Coolier - 新生・東方創想話

"知識の少女"と外を望む吸血鬼(アントワネット)

2009/05/28 09:08:23
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不思議な不思議な場所――それが幻想郷。
 霧の湖を進んで行き、岬に一件の紅き屋敷がある。
 紅の染料を放り投げたかのように、紅一色で彩られた屋敷には、窓が少ない。とても巨大な屋敷だというのに、太陽の日を射れる窓は数個。
 妖怪の門番が守る門を抜け、広い庭を渡って行き、門のように大きな扉を開け放つとそこには、どこまでも続いている遙かな大広間。もちろん、窓はついていないので、薄暗い。
 ここは紅魔館。
 悪魔の少女が主をつとめる屋敷である。
 ここには、数人のメイド妖精とそれらを束ねるメイド長、魔法研究を行っている魔法使いが一人とその使い魔が一人住んでいる。
 噂によると、地下にはもう一人の吸血鬼がいると言われているが、さだかではない。
 
 しとしと……と雨が降っている幻想郷。
 湖にいる妖精達も今日ばかりは、バカ騒ぎが出来ないのか、木陰に隠れたりして談笑をかわしている。
 紅魔館の門番は、傘を片手に律儀に門を警備している。
 やがて、静かな雨音は怒号のような音へと変わり、いよいよもってどしゃ降りとなった。
 そんな雨音は、紅魔館の屋敷内にも響いている。
 しかし、そんな音も聞こえていない、否、届かないところに彼女たちはいた。
「雨というのは、落ち着いていいわね」
 紫が基調のふわふわした服に身を包んだ少女は、運ぶのも一苦労な程に大きく厚い魔導書を読みながらつぶやいた。
 彼女はパチュリー・ノーレッジ。紅魔館の地下にこもる魔法使いだ。
 喘息を患っている彼女は、あまり外に出ずに、こうやって日夜研究に明け暮れているのだった。
 ばらっ、と古書が立てる独特の音を出しながらページをめくっているパチュリーを見て、げんなりしながらぼやく少女がいる。
「そうかしら? 私としては晴れていた方が嬉しいんだけど」
 彼女こそが、500年以上も生きている、吸血鬼にして紅魔館の主レミリア・スカーレットその者である。
 見た目こそは、幼い子供の成りをしているが、その実は500年以上この館、幻想郷で生きてきている。
 レミリアのそのセリフに目を見開き彼女を凝視したパチュリーだったが、こほんと咳払いをすると、冷静に尋ねた。
「どうしてよ? 吸血鬼は太陽の光が苦手じゃなかった?」
 そのとおりだ。吸血鬼であるレミリアは、太陽の光が大の苦手としている。日傘も差さずにお天道様の下へ行った日には、じゅっとしてしゅーだ。
 レミリアは、頷きながらもどこか挑発的な目で、本に目を向けているパチュリーに告げる。
「確かに苦手よ。だけど、日傘を差せば問題ないわ。傘は咲夜に持たせれば問題ないですもの。だけど、雨は別よ。雨傘を私と咲夜で二つ差さないといけないから、癪なのよ。おまけに濡れちゃうし」
「……」
 パチュリーは古書のフィルターがかかった空気を思いっきりはき出す。
「呆れた。だったら、無理して外に出る必要ないじゃない」
「出ていないわよ」
「んだから、雨の日に外に出ることを考えていたじゃない。そんな年がら年中外に出ないで、普通に室内でゆっくり過ごしていればいいのよ」
 どこまでも後ろ向きに近いパチュリーのセリフに、レミリアは言葉がでないのか、椅子にふんぞり返り、脚を組み直す。そして、目を細めどこか思案顔になる。
「だから私にとっては、日傘が入らなくてなおかつ雨傘も入らない日が最高なのよね。そうすれば、自由自在に幻想郷中を飛び回れるわ。それはもう自由に!」
「今だって十分自由すぎるわよあんたは」
 そして、近くにあった紅茶を一口含み、こくりと喉を鳴らす。
「んで、結局レミィは曇り空が一番好きなの?」
 だんだん飽きてきたパチュリーは、レミリアに尋ねた。
 しかし、レミリアは即答せずに、うーんとうなった後、
「確かにコンディション的には曇り空が一番よ。だけど、曇り空って中途半端で安定しないのよ」
「と、いいますと」
「曇り空になったら、その雲が引けて晴れ空になったり、逆にもっと重くなって雨空になったり……ちょっとした気まぐれで、変わってしまう。そうなると、自由にお散歩とはいかないわ」
 そこまで説明し終わると、またレミリアはうんうんとうなり出した。
 するとそこに、
「お嬢様、パチュリー様、おやつでございます」
 瞬間移動でもしたかのように、紅魔館のメイド長十六夜咲夜が現れた。
 銀髪に白のフリルのメイドカチューシャ。落ち着いた雰囲気のメイド服に身を包んだ彼女は、台車に紅茶の用意とだるまのような形をしたパンが皿に盛られていた。
「本日は、ブリオッシュでもいかがでしょうか?」
「ブリオッシュとは、また珍しいわね」
「まあ、ケーキの一つですからたまにはこういうのもいいかと思いまして」
 そう言いながら、二人の前にティーカップを置き紅茶を注ぐ。そして、一口大に切ったブリオッシュを目の前に置く。
 バターのいい香りが食欲をそそる。
 その匂いにつられて、レミリアが咲夜の存在に気づいた。
「あら? 咲夜いたの?」
「ええ、ついさっきですね」
 そして、匂いの方に目を移動させ、美味しそうなブリオッシュを目にした時、
「そうだわ!」
 がたりと音を立ててレミリアは立ち上がった。
「なんなのよ一体?」
 鬱陶しそうにパチュリーが尋ねると、それを待っていましたと言わんばかりに、レミリアは話す。
 まるで舞台女優が最後のフィナーレのシーンを演じるかのように威風堂々とそして、美しく舞うように、はたまた観客に訴えるかのように力強く。
「そうよ!
 いつでも日が隠れればいいのよ! 別に曇りを待つ必要はないわ! 私に雲を作ることはできない。
 ならば!」
 くるりと一回転。そして、


「――日が照るのなら日を隠せばいいのよ!」
 

 そう堂々と宣言をすると、
「そうとなったら、早速準備をする必要があるわ! 咲夜ついてらっしゃい!」
 そう言って、地下の大図書館を出て行った。
「え? って、待ってください! お嬢様!」
 慌ててレミリアを追いかけに咲夜は走り出した。
 残されたパチュリーは、できたてのブリオッシュを見て、楽しそうに微笑む。
「なるほど、ケーキを食べればいいのね……」
 そして、淹れたての紅茶を一口飲み、そしてブリオッシュを一口いただく。
 誰もいない図書館で、知識の少女はつぶやいた。
「まあ、どうせ上手くいかないだろうけど、たまにはいい薬になるかもしれないわね……」
 幻想郷に降り注いでいる雨は、まだ止みそうにもない。



 幻想郷を紅い霧が覆ったのは、それから数日後の事だった――。
はい、どうもtotokoです。

前回とは打って変わってのまったく毛色の違うお話となりました。

変態だけが、totokoではないのであしからずですw
ちなみにタイトルは、"文学少女"っぽくしましたが、あんまりそんな感じの内容ではないですけどね。

それでは。
totoko
http://staphi.ehoh.net/
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コメント



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5.70名前が無い程度の能力削除
悪くないってか普通に面白かった。でも、良くも悪くも普通。
7.80Zeke削除
さっぱりとまとまって読みやすかったです。
じゅっとしてしゅーwww