同作品集「手を取り合って」「背中見つめて」の設定を使っています。
また、プチのアステルパーム作品とも関連があります。
目がさめると目の前に背中があった。
すぐに背中だと気づいたわけではない。そのときはまだ頭がボーっとしていて、
自分がなにか居心地のいいものに引っ付いていることだけしかわからなかった。
そのままその暖かさを堪能していたくて、抱きしめる左手に力をこめる。
むっと知らない匂いがたちこめた。
知らない匂いだが、いやな匂いではない。
上滑りした思考のまま、すんすん鼻を鳴らしてその匂いをかいでいた。
密着しているとだんだん鼻が慣れてしまったのか、香りが弱くなった。
ぐりぐり額を押し付けて、さらに匂いのする場所を探す。
固い背骨とやわらかいわき腹をさまよっているうちにだんだん頭が覚醒してきた。
あー、これ魔理沙の背中だわ。
昨日は紅魔館で飲み過ぎて、魔理沙に手を引っ張ってもらったあたりまでは覚えている。
それから魔理沙が箒に引き上げてくれたのだろう、背中の感触だけはよく覚えているのだが、そこから先は記憶がない。
おそらく魔理沙が私の家まで運んでくれたのだろう。
そのまま家に帰るのがめんどくさくなって私のうちに泊まっていったであろうことは容易に想像できる。
だからといってなぜ同じベッドに。
気づいたからには流石にそれ以上体を探るのはためらわれた。
結構ごそごそしたはずなのに、魔理沙が起きる様子はない。
私はそれ以上動かずに、背中を観察してみる事にした。
日の光が差し込んでくる穏やかな朝だからだろうか、
昨日の魔理沙の背中は風を切って空を駆ける大きな背中だったが、
今日の魔理沙の背中は等身大の少女らしい背中のように思える。
それに、昨日は気づかなかった魔理沙の匂いも、そばに居ることで強く感じることができる。
汗と酒の匂いに混じって香る体臭。
他人の匂いはあまり芳しいものではないはずなのだが、なぜか嫌いになれない。
すんすん鼻を鳴らしていると、私もまた眠くなってきた。
本当はいつものように起き上がって、朝食の準備でもして、寝坊してくる魔理沙に素っ気無い態度をとるのが正解なのはわかっている。
近づきすぎるのも、遠ざかりすぎるのもよくないことだ。
しかし魔理沙の匂いは私をさらに眠りに誘う。
ぐずぐずしているうちに、そのまま寝てしまうんではなかろうか。
そんな思考を最後に私は二度寝してしまった。
目がさめると知らない枕が目に入った。
四隅にかわいらしいレースの装飾が施された女の子らしい一品だ。
はて、こんな少女趣味な枕なんて持っていただろうか。
思い出せないまま寝返りをうとうとすると,
何かやわらかいものが私を拘束していることに気が付いた。アリスの手だ。
結局昨日はアリスを起こせないまま彼女の家に送り届けることになった。
本当はそのまま帰るつもりだったのだが、アリスが私を離そうとしなかったのだ。
私もいいかげん眠かったのだが、流石に二人でベッドに寝るのは躊躇していたつもりだったのだが。
この状況を見る限り、アリスはしっかり私を確保していたらしい。
アリスの左手は私の肩のあたりを掴んでいた。
意識はないだろうに、握り締めた私の服を離そうとしないあたりは頑固な性格を象徴しているようだ。
こう一生懸命握られると無理やり引き剥がすのがかわいそうになる。
昨日もそれで帰れなかったのだ。
アリスの手をじっくり眺めるのはこれで何度目になるだろう。
相変わらず白魚のようなきれいな手をしている。
朝のやわらかい光が照らしているせいか、昨日のような恥ずかしさは沸いてこない。
アリスを意識していることを自覚したせいでもあるだろう。
昨日は寝ているアリスを後ろに乗せて、柄にもなくいろいろ考えたりしたのだ。
もっとも、それを表に出す気はさらさらない。私達には似合いの距離というものがあるのだ。
だからといって悪戯を止めることにはならないのだが。
アリスが寝ていて、指先を好きにできる機会などそうない。これは好機というべきだろう。
手に息を吹きかけてみる。
あれだけ頑固に握り締めていた手が、ふと緩んだように見えた。
頬を寄せてすりすりしてみる。
奇跡的なまでに滑らかな肌は、ほとんど私の頬とおなじぐらいのすべすべ加減だ。
いくらなんでも反則すぎる。
お仕置きにやわらかく人差し指をかんでみた。
歯に伝わる感触ですらやわらかい。おいしそう、と思うのはいくらなんでもあんまりだろうか。
唇と歯でふにふにしていると、アリスが身じろぎするのがわかった。
私達の関係はまだまだこんなことをするほど親しくもないし、お互いの契約も交わしていない。
こんなことは寝ぼけていたからだと、夢だと思っておくのがふさわしいだろう。
もうそろそろ日差しも高くなってきた。
さあ、いつもの関係をはじめよう。
「……なんであんたが私の手を握ってるの?」
「いや、私も何でお前が背中にしがみついてるか聞きたいんだが」
これが世に言うところの 眠でれ という奴ですか。
前の2つの話の続きみたいですが、
それを前提とするならその旨をどこかに書いた方が良いかもですね。
魔理沙の背中をクンカクンカしたりアリスの手に歯を立てたり、そんな欲望に目覚めざるを得ない。
あま~いw