「おや。見かけないなと思ったらここにいましたか」
宴会真っ最中の神社の裏手で、烏天狗射命丸文が言う。
「ん? 何か用かい?」
話しかけられた死神、小野塚小町がそう返す。手には煙管が、地面には酒があった。
「いや、用というわけではないのですが」
「なるほど。逃げてきたのかい」
言葉を濁す天狗と、濁さない死神。
「あー……まあ確かにそうなりますが……」
「鬼ッ娘が飲み比べでも始めたかい?」
「はい、まあそのとおりです。今回はこの場の全員と戦ってやると」
酒を注ぐ。注がれた側は杯を空にすることで、相手側に酒を注ぐことができるようになる。
これを延々繰り返して、先につぶれた方が負け。
とてもシンプルで単純な戦いである。
「全員とは大きく出たね」
もちろん、杯の大きさを変えることでハンデはつけてある。
それでもまだまだ萃香が有利なのだが。
「でもそれなら、あんたが先陣切ればいいんじゃないかい? 天狗と鬼に酒はつきものだろう?」
「この前それをやってエライ目に逢いましたからね……」
天狗にこうまで言わせるとは、流石は酒呑童子というべきか。
「ふぅん……ふぅー」
「煙管、ですか?」
「ああ。試してみるかい?」
そういって差し出される煙管。文は好奇心のままにそれを吸った。
「ゲホッ、ゲホゲホ」
そして咳きこんだ。
「な、何ですかこれ」
「あの世とこの世の合成品って聞いたね。しかし天狗でも吸えないか」
もったいないなあと呟きながら、うまそうに煙を吸う小町。
文はそれを呆れたように眺めていた。
「まあさすがに、こんなもん人間の前で吸う訳にもいかないしね」
「なるほど。だから裏で一人酒ですか」
「そろそろ戻ろうかとも思ってるんだけどね。たぶん何人か潰れ始める時間だろう」
「まったくそのとおり」
小町の言葉に、文のものとは違う声が返ってくる。
目線を向ければそこには竜宮の使い、永江衣玖がいた。
器用に二人の人間を担ぎながらこちらに歩いてくる。
「おや。巫女はすでに潰されていましたか」
担がれていたのは紅と白と緑と白の巫女二人。見事に酔い潰れているようだ。
「こっちの巫女は気負いがあったようで。一番手を自分から志願したのですが、無茶なペースで飲んでしまって」
東風谷早苗を地面に寝かせながら言う。
「逆にこっちは、素知らぬ顔してちびちび飲んでいたのを見咎められて、一番きつい酒をふるまわれて即死です」
博麗霊夢を地面に寝かせながら言う。
「地面に寝かせるのかい? なんなら神社の中に運ぶよ?」
「いえ。屋内だと始末が面倒なので」
酒の持つ能力の一つ、リバース。人妖関係なく効果のある、極めて強い能力である。
「ならいいか。ひんやりした地面も気持ちいいだろうし」
「それでは二人をお願いできますか?」
「あいよ」
ぺこりと一礼して衣玖は宴会場に戻っていく。
文は酒で赤くなった巫女達の頬をつんつんぷにぷにしながら遊んでいた。
「随分早いね」
それからしばらくも経たないうちに、また衣玖が現れた。
こんどは白黒魔法使い霧雨魔理沙と、パーフェクトメイド十六夜咲夜を担いでいる。
「わぁたしはぁ、まぁだのめるってばぁ~~」
「すぅー……すぅー」
寝言を呟く魔理沙と静かに寝息をたてている咲夜。
共通点は人間であるということだろうか。
「珍しいですね。いつもはもうちょっと粘るのに」
「最初に巫女二人が落ちたせいで、的が狭くなったからじゃないかい?」
小町の言になるほどと頷く文。
「そうですね。こちらの白黒は霊夢さんの次に指名されて、あえなく轟沈というところです」
魔理沙を地面に寝かせながら言う。
「こっちのメイドはその次ですね。コールをかけられて半ば自棄になりながら飲んでましたよ」
咲夜を地面に寝かせながら言う。
「コールねえ」
「はい。他の人間が飲めて、咲夜さんが飲めないわけがない。だそうです」
「そりゃまた災難だねえ」
煙を吐き出しながら咲夜を見つめる小町。
「宴会とは騒がしいものです」
潰れている人間四人を、どのアングルから撮影したものかと悩む文。
「それでは、またお願いします」
そして一礼して立ち去ろうとする衣玖。
そんな衣玖に、小町が声をかけた。
「もう人間は潰れちまってんだ。あんたも飲んでくればいい」
「ええ、ええ。もちろんそのつもりですよ」
衣玖は穏やかな笑みを返しながら、今度こそ立ち去って行った。
「ちょっと、しっかりしなさいよ」
「るぁいじょうぶれすよぉ。むぁだよってなぁいですからぁ」
それからしばらくして、今度はアリスとともに衣玖がやってきた。
ただし、どう見ても酔っているのは衣玖の方であった。
「おやおや。今度はこちら側が酔っておりますな」
「あ、天狗。ちょっと手伝ってよ」
「あはははぁ、せかいがまわってるぅ」
「やれやれ、しょうがない」
小町と文とアリスの三人で、明らかに酔っぱらっている衣玖を寝かせる。
少々てこずったが、一端横にしてしまえば後はそのまま眠ってくれた。
これも酒の能力の一つ。睡魔である。人妖関係なく効果のある、そこそこ強い能力である。
「いやいやしかし派手に酔ってたねえ」
「今まであんまり飲んでなかったからって、それはそれは激しくフィーバーしてたわよ」
「あやややや。それは大変でしたなあ」
「何他人事みたいに言ってるのよ。あんたがさっさといなくなっちゃったせいでもあるのよ?」
「おおっと。藪蛇だったか」
おどけて見せる文と、眉を吊り上げているアリス。
そして石畳の上に寝ころんでいる五人。
「よし!!」
ぼんやりと眺めていた小町は、唐突に文の腕を掴んで立ち上がった。
「そろそろ表に行って、飲み比べに参加するか」
「え。いやいや私はここで皆さんの面倒をですね」
「まかせてもいいかい?」
「ええ、いいわよ。そのブン屋を萃香の前に座らせてやってちょうだい」
「よしきた。じゃあ行こうか。覚悟決めなよ射命丸」
「とほほ……」
肩を落としながら引っ張られていく文。
文を引っ張っていく小町。
それを見送るアリス。
その下で酔いつぶれている人間たち。
けれども終わらない。終わる筈がない。
宴会はこれからが本番なのだ。
宴会真っ最中の神社の裏手で、烏天狗射命丸文が言う。
「ん? 何か用かい?」
話しかけられた死神、小野塚小町がそう返す。手には煙管が、地面には酒があった。
「いや、用というわけではないのですが」
「なるほど。逃げてきたのかい」
言葉を濁す天狗と、濁さない死神。
「あー……まあ確かにそうなりますが……」
「鬼ッ娘が飲み比べでも始めたかい?」
「はい、まあそのとおりです。今回はこの場の全員と戦ってやると」
酒を注ぐ。注がれた側は杯を空にすることで、相手側に酒を注ぐことができるようになる。
これを延々繰り返して、先につぶれた方が負け。
とてもシンプルで単純な戦いである。
「全員とは大きく出たね」
もちろん、杯の大きさを変えることでハンデはつけてある。
それでもまだまだ萃香が有利なのだが。
「でもそれなら、あんたが先陣切ればいいんじゃないかい? 天狗と鬼に酒はつきものだろう?」
「この前それをやってエライ目に逢いましたからね……」
天狗にこうまで言わせるとは、流石は酒呑童子というべきか。
「ふぅん……ふぅー」
「煙管、ですか?」
「ああ。試してみるかい?」
そういって差し出される煙管。文は好奇心のままにそれを吸った。
「ゲホッ、ゲホゲホ」
そして咳きこんだ。
「な、何ですかこれ」
「あの世とこの世の合成品って聞いたね。しかし天狗でも吸えないか」
もったいないなあと呟きながら、うまそうに煙を吸う小町。
文はそれを呆れたように眺めていた。
「まあさすがに、こんなもん人間の前で吸う訳にもいかないしね」
「なるほど。だから裏で一人酒ですか」
「そろそろ戻ろうかとも思ってるんだけどね。たぶん何人か潰れ始める時間だろう」
「まったくそのとおり」
小町の言葉に、文のものとは違う声が返ってくる。
目線を向ければそこには竜宮の使い、永江衣玖がいた。
器用に二人の人間を担ぎながらこちらに歩いてくる。
「おや。巫女はすでに潰されていましたか」
担がれていたのは紅と白と緑と白の巫女二人。見事に酔い潰れているようだ。
「こっちの巫女は気負いがあったようで。一番手を自分から志願したのですが、無茶なペースで飲んでしまって」
東風谷早苗を地面に寝かせながら言う。
「逆にこっちは、素知らぬ顔してちびちび飲んでいたのを見咎められて、一番きつい酒をふるまわれて即死です」
博麗霊夢を地面に寝かせながら言う。
「地面に寝かせるのかい? なんなら神社の中に運ぶよ?」
「いえ。屋内だと始末が面倒なので」
酒の持つ能力の一つ、リバース。人妖関係なく効果のある、極めて強い能力である。
「ならいいか。ひんやりした地面も気持ちいいだろうし」
「それでは二人をお願いできますか?」
「あいよ」
ぺこりと一礼して衣玖は宴会場に戻っていく。
文は酒で赤くなった巫女達の頬をつんつんぷにぷにしながら遊んでいた。
「随分早いね」
それからしばらくも経たないうちに、また衣玖が現れた。
こんどは白黒魔法使い霧雨魔理沙と、パーフェクトメイド十六夜咲夜を担いでいる。
「わぁたしはぁ、まぁだのめるってばぁ~~」
「すぅー……すぅー」
寝言を呟く魔理沙と静かに寝息をたてている咲夜。
共通点は人間であるということだろうか。
「珍しいですね。いつもはもうちょっと粘るのに」
「最初に巫女二人が落ちたせいで、的が狭くなったからじゃないかい?」
小町の言になるほどと頷く文。
「そうですね。こちらの白黒は霊夢さんの次に指名されて、あえなく轟沈というところです」
魔理沙を地面に寝かせながら言う。
「こっちのメイドはその次ですね。コールをかけられて半ば自棄になりながら飲んでましたよ」
咲夜を地面に寝かせながら言う。
「コールねえ」
「はい。他の人間が飲めて、咲夜さんが飲めないわけがない。だそうです」
「そりゃまた災難だねえ」
煙を吐き出しながら咲夜を見つめる小町。
「宴会とは騒がしいものです」
潰れている人間四人を、どのアングルから撮影したものかと悩む文。
「それでは、またお願いします」
そして一礼して立ち去ろうとする衣玖。
そんな衣玖に、小町が声をかけた。
「もう人間は潰れちまってんだ。あんたも飲んでくればいい」
「ええ、ええ。もちろんそのつもりですよ」
衣玖は穏やかな笑みを返しながら、今度こそ立ち去って行った。
「ちょっと、しっかりしなさいよ」
「るぁいじょうぶれすよぉ。むぁだよってなぁいですからぁ」
それからしばらくして、今度はアリスとともに衣玖がやってきた。
ただし、どう見ても酔っているのは衣玖の方であった。
「おやおや。今度はこちら側が酔っておりますな」
「あ、天狗。ちょっと手伝ってよ」
「あはははぁ、せかいがまわってるぅ」
「やれやれ、しょうがない」
小町と文とアリスの三人で、明らかに酔っぱらっている衣玖を寝かせる。
少々てこずったが、一端横にしてしまえば後はそのまま眠ってくれた。
これも酒の能力の一つ。睡魔である。人妖関係なく効果のある、そこそこ強い能力である。
「いやいやしかし派手に酔ってたねえ」
「今まであんまり飲んでなかったからって、それはそれは激しくフィーバーしてたわよ」
「あやややや。それは大変でしたなあ」
「何他人事みたいに言ってるのよ。あんたがさっさといなくなっちゃったせいでもあるのよ?」
「おおっと。藪蛇だったか」
おどけて見せる文と、眉を吊り上げているアリス。
そして石畳の上に寝ころんでいる五人。
「よし!!」
ぼんやりと眺めていた小町は、唐突に文の腕を掴んで立ち上がった。
「そろそろ表に行って、飲み比べに参加するか」
「え。いやいや私はここで皆さんの面倒をですね」
「まかせてもいいかい?」
「ええ、いいわよ。そのブン屋を萃香の前に座らせてやってちょうだい」
「よしきた。じゃあ行こうか。覚悟決めなよ射命丸」
「とほほ……」
肩を落としながら引っ張られていく文。
文を引っ張っていく小町。
それを見送るアリス。
その下で酔いつぶれている人間たち。
けれども終わらない。終わる筈がない。
宴会はこれからが本番なのだ。
特に描写がある訳でもないのに、
遠くに賑やかで明るい気配を感じることの出来る、
静かで薄暗い神社の裏手の雰囲気が見事に伝わってきました。
次々に潰れた人妖が運び込まれてくるだけなのに、ちゃんと楽しげな宴会の様子も同時に運び込まれてくるようで‥素敵なお話をありがとうございました。
賑やかな宴会のまさに裏側。
静かだけど寂しいのとは違う、落ち着いた感じがすごく素敵でした。