穏やかな午後、紅魔館の一室ではお茶会が開かれていた。
「ねえ咲夜、考えてみれば紅魔館の人間が集まることって滅多にないわよね。たまには皆で揃ってお茶会でもしてみない?」
そんな気紛れな一言によって、紅魔館の皆でお茶を飲むことになった。住人皆が揃ったお茶会。フランやパチュリーも一緒のお茶会。昼寝・休日・有給無しの紅魔館では前代未聞のメイドたちも揃ったお茶会、それだけに、メイド達の喜びようは、思わず咲夜も苦笑いしたくなるほどだった。
「全く…仕事の時にはすぐにサボってどこかに消えてしまうのに、こんな時だけはしっかり集まってるわね…」
準備も終わって、メイドたち…あるいは咲夜一人は皆に紅茶を注いで回っていた。
「お嬢様、紅茶が入りました」
「ん、ありがとう、咲夜」
「今日はフラン様もご一緒ですし、紅茶も特別に拘ってみましたよ」
「あら?本当ね。良い匂いだわ。手に入れるのは大変だったでしょう。ありがとう、咲夜」
レミリアも嬉しそうだ。いくら悪魔とはいえ、やはり皆で飲むお茶は格別に美味しく思えるのだろう。
「ねえお姉さま、今日のケーキは私が作ったのよ!」
「どうせ咲夜が殆ど作ったのでしょう?でもあなたが料理をするなんて珍しいわね?初めてかしら?」
確かに目の前で配られているケーキは、見るものを全て灰にしてしますフランが作ったとは思えないほど、見た目も匂いも完璧なものだ。ほのかな朱色のケーキに、綺麗にかけられたクランベリーソース。芳しくただよう甘い芳香。目の前にある物は、いつも灰にしてしまうフランが作ったとは思えないほどに、美しくて、美味しそうなケーキだった。
「いえお嬢様、私はただアドバイスをしただけですよ、作ったのはフラン様です。レシピを教えたのもパチュリー様ですし」
「そう…あのフランがこんな美味しそうなケーキを作るなんて。でも流石は咲夜ね、教えるのには苦労したでしょう?」
「フラン様が困ったときに、ほんの少しのアドバイスをしただけですから…苦労というほどのことはありませんでしたよ」
もちろん実際は苦労の山だった、何せ相手は495年間料理をしたことのないフランだ。495年間与えられたものを食べ続けてきたフランが、料理の概念を知っていただけでも奇跡かもしれない。
フランがボールを使えば材料ごとボールは粉々になる。フランがオーブンを使えばケーキごとオーブンは灰となる。彼女にとって物とは作るものでは無く、壊すものだったのだから。
それでも幾度もの失敗にめげずにケーキを作り上げたフランは褒められていいだろう。咲夜も心からそう思った。
お茶会の話を聞いて、彼女がケーキを作りたいと言った時には、咲夜も本気にはしていなかった。
紅霧異変の後、以前に比べてフランはだいぶ落ち着いていた。かつては誰にも手がつけられず、地下に閉じ込めるしかなかったフラン。そんなフランを霊夢が簡単に倒してみせた。それが一番の原因なのかも知れない。フランも自分の力に任せて暴れるだけでは人間にすら勝てないことを知って、自分の行動にはそれなりの報いもあると知って、以前のようなわがままさは陰を潜めたし、紅魔館の皆も、いざとなればフランだって止められるということを知って安心したのだろう。
そのおかげで、フランは最近は地下室では無く、地上の一室で暮らすようになっていた。地上に出て、皆と暮らすようになってからは、色んな遊びを覚えていた。弾幕ごっこより遥かに安全な遊びを。独りぼっちの地下とは違った、皆との地上での生活のおかげで、彼女はより大人しく、安定してきているようだ。
そして地下で変わらない生活を続けていた長くいた反動だろうか、最近のフランは新しいことを次々に始めようとしていた。どれも長続きしないのが彼女のまだ子供らしい所かもしれないが。
「ねえ咲夜、お姉様たちのためにケーキを作ってあげたいんだけど」
と、お茶会の話を聞いた際に言った時も、咲夜はフランの成長を喜びはしたけれど、どうせ明日になれば忘れていると思っていた。しかしフランは、今までに無いくらいの熱心さをみせた。
「ねえパチュリー、美味しいケーキを作ってみんなに食べさせてあげたいんだけど…」
そして二人で探した最高のレシピ。もちろんレシピだけでは美味しいケーキは作れない。作るのはレシピではなくて悪魔なのだから。何個ものボールが粉になって、何台ものオーブンが灰になって、その度に咲夜は材料を捕まえに行って。それでもフランは諦めず何度も挑戦した。破壊しか知らない彼女が創造に挑戦した。咲夜も勿論つきっきりで手伝った。パチュリーも試食に何度も付き合って、本と照らし合わせながら何度もアドバイスをした。時には、あるいは毎回、パチュリーらしいおかしなアドバイスもあったけれど。
「ねえお姉さま。早く食べようよ!見た目だけじゃないよ!味も本当に美味しいから」
頑張って作ったケーキを食べることが、フランはもう待ちきれないようだ。もちろん試食はしているけど、皆で食べるケーキは特別なのだから。
「私も少しだけ試食してみたけど、本に載っている通りの味だったわよ」
パチュリーもケーキの味は保障してくれた。
「そうね、紅茶が冷めないうちに始めましょう」
そうしてお茶会の始まり。
いつも時を止めてまで慌しく働く咲夜には久々の穏やかな時だった。ゆっくり給仕をするだけで、何も面倒なことなど起きないのだから、メイドたちが揃うのも、メイドたちとゆっくり話したのも久々だろう。妖精たちは仕事にはいつも気紛れだから。せっかくの機会なので、メイド長として言うべきことは言っておこうか…と少しは思ったかもしれない。こんな時にしか集まらないのが妖精だから。もちろん完全で瀟洒な従者はそんな無粋なことはしないけれど。
「たまにはこうやってのんびりするのもいいわねえ、だけどパチュリー、こんな時くらい本から離れなさいよ」
「本から離れると落ち着かないのよ…」
「ねえお姉さま!私の作ったケーキはどう?」
「ええ、とても…」
そんな声がドタバタと走ってくる音にかき消された。
「レミリア様~咲夜様~なんで私のことだけ誘ってくれないんですか~」
「…ごめんなさい、美鈴、貴方のことだけはすっかり忘れてたわ…」
「美鈴の名前を聞かなかったので、門番だけは残しておくのかと思ってました…」
「いいですよ…私のことが忘れられるなんていつもの事ですから…でも私は小悪魔や雑魚妖精より存在感がないのでしょうか…」
美鈴は少し悲しそうな顔をしているけど、これでようやく紅魔館の皆が揃って、本当にお茶会の始まり。
「美鈴、あなたはどちらのお茶がいいの?普通の紅茶と、お嬢様たち向けの紅茶があるけれど」
「私もお嬢様たち向けの紅茶を飲んでいいんですか?では、せっかくだからお嬢様たち向けの方をください」
「ええ、入れてくるからちょっと待っていてね」
お茶を入れに行く咲夜、そしてフランはやっぱりケーキで頭が一杯のようだ。
「ねえ美鈴!私のケーキもどうぞ!まだたくさんあるからね!」
「フラン様が作ったのですか!?喜んで頂きます」
「紅茶が入ったわよ、美鈴」
「お手数をかけてすいません。ありがとうございます、咲夜様」
「ねえお姉さま!それで私のケーキはどうだったの?」
「ええ、とても美味しいわ。咲夜のケーキにも負けてないわよ」
「やったー!みんなも美味しいと思った?」
勿論皆がそれには同意した、そのケーキは本当に美味しいものだったのだから。
「このケーキだったら博麗の巫女も食べてくれるかな?前に咲夜のケーキをあげようとしたら『あんたのとこの食べ物なんて持ってくるな!』って言われたんだよね~紅茶も好みじゃないみたいだったし。この間とは違う味付けだから大丈夫かな?」
「あの紅白は私達とは好みが違うからね…でも、普通の舌の持ち主ならきっと美味しく思うはずよ。でも今度機会があれば、あなたも一緒にあいつの所へ持って行ってみましょうか?」
「今度は私も一緒に行っていいの?やった~お外に出てもいいんだね!」
「そうね、あなたもこんなケーキを作れるようになったんですから。それに紅白がいれば何かあっても大丈夫でしょう。でも、外では落ち着いて、大人しくしてないと駄目よ?」
「うん。わかってるよ、弾幕ごっこも我慢するし、大人しくするから!」
勿論咲夜には訪ねた際に怒鳴りつけている霊夢の姿が容易に想像できた。博麗神社へ行くときは霊夢用のケーキも作っておこう。
「でもケーキも美味しいけれど、今日の紅茶も本当に美味しいわ。ケーキとの相性も素晴らしいわね」
「そこまで褒めていただいてありがとうございます。フラン様のケーキに合わせて考えたかいがありますよ」
「そうなの、紅茶はB型に限るけど、このケーキは特にB型の紅茶が合うわね」
「そうですね、それにHLAにも拘ってみました、パチュリー様の本に相性が最適と載っていたものですよ。せっかくのフラン様のケーキですから」
「そこまでするのは大変だったでしょう」
「いえ、たまたま紫のところにちょうどいいものが流れてきたようで、すぐに手に入りましたよ」
「そう、紫の所から貰ったの?どのくらい貰ってきたの?貰ったからには、その分のお返しをした方がいいのかしらね」
「紫には色々貸しがありますから、お返しをする必要はないのではないでしょうか?。それと、貰ったのは今日必要な分だけですから、そんなにはないですね。全部もらうのも少し可哀想でしたし…」
「そうなの、美味しいから明日からの分も欲しかったかもしれないわね、まだ紫のところにあるのかしら」
「残りは元の所に返すように言っておいたので、もう無いでしょうね。すいません、お嬢様」
「気にしなくていいわよ。よく考えればケーキは明日には無いですしね。それもいいけど、咲夜はまだケーキも紅茶も口に入れてないじゃない。給仕なら少しは他のメイドに任せて、咲夜も少しは楽しみなさいよ」
正直咲夜には紅魔館の食べ物は今でも口に合わない。いつも料理をしているのだから、働き始めたころのように食べること自体に抵抗があるわけではないけれど、やはり悪魔と人間では食べ物の好みは違うから。だけど、レミリアやフランのためなら、苦手なことなんて咲夜の気にはならない。
「ありがとうございます、では少しだけお言葉に甘えさせていただきますね。小悪魔、ちょっと給仕をよろしくね」
「はい、咲夜様」
「咲夜、せっかくだから紅茶も私の紅茶と同じにしなさいよ。咲夜と私と紅茶の好みは違うけど、このケーキと一緒ならきっとその方が美味しいわよ。」
レミリアの薦めを咲夜が断るはずもない。
「お姉さまが言うなら、私もそうだと思うよ、一番美味しい食べ方をしてほしいから、咲夜も私達と同じ紅茶にしなよ」
「そうね、私の本にも、この二つは一緒に食べるのが最適と書いてあるわ」
「私には難しいことはわかりませんけど、やっぱり同じ所で取れたもの同士のほうが相性が良くて美味しいんじゃないですかね?」
皆も薦めて来る。
「はい、では私もお嬢様と同じ紅茶をいただきますね」
…やはり悪魔向けのケーキも紅茶も咲夜の口には合わない。味だけならいつも自分用に作って食べるケーキや紅茶の方が遥かに美味しく思えるだろう。しかし、こうやって紅魔館で皆と一緒に食べるということ、それ以上に咲夜の食べ物を美味しくするものなどあるのだろうか?普段慌しく働くときは思い返す暇もないが、落ち着いたときになると咲夜も時々は昔のことを、紅魔館に来る前のことを思い出すこともある。
あの頃の咲夜にこんな落ち着いた時間はあっただろうか?人里にいたころは、誰もが彼女を煙たがっていた、誰からも好かれず、誰からも厭われ、誰も好かず、誰もを厭っていた。その能力故に。気が付けば咲夜は人里から離れて暮らすようになった。そのままいつのまにか彼女紅魔館で働くメイドになって、気が付けばメイド長となっていた。何故紅魔館に咲夜は来たのだろう?咲夜自身にもよくわからない。人里を離れて暮らす方法など無数にある。何も、わざわざ誰からも無条件に嫌われる悪魔の館に来る必要などないだろう。ただ一つ言えることは、咲夜には紅魔館より快適な場所があると思えないということだ。
わがままなレミリア、少々気の触れたフラン、本の世界にしか興味の無いパチュリー、昼寝しかしない門番の美鈴、仕事をしないメイドたち。そんな面々に囲まれた生活。当然紅魔館を仕切れるのは咲夜だけ、仕事も次から次へと襲ってくる。時にはそれはメイドの仕事なのか?と疑問を覚えつつ、異変の解決にも向かう。そんな仕事の報酬は、衣・食・住。それだけ、給料なんてあるはずもない。
とはいえ、他にも得たものが無いわけではない。かつて持っていたものは、自らの能力と、人間からの煙たそうな目線だけ。今は、殆どの妖怪たちからの煙たそうな目、殆どの人間からの前以上の煙たそうな目。悪魔も、能力も気にしない一部の妖怪との付き合い、一部の…本当に一部の人間との付き合い、少しの悪魔からの信頼。そして、これ以上望めないほどの快適な暮らし。
「ごちそうさま」
少し考え事をしている間に、気が付けばレミリアはケーキを食べ終えていた。
「どれだけ時間をかけて、心を込めて作ったケーキも食べてしまえば無くなる、そして食べることは一瞬ね」
咲夜はふとそんなこと思った、そして、人間である自分という存在も、この紅魔館が、紅魔館の人々が過ごしてきた、そして過ごすであろう長さから見れば、私にとってのこのケーキくらい一瞬しか関わりを持たない、儚い存在だろうと。人間である咲夜はせいぜい百年程度の時を過ごすことしかできない。悪魔や妖怪の寿命は人間には理解も出来ないほどの物だ、寿命が平気で移り変わる悪魔や妖怪には寿命など半ば無意味なものかもしれない。妖精たちにはそもそも「死」というものすらない。
そんな存在から見れば、人間の存在など一瞬のもの、ただの一須臾にも満たないほど短く、儚いものでしかないのかもしれない。それがどうしたというのであろう?人間と悪魔・妖怪にはその命の長さ・果ては比べようが無い。だが、楽しいことを楽しいと思うこと、それに人間でも悪魔でも妖怪でも、妖精でも幽霊でも神様としても、そこに違いはあるのだろうか?咲夜にはそうは思えない。
生涯の長さには違えど、共に過ごした楽しい時間には、共に持つ思い出には、差などないだろうと咲夜は思う。例えケーキを食べてしまっても、ケーキがあったこと、ケーキの思い出は消えることはないように。それに495年間誰にも変えられなかったフランを、霊夢はたった一日で変えて見せた。それこそが物事の価値は時間の長さではないということの証ではないだろうか?
もちろん相手とは自分とは違う存在だ、命の長さも、常識も、道徳も、倫理も何もかもが違う。それでも咲夜には紅魔館の皆が自分とは根本から違う存在とは思えない。
「もっとも私も人里ではお嬢様たちのような理解できない存在と思われているわね」
咲夜はいささか自嘲的な気分を感じた。人里離れた吸血鬼の館に住む吸血鬼の僕。僕ならまだいいのかもしれない、咲夜自身も悪魔のように思われている場合も多々あるだろう。別には間違っているとは思わないし。否定する気もないのだが。吸血鬼の館で生活する咲夜が、人里の人間と違った感覚を持っていることは咲夜自身が一番わかっているのだから。それがレミリアたち悪魔と同じものなのかはわからない。だが、人里の人間とは違うことは間違いないだろう。
そして人里の人間に何を言われようが咲夜が気にするわけもない。ただ能力のせいだけで咲夜を煙たがった人々と、能力など気にせず咲夜を受け入れた紅魔館の面々。どちらが大事かなど言うまでもないのだから。
咲夜は今の境遇に心から満足している。例え自分の運命が選べたとして、無数の選択肢を渡されても咲夜は確実に今の運命を、境遇を選ぶだろう。
「咲夜様、そろそろ片付けを始めませんと」
小悪魔が呼んでいた、少し考え事をし過ぎたようだ、気が付けばレミリアだけではなく、他の皆も食べ終えている。紅茶も皆飲み終えたようだ。咲夜も最後に残った少しのケーキを食べ終えた。時間を操ったわけでもないのに、時間は思ったより遥かに進んでいた。皆といる、落ち着いた、楽しい時はやはり一瞬で過ぎ去るのだろうか?
「ごめんなさいね、小悪魔、すっかりあなたに給仕をさせてしまって」
「いえ、私も紅魔館に雇われている身ですから、たまには働かないと」
流石に咲夜ほど手際は良くないが、小悪魔も無難に仕事をこなしていたようだ。他のメイドたちもこのくらいでいいから働いてくれればいいのに…などと思わせる程度には。
「この家のみんなが集まるなんて本当に久しぶりだったけど、たまにはいいものね。フランやパチュリーとも久々に沢山話したわ」
「そうですね、お嬢様」
「次も近い内にやりたいものね。次は咲夜ももう少し仕事を減らしなさいよ、たまには仕事をしていないあなたともゆっくり話したいわ」
いつも慌ただしく咲夜が仕事をしているのはメイドたちの雇用主であるレミリアのせいでは?と思いつつ、そんなことは口に出すわけも無く、相槌を打っておいた。
「私も次はもっと美味しいケーキを作るからね!紅茶も入れてみたいな」
次は紅茶の入れ方もしっかり教えておこう。
「私も次は楽しみなのだけど、誰も図書館にいない時に離れるのがちょっと怖いのよね…魔理沙が忍び込みそうで、そうね、次は図書館でやらない?」
流石に咲夜はあの埃っぽくて暗い図書館でやる気は起きないので、警備の魔法の強化を薦める程度にしておいた。
「次は花畑でやりませんか?私もその前にしっかり花畑を整えておきますよ」
夜に外で行うお茶会も楽しそうだ。もっとも花畑を整えるのは、どうせ咲夜の仕事になるだろう。
「それではお嬢様、私達は片付けを始めますので」
「よろしくね。咲夜」
そうして皆は部屋から消えていった。気が付けば何故かメイドの数が足りない。残っているメイドも片付けもろくにせず遊んでいるような連中が大半だ。今日も咲夜が一人で大半の仕事をしなければならないだろう。流石に人数が多かっただけに、片付けにもかなり時間がかかりそうだ、面倒な準備や片付けに比べれば、楽しい時間は一瞬にすぎない。
でもその一瞬で十分なのだろう。20年ほどの人生の咲夜、500年生きてきたレミリア。100年生きてきたパチュリー、495年間生きてきた、ただ無為に地下で生きてきたフラン。今までに過ごしてきた時間も、これから送れる時間も違うけれど、共に過ごした時間と思い出の価値は変わらないのだから。時間の量は問題ではないのだから。咲夜がいなくなっても思い出が消えるわけではないのだから。
「また時間を操って掃除をしないとね…」
そして今は時間の価値なんて忘れて片付けをしないといけないのだから。
「ねえ咲夜、考えてみれば紅魔館の人間が集まることって滅多にないわよね。たまには皆で揃ってお茶会でもしてみない?」
そんな気紛れな一言によって、紅魔館の皆でお茶を飲むことになった。住人皆が揃ったお茶会。フランやパチュリーも一緒のお茶会。昼寝・休日・有給無しの紅魔館では前代未聞のメイドたちも揃ったお茶会、それだけに、メイド達の喜びようは、思わず咲夜も苦笑いしたくなるほどだった。
「全く…仕事の時にはすぐにサボってどこかに消えてしまうのに、こんな時だけはしっかり集まってるわね…」
準備も終わって、メイドたち…あるいは咲夜一人は皆に紅茶を注いで回っていた。
「お嬢様、紅茶が入りました」
「ん、ありがとう、咲夜」
「今日はフラン様もご一緒ですし、紅茶も特別に拘ってみましたよ」
「あら?本当ね。良い匂いだわ。手に入れるのは大変だったでしょう。ありがとう、咲夜」
レミリアも嬉しそうだ。いくら悪魔とはいえ、やはり皆で飲むお茶は格別に美味しく思えるのだろう。
「ねえお姉さま、今日のケーキは私が作ったのよ!」
「どうせ咲夜が殆ど作ったのでしょう?でもあなたが料理をするなんて珍しいわね?初めてかしら?」
確かに目の前で配られているケーキは、見るものを全て灰にしてしますフランが作ったとは思えないほど、見た目も匂いも完璧なものだ。ほのかな朱色のケーキに、綺麗にかけられたクランベリーソース。芳しくただよう甘い芳香。目の前にある物は、いつも灰にしてしまうフランが作ったとは思えないほどに、美しくて、美味しそうなケーキだった。
「いえお嬢様、私はただアドバイスをしただけですよ、作ったのはフラン様です。レシピを教えたのもパチュリー様ですし」
「そう…あのフランがこんな美味しそうなケーキを作るなんて。でも流石は咲夜ね、教えるのには苦労したでしょう?」
「フラン様が困ったときに、ほんの少しのアドバイスをしただけですから…苦労というほどのことはありませんでしたよ」
もちろん実際は苦労の山だった、何せ相手は495年間料理をしたことのないフランだ。495年間与えられたものを食べ続けてきたフランが、料理の概念を知っていただけでも奇跡かもしれない。
フランがボールを使えば材料ごとボールは粉々になる。フランがオーブンを使えばケーキごとオーブンは灰となる。彼女にとって物とは作るものでは無く、壊すものだったのだから。
それでも幾度もの失敗にめげずにケーキを作り上げたフランは褒められていいだろう。咲夜も心からそう思った。
お茶会の話を聞いて、彼女がケーキを作りたいと言った時には、咲夜も本気にはしていなかった。
紅霧異変の後、以前に比べてフランはだいぶ落ち着いていた。かつては誰にも手がつけられず、地下に閉じ込めるしかなかったフラン。そんなフランを霊夢が簡単に倒してみせた。それが一番の原因なのかも知れない。フランも自分の力に任せて暴れるだけでは人間にすら勝てないことを知って、自分の行動にはそれなりの報いもあると知って、以前のようなわがままさは陰を潜めたし、紅魔館の皆も、いざとなればフランだって止められるということを知って安心したのだろう。
そのおかげで、フランは最近は地下室では無く、地上の一室で暮らすようになっていた。地上に出て、皆と暮らすようになってからは、色んな遊びを覚えていた。弾幕ごっこより遥かに安全な遊びを。独りぼっちの地下とは違った、皆との地上での生活のおかげで、彼女はより大人しく、安定してきているようだ。
そして地下で変わらない生活を続けていた長くいた反動だろうか、最近のフランは新しいことを次々に始めようとしていた。どれも長続きしないのが彼女のまだ子供らしい所かもしれないが。
「ねえ咲夜、お姉様たちのためにケーキを作ってあげたいんだけど」
と、お茶会の話を聞いた際に言った時も、咲夜はフランの成長を喜びはしたけれど、どうせ明日になれば忘れていると思っていた。しかしフランは、今までに無いくらいの熱心さをみせた。
「ねえパチュリー、美味しいケーキを作ってみんなに食べさせてあげたいんだけど…」
そして二人で探した最高のレシピ。もちろんレシピだけでは美味しいケーキは作れない。作るのはレシピではなくて悪魔なのだから。何個ものボールが粉になって、何台ものオーブンが灰になって、その度に咲夜は材料を捕まえに行って。それでもフランは諦めず何度も挑戦した。破壊しか知らない彼女が創造に挑戦した。咲夜も勿論つきっきりで手伝った。パチュリーも試食に何度も付き合って、本と照らし合わせながら何度もアドバイスをした。時には、あるいは毎回、パチュリーらしいおかしなアドバイスもあったけれど。
「ねえお姉さま。早く食べようよ!見た目だけじゃないよ!味も本当に美味しいから」
頑張って作ったケーキを食べることが、フランはもう待ちきれないようだ。もちろん試食はしているけど、皆で食べるケーキは特別なのだから。
「私も少しだけ試食してみたけど、本に載っている通りの味だったわよ」
パチュリーもケーキの味は保障してくれた。
「そうね、紅茶が冷めないうちに始めましょう」
そうしてお茶会の始まり。
いつも時を止めてまで慌しく働く咲夜には久々の穏やかな時だった。ゆっくり給仕をするだけで、何も面倒なことなど起きないのだから、メイドたちが揃うのも、メイドたちとゆっくり話したのも久々だろう。妖精たちは仕事にはいつも気紛れだから。せっかくの機会なので、メイド長として言うべきことは言っておこうか…と少しは思ったかもしれない。こんな時にしか集まらないのが妖精だから。もちろん完全で瀟洒な従者はそんな無粋なことはしないけれど。
「たまにはこうやってのんびりするのもいいわねえ、だけどパチュリー、こんな時くらい本から離れなさいよ」
「本から離れると落ち着かないのよ…」
「ねえお姉さま!私の作ったケーキはどう?」
「ええ、とても…」
そんな声がドタバタと走ってくる音にかき消された。
「レミリア様~咲夜様~なんで私のことだけ誘ってくれないんですか~」
「…ごめんなさい、美鈴、貴方のことだけはすっかり忘れてたわ…」
「美鈴の名前を聞かなかったので、門番だけは残しておくのかと思ってました…」
「いいですよ…私のことが忘れられるなんていつもの事ですから…でも私は小悪魔や雑魚妖精より存在感がないのでしょうか…」
美鈴は少し悲しそうな顔をしているけど、これでようやく紅魔館の皆が揃って、本当にお茶会の始まり。
「美鈴、あなたはどちらのお茶がいいの?普通の紅茶と、お嬢様たち向けの紅茶があるけれど」
「私もお嬢様たち向けの紅茶を飲んでいいんですか?では、せっかくだからお嬢様たち向けの方をください」
「ええ、入れてくるからちょっと待っていてね」
お茶を入れに行く咲夜、そしてフランはやっぱりケーキで頭が一杯のようだ。
「ねえ美鈴!私のケーキもどうぞ!まだたくさんあるからね!」
「フラン様が作ったのですか!?喜んで頂きます」
「紅茶が入ったわよ、美鈴」
「お手数をかけてすいません。ありがとうございます、咲夜様」
「ねえお姉さま!それで私のケーキはどうだったの?」
「ええ、とても美味しいわ。咲夜のケーキにも負けてないわよ」
「やったー!みんなも美味しいと思った?」
勿論皆がそれには同意した、そのケーキは本当に美味しいものだったのだから。
「このケーキだったら博麗の巫女も食べてくれるかな?前に咲夜のケーキをあげようとしたら『あんたのとこの食べ物なんて持ってくるな!』って言われたんだよね~紅茶も好みじゃないみたいだったし。この間とは違う味付けだから大丈夫かな?」
「あの紅白は私達とは好みが違うからね…でも、普通の舌の持ち主ならきっと美味しく思うはずよ。でも今度機会があれば、あなたも一緒にあいつの所へ持って行ってみましょうか?」
「今度は私も一緒に行っていいの?やった~お外に出てもいいんだね!」
「そうね、あなたもこんなケーキを作れるようになったんですから。それに紅白がいれば何かあっても大丈夫でしょう。でも、外では落ち着いて、大人しくしてないと駄目よ?」
「うん。わかってるよ、弾幕ごっこも我慢するし、大人しくするから!」
勿論咲夜には訪ねた際に怒鳴りつけている霊夢の姿が容易に想像できた。博麗神社へ行くときは霊夢用のケーキも作っておこう。
「でもケーキも美味しいけれど、今日の紅茶も本当に美味しいわ。ケーキとの相性も素晴らしいわね」
「そこまで褒めていただいてありがとうございます。フラン様のケーキに合わせて考えたかいがありますよ」
「そうなの、紅茶はB型に限るけど、このケーキは特にB型の紅茶が合うわね」
「そうですね、それにHLAにも拘ってみました、パチュリー様の本に相性が最適と載っていたものですよ。せっかくのフラン様のケーキですから」
「そこまでするのは大変だったでしょう」
「いえ、たまたま紫のところにちょうどいいものが流れてきたようで、すぐに手に入りましたよ」
「そう、紫の所から貰ったの?どのくらい貰ってきたの?貰ったからには、その分のお返しをした方がいいのかしらね」
「紫には色々貸しがありますから、お返しをする必要はないのではないでしょうか?。それと、貰ったのは今日必要な分だけですから、そんなにはないですね。全部もらうのも少し可哀想でしたし…」
「そうなの、美味しいから明日からの分も欲しかったかもしれないわね、まだ紫のところにあるのかしら」
「残りは元の所に返すように言っておいたので、もう無いでしょうね。すいません、お嬢様」
「気にしなくていいわよ。よく考えればケーキは明日には無いですしね。それもいいけど、咲夜はまだケーキも紅茶も口に入れてないじゃない。給仕なら少しは他のメイドに任せて、咲夜も少しは楽しみなさいよ」
正直咲夜には紅魔館の食べ物は今でも口に合わない。いつも料理をしているのだから、働き始めたころのように食べること自体に抵抗があるわけではないけれど、やはり悪魔と人間では食べ物の好みは違うから。だけど、レミリアやフランのためなら、苦手なことなんて咲夜の気にはならない。
「ありがとうございます、では少しだけお言葉に甘えさせていただきますね。小悪魔、ちょっと給仕をよろしくね」
「はい、咲夜様」
「咲夜、せっかくだから紅茶も私の紅茶と同じにしなさいよ。咲夜と私と紅茶の好みは違うけど、このケーキと一緒ならきっとその方が美味しいわよ。」
レミリアの薦めを咲夜が断るはずもない。
「お姉さまが言うなら、私もそうだと思うよ、一番美味しい食べ方をしてほしいから、咲夜も私達と同じ紅茶にしなよ」
「そうね、私の本にも、この二つは一緒に食べるのが最適と書いてあるわ」
「私には難しいことはわかりませんけど、やっぱり同じ所で取れたもの同士のほうが相性が良くて美味しいんじゃないですかね?」
皆も薦めて来る。
「はい、では私もお嬢様と同じ紅茶をいただきますね」
…やはり悪魔向けのケーキも紅茶も咲夜の口には合わない。味だけならいつも自分用に作って食べるケーキや紅茶の方が遥かに美味しく思えるだろう。しかし、こうやって紅魔館で皆と一緒に食べるということ、それ以上に咲夜の食べ物を美味しくするものなどあるのだろうか?普段慌しく働くときは思い返す暇もないが、落ち着いたときになると咲夜も時々は昔のことを、紅魔館に来る前のことを思い出すこともある。
あの頃の咲夜にこんな落ち着いた時間はあっただろうか?人里にいたころは、誰もが彼女を煙たがっていた、誰からも好かれず、誰からも厭われ、誰も好かず、誰もを厭っていた。その能力故に。気が付けば咲夜は人里から離れて暮らすようになった。そのままいつのまにか彼女紅魔館で働くメイドになって、気が付けばメイド長となっていた。何故紅魔館に咲夜は来たのだろう?咲夜自身にもよくわからない。人里を離れて暮らす方法など無数にある。何も、わざわざ誰からも無条件に嫌われる悪魔の館に来る必要などないだろう。ただ一つ言えることは、咲夜には紅魔館より快適な場所があると思えないということだ。
わがままなレミリア、少々気の触れたフラン、本の世界にしか興味の無いパチュリー、昼寝しかしない門番の美鈴、仕事をしないメイドたち。そんな面々に囲まれた生活。当然紅魔館を仕切れるのは咲夜だけ、仕事も次から次へと襲ってくる。時にはそれはメイドの仕事なのか?と疑問を覚えつつ、異変の解決にも向かう。そんな仕事の報酬は、衣・食・住。それだけ、給料なんてあるはずもない。
とはいえ、他にも得たものが無いわけではない。かつて持っていたものは、自らの能力と、人間からの煙たそうな目線だけ。今は、殆どの妖怪たちからの煙たそうな目、殆どの人間からの前以上の煙たそうな目。悪魔も、能力も気にしない一部の妖怪との付き合い、一部の…本当に一部の人間との付き合い、少しの悪魔からの信頼。そして、これ以上望めないほどの快適な暮らし。
「ごちそうさま」
少し考え事をしている間に、気が付けばレミリアはケーキを食べ終えていた。
「どれだけ時間をかけて、心を込めて作ったケーキも食べてしまえば無くなる、そして食べることは一瞬ね」
咲夜はふとそんなこと思った、そして、人間である自分という存在も、この紅魔館が、紅魔館の人々が過ごしてきた、そして過ごすであろう長さから見れば、私にとってのこのケーキくらい一瞬しか関わりを持たない、儚い存在だろうと。人間である咲夜はせいぜい百年程度の時を過ごすことしかできない。悪魔や妖怪の寿命は人間には理解も出来ないほどの物だ、寿命が平気で移り変わる悪魔や妖怪には寿命など半ば無意味なものかもしれない。妖精たちにはそもそも「死」というものすらない。
そんな存在から見れば、人間の存在など一瞬のもの、ただの一須臾にも満たないほど短く、儚いものでしかないのかもしれない。それがどうしたというのであろう?人間と悪魔・妖怪にはその命の長さ・果ては比べようが無い。だが、楽しいことを楽しいと思うこと、それに人間でも悪魔でも妖怪でも、妖精でも幽霊でも神様としても、そこに違いはあるのだろうか?咲夜にはそうは思えない。
生涯の長さには違えど、共に過ごした楽しい時間には、共に持つ思い出には、差などないだろうと咲夜は思う。例えケーキを食べてしまっても、ケーキがあったこと、ケーキの思い出は消えることはないように。それに495年間誰にも変えられなかったフランを、霊夢はたった一日で変えて見せた。それこそが物事の価値は時間の長さではないということの証ではないだろうか?
もちろん相手とは自分とは違う存在だ、命の長さも、常識も、道徳も、倫理も何もかもが違う。それでも咲夜には紅魔館の皆が自分とは根本から違う存在とは思えない。
「もっとも私も人里ではお嬢様たちのような理解できない存在と思われているわね」
咲夜はいささか自嘲的な気分を感じた。人里離れた吸血鬼の館に住む吸血鬼の僕。僕ならまだいいのかもしれない、咲夜自身も悪魔のように思われている場合も多々あるだろう。別には間違っているとは思わないし。否定する気もないのだが。吸血鬼の館で生活する咲夜が、人里の人間と違った感覚を持っていることは咲夜自身が一番わかっているのだから。それがレミリアたち悪魔と同じものなのかはわからない。だが、人里の人間とは違うことは間違いないだろう。
そして人里の人間に何を言われようが咲夜が気にするわけもない。ただ能力のせいだけで咲夜を煙たがった人々と、能力など気にせず咲夜を受け入れた紅魔館の面々。どちらが大事かなど言うまでもないのだから。
咲夜は今の境遇に心から満足している。例え自分の運命が選べたとして、無数の選択肢を渡されても咲夜は確実に今の運命を、境遇を選ぶだろう。
「咲夜様、そろそろ片付けを始めませんと」
小悪魔が呼んでいた、少し考え事をし過ぎたようだ、気が付けばレミリアだけではなく、他の皆も食べ終えている。紅茶も皆飲み終えたようだ。咲夜も最後に残った少しのケーキを食べ終えた。時間を操ったわけでもないのに、時間は思ったより遥かに進んでいた。皆といる、落ち着いた、楽しい時はやはり一瞬で過ぎ去るのだろうか?
「ごめんなさいね、小悪魔、すっかりあなたに給仕をさせてしまって」
「いえ、私も紅魔館に雇われている身ですから、たまには働かないと」
流石に咲夜ほど手際は良くないが、小悪魔も無難に仕事をこなしていたようだ。他のメイドたちもこのくらいでいいから働いてくれればいいのに…などと思わせる程度には。
「この家のみんなが集まるなんて本当に久しぶりだったけど、たまにはいいものね。フランやパチュリーとも久々に沢山話したわ」
「そうですね、お嬢様」
「次も近い内にやりたいものね。次は咲夜ももう少し仕事を減らしなさいよ、たまには仕事をしていないあなたともゆっくり話したいわ」
いつも慌ただしく咲夜が仕事をしているのはメイドたちの雇用主であるレミリアのせいでは?と思いつつ、そんなことは口に出すわけも無く、相槌を打っておいた。
「私も次はもっと美味しいケーキを作るからね!紅茶も入れてみたいな」
次は紅茶の入れ方もしっかり教えておこう。
「私も次は楽しみなのだけど、誰も図書館にいない時に離れるのがちょっと怖いのよね…魔理沙が忍び込みそうで、そうね、次は図書館でやらない?」
流石に咲夜はあの埃っぽくて暗い図書館でやる気は起きないので、警備の魔法の強化を薦める程度にしておいた。
「次は花畑でやりませんか?私もその前にしっかり花畑を整えておきますよ」
夜に外で行うお茶会も楽しそうだ。もっとも花畑を整えるのは、どうせ咲夜の仕事になるだろう。
「それではお嬢様、私達は片付けを始めますので」
「よろしくね。咲夜」
そうして皆は部屋から消えていった。気が付けば何故かメイドの数が足りない。残っているメイドも片付けもろくにせず遊んでいるような連中が大半だ。今日も咲夜が一人で大半の仕事をしなければならないだろう。流石に人数が多かっただけに、片付けにもかなり時間がかかりそうだ、面倒な準備や片付けに比べれば、楽しい時間は一瞬にすぎない。
でもその一瞬で十分なのだろう。20年ほどの人生の咲夜、500年生きてきたレミリア。100年生きてきたパチュリー、495年間生きてきた、ただ無為に地下で生きてきたフラン。今までに過ごしてきた時間も、これから送れる時間も違うけれど、共に過ごした時間と思い出の価値は変わらないのだから。時間の量は問題ではないのだから。咲夜がいなくなっても思い出が消えるわけではないのだから。
「また時間を操って掃除をしないとね…」
そして今は時間の価値なんて忘れて片付けをしないといけないのだから。
まさか本文中での表現を匂わせるまでにしてを前書きをギミックにするとは思いませんでした。
内容自体は失礼ながらそれほどとは思いませんでしたがアイデアにやられました。
個人的には嫌いじゃないです。そんな要素も東方の一部だと思いますので。
ただ、好みは分かれる予感。
最初から最後まで何もかもが順調で調和が取れている紅魔館であるが故に、
逆に浮き彫りになってしまう人としての咲夜。
もし人間である自己を僅かでも主張していたらこの紅魔館はありえないのでしょうね。
今後も少しでも面白いと思っていただければ幸いです。
>んー、別にグロテスクではないな。
それが狙いではないので不快感が無ければ何よりです。
>まさか本文中での表現を匂わせるまでにしてを前書きをギミックにするとは思いませんでした
ぶっちゃけ狙った訳じゃないです……ただ、露骨にカニバリズム的表現してるな、と思って書いた次第。苦手な人はとことん苦手でしょうし。
>ただ、好みは分かれる予感。
万人に評価されたいな~とは思いますが、空気になるよりは、少しでも好みと思ってもらえる人がいた方が幸せです
>逆に浮き彫りになってしまう人としての咲夜。
それが基本的に書きたかったことなので、扱いが上手いと言ってもらえて光栄です