「んーー。」
彼女は背伸びをします。
彼女の影も真似をして背伸びをします。
「さてと、探し物が見つかるといいけど…。」
大好きな物を少しでも早く見たいという一心で彼女は飛び立ちました。
幻想郷の夏に終りが近付いている、秋にはまだ少し早いそんなある日の話。
ふわふわとフラフラと彼女は空を飛び続けます。そんな彼女を太陽が容赦なく照り付けていました。
「貴女が此所に来るなんて珍しいわね。」
私は博麗神社を訪れていました。
「はい、萃香さんにちょっと聞きたい事がありまして…。」
神社の境内では霊夢さんが珍しく掃除をしています。
「え、萃香?呼んでくるからちょっと待っていなさい。」
そう言って霊夢さんは社の中に入って行きました。
「あ、はい。お願いします。」
暫くすると萃香さんが中から出てきます。
「んー、私になんか用かい?」
お酒の臭いが漂ってきました、かなりの量を飲んでいたみたいです。
でも、酔っ払ってはいないようでした。
「一つ尋ねたい事が…。」
さっそくの質問
「私に分かる事なら答てあげられるけど?」
古から存在する鬼の萃香さんなら…。
「探し物をしているのですが、この辺りで"秋"を見かけませんでしたか?」
モズの鳴き声が聞えてきた気がしました。何故か私を呼んでいます。
「こんにちわ。あなたが此所に来るなんて珍しいですね。」
私は真赤なお屋敷を訪れていました。
「はい、レミリアさんとパチュリーさんに聞きたい事がありまして。」
美鈴さんは少し驚いた顔をしましたが
「お嬢様とパチュリー様に御用ですか…。じゃあ、咲夜さん案内してあげてください。」
と言いました。
すると、誰もいなかったはずの私の後ろから
「美鈴、貴女気付いていたのですか。」
声がします。
「それはもちろん、咲夜さんの事なら誰よりも詳しいに決ってるじゃないですか。」
美鈴さんは突然そんな事を言い出して咲夜さんに抱きつきます。
「そんな事は誰も聞いていませんよ。」
しかし、咲夜さんはあくまで冷静に対処します。
そんな2人を見て私は何も言う事ができませんでした。
「それでは、まずはお嬢様の所へ案内します。」
美鈴さんを引き剥がすとそう言ってお屋敷の中へ私を入れてくれました。
レミリアさんは今、一番北の部屋にいると教えてくれました。
迷路のような入り組んだ真赤な廊下を暫く歩いていると、目の前にとても大きな扉があります。
その扉の脇で咲夜さんは止まると
「では、私は此所で待っているので用が終わりましたら次へ参ります。」
そう言って扉を開いてくれました。
中は広くて部屋の中央にテーブルと椅子だけが置いてあります。
置いてある椅子にレミリアさんが座っていて私を見ていました。
「貴女がこの屋敷を尋ねて来るだなんて、明日は大雪になるかもね。」
「レミリアさんにどうしても聞きたい事がありまして…。」
レミリアさんは、ふむ。とうなずき
「まぁ、私が知ってる事なら教えてあげてもいいわよ。」
親切にもそう言ってくれました。
夜の王と呼ばれている吸血鬼のレミリアさんなら知っているかもしれない…。
「探し物をしているのですが、この辺りで"秋"を見かけませんでしたか?」
いつからでしょうか、部屋の窓ガラスがくもっていました。
「御用は済みましたか?」
私が部屋を出ると扉の脇で咲夜さんが待っていました。
「あ、はい。」
「では、パチュリー様のいる地下大図書館へ案内いたします。」
そう言いました。
そして、すたすたと歩いていきます。
「あー、ちょっと待ってくださいよー。」
私は咲夜さん追って走ります。
今度は下への階段をどんどんと降りて行きます。
余りにも長い階段で足が疲れてきました。
そんな私を察したのか
「もうすぐですから。」
とだけ言ってくれました。
「はい、つきましたよ。」
目の前には本の山がありました。
例えではなく本当に本の山です。
「うわぁー、こんなに本があるの初めて見ました。1冊ぐらいかってに借りて行っても分らなさそですね。」
と、隣りの咲夜さん言いましたが隣りには誰もいませんでした。
帰りの案内は含まれていなかったようです。
その代わり、別の声が答えてくれました。
「どっかの白黒みたいな事言わないで頂戴。」
パチュリーさんは寝起きなのか目がうつろで、手にはコーヒーカップを持っていました。
「えっと、もしかして寝てました?」
パチュリーさんはあくびを噛み殺すと
「ええ、昨日徹夜で調べ物をしていたから仮眠を取っていたの。」
そう説明してくれます。
「それで、そんな事を言いにきたんじゃないんでしょ?」
パチュリーさんの声は小さく聞き取りにくいものでした。
でも、私は昔から耳がいいのが自慢なだけあってハッキリ聞えます。
「はい、パチュリーさんにどうしても聞きたい事がありまして…。」
「珍しいお客さんだし、私の知っている事なら何でも教えてあげる。」
知識と日陰の少女と言われてるパチュリーさんなら知っているかもしれない…。
「探し物をしているのですが、この辺りで"秋"を見かけませんでしたか?」
コーヒーカップの中でミルクが溶けながらぐるぐると回っていました。
「おや、君が此所に来るとは珍しい。何か探し物かな?」
私は香霖堂を訪れていました。
店内は物が多くてごちゃごちゃとしています。
その中に何故か古ぼけた風見の鳥が置いてありました。
「えっと、ここによく来る紫さんに御用がありまして…。」
それを聞いた霖之助さんは苦笑します。
「用があるのは僕ではなくて、彼女にか…。」
なんだか申し訳ない気持ちになります。
「すみません、他に心当たりがなくて。」
「いやいや、別にいいよ。でも今日は、まだ彼女来てないんだ。」
私は困りました。
もう紫さん以外頼れる方がいません。
すると
「私をお探しなの?」
隙間から突然、紫さんが出てきます。
「盗み聞きとは趣味が悪いんじゃないかい?」
霖之助さんがそう言うと
「あら、私は最初から此所にいましたわよ。」
しれっとそう返しました。
「それで、お嬢ちゃん何か御用かしら?」
私はお嬢ちゃんと呼ばれるのは少し恥ずかしいなと思いました。
「紫さんに聞きたい事があるのですが…。」
紫さんは持っていた扇子をパチンと閉じると
「可愛いお嬢ちゃんの質問なら何でも答えてあげましょう。」
そう言いました。
妖怪賢者と呼ばれている紫さんなら知っているかもしれない…。
「探し物をしているのですが、この辺りで"秋"を見かけませんでしたか?」
どこからともなく吹いてきた風で風見の鳥がカラカラと鳴いていました。
「それで、探し物は見つかったの?」
当ても無く飛んでいると突然呼び止められます。
「いえ、結局見つかりませんでした。」
「まぁ、まだ秋には早いからねぇ。」
「やっぱり、そうですよね……。」
ちょっと落ち込んでいる私を見て
「あ、でも私は見つけたわよ。」
「ほら、こんなにも綺麗な"椛"がここにあるじゃない。」
そう言った文さんはニッコリと微笑んでいました。
入日色のはぜの葉が幻想郷で舞い散る日はまだ少し先のお話です。