書けるのもSSの特徴かと…
1、フランドールがレミリアを殺すことが実現可能なら、直接殺したほうが早い。
2、口約束だけしてフランを裏切るほうが、パチュリーにとってメリットがある。
ただ、誤字脱字が多いです。
美鈴「気安く話しかけてください」
咲夜「なら手をはねつけないでよ」
自分に疑いが掛からないよう他者に罪を被せたと。
解かせる気の無い推理モノが最近の流行なのでしょうか(某ひぐらしの如く)。
私には高尚を気取った駄作にしか見えないのでこの点数で。
1.フランの脅しが強力な効果を及ぼし、逃げよう・逆らおうという意志が完全に削がれその気にはとてもなれなかった。
2.フランと戦わせる、という条件ではレミリアを殺すえーりん及びこいし他、協力者になりうる者に対して、
図書館の二人が用意することのできる条件では、フランを殺すためには動いてくれなかった。
この二つのいずれかが考えられるものの、
そうした記述もしくはそれを推測できる文章が見られません。あるいはうまく伝わってきません。
こういうのも悪くはないと思えますけど、好きにはなれないかな。
仲良し紅魔館が好きなものですから。点数なしで
死体もよく出来た人形であって本物はどこかに隠れているみたいなのを予想していました。
最後も「消えた(ことになった)」で「続く」とくるかと思ったのですがそんなことはなかったのですね。
正直なところ、フランドールの動機の時点で頷けない。
五百年という年月の重み。沈黙してきたという実績めいたものに思いいたすと、フランにリアリティが無いということになりそうだ。パチュリーその他の人間も情感よりは機械的な論理を優先しているようだ。そこが作者の意図を感じさせすぎるという点はあるように思う。それが悪いわけではないと信じてもいるが、一般的にはキャラクターが殺されている(実際に死んでる的な意味ではなく)ように感じる可能性は高いのではないか。
他方で、技術的に見れば、相当練熟している。物語と筆力を分けて論じることに正当性があるかはわからないが、あえて分けて論じるとすれば、技術的には安心感があるように思う。構成はやや雑。最後に視点が切り替わることで、空中に浮いた感覚がする。リドルストーリーならそういう手法もありだろうが、これは『探偵』の役割を軽視しすぎているように思う。まぁ……文中でもあったとおり、咲夜は探偵にはむいていないのだろうし、そういう役割でもなかったのだろうが。その点を構成の弱さと見られても仕方ない。ジャンルとしての不安定さ、どっちつかずな態度が構成の弱さという形で露呈してしまったのかもしれない。あるいは筆力で誤魔化せる類の弱さかもしれないが、現状では構成の弱さと捉えた。
そんなわけで、こんな点数つけてみました。
それとフラン側の各々の願望は解りますが……それが今までの年月よりも重要ならば時間の重みなんて無に等しいでしょう。それよりも永琳等、幻想郷のパワーバランスの一角にある人物がこの均衡の崩壊を黙ってみていて、個人の願望を優先させているのには少し違和感を感じましたが。
最期をもう少し膨らましていただければ。
最終的に紅魔館から逃げ出すつもりであったなら、フランから脅迫された時点で逃げ出せばよい。「レミリアを殺せるほどの者はなかなか見つからない」とでも言っておけば、いくらでも時間稼ぎは出来ただろうに。
こいしが最悪のアサシンになれるという設定はありだと思うが、逆にえーりんの登場に不自然さを覚える。輝夜がノイローゼにでもなって、早急に「死ねる」手段でも欲していたのだろうか。これでフランの能力でも死ねなかったなら、事後に永遠亭が背負い込むリスクはかなりのものなんじゃないだろうか。えーりんの果たした役割をこいしも咲夜も知っているのだし。
総合的に見て、辻褄が合っていない、キャラの行動が不自然、等々の理由でこの点数を。
こういう幻想郷も面白いかな、と思うので個人的には好きです。
推理小説でもないのに辻褄がどうこうなんて気にしても仕方ないし。
個人的には最後のフランのシーン。
もうちょい恐ろしさを立たせて欲しかったです。
そういう言う意味では全体的に
色んな人の感情をもっと深く描いて欲しかったかな
いつ咲夜さんが死んじゃうのかなーって不安だけど生きててよかったぁ