※一部オリキャラを含みます。それでもよい方は是非お読み下さい。
人間の里への静かな山道を、橙は一人歩いていた。山の木々から夕日が差し込み、辺りを温かい空気が包んでいる。あれからどのくらい過ぎたかなんて覚えていないが、幻想郷の雰囲気はあの頃から何も変わっていない。橙はその大人びた体で伸びをしながら、里へ向かって歩き続けた。
数々の異変が起こっていた日々から、実に百年が過ぎていた。あの頃共に笑い、時にいがみ合った人間達はもう誰もいない。博麗の巫女は幾度となく代替わりしたし、霧雨魔法店は主を失って久しい。紅魔館のメイド長も何年も前に亡くなったそうだし、守矢の風祝は信仰のために神様になったらしい。彼女は特別として、あの頃の橙が知っていた“人間”はもう誰も残っていなかった。
人間の寿命はどうあっても妖怪のそれに及ばない。だから、彼女達との別れは仕方のないことだ。避けられないことなのだから、諦めよう。そう自分に言い聞かせながら、多くの妖怪達は自らの頬を伝う雫を止めようとした。橙もその例に漏れず、紫や藍とともに帰らぬ友を悼み、その度に涙を流した。
しかし、時の流れが妖怪達にもたらしたのは友人との別れだけではない。その頃はまだ子供だった橙も今は立派に成長し、一人前になりつつある。尻尾は二本のまま変わっていないが、妖怪としての能力はもちろん、結界を管理する者としての能力も以前とは比べ物にならない。今では、小さな歪みくらいなら藍の力を借りずとも修復できるほどの力を得ていた。
そんな折、橙は紫に呼び出された。以前から紫は人間の里で流行っている漫画など、藍には頼みにくいものを橙に買ってきてもらっていた。この時も、きっとそういう軽い頼みなのだろうと思い特に気にも留めていなかった橙は、部屋で待っていた紫の真剣な表情に思わず息を呑んだ。
「す、すみません紫様、遅れました」
特に遅れたわけではないが、紫の表情に気圧された橙は謝らずにいられなかった。
「いいのよ。さて橙、今日貴女をここに呼んだ理由がわかるかしら?」
橙は首を傾げた。彼女には何故自分が呼び出されたのかさっぱりわからなかったからだ。橙に頼み事をするとき、紫はもっと優しい表情をする。けれど、今目の前にいる紫の表情は固く、威厳に満ちている。その瞳に見つめられた橙は、紫に畏怖すら感じていた。
橙が何も言えずにいると、紫は少し優しい口調で話し出した。
「わからないか。無理もないわ、貴女はいつも頑張るばかりで自分の成長に気づいていないものね。
――橙、貴女に八雲姓を名乗るための試練を与えようと思うの。」
橙は何を言われているのかわからなかった。いつの間にか部屋の中にいた藍に体を揺すられてはじめて自分が言われた事の意味に気がついた。
「よかった、よかったなあ橙、ちぇえええええええん!!」
藍は涙を流しながら喜んでいる。その様子を見て、橙は少し恥ずかしくなった。藍と橙はずっと親子のように接してきたが、橙はもう大人といえるほどに成長した。つまり、所謂子離れ、親離れする時期はとうの昔に過ぎている。
橙は未だに子離れできていない母親を見るような目で藍を見る一方で、自分の事のように喜んでくれる姿を素直にうれしくも思っていた。
「喜ぶのは早いわよ、藍。私が認めなければ八雲の名は与えられないわ」
「そ、そうですね。橙、頑張るんだぞ?」
「はい、藍様。それに紫様、このような機会を与えて下さり、本当にありがとうございます」
「いいのよ。貴女も成長したし、頃合だわ」
そう言うと、紫はすっと立ち上がった。その表情はいつもの親しみやすいそれに戻っている。
「さあ、話も終わったしご飯よご飯!今日は橙も食べていきなさいね」
「はい!藍様、私も手伝います!」
「よし、じゃあお願いしようかな」
藍はうれしそうに微笑んで台所へ向かう。その後を追う橙の表情は輝いていた。
以前から、橙は八雲家の一員になりたいと考えていた。自分だけ八雲姓を持っていないのが寂しかったわけではない。橙が望んだのは、幻想郷の管理をする者の一員になることだった。
霊夢が死んだあの日、紫は泣いている橙に凛とした表情で言った。
私は幻想郷を守り、全てを捧げる者。彼女との別れは寂しいけれど、泣いているわけにはいかない。私がしっかりしていなければ、この幻想郷は簡単に崩れてしまうのだから、と。
静かに語る紫の瞳は、涙で輝いていた。
本当は、声を上げて泣きたかったのだろう。大切な友人を失って辛くない者などいない。けれど、紫は一人の人間の死と幻想郷全体を天秤にかけ、後者を選んだ。幻想郷を管理する者として、彼女は大切な人との別れを悲しむ時間を捨てたのだ。
その日から、橙は幻想郷の管理について学び、修行し始めた。いつの日か自分も管理する者の責任を負い、悲しみも辛さも三人で共有できるように。そして、より大きな幸せを三人で掴むために。
「あ、醤油が切れてる」
夕飯の準備をしていた時、藍は醤油を買い忘れていたことに気がついた。買い物前に橙の試練について紫から聞かされていた藍は、買い物の最中も喜びと心配で胸がいっぱいだった。そのせいか、普段なら絶対にしないようなミスをしてしまったのだ。
「じゃあ私買ってきます」
「悪いな、頼んだぞ橙」
「はい。では、いってきます」
買い物袋を手に、橙は家を出た。時刻は既に夕方。まだ店は開いているだろうかという心配を胸に、橙は静かな山道を進んだ。
* * *
案の定、多くの店は閉まっていた。最近は人間の里にも遅くまでやっている妖怪向けの店が増えたが、そこでは醤油などは売っていない。橙が困っていると、不意に一軒の店が目に入った。そこは老舗の店で、橙も昔から知っていた。普段ならもう閉まっているはずなのだが、どうやら今日はまだ開いているようだ。
「すみませーん」
橙は店先で声をかけた。しばらく返事がなかったのでもう一度声をかけようとすると、年老いた女性の返事が聞こえた。
「すみません、今若いのが出払っていまして…橙?橙じゃないか!久しぶりだね、元気だったかい?」
橙を見るなり、女性はうれしそうに声を上げた。橙もうれしそうに微笑み、女性に答える。
「うん!久しぶりだね、小百合ちゃん」
数十年前、藍とともに買い物に出かけたときに、橙は幼い小百合に出会った。それからも二人は何度か出会い、いつの間にか仲のいい友人になっていた。二人で誘いあって会うこともあったが、橙が修行に専念するようになってからはあまり会えずにいた。
「本当に久しぶりだね。橙が修行するって言い出した頃からだから、もう何十年経つのかな」
「そうか、もうそんなに経つのか…ごめんね小百合ちゃん、会いに来られなくて」
「気にしないで。橙も頑張ってたんでしょ?すっかり大人になったもの…醤油、買いにきたんだよね?」
「あ、うん。」
「待ってて、今持ってくるから」
そう言って小百合は奥へ入っていった。
昔を思い出したのか、小百合の言葉遣いも当時のそれに戻りつつある。古い友人と久々に話すことが出来て、橙はうれしかった。
「お待たせ。はい、どうぞ」
「ありがとう。そういえば、おじさん達は元気?」
橙の言葉に、小百合は顔を曇らせた。その様子を見て、橙は聞いたことを後悔した。橙は人間の寿命のことをすっかり忘れていたのだ。やがて、小百合がなんでもないように言う。
「両親はもう前に亡くなったよ。でも今は家族がいるから、寂しくはないけどね」
「そう。ごめんね、変な事聞いて」
「気にしないで。もう前の事だから」
二人の間に沈黙が流れる。話題を変えようとして、橙は自分の話をする事にした。
「あのね小百合ちゃん、私今度八雲橙になるんだ」
「え?どういうこと?」
きょとんとしている小百合に全てを説明する。それを聞き終えた後、小百合は橙に微笑んだ。
「そうか、橙も立派になったね。私達とは違うことはわかってたけど、なんだか遠い存在になっちゃうみたいだね」
小百合の言葉を聞いて、幻想郷の管理者になることの責任を改めて感じた橙は少し寂しく思った。けれど、小百合は橙に向けた微笑みを浮べたまま話し続ける。
「でも、いつまでも私と橙は友達だよ。橙が成長して、結界とかいうのを守るようになったって、私達の気持は変わらないでしょ?何があっても、私達は友達のまま。だから、そんな顔しないで?」
そうだ。たとえ二人の立場が変わったとしても、気持が変わらなければいつまでも友達のままでいられるのだ。だから、私達はいつまでも友達だ。
――たとえいつの日か小百合と会うことが出来なくなったとしても。
「うん、ありがとう。じゃあまたね、小百合ちゃん!」
橙は小百合に微笑み、醤油の瓶を受け取ると帰っていった。彼女を見送ると、小百合は奥の居間に座り込み、目を細めた。昔の友人が遠くへ行ってしまった寂しさを感じつつも、立場は変われどいつまでも変わらない友人の笑顔に、彼女も喜びを隠せなかったのだろう。
* * *
その日の真夜中のこと、橙は紫、藍とともに森の中にいた。この辺りは人里からかなり離れている上、近くに八雲紫の家があるという噂があるため人間は滅多に近づかない。紫に下手に関わるのが嫌なのか、妖怪達でさえも用がなければ敢えて近づこうとする者も少ない。そのため、妖怪が活発に動き出すこの時間帯でも辺りは異様なほど静まり返っていた。
「さて橙、いよいよ貴女に試練を与える時が来たわ」
紫は再び威厳に満ちた表情に変わっていた。その雰囲気に気圧され、橙は思わず尻込みする。藍は紫の少し後ろで事態を見守っていた。
「は、はい。このような機会を与えてくださり、ありがとうございます。それで、私は何をすればいいのですか?」
「貴女の能力はすでに見せてもらったわ。そちらの方は結界を管理する者として申し分ない。したがって、貴女には覚悟を見せてもらう」
そう言うと紫は橙との間にスキマを開いた。橙が見ていると、その場所に一人の人間が現れた。
その姿は、橙もよく知るものだった。
「小百合ちゃん……どうしてここに……?」
橙が駆け寄ろうとすると、紫が静かに言った。
「橙、これが貴女に与える試練よ。
――この人間を殺しなさい」
はじめ、橙は何を言われているのかわからなかった。だって、小百合を殺す理由がないのだから。
きっと紫様の悪い冗談だ。本当は別に試練が用意されていて、いや、もしかしてこれに対する反応が試練なのかもしれない。きっとそうだ、紫様が意味もなく人を殺せだなんて言うはずがない。きっとこれは――
「聞こえなかったの?この人間を殺す事が貴女の試練よ」
橙は紫の顔を見て凍りついた。
冷たい瞳は金色に輝き、大妖怪たる覇気を発している。口元は真っ直ぐ閉じられていて、心情を窺い知る事は出来ない。
しかし、橙の本能は彼女に危険を知らせていた。
全身の毛が逆立つほどの恐怖を感じながら、橙は口を開いた。
「どうして、ですか?何故小百合ちゃんを、いいえ、人間を殺さなければならないのですか!」
「貴女の覚悟を試すためよ。結界を管理する立場にいる以上、時には目の前の一人よりも他の大勢を優先しなければならない事もあるの。もし貴女がこちら側に立つことを望むならば、その覚悟を示す必要があるのよ」
紫の説明を聞いて、橙の頭の中には様々な思いが渦巻いていた。
八雲姓をもらって、苦労を共にしたい。けれど、目の前の友人を殺す事なんて出来ない。紫様を責めようにも、立場上残酷な決断をしなければならないこともあるというのは事実なのだから、この試練は妥当なのだろう。でも、絶対に小百合を失いたくない。もう年老いて残り数年しか生きられなかったとしても、友人を殺すなんてことが出来るはずがない。
でも、もしかしたら、いっそのことここで小百合を殺してしまえば、覚悟を決められるのかもしれない。そんなことを考えながら、橙は小百合を見た。何らかの方法で声を出せなくされているようだが、彼女は明らかに怯えていた。体は幽かに震え、顔は涙で濡れている。あの頃と変わらない愛らしい瞳は雫を湛え、橙を見つめていた。
その時、橙は思い出した。彼女と交わした、あの言葉を。
――いつまでも、私と橙は友達だよ。――
そうだ、私達は友達だ。お互いの気持が変わらなければ、ずっと二人は友達のままだ。だから、私は友達を守らなければならない。
橙は覚悟を決め、紫に強い眼差しをぶつけた。
「私には、できません」
紫は未だ橙を冷たい瞳で睨みつけるようにして見ている。
「それなら、貴女はこちら側には来られないわね」
「いいえ、私は幻想郷を守る側に立ちたいです」
「ならどうして殺さないの?まさか殺せないのかしら?それは貴女に覚悟がない事を意味すると思うのだけど?」
「はい、その通りです。私には、友人を殺す覚悟などありません。でも、だからこそ私は守る立場につきたいんです。たとえ一人を見捨てなければならない状況でも、なんとかして全員を守るような、そんな存在になりたいんです。だって、そうなれなければお二人の苦痛を共に背負う事なんて出来ませんから。私のような未熟者が何を言うかと思われるかもしれませんが、これが私の意志です。
もちろん、せっかくの試練を台無しにした罰は受けるつもりです。ですが、小百合には手を出さないでください。彼女は私の大事な友人です。どうか、お願いします」
一気に言い切る間、橙は紫から目を逸らさなかった。紫は一貫して先程の威圧的な表情を崩そうとしない。許してくれると思ったわけではないが、橙に後悔はなかった。
自分の思いを全て伝えたのだから、後は紫様の判断次第だ。
藍は少し前まで紫の後ろで心配そうに見ていたが、今は幽かに震えている。俯いていてその表情を窺うことはできないが、その口元は僅かに緩んでいるように見えた。もっとも、橙はずっと紫の眼を見ていたため藍の変化にまったく気づいていなかったが。
やがて、紫が口を開いた。
「そう。ならば仕方ないわね」
そう言いながら、紫は右腕を高く振り上げた。
ああ、もうだめだ。本能的に橙はそう悟った。紫の本気の一撃に、成長したとはいえまだ未熟な橙の体が耐えられるはずがない。その一撃を受ければ、おそらく橙は死んでしまうだろう。
それでも、後悔はない。友人を守れるのなら、死んでもいい。
橙は目を瞑り、静かにその時を待った。
パンッ!!
不意にクラッカーが鳴る。橙が驚いて目を開けると、満面の笑みを浮べた藍がクラッカーを手にしていた。
何が起こったのだろう。確か自分は罰を受けるところだったはずだ。なんでそんな時に藍様はクラッカーなどを鳴らしたのだろう。そうだ、紫様は?紫様は何をなさっているのだろう。
橙が意味もわからず混乱していると、紫がうれしそうに言った。
「おめでとう!橙、合格よ!」
振り上げた右腕は、親指を立てて橙に向かって突き出されている。橙が未だに状況を理解できずにいると、藍がクラッカーを投げ捨てて走ってきた。
「ちぇええええん!!よかった、よかったああああああ!!!!」
「ら、藍様落ち着いてください!よかったって、つまり私は……」
「そう、貴女は今日から八雲橙よ。明日から私達と一緒に結界の管理をしてもらうわ」
橙もやっと事態が呑み込めてきたようだ。その表情はほころび、涙を流している。
「紫様……そうだ、小百合ちゃんは?」
「そうそう、彼女もお役御免ね」
そう言うと紫はまるで絵本に出てくる魔女が魔法を使うときのように指を振る。すると、見えない猿轡が取れたように小百合が話し始めた。
「げほっ、げほっ……橙、おめでとう。」
彼女の第一声は、橙への祝いの言葉だった。紫に攫われ、命の危険を味わったのだから、不満や怒りを表すのが普通だろう。しかし、そのような感情を一切見せずに、彼女は友人の成長を喜んだ。それがうれしくて、橙は小百合を抱きしめた。
「ごめんね、小百合ちゃん。私のせいで、怖い目に遭わせて……本当にごめん」
「いいんだよ。確かに怖い思いはしたけど、それよりも橙が立派になってうれしい気持のほうが強いんだから」
「小百合ちゃん……」
「本当に、ご迷惑をおかけ致しました」
二人が振り向くと、紫が頭を下げていた。あの大妖怪・八雲紫が他人に頭を下げる事など滅多にない。
「橙の試練のためとはいえ、このような無礼をはたらいたことをお許し下さい。本当に申し訳ありません」
紫は深々と頭を下げている。このような姿をあまり見たことがなかったので、橙はなんだか不思議な気分だった。もっとも、紫の丁寧に謝る姿を見たことのある者など、数えるほどいるかどうか。
「いいえ、橙の成長の場に立ち会えて私もうれしいです。ですから、どうか頭を上げてください」
「お許しいただきありがとうございます。今度橙のお祝いをと思うのですが、いらしていただけますか?」
「ええ、もちろん。では、そろそろ私は帰りますね」
「それなら私に任せてください」
紫はスキマを開き、四人を中に入れた。そこを抜けると、ちょうど小百合の実家の前だった。彼女は丁寧に挨拶をし、家に帰っていった。
小百合を見送った後、橙も家へ帰ることにした。藍は泊まっていくように言ったが、翌日からここで暮らすには今日中に準備を始めないと間に合わないという。残念そうにしている藍の隣で、紫はうれしそうに笑っていた。
「紫様、どうして今回の試練はあのようなものにしたのですか?」
橙を見送った後、藍は紫に尋ねた。
「ああ、あの状況になればあの子の本当の思いを聞けると思ったからよ。はじめから小百合を殺させるつもりはなかったわ」
紫は肩を回している。どうやら真面目な表情をずっとしているのも疲れるらしい。主人の肩を揉んでやりながら、藍は答える。
「なるほど。しかし橙があんなふうに思っていたとは……あんな事を言うなんて、あの子ももう大人なんですね」
「そうね、いつの間にか立派になったものだわ」
「でも、私達と苦痛を共にするとはどういう意味でしょうか?そう言ってくれたのはうれしいんですが、それがどうにもよくわからなくて……紫様は何かご存知ですか?」
「さあ。でも、いいことだし、それでいいじゃない。明日には橙が荷物を纏めてこの家にやってくる。三人で分かち合うのは、苦痛だけではないわ。幸せも、悲しみも、何もかも全部三人で共有しましょう」
紫は目を細めている。その様子を見て、藍は主が何か知っている気がしたが、聞くのを止めた。
これからは橙も家にやってきて、色々とやることも増えるだろう。そうなれば、こんな些細な疑問に構ってはいられない。やれやれ、苦労は増えそうだが、その分楽しい事もいっぱい待っていてくれるに違いない。
そんな事を考えつつ、ただ一言「はい」と答えて、藍は紫の肩を揉み続ける。
そう、全て三人で分かち合えばいい。親友の死も、幻想郷の管理も全て一人で背負おうとしていた自分がなんだか馬鹿みたいだ。私にはいつも傍で支えてくれる式と、どんな状況でも他人を思いやることができる式の式がいるじゃないか。それで十分だ。
これからは三人で全てを共有しよう。喜びも悲しみも全て分け合えば、一人よりも辛くないし、一人よりもうれしくなれる。そんな関係を、人間達は家族と呼んでいた。彼らの真似をするようで心外だが、こういう関係は気持のいいものだ。今度からは、私達も八雲家と名乗らせてもらおう。
そうだ、表札を作ろう。立派な木が要るから、藍に探してもらおうか。いや、それよりも三人で探したほうが楽しそうだ。よし、明日の予定が決まった。
八雲家としての最初の仕事は、表札探し兼ピクニックだ。ふふふ、明日が楽しみね。
そんな事を思いながら、紫はうれしそうに微笑むのだった。
個人的には好きですねw
読みやすく、いい作品だと思います。
王道だけど、いい感じ。堪能させていただきました。