最近、空が変だ。ついこの間までは地上へ元気に遊びに行く姿が見られたのに、それがぱったり見られなくなった。
そんなわけで、私は久しぶりに第三の眼をまともに使ってみたのだけれど、予想していた以上に事態は深刻だった。
結論から言うと、空は究極の力を制御しきれず、有り余って溢れ出ようとするエネルギーを外へ放出するため、
一日に三発、多ければ五発ほどの暴発を引き起こしていた。但し、本人にもどうしてこんな事になっているのかが理解できておらず、
せいぜいエネルギーの矛先を業火に包まれた廃獄に向けるくらいしか対処法が浮かばなかった。
さとりとしては、矛先が地霊殿に向かなかった点で空を褒めるに値すると考えたい所ではあるが、
究極の力を制御できないとなるとそうも楽観視していられない。八咫烏の力が暴走してしまえば、
地霊殿どころか幻想郷全土が吹き飛びかねない。したがって放っておくわけにもいかず、さとりは夕飯後に空を自室に呼んだ。
「なんですか、さとり様。」
「空、悩みがあるのでしょう?」
「うにゅ・・・分かってて言ってますね?さとり様に隠し事ができないってこと。」
最近は、そうでもないように思う。覚としての本分からは外れているものの、極力外へ出かける時などは
第三の眼を半眼にして出歩くものだから、誰かと会話するにしても相手が喜んでいるだとか、怒っている、
不思議がっているというような、漠然とした感情しか分からない。
だから、空相手に第三の眼ではっきりと心を読む事自体、久しかったのだ。
◆しきさまは PKサンダーγをこころみた!
「原因は明白よ。力とはそれ単体で暴れるもの。
御するならばそれ相応以上の能力が求められる。相応しくない力しか持てない者は、その代償にいずれ力に呑まれて身を滅ぼす。つまり―」
知識人はくるくると弄んでいた羽根ペンをぴたりと止める。
「このままだと、死ぬわよ。」
言葉が出ない空に、彼女は本へと視線を戻して言い放つ。
「助かりたいなら、今直ぐに核融合の力を放棄するのね。一介の妖怪が扱うには、強すぎる力よ、それは。」
空は縋るようにさとりを見る。しかしながらさとりとて空の持つ力を完全に理解出来ない以上、どうにもできない。
「何とかして、力を残す事はできないものですか?空本人が力を失いたくないと言うもので。」
「分かっているのでしょう?簡単に言えば、キャパシティオーバーなのよ。
既に完成してしまった器はそう簡単には拡げられない。もしも、八咫烏の力を操れる位にしようとするなら、
一度器を叩き壊してしまうしかない。これは魔力容量の拡張を試みて何人もの魔法使いが行い、
誰一人成し得ずに魔道を断たれた禁術に類されるもの。つまり、死と隣り合わせのリスクを負うわ。」
「・・・。」
自分よりも遥かにそういった分野に詳しいであろう魔女が言うならば、間違いないのだろう。
さとりは、空に冷たい現実を突き付けるより他になかった。
「空。仕方ありません、八咫烏の力を放棄しましょう。」
「待って、待って下さいさとり様。もう少しだけ、時間を下さい。」
「・・・タイムリミットはどれくらいですか、パチュリーさん?」
「難しい質問ね。その子の力にもよるけれど、保って五日という所かしら。
言っておくけれど、身体のどこか一部でもメルトダウンし始めたらいよいよ猶予は無いわよ。
そうなる前に、融合解除の決心をしなさい。メルトダウンが起こる前であれば、私でも何とかなるから。
それ以降は責任持てない。最終手段は永遠亭のアレな薬師だけれど、竹林で迷うでしょうし、まず間に合わないわね。」
かくして、空の余命は約三日と見積もられた。
さとりもまた、苦渋の決断を迫られることになる。
飼い主として空を見るならば、八咫烏の力を放棄するのが最善と考えられる。しかし空とて人形ではない。
それに本人も究極の力をえらく気に入っている。本当に空の事を考えてやれる、
と言える選択はどちらなのか、ろくに眠らず一晩中考え抜いたものの、果たしてまともな答えが出せるはずもなかった。
空は昨日からずっと、自身の力と格闘している。方法など知らない。成し遂げられるかも分からない。
けれども、空の中では諦めるという選択肢には、真っ先に斜線が引かれていた。
―空が嫌だと言うなら、強制はしません。空の意思を尊重します。
さとりはそれだけ伝えて踵を返し、広間へ逃げ帰って来たのだった。
我ながらひどく中途半端な、どっちつかずの情けない答えだと思う。
「分かんないなぁ、悩む必要無いじゃない。さっさとおくうから八咫烏を引っぺがしちゃえばいいのに。」
砂糖を四つも入れた紅茶を口へ運びながら答えるのはこいしの声。こいしは迷い無く、飼い主としての選択をした。
「あたいに訊かれても困っちゃいます。究極の力を失いたくないのも、さとり様に心配掛けたくないのも両方、きっと本心ですから。
ただまぁ、何と言いますか・・・もとは山の神様が、おくうに究極の力を与えてエネルギーを得ようとしたんですよね?
ちょっと、それが引っ掛かると言いますか、もしかしたら―」
「山の神の逆鱗に触れるかもしれない、ですか。」
お燐の言わんとする事にも一理ある。要は、空が八咫烏の力を放棄したところで、
どのみち空自身は危険であることに変わりはないのでは、と懸念しているのだ。
結局明白に答えを出せぬまま、三日が過ぎた。お燐を膝に乗せたまま読んでいたはずの本を、
知らぬ内にテーブルへ置きっぱなしにしたまま、さとりは頬杖の上で何度目になるか分からぬ溜息を吐く。
こいしはいよいよ我慢ならなくなり、抱いていたクッションをソファにぼふっと投げやって立ち上がった。
「お姉ちゃんって、酷いひとだよね。」
「こいし。分かるように、言ってくれないかしら。」
つかつかと歩み寄ってくるこいしに気圧されながら、宥めるように紡ぎ出した。
嫌な汗が背中から噴き出す。どういうわけか、こいしは怒っているようだ。
「分かってて言ってるんでしょ。おくうに表裏なんて無くて、
本当にお姉ちゃんを敬愛してるからああ言ってることも。それって、逃げだよね。
だって、おくうと神様の力・・・ううん、おくうと山の神様の鉄鎚を天秤に掛けておきながら、答えを出さずに投げ出してるだけだもの。」
「・・・私は・・・。」
神様の制裁なんて怖くない、と続けられなかった。
「ほら、迷ってる。言えないんだよ。無意識の深層で、本当は山の神を畏れてるから。」
「違う・・・違うの。」
「何が違うの?そりゃ、私だって神様に勝てるかなんて分からないよ。
でも本当におくうを大切に思ってるなら、勝てなくたって挑むよ。」
「そんな真似をしても、仕方ありません。それよりも、空の身体をどうするか・・・」
「やっぱ馬鹿だよね。私が言ってるのはそういう事じゃない。おくうの言った事、覚えてないの?」
「覚えていますよ。『私が究極の力を失ったら、さとり様を守れなくなるから、それだけは嫌だ』と言っていましたね。」
「じゃあさ、おくうはどうしてそれだけは嫌だって言ったんだと思う?」
「言葉通りじゃないですか。究極の力が使えなくなるのは困る、そういう事でしょう。」
はぁ~、と長い長い溜息一つ、こいしはかぶりを振る。
「お姉ちゃんはおくうに守ってもらえなきゃ生きて行けない、
地底の妖怪共に殺されちゃうようなやつなの?そんなのの妹だなんて、私が情けないんだけど。」
がっ、と胸倉を掴まれて吐き捨てられた辛辣な妹の言葉に、瞳に呑み込まれる。
そして、無意識の奥底に封じられていたさとり自身のトラウマが色彩を帯びる。
覚としての力を未だ持たない妹を守る為に、かつて幾つもの命を奪って生きてきた。
いつしか迫害され、致命的な傷を負わされた事など数え切れない。
戦闘が苦手な覚妖怪は、自分達を殺そうとした何百という人間の心を壊してきた。
その報いか、妹の心が壊れかけた。
その力故に、妖怪・怨霊にすら畏怖され、自分に近寄ろうとすらしなかった。
閻魔様だけは私を毛嫌いすることもせずに接してくれた。
けれど、詰まるところは誰からも好意を持ってはもらえなかったのだ。
だから、地底ならば好いてくれる相手がいるなどとは、欠片も期待していなかった。
見事にその予想は裏切られた。だからこそ願ってしまう。
このささやかな幸福よ、永遠であれと。
「お姉ちゃんは自分が山の神を恐れてるんじゃない。
逆鱗に触れて、私達に害が及ぶのを恐れてるんでしょ?おくうが嫌がってるからなんて、そんなの嘘でしょ?都合の良い言い訳でしょ?」
漂う幻覚の中、何処からともなくこいしの声。喉が干涸びて、言葉が紡げない。鉄パイプでがつんと殴られたように、頭がくらくらする。
「飼い主としてとかじゃなくてさ。古明地さとりとして、おくうと向き合ってあげなよ。私も強くなった。お燐だって居る。
今はもう、地霊殿を護るのはお姉ちゃん独りじゃないんだよ。そんな事で制裁加えようとする神様なんて、私がぶちのめしてあげる。」
そういう、ことだったのだ。私は神様を恐れたんじゃない、
空はもちろん、こいしやペット達の居る地霊殿、この安息の地を失うのが怖かったのだ。
こいしは飼い主としての選択をしたんじゃない。
古明地こいし個人として、空にどうして欲しいかを述べたに過ぎないのだ。
「さぁ、私にできるのはここまで。あとはお姉ちゃんとおくうの問題だよ。」
私はいつまで経っても変わらず、自分を主張できないただの臆病者だった。
パチン!と何かが弾けるような音と同時に激しい地震が地霊殿を揺らし、直立を保てずに尻餅をつき、我に返る。
立つに立てず、ようやく収まってから立ち上がる。白磁のティーカップがいくつか粉々になっている以外はいつもと変わらない地霊殿。
こいしの姿は無かった。が、先ほどの地震、もしかすると。
ふと目をやると目の前のテーブルには、黄色いリボンが印象強い、こいしの黒帽子。僅かに幼さの残る字で、
『貸してあげる。お姉ちゃんにエゴの恩恵がありますように。』
とメモが添えられている。さとりは帽子を手に取り、胸に掻き抱いて深呼吸を一つ。
決心はついた。
わがままは百も承知であるが、やはりこんなところで空を失いたくない。
帽子を被って、灼熱地獄跡へ続く扉の前に立つ。速くなっていく鼓動を、仄かなこいしの香りが静めてくれた。
そしてさとりは意を決し、扉を開く。
姉が吸い込まれていった扉に寄り掛かって呟く。
―おくうに嫌われる心配なんて、最初からしなくて良かったんだよ。
知らないでしょ、おくうがあんなに素直に甘える相手って、お姉ちゃんだけなんだよ?私には、あんな顔を見せてくれないもの。
すうっと肺一杯に、酸素を吸い込む。
「空っ!!」
さとりの吐き出した音波は、陽炎を切り裂いて空の鼓膜を激しく揺らし、空は僅かな驚きと、深い憂鬱の入り混じった顔でふらふらとやって来る。
「どうしたんですさとり様。血相変えて。第三の眼、閉じてますよ?」
それは、わざと。
「空、もう、無理しなくていいんですよ。八咫烏の力を、返しましょう。」
「嫌です。」
「大丈夫。あなたが究極の力を持たなくても、私は居なくなったりしません。」
「違う、違います。分かってました。私がさとり様を守る必要なんて無いって。」
「なら何が、嫌なの?」
「・・・私は元々大した力も無い地獄鴉でした。だから、揉め事になっても地底の妖怪達にはてんで敵わなかったし、
拾われてからはさとり様に守られて生きてきました。だから、究極の力を授かった時、本当に嬉しかった。
これでさとり様に恩返しできる。悔しい思いをしなくてすむ。さとり様を酷い目に合わせた地上のやつらを、同じ目に合わせてやれるって。」
空はしゃくり上げるのを、必死に抑えながら続ける。
「でも、こんな事になっちゃって。分かってます。このままだと、化け物になっちゃうのは。
かといって、またさとり様に縋らなきゃ生きられないあの頃に戻ると思うと、ひどく惨めで・・・っ!」
ぼやけた視界を取り戻そうと、制御棒があるはずの右手で涙を拭う。
「空、その手・・・!」
息を呑んだ。おそらく空の双眸には、思わずぎょっとした古明地さとりの貌が生々しく映っているに違いない。
空の右腕は制御棒が無く、肉がメルトダウンして赤く爛れ、所々骨が覗いている。ボコボコと沸騰した血が爆ぜては垂れ、醜悪を極めていた。
空は渇いた笑顔で弱々しく返す。眼の下に、べったりと紅い血。
「あは・・・はは・・・。遂にここまで、来ちゃったんです。
正直、引きましたよね?だってこんなの、キモチワルイですもん。
なんでかなぁ・・・このままだと身体全部がこうなっちゃうって分かってるのに。」
「・・・空。右手がそうなるまでに、どれくらい掛かりましたか?」
「さぁ、どのくらいでしょう・・・多分、あと二刻もすれば―」
突然さとりは空の右手首を掴んだ。じゅっ、と肉の焼ける音と痛みに顔を顰める間もなく、空を引っ張って駆け出す。
「!?ダメですさとり様!!そんなことをしたら私どころかさとり様までっ!」
「空が八咫烏を吐き出すまでは、離しませんよ。」
「でもっ!あのお医者の所までなんて絶対に間に合いません!」
「だからと言って、諦めたらあなたの命は無いんですよ。私はそんなの納得できません。だから連れて行きます。」
「無理ですよぅ。だって私と八咫烏様はフュージョンしちゃったんだから!」
空は泣きながら私に離してと懇願する。聞き分けの悪い子供を相手にしているかのような錯覚に陥る。
「いい加減にしなさいっ!!いつまでも駄々を捏ねる子供みたいに。
あなたも私に灼熱地獄跡の管理を任される身なら、それくらい聞き分けられなくてどうするんですか。
究極の力が無くたって、仕事はできます。それだけで、私も大助かりです。忘れましたか?行き過ぎた力や
暴力に身を任せるだけでは、いずれは我が身を滅ぼすだけですよ。それは、先の出来事であなた自身が一番分かっているはずです。
・・・融合ができたのなら、その逆もまた然りですよ、空。一人だけ、何とかしてくれるであろう人物に心当たりがあります。
これは私のわがままですから、私を恨んでくれて結構です。私が気に入らなければ、好きに生きるのも良いでしょう。
それでも少しだけ、私のエゴを通してくれるのなら・・・やはり空には私のペットであってほしい。私を信じて、空。」
空はぴたりと喚くことを止めた。
「さとり様はずるいです、嫌いになれるわけないのに。」
「私のような妖怪は狡く生きてこそです。さあ、行きますよ。」
「でも・・・。」
やはり、惨めだったあの頃に戻りたくはない、空の心はそう告げている気がした。
いつだったか、こいしに言われた。
「誰にでも、絶対に隠しておきたい本心があるんだよ。それを覗いて悟っちゃうのはこの上なく残酷だって、分かってる?」
私は気付かされた。人の心を覗いて弄ぶような真似をしていたのは、私自身の心と他人の心が衝突することを怖れていたからなのだと。
嫌われたくない一心で、さも空気を読んだかのような振りをしてこそこそと相手の心を読んでいた。
いつの間にか、自分の前で本心を隠そうとして隠しきれない者たちの、滑稽さを嘲笑うかのような話し方が身に染み付いていた。
その結果忌み嫌われ、自ら進んで嫌われ者としての生を選んだに等しかった。
嫌われる原因は第三の眼のもつ力だけではなかった。その力に溺れて驕っていた私自身もまた、一環であったのだ。
「空。一つ、約束しましょう。あなたの身体が元通りになったら、
私が強くなれるように取り計らいます。そうですね・・・鬼辺りにでも修行をつけてもらうのはどうですか?」
「え・・・本当ですか?」
「私はあなたに嘘をついたことはありませんよ。もっとも、あなたが落ち着いたらの話ですがね。」
さぁ、と今一度促すと今度は空も抵抗なく。さとりと連れ立って飛び立った。
漆黒の羽がひらひらと舞い、灼熱の業火が跡形も無くそれを呑み込んでいった。
◇ ◇ ◇
「全く、何を考えているんですか貴女たちはっ!よりによって核融合の力を司る八咫烏とその辺にいるような地獄鴉を融合させて、
その上ろくに制御もできずに暴走させるとは監督不行き届きにも程がありますよ、古明地さとりっ!
いかに廃獄と言えど何でもかんでも自由奔放に振舞う事を許した覚えはありません。」
閻魔様はフン、と鼻を鳴らして私たち二人を睨んでいる。正座しているさとり様の華奢な背中は、いつも以上に小さく見えた。
と、突然閻魔様は悔悟の棒を私にびしっと突きつける。
「貴女も貴女です。いずれはこうなることが分かっていたのでしょう?
貴女の得た力は並み大抵の事では扱いきれるものではありません。
ましてやそれを暴走させるなど言語道断。何故制御不能になる前に放棄してしまわなかったのですか。
下手をすれば幻想郷が滅んでいたかもしれないのですよ?そもそもまだ生きている者を裁くのは私の管轄外です。
間に合ったから良いようなものの・・・いいえ、良くありません。いいですか、そもそも核融合というのは―」
「ごめんなさい・・・。」
説教の原因を作った空はひたすらに肩身が狭い思いで縮こまっている。が、閻魔様がその程度で説教を切り上げるはずもなく、
小一時間たっぷりと小言を聞くはめになった。まぁそれでも、とさとりは思う。幸いにして閻魔様は直ぐに事態を理解し、
夜摩の判決を以って空を八咫烏から解放してくれた。その後くどくどと説教が始まったわけではあるけれど、
空を失わずに済んだ安心感からか、いくらでも聞いていられる気がする。
「聞いているのですか、古明地さとり!」
牽制が飛んできた。が、慌てて背筋を正すなどということはしない。
「えぇ、もちろんです閻魔様。小町とこれほど強い信頼関係を築けるなら、私も叱りになど行かずに済んで
もっと仕事が捗るのに、ですか。心配されずとも、築けていると思いますよ。あとは、閻魔様がもう少しだけ素直になれば良いのです。」
「なっ、ば、馬鹿にしてますねっ!?閻魔を虚仮にするとは良い度胸です。罪状に尻叩き100の刑も追加です!」
「ほう、随分と軽いのですね。その程度で良いのですか?」
困ったものだ、嫌われ癖の染み付いてしまった私はどうも、嫌味な喋り方に慣れてしまっている。そう思っているのに、クスリと笑いが漏れてしまう。
当の閻魔様は耳まで真っ赤にして、手に持つ悔悟の棒がフルフルと震えていた。
「ッッ・・・!本日はこれにて閉廷!古明地さとり。貴女に積める善行は、
他人の心に対して思いやりを持ち接することです。遠路遥々と再び戻るのは億劫でしょう、送って差し上げます。」
いつの間にか、空への判決ではなく私への忠告にすり替えてしまっている閻魔様は、震えた声で懐から一枚のスペルカードを取り出して宣言する。
審判『ラストジャッジメント』
私と空はご丁寧に地霊殿の方へ吹き飛ばされた。
「さとり様。」
吹き飛ぶ道中、空がぽつりと呟く。
「何です、空?」
「私、頑張って鬼より強くなります!」
「あら、頼もしいですね。期待していますよ。」
地霊殿の屋根が見えてきた。
数秒後には二人揃って頭から突っ込むのだろう、などと考えながら妹の帽子を目深に被り直し、さとりは不時着に備えるのだった。
Fin.?
後日談
永琳「はい、これで外科的処置はお終い。欠損した肉体を再生するために、たんぱく質の多い食事を心がけなさい。
それと、鉄分が不足しているみたいだから錠剤を出しておくわ。当分、湯浴みは禁止よ。身体を拭く程度に止めておきなさいね。」
さとり「たんぱく質・・・。」
永琳「大豆や、お肉なんかね。お肉って言っても、霜降りなんかは殆ど脂肪だからあんまり意味ないわよ?」
さとり「ふむ・・・人里で人肉でも買って帰るとしましょうか、空。」
空「さっすがさとり様!私の好物を分かってらっしゃいます!」
永琳「・・・。」
Fin.
そんなわけで、私は久しぶりに第三の眼をまともに使ってみたのだけれど、予想していた以上に事態は深刻だった。
結論から言うと、空は究極の力を制御しきれず、有り余って溢れ出ようとするエネルギーを外へ放出するため、
一日に三発、多ければ五発ほどの暴発を引き起こしていた。但し、本人にもどうしてこんな事になっているのかが理解できておらず、
せいぜいエネルギーの矛先を業火に包まれた廃獄に向けるくらいしか対処法が浮かばなかった。
さとりとしては、矛先が地霊殿に向かなかった点で空を褒めるに値すると考えたい所ではあるが、
究極の力を制御できないとなるとそうも楽観視していられない。八咫烏の力が暴走してしまえば、
地霊殿どころか幻想郷全土が吹き飛びかねない。したがって放っておくわけにもいかず、さとりは夕飯後に空を自室に呼んだ。
「なんですか、さとり様。」
「空、悩みがあるのでしょう?」
「うにゅ・・・分かってて言ってますね?さとり様に隠し事ができないってこと。」
最近は、そうでもないように思う。覚としての本分からは外れているものの、極力外へ出かける時などは
第三の眼を半眼にして出歩くものだから、誰かと会話するにしても相手が喜んでいるだとか、怒っている、
不思議がっているというような、漠然とした感情しか分からない。
だから、空相手に第三の眼ではっきりと心を読む事自体、久しかったのだ。
◆しきさまは PKサンダーγをこころみた!
「原因は明白よ。力とはそれ単体で暴れるもの。
御するならばそれ相応以上の能力が求められる。相応しくない力しか持てない者は、その代償にいずれ力に呑まれて身を滅ぼす。つまり―」
知識人はくるくると弄んでいた羽根ペンをぴたりと止める。
「このままだと、死ぬわよ。」
言葉が出ない空に、彼女は本へと視線を戻して言い放つ。
「助かりたいなら、今直ぐに核融合の力を放棄するのね。一介の妖怪が扱うには、強すぎる力よ、それは。」
空は縋るようにさとりを見る。しかしながらさとりとて空の持つ力を完全に理解出来ない以上、どうにもできない。
「何とかして、力を残す事はできないものですか?空本人が力を失いたくないと言うもので。」
「分かっているのでしょう?簡単に言えば、キャパシティオーバーなのよ。
既に完成してしまった器はそう簡単には拡げられない。もしも、八咫烏の力を操れる位にしようとするなら、
一度器を叩き壊してしまうしかない。これは魔力容量の拡張を試みて何人もの魔法使いが行い、
誰一人成し得ずに魔道を断たれた禁術に類されるもの。つまり、死と隣り合わせのリスクを負うわ。」
「・・・。」
自分よりも遥かにそういった分野に詳しいであろう魔女が言うならば、間違いないのだろう。
さとりは、空に冷たい現実を突き付けるより他になかった。
「空。仕方ありません、八咫烏の力を放棄しましょう。」
「待って、待って下さいさとり様。もう少しだけ、時間を下さい。」
「・・・タイムリミットはどれくらいですか、パチュリーさん?」
「難しい質問ね。その子の力にもよるけれど、保って五日という所かしら。
言っておくけれど、身体のどこか一部でもメルトダウンし始めたらいよいよ猶予は無いわよ。
そうなる前に、融合解除の決心をしなさい。メルトダウンが起こる前であれば、私でも何とかなるから。
それ以降は責任持てない。最終手段は永遠亭のアレな薬師だけれど、竹林で迷うでしょうし、まず間に合わないわね。」
かくして、空の余命は約三日と見積もられた。
さとりもまた、苦渋の決断を迫られることになる。
飼い主として空を見るならば、八咫烏の力を放棄するのが最善と考えられる。しかし空とて人形ではない。
それに本人も究極の力をえらく気に入っている。本当に空の事を考えてやれる、
と言える選択はどちらなのか、ろくに眠らず一晩中考え抜いたものの、果たしてまともな答えが出せるはずもなかった。
空は昨日からずっと、自身の力と格闘している。方法など知らない。成し遂げられるかも分からない。
けれども、空の中では諦めるという選択肢には、真っ先に斜線が引かれていた。
―空が嫌だと言うなら、強制はしません。空の意思を尊重します。
さとりはそれだけ伝えて踵を返し、広間へ逃げ帰って来たのだった。
我ながらひどく中途半端な、どっちつかずの情けない答えだと思う。
「分かんないなぁ、悩む必要無いじゃない。さっさとおくうから八咫烏を引っぺがしちゃえばいいのに。」
砂糖を四つも入れた紅茶を口へ運びながら答えるのはこいしの声。こいしは迷い無く、飼い主としての選択をした。
「あたいに訊かれても困っちゃいます。究極の力を失いたくないのも、さとり様に心配掛けたくないのも両方、きっと本心ですから。
ただまぁ、何と言いますか・・・もとは山の神様が、おくうに究極の力を与えてエネルギーを得ようとしたんですよね?
ちょっと、それが引っ掛かると言いますか、もしかしたら―」
「山の神の逆鱗に触れるかもしれない、ですか。」
お燐の言わんとする事にも一理ある。要は、空が八咫烏の力を放棄したところで、
どのみち空自身は危険であることに変わりはないのでは、と懸念しているのだ。
結局明白に答えを出せぬまま、三日が過ぎた。お燐を膝に乗せたまま読んでいたはずの本を、
知らぬ内にテーブルへ置きっぱなしにしたまま、さとりは頬杖の上で何度目になるか分からぬ溜息を吐く。
こいしはいよいよ我慢ならなくなり、抱いていたクッションをソファにぼふっと投げやって立ち上がった。
「お姉ちゃんって、酷いひとだよね。」
「こいし。分かるように、言ってくれないかしら。」
つかつかと歩み寄ってくるこいしに気圧されながら、宥めるように紡ぎ出した。
嫌な汗が背中から噴き出す。どういうわけか、こいしは怒っているようだ。
「分かってて言ってるんでしょ。おくうに表裏なんて無くて、
本当にお姉ちゃんを敬愛してるからああ言ってることも。それって、逃げだよね。
だって、おくうと神様の力・・・ううん、おくうと山の神様の鉄鎚を天秤に掛けておきながら、答えを出さずに投げ出してるだけだもの。」
「・・・私は・・・。」
神様の制裁なんて怖くない、と続けられなかった。
「ほら、迷ってる。言えないんだよ。無意識の深層で、本当は山の神を畏れてるから。」
「違う・・・違うの。」
「何が違うの?そりゃ、私だって神様に勝てるかなんて分からないよ。
でも本当におくうを大切に思ってるなら、勝てなくたって挑むよ。」
「そんな真似をしても、仕方ありません。それよりも、空の身体をどうするか・・・」
「やっぱ馬鹿だよね。私が言ってるのはそういう事じゃない。おくうの言った事、覚えてないの?」
「覚えていますよ。『私が究極の力を失ったら、さとり様を守れなくなるから、それだけは嫌だ』と言っていましたね。」
「じゃあさ、おくうはどうしてそれだけは嫌だって言ったんだと思う?」
「言葉通りじゃないですか。究極の力が使えなくなるのは困る、そういう事でしょう。」
はぁ~、と長い長い溜息一つ、こいしはかぶりを振る。
「お姉ちゃんはおくうに守ってもらえなきゃ生きて行けない、
地底の妖怪共に殺されちゃうようなやつなの?そんなのの妹だなんて、私が情けないんだけど。」
がっ、と胸倉を掴まれて吐き捨てられた辛辣な妹の言葉に、瞳に呑み込まれる。
そして、無意識の奥底に封じられていたさとり自身のトラウマが色彩を帯びる。
覚としての力を未だ持たない妹を守る為に、かつて幾つもの命を奪って生きてきた。
いつしか迫害され、致命的な傷を負わされた事など数え切れない。
戦闘が苦手な覚妖怪は、自分達を殺そうとした何百という人間の心を壊してきた。
その報いか、妹の心が壊れかけた。
その力故に、妖怪・怨霊にすら畏怖され、自分に近寄ろうとすらしなかった。
閻魔様だけは私を毛嫌いすることもせずに接してくれた。
けれど、詰まるところは誰からも好意を持ってはもらえなかったのだ。
だから、地底ならば好いてくれる相手がいるなどとは、欠片も期待していなかった。
見事にその予想は裏切られた。だからこそ願ってしまう。
このささやかな幸福よ、永遠であれと。
「お姉ちゃんは自分が山の神を恐れてるんじゃない。
逆鱗に触れて、私達に害が及ぶのを恐れてるんでしょ?おくうが嫌がってるからなんて、そんなの嘘でしょ?都合の良い言い訳でしょ?」
漂う幻覚の中、何処からともなくこいしの声。喉が干涸びて、言葉が紡げない。鉄パイプでがつんと殴られたように、頭がくらくらする。
「飼い主としてとかじゃなくてさ。古明地さとりとして、おくうと向き合ってあげなよ。私も強くなった。お燐だって居る。
今はもう、地霊殿を護るのはお姉ちゃん独りじゃないんだよ。そんな事で制裁加えようとする神様なんて、私がぶちのめしてあげる。」
そういう、ことだったのだ。私は神様を恐れたんじゃない、
空はもちろん、こいしやペット達の居る地霊殿、この安息の地を失うのが怖かったのだ。
こいしは飼い主としての選択をしたんじゃない。
古明地こいし個人として、空にどうして欲しいかを述べたに過ぎないのだ。
「さぁ、私にできるのはここまで。あとはお姉ちゃんとおくうの問題だよ。」
私はいつまで経っても変わらず、自分を主張できないただの臆病者だった。
パチン!と何かが弾けるような音と同時に激しい地震が地霊殿を揺らし、直立を保てずに尻餅をつき、我に返る。
立つに立てず、ようやく収まってから立ち上がる。白磁のティーカップがいくつか粉々になっている以外はいつもと変わらない地霊殿。
こいしの姿は無かった。が、先ほどの地震、もしかすると。
ふと目をやると目の前のテーブルには、黄色いリボンが印象強い、こいしの黒帽子。僅かに幼さの残る字で、
『貸してあげる。お姉ちゃんにエゴの恩恵がありますように。』
とメモが添えられている。さとりは帽子を手に取り、胸に掻き抱いて深呼吸を一つ。
決心はついた。
わがままは百も承知であるが、やはりこんなところで空を失いたくない。
帽子を被って、灼熱地獄跡へ続く扉の前に立つ。速くなっていく鼓動を、仄かなこいしの香りが静めてくれた。
そしてさとりは意を決し、扉を開く。
姉が吸い込まれていった扉に寄り掛かって呟く。
―おくうに嫌われる心配なんて、最初からしなくて良かったんだよ。
知らないでしょ、おくうがあんなに素直に甘える相手って、お姉ちゃんだけなんだよ?私には、あんな顔を見せてくれないもの。
すうっと肺一杯に、酸素を吸い込む。
「空っ!!」
さとりの吐き出した音波は、陽炎を切り裂いて空の鼓膜を激しく揺らし、空は僅かな驚きと、深い憂鬱の入り混じった顔でふらふらとやって来る。
「どうしたんですさとり様。血相変えて。第三の眼、閉じてますよ?」
それは、わざと。
「空、もう、無理しなくていいんですよ。八咫烏の力を、返しましょう。」
「嫌です。」
「大丈夫。あなたが究極の力を持たなくても、私は居なくなったりしません。」
「違う、違います。分かってました。私がさとり様を守る必要なんて無いって。」
「なら何が、嫌なの?」
「・・・私は元々大した力も無い地獄鴉でした。だから、揉め事になっても地底の妖怪達にはてんで敵わなかったし、
拾われてからはさとり様に守られて生きてきました。だから、究極の力を授かった時、本当に嬉しかった。
これでさとり様に恩返しできる。悔しい思いをしなくてすむ。さとり様を酷い目に合わせた地上のやつらを、同じ目に合わせてやれるって。」
空はしゃくり上げるのを、必死に抑えながら続ける。
「でも、こんな事になっちゃって。分かってます。このままだと、化け物になっちゃうのは。
かといって、またさとり様に縋らなきゃ生きられないあの頃に戻ると思うと、ひどく惨めで・・・っ!」
ぼやけた視界を取り戻そうと、制御棒があるはずの右手で涙を拭う。
「空、その手・・・!」
息を呑んだ。おそらく空の双眸には、思わずぎょっとした古明地さとりの貌が生々しく映っているに違いない。
空の右腕は制御棒が無く、肉がメルトダウンして赤く爛れ、所々骨が覗いている。ボコボコと沸騰した血が爆ぜては垂れ、醜悪を極めていた。
空は渇いた笑顔で弱々しく返す。眼の下に、べったりと紅い血。
「あは・・・はは・・・。遂にここまで、来ちゃったんです。
正直、引きましたよね?だってこんなの、キモチワルイですもん。
なんでかなぁ・・・このままだと身体全部がこうなっちゃうって分かってるのに。」
「・・・空。右手がそうなるまでに、どれくらい掛かりましたか?」
「さぁ、どのくらいでしょう・・・多分、あと二刻もすれば―」
突然さとりは空の右手首を掴んだ。じゅっ、と肉の焼ける音と痛みに顔を顰める間もなく、空を引っ張って駆け出す。
「!?ダメですさとり様!!そんなことをしたら私どころかさとり様までっ!」
「空が八咫烏を吐き出すまでは、離しませんよ。」
「でもっ!あのお医者の所までなんて絶対に間に合いません!」
「だからと言って、諦めたらあなたの命は無いんですよ。私はそんなの納得できません。だから連れて行きます。」
「無理ですよぅ。だって私と八咫烏様はフュージョンしちゃったんだから!」
空は泣きながら私に離してと懇願する。聞き分けの悪い子供を相手にしているかのような錯覚に陥る。
「いい加減にしなさいっ!!いつまでも駄々を捏ねる子供みたいに。
あなたも私に灼熱地獄跡の管理を任される身なら、それくらい聞き分けられなくてどうするんですか。
究極の力が無くたって、仕事はできます。それだけで、私も大助かりです。忘れましたか?行き過ぎた力や
暴力に身を任せるだけでは、いずれは我が身を滅ぼすだけですよ。それは、先の出来事であなた自身が一番分かっているはずです。
・・・融合ができたのなら、その逆もまた然りですよ、空。一人だけ、何とかしてくれるであろう人物に心当たりがあります。
これは私のわがままですから、私を恨んでくれて結構です。私が気に入らなければ、好きに生きるのも良いでしょう。
それでも少しだけ、私のエゴを通してくれるのなら・・・やはり空には私のペットであってほしい。私を信じて、空。」
空はぴたりと喚くことを止めた。
「さとり様はずるいです、嫌いになれるわけないのに。」
「私のような妖怪は狡く生きてこそです。さあ、行きますよ。」
「でも・・・。」
やはり、惨めだったあの頃に戻りたくはない、空の心はそう告げている気がした。
いつだったか、こいしに言われた。
「誰にでも、絶対に隠しておきたい本心があるんだよ。それを覗いて悟っちゃうのはこの上なく残酷だって、分かってる?」
私は気付かされた。人の心を覗いて弄ぶような真似をしていたのは、私自身の心と他人の心が衝突することを怖れていたからなのだと。
嫌われたくない一心で、さも空気を読んだかのような振りをしてこそこそと相手の心を読んでいた。
いつの間にか、自分の前で本心を隠そうとして隠しきれない者たちの、滑稽さを嘲笑うかのような話し方が身に染み付いていた。
その結果忌み嫌われ、自ら進んで嫌われ者としての生を選んだに等しかった。
嫌われる原因は第三の眼のもつ力だけではなかった。その力に溺れて驕っていた私自身もまた、一環であったのだ。
「空。一つ、約束しましょう。あなたの身体が元通りになったら、
私が強くなれるように取り計らいます。そうですね・・・鬼辺りにでも修行をつけてもらうのはどうですか?」
「え・・・本当ですか?」
「私はあなたに嘘をついたことはありませんよ。もっとも、あなたが落ち着いたらの話ですがね。」
さぁ、と今一度促すと今度は空も抵抗なく。さとりと連れ立って飛び立った。
漆黒の羽がひらひらと舞い、灼熱の業火が跡形も無くそれを呑み込んでいった。
◇ ◇ ◇
「全く、何を考えているんですか貴女たちはっ!よりによって核融合の力を司る八咫烏とその辺にいるような地獄鴉を融合させて、
その上ろくに制御もできずに暴走させるとは監督不行き届きにも程がありますよ、古明地さとりっ!
いかに廃獄と言えど何でもかんでも自由奔放に振舞う事を許した覚えはありません。」
閻魔様はフン、と鼻を鳴らして私たち二人を睨んでいる。正座しているさとり様の華奢な背中は、いつも以上に小さく見えた。
と、突然閻魔様は悔悟の棒を私にびしっと突きつける。
「貴女も貴女です。いずれはこうなることが分かっていたのでしょう?
貴女の得た力は並み大抵の事では扱いきれるものではありません。
ましてやそれを暴走させるなど言語道断。何故制御不能になる前に放棄してしまわなかったのですか。
下手をすれば幻想郷が滅んでいたかもしれないのですよ?そもそもまだ生きている者を裁くのは私の管轄外です。
間に合ったから良いようなものの・・・いいえ、良くありません。いいですか、そもそも核融合というのは―」
「ごめんなさい・・・。」
説教の原因を作った空はひたすらに肩身が狭い思いで縮こまっている。が、閻魔様がその程度で説教を切り上げるはずもなく、
小一時間たっぷりと小言を聞くはめになった。まぁそれでも、とさとりは思う。幸いにして閻魔様は直ぐに事態を理解し、
夜摩の判決を以って空を八咫烏から解放してくれた。その後くどくどと説教が始まったわけではあるけれど、
空を失わずに済んだ安心感からか、いくらでも聞いていられる気がする。
「聞いているのですか、古明地さとり!」
牽制が飛んできた。が、慌てて背筋を正すなどということはしない。
「えぇ、もちろんです閻魔様。小町とこれほど強い信頼関係を築けるなら、私も叱りになど行かずに済んで
もっと仕事が捗るのに、ですか。心配されずとも、築けていると思いますよ。あとは、閻魔様がもう少しだけ素直になれば良いのです。」
「なっ、ば、馬鹿にしてますねっ!?閻魔を虚仮にするとは良い度胸です。罪状に尻叩き100の刑も追加です!」
「ほう、随分と軽いのですね。その程度で良いのですか?」
困ったものだ、嫌われ癖の染み付いてしまった私はどうも、嫌味な喋り方に慣れてしまっている。そう思っているのに、クスリと笑いが漏れてしまう。
当の閻魔様は耳まで真っ赤にして、手に持つ悔悟の棒がフルフルと震えていた。
「ッッ・・・!本日はこれにて閉廷!古明地さとり。貴女に積める善行は、
他人の心に対して思いやりを持ち接することです。遠路遥々と再び戻るのは億劫でしょう、送って差し上げます。」
いつの間にか、空への判決ではなく私への忠告にすり替えてしまっている閻魔様は、震えた声で懐から一枚のスペルカードを取り出して宣言する。
審判『ラストジャッジメント』
私と空はご丁寧に地霊殿の方へ吹き飛ばされた。
「さとり様。」
吹き飛ぶ道中、空がぽつりと呟く。
「何です、空?」
「私、頑張って鬼より強くなります!」
「あら、頼もしいですね。期待していますよ。」
地霊殿の屋根が見えてきた。
数秒後には二人揃って頭から突っ込むのだろう、などと考えながら妹の帽子を目深に被り直し、さとりは不時着に備えるのだった。
Fin.?
後日談
永琳「はい、これで外科的処置はお終い。欠損した肉体を再生するために、たんぱく質の多い食事を心がけなさい。
それと、鉄分が不足しているみたいだから錠剤を出しておくわ。当分、湯浴みは禁止よ。身体を拭く程度に止めておきなさいね。」
さとり「たんぱく質・・・。」
永琳「大豆や、お肉なんかね。お肉って言っても、霜降りなんかは殆ど脂肪だからあんまり意味ないわよ?」
さとり「ふむ・・・人里で人肉でも買って帰るとしましょうか、空。」
空「さっすがさとり様!私の好物を分かってらっしゃいます!」
永琳「・・・。」
Fin.
きっちり纏まりましたね。にしても、地獄鴉自体のポテンシャルってどんなものなのだろう?
後お空は犬肉にしときなさいw
空がええ子や
映姫もカンカンになってますけどこの場合の責任の所在ってどう見てもさとりじゃなくて神奈子じゃないですかね?
しびれるまで正座するべき
実は核融合って核分裂とは違ってメルトダウンとか暴走は起こりえないそうなのですが、
スペルカードにもあるし、ということできっと空は核分裂も使えるんじゃないだろうか。
その辺の解釈は人それぞれですよね。
>1氏
その辺は何とも言えないのですが、まぁ操るには骨が折れる力なんじゃないかというのが
元々の発想でした。人肉ってこれじゃ夜雀みたいですねぇ。
>3氏
そんなイメージがあります、はい。
失敗だったなぁ、とかそんな程度で。
>4氏
地霊殿の設定を無視するつもりでは無かったのですが、そうなっていた部分があれば
ご指摘頂けるとありがたいです。えーきさまが怒っているのは神様の所業に対してではなく
さとりがそれを知りながらペットの管理が怠慢気味だった事に対して無責任だ、という理由だったのですが
言葉足らずだったようです、申し訳ありません。
>9氏
きっと神様を叱れるのは閻魔様だけのような気がします。
いや、それでも立場は対等なのかも?
>10氏
悪戯の種を蒔いたのはあいつなのに、なんで自分が叱られるんだ!みたいな心情ですね。
同じ悪戯をしていて片方がバレて叱られ、もう片方は素知らぬ顔を決め込んでいるような。
>11氏
人里で人肉を求める辺りが、さとりさんの抜けている所だと思いたい・・・!
>12氏
バイオ自体はプレイした事は無いのですが、Gは・・・グロかったなぁ。