Coolier - 新生・東方創想話

御日様のあまい蜜

2009/06/07 07:19:55
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「お日さまのこぼした涙みたいでしょ」
 言ってから幽香は、しまったと思う。ついつられて、この私が、お日さまなどと。
 手にしたスプーンからガラスの小皿に、ひたひたと黄金の帯が垂れる。つやつやと瞬いて、右に左に折りたたまれていく。
「これは、ラベンダーね」
 うつほ、と彼女は名乗った。空と書くのだろう。
 幽香がスプーンを引っ込めるが早いか、ひったくられた小皿は狩人の瞳に見つめられる。あっという間に舐め取られる黄金色の堆積。
「あっまーい!」
「香りが豊かでしょう。……って、もうなくなったの。じゃあ次はこれね。クローバー」
 少し結晶化したところをこそげ取り、皿にこすりつける。
「すっきりして、ほのかな酸味が」
「あっまーい!」
 皿をも砕かん勢いだ。幽香はため息をつき、柄の長いスプーンの先をふき取った。
「だから、水でも飲んで舌を洗わないと、味の違いなんてわからないでしょ?」
「おかわり!」
 突き出された皿が幽香のベストの胸元をぐいと押す。手にした大ぶりの瓶を、幽香は迷わず振り下ろした。
「あいた! 痛いよー、なにすんのよ」
「五月蝿い。食べ比べをしてみたいって言い出したのは誰? あんたを餌付けする義理なんて、私にはないのよ」
 おでこをさすりさすり見上げた顔が、瓶の蓋を開け始めた幽香に、ぱぁっと明るくなる。
「じゃあ、次はこれね。ソバ。黒みがかっているでしょう? 独特のくせとにおいがあるわ。ちゃんと味わいなさいよ?」
 受け取った皿を今度は一呼吸おいてからぺろりと舐める。舌を引っ込め、首をひねり、目をぱちくりさせて、空は神妙にうつむく。
「どうかしら?」
「あっまーい!」
 二度目のため息に、向日葵が揺れた。


 
 午後になり、風が山腹を撫ではじめる。
 それでも、まだ暑い。向日葵畑は一面、まるで音もなく燃えているかのようだ。
「暑いね、ゆうか」
「どうもさっきから、平仮名で呼ばれている気がするのよねえ……」
 ささやかに湧く泉を隠すように欅が枝をさしかけ、その影の下に急勾配の赤屋根が顔を出している。建物より大きなバルコニーの張り出したこの家は、花とともに移ろう幽香の仮住まいだ。
「灼熱地獄にくらべれば地上の暑さなんて、大したことないと思ってたのになー」
 長いすにだらしなく寝そべり、手足を放り出して、大きな黒い羽をばさばさ揺らす。鴉の妖怪らしいが、赤い舌を唇からのぞかせて息をついているさまは、まるで犬だ。
「これが、太陽の暑さよ」
「お日さま?」
 ごろり仰向けになった緑のスカートに、木漏れ日がまだら模様をつくる。少しはだけた腿と膝の肉付きといい、豊かな黒髪といい、細めた目つきと相まって、黙っていればそれなりに大人びている。
「お日さま……」
 黙っていれば。
「鴉。これを飲みなさい。蜂蜜が入ってるわ」
 跳ね起きた瞳がらんらんと、窓枠に並べて置かれたガラス瓶の列を撫で回す。対面に腰をおろして幽香は苦笑した。一通り食べさせて、蜂蜜についての講釈を垂れたあとだ。
 氷室の氷を放り込んだグラスはすでに大汗をかいている。大事そうに両手で抱えて一口すすった空と、しばし見つめあう。さて、わかるかしら?
「……レンゲじゃない?」
「よくわかったわね。大したもんだわ」
 本音である。確かに蓮華の蜜だが、それに柚子を漬けこんだシロップを水でといたジュースだから、まずわからないだろうとたかをくくっていたのだ。
「おいしい」んぐんぐと喉を鳴らし、「蜜蜂ってえらいのね」とからっぽになったグラスを拭った手のひらを、首筋にぺたりと這わせる。
 咲き始めの蕾のように、可憐な指をしているものだと。神の火とやらを握りしめているくせに。
「そうよ鴉。あんたなんかよりずっと働き者なんだから。花が咲いている間、彼女たちは飛び続けるの。太陽の熱を力に変え、光で方位を知ってね」
「熱と光かあ。それだけじゃちょっと、お腹がすきそうだね」
 けれども空には、幽香の眼差しも、名前で呼ばれないことも、まるで気にとめる様子はない。


     -----


 風もなく、雨も降らない上天気なら、花の盛りの向日葵は、めっぽうお喋りだ。
 日が昇ってまだ涼しい頃合、北の斜面に咲く花たちが一斉にざわめいたのが、バルコニーに居た幽香の耳に届いた。
 見上げれば案の定、かなりの速度で近づいてくる影がある。何者か、と幽香が目を凝らすより早く、
「へえ! 地面が真っ黄色だわ。こんなところあったのね。もしかして私が発見第一号かな?」
 声が聞こえてぎらり、朝日をはじいた黒い翼が急降下してくる。
「あはは、これ全部花なんだ! 一番乗りー!」
 地面にぶつかる寸前でぐいと身をひねり、翼をそびやかし疾走する。勢いで左右の向日葵が大きくしなる。
 バルコニーの手すりに足をかけ、幽香は思い切り宙に舞った。
「あ?」
 突然、目の前に現れた幽香に、半笑いの空の表情が固まる。たたんだ日傘を、飛んできた勢いのまま、袈裟懸けに振りぬいた。
「ぶぎゃ!」
 土くれがはじける。舞い上がる埃を避けて幽香は高度を上げる。畑の小道に半ば埋まってもがいていた影が、ぶるりと跳ね起きた。
「いきなりなにすんのよ!」
 真っ赤な顔が飛び出してきた。ゆっくり日傘を広げて見おろしてやる。その時点で空について、幽香はある程度見当がついていた。神社に温泉が湧いた冬の騒動のあと、巫女の話に出てきた妖怪がいたのだ。
「それはこちらの台詞。抗議していいのはお前じゃない、向日葵たちよ。あんな飛び方をしたら折れてしまうわ」
「あんた何者よ!」
 日傘の影で、幽香は息を呑む。
 左手をかかげた空の周囲に力が集う。陽炎のように空間がゆれ、いびつな風が結集する。左の足首を不吉な火花が取り巻き、右の足首は不恰好な石の靴に覆われる。そして右手は、腕の先に腕を継いだように伸びて、さらに膨らみ、ギラリと金属の照り返しを帯びた。
「……みっともない」
「なんだって?」
 胸元にのぞく眼のような球体が、陰気な光を宿す。わずかな緊張に、幽香は舌なめずりした。
「なんてみっともない姿なの。まったく今時の妖怪ときたら。自分の姿を鏡に映したことはないのかしらね」
 強い相手だ。ちょっとした小手調べでも、厄介なことになるかもしれない。――そう思いつつ、幽香は挑発をやめられない。
「私は幽香。花に頼んで、この太陽の畑に住まわせてもらっているわ。ここでは、花の意思が何より優先される」
「ゆうか? 太陽の畑?」
「危ないから近寄るなって巫女に教わらなかったかしら? お馬鹿さん」
「なにを、私だって地底のお日さまなんだっ!」
 髪を振り乱し、長大な右手に空は力をこめる。凄絶に目が吊り上がり、圧縮された空気が爆発的な火炎を生み出す。向日葵に隠れた妖精たちが一斉に逃げ出す。得意満面で空は、燃え盛る火球を瞳に映して。
 いきなり、くしゃりとその眉が垂れ下がった。
「え、なに、なによ?」
 幽香は戸惑う。怒りのオーラもどこかへ打ち捨てて、空は不安げに羽を縮めていた。
「どうしよう。本気の火の玉、燃やしちゃいけないんだった。さとり様におこられちゃう」
 肩をふるわせて、目には涙まで浮かんでいる。その頭上に揺らぐ地獄の火の玉。やがてそれがゆっくりと、向日葵畑へ落ちかかる。
「ご飯抜きかなあ……」
「ああ、もう!」
 指をくわえてぶつぶつ言い出した空の後ろを落ちていく火球めがけ、幽香は日傘を振り向けざま、方向を定めただけの原始の魔力を、全力で放った。



 地の底は、幽香には縁のない場所だった。巫女たちの土産話にも、ろくに興味は湧かなかった。花が誘えば幽香は、三途の此岸にも出かけていく。お呼びがかからないのは、そこはきっと花が咲かないのか、幽香の知らない仕組みで生きる植物ばかりなのか、どちらかなのだろう。どちらにせよ、用はない。
「ゆうか。ここの花一本持ち帰ってもいい? さとり様に見せてあげたい」
 それは太陽の力だと空は言った。山の神が未知の力を地底の妖怪に与えたと、巫女も話していた。幽香は信じていない。こんなちっぽけな鴉の体に収めるには、天に輝く星は大きすぎる。
「花は一輪と数える。構わないけれど、あんたの主は覚なのでしょう」
「うん」
「なら、あんたがしっかり花の姿を覚えて帰れば、同じことよ。覚はあんたの心の花を見る。花も折らずにすむわ」
「そうかー。そうかも」
 二杯目の柚子シロップジュースを飲み干した空は、グラスを置いて手すりを飛び越え、向日葵畑を歩いていく。金色の花びらが、火の粉のようにその背を包む。暢気な鼻歌が遠くなっていく。
 おぞましい姿だったと思う。
 あまりに不調和で、不自然だった。
 火球を消し去った幽香に、一転して空は親しみを浮かべた。「ゆうか」と馴れ馴れしく呼んで、向日葵をしげしげと眺め、蜂蜜の瓶に「なになに?」と目を輝かせた。無骨な鎧はその手足から消えている。おびただしいエネルギーの気配が途切れたことが、かえって彼女の持つ潜在的な力の大きさを示していた。
 太陽と同じとは信じない。しかしなりふり構わない力の奔流は確かに感じた。強くなるために手段を選ばないのは、妖怪のやり方ではない。少なくとも幽香はそう思っている。強くあるより強く見せかけることの方が大切なのだ。
 日傘を開いて、幽香は日差しに歩み出た。
 お気楽娘の姿はとっくに見えない。けれども、どこにいるかはすぐに分かる。彼女の周囲では向日葵が沈黙する。妖精は葉影にかくれ、蜜蜂たちは迂回して飛ぶ。
 まるで人間のように疎まれている。おそらく、本人も知らぬ間に。
 日傘をくるりと回す。傘の裏地に眩しさを濾された太陽が、真昼の月のように浮かんでいる。にぎやかな日差しが縦横に飛び交い、向日葵畑はひどく静かだった。
 幽香は傘の柄を握りしめた。頑丈な木材がみしりと鳴り、指先が白く変わる。急にわきあがった正体不明な怒りに、幽香は戸惑っていた。
 ――神だかなんだか知らないが。
 ひとしずくの汗が落ち、足元のくっきりした影に吸い込まれていくまで、幽香はじっと見つめていた。
 暢気な鼻歌が聞こえなくなっている。
 ふわり浮き上がって花の列を飛び越える。空は、大きな翼で己を包むようにして、しゃがみこんでいた。
「どうしたのよ」
 声をかけると、赤らんだ鼻がすん、と応えた。
「なんでも、ないよ」
「迷ったのね」
「……だってどっち向いても同じ花ばっかりなんだもん」
 立ち上がった空の目線は、幽香よりも少し高かった。日傘を差しかけてやる。
「道なんて気にしないで突き進むでしょ、あんたは」
「花を折ったら、ゆうか怒るでしょ」
「まあ、半分くらい殺すわね。というか、飛びなさいよ」
「あ、そっか」
 髪のリボンがほどけそうな勢いで頭をかく。その鼻先に気まぐれか、一匹の蜜蜂がふと立ち止まり、丸い尻を振ってから飛び去っていく。
「私、地上を焼かないでよかった。蜂蜜、食べられなくなっちゃうもんね」
 不思議なものだと思う。蜜の名残りを惜しむように舌なめずりする空を見ていると、日頃から彼女を囲んでいるだろう連中のことが、想像できる。関心のなかった地底という場所も、魅力的に思えてくるのだ。
「そんな気でいたの。まあ安心なさい。もう一度そんなことをやろうとしても、完膚なきまでに私が叩き潰してあげるから。二度と地上のお日さまを拝みたくないと思うくらいにね」
 怖がらせたつもりで、またお日さまだ。どうも調子が出ない。
 幸いろくに聞いていなかった様子の空は、向日葵の平べったい顔を撫で回して、ざらざらしてるー、と歓声をあげていた。



 西の森に太陽のふちがかかる。小鳥が巣へと飛び、思い出したようにひぐらしが鳴き始める。
「あれも、お日さまだよね?」
 空は地平線に指をさす。天頂にあったころより、夕陽は見た目ずっと大きくなるから、不思議なのだろう。
「他のなんだというのよ」
「あれも、お日さま……」
「夕日を見たことないの」
「あるよー。大きさが変わるから、いつも不思議なのよね」
 昼間の光をたっぷりたくわえて頭を垂れた向日葵の間を、空はふらふら歩いていく。その向こうに、細い雲をしたがえ、輪郭の崩れた火の玉が沈んでいく。まる一日燃え続けた、それは焼け爛れた動輪だ。
「……鴉?」
 またいびつな風が吹いたのかと思った。しかし、太陽を見つめつづける空の周囲に力が集う様子はなく、その背中は布団から起きた病人のように弱弱しい。
「あのね。たまに思うんだ。あそこまで飛んでいきたいって思うの。お日さまのところまで」
 横に並んだ幽香にも、空は気づかぬ様子だった。
「お日さまと、一緒になっちゃいたいって。神様に力を貰ってからね、本当にときどき、すごく強く思うときがあるの。こうやって、大きなお日さまを見ていると……。ゆうかは、そんなことない?」
「ないわね」
 はるか昔に読んだ人間の物語を、幽香は思い出している。蝋でくっつけた羽で空を飛んだ親子の話だ。忠告を聞かず息子は太陽に近づきすぎてしまう。蝋が溶けて羽が剥がれ、息子は海に落ちて死ぬ。
 人間というのは、まあなんと馬鹿なのだろうと、そのぐらいの感想しか持たなかったことを覚えている。
「怖いの。お日さまに飛び込むのが怖いんじゃないけど、なにもかも忘れちゃいそうで、それが」
 夕陽はすでに半円に没している。それは夕空に開いた巨大な口のように、幽香には思えた。赤みを増した光は色水のように、幽香と空の全身をべったりと塗りこめている。
「知ったこっちゃないわね」
 幽香はつかつかとバルコニーに歩き、戸棚の引き出しから小さな陶製の小瓶を探し出す。
「もしもあんたが太陽とひとつになっても」窓際に並んだ瓶の一つを選び、蓋をあけた。「花と私たちはつつしんで、その恩恵を分けてもらうだけ」
「つめたいなあ」
 ゆるい階段に足をかけて翼をひらき、腕組みした空が片目をつぶる。
「まあ、その野暮ったい羽じゃあね。どうせお日さまに届く前に燃え尽きるのがオチよ。安心なさい」
 ああまただ。もういい、もう気にしないと幽香は自棄になる。
「なに、これ」
 顔先に突き出された小瓶を受け取ると、空はまず匂いをかいだ。
「あ、蜂蜜だ! くれるの?」
「それは向日葵の蜜。他のはすべて、虫の妖怪に頼んで集めてもらったものだけど、それは私が直接、蜂に分けてもらったのよ」
「やった、ありがとー!」
「帰る途中で舐め尽したりするんじゃないわよ」
「うん、お燐にもあげる! じゃあね!」
 漆黒の翼がみなぎり、空気が揺れたかと思うと、小さな影はもう、向日葵畑を見下ろす丘の上を飛んでいた。夕陽と反対の方角に、とけるように消えていく。
「やれやれ」
 小さなため息をついて、幽香は階段に腰をかけた。
 影と光が混じり、すべてが青くなる時間。特に夏なら、幽香のもっとも落ち着ける時間帯だった。
 けれども今日は、少しばかり心に気泡が浮いている。やがてゆっくりと抜けて穏やかな水面が現れると、わかってはいるが。


 もしもいつか、彼女が無謀なこころみに敗れて、散り散りになった羽根を撒き散らし、落ちてくる日が来たとしても。
 太陽を背にして、まっしぐらに落ちてきたとしても。
 失敗の苦痛にわななくその身体を、下で待ち構えて、抱きとめてやるくらいはしてやってもいい。
 幽香はそう思っている。

 ――まあ、たまたま通りがかりでもしたら、の話だけどね。






<了>
暑くなる前から暑い話ですみません。
優しいゆうかりんは好きですか? 私は好きです、踏まれる次くらいには。

お読みいただき、ありがとうございました!
鹿路
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コメント



0.3000簡易評価
5.100名前が無い程度の能力削除
やさしげな甘みのお話でした
お空の可愛さがもう……
16.90名前が無い程度の能力削除
おっきくて(幽香さんより背が高い♪)おバカなお空が可愛い可愛い。
そして‥、
私も鹿路さま同様M属性ですので幽香さんに踏まれるなら本望ですが、
そうした願望を差し引いても、
お空に負けず劣らず幽香さんが可愛いです。

> 強くなるために手段を選ばないのは、妖怪のやり方ではない。
> 少なくとも幽香はそう思っている。
> 強くあるより強く見せかけることの方が大切なのだ。

‥普段の幽香さんのASC(アルティメット・サディスティック・クリーチャー)ぶりは、
それゆえなんでしょうか?

ソバの蜂蜜はくせがあるけど美味しいですよねー。
18.100名前が無い程度の能力削除
これは良いものを読ませてもらった。
22.無評価名前が無い程度の能力削除
16ですが、すみません。誤字です。ASCじゃなくUSCですね。
25.100名前が無い程度の能力削除
あっまーい
34.100名前が無い程度の能力削除
良い姐御肌だ。
39.無評価鹿路削除
お付き合いいただきありがとうございます!
お空を可愛いと思っていただけたのなら、とても嬉しいです。

>>16
東方一次の、あの煙に巻かれるような言い回しを目指したかった……というのが大半の動機です。この幽香も別の機会には、なりふり構わないかもしれませんね。大妖としてかくあるべき、とか案外考えているのかもしれませんが……。
40.100名前が無い程度の能力削除
なんて斬新な組み合わせ。
それでいて、



あっまーい!
41.100名前が無い程度の能力削除
>日傘をくるりと回す。傘の裏地に眩しさを濾された太陽が、
>真昼の月のように浮かんでいる。にぎやかな日差しが縦横に飛び交い、
>向日葵畑はひどく静かだった。

お見事です。こういうあっさりと書きつづられた素直な文章にどれだけの文体の妙が隠されているかと思うと驚嘆の念が禁じえません。

「裏地に眩しさを濾された」という表現がまず良いですよね。日傘の生地の厚さが眼前に浮かびますし、それでも透けてみえるほどの陽射しの強さが「真昼の月」という端的で詩的な言葉で表わされていて、視点人物が暑さへ感じているいらだちが伝わってきます(そうしてまたそのいらだちが「――神だかなんだか知らないが」に繋がっているという)。
さらには「縦横に飛び交うにぎやかな日差し」であっさりと日傘の投げかける影の外で乱反射する光の強さも提示し、「向日葵畑はひどく静かだった」という文章で「にぎやかな日差し」という比喩表現を受け止めて、なおかつ実際の静けさも描写しているというこの凄さ。

文体は世界の切り取りかた、作者による世界の提示の仕方だと思うので、キャラクターもストーリーも全てこの文体の上にあるのだと思います。その文体の醸しだす雰囲気に重きを置かれたこの作品はだから他の人には決して書けない作品で、その意味でこれは「エンターテイメント小説」ではなくて「文学」なのではないかと思いました。
こんなレベルの透徹した文体が読めるとは思いませんでした。ありがとうございます。
45.100名前が無い程度の能力削除
とても上手です。
ちょっとかなわないなあ。おもしろい。
55.100名前が無い程度の能力削除
自然レベルで避けられる空が可哀想です。
そりゃ太陽の力なんて、どこであっても過剰だわなあ……
58.100名前が無い程度の能力削除
花が太陽を嫌うなんてできないのですね。
67.100euclid削除
キャラクターの一人一人を見ても理想的すぎるというのに、二人が合わさるとまるでそのような出来事が本当に起こったのではないかという錯覚すらしてしまって。
本当に読んでよかった。そう心から思えました。
76.100ばかのひ削除
とても面白かったです
ここまで似合う二人はそうそう書けません