むかしむかし あるところに それはそれは 泣き虫なうさぎがいました
うさぎはほんとうに泣き虫で いろんなことで 泣きました
ころんで泣いて いじめられて泣いて まいごになって泣いていました
おなかがへったよー のどがかわいたよー さみしいよー かなしいよー
けれども だれも泣き虫うさぎをたすけるひとはいませんでした
のはらで泣いて 森で泣いて たにで泣いて うみで泣いていました
くさばかりだよー 木ばかりだよー いわばかりだよー しょっぱいよー
いつしか泣き虫うさぎのなみだは とまらなくなっていました
うさぎは なみだのみずたまりのまんなかで ひとりで泣いていました
めでたし めでたし
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どうも、こんにちは。鈴仙です。永遠亭でしがない薬売りをやっている者です。
正確に言うと私の師匠である八意永琳様が薬を作り、それを私が村に売り歩いています。
なので正直言うとあまり薬の知識はありません……。買って貰う人には言えませんが。
永遠亭には姫様、蓬莱山輝夜様もいらっしゃいます。
私が月……ゴホンッ、前にいた場所ではすっごく有名な方です。
でも今は日がな一日盆栽の手入れをして優雅に暮らしています。決して働いていないのではないのですよ?
それとその他大勢の妖怪兎たち、これが今の私の家族です。
…………『家族』とか言っちゃった。嬉しいけど、恥ずかしい……。
……え? いいえ、以上です。
……ですから、私の紹介は以上ですってば。
じゃああの妖怪兎の陣頭指揮をしているのは誰かって?
あれは……。
……名など知りませんが、他の兎と違って頭も良いし、お師匠様達は結構重宝している兎です。
そうですねぇ、左目の下に黒子があるので私は『泣きボクロ』ってたま~に呼んでます。
ご覧の通り兎達のリーダーをやっているくらいですから、それなりに力もあります。
でも私の方が強いんですよ、なので実質私が真のリーダーです。
あれは副リーダーです。本当です。
月の兎は餅は搗くけど嘘を吐きません。……あっ。
そ、そうそう、嘘といえばあの『泣きボクロ』ってば、すごい嘘吐きのイタズラものなんですよ。
いいえ、私は地球生まれです。いいから聞いてください。
例えば、私が竹林を歩いていると転びます。なぜか分かります?
いや、私がどん臭いんじゃなくて。
あの『泣きボクロ』、草同士を結んで私が転ぶように罠をしかけたりするんです。
それで何度抱えた薬をダメにしてお師匠様に怒られたか……。
この間なんか行李……ああ、葛籠のことです。その葛籠に私の下着を……。
私もびっくりしましたが、一番驚いてたのは薬を買おうとしてくれたお爺さんです。
恥ずかしくってその場からすぐに逃げましたけど、お爺さん、卒倒したそうです……。
いえ、売り物じゃないですから。値段なんてつけてませんから。
こんな事もありました。
あの日はお師匠様のお手伝いをしていて、とある薬を薬剤部屋に運んだんです。
途中の軒下であの『泣きボクロ』がいたんですが、その様子にびっくりしました。
あの子泣いてたんです。涙ぼろぼろこぼしてめそめそめそめそ。
普段は鬱陶しいくらいに元気過ぎるやつですから、泣いてるなんて有り得ないと思って。
あんまり悲しそうに泣いてたから、私は元気付けてやろうと声を掛けました。
「何をそんなに泣いてるの?」って聞いたら、「悲しくないけど泣いてるの」って。
言ってる事はよく分からないけど、それでも泣き止まないので。
「元気出して、そんなに泣くとかわいい泣きボクロが取れちゃうよ」って言いました。
そしたら「じゃあ代わりにあなたが泣けばいいじゃない」って言うんですよ。
するとあの子はちょんと私の目元に何かをくっつけたんです。
手に取って見れば小さい黒いもので、ふとその子の顔を見れば、目の下にあったはずのものがないんです。
そりゃあもう、私は飛び上がって叫びましたよ。持ってた薬入れを投げちゃうくらい。
私の声を聞いてお師匠様がすぐに来てくれました。
けど、その時にはアイツの姿は煙のように消えていて、してやられたと思いましたね。
お師匠様に謝りながら事の顛末を話すと、くすくす笑うんです。
「黒子はきっと化粧かなにかで隠したんでしょう。それは丸薬ね」って聞いて、私はほっとするやら腹が立つやらで。
でもお師匠様は言ってました。
「あの子あれでも昔は泣き虫だったそうよ。もちろん、嘘か本当かはわからないけど」
私は嘘だと思いましたね。
だってあんなイタズラ好きが泣き虫だったなんて、考えられませんもん。
この時みたいに嘘泣きならともかく、本当に泣いたことなんてあるのかしら、って。
だから私、仕返しついでにその『泣きボクロ』に、い・た・ず・ら、してやったんです。
内容は簡単です。アイツの黒子を取ってやろうと思って。
いえいえ、本当に取ってしまうわけじゃなくて、私の能力を使ってちょちょいっと。
アイツに黒子が取れてしまったっていう幻覚をみせてやろうと、そういうことです。
朝早くに私起きまして、兎達用の洗面所で待ち伏せしました。
『泣きボクロ』が起きてきて顔を洗い、拭こうと伸ばした手の先にはいつもの布巾が無いときた。
そこで私が後ろから、はい、っと布巾を手渡します。
「気が利くじゃん」とかアイツが言って、鏡越しに目が合った瞬間にビビッと。
ふふふっ。油断していたのか簡単に引っ掛かってくれましたよ。
まさか私がイタズラしてくるなんて思ってないんですかねぇ? ふふふふっ。
それでしばらく観察してたらアイツの挙動がだんだんおかしくなっていきまして。
部屋の中をきょろきょろ、軒下と庭先の間をうろうろ。
しまいには四つん這いになって探してるんです、自分の黒子。
私それ見たらおかしくておかしくて、笑い声を我慢するのがあんなに苦しいものだったなんて知らなかったですよ。
また声を掛けたらあの子「黒子がどっかいっちゃったの、どこにも無いの」って今にも泣きそうな顔してました。
ちょっとかわいそうになったきたのでここで種明かし。
引っ掛かったなぁや~い、って話してやったら顔を上げました。
でもね、もう泣いちゃってたあの子の目元を見て、私生涯で一番驚いたかもしれません。
目元に無いんです、黒子が。
そんな馬鹿なってそいつの顔ひっ捕まえて目元を擦ってやったんですけど、今度は化粧でもなくてやっぱり無い。
私の能力は確かに効いてました。自分の力ですからそのくらい相手の目をみれば分かります。
だけども黒子が無い、ほんとに取れちゃった。
私、もう無我夢中であの子と一緒に四つん這いになって探しました。
廊下の柱の陰、畳と畳の隙間、座布団の下に七輪の中、戸棚の奥から天井の梁の上まで。
一応他の兎にも黒子見かけなかったかなんて聞いて回ったりして。
妖怪兎総出で探したけど、それでも黒子は見つからない
あの子はもう大泣きして、私もみんなも諦めかけたときにお師匠様が何をしてるのと聞いてきました。
また顛末を話したらお師匠様は一つ唸って開口一番、顔を拭いた布巾は調べた?
それを聞いたあの子は一目散に走って行きました。
追いかけて洗面所の前まで来れば黒子が見つかったようで、その子はまた泣いてたんです。
今度は嬉し泣きか、と半ば呆れてるとお師匠様の拳骨が私に降って来ました。
それが痛いのなんのって。情けないけど、私も涙が出ちゃいまして。
周りに居た妖怪兎達もなぜか一緒になって泣き出す始末。もう号泣の大合奏って感じで。
おかしかったのがそのときちょうど起きてきた姫様の一言です。
「こんな泣き虫ばかりだったら、侵入者に突破されるのも頷けるわね」
実はあの子の泣きボクロが本当に偽物で、付け黒子だったなんて、まんまと皆騙されてました。
でもそれがバレてからもあの子はその黒子を付け続けてましたね。
聞けば、ず~っと昔に落としちゃったから今のコレはその代わり、なんだとか。よく分かんないけど。
私が、そんなに大事な物だなんてごめんねって言ったら。
「今は別に大事じゃないよ。忘れないためにつけてるの」だって。もっとよくわからないわ。
あんなに泣いてたくせに、今じゃそれまで以上に元気にイタズラしてます。
あぁ、そう言えばその子それ以来嘘泣きしてませんね。っていうか泣いてるのも見たことないか。
え? 名前? ……そうですね、今じゃ『泣きボクロ』って言うのも変ですもんね。
はいはい、そうです、そいつの名前は、因幡てゐっていいます。
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むかしむかし あるところに うそ泣きうさぎがいました
うさぎはことあるごとに うそ泣きをして みんなをからかいました
かなしくて泣いてるの つらくて泣いてるの おなかがすいて泣いてるの
けれどもそれは ぜんぶうそ
山がかじになったよー なかまが死んじゃったよー さみしいよー
けれどもみんなは うそ泣きうさぎをたすけたりしません
ひとりっきりなのに まだうそ泣きしてるうさぎから みんなは はなれました
いつしかうそ泣きうさぎのなみだは とまらなくなっていました
うさぎは なみだのみずたまりのまんなかで ひとりで泣いていました
めでたし めでたし
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あるところに うそつきうさぎがいました
そのうさぎは ほんとうにうそつきで いつもみんなにいたずらしていました
おとしあなをほる さとうとしおをいれかえる くすりとパンツをいれかえる
うそつきうさぎは いっぱいうそをついてきました たくさんのうそをつきました
あるひ うそつきうさぎは たいせつなものを なくしました
がんばってさがしましたが それでもみつかりません
けれど みんなもいっしょにさがしてくれました
だいじなものが ぶじにみつかると うそつきうさぎは泣きました
わんわんわんわん 泣いてると みんなも泣いてました
いつしかうそつきうさぎのなみだは とまらなくなっていました
うさぎは なみだのみずたまりのまんなかで みんなで泣いていました
めでたし めでたし
創作する側になって読者の反応の重みを知るものですよね。
でも丁寧な文章を読むだけで、読む側は元気が出ることがあります。ギブアンドテイクの考えですが少しでも励みになれればと思い、ポイントだけですが投稿させてもらいます。
長文失礼。
そういえば冒頭のうさぎは海を知っていたな、鈴仙違う、てゐのことだったか! と気付かされました
その後は、うーn。よくわからない話でしたw
あとがきに全部持っていかれたw うぎぎ