「ただいま。あれ、サニーは?」
私が日課の散歩から帰ると、家にはスターしかいなかった。
「おかえり。サニーはなんか、さっき出かけちゃった」
「そっか。そういえば、スターは昨日作ったプリン、もう食べた?」
「うん。昨日の夜、食べちゃった」
「早っ」
「美味しかったよ」
ほわほわとした笑顔がまぶしい。それにしても、スターは行動がはやいなぁ。
――うん、昨日は楽しかった。
急に、サニーが甘いもの食べたい!
って言うから、皆で相談してプリンを作ることにしたの。
里まで行って、新鮮な卵をちょこっともらってきて……。
サニーがヘマして、鶏に見つかっちゃったのには驚いたわ。
クケー!ってくちばしでつつかれそうになって、急いで逃げてきた。
おかげでちょっとしか卵は手に入らなかったから、三つ作るのがやっとだったよ。
時計を眺める。もうちょっとでおやつかな。
だったら、サニーの帰りを待って一緒に食べようかな。
プリンって、はじめて作ったから楽しみ。いちばん手際がよかったのはスターだった。
私のも、おいしくできてるといいけど……。
「たっだいまー!」
そうこうしているうちにサニーが帰ってきた。なにか両手にかかえてる。
「おかえり、サニー。なにそれ?」
「お帰り。また香霖堂?」
ふっふっふ、と胸を張って勿体ぶっている。
見たところ、ただのガラクタみたいなんだけど。
「面白そうなものがあったからもらってきたの!」
「非、合法的に?」
「スター、それは、しー」
サニーが口元に人さし指をあてて口をつむぐようにいう。
あそこの店主はなにをやっているんだろうか。こんなんで大丈夫なのか。
「で、それはなに?」
気になったので訪ねてみる。
「ふっふっふ……よくぞ聞いてくれた。これは嘘発見器といって」
「うさんくさっ」
なんだかそのネーミング自体が嘘くさい……。
「もう、ルナ! 最後まで聞いてよ!」
「はいはい」
「ふっふっふ……よくぞ聞いてくれた。これは嘘発見器といって」
「そこからやり直すんだ……」
まったくだ。
スターのつっこみを無視して、サニーが続ける。
「この機械は嘘を聞きつけるとランプが光ってブザーが鳴るようにできているのだ!」
しばしの沈黙。それ、すごく実用性ないよね……。むだに大きいし。
「――二人とも黙っちゃってぇ、びっくりした?」
にたにたと自慢顔のサニーが少しかわいそう。思わずスターと顔を見合わせる。
確かにびっくりしたけどね。ちがう意味で。
「サニーはリリー・ホワイトのことが嫌い!」
出し抜けにスターが叫んだ。声が大きくて、思わずビクッ、としてしまう。
「……どうしたの? 急に」
「え? 機械がちゃんと動くなら、反応するんじゃない?」
嘘発見器は静かに緑色のランプを照らしていた。
「これは、嘘じゃない、ってこと?」
私がサニーをチラリとみると、サニーは冷や汗をかきながら口をひらいた。
「……だってあの人、春過ぎるじゃない……ちょっと、怖いよ」
「そうなんだ。てっきり反応するとおもったよ」
そうは言うけど、スターはここまで考えて言ってたんじゃないかな……。
「ま、まぁ、それは置いといて! ルナ、何か嘘言ってよ!」
嘘? 急に言われても困るよ。
うーん……。
「え、じゃぁ……サニーは嘘発見器を香霖堂からちゃんと買い取ってきた」
「ブー」
今度はけたたましい音と共に赤色のランプが点滅した。
「おー! ちゃんと動くみたいだね」
感心してるけどサニー、なんかダメくない? まぁ、いっか。
「ほら、何か他にはない?」
サニーが促す。改まって考えてみると、嘘ってなかなか出てこない。
こんなのはどうかな?
「……博麗神社の巫女は働き者」
「ブー」
ブザーが鳴り響き、赤いランプ。
「まぁ、そのまんまだね」
「……うん」
「ルナはドジっ子、じゃない!」
って、スター何それ?!
「ブー」
嘘発見器が騒々しいブザー音と一緒に赤色のランプが点灯した。
「うんうん。結構正確ね」
スターが満足そうに頷いている。納得いかないなぁ……。
「ルナは私達の中で一番のナイスバディ!!」
――っ!
「ちょ、ちょっと何言ってるのよサニー!!」
「あれ? 赤いランプは点いてるけど、ブザーならなかったね」
スターが言う。
うぅ……私だって、ちょっとくらい自覚はあるわよ……。
サニーがニヤッとこちらを見ている。
そっぽを向く。そっぽを向いたそちら側にいるスターと目が合う。
「ぺったんぺったん」
「っ、何の事よ! スター!」
「……お餅?」
……もういいよ。そんなこと言ったって、どうせドングリの背比べだもん……。
「今のはルナが音を消してたんだよね? ふーん、なかなかやるじゃん。この機械」
サニーが満足気に嘘発見器を眺めている。
もういいや。これに付き合っててもしょうがないし、おやつにしちゃお。
冷蔵庫の方へといく。
プリン、プリン。
ちょっとドキドキ。きっと表情はにやにやしてるかも。
「……って、あれ?」
「ルナ、どうしたのー?」
……な、い?
「私のプリン……ない」
「――ギクッ」
サニーの様子がなんか変だ。
「サニー! 何か知ってるでしょ!!」
「し、知らないよぉ」
「ブー」
「……あらあら」
機械の方に目をやると、スターは興味深げに赤いランプを眺めていた。
「サニー!!」
「い、いや、ちょっと見えなくしてるだけで」
「ブー」
ひょっとして……食べちゃったの……? 私、あんなに楽しみにしてたのに……。
……サニーと一緒に、食べたかったの、にぃ、……。
「ご、ごごゴメン! ルナ、ゴメン。あんまりにも美味しそうだったから」
「サニーの馬鹿!! サニーと一緒に食べようと、…思ってたのに、思ってたのに!!」
たかがプリンのことかもしれないけど、何故だかすごく悲しかった。
サニーとスターが慌てているのが、ちょっとだけ滲んでる。
「ルナ、落ち付いて」
「ゴメンね。そんなに楽しみにしてただなんて……」
知らないわよ! はじめて作った、記念のプリンなのに!!
「何よ……サニーなんて、」
家中が静まり返る。
「サニーなんて、大ッ嫌いッ!!!」
「ブー!」
嘘発見器が今までにないくらいのボリュームでブザーをならした。もちろん、ランプは赤。
しばらくブザーが鳴り響く。
ブザーの余韻も消え去って、静か。
ちょっと経ってから、スターが口を開いた。
「――また、皆でつくろ? それで、今度は皆で、一緒に食べよ?」
「……うん」
「…………私、ごめんね。ルナ」
サニーもちょっと、目が赤い。
「……私も、大嫌いとか言って、ごめん」
私とサニー、二人してしおらしくしてしまう。
「――ふふっ。やっぱり、嘘発見器、正確ね」
悔しいけど、スターの言う通りみたい。
やっぱり仲のいい彼女達が一番ですよね。
最低の作品。
和んだ。
対ツンデレ最終兵器ですな>ウソ発見器
それとも声の大きさに応じて音量が自動調節されるのですかね。
GJ!!