Coolier - 新生・東方創想話

メイキング

2009/06/06 05:01:35
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ここは紅魔館。

「やあやあ、お嬢さん」
悪魔の妹、フランドール・スカーレットの部屋にはドアは無い。
よく壊してしまうので、フランドール自身が「いらない」と宣言して以来、この部屋にはドアが無いのだ。
だから、誰でも出入り自由である。すすんで入ってくる者はあんまり居ないが。

「ご機嫌いかが?」
入ってきた者がいた。
そいつはひどく背が小さい。フランドールの膝よりも下に、頭がある。

「なあに、あんた」
フランドールの問いに、そいつは軽くお辞儀をした。
「私は何者でも御座いません。強いて言うなら、通りすがりの人形、と言った所でしょうか」
人形、と呼び捨ててくださいませ。
そんな事を滔々と喋るそいつは、確かにどう見ても人形の姿をしていた。
小さな女の子が抱いているような、ありふれた人形。

ただし、両腕が存在しなかった。
腕が千切れているのだった。

「あんた、壊れてるよ。もしくは壊れかけね」
面白くもなさそうにフランドールは言う。
答えて、人形は大きく礼をした。

「ええ、そこなのです。実は私、九十九神という奴でして」
「はあ」
「ただの九十九神でしたら善いのですが、私は怪我をした九十九神なのです」
「はあ。で?」
「率直に申しますと、私は死にかけているのです。両腕を失い、もうすぐ意思も失うでしょう」
「そうみたいね」
フランドールは一向に無感動な顔をしている。
『ありとあらゆる物を破壊する程度の能力』を持つ彼女には、ありとあらゆる物の、核となる部分…『目』が見えるのだ。
目の前の九十九神の、その意識の『目』は、もう非常に薄く、確かに消えかけている。
でもそんなもの、彼女にとっては珍しくもなんとも無いのであった。

「それで、です。私は取引を持ち掛けに来たのです」
「取引。私と?」
「ええ。そもそもの話になりますが、野犬に襲われ、不覚にも致命傷を負った私は小さな、幽かな心の声を聞いたのです」
ぺたん、と座り込み、人形は続ける。
「その声は確かに、こう言っていました。『外に出たい。一度でいいから』。私は僅かな望みを持ち、その声の主を探しました」
人形は顔を上げ、フランドールの方を真っ直ぐに見た。
「そう、それが貴方なのです」




フランドールは思い出す。

そもそもの始まりは、フランドールの姉・レミリアであった。
その頃レミリアは、頻繁に外に出かけるようになっていた。
館の外には面白い人間たちがいると、彼女は言っていたのだ。

そんなら私もお外に出てみようかなと思い、フランドールは玄関の戸を開けた。
すると、

ざあ

一面の豪雨が彼女の視界に広がった。

雨となっては、吸血鬼のフランドールは外に出られない。
しかし、つい今しがたまで外は晴れていた。
雨の気配なんてこれっぽちも無かったのだ。

そう、雨は故意に降らされているのに違いなかった。これは紅魔館に住む魔女の術だろう。

(ああ、そうだったね)
そのとき、フランドールは軽く首を振ったのだ。
(駄目なんだ、私は)
危険な能力を持ち、その気質は狂気と称されるフランドール。
もちろん彼女はそんなこと、分かっていた筈だった。

そう、彼女は外出を禁じられているのだ。ずっと前から。今も。





「…無いよ、心当たりが」
フランドールは口を捻じ曲げ微笑んで、首を振った。
でも人形も首を振っていた。
「そんな事はありますまい…いや、まあ、この際どちらでも構いません。失礼ながら、貴方は外に出た事がないように見受けられます」
「どうでしょうね」
「誤魔化さずとも良いのです。そもそも人形とは、ヒトの思いを受け止める為の物。貴方の思いは隠さずとも、聞こえてくるのです」
「私は悪魔。ヒトに在らずよ」
「それは言葉の綾というものです。たとい悪魔だろうと妖魔だろうと、貴方に意思はあるのですから」
人形はきっぱりと言い、そして続けた。
「簡潔に言います。私は死にかけていますが、腕の良い職人に両腕を直してもらえば、また蘇ることが出来ます」
「はあ」
「ですが、その職人を探す時間が無い。そこで、生を持つ誰かの意識…拠り所となる肉体を持ち、尚且つ強い願いを持った誰かの、その強靭な意識を借りたいのです」
「…。」
「お願いです。貴方に迷惑はかけない。三日…いや、一日で良いのです。力を失った私の代わりに、私の体を操って、それで職人の下に連れて行ってください」
嫌になったら、すぐにあなたの意識はお返しします、でもこれは相互に利益がある事なのです。貴方は外を見ることができるし、私は生き延びる。
お願いですと人形は言い、そして頭を下げた。

そいつは、そのままじっとしているのである。


まあいっか。
フランドールは何だか面倒くさくなってしまった。
「いいよ」
彼女は自分のベッドにぽふんと腰掛け、鼻を鳴らしてそう言った。
「…ありがとうございます!」
人形はがばっと顔を上げた。
「…こほん。では、片手を私の方に向けてください」
「はいはい。こう?」
フランドールが片手を人形の前に伸ばす。すると、

ぱむ

唐突に彼女の視界は暗転した。

気付くと、ベッドに倒れこむ自身:フランドール・スカーレットの姿が目に映る。
首を回して辺りを見渡すと、見慣れた自室が大きく見える。


フランドールは壊れかけの人形になっていた。


(成功ですね。さあさあ、ひとまずは外へ)
頭の中に、さっきまで喋っていた人形の声が響く。
人形の体の主導権は、フランドールに移ったのだ。

「はいはい」
頼りない両足を動かし、人形となったフランドールはドアの無い自室を出た。
階段をのぼり、それから手近な窓に近寄る。
「…手が無い」
もちろん、窓は閉まっている。
両手が無いと開けづらい。

「ま、いっか」
む、と力をこめ、フランドールは窓に体当たりをした。
そんなに大きな窓ではない。しゃん、と軽い音と共に、窓の一部が割れた。
破片と一緒に身体が飛び出す。
ぽてん、ころころころ。
庭の芝生の上に、人形は着地した。

(おお、流石のパワーですな。私ではこうはいきますまいて)
人形の身体には、それほど重量はない。
フランドールの意識が乗り移ったからこそ、体当たりで窓を割るような力が出せたらしい。
「私は吸血鬼だからねえ。この程度、できて当たり前というか」
(流石ですな)

手が無いことに存外に苦心しながら身を起こし、フランドールは辺りを見回した。
そよぐ芝生。
全体に青い空。対照的に、つい今まで自分が居た館は全体的に紅い。
風の音がする。館の外で聞くその音は、意外な程によく響く。
それから、辺り一面に陽が照っている。
人形の身体は、日光を浴びてもびくともしない。吸血鬼であるフランドールには何だか不思議な感覚だった。

ぼそり、と人形の声がする。

(外ですな、フランドール様)

「…見りゃ判るよ」
不意に、涙ぐむような気がした。気のせいだろう。

「人形職人を探すんだったね。とっとと見つけるよ」





チルノは霧の湖に棲む妖精である。特に、氷精である。
彼女は妙に力が強く、訪れた人妖に喧嘩を売っては暇つぶしとしているようである。

「ありゃまあ、珍しい奴が来たもんね」
湖の上空を通りかかったのはアリス・マーガトロイド。彼女の目の前に、チルノは飛び出した。

「珍しくもないのが出てきたわね」
チルノの姿を認めると、アリスはふいと片手を振った。すると彼女の操る人形たちが散開、戦闘の態勢をとった。
長々と会話はいらない。ほどなく、チルノとアリスの弾幕遊びが始まった。

チルノがスペルカードを宣言する。

雹符『ヘイルストーム』

「さあ、いくよ!」
チルノが氷塊をばらまき、アリスを包囲する。
ごう、と迫りくるそれらを、アリスはひらひらと動きながらかわす。
人形を小さく操り、アリスに命中する軌道にある氷塊を悉く潰していく。

ぱちん
がりがりがり

氷塊が人形によって叩き潰され、湖に落ちていく。

「むむ、やるわね」
命中の見込み無しと判断したか、チルノはスペルを終了した。

「あら、もう終わり?」
じゃあ次は私ね、とアリスのスペルカード宣言。

操符『乙女文楽』

アリスを取り囲む人形の数体がチルノに向かって突進する。
一体が剣を振り回し、チルノに襲い掛かった。
「なんの!」
咄嗟に氷塊を作り出し、剣戟を受け止めるチルノ。
がちん、と衝撃を受けたチルノに、別の人形がレーザーを放った。
精密操作された人形達による連携攻撃だ。

「わわ、」
チルノはふらふらと上体を仰け反らせて回避。
鼻の先をレーザーがかすめていく。

(こりゃ、だめだ)
チルノは頭を逆さにしているので、景色が逆転している。
逆さまの景色の中で、また別の人形が攻撃態勢に入っているのが見えた。これはかわせないとチルノは判断。
ぎゅ、と力を込めてスペルを発動した。

凍符『パーフェクトフリーズ』

自分の周囲に全力で、大量の氷塊を放つ。
チルノの近距離ほど密度の高くなるそれらは、近くに居たアリスの人形たちを無理やり吹き飛ばした。

「ふむ」
とどめの一撃、と思って放った攻撃を防がれたアリスはすこし距離をとり、様子を見る。

チルノが次のスペルカードを宣言する。アリスも人形を手元に戻し、攻撃の構えをとる。
戦闘は続いていく…。





「やれやれ、移動すら一苦労ね」
(申し訳ない)

こちらは腕の欠けた人形。
強大な力を持つフランドールが乗り移っているとはいえ、空を飛ぶほどの力は出せないらしい。
ゆーーーっくりと、フランドールは歩いている。

ぱちん
がりがりがり

突然、どこからか音がした。

「む?」
足を止めて耳を澄ます。

(これは…戦闘音でしょうか)
「へえ、弾幕ごっこかな」
フランドールに好奇心が沸いた。
彼女は引き寄せられるように、音のする方へ歩いていった。


戦闘音の源はすぐに見つかった。
湖上で弾幕を撃ち合う2つの影。妖怪と妖精らしい。

「ふーん。あれ、妖怪の方は手加減してるね」
(分かるのですか?)
「一目瞭然。…ま、私の方が断然強いけどね」
(流石ですな)




「さて、そろそろ終いにしましょうか」
いくつかのスペルカードを撃ち合い、アリスとチルノ、両者の距離がちょっと開いた。
アリスは手持ちの人形を集結させ、突撃の陣形を組ませた。

「ふん、負けないかんね」
対して、チルノの周囲の気温が目に見えて下がっていく。大気が凍え、大粒の氷塊が次々に生まれていく。

戦操『ドールズウォー』
雪符『ダイアモンドブリザード』

次の瞬間、アリスとチルノの放ったスペルがぶつかり合い炸裂し、がしゃんと大きな音が辺りに響き渡った。





「あ、決まりかな?」
両者が大技を放つのを見て、フランドールはそう言った。
突撃する人形達は氷塊を弾き飛ばし、妖精に向かって飛んでいく。

だが、その先を見る余裕は、フランドールには無かった。

(いけない!)
「…!」

弾き飛ばされた氷塊が、こちらに飛んできたのだった。かなりの数である。
避けようにも、この姿では機敏に動くことができない。

被弾する―。

「く!」
咄嗟に、手持ちの技を放とうと身構える。―禁忌『レーヴァテイン』―

だが、そのスペルは発動しなかった。

「(力が、足りない…!)」

両腕を失った人形の姿では、まともな技を使うことはできなかった。
本来の姿の彼女なら絶対に、この程度のスペル、しかも流れ弾に当たりはしなかっただろうが…。

どずん

人形の、その腹を貫く衝撃を受けたのを最後に、フランドールの意識は暗転した。






するすると静かな音がする。
視界は暗い。ただ、音だけが聞こえる状態である。

「お目覚めですか」
人形の声がする。と、同時に、すこしだけ視界が開けた。
床も、天井も真っ白だ。部屋らしいが、壁はあるのか無いのか、先が暗くなっていて判らない。

「…ん」
フランドールは起き上がった。
「あれ?」
自分の姿を見てみる。人形でなくて、本来の自分である。
顔を上げると、目の前に立っているのは、さっきまで自分が乗り移っていた人形だ。
だが、さっきまでと違う部分が目に付いた。一つには、氷塊に貫かれた筈の腹部に、傷一つ無いこと。
もう一つは、欠けていた筈の両腕がある事だった。

「治ったの、あんた?」
「正確には直りかけ、ですな。今現在、私は修理されているのです」
そう言ってから人形は、空中の一点を手で示した。
見ると、そこにスクリーンでもあるかのように映像が映し出されている。

まず目に付いたのは金髪だった。正しくは金髪の少女だ。
フランドールは、その姿を見て、そいつが誰かすぐに分かった。さっき弾幕ごっこをしていた妖怪だ。
少女はかがみ込んで手を動かしている。ちくりちくり、と…。よく見ると、縫い針を手に持っている。
先ほどから、するすると音が聞こえるが…どうやらこの音は少女の縫い物の、その糸が擦れる音らしい。

「あいつが治してくれてるの、あんたを?」
「ええ、直してくれています」
そう、縫われているのはこの人形であった。だが。

「おかしいなあ、私には2人いるように見えるんだ、あんたが」
フランドールは軽く口を尖らせた。
目の前に立つ人形と、映像の中にいる人形。2人。

それはそうです、と人形は頷いた。
「ここは、なんといいますか…現実には存在しない空間なのです。肉体の無い、精神の世界といいますか」
「…?」
「要するに、九十九神である私という存在の中枢なのですよ。さっきまでこの場所は崩れかけていましたから、貴方の力を借りさせて頂いた訳でして」
「……分かんない」
「…まあ、細かいことはいいでしょう。ともかくも、もうすぐ私の修理は終わると思われます」
「うん」
「そうすれば、貴方も元の身体に戻ることができるでしょう。勿論、貴方にはいくら感謝してもしきれませんから、」

人形はフランドールを見据え、続ける。

「貴方が望むなら、このままこの人形の身体の主導権を貴方に渡したままでも、一向に私は構いません。貴方はこのまま、動く人形として生きていく事も可能です」
「…。」
「貴方のおかげで私の意識は消えずに済んだ訳ですし。ただ、その場合、貴方の元の身体は…」


人形の声は続いている。
フランドールは声に耳を傾けながら、映像の向こうの、金髪の少女の姿を見ていた。
その表情は前髪に隠れてよく見えないが、壊れた人形を修理するその姿は、何だかすごくひたむきに見える。

少女が居る所は、彼女の自室らしい。弾幕ごっこの時に使っていたもの以外にも、部屋には大量の人形が置かれている。

それから、少女が作業をしている机。
人形サイズの服が、その机の端っこに置かれている。まだ片方の腕部分が縫われていない。製作中、ということだろうか。
小さな服のそばには、服を着ていない人形と、服の図面が置いてある。
少女は人形を操るだけでなく、自分で人形を作るらしい。

「…。」
フランドールは思い出す。

ドアのない自室。
豪雨。
外の風の音。
弾幕遊び。
腹を貫く氷塊。


「まあ、まだ時間もありますし……」
人形の声は続く。


自分よりも弱い妖精、妖怪。
その力はあまりに強い自身、フランドール・スカーレット。
貫く氷塊。
願い。
人形を作る少女。

色んな事が頭に浮かんだ。

少ししてから、フランドールは人形の方を向いた。
人形も話すのを止めて、フランドールを見上げている。

フランドールは笑顔を見せた。
それから首を振った。横に。

人形は、不安そうな様子を見せたが…フランドールの表情を見て、ふ、と笑ったように見えた。勿論、人形だから表情は動かないけれど。

フランドールは頷いた。
人形も頷いた。



金髪の少女の動かす縫い針の音だけが、静かに響いている…。







ぱちり、とフランドール・スカーレットは目を開けた。
結局、彼女は自分の身体に戻ってきたのだった。外出を許されない、自分自身の姿に。

「さて、」
フランドールは跳ねるようにベッドから飛び降り、伸びをした。
まずは、何からすべきだろうか。






「咲夜ー」
十六夜咲夜が紅魔館の廊下を歩いていると、ぽふ、と誰かが抱きついてきた。
見ると、フランドール・スカーレット…主人の妹だ。
珍しいこともある、と咲夜は思った。

「あら妹様、どうなされました?」
「……、教えて」
「え?」
咲夜は、フランドールの言った事が信じられなかった。聞き間違いだと思った。

勿論、聞き間違いではない。

「料理、教えて」
「…料理、ですか?」
「いいじゃない。たまには何かを作ってみたいのよ。壊すのは飽きたわ」
「…そうですか。ではこちらへどうぞ。丁度クッキーを焼くところですわ」
「よろしくお願いね、咲夜」
「ええ、よろしくお願いします、妹様」

…まあ、何かの気まぐれに違いない。
何でもかんでも壊すだけの妹様が、料理だなんて。
ま、しばらく付き合って差し上げれば、飽きて部屋に戻られるでしょう。

そんな風に考え、咲夜はフランドールをキッチンに連れて行った。

「いいですか妹様、まず小麦粉、それと卵…」
「ふむふむ…」





フランドールは思ったのである。
やはり、外に出たい、と。
勿論、以前もそう思ってはいたが…彼女は、少し考えを変えたのだ。

正確には、彼女はこう思ったのである。

外に出たい。…しかるべき資格を得た上で、他者に認められて外に出たい、と。
『危険だから外に出してはいけない』という扱われ方を、変えたいと彼女は思ったのだ。

しかしまあ、以前の自分を鑑みて、警戒されるのも仕方ないねとフランドールは考える。
だって、何でもかんでも能力で壊してしまうのだ。外に出してもらえる筈がなかった。


それと、気づいたことが1つある。
それは、壊されるのは『怖い』ことなのだ、という事。
傷つけられるのは、自身が破損していくのは、怖いことなのだ。

非力な人形となって、初めて彼女はそのことに気づいたのだ。

ずっと、生まれてからずっと、壊す側だったフランドール。
壊される側のことなんて、これっぽちも考えていなかった。

と、いうより…解らなかったのだ。

なぜなら彼女は強かったから。
誰よりも強かったから。

そう、痛みを知らない者には、他者の痛みなんて理解できないのである。

でも、もうフランドールは、そのことを知っている。

氷塊が、我が身を貫いた感触。
その恐怖。
彼女は痛みを知っている、覚えているのである。


それと、もう1つ。
金髪の少女の姿を、フランドールは思い出す。
彼女は自分よりずっとずっと力の弱い、ただの一妖怪にすぎない。

でもその少女は、人形を作っていた。
戦いで巻き添えを食った壊れかけの人形を拾い、修理をしていた。

その姿は、壊す事しか出来ない自分とは対照的で…それに、ずっと素敵だと、フランドールは思ったのである。

…作る事の難しさとは、どんなものだろうか。
それを知れば、破壊の能力を抑える力も、あるいは得られるのではないか。
少女の姿を思い出すにつけ、フランドールにはそう思えてならないのであった。


だから彼女は、少しずつ変わっていく。


「お姉さま」
「うん?どうしたの、フラン?」
フランドールの姉、レミリア・スカーレットは妹に話しかけられ、振り返った。

フランドールは何かを言いかけて…口を閉じ、ほんの僅かだけ首を振った。
それから軽い調子で言った。
「私、クッキー焼いたんだ。咲夜に習って」
レミリアは笑った。
「炭化小麦がどうしたって?」
「…む、今のは失言ね、お姉さま。きちんと美味しいわよ?」
「どうだかねえ?」
「ね、味見してよ」

妹と会話をしながら、レミリアは少し違和感を感じていた。
何だかくすぐったいような、照れるような…。

その感覚の正体は、彼女自身では判然とはしなかった。

…勿論、それは喜びに決まっていた。
明らかに、妹が何か、良い方向への変化を見せたからである。
この姉も、妹のことはずっと気にかけているのだから。


柔らかいバターの匂いがする。
フランドールの願いが叶う日は、案外近いのかもしれなかった。
まずは読了ありがとうございます。
色々といっぱいいっぱいで書いた話です。お話がどこかで破綻してないといいのですが。
もし気づいた点がありましたら指摘していただけるとありがたいです。

さて、タイトルについて。
作る者、壊す者。
最終的に彼女も作る者になる。
そんな感じで考えていたのですが、正しくはcreateだったりcookだったりするように思いますね。
まあ、カタカナ英語ということで一つ。メイキング。
ガブー
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コメント



0.1820簡易評価
3.100名前が無い程度の能力削除
いいお話でした。
後日完治した九十九神から話を聞いたアリスが紅魔館に来る時にこの人形を連れてきて
フランとの再会を果たすという展開があるのでしょうか。
フランがこれから作る者としての人生をスタートできるようアリスと咲夜さんには一肌脱いで欲しいものです。
7.100名前が無い程度の能力削除
可愛いよフラン
9.100名前が無い程度の能力削除
静かな文章が心地よかったです。
12.90名前が無い程度の能力削除
人形の九十九神がなんともいい味を出していました
話のテンポもよく面白いです
25.90漆野志乃削除
こういうお話は大好きです。
愉しませていただきました。

ところで九十九神とありましたが、ひょっとして「付喪神」では……?
26.無評価ガブー削除
>>漆野志乃様
東方求問史紀によれば『付喪神』ですね。すみません。
東方的にはそちらが正解と思われます(もっとも日本語の単語として『九十九神』という言葉は、まったく存在しない語、というわけでも無いようです)。
ご指摘ありがとうございました。
31.100名前が無い程度の能力削除
もうすぐ紅魔館でメイド服のフランちゃんが見れるんですね!?
35.90名前が無い程度の能力削除
もうすぐメイド服のアリスがフランに雇われるのですね
37.100名前が無い程度の能力削除
とても好し
47.100名前が無い程度の能力削除
好き