彼女は写真に写らない。
――
切欠はなんて事無い、咲夜の一言からだった。
ある日の紅茶の時間。
歓談の最中、ふと思い出したように咲夜が話題を変えてきた事が始まりだった。
「そう言えばお嬢様。 この間天狗が来たんですよ」
「知ってるわ咲夜、私の所にも来たもの。
全く、門番は何をやっているのかしらね」
「まあ、パチュリー様でも防げなかったくらいですし。
そうなれば仕方の無い事かと」
「全く、紅白黒白、次は真っ黒。
紅魔館はいつからすきま風が吹き込むようになったのかしら」
「スキマが空いたのは長い冬からですかねぇ」
「いやいや、そういう意味じゃなくて」
相変わらず何処かずれた返答をする従者に、私はがくりと肩を落とす。
いつもは一片の隙も無い様に見えるが、その実どこかが抜けている。
だからこそ、彼女は気付かない。
自分の変化に気付かない。
「――あら、咲夜」
「はい、なんでしょう?」
「また伸びた?」
「ああ、とうとう気付かれましたか。
その通り、最近少しずつ止められる時間が延びてるんですよ。」
「いやそっちじゃなくて。
身長よ身長」
「え? さぁ……そう言われてみれば……」
「全く、もう少し自分の事にも目を向けなさいな。
貴女は少し自分に無頓着過ぎる」
「あら、お嬢様はとうとう不死王から十王様になられたのですね。
今夜はお紅飯にしましょうか」
「ベチャベチャしそうで嫌ねえそれ……」
眉を顰める私に、彼女はつかみ所の無い笑顔を返す。
人間と言うものは分からない。
それともこれは彼女だからなのだろうか。
夜空を見上げれば、紅い月が狂気を降り注がせている。
こんなにも月が紅いというのに、それを遮るかのように混ざり合う黒。
これが、”噂をすれば天狗”というやつか。
突風が舞い起こり、クッキーが床へと吹き落ちる。
テラスの縁に腰掛ける、風情も情緒も理解出来ぬ鴉天狗、射命丸文。
頬杖を付いた彼女は、相変わらず飄々とした笑顔でこちらを観察している。
観察と言うには距離が近過ぎるだろう。 これは凝視だ。
「――こんばんは」
「また来たわね”烏”」
「いやですねえ、”天狗”と呼んで下さいよ。
”射命丸”か”文”なら尚のこと嬉しいですが」
「ふん、どちらでもいいよ。
今すぐお帰り頂くんだから」
「おやおや、また異変を起こされるのですか。
これは大変興味深い。
どうです? 次は紅月異変とか」
「そうねえ、今から起こるのは神鬼異変。
神すら恐れる吸血鬼の真の姿、網膜に焼き付けてあげるわ」
「面白い。 以前の蝙蝠退治なんかとは訳が違いますね。
その姿、撮影させて頂きます」
「お嬢様、新しいクッキーです」
「もう、なんなのよお前は~」
決まった。
そう思っていた所に水を差す、可愛い可愛いマイペースな従者。
文句を言った所で、彼女は何を怒っているのか理解してくれるかどうかも危うい。
しかし、この従者は天然であれ愚鈍ではない。
それはそうだ。 彼女はこの私、レミリア・スカーレットが選んだ最高の従者なのだから。
「それでも食べて暫く御待ち下さい。
食べ終わる頃には、再び静かなティータイムが訪れている筈です」
「あらそう。 咲夜がそう言うんならまちまいないわね」
「ええ、まちまいありません」
「そのくらい見逃してよ。 気が利かないわね」
「あの~、それで結局どうするんで?」
「ああ失礼。 お嬢様に代わりまして、私が夜の相手を務めさせて頂きます」
「その言い方だと如何わしく聞こえますねえ。
良いです良いです。 その方が何かと記事にし易い」
「さて、今宵貴女に御覧頂くのは白銀異変。
無数に増える不思議なナイフに目を取られると……
あら不思議。
目の前に居たメイドがいつの間にか別の場所に」
「おお、これは凄い。
タイトルは”紅魔館の番犬 おて、おかわり、瞬間移動を覚える”これで決まりですね」
「決まってない!」
鴉天狗の安い挑発に乗り、咲夜は夜空に飛び上がる。
まれにこちらに向かってくる流れナイフを弾きながら、私はクッキーを片手に彼女達の円舞を鑑賞する。
嗚呼、彼女はやはりナイフの様だ。
時が経つほど研ぎ澄まされ、その妖しさを増していく。
そしていつかは朽ち果てて、その身を錆に汚してしまう。
やはり吸血鬼にでもしてしまうべきだろうか。
取り留めの無い思考に気をやる内に、彼女達の戯れは終わりを迎えた。
「やれやれ、全く逃げ足の速い……
すいませんお嬢様、見事にすっぱ抜かれました」
「仕方ないよ。咲夜だし」
「…………」
「ほら、怒らないの。
動いた後には甘いクッキーが一番よ。 はい」
「ぺちゃぺちゃ」
「どれだけ行儀良く食べてても擬音を口にしちゃ台無しよ。
いい加減拗ねてないで、新しい紅茶を淹れてちょうだい」
「かしこまり~」
「咲夜!」
「ほぇ?」
怒鳴り付けるも、目の前に居るのは紅美鈴。
鮮やかな入れ替わりに、私は溜め息を一つ浮かべた。
全く、相変わらず面倒臭い拗ね方をするものだ。
でもまあ、丁度良い。
おあつらえ向きにこう言う事に詳しそうな者が目の前に居る事だ。
彼女に相談してみよう。
「ねえ美鈴。
咲夜が拗ねちゃったんだけど、どうしたら良いと思う?」
「ほーえふへえ。 わはひはらはひひへへひーほひーほ」
「ふんふん、なるほど、OK、分かった。
その肉まんを口から放して、それから話しなさい」
「あ、ふいあへん。
……えと、私なら抱きしめて良い子良い子してあげますけどねえ」
「それが通じるのはウチの妖精メイド連中くらいよ。
咲夜はそれで元気になるほど単純じゃないわよ?」
「咲夜さんはそれくらい単純に見えますけどねえ……
なんか原因とか、分かりません?」
「分かる訳無いでしょうが……あ」
「多分それです」
「なんで言わないのに分かるのよ」
「いや、適当に言えば空気読んで話を続けてくれるかなーって……」
「余計な気を使わないで良いの」
「そういう能力ですから」
にかっと癪に障る笑みを浮かべながら、美鈴は皿に残ったクッキーに手を付ける。
全く、なんて人を喰った妖怪だろう。 生憎私は人では無いし、妖怪が人を喰うのは道理だが。
「で、なんですか? お嬢様が思い当たった心当たりは」
「うーん、多分だけど、あの鴉天狗に写真を撮られた事じゃないかしらねえ……」
「嗚呼~、そう言えば咲夜さん、そういうのあんまり好きじゃなさそうですもんねえ」
「美鈴、貴女はどうなの?」
「私? 私は好きですよ。
”格好良い所撮って~!”って感じでテンション上がるじゃないですか」
「じゃあ何であの天狗が来た時に何度も蹴り返したのよ。
あのこと大分根に持ってるみたいよ? いまだに愚痴られるもの」
「あはは、それはまあ職務上……」
「全く、優秀な門番を持って幸せだわ」
「そうでしょうそうでしょう」
「調子に乗らないの」
「そうよ美鈴。
貴女は少しお調子者過ぎる」
「うわっ!?」
「アイヤー!?」
美鈴との会話に割り込んできたのは、テーブルの下からもぞもぞと這い出てきた咲夜だった。
驚いた私は美鈴と共に椅子から飛び退いてしまう。
いつから聞いていたのだろうか。
スカートに付いた埃を払う咲夜に問い掛けると、彼女は切れ味の良い笑みを形作りこう言った。
「そうですねえ。
お嬢様が私の名前をお呼びになって、それに対し美鈴が「ほえ?」と返した辺りからですわ」
「最初から最後までじゃない。
ずっとそうしていたの?」
「ええ、そうですわ」
「呆れた……」
彼女の悪戯に、頬杖を付いて溜息を漏らす。
紅い月に照らされた彼女の笑顔は、正に瀟酒なメイドの物だった。
「それでお嬢様、門番の処遇についての話ですが」
「あれ? そんな話してた?」
気が付くと咲夜は私の真正面、いつもはパチュリーとの茶会用に用意していた椅子に腰掛け、ティーカップに口付けを交わしている。
場所を私と咲夜の間へと移された美鈴にも新しく椅子が用意されている辺り、先程彼女が使用したスペルカードに偽りは無いと思わされた。
全く、心臓に悪い物だ。 と、吸血鬼が言っても説得力の欠片も生まれ出る事は無いだろうが。
「それで実際どうなのよ、咲夜。
貴女写真に撮られるのが嫌いなの?」
「そういうお嬢様は、あの鴉天狗に写真を撮られて根も葉もない噂話を立てられるのはお好きですか?」
「質問を質問で返すのは0点よ。
そして論点をずらすなんて以ての外。
咲夜、答えなさい。
”あなたは 写真が 嫌いなの ?”」
「……う~ん、そうですねえ。
魂が抜かれるとも言いますし、あまり気分の良い物では……」
「……そう」
どうやらこれ以上の問答は無駄らしい。
私が押しても動かぬとあれば、彼女は私が如何な命令を与えようとも従わない事だろう。
そう思い、半ば諦めかけていた私の元に、予期せぬ援軍が到来する。
私達の会話を静観していた美鈴だ。
「咲夜さん、どうして嫌なんですか?
私に似て写真写りも良さそうなのに」
「うわ、凄い自画自賛」
「お嬢様は黙ってて下さい。
ね、何でです? 私だけに教えて下さいよ、ね?」
「…………」
私とは違い、搦め手を用いた訪ね方はある種の老練さを感じさせるものだった。
彼女の実年齢は定かではないが、少なくともそれなりの場数は踏んでいるのだろう。
それが同性に対するものである事に些か疑問を抱いたが。
結局、咲夜は美鈴の執拗な問いに白旗を揚げた。
まだ拗ねているのか暫くは口を割らなかったが、そのうち静かに、しかしこの場に居る私達でも聞き取る事が難しい声量でぽつりと呟きを漏らし始めた。
「――好きじゃないんです」
「何が?」
「止まった時の中に居る自分を見てしまうのが、堪らなく嫌なんです」
咲夜の放った答えは、私達の眉を跳ね上げるに充分な物だった。
時間という、人間どころか妖怪の手にすら持て余す様な存在を自在に操る咲夜が、まさかこんな事を言うだなんて。
打ち明けた事ですっきりしたのだろう。
それから咲夜は堰を切ったかのように話し続けた。
「お嬢様、私は一生死ぬ人間ですわ。
勿論、それは老いると言う事。
そんな私が年老いた折に、昔の自分を――全盛期の自分が活き活きと飛び回る様を見たら、嫉妬に駆られることでしょう。
しわくちゃの手で、瑞々しい自分の肌を眺めながら、それでも手は届かない。
おかしな話ではありませんか? 自分に嫉妬するだなんて」
肩を竦めて自嘲する咲夜の事を、私達は笑い飛ばす事はしなかった。
出来よう筈も無い。 私だって自分の力の衰えを感じたら、激情に身を焼かれて手当たり次第に八つ当たりをするだろう。
「それに……」
私達の視線に気が付いたのか、彼女は月へと振り返り、それに話し掛けるように話を続ける。
その先に映る”紅”に向けて、ただ儚げに。
ただ、静かに。
「お嬢様達と過ごした時間だけが目の前に繰り抜かれていたら、私は狂ってしまいますわ」
振り返り、そう笑う彼女の笑顔があまりに曖昧で。
彼女に与えた”十六夜”の姓が、彼女をこうしてしまったのだろうか。
私に後悔の念を想起させる程に、彼女の躊躇いは危険な思いを孕んでいるように思えた。
彼女の独白は止まらない。
もはや自分に向けられているのだろう言葉は、彼女の心を確実に追い込んでいく。
「お嬢様達は、きっと私が居なくなっても変わらずに時を刻み続けることでしょう。
何年も、何世紀も。
「咲夜」
いえ、それはもう既に止まっているのかも知れませんわ。
私はそれを”過去”として懐かしむ事しか出来ません。
「咲夜」
そして”未来”を見る事も叶わない。
耐えられると思いますか? 私はそうは思いません」
「咲夜」
私は激昂するでも平手打ちを喰らわせるでもなく、ただ静かに彼女の名を読んだ。
残念だが私はモラリストでも博愛主義者でも何でも無い。
目の前に居るのは従者なのだ。
私に仕える、人間の従者。
はっきり言って、いつ死んでもおかしくない、私達妖怪からしてみれば、人間にとっての犬や猫と変わらない存在なのだ。
それに溢れる情を注いで一体何になる? いつかは消え逝く存在だと言うのに。
何事も程々が一番なのだ。
私の言葉に肩を跳ねる仕草をした咲夜は、何も言わずに私の言葉を待っている。
全く、この我が儘なメイドを一体どうしてやろうか。
暫し考えた後、私は一つの案を思い付いた。
彼女が寂しくならない、とっておきの方法を。
「だったら私と写真を撮りましょう」
私の言葉に、彼女は露骨に不快感を示した。
感情を隠そうともしない。 全く以て、瀟酒な従者だ。
だが、これで良い。
そうでなければ、この計画は完成しないのだ。
私は彼女の感情など微塵も気に掛けず、美鈴へと話し掛ける。
「そうと決まれば善は急げね。
美鈴、香霖堂へ行ってカメラを買ってきてちょうだい。
一番良いやつを」
「……畏まりました」
一瞬の逡巡を見せたが、私が目配せを送るとそれも消え失せ、恭しい礼を一つするとテラスから飛び出していった。
全く、行儀の悪い。 だが、一番物分かりの良い従者だ。
一方の、最も物分かりの悪いだろう従者はと言えば、今にも私の喉元を掻き切らんといった形相で私を睨みつけている。
そうだ。
もっと憎むと良い。
少なくとも、今だけは。 写真を撮られる時だけは。
「あら、何か不満でもあるのかしら? 私の従者様」
「失礼します」
おやおや、とうとう我慢の限界なのだろうか。
彼女は時を止める事もせず、盛大な音を立てて扉の向こうへと消え去ってしまった。
私はすっかり冷め切った紅茶を啜りながら、頭がおかしくなりそうなくらい紅い月に笑いかけた。
「――大丈夫だよ。 お前にそんな思いなんてさせるもんか」
――――
――――――――
そして翌日。
私は紅魔館の門前で、ファインダーを覗く美鈴に笑顔を向けている。
隣に立つ銀色の従者は、やはり頬を膨らませてそっぽを向いている。
日中の撮影なので日傘が必要なのだが、彼女は私に差そうともしてくれない。
だが、自分で肩に掛ける今の状況に別段不満も覚えない。
全て、予想の範疇だ。
「ほら咲夜。 笑いなさいよ。
写真に写るときはピースか弾幕を向けながらって決められてるのよ」
「…………」
「そーですよー。
ほら、いい加減に機嫌直して下さいよー。
昨日の事は謝りますからー」
「もう良いわ美鈴。
咲夜はその不細工な顔のまま紅魔館のアルバムに載るのよねー。
あーかわいそー」
「お嬢様、子供じゃないんですから……」
私の挑発にも、彼女は一切反応を示さない。
恐らく、次に取る行動も私の予想通りだろう。
今はそれで良いのだ。
いや、そうでなければ困る。
「ほら、もう構わないからシャッター押しちゃって」
「あ、はいはい。 それじゃー撮りますよー。
笑って笑ってー。
”信仰は儚き人間の為”……」
「に!」
目映いストロボが視界を眩ませる。
ファインダーから目を離した美鈴は、眉をハの字にしてこちらを見ている。
やはり、私の予想通りになった様だ。
「あちゃー、咲夜さんやーっぱり逃げちゃった」
「あら、貴女もそう思ってたの」
「そりゃあそうですよ。
昨日の天狗とのやり取りを見てたら……」
「良くやったわ、美鈴」
「……ひょっとして、お嬢様」
「暗くなったらまた呼ぶわ。
準備をしておいてちょうだい」
美鈴が何かに勘付いたのか、怪訝な表情を浮かべている。
私は彼女から疑問を投げかけられる前に言葉だけをそこに置いて、館へと踵を返した。
――――
――――――――
その後も幾度と無く、咲夜との写真撮影を試みた。
勿論、どの写真にも咲夜が写る事は無かった。
そうして、何も写らない写真がどんどんと溜まっていく。
咲夜の方も、最初の内は逃げ出し、時にはナイフを巻き散らす事さえあった。
だが最近では、写真を撮る際に時を止めてまで逃げ出す事は無く、逃げるどころか美鈴と入れ替わり、彼女がシャッターを押す様な悪戯をするようになった。
そろそろ頃合いだろう。
カメラに愛着が湧いたのか、熱心に手入れをしている美鈴の前に立ち、私は楽しげな雰囲気を隠そうともせず声を掛けた。
「行くわよ、美鈴」
「あ、はい。 ちょっと待って下さい。
あとレンズ拭くだけなんで」
「ほら、何ぐずぐずしてんのよ。
置いてくわよ」
「あ、お嬢様ちょっと待って下さいよ~!」
カメラを構えた美鈴が慌てて後を追って来る中、私は一人ほくそ笑む。
今日からが、私の考えた計画の、本当の始まりなのだ。
「咲夜」
「ここに」
この短い三文字を言い終わらぬ内に現れる彼女に、私は満足げな頷きを向けた。
カメラを前にしても、幾分落ち着いた表情を取るようになった彼女へと目を合わせ、私は一つ一つの言葉に力を込めて話し始める。
「咲夜、今日こそ一緒に写真を撮るわよ。
いえ、今日だけじゃないわ。
今日からは、こまめに一緒に写真を撮るの。
これは命令よ」
「…………」
彼女は暫し俯いて考える仕草を見せる。
その仕草さえ、美しい。
頑健な函の奥深くに閉じ込めて、一生そのまま傍に置いておきたい劣情に駆られる。
しかしそれは叶わない。
他ならぬ彼女が否定したのだから。
だから私は、せめてこの瞬間を切り抜きたいのだ。
そして彼女を狂わせる事など絶対にさせたくない。
彼女は永遠に、”完全で瀟酒な従者”であり続けなければならない。
だからこそ、私はたった一つの冴えたやり方を見つけたのだ。
彼女の迷いは消え失せたのだろう。
待ち続けた私に向けられた笑顔は、肯定のそれだった。
「……かしこまりました、お嬢様」
「うむ、よろしい。
さあ、あっちを向いて笑いなさい。
そうすれば貴女はもっと幸せになれるわよ」
「その台詞、何処かの竹林で聞いた物と全く同じですわ。
胡散臭いったらありゃしません」
「二人とも、良いですかー?
撮りますよー!……ってあれ?
フィルム切れだー……」
全く、良い所だと言うのに締まらない。
おっちょこちょいな門番がわたわたとフィルムを取り替える僅かな時間に、私は咲夜と会話を交わす。
「咲夜、これから沢山の写真を撮りましょう。
そして貴女が年老いた時、そのアルバムを渡すわ」
「まぁ、お嬢様ったら、残酷ですわ。
私の話を何も聞いて下さらない」
「大丈夫だよ。
お前が寂しくならない魔法を掛けといてやるさ。
だから時々は私の戯れに付き合ってよ」
「ええ、いつでもどうぞ」
「ふぃー、終わりましたー!
じゃあ改めて、撮りますよー!
”メイドと血の懐中どけ”……」
「い!」
こうして私は、咲夜の写真を撮る事に成功した。
彼女は写真に写らない。
写ろうともしなかった。
だけど今後は、沢山の生きた証を残してくれる事だろう。
全く、天狗や河童の技術は恐ろしい物だ。
この私を被写体として捉えられるのだから。
完全で瀟酒な従者は天然だ。
だからこそ、私は内緒にしておいた。
私は写真に写らない。
生きた証を残さない。
残す事が出来ない。
吸血鬼は写真に写らない。
だから、彼女は寂しくならない。
少なくとも、狂う事はないだろう。
写真に写っているのは、いつまでも若い自分の笑顔だけなのだから――
もしかするとレミリアは、咲夜が年老いてアルバムを渡されるとしても、レミリア本人が側にいることで孤独を塗り消してくれるんじゃないかという妄想。
・・・・それはそれで悲しいけども。
初シリアス、見事でした・・・・!
ところで、実は文花帖の節分のところでレミリアは写真に写ってたり
悲しい…
優しいだけじゃ無いのよ紅魔館ってな感じで御座いました。
永遠亭の乙女ティックえーりんししょーも大変宜しいのですが。
久方振りにおにぎりさんの超!変態的紅美鈴を読みたく思います。
良い話です
ところでこの美鈴・・・好きだ
ラストでショックを受けて、更にあとがきでとどめを刺され。後に残るもののある作品でした。ご馳走様です。
せつないなあ。
日常を楽しげに表現なさってるので尚更未来を見たく無いって気持ちにさせられました。
咲夜さんのためを想ってのことなんでしょうが……。