『この顔にピンと来たら咲夜まで』
◇ ◇ ◇
いつものように暗く、居心地の良い図書館。しかし、今日ばかりは違った。じめりこじめりこと湿っているのだ。気持ち悪い。
思索を廻らせる間もなく、突然の喧騒と共にレミィはやってきた。気丈を装った振る舞いで、「やぁ、パチェ」なんて白々しく挨拶をしている。威厳と傲慢に満ち満ちていた姿は、しゅんと肩を竦め、まるで家出した少女のように哀れだった。吸血鬼にしては瑞々しい指先に、一枚の紙切れ。『愛想が尽きました。探さないでください』つまり、離縁状。勝手知ったる竹馬の友。動揺しているのが手に取るようにわかる。
「全く……急にこんな……全く、もう!」
「居ない人に怒らないでよ」
レミリア・スカーレットは愛想を尽かされてしまったのだ。自業自得。因果応報、とも言う。
「パッパパ、パチェ、私は何がいけなかったんだろうか」
あまりに動揺しすぎてリズム良く私の名前を呼ぶレミィ。ついでにつま先でステップを刻んでいる。珍しく反省モードのレミィだった。私は彼女に生まれた良心の芽を慈しみ、育んでやらなければいけない。正義の人、レミリア・スカーレットここにあり。桜吹雪の舞い散る白い背中を幻視しながら、妙な使命感が私を突き動かしていた。
「その小さな胸に手を当てて、考えてみることね。……食事の時間なんかは?」
「目の前でよく料理をこぼしてた。咲夜に叱られた数は覚えてない」
流石はスカーレット・デビル。零すのは紅い液体だけではなかった。ロブスター・デビルでもフォアグラ・デビルでもゴルゴンゾーラ・デビルでも好きなように改名すればいい。前途多難。ポンと心当たりが出てくることが既に異常だった。何が原因かを詮索するだけ無駄。敢えて原因を挙げるならば、レミィの行い、全て。
「この前霊夢が遊びに来たわよね?」
「咲夜に外で遊べってゆわれた」
「ふうん」
「はいそうですか、なんて言う私じゃ無いじゃないか?」
「そうね」
「部屋の中でやったのよ、あえて」
「叱られた?」
「叱られた」
傍若無人。しかし、それこそがレミィがレミリア・スカーレットである所以。少女のように萎れているレミィなんて、レミィではない。わがままで、咲夜を困らせてこそのレミィ。レミィは鼻をスンと鳴らし、指をパチリと弾く。何かを思いついたようだ。歪む口の端が実に悪魔的。
「そうだ。この手紙には【私に】愛想を尽かしたなんて書いてないじゃない」
別の人かもしれないわ、なんて言いながらカリスマたっぷりに顎に手を当てている。偉大なる紅魔館の主は早速計略をめぐらせているようだ。即ち、責任転嫁という名の。威厳の欠片も無い。
「ホラ、ウチには門番がいるだろ?」
「美鈴のことね」
「門番が仕事なのに人間を招き入れすぎる」
「かも知れないわね」
「人間と接触しすぎて貞操観念が薄れた、とか」
確かに一理ある。外界を知り、外を識ることで憧れを胸に抱いてしまうというのもよくある話だ。知識を得た次のステップは実戦である。しかし、それはあくまでも探究心、興味本位であって、レミィの言ったとおり、誰彼構わず身体を許すような性格ではない。
「或いは、美鈴がそそのかした、か」
誰かに知恵を授けるよりも、一分、一秒でも多く惰眠を貪っていたいというのが美鈴という門番だ。あの娘が入れ知恵なんて面倒なこと、するはずがなかった。そのことを指摘してやると、それもそうね、と言って再び黙り込む。
「だったら咲夜。咲夜はどう?」
「心当たりは?」
「咲夜、散々開発してたじゃないか。もう入らないって言うのに無理やり広げたりして――」
「卑猥ね」
「瀟洒なのよ」
そういえば咲夜の姿が見当たらない。聞くと人里に探しに行ったそうだ。真っ先に飛び出していった咲夜が、愛想を尽かされるなんて考えにくい。答えは最初から明らかだったのだ。私はため息混じりに高慢なレミィにピシャリと言い放つ。
「レミィ、見苦しいわよ。貴女の従者たちでしょう? 貴女は従者を疑う愚かな主じゃ無いわよね。誰が原因でも、何が原因だとしても。全ては紅魔館を統率する貴女の責任。先ずは謝ること。頭を垂れることも主としての大切な役目」
レミィは身体をグングニルで貫かれたかのような衝撃を受けていた。
「パチェ……。うん、そうね。私が間違っていた。戻ってきたら、真っ先に謝罪しよう!」
流石は紅魔館を統率する小さき魔王、レミリア・スカーレット。彼女の生き方こそが、紅魔館の主たる証。
大丈夫。あの子なら、どうせおなかが空けば帰ってくる。
「だけどまさか――」
私は図書館の重たい扉を開けた。
ギィ、と重厚な音を立てて扉が開くと西日が差し込んでくる。
目の前に広がるのは湖上の田園風景。
レミリア代用水と札の掲げられた灌漑が水を供給している。
湿り気の原因はこれだった。
ジュッ、と何かが焦げるような音を私は無視した。
よほど気が動転していたに違いない。
レミィは既に二毛作を仕込み始めていたのだった。
水田の真ん中には案山子代わりの色鮮やかな翼が見える。
「紅魔館が家出するなんて、ねぇ」
私は目を細めて独り、呟いた。
-終-
あとがきでやられてしまった……。
後書き含めてふき出してしもうたわw
何この予想外にも程があるオチw
意味不明過ぎる。
最初誰が家出したのかなーと思ってたら一人一人否定していって、
じゃあ名無しのメイドかと思えばこれか。
素晴らしき一発ネタ。ただ奇襲先行で意味不明過ぎるので90点で。
>水田の真ん中には案山子代わりの色鮮やかな翼が見える。
おぜう様妹に何してんすかwww
もっとデカいスケールだった。
咲夜さんは更に上を行ってた…
よいしょお!
物凄い大爆笑したwwww
予想の斜め上をいっていたwwwww
ソレをよいしょお!って持ってきちゃう咲夜さんってば・・・
よいしょお!
よいしょお!
切れ味が最高
後書の咲夜さんの馬力にも吹いたwww
辛かったんだねぇ、紅魔館……。
意味はさっぱりだがインパクトに負けた
よいしょお!
押入れどんだけおおきいんですかwww
最高ww
よいょお!
……か?
最高の一発ネタでした。
というか、なんだこれw