Coolier - 新生・東方創想話

宝探しは命がけ

2009/06/20 04:08:18
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「今日もお賽銭はなしか……」

 夕暮れの博麗神社で賽銭箱の中身を確認する人影が一つ。この博麗神社の巫女である博麗霊夢である。
 赤く染まった空には烏が鳴きながら飛んでいる。何だか、何も入っていない賽銭箱を見ているのをバカにされているとみたいだ、と霊夢は感じた。

「バ、バカにするな~!」

 空を飛んでいる烏に向かって叫んだが、虚しさだけが残る。このムシャクシャした気持ちは今度、文の奴に会った時に晴らそうと、この件には全く関係がない射命丸文に気の毒なことを考えながら守矢の分社の方を見た。

「はぁ、分社の効果もいまいちだし……。やりかけだった倉庫の整理でもしようかしら」

 霊夢はしばらく守矢の分社を見ながらどうやったら参拝客が来るのか考えていたが、諦めたようだ。

 もう一日も終わる。こんな時間からは誰も訪れないだろうと、溜息をつきながら倉庫に向かう。
 この倉庫には生活の為に必要な物はもちろん、霊夢自身何に使うのかもわからない物もはいってる。そのほとんどは神社の周りに落ちていた外の世界の物と思わしき物だが、相当古そうな物もある。

「それにしても……この神社は昔もこんなに参拝客がいなっかたのかしらね」

 一人で愚痴を言いながら散らかっている物を片付けていく。つい先日行われた宴会で誰かが侵入して暴れたので中はムチャクチャだ。

「まったく、宴会で酔っ払うのはいいけど倉庫を荒らすなっての……ん? 何かしらね、この箱」

 倉庫の奥の方でかなり古いと思われる大きな箱が出てきた。見た目はゲームとかによくある宝箱みたいになっている。
 しばらく、こんな箱前からあっただろうか、と霊夢は考えていたのだが、急に何か思いついたように目をキラキラさせ始めた。

「……まさか、博麗の家に代々伝わるお宝とか!?」

 霊夢はこれでしばらく食べるものには困らないと思いながら箱のフタを勢いよく開けた。

「……は?」

 入っていたのは箱にもう収まりきれないほどのお宝……ではなく一枚の紙切れだった。

 誰もそんなこと言ってないのに勝手に中に入っているのはお宝だと信じ込んでいた霊夢は目の前に見える光景に呆然とし十数秒間固まっていたが、やがてコメカミをピクピクさせながら紙切れを掴んだ。

「なんなのよ!? こんな紙切れがお宝なの? 話が違うじゃないの!!」

 ……誰もお宝が入っているなんて言ってない。

 怒り狂う霊夢はその紙を破ろうとした時に、何か書いてあるのが見えた。

「ん? ……こ、これは!?」























「おーい! 霊夢~。暇で忙しかったから来てやったぞ~」

 霊夢が倉庫で紙切れを見つけた翌日の早朝午前五時頃、神社に客人が来ていた。客人とはいっても参拝客ではなく、ただ遊びに来ただけであるが……。
 この神社に来る者は大抵こういった者がほとんどだ。今来たのは『普通の魔法使い』こと霧雨魔理沙である。

「……返事がないな。いつもなら『賽銭箱ならあっちよ』とか言いながら出てくるのに」
「賽銭箱はあっちよ」
「おっ! 居たのか。今日は出かけているのかと思ったが、やっぱり暇だったのか」
「……あんたと一緒にしないでよね、魔理沙。何か用なの? こんな朝早くから。私は忙しいのよね。……ふあ~ぁ」
 
 霊夢は欠伸をしながら奥に戻って行こうとした。

「おい。何処に行くんだよ?」
「ここは私の家よ。何処に行こうと私の勝手でしょ」
「まあ、そうだが……。随分眠そうだな」

 よく見てみると目の下にうっすらと隈もあるようだし、髪もボサボサだ。どうやら遅くまで起きていたようである。

「だから忙しいって言ってるでしょ? わかったらさっさと帰りなさい」

 そう言って霊夢は奥に引っ込んでいってしまった。どうやら相当イライラしているらしい。

「……何だありゃ?」
「どうかしたんですの?」
「うおっ!?」

 霊夢が何かを隠しているような気がして考え込み始めた魔理沙は急に後ろから話しかけられて驚いた。
 振り返ってみると、そこには二人の人間が立っていた。

「お前等いつのまに……。びっくらこいじゃないか」
「霊夢さんが『賽銭箱はあっちよ』と言ったあたりからですかね」
「そうそう。気付かないほうがどうかしてるんですわ」
「あっそ……」

 魔理沙の後ろに立っていたのは、紅魔館のメイド長を務める十六夜咲夜と守矢神社の風祝である東風谷早苗であった。

「……何か珍しい組み合わせだな」

 魔理沙の言う通り咲夜と早苗にはさほど接点も共通点もないように思える。あるとすれば、人間であるということぐらいだろうか。

「あら、早苗はしばしば紅魔館に本を借りにきますわよ? あなたと違ってちゃんと許可を得てから……」
「そうですよ。人里でもたまにお買物の最中に出会いますし」
「全く接点がないわけではないですわ。むしろよく会う方ですわね」
「ふ~ん」

 どうやら魔理沙の知らないところでいつの間にか親交が出来ていたらしい。まあ、早苗が幻想郷に来てからいくつか季節も変わった。それなりに人脈が出来ていても不思議ではない。

「二人ともここに用があって来たんですよ」
「でも、別に一緒に来たわけではないですわ」
「ふ~ん。こんな朝早くからか?」
「それはあなたにも言えることですわ」
「……まあ、そうだが」
「魔理沙はどうしてここに来たんですの?」
「ん? 暇だからな。咲夜は?」
「私はお嬢様がたまには緑茶も飲んでみたいと言うので茶葉を分けてもらいに」
「ふ~ん。お前も大変だなぁ。で、早苗はなんで……ってなにやってんだ?」

 魔理沙と咲夜が話してる間に早苗は何かしていたようだ。
 
「これがそこに落ちていたんです」

 早苗は先ほど、霊夢が通った廊下で紙切れを持っていた。その紙切れには何か書いてあり、それを読んでいたようだ。
 早苗は指を顎に当てながら難しい顔をして考え込んでいる。
 それを見た魔理沙と咲夜は興味を持ったのか早苗に近づいた。

「なんだその紙切れは」
「う~ん、何かの暗号ですかね」
「なんて書いてあるの?」

 咲夜に内容を聞かれた早苗は首を傾けながら答えた。

「え~と『空を往くものの住処の右足の元より六番目の方角へ十歩進め。その時、光が入り口を映すであろう』と書いてあります」
「……何じゃそら」
「もしかして宝の場所を示した暗号かもしれませんわね」
「そうか! 霊夢はこれを夜遅くまで考えていたからあんなに眠そうだったのか!」

 しばらく三人でその紙切れに書かれている言葉の意味を考えていたが、急に奥からどう聞いてもとても慌てているとわかる足音と共に霊夢が走ってきた。

「あ、あ、あ、あんた達! ここら辺に紙切れが落ちてなかった?」
「これか?」
「そ、それよ! 返しなさい!」
「あ、ちょっとまった」

 魔理沙は霊夢から紙切れを守ろうとしたが、あまりにも素早く飛び掛ってきたために手がすべって紙切れは宙を舞った。霊夢と魔理沙はバランスを崩して咲夜と早苗も巻き込み倒れこんだ。
 紙切れはヒラヒラと仰向けに倒れた早苗の顔の上に落ちた。

「あれ?」

 顔の上に落ちた紙切れを手で掴み下から見上げた早苗は何かに気付いたようだったが、素早く起き上がった霊夢によって奪い取られた。
 霊夢は紙切れを奪い取った後、即座に三人から離れた。

「……霊夢、それは何ですの?」
「べ、別に……」
「隠し事はなしだぜ。それはもしかしたらお宝の暗号じゃないのか?」
「なっ! そ、そんな訳けないでしょ!?」
「ん~? どうだかな~」
「独り占めはよくないですわ」
「だ、だから~……違うって言ってるでしょっ!?」

 魔理沙と咲夜は明らかに様子のおかしい霊夢に詰め寄っていく。
 そんな時、早苗が少し考えるような素振りをした。

「そういえば……、神奈子様がこの神社にはとんでもない秘宝が眠っているかもしれないと前に仰られていたような……」
「えっ!? マジ!?」

 早苗の言葉に霊夢が食い付いた。

「じゃ、じゃあやっぱりこれはお宝の……」

 霊夢は魔理沙と咲夜を跳ね除けて、早苗の元に詰め寄った。
 その時の霊夢の顔といったら咲夜も、早苗も、魔理沙でさえも見たことのないような幸せそうな顔だったが、早苗の顔を見た直後に『しまった』という言葉が顔に書いてあるかのような表情になった。対照的に早苗の顔は『引っ掛かりましたね』という声が聞こえてきそうなほどのしたり顔だった。

「お宝の……何ですか?」
「…………」

 固まったままの霊夢と、にこにこしながら霊夢に質問する早苗を見て魔理沙と咲夜は

「れ、霊夢でもああゆうのに引っ掛かるんだな」
「そ、そのようですわね……」

 と、自分もいつかやってみようと考えていた。






















「と、いうわけよ」
「ほぉ~」
「じゃあ、もしかしたら本当に博麗の秘宝が……」

 その後、三人が頑強な抵抗を続けていた霊夢からことのあらましを聞き終わった頃にはもう午前九時を過ぎていた。

「それにしても早苗はいい仕事をしたな」
「ふふふふふふ。これでも外の世界にいたころは『諏訪の小悪魔ちゃん』と呼ばれていましたからね」
「……小悪魔って、あなた人間じゃない」
「いや、あのですね咲夜さん。そういうことではなくてですね……」

 頓珍漢なことを話し始めた咲夜と早苗をほおって置き、魔理沙と霊夢は例の暗号について話し始めた。

「で、霊夢はどこまでわかったんだ?」
「そうね……。『六番目の方角』っていうのは多分『巳』の方角、つまり南南東の方だと思うけど……」
「なんでだ?」
「十二支で六番目の動物は蛇。つまり『巳』ってわけよ」
「あっ、そうか。じゃあ、他の事は?」
「さあ」

 魔理沙はしばらく紙切れを見ていた。

「この『空を往くもの』っていうのは鳥か?」
「さあ? 空を飛んでいるのは鳥だけじゃないわよ。妖怪だってそうだし、ここにいる人間の四人だってそうじゃない」
「まあ、そうだが……」
「でも、一般的に空を飛ぶといって思い浮かぶのは鳥じゃないですか?」
「そうですわね」

 これまで会話に参加していなかった咲夜と早苗も会話に入ってきた。

「じゃあ『鳥の住処』だから鳥の巣ってことか?」
「多分そんな単純じゃないですよ。住処ってことはそこに居るってことです。『鳥が居る』つまり『鳥居』ってことですよ」
「おお! そうか」
「早速、鳥居の方に行きましょう」

 魔理沙と咲夜と早苗は鳥居の方に向かおうとしたが、霊夢は動こうとしなかった。

「おい霊夢。何してるんだ? 置いてくぞ」
「霊夢。お宝を独り占め出来なくなったからっていじけるのはよくないですわよ」
「ち、違うわよ。別にお賽銭の量が減ったからっていじけてるわけじゃないわよ!」
「……いや、お賽銭は関係ないですよ」
「何よ! あんたのところはいいわよね。お賽銭はてんこ盛りなんでしょ!?」
「そんなことはないですよ。外の世界にいた頃の方が多かったくらいですし」
「えっ!? そうなの? じゃあこの神社も外の世界に移したら……」
「いや、この神社は何処の世界にあっても同じだと思うぜ」
「なんですって~」

 霊夢は魔理沙に向かって攻撃態勢を整えた。

「ちょっと、待ちなさいよ。今はそんなことをしている場合じゃないでしょう」
「そうですよ」

 それに気付いた咲夜と早苗が慌てて止めに入る。

「むむむむむ……。と、とにかく私も鳥居だと思ったのよね。でも試してみたら何にもなかったから」
「えっ!? そうなのか?」
「やっぱり『鳥居』っていうのが間違っているのでしょうかね」

 霊夢、魔理沙、咲夜の三人が考え始めた時、早苗は一人笑っていた。

「何よ。ニヤニヤして」
「ふふふふふふ。今のところその暗号の示す場所はもうわかっています」
「? だからそれは霊夢が違うって……」
「それはまだ解けていない部分があるからですよ」
「『その時、光が入り口を映す』ってところかしら?」
「『その時』っていうのはその前の内容から推測すると、『巳の刻』つまり午前十時前後のことだと思いますよ」
「なるほど……。じゃあ光がどうのっていうのは?」

 霊夢がそう聞くと早苗は得意げに胸を張った。

「わざわざ時間を指定しているってことは時間によって変化する光が関係しているってことですよ」
「……それって太陽?」
「そうです。太陽ですよ」
「なるほど……その時間に、その場所に行けば太陽の光が入り口とやらを示してくれるってわけか」
「おそらく、太陽の光によってできる影がその入り口の形をしているんだとおもいますよ」
「早苗、あんたすごいわね」
「ふふふふ……。『本から出てきた女名探偵』と呼ばれた私に解けない謎はありません!」
「……『諏訪の小悪魔』じゃなかったのか?」

 早苗が得意げに霊夢と魔理沙に説明している間、咲夜が一人だけ納得のいかない顔をしながら考え込んでいた。どうやら、早苗の話に疑問を抱いているようだ。咲夜は高笑いしている早苗に太陽を指差しながら問いかけた。

「ねえ、確かにあなたの言う通り太陽は時間によって位置が変わりますわ。でも、同じ時間でも日付が違えば太陽の位置もまた違ってくるんじゃないかしら?」
「あ! そうだぜ」
「……また、最初から考え直しかぁ」

 咲夜の言葉を聞いてがっかりする霊夢と魔理沙を尻目に勝ち誇った顔を早苗はしていた。

「そうです。私もそれを思い出して、また考え直そうとしたんですよ。でもある事に気付いたんです」
「「「ある事?」」」
「その紙を太陽にかざして見てくださいよ」
「「「???」」」
 
 三人は早苗の言う通りに紙切れを太陽にかざして下から見上げた。すると、紙切れの端っこに何か書いてあるのが見えた。

「これは……日付でしょうか?」
「そうですよ。紛れもなく今日の日付です」
「で、でも、もしかしたらこの文字を書いた日を示したものかもしれませんよ?」
「咲夜さん。そんなことをこんな手の込んだ書き方で書いたりしませんよ」
「……そうでしょうけど。何だか都合がよすぎる気がしますわね」
「はっはっはっは、確かに作り話のようなタイミングのよさだな」
「これぞ奇跡です!」
「あれ? ところで霊夢は?」

 いつの間にか霊夢がいなくなっていることに気付いた咲夜が辺りを見渡しながら聞いた。

「「「!?」」」

 三人はお互いに顔を見合わせると、次の瞬間には三人とも鳥居に向かって走り出していた。どうやら三人とも霊夢が一人で入り口に向かったと思ったらしい。

「くそっ、霊夢め~」
「油断してましたね」
「一生の不覚ですわ」

 三人は鳥居の前に着いたが、そこに霊夢の姿はなかった。

「「「おりょ?」」」

 三人は三人とも、驚いた顔で固まっていた。
 そこに霊夢が人数分の湯呑みが乗ったお盆を持って来た。

「? あんたらなにやってんの?」
「べ、別になんでもありませんよ」
「そ、そうですわよ」
「決して霊夢がお宝を独り占めしようとしているのを阻止しようと急いでここに来たわけではないのぜ?」
「……あんたらね~。あんたらの中の私はどんだけ欲が深いのよ」

 呆れた目で三人を見る霊夢。

「そ、それより霊夢。それは何なんだ?」
「ん? ああ、これね。そういえば今日は朝からお茶を一杯もなんでいないなぁ、と思ってね。私、何かする前はお茶を飲まないと頭と体が連結しないのよね」
「連結って……。このカテキン中毒め」

 毒づきながらも霊夢の持ってきたお茶を飲み、先ほど推測した場所に向かう。時間的にもそろそろいい頃だと思われる。

「ここですわね」
「そうですね」

 四人がその場所に立った時、目の前におそらく木の影が組み合わさったと思われる、門のような形をした影が地面に現れた。

「「「「おお!!」」」」

 四人は顔を見合わせると、一斉にその門に向かって一歩踏み出した。

「「「「わっ!?」」」」

 その次の瞬間には四人とも、今できたと思われる穴に文字通り吸い込まれていた。
























「いてててて……大丈夫か皆」
「な、なんとか大丈夫です」
「あんたらね、これくらいちゃんと着地しなさいよ」
「霊夢、お前と一緒にするなよ」
「あら、咲夜もちゃんと着地したみたいよ。みっともなく落下したのは魔理沙と早苗だけよ」
「あっ、そうでっか~」

 霊夢と魔理沙が軽口を言い合ってるうちに、落ちた場所の周りを探索していたらしい咲夜が戻ってきた。
 咲夜の話によると、この落下地点は小さな部屋のほぼ中央らしく出入り口と思わしき穴が一つあるらしい。それに咲夜が着地したその足元に『満月を描く扉をくぐれ』という言葉が彫ってあったらしい。

「? 咲夜さん。扉らしき物はありましたか?」
「いいえ」
「それにしても咲夜、よくこんな暗闇の中でそんなにくわしく状況がわかるな」
「ふふ、これでも私がお仕えしている方は吸血鬼。暗い場所にもすぐ対応できますわ」
「ほぉ~、なるほどなぁ」

 咲夜の案内で出入り口に向かう。その出入り口から出た途端、着火音と共に出入り口の先にある道の両端に灯りがついた。その灯りは四人が今まで見たことの無いような造りをしていたが、どうやら火が灯りの元になっているらしい。その灯りのお陰で周りが見渡せるようになり、状況が確認できるようになった。
 出入り口から出ると左右に道があり、右の道はすぐに行き止まりがあるが左の道は下り坂になっていた。

「……これは明らかに人の手が加わっていますね」
「人じゃないかもよ?」
「妖怪とかか?」
「そうでしたら、気をつけないといけませんわね。罠があるかもしれませんわ」
「それよりも、これはどっちの道が正解なのでしょうか?」
「そんなの決まってるぜ。左の道だろ」
「まあ、普通はそうですわね」
「念の為に右の道も調べる?」

 霊夢はそう言いながら右の道を進んでいく。すぐに行き止まりに着き、しばらく壁をさわったりしながら辺りを調べていたが何もなかった。

「何もないわ」
「やっぱ、左か」

 四人が右の道の行き止まりに背を向けて歩き出し、数歩進んだ時に四人の後ろから大きな音がした。

「「「「!!!????」」」」

 四人が合わせようとしたわけでもないのに完璧に同じタイミングで一斉に振り返ると、そこには何もなかったはずの行き止まりから大きな丸い岩が自分達に向かって転がってきているのが見えた。それを見た瞬間、彼女達は坂道を全力で降り始めた。

「何だあれ、何だあれ」
「ちょっとぉ! 霊夢さん! 何にもなかったんじゃないんですか~?」
「何にもないと思ったんだも~ん」
「まずいですわよ。あの岩、だんだん近づいてきてますわ」

 スピードは明らかに岩の方が速く、このままでは追いつかれてしまうだろう。

「へっ! やっぱり逃げるのは性に合わないぜ!」

 そう言うと魔理沙は振り返り、土ぼこりを上げながら足でブレーキをかけた。

「ちょっと、魔理沙! どうする気よ」
「決まってるだろ! こうするんだよ!」

 魔理沙は岩に向かって八卦路を構えた。

「いくぜ! 『マスタースパーク』!」

 その魔理沙の言葉と共に青白い光線が飛び出して岩を木っ端微塵に砕いた……はずだった。魔理沙の頭の中にも、他の三人の頭の中にも、その映像が目から送られてくるはずだった。はずだったのだが、出たのは光線ではなく『ポスッ』という情けない音と共にでた少量の煙だけだった。

「あれ? あれ!? あっれえええええええええええ!?」

 慌てて岩から逃げ出す魔理沙。

「ちょっとおおおおおおお。魔理沙さん! そんな『マスタースパーク』じゃなくて『マスタースモーク』出しちゃった。テヘッ☆。なんてボケはいらないんですよ!」
「そうですわ! そんなボケかましてる暇があったらパチュリー様に本を返してあげてください」
「……真面目にやってよね。命がかかってるんだから」
「私は真面目にやったぜ~」
「こうなったら『ミラクル☆少女 早苗ちゃん』と呼ばれていたこの私がっ!」
「……『本から出てきた名探偵』じゃなかったんですの?」

 早苗が魔理沙と同じように追ってくる岩の方を向いた。

「神の風で止めてみせます!」

 早苗が拳を突き出して止まってから一瞬後、再び早苗は後ろを向いて走り始めた。

「どどどどどどど、どうなってんですか!?」
「だろ? だろ?」
「なんで技がでないんですか~」
「I don't know!」

 四人が全力で走る中、前方に行き止まりが見えてしまった。

「おいおいおいおい」
「ちょっとっ! こんなんあり!?」
「いや~!、死にたくないですよ~」
「お嬢様……先立つ不孝をお許しください」
「ちょっと待て! お前等こんなところで諦めてどうする? ここは一か八かこの勢いであの壁にぶつかってみようぜ!」
「「「……」」」

 魔理沙の提案に顔を見合わせる三人。後ろには岩が迫っているし、前には行き止まりがすぐそこだ。

「考えている暇はなさそうね」
「そうですね」
「いきますわよ!」
「「「「せ~の!」」」」

 四人が一斉に壁の一箇所に体当たりをしたのだが、壁は壊れなかった。しかし回った。ほとんど抵抗らしい抵抗もなく回った。そのため、壁の裏側と思われる空間に出た時、四人は勢い余って倒れこんでしまった。その一瞬後、岩が壁にぶつかったらしく衝撃音が響き渡った。

「……か、回転扉ですか」
「な、何よその回転扉っていうのは」
「そのまんまですよ。回転する扉です」

 外の世界ではよくある回転扉だが、幻想郷にはまだないみたいだ。
 兎にも角にも、転がる岩の下敷きになることから逃れることが出来た四人は疲労困憊ながらも立ち上がった。

「それにしても魔理沙の時といい、早苗の時といい、何かおかしいですわね」
「それを言うならこの穴の落ちた瞬間からおかしかったわよ」
「「「ん?」」」

 霊夢の言葉に三人は首を傾ける。

「だって私は穴に落ちそうになった瞬間、反射的に空を飛ぼうとしたのよ? でも、それが出来なかったのよ」
「あっ、それなら私もそうですわ。岩に追われている最中に何度も時間を止めようとしたのですが、できませんでしたわ」
「おいおい、それってもしかして……」
「能力を封じられている……ってことですか?」
「「「…………」」」






















 能力が封じられているとわかり四人は非常に慎重に行動することにした……ということはなく、まあなんとかなるだろという結論に達したようである。というか、女の子なんだからそういう予想外なことが起きた時は慌てたり、怖がったりした方がかわいらしいと思うのだが彼女達はどうして冷静なのだろうか。まあ、それが彼女達の魅力でもあるのだろうが、実は内心では結構ビビっていたりするといいな、とか思ったりする。

「ん~? 何だこれは?」

 四人が今居る所は半球体状の部屋である。その部屋の中心に何かフタの取っ手みたいな物があるのを魔理沙が見つけた。その魔理沙の声に部屋を調べていた他の三人も集まってきた。

「何でしょうか?」
「何か怪しい気がしますわね」
「でもここからの出入り口はさっき入って来た所を除くと八つもあるわよ。もしかしたらヒントがあるかもよ」
「それはこの穴に入ってすぐにあった『満月を描く扉をくぐれ』ってやつじゃないんですか?」
「そうですわね。でも、意味がさっぱりわかりませんわ」
「……あー! もうじれったいぜ! こういうのは開けてこそ意味があるんだよ!」

 開けるか開けないかで議論する三人がじれったくなり、魔理沙はフタを開けた。そこには『太陽の道を行け』という文字が彫られていた。

「満月の次は太陽ですか」
「……これは『満月を描く扉』とやらはクリアしたってことかしら?」
「でも、ここに来るまでに通った扉といえば……さっきの回転扉とやら…ぐ…らい……しか………ってまさか!?」
「「「!!」」」

 魔理沙の言葉に三人は『それだっ!』という顔をしながら魔理沙の方を指差しながら見た。

「回転扉はその性質上、一回転すると円を描きます。それが『満月を描く』ということだとすれば……」
「月が満月の時の月と太陽の位置関係から考えると、『太陽の道』というのは私達の入って来た扉とこの部屋の中心から見て真反対にあるってことねっ!」

 四人は一斉に『太陽の道』があると思われる方向を見た。が、そこには壁があるのみだった。

「……あれ?」
「ないですね……」
「ないな……」
「おかしいですね……。というかさっきから気になっていたんですけど何か変な音が聞こえませんか?」

 そう、その音は魔理沙が地面にあるフタを開けた直後から聞こえていたのだが、だんだん大きくなってきたのでいよいよ無視できなくなったみたいだ。

「そうねぇ。これは上からかしら?」

 その霊夢の声と共に一斉に上を見ると、そこには大きなトゲがギッシリ生えている壁がちょっとずつ下に向かってきているのが見えた。

「え? 何? これって早くしないと串刺しってことか?」
「そ、そうみたいですね」
「いや、串刺しなんてもんじゃないでしょ、これは。体中穴だらけになるわよ」
「ふふふふ、そんな心配はないですわ」
「「「?」」」

 慌てる三人を余所に、妙に余裕たっぷりな咲夜は彼女達が先程『太陽の道』があると推測した場所に向かっていく。

「咲夜さん?」
「『満月を描く扉』が円を描く回転扉ってことは、『太陽の道』の前にも『太陽を描く扉』つまりまた回転扉があるはずですわ!」

 咲夜は壁の前まで到着すると少し横にずれて、壁を前に押し始めた。すると、壁が咲夜に押されて回転し始めた。他の三人はそれを見ると急いで咲夜の所まで来て手伝った。その扉は意外と重く、四人がかりでも大変だったみたいだ。それでも四人は扉を通れるくらいまで回し、扉をくぐった。
 扉をくぐった先はまた半球体状の部屋であった。

「おいおい……」
「これは……」

 しかし、天井の壁は相変わらず大きなトゲが生えていてこちらに向かってきている。

「なんなのよ! 道は? こんなだだっ広い空間が道? ここを抜け出したらこれを作った奴を取っちめて一日一回お賽銭を入れさせてやるわっ!」
「さて、私達は無事に抜け出せるのでしょうかね」
「咲夜、うさっさいわ。何としてでも抜け出してお賽銭を手に入れるのよ!」
「……言っておきますけど、お宝を見つけてもそれはお賽銭とは言えないですわよ」

 四人はその後、手分けして探索をして次へのヒントと思われる物をいくつか見つけた。一つ目は、壁に沿う様に彫られた半弧を描いた窪み。二つ目はその手前に書かれた『地上に虹を架け、紅き竜を走らせよ』という文字。三つ目は半弧の端の上にある三つのスイッチみたいな突起。四つ目は三つの突起それぞれの上に埋め込まれている壷、釜、瓶である。
 ヒントをいろいろ見つけたのはいいが、その間に天井はどんどん迫ってきている。まだ余裕はありそうだが、それでも急がなくてはならないだろう。

「『地上に虹を架けろ』っていうのはこの窪みに何かしろってことかしら」
「そうでうね。そう考えるのが自然ですよね」
「でも、虹なんてどうやってここまで持ってくるんだ?」
「……虹を持ってこれるわけないでしょ」
「……わかってるよ」
「虹の正体は、もしかしたらあれかもしれませんね」
「あれってなんだ?」
「油ですよ。小さい時、道に油が落ちているのを見て、虹がそこに映っていると勘違いしてよく空を見上げていましたから」
「? 油が道に落ちるなんてことあるのか?」
「ははは……外の世界ではね……」

 しかし、当然油なんてものは四人とも持ってきていないし、この部屋の何処にもありそうにない。

「ん~、もし『地上に虹を架けろ』っていうのが窪みに油を注げってことなのでしたら、『紅き竜を走らせろ』っていうのは火をつけろってことでしょうか」
「そうですね。咲夜さんの言うと通りだと思いますが……」
「火は周りについている灯りでつけるとして、肝心の油がなぁ……」

 四人はそれからしばらく誰も話さずに考えていたが刻々と時間は過ぎていき、とうとう背伸びをして手を伸ばせばトゲの先端が届くまで天井が近づいてきてしまった。

「……やばい。もう時間がないぞ」
「お腹もすいたしね」
「食べ物を持ってくるべきでしたね」
「お酒もあればよく頭も回ったのでしょうね」
「おっ、いいね。樽一杯のなぁ」
「……別の意味で頭が回りますよ」

 お酒という言葉を聞いた途端、早苗の顔がくもった。どうやら幻想郷に来てからの宴会での出来事によってお酒にはあまりいい思い出がないらしい。というか、この状況でお酒の話が出てくるとは相変わらず緊張感のない少女達である。
 そんな緊張感のない会話をしている中、霊夢が突然走り出した。

「おい、どうしたんだ霊夢!?」
「樽……壷、そうよ。そうだわ! ある! あるわよ、油!」
「え? どこにあるんですか?」
「ここよ!」

 霊夢は三つの突起の前までくると埋め込まれた壷の下にあるものを押した。すると、壷に穴があき、そこから液体が出てくるではないか。しかもそれはちょうど窪みに注がれるように計算されているようであり、臭いから油ということもわかる。

「すごいぜ霊夢。何でわかったんだ?」
「油っていうのは、『口のついた壷から液体が出ている』っていうことから出来た漢字だってのをどっかで聞いたのを思い出したのよ。だから、壷が油を示しているんだっていうのがわかったのよ」
「……霊夢さん、早く火を。早くしないと天井が……」
「そうね」

 霊夢がついてる灯りのうちの一つを油の入った窪みに放り込んだ。そこから火がつき、まさに紅い竜が走っているように火が燃え広がった。すると、霊夢がいる側と反対側の壁にも火が燃え移り、その壁が焼け落ちた。

「あそこだ! 急げ!」

 もう天井はすぐ上まで来ている。
 
 四人は全速力で燃え落ちた壁の所まで走り抜けようとしたが、その時、天井の落下速度が一気に速くなった。驚いて顔をあげた時に魔理沙の帽子が落ちた。

「やばい、やばい」
「きゃああああああ」
「……!!」

 魔理沙、咲夜、早苗はなんとか抜けれたが距離的に一番遠かった霊夢はまだ部屋の中にいる。

「おい! 霊夢、やばいぞ」
「霊夢さんっ!」
「早くなさい!」
「そんなこと言っても……きゃっ」

 出口が目前というところで落ちていた魔理沙の帽子を踏んで霊夢は転んでしまった。

「い゛っ!?」
「霊夢さんっ!」
「洒落になりませんわ!」

 トゲはもう霊夢の真上にきている。幸い、霊夢は三人から手が届く場所まで来ていたので魔理沙、咲夜、早苗は手を伸ばして霊夢の服やら髪やらを掴んで、無我夢中で引っ張り込んだ。
 
 その結果、なんとか間に合ったわけであるが、霊夢を引っ張り込んだあと一秒もたたないうちに出口は落ちてきた天上で塞がってしまった。

「セ、セーッフ」
「ふえ~」
「はぁ……、何か妙に疲れましたわ」
「……し、死ぬかと思った。……マジで」

 塞がった出口を見ながら安堵の表情を四人は浮かべた。だが、顔には明らかに疲労の色がみえる。

「……っていうか、もうちょっと優しく助けれなかったわけ? 服はともかく、髪を引っ張るのはどうかと思うわよ」
「おいおい、助けてもらっておいてそれはないだろ~」
「ま、まぁ。感謝はしてるわよ。……そ、その、ありがと……」

 霊夢は恥ずかしいのか顔を見せずにお礼を言うと、そのまま先に進んでいった。
 
 三人も微笑みながら霊夢に続いて先に進んだ。






















 その後、しばらくは細い道が続いたのだが急にひらけた空間にでた。

「これはまた……」
「古そうな橋だな」

 四人の目の前にはどこまで続いているかわからない大きな穴とその穴に架かった見るからに古い吊り橋があった。穴の向こう側には続きの道と思われるものが五つ見える。穴の向こう側に行くには橋を渡るしかなさそうである。

「あっ、橋の手前に何かあるぜ」
「これは看板みたいね。何か書いてあるわ」
「え~と『選べる道は一つ。名前の無い道を選べ』とありますね」
「『選べる道』が一つということは、間違った道を選んだらジ・エンドってことですわよね」

 咲夜の言葉に全員が『まさかぁ~』という顔をするが、つい先程霊夢が死にかけたことを思い出し、これは本当に真面目に考えないと咲夜の言う通りになるという考えに至った。

「『名前の無い道』って言われてもなぁ」
「向こうまで行けばまたヒントがあるかもよ」

 ここでじっとしていても仕方ないので、四人は橋を渡り始めた。

 その橋は本当に古く、今にも落ちそうな感じである。一歩進むたびに『ギシギシ』と音をたてるのだ。

「こういう橋って作り話とかだと絶対に渡っている途中で落ちるんですよね~」
「ふふ、そうですわね。よくある話ですわね」
「……お前等なぁ。これは作り話じゃないんだぜ? そんなことあるもんか」
「そうよ。そうそう」
「「「「はははははははははは」」」」

 四人が橋の中央あたりで笑い出した直後、彼女達が入って来た入り口と向かっている出口が急に落石によって塞がった。

「!?」
「なにごと!?」

 その場で驚いて固まっていると橋を支えている縄がほどけ始めた。

「い゛いっ!?」
「嘘っ!? こんな作り話みたいなことがっ……」
「いやああああああああ」
「ちょっとおおおおおお」

 四人はバランスをくずし、橋が落ちるより前に橋から落ちた。

「ああああああ、私達はこのまま死ぬのだろうか……」
「知りませんわぁぁぁ」
「ああ……。一度でいいから賽銭箱いっぱいのお賽銭を見てみたかったわ……」
「それは無理っぽいですよ……ってそんなこと言ってる場合じゃないですよ!」

 四人はこの後、その穴から出てくることはなかったとさ……

 
 というのは冗談で、実は底には水が敷き詰めてあり、彼女達はそのお陰で無事だった。しかも、まるで『これに掴まれ』とでも言う様に大きな浮き輪が浮いていた。それに掴まることによって溺れることはないだろう。

「た、助かった……」
「さて……私達は本当に助かったのでしょうか」
「そうね。このままじゃ終わりよ」
「ん~、そうでもないみたいですわよ?」
「どうゆうことですか、咲夜さん」
「ほら、よく見てごらんなさい。水かさが徐々に増えてきてるようですわ」

 咲夜の言う通り水かさが徐々に増えてきている。どこからか、水が入ってきているようだ。このままいけば水が元の場所の高さまで運んでくれるかもしれない。

「問題は『名前の無い道』とやらだな」
「そうですね。水が橋の高さまで溜まったら、早めに出口を見つけてここから出ないと……」


 だが、彼女達がいくら考えても何も思い浮かばず、気が付けば水は橋の高さの少し下まで増えていた。

「あっーー! わからん!」
「もうそろそろ出口の前まできますわ。そこに新しいヒントがあるかも……」
  
 やがて、出口の前の足場に上れる高さまで水が溜まり、彼女達はその足場に上った。そこには、右から二番目の出口があった場所の手前に『食』という一文字が書かれているだけであった。

「「「「……」」」」

 四人は言葉を失った。起死回生の案が思いつくかもしれないと期待していたヒントが『食』の一文字だったのだから、わからなくもない。

「はぁ、これだけかよ」
「とにかく! 最後まで諦めずに考えましょう!」
「そうですわね」
「ん~、まっ、いざとなったら一か八かの勘で勝負ね」
「そうですね。……あっ『食』というのはこの道の名前とかだったりするんじゃないでしょうか」
「ふむ。とうことはこの右から二番目の道は答えじゃないのか」

 四人はそれからというもの真剣に考えた。別にいままで真剣じゃなかったわけではないが、今まで以上に真剣に考えた。


 しかし、水は彼女達の足元に、さらにはまた浮き輪にしがみ付かなければならないほど溜まり、ついに天井付近まで溜まってしまった。

「やばい、これはマジでやばいです」
「真面目にどこにするか決めないと」
「くそう。……わわっ!」

 天井に頭が当たりそうになり、魔理沙は咄嗟に手で天井を抑えようとした。

「ん?」

 魔理沙は自分の手を見ながら何かが頭に浮かんできそうな気がしていた。

「……そうか! そうだぜ!」

 しばらく手を見ながら思案していた魔理沙だが、急に電気が走ったようにそのことを思い出したようだ。

「え!? 魔理沙わかったの?」
「ああっ! あの五本の道はそれぞれが『指』なんだ」
「『指』? でも名前の無い指なんてあったかしら」
「いや、『名無し指』って呼ばれている指がある。それは薬指だ」
「でも、薬指だけじゃ……」
「それがわかるんだよなぁ」
「『食指』ですね……」
「ああ。人差し指のことを『食指』ともいうから、右から二番目の道は人差し指。そうすると薬指は……」
「左から二番目の道ね」
「ああ!」
「……でも、この状況だと潜らなければなりませんわよ」
「そうですね。この水量からすると一回あの道を開けるのに失敗したらもう終わりですね」
「一回勝負って訳ね」
「面白いじゃないか」

 四人はお互いの顔を見合わせた。

「いくわよっ!」

 四人が一斉に水の中に潜る。目的の道の前まで素早く泳いでいき、塞がっている道を開けようとする。道を塞いでいる岩を蹴ったり押したりするが、水中では力が入らないのか中々うまくいかないようだ。

「……むぐぐ」
「……む………」

 四人とも息が続かなくなってきたのか苦しそうな顔を浮かべる。それでも諦めずに壁をを破ろうとするが一向に事態が動く気配がない。

「「「……!?」」」

 やがて早苗の体が上に上がり始めた。どうやら限界らしい。
 
 早苗がリタイアしたのを境に、魔理沙と咲夜も順にリタイアしていった。残りは霊夢一人である。だが、霊夢ももう限界である。霊夢自身もそのことはわかっている。最後のあがきをするつもりなのだろうか、後ろにさがって助走をつけた。そして、残った力を振り絞り思い切り体を壁にぶつけた。

「ぶっ!?」

 霊夢の渾身の体当たりで何とか壁は崩れた。霊夢がこれで助かった、とホッとしたのは一瞬のことで、次の瞬間には開いた穴に流れ込む水に巻き込まれた。それは他の三人も同様である。その勢いは到底人間の力では逆らえるものではなく、成すすべなく流されるしかなかった。

 

 そして、激流の中、霊夢の意識も闇に沈んでいった。






























「……お? おおおお? 生きてる……のか?」

 魔理沙の意識が戻った時、魔理沙は河原にいた。

「……こりゃ、三途の川か?」
「違うわよ。ちゃんと生きてるみたいよ」

 声のした方向を見てみると、そこで霊夢が魚を焼きながら座っていた。

「んっ」
「なんだよ」

 霊夢は焼けた魚を魔理沙に渡す。

「お腹すいてるでしょ」
「え? ああ、まぁ」
「ほら、こっちきなさい。服乾かさないと風邪ひくわよ」

 確かに服はびしょ濡れだ。乾かした方がいいだろう。

「それにしても服がボロボロだな」
「体も生傷だらけね」
「咲夜と早苗は?」
「んっ」

 霊夢が指を指した方向を見ると、二人がこちらに向かってきているのが見えた。

「それにしてもここはどこだ? 幻想郷にこんな場所あったか?」
「それを探りに咲夜と早苗が探索しに行ったのよ」
「ふ~ん」

 魔理沙はこの場所の心当たりを探っていたが空腹には勝てず、まずはお腹を満足させることにした。

 魔理沙が魚を食べていると、咲夜と早苗が帰ってきた。

「あっ、魔理沙さん。目が覚めたんですね」
「あなたもしぶといですわね」
「まあ、こんな所でおっ死ぬ私じゃないぜ」
「それより二人とも、何かあった?」
「ええ」
「何とも怪しげな家が一軒」
「よし! そこに直行だ!」
「……食べるの早っ!」



 その後、咲夜と早苗の案内で一軒の家に着いた。

「いかにもって感じね」
「ああ。きっとこの中に」
「お宝があるんですね」
「……言っておきますけど、油断はいけませんわよ」
「いくわよ!」

 霊夢がドアを一気に開けると、そこには……










「ん~? あら? あなた達何故こんな所にいるの?」

 八雲紫がラーメンをすすりながら『お○ャ魔女ど○み』を見ていた。

「…………」
「あー……これはあれか? 見間違いか? ははは、おかしいな何度見直しても同じ光景しか見えないぞ」
「……これは」
「なに?」

 あまりにも予想外な光景に誰もが自分の目を疑った。

「何なのよ!?」
「? 何? それはこっちが聞きたいんだけど。どうしたの霊夢」
「何で紫が……」
「ラーメンすすりねがら……」
「『おジ○魔女○れみ』を見てるんですか!?」
「そうだ、そうだ! ……ところで早苗。『お○ャ魔女どれ○』ってなんだ?」

 物凄い勢いで質問されて紫はたじろいだが、取り合えず答えないとヤバそうな雰囲気だったので答えることにした。

「何で、って……ここが私の家だからよ」
「お前の家はマヨヒガじゃないのか?」
「正確には違うわよん。ここは藍の監視もなくて好き勝手できるから楽なのよね~」
「「「「……」」」」
「じゃあ次はこっちからの質問よ。何であなた達がここにいるのかを聞かせてもらうわ。ここは私以外の者は人間も妖怪も誰も入れないはずなのにどうやってここに来たのかをね」

 四人は話そうかどうか迷ったのだが、事のあらましを話すことにした。

「ふ~ん」
「で、お宝は? 紫はその場所を知っているんでしょ?」
「ないわよ。そんなもん」
「……え?」
「あなた達が見つけた紙切れっていうのは先代だったか先々代だったか忘れたけど、確か博麗の巫女が『ここへの道標を造っておいた』って言っていたのを覚えているから、多分それね」

 紫の言葉に四人の体から一気に力が抜け、へなへなと床に座り込んだかと思うとそれぞれが奇怪な行動を取り始めた。



「私のお賽銭……私のお賽銭……私のお賽銭……私のお賽銭……私のお賽銭……私のお賽銭……私のお賽銭……」

 霊夢は同じ言葉を何度もうわ言のように呟いている。



「……そうだ! 寝よう。そしてもう一回目が覚めれば真の現実が見えるはずだ!」

 魔理沙は座ったまま眠り始めた。



「お嬢様、本日のおやつでございますわ」

 咲夜は部屋の中に置いてあるぬいぐるみと話し始めた。



「あ~。久しぶりに見ますね~。もう十年振りくらいですかね~。あの頃は私も随分小さかったな~」

 早苗は『おジ○魔女ど○み』を見ながら昔を語り始めた。



「ちょっと、ちょっと。何なのよおおおおおおお!」

 そして紫は頭を抱えて叫ぶしかなかったとさ、めでたし、めでたし。
「それにしても紫さんが『お○ャ魔女どれ○』を見ているとは……」
「べ、別に深い意味はないのよ? 橙がはまっていてね。話をあわせるために見ているだけよ? ホントよ」
「ふ~ん、そうなんですか~」
「な、何よその目は! 信じてないでしょ」
「……そういうことにしておいてあげますよ」
「む~~~っ」
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どうも、隠れ沢庵です。

久しぶりの投稿となりました。私ごときを覚えていらっしゃる方は少ないかと思いますが……


それにしても、洞窟っていいですね
隠れ沢庵
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コメント



0.800簡易評価
5.30名前が無い程度の能力削除
謎解きに無理があるなあと思いながら読み進めたら最後は紫オチ。
オチで紫使うと何でもアリになるから白けるんですよね。