独自設定が含まれておりますので、その点に関して不快感を覚える方はプラウザバックを。
私が、悪魔の館と呼ばれる紅魔館に定期的に訪れる様になったのは、いつからだったか。
目的は、そこにいる人間の彼女に会うこと。最初は、何度か戦いで負けたこととかもあって、私が一方的に距離を置いていたけど。
何だかんだと私を持て成し、私の取り留めもない愚痴を聞いてくれて。てゐの悪戯や、師匠のお叱りの言葉で沈んだ私を、いつの間にか元気づけてくれる彼女。
そんな時間が心地よくて。たくさんからかわれたりもしたけど、それが彼女なりの友好の印なんだとも気付いた。
不定期がひと月に一度になり。一週間に一度になり。最終的には、仕事で暇を見つけては訪れるようになっていた。
一番心置きなく接することができる、友人として。
低く浮かんでいる月。満月は、昨日過ぎてしまった。
心地いい微風が頬を撫ぜる。今この時、風の音だけが、ゆらゆら揺れる長い耳に障る。
昨日雨が降ったせいだろうか。やや湿った草木が醸す匂いが鼻につく。
きっと今の私が鏡に映れば。頬は朱色に染まり、身体は小刻みに震えているだろう。行き場を失った感情が、お気に入りのスカートの裾を強く握らせる。
けど、きっといつもより紅い瞳は逸らさないで。しっかりと見つめて。それはまるで、愛の告白をする少女だと、我ながら思った。
ゆっくりと。言葉を紡ぐ。
「私、あなたのこと…」
◆
その日、私は結構沈んでいた。ここ、永遠亭に暮らす、一羽の兎が原因。
朝起きて、布団から出た瞬間、畳にカモフラージュされた落とし穴に落ち(人の部屋に勝手に穴掘りやがって……)、どこかの機械人間もビックリの泥の中に落ちたり。
汚れを流そうと湯浴みをしようとしたら、冷水を大量に浴びる羽目になったり。
珍しく朝から起きていた姫の我儘に付き合わされて、できもしない水芸をやって失敗。師匠からお叱りを受けたり。
兎たちが全然言うことを聞いてくれなくて、仕事が片付かなくて。それについて師匠から小言を言われたり。
私、一応ここの兎たちのまとめ役的立場だって思ってるのに……現実なんてああ無情。
そんな具合の今日。
目の前の襖。そこは月の頭脳とまで言われる、師匠の部屋その一。
薬の調合とか、そういうことをしている部屋。湯気を立てる湯呑を盆に載せて、私は立ち尽くしていた。
じっと、目を細めて目を凝らす。けして、能力を使ってるわけじゃない。
「………ピアノ線」
うっすらだけど。人工の明かりが少ない廊下に差し込む木漏れ日を反射している、線。
てゐが仕掛けたことなんて、誰に聞かなくてもわかる。一通り見まわして、それ以外に罠がないことも確認済み。
きっと、このピアノ線に私が引っ掛かって、お茶を師匠にぶちまけて、叱られるところを楽しく見物するつもりなんだろうと思う。
ふん。そう何度も引っかかるものですか。
襖をあけて、ちょっと大股でピアノ線を軽く乗り越える。
「師匠、お茶を淹れてきました」
「あら。ありがとう、ウドンゲ」
いえいえ。お礼を一言いっていただけるだけでも私の荒んだ心は癒されます。
私が部屋へ踏み入った瞬間、視界が傾いた。足元に落ちる目線。私が乗り越えたピアノ線とは別に、ピンポイントできつく張られたピアノ線。
不安定でもあるそのピアノ線は、私の体のバランスをいとも容易く崩してくれた。
振り向いて、お茶を受け取ろうとしただろう師匠の驚きの顔。宙を舞う師匠専用の湯呑。そこから零れているだろう緑の液体。
まさか師匠の部屋に仕掛けてあるとは……なんたる不覚。敵ながら天晴れだよ畜生、なんて叫べたら気が楽だろうなぁ。
そのとき私は。
てゐへの罵詈雑言なんかこれっぽちも無く。眠りにつくかのような安らかな心境で、思った。
終わった。
どこからかあがる、歓喜の声を聞きながら。
◆
時間またいで、夜中。師匠が趣味でやってる診療所の受付。
といっても、基本は薬の置き売りや往診が主だから、ほとんど人は来ないけど。
突っ伏して溜息を吐くしか、やり場のない気持ちをどうにかする方法がなかった。
普通に怒られるだけなら別にいいんだけど、こめかみや頬の腱をまるで弓のようにギシギシ軋ませた笑顔で悟らせるように怒るのはやめてほしい。
「ねぇウドンゲ」
「はい……」
「火傷なんて、私にとっては些細なことだけど。熱くないなんてことはないのよ?」
「はい……」
「調合途中の薬もダメになってしまったし」
「はい……」
「はいって答えてれば済むと思っているのね?」
「はい……」
「今日はご飯抜き。それから、今から新薬の実験するから」
「えーーーーーー!!!」
く~、と情けない音が私のお腹から響く。
お腹すいた。何か食わせろって、胃や腸がデモを起こしてる。でもごめん。食べモノはここにないの。
それにしても、てゐの悪戯だってことは師匠もわかってるんだから、私だけお叱りを受けるなんて、理不尽じゃない。
「もしもし?」
妖怪兎たちに言うことを聞いてもらうのも大変だし。
てゐの悪戯に頭は痛くなることも最近増えたし。
師匠のお叱りはいつものことだけど、もう少し毒や薬以外のことにも積極的に目を向けてほしい。
ああ、こんな悩み、この永遠亭の誰も理解してくれないんだろうなぁ。基本的に自由に生きてる人たちだし。人じゃないけど。
自由気ままな部下と、それでいて上司に板挟みにあってる辛さは、結構堪える。ああ、胃が痛い。
「……もしもし?」
「ふぇ?」
意識を引っ張り戻すと、腕を組んで目の前に立っている女性。
白と群青のツートンのメイド服。何度か弾幕勝負をしたこともある、悪魔の館のメイド長。
この受付を定期的に訪れる数少ない人物であり、人里へ行く兎たちではなく、師匠が直接薬を売っている稀有な人間。
確か、咲夜、って名前だったっけ。
「いつもの薬を受け取りに来たのだけど」
「あ、ええ。師匠から預かってるわ。師匠は今、湯浴みをしてるから。えっと、この二種類ね」
咲夜が確認するようにビンのラベルを流し見る。確か、あの薬は頭痛と胃痛を抑える薬だった気がする。
確認が取れたようで、お代を受け取った。と、その瞬間。
く~、と。なんとも情けない音が沈黙の中に響いた。
呆然とする私。眉ひとつ動かさない咲夜。
少しずつ頭に血が上ってくる。よりにもよってこのタイミングで。弾幕勝負とかで負け越している彼女の前で。
一拍の間を再び沈黙が支配した後、にんまりと、彼女は笑った。
「お腹、空いてるの?」
「べ、別にそんなこと……」
く~……。
その通りだ、と。よく気付いてくれた、と言わんばかりにまた鳴る。
真っ赤になってお腹を押さえる私を、彼女は何とも楽しそうに笑った。
「一応、いつもお世話になっているから。ここの全員にってお土産を持ってきたのだけど。これ、貴女にあげるわ」
「……なに?」
一言でいえば重箱。
気付かれないように期待感を込めて、チラチラと視線を行ったり来たりさせる。
咲夜がその蓋を取ると、雪のように真っ白な菓子が規則正しく並んでいた。
「お団子よ。貴女たちは兎だし、好きかしら、と思って」
「こ、これ……。本当にいただいても?」
「ええ。もっとも、きっと一人じゃ食べきれないでしょう」
「ぅぅ……。ありがとう!頂きます!」
ああ、私。この人とだったら仲良くなれそうな気がする……。
なんて錯覚まで起こしそうになるほど、そのお団子は美味しかった。
もちもちした歯ごたえと、ほんのりと甘く、舌触り滑らかな漉し餡。
およそ十二時間ぶりの食事。しっかりと噛みしめていると、緑茶の香りが何処からか漂った。
「どうぞ。高価なものじゃないけどね」
「湯呑もお茶も……どこから?」
「いつでも美味しいお茶を提供できるようにすることは、メイドとしての嗜みですわ」
笑顔で答える咲夜。
本当にそれがメイドの嗜みだったら、ほとんどのメイドはメイドとして失格ということになると思う。
お腹も膨れて、幸せを噛みしめていたところに、咲夜がぽつりとこぼした。
「疲れているんじゃない?」
「え?」
眉をひそめて、まるで気遣う様に覗き込んでくる、深い湖の水面のような瞳。夕陽のようにそこに浮かぶ、私の紅の瞳。
まさか。見ず知らずとまではいかないけど、そこまで付き合いが長くない彼女にバレるほど、疲れが出ていたのか。
こんなところに私を心配してくれる人がいたことに感激するのと同時、けど本当に、そんな疲れを表に出していたか、と首を傾げる。
それとも、彼女の眼力がそれほどのものなのかしら。
「どうして?」
おずおずといった具合で聞き返す私。
咲夜は、気遣いの色を完全に追いやって、てゐが私をからかう時のような笑みを浮かべた。
……そうか。あなたもそういう属性か。
「だって……。貴女の瞳がそんなに赤いから」
「悪かったわね!生まれつきですよ!!」
もしかしたら私の苦労をわかってくれるかとも思ったのに。
盛大な肩透かしを食らった気分。このメイド長は……一瞬でも仲良くなれそうなんて思った自分を叱ってやりたい。
そもそも、疲れてるのは私よりもあなたじゃないのか、と。胃薬とか頭痛薬とか、定期的に貰いに来てるくせに。
そんな反撃をしてやろうかと立ち上がったとき、第三者の声が転がった。
「あら、来ていたの」
「ええ。貴女の薬はよく効くから、助かっているわ、永琳」
「それはいいけど、少しは減らしなさい。いくら私の薬でも、貴女の身体は生身の人間なのだから」
師匠の注意に、彼女は困ったような苦笑いで返す。わかってはいるのだ、という感じ。
お茶でも飲んでいかないか、という師匠の誘いを、まだ仕事があるから、と咲夜が断る。
それに対してまた、師匠は手のかかる子供か妹でも見るような顔で、ため息をひとつ。
「薬を取り過ぎるな、という助言にはしっかりと体を休めろ、という意味も含まれているのよ?」
「お心遣い、痛み入りますわ。けど、貴女だってこの子に無理をさせすぎたり、しているのではなくて?」
「あら。鈴仙には倒れない程度の休みを与えているわよ。疲れているとしたら、この子の休みの取り方が下手なだけ」
「そうなの?」
「え、ええ。まあ」
曖昧な返事返さざるを得ない。
確かに休みを貰うこともあるけど、てゐの悪戯や姫の気分で、私の心境が穏やかなことは少ない。
咲夜、もっと師匠に言ってやってくれないかなぁ、などと心の中で思ってみた。
が。咲夜は一段減った重箱を師匠に渡して、帰る旨を伝えてしまった。……やっぱり現実は無情なものね。
「あら、美味しそう。鈴仙、彼女のことだから大丈夫だとは思うけど、咲夜を出口まで送ってあげなさい」
「へ?」
大丈夫だと思ってるなら、別に私が付き添わなくても……。
それに咲夜だって何度もここを訪れているし、私が波長をいじって閉じ込めでもしないかぎり、迷わないんじゃないかしら。
まぁ、そんな事を言う必要もないし、特別忙しいわけでもないから。
「わかりました。必要かどうかよくわからないけど、送らせていただきます」
「そういうところが下手だって言ってるのに……」
頬に手を添え、たそがれるように溜息をつく師匠の意味深な言葉を背中に受けながら、私は咲夜を連れて永遠亭を出た。
それにしても。師匠と気軽に談笑できたりする彼女は本当に何者なのか常々疑問。
なんとなくだけど、師匠はこのメイドをずいぶんと気に入っているように見える。師匠の波形、普段より少し弛緩してるし。咲夜が訪ねてきた日は機嫌もいいし。
一度どんな手を使って師匠との仲を取り持ったのか聞いてみたい。そうすれば妖しげな実験につきあわされることもなくなるかも知れない。
人間で、紅魔館のメイド長で、時間を操ることができる。私は彼女こと、これくらいしかしらないけど。伝聞は期待できないし。
………友達がいないわけじゃないですよ。
「それにしても、案内なんて必要なの?」
「永琳が貴女に気を使ったんでしょ。私を送った後にでも、ゆっくり休みながら戻ればいいってことだと、私には思えたけど?」
「あ……そういうこと……」
師匠……私貴女の弟子でよかった。もう少し他人の機微に敏感になります。
と、少し離れた所の竹藪から、一羽の妖怪兎が飛び出してきた。
薬箱を背負っているから、昼間にでも人里へ薬を販売に行った兎かな。
小走りに駆けているのはいいけど、あの大きな箱を背負ってこんな夜中に走ったりしたら……。
「あっ!」
と、その兎の声が私の耳に届く。案の定、何かに躓いたみたいだ。
流石にここからじゃ手も届かないし、あそこまでバランスを崩したらもう無理。
何度も転んだことのある私にはわかる。……言ってて悲しい。
なんて思っていたのに。
「あれ?咲夜?」
いつの間にか隣を歩いていたはずの咲夜がいない。
辺りを見渡せば、転ぶ体勢に入ったはずの兎を彼女が支えていた。
そうか。彼女の能力なら……。なぜか真っ赤になったその兎は、何度も咲夜に頭を下げて、永遠亭のほうへ駆けだした。
……なんで真っ赤になってるんだろう。
「意外と礼儀正しい子もいるのね。みんなあの詐欺兎みたいのかと思っていたわ」
「てゐが例外なだけよ。それ以外の子は、基本的に平和主義だから。けど……妖怪兎が素直に頭を下げるなんて」
普段私にはそんなことしないくせになぁ。
咲夜が他人だからだったりするのか、いや、ない。面識のない相手に遠慮を見せるほど、あの子たちは思慮深くない。
そういえば咲夜は、妖精の部下を何十人と従えているんだっけ。その上主人は遺伝子の単位で我儘な吸血鬼。
……ちょっと納得いかないけど。彼女に聞いてみようか。
「ねえ。あなたと私の決定的な違いって何かしら」
「耳」
ざくっ。と擬音が脳内再生されて、咲夜の言葉のナイフが私を貫いた。
自覚はありましたよ。兎たちを叱るときも風に揺れるこの長い耳が威厳なんて台無しにしてることくらい。
どうやったら威厳が出せるのか考えて鏡の前で百面相だってしたこともある。けど、すべてこの耳が。何もかも壊してくれましたよ。
……中途半端に垂れ耳になってることだって実は気にしてるんだから。
けどそれは種族の違いなんだから仕方ないじゃない。聞きたかったこともそういうことじゃないし。
風がなでるかのような柔らかさで、何かが私の耳に触れた。
もちろん、なにかなんて確認するまでもない。
「か、勝手にさわ……」
「けど、その耳。似合っているし可愛いわよ」
「ら…な……。……あ、ありがと」
月明かりに照らされてうっすらとしか見えない咲夜の微笑は、なんだかとても綺麗だった。
辺りは暗いし、きっと頬が赤くなっているのには気付かれてない、はず。
さっきの妖怪兎の気持ちが、少しだけわかったような気がした。
咲夜は、こっちが恥ずかしくなるようなことを何の躊躇いもなく口にする人間なんだ。
けど、この立っている耳が、他の妖怪兎たちと違うことは気にしてたから……ちょっとだけ。
…ああもう!嬉しそうに揺れないで!!
「そうじゃなくて! あなたにあって、私にないもの、とか」
「なんでそんな事を聞くのか詮索するのは、無粋かしら?」
「無粋ですよ」
そう答えた私を、咲夜は軽く屈みこんで、視線を合わせてくる。
ああ、言われる前から一つ見つけてしまった。身長の差。
咲夜は師匠より少し……拳一つ分くらい低いだけで、女性にしては長身。
それに比べると、私は至って平均的というか、高くもなければ低くもない。
上から見下ろされる視線というのは、意図せずとも相手に圧迫感を与える力があるし。威厳とかも、そういうところから生まれるのかしら。
「そうねぇ、まず第一に……」
「第一に?」
「頼りなさそう」
ぐさっ。まるで彼女の操るナイフのように容赦ない一撃。
一転して垂れ下がってしまう自分の耳に一抹の恥ずかしさと情けなさを覚えながら、咲夜をキッ、と睨みつける。
私の能力を知っているからか、あっさり視線を外して逃げられるけど。別に力を使おうとしたわけじゃない。
「そりゃあ私はあなたとの勝負に何度か負けてるけど、他の兎たちよりは全然……」
「あらあら。泣かないで」
「泣いてないですよ!」
「だって、そんなに目が赤いから」
「だから生まれつきだって言ってるのに!」
なんだこのメイドは。
赤く光るこの目のことぐらい、しっかり自覚してる。……自分だって能力使うと赤くなるくせに。
それは……ちょっとくらい涙眼になってたかも知れないけど。
この飄々とした人間に口論で勝つのは、師匠でも連れてこないと無理なんじゃないだろうか。
……結論。二人が一致団結して私をからかってきそうだから却下。
まぁ,幸いというか、竹林の出口までもう少しある。
「それじゃあ。……あなたの所の妖精たちに、どうやって仕事をさせてるの?気まぐれでしょう、妖精は」
「仕事? 紅魔館の仕事なんて、ほとんど私がやっているのよ。妖精たちには、朝に大まかな指示と、簡単な仕事を出会い頭に頼む程度ですもの」
「……参考にならない」
「ふふ、あなたと私は同じじゃないから。仕方ないわよ」
白々しい笑顔。いや、私の心境のせいでそう見えるのか。
永遠亭の家事や、師匠からの仕事。姫のお相手やてゐのお仕置きを私一人で片づけられるほど、私は器用じゃない。
というか、そんなこと時間や身体、その他諸々と相談しなくとも不可能だってわかってる。
咲夜の能力あってこその器量だ。そりゃあ、自分たちがすべき仕事を一手に担われてしまっていたら、頭なんて上がらないだろう。
「まぁでも、もう少し手伝ってもらいたいという願いはあるわね」
「永遠亭だって。頭数はいるのに、師匠からの命令でもないと全然働いてくれないんだから」
「そうねぇ。貴女、苦労していそうだもの。頑張り屋さんなのね」
「それはお互い様でしょ?」
「あら。共通点ができてしまいましたね」
一瞬の沈黙の後。二人して笑った。
いくら能力で時を操れたとしても、胃も痛めば頭も痛むものだと、咲夜がこぼせば。私が苦笑と一緒に相槌を打ち。
師匠や兎たちへの不満を私がこぼせば。咲夜が微笑みながら、私の苦労や頑張りを認めてくれる。
誰かに心の内を話すことが、こんなに気持ちがよいなんてこと、初めて知った。
ちょっとだけ、肩の荷が下り始めたところで、竹林の終わりが見えて、咲夜は足を止める。
ここまででいいということか、私も合わせて立ち止まる。
「それじゃあ、ありがとう。貴女のおかげで退屈しなかったわ」
「お団子も貰ったし、別にいいわよ。お大事にね」
一応、お得意さまであることには変わりないし。
ほんの少し。沈んでいた気分も晴れてきたから。それはまぎれもなく、今までにない第三者である彼女との交わりのおかげ。
師匠の優しさにも甘えて、のんびり帰ることにしようと、背中を向けた瞬間だった。
きゅ。と。痛くない程度の強さで、右耳を何者かに掴まれた。
「あ、温かい。ちゃんと血が通っているのね……」
「~~~~~~!!?」
そこから上下に撫でるような動きに、全身が震えあがる。
油断した隙にちょっかいを出してくるなんて本当にこのメイド……!!
裏拳を放ったところで、絶妙の距離を測られよけられる。
ずっと気になってウズウズしてたのよ、なんて呟く彼女から、若干の距離をとって。
慌てて耳を隠すように両手で押えて、警戒心をにじませた。
「ひ、人がちょっと油断したすきに何するんですか!」
「貴女、激昂すると口調が丁寧になるのかしら。珍しいタイプね」
「無視しないでください!それと口調はこっちが素……っ!!」
危うくいらないことまで言ってしまうところだった。
けど、咲夜は首をかしげているから、きっと聞こえなかったか、意味がわかっていないと思う。
慌てて咳払いして、耳に残る感触を払拭するように何度も頭を振った。……ぅう…敏感なのに。
「もう。そんなに頭を振ったら、髪が台無しじゃない。せっかく綺麗な長い髪をしてるのに……」
「誰のせいだと思ってるのよ!」
「ほら、こんなに乱れちゃって……」
頭を撫ぜるか撫でないかの微妙な強さで、咲夜の指が私の髪を梳いた。
よし、落ち着こう。彼女のペースに呑まれたら負け。深呼吸深呼吸。
「いい具合に、力が抜けたみたいね」
「え?」
「誰かのことを参考にするのもいいけど、自分らしくやることが、何事にも大切なことよ。根を詰め過ぎないようにね?」
「あっ……」
一瞬何の事を言っているのかわからなかったけど、理解した。
彼女なりに、緊張や鬱憤で固まっている私を気遣ってくれたのか。
些細なことかもしれないことに、なんだか幸せな気分になるなんて。
「あ、そうそう。貴女とは永遠亭でよく会うから忘れていたけれど、ちゃんと自己紹介したこと、なかったわね。
十六夜咲夜よ。いつまでも『あなた』じゃ他人行儀だから、名前で呼んで頂戴」
「レイ……。こほん。鈴仙・優曇華院・イナバ……何が言いたいかわかるからそんな目で見ないでよ」
「なんて呼べば?」
「鈴仙。師匠以外に優曇華院の名前で呼ばれるのは本意じゃないから」
一つ頷いた咲夜はまるで、重力など無い、とでも言うかのように。羽のように浮き上がる。
一瞬だけ翻るメイド服のスカートの裾。ちらりと、太ももの辺りに巻かれたホルダーと、銀のナイフが見えた。
「それじゃあ鈴仙、楽しい時間をありがとう。今度、紅魔館でお茶でも飲みましょう。友人として、歓迎させていただくわ」
「え、ええ。私のほうこそ、なんだかお世話になったみたい」
咲夜は最後にくすりと笑って、軽く手を振りながら月に近付いて行った。
私は、薬の販売や師匠の付き添いで人里にもよくいくけど、咲夜の評判はあまりよくない。
ま、そのわりに咲夜は楽しそうにしているし。……交友関係の狭い私にも、友達ができたし。この時間はきっと、無駄じゃなかった。
「自分らしく、かぁ。頑張ってみよう……かな」
なんだかすごく軽くなった気持で、私は永遠亭までの帰路に着いたのだった。
「友人……友達、か」
最後にぽつり、呟いて。
◆
それから、私は咲夜と過ごすことが多くなった。
彼女が永遠亭を訪れたとき。師匠から休みを貰って、私が紅魔館を訪ねたとき。宴会の中でも、彼女を探すことが多かった。
いつの間にか、永遠亭のメンバーを除いて数少ない、気が置けない相手になっていた。
なんとなく、境遇が似ていることもあってか、会話は弾むし、咲夜の淹れる紅茶や西洋菓子は文句なく美味しいし。楽しかった。
彼女の波形は緩やかで、見ているこっちまでそのペースに合わせられるように、穏やかなリズムを刻む。
そんな日々をしばらく過ごしたある日の朝早く。
眠い……。昨日は一日中師匠の実験につき合わされて、眠れなかったし。
悪夢を見せる薬やいい夢を見せる薬もいいけど、眠らなくなる薬なんて……。
もしかして私が服用することになるのだろうか……。憂鬱、けど眠い……。
そんな思考が頭を占める朝早くの時間に、紅魔館からの使いがやってきたのだった。
「おはようございますー!」
「?」
微妙にデザインが違うが、咲夜と似たデザインのメイド服。急いできたのか、髪が乱れていた。
さりげなく波形を見てみると、なんとも切羽詰まっているようみたい。
とりあえず用件を聞くと、やはりというか師匠に用事らしい。私は、嫌なものを感じて、慌てて呼びに行った。
「今朝、咲夜様が倒れまして……。お嬢様の命で参りました。八意様にご足労願えないかと」
隙間風がもれるような音が、私の喉から洩れた気がする。
咲夜が、倒れた。いつかきっと、体が持たないなんて笑い話をしたけれど、まさか。
いや、師匠を呼びに来るということはまだ無事、というかちゃんと生きているんだ。大丈夫大丈夫大丈夫……。
「ウドンゲ。……ウドンゲ!」
「あっ、はい!」
「一寸時間をあげるわ。準備をお願い。私は、姫様に話を通してくるから」
「わかりました!」
師匠が人里に往診にいったりするときに持っていく鞄の中身を確認。
補充が必要なものはない。毎日チェックを欠かさないからだ。
てゐとの鬼ごっこで鍛えられた脚力を使って、全力で玄関まで躍り出る。
「師匠!持ってきました!」
「ありがとう。じゃあ、急ぎましょう」
師匠からもどことなく焦りが見える。
咲夜が倒れたという報告を聞いた瞬間、今までに見たことがないくらい師匠の波形が揺れた。
声にも顔にも出てないけど、内心焦っている。できるだけ速く、私は疲れも忘れて紅魔館まで飛んだ。
◆
咲夜の部屋にいた吸血鬼姉妹、魔女さん、門番さん、妖精メイド達を部屋から出して、師匠の診察を手伝う。
咲夜の顔色は青く、普段白くて綺麗だと思っていた肌は、それを通り越して青白い。
風邪……にしては熱はなさそうだし。師匠の波形は時間が経つにつれて落ち着いて行った。これは……安心ってことかしら。
「過労と、それから来る貧血。かしらね。大方、私の薬も使って無理をしていたんでしょう?」
「……ごめんなさい。弁解の余地もないわ」
「まったく。これじゃあ本末転倒でしょう。まぁ、そういう不器用なところが咲夜の人間らしさなのかもしれないけど」
師匠が注射をしながらそんな事を言う。
投与した薬や、診断の結果をメモしながら、私は内心全力で溜息をついく。
まるでずっと息を止めていたように肺が痛かった。こそこそと覗いている紅魔館の住人に結果を伝えると、全員が安心したように気を緩める。
全員が咲夜の労いの言葉をかけた後、静かに療養するためという名目で、普段通りの仕事や居場所に戻らせた。
「大事な弟子の大事な友人みたいだから、今回は見逃すけど。次があったら、もうあの薬は出さないわよ」
「ええ。肝に銘じておくわ。……朝早く、ごめんなさいね永琳。それから、鈴仙も」
「わ、私は全然!大事なくてよかった!」
咲夜がうっすらと微笑む。
本当に、何事もなく済みそうで、よかった……。
「何日か、静かに休むこと。それから、たまにはウドンゲだけじゃなく、私もお茶に呼んで欲しいわね」
「ふふ、妬いているの?」
「ふっ、それだけの口が利ければ大丈夫そうね」
「ありがとう。今度、とびきりのをご馳走させてもらうわ」
師匠の波長が一瞬ぶれる。
……師匠に妬いてるの、なんて。咲夜は本当に人間らしくない人間。
何千、何万という時を生きているはずの師匠に、十数年しか生きていない人が利ける口じゃないと思う。
薬のおかげか、咲夜は眠ったみたいだった。
「ウドンゲ、貴女は見張りとして残りなさい」
「え? ああ、はい。わかりました」
咲夜のことだから、少し休んで体調が回復したら、すぐに仕事に戻るだろう。
師匠が部屋を出ていくと、一転して部屋が静かになった。
咲夜のベッドの傍へ近くの椅子を寄せて、頬杖をついて寝顔を覗きこむ。
普段からかわれてばっかりだから、こういう時くらいの役得っていうことで。
綺麗な顔。睫毛もこう見ると長いし、鼻筋も細い。外に強くはねている銀髪も、月明かりのようで、見ていて落ち着く。
「……ふぁ…眠い」
けど、一睡もしていない私の目の前で、気持ち良さそうに寝ている咲夜を見ると、こっちまで眠くなる。
ただ単に、私の緊張の糸が解けたからかもしれない。
……咲夜とは、もっと楽しい時間を残していきたいから。
くいくい、と袖を引かれるような感覚に、うっすらと目を開ける。
寝てた!慌てて頬を叩いて意識を覚醒させると、いくらか血色のよくなった咲夜が、私のほうを見つめていた。
水?それともトイレとか?
どちらも違うと首を振った咲夜は、ベッドの隅のほうへ移動して隣のスペースをぽんぽんと叩いた。
「えっ……と?」
「疲れているんでしょう? 貴女も、一緒に眠るといいわ。黙っておいてあげるから」
「べ、別に疲れてなんて……」
「目、赤いわよ」
「う、生まれつきだって言ってるのに……そうやってからかうんだから」
理由がそれだけじゃないことはわかってる。
けど、照れくさいというか、師匠の見張っていろっていう言葉もあるし…。
つっ、と咲夜の細く、冷たい指が私の眦をなぞった。
「隈も出来てる」
「う゛……っ」
「友達に嘘をつかれるなんて、私悲しい……」
「う、嘘っていうわけじゃ!」
拗ねる様に枕に顔を埋めてしまう咲夜。
まるで、一瞬にして遠く離れてしまったような錯覚に、私はベッドへ身を乗り出す。
咲夜の容体を見るために、私はしっかりと起きていないといけないわけで……。
け、けど。暖かいベッドと咲夜という、初めてといっても過言ではない心許せる友人の隣、という誘惑は捨てがたい。
渋る私に焦れたのか、咲夜は思い切り腕をのばして、抱き込むようにして私をシーツの海へ。
「ちょ!ちょっと!」
「私がいいっていってるのだからいいのよ。永琳に何か言われたら、私のところに泣きに来なさい……」
「う、うぅ……」
咲夜がさっきまで寝ていたせいか、心地いい…心地良すぎる暖かさだった。
子供をあやす様に背中にまわされた腕の存在が、私を眠りへと誘おうとする。
ああ、だめだ。これは耐えられない。
「……貴女、抱き心地いいわね」
「変なこといないでくださいよ!」
「相変わらず、癖なの?話し方」
「知らないですよ!」
「とにかく、私の安眠のために抱かれていなさい」
「そんな勝手な……」
けど、そんな自分勝手さが、彼女らしいところでもある。
本当に拒絶の意を示せば、彼女はあっさりと引き下がることも、私は知っていた。
もう眠っちゃおう。。
くすくすと笑っている咲夜を恨めしく思いながらも、疲労がピークに達していた私は、温もりと安心感に抗うこともせずに深い眠りについた。
……本当に、困った友達。
私の話を笑顔で聞いてくれて、彼女の話を笑顔で聞ける。そんな関係。
他人の温もりを感じるなんて久しくて、なんだか懐かしい夢を見た時のような浮遊感を感じる。
目を覚ますと、体勢が変わっているみたいだった。
咲夜が先に起きたのか、寝返りでもうったのか。
「まったく……。見張りなさいと言ったのに」
「あら。私をベッドに縛っておくのが目的なら、鈴仙はしっかり役目をはたしているじゃないの」
「まぁ、それもそうね。はい、水と薬」
「どうも」
し、ししし師匠――――――――――!!!!
ど、どうしよう!起きるべきなの!?それとも寝たふりでやり過ごすべきなの!?
ああ、帰ったらお仕置きかなぁ……。また実験につきあわされるのかなぁ。なんて思っていたら、咲夜の掌が、私の瞼をなでた。
……気付いてる?
「この子が他人にこんなに懐くなんて、いい傾向ね。咲夜と過ごすようになってから、仕事を楽しそうにやっているのがわかるわ」
「少し立場は違うけど、従者として応援してあげただけよ」
「私も姫様という主に仕えている従者なのだけど?」
「本当に、どうしたの? 天才とまで呼ばれる八意永琳が、嫉妬?」
「死は捨てたけど、感情は捨ててないの。嫉妬心くらい、持っていてもいいでしょう?」
二人の笑い声が聞こえる。
よかった。咲夜もだいぶ回復したみたい。
けど、一瞬にして師匠の波長が変わる。まるで凍りついたかのような空気は、波長を見ずとも伝わるほど。
「十六夜咲夜」
「……なに?」
「……貴女、蓬莱の薬を飲む気はない? そして、私や鈴仙と一緒に……いいえ。この子の傍に、居てあげてくれないかしら」
◆
心地いい微風が頬を撫ぜる。今この時、風の音だけが、ゆらゆら揺れる長い耳に障る。
昨日雨が降ったせいだろうか。やや湿った草木が醸す匂いが鼻につく。
ごめんなさい
「咲夜、今日は大事な話があるの」
ごめんなさい
「咲夜には、散々からかわれた。自分勝手なところに振り回されたりもした。
隙を見せれば、耳とか触ったり。抱きしめたり、ちょっかいだしてきて」
ごめんなさい
「思い出しただけでも腹がたつほど振り回されたこともある。けど……けど。そんな友達ができて、すごく嬉しかった」
きっと今の私が鏡に映れば。頬は朱色に染まり、身体は小刻みに震えているだろう。行き場を失った感情が、お気に入りのスカートの裾を強く握らせる。
けど、紅い瞳は逸らさないで。しっかりと見つめて。それはまるで、愛の告白をする少女だと、我ながら思った。
ゆっくりと。言葉を紡ぐ。
ごめんなさい
「私、あなたのこと…。咲夜のこと……!!」
風が巻き上げた、砂ぼこりが目に入って……。こするほど……痛くなる。
―――――足元に水溜りができるほど雨が降った後なのに、舞い上がる砂なんてないよ。とんだ強がり。
今更こんなこと言うなんて。
本当にごめんなさい。
「私は、十六夜咲夜のことが、大好きでした……っ!!」
足元の石碑に縋りつくことを、どうにか堪えて。
かわりに、胸元に下がった懐中時計を、痛いほど抱きしめる。
幸せな時間は、咲夜と一緒に訪れて、咲夜の最期が奪っていった。
もっと早く、言えたらよかったのに。
けど、私は昔から臆病で。咲夜に拒絶されることが恐くて。幻想郷にたどり着いた時と同じように、逃げ出した。
咲夜の最期なんて見たくなくて。認めたくなくて。彼女の最期の時、また、私は逃げ出した。
逃げて逃げて。結局、誰も追いかけて来てはくれない、ということに気がついた。
むしろ、最後の自らの幸せさえ。私は手の届かない所に放り投げてしまったことに、今さら気がついて。
逃げ道を戻ったところで、それは二度と見つからない。……そんなことに気がつくことさえ、あまりに遅すぎて。
視界が滲む。
ねぇ、からかってよ。
お願いです、からかってください。
『あらあら。泣かないで』――『だって、そんなに目が赤いのに』
ねぇ、抱き締めてよ。
お願いです、抱き締めてください。
今の私は、どこへ泣きに行けばいいんだろう。
水がはねる音が、長い耳に障る。
「……来ていたの。ウドンゲ」
「し、しょう……」
全く変わっていない師匠が、振り向けばそこにいた。
咲夜は二度と目を開かず、私をからかうことも、抱き締めてくれることも、一緒に笑いあってくれることも、ないというのに。
けど、それは咲夜が選んだ道。蓬莱の薬を飲まないかという問いに、彼女は首を横に振ったのだから。
人間として生き抜いて、人間として死ぬことが、私の誇りを守ることだから、と。
「懐中時計は、やはり貴女が持っていたの。吸血鬼たちが血眼になって探していたのに」
「こ、これは咲夜が私にくれたものです!絶対に渡しません!!」
自分の命を捨ててでも、懐中時計を守ろうと身を固くする。
けど、師匠は肩を落として軽い溜息を吐いた。
「落ち着きなさい。私は、貴女からそれを奪うつもりなんてないわ」
咲夜の最期に臆病風を吹かせて逃げ出した後、私と一緒にいてくれたのはこの時計だけだった。
この時計の針が。歯車が刻む音が、咲夜に抱きしめられた時の、彼女の心音に聞こえるのだ。彼女の姿を、瞼の裏に浮かばせるのだ。
師匠は私の横を素通りし、鈴蘭の花を手向ける。しゃがみ込んだまま、師匠が口を開いた。
師匠が手向けた鈴蘭の花言葉は、幸福が帰る。幸福の再来。師匠も、咲夜の死に強い何かを感じているのだろうか。
しゃがみ込んだまま、師匠が口を開いた。
「行くところはあるの?」
「……ありません」
咲夜のところに行くことは、何度も考えたけど。
一度だけ、閻魔が警告に来た。自ら命を絶つようなまねをしたら、彼女とは会えないと。
「なら、もう一度永遠亭に来なさい」
後ろから、師匠に抱きしめられる。
咲夜とは違う柔らかさ、温もり。けど、咲夜とは違う場所で、私の心を支えてくれていた人。
「泣かないで、ウドンゲ」
「泣いて……ません……!」
咲夜以外に、弱音は吐かないと決めた。彼女はそんなこと、望まないかも知れないけど。
咲夜だけに弱音を吐くようにすれば、彼女が抱きしめて、受け止めてくれると思っていたから。
今は、強がりだけが、私をこの場に立たせてくれている。
「私は、咲夜の最期に立ち会ったけれど。彼女は、あなたに会いたいと言っていたわ」
「――――っ……」
師匠の言葉が、胸に突き刺さる。
「好きなだけ、後悔しなさい。好きなだけ、泣きなさい。好きなだけ咲夜に伝えなさい。
そして、二度と同じ後悔をしないように、今の自分を受け入れて歩きだしなさい。そのために、生きなさい」
「はい……はいっ!」
ごめんなさい。
何もかもが遅すぎて。
臆病な私でごめんなさい。
蓬莱の薬を飲んで、私と永久に生きてくれたら、なんて思ったことがある。欲張りで、ごめんなさい。
逃げ出さず、貴女の最期を目に焼き付けたかった。今さら、自分勝手でごめんなさい。
けど、そんな臆病な私だったけど。もう、届かないかも知れないけど。ごめんなさい。
きっと、私は一生ここに立ち、いつまでもあなたを追い駆けながら、いつもこの場で繰り返します。
友達になってくれて本当にありがとう。
私は、あなたの最期まで一緒にいたかった。
一緒にいることはもうできないけど。大好きです。
どんなに瞳が紅くなってもこらえていた雫がこぼれたとき。
鈴蘭の小さな花さえ揺れないこの場所で、何かが触れたように、私の耳が揺れた。
2828したり感動したりと楽しめました。
人間である以上永遠は無いのですから、命の尊さを感じ、今を精一杯生きる。そのためにも私は死を描くことはむしろ必要だと思います。
その上でこのお話はとても良かったです。
既存の話のキャラをただ入れ替えただけのように薄っぺらく感じた
いや、いい意味で、ね?
若干の消化不良も解消されたかもしれませんが
今回のテーマは咲夜と鈴仙の話だったのでこれでよかったのかも…。
個人的には、このテーマを扱うにはもうちょっと尺が必要だったと思います。
本気で書いてないことが分かります。
とりあえず寿命ネタを書いてみたというところでしょうか。
習作を公開するなとはいいませんが、最低ラインを割っています。
せっかくのアイディアを無駄遣いしてはあなたが一番損します。
他の作品に期待します。