日が暮れ始めれば、夏の陽気も多少は過ごしやすくなる。
陽炎が揺らめいていたアスファルトには影がさし、スカイブルーの空は茜に染まる。
オレンジ色の世界。
全講義が終了し、人も疎らとなったキャンパス内を、私と蓮子は武道館にむけてよたよたと歩いていた。
彼女の話しによると、蓮子の一目惚れ相手は多分、今の時間は武道館に居る、とのこと。
相変わらずの行動力だけど、何時調べたのだろう?
武道館はグラウンドに側した体育館と校舎の間を更に奥へ行ったところに存在している。
それほどに広くはない空間を、主に柔道や剣道等のサークルが交代で使っている……と、小耳に挟んだことがある。
仕方がないのよ、私は蓮子と違って運動神経がいい訳でもないし、自分から進んで関わろうとも思わないし。
ま、まぁ、たまに運動不足かなぁと、思わないこともないけど……
「着いたわー」
そんな事を考えていると、不意に声がかけられる。
蓮子の言葉に、ぴたりと足を止めた。
武道館だ。
実際来るのは初めてなのだが、流石は武道館。
その厳格な雰囲気に少なからず気圧される。
「さ、さ、中に入りましょー」
そう言って、入口の引き戸を開ける蓮子。
カラカラカラと滑りよく開いた先には簀の子が敷かれ、『土足厳禁』と達筆な字で書かれた小さな看板が置かれていた。
「道場って、裸足のほうがいいわよね?」
靴を脱ぎながら、そう尋ねてくる蓮子。
「そうね。板張りの床に靴下ってのはマズいわ。滑るだろうし」
「そうな――」
蓮子が靴下を脱ごうと片脚をあげた瞬間ずるりと滑った。
時がゆっくりと流れ、蓮子が中を舞う。
ふわりとめくれ上がるスカート。
あ、白と水色のしましま……
刹那、そんな思考を持ちながら、蓮子が落下して行くのをただただ見届け…
次の瞬間――
「うきゃん!」
そんなかわいらしい悲鳴をあげつつ、蓮子はお尻から床に突っ込んだ。
遅れて床につくスカート。
一瞬、先の喫茶店の事を思い出し、罰が当たったのよとか考えてしまったが、直ぐにその考えは飲み込んだ。
い、痛そう。
「れ、蓮子?今、かなり凄い音がしたけど……大丈夫?」
心配になり、蓮子の顔を覗き込んでみる。
すると、案の定彼女は肩を震わせつつ瞳に涙を溜めて――
「い、いっ…たくない…」
そんなことを宣った。
……いや、痛いだろ。
「嘘、めっちゃ目潤んでるじゃない……」
「いっ、痛くない……」
「立てる?お尻痛いだろうから手貸すけど?」
「……痛くない……はず……」
よく言えば感動、悪く言えば呆れ、心配する気も失せた。
どこまで彼女は強情なのだろうか?
素直に痛いと言えばいいのに。
苦笑いしつつ、蓮子に手を貸して立たせようとした瞬間――
「おや?誰かいるのかい?」
道場の奥から男性の声が響いてきた。
サークル活動していた人だろうか?
入口からひょっこりと男性が顔を出した。
脱色や髪染めなどまるでしていない黒く、長い髪を後ろで纏めあげ、黒淵の眼鏡が目を引く。
身長はそれほど高くなく、私や蓮子よりも少し高い程度。
が、その体はどちらかといえば武道家にしては細過ぎると印章を受けるほどである。
「め、メリー。あの人……」
傍らで頬を染めつつ、ぼそぼそと耳打ちしてくる蓮子。
成る程、その反応から察するに、彼が蓮子の思いの人、と。
偶然って恐ろしいわ……
「ん、入部希望かい?」
そう言って、男性がつかつかと近づいてくる。
と思えば、ぴたりと動きを止め――
「う……」
何故か勢いよく視線を逸らす男性……
なんだその反応は?
「す、すまん!」
そのまま、わけも判らず頭を下げられた。
いや、なんで――
「その、早く立ったほうがいい、他の連中が来る前に……」
視線を外したまま、蓮子に向け、そんな事を言う男性。
早く立ったほうがいい?
立つのは判るが、何故早く?
そんな調子で、男性の言葉に疑問を感じつつ、床で座り込む蓮子に視線を下げ……
――――
固まった。
「な、なに?私になんか付いてる?」
相変わらずわけわからないといった表情で首を傾げる蓮子。
気付かないのなら、言いにくいが答えてあげるのが礼儀だろうか?
相変わらず男性は顔を真っ赤にしたまま視線を逸らしている。
はぁと溜息をつきつつ、腹をくくる。
言うしかないか……
「蓮子、落ち着いて足元を見てみなさい」
「足元?」
私の言葉に怪訝そうに眉を潜めた後、蓮子はゆっくりと視線を落として――
「あ゙」
そんな言葉を漏らした。
場の空気が凍る。
状況の掴めない方々にも判るように説明すると、
『スカートがめくれて、パンツが見えちゃった(はぁと)』
と。
「判ったなら早く――「いゃぁぁぁぁぁぁああ!」
素っ頓狂な叫びをあげながら、人とは思えぬ俊敏な動作で立ち上がり……
「れ、蓮子、落ち着――」
「この、変態っ!」
「おごぉ!?」
私を押しのけ、明らかにお門違いな事を叫びながら、あろうことか男性に殴り掛かった。
勿論グーで。
絶対痛いだろうな……グーだし、変な音したし……
放物線状に飛び散る男性の鼻血と、哀れな姿を視線で追いつつ、私は蓮子の失恋を確信したのだった。
あーめん。
*******
「人生には失敗は付き物だわ」
赤ら顔の女は、私の問いにそう答えた。
呼んでもいないのにアパートに押しかけ、眠いー等と宣いつつ私のベットに突っ伏した女、宇佐美蓮子は、現在私の隣でカクテルをぐびぐびと飲んでいた……
床には既に四本の空き缶が転がっていて、そのうちの四本。
つまり、全てが蓮子の空けたものである。
因みに、私はまだ、一本目をちびちびとやっている。
「むしろ、人生は失敗なのよ」
酔っているのか、不必要に大きな声で話す蓮子。
実に気持ちが良さそうだ。
出来上がっているのかも知れない。
「極論に跳んだわね」
蓮子の話しを遮るように、意見を述べる。
普通は失敗は成功の元とか言うべきところじゃないかしら?。
まぁ違う意味で私達は普通ではないのだけれど……
「失敗してから後の事は考えればいいのに、なんだって行動しないのかしら?」
「行動を起こした場合のリスクを、知らず知らずのうちに考えてしまうのよ」
つまるところの、人間の恐怖感、恐怖心とゆうやつだ。
もし、変化をきたして、回りの人々まで変わってしまったら……そう考えてしまう。
「リスク?」
眉ねを寄せ、眉間に深いシワを寄せながら首を傾げる蓮子。
「そう、リスク。例えば、このアパートにあと何年もいなくちゃいけないのに、行動を起こした結果、蓮子が大騒ぎして居心地が悪くなってしまうとか?」
まぁ、今なお煩いのには変わりないのだけれど……
くすくすと笑っていると、蓮子は不機嫌そうに頬を膨らませる。
「何で疑問系なのよ?っというかメリー、私の事をそんな目で見ていたの?」
メリーの活けずーなどと訳の判らないことをぼやく蓮子。
まぁ、ニヤついているから、きっと楽しいんだろう。
そのあまりのかわいらしさに、思わず吹いてしまう…
つられて蓮子も笑いだし、狭い部屋には二人の笑い声が響いた。
「仕方ないじゃない、自分でもよくわからないんだから」
それに例え話だし、と続ける。
ぐいっと五本目を飲み干した蓮子は、次なるターゲットを探しに傍らに置かれた小型冷蔵庫を漁り始める。
因みに、この冷蔵庫は蓮子の持ち込みだったりするのよね。
全く関係ないけど……
「ふぅん…でも私だったらこう考えるな…『出来事をうやむやにやり過ごしていくうちに自分がわからなくなってしまう』そんなリスクの方が大きいとは思わない?って」
私にお尻を向けたまま、そう続ける蓮子。
うん、成る程。
正しいかもしれない……
流石は行動力のある彼女の意見、といったところか。
やはり、彼女には私にないものがある。
「そうね。なんでそんな事に気付かなかったのかしら?そのほうがよっぽど怖いじゃないの」
これだから彼女との会話はやめられない。
「でしょ?だったら動いたもん勝ちなのよ」
ばっと立ち上がり、腰に手を当てカクテル一気に飲み干す蓮子。
くるりとまわり、千鳥足で窓辺へとむかう。
空には星々が爛々と輝き、狭い窓の隙間からでも見てとれた。
「ん、十一時三十九分二十秒!」
何が嬉しいのか、弾んだ声で突然叫ぶ蓮子。
「つーわけで…」
トレードマークでもある、つば付きの帽子を指で弾き、こちらに向き直る。
「いくわよ、メリー!」
ニヒルな笑みを浮かべ、彼女はそう宣言した。
だが……
何処に行く気なのよ。
つーか、蓮子煩い。
「まぁ、蓮子が何を言ったところで、失恋の事実は変わらないわよ?」
ぴしゃりと言い切ると、蓮子の笑顔が崩壊した。
「うわぁぁぁぁん!メリーの馬鹿あ!」
そう言って、ぽかぽかと殴りつけてくる蓮子。
いた、痛い…
「おたんこなす!オニババァ!」
……幼稚だ。
幼稚すぎる……
酔ってる?
ねぇ、酔ってるわよね?
「そんなこと言ったって、私はそんな幼稚な挑発には乗らな――」
「寸胴!右肩上がりの体重計!メリーなんか将来メタボになっちゃえばいいのよ!」
―――
―――
私の中で、なにかが切れる音がした。
「デブと言ったかぁぁぁぁあ!?」
「うぐはっ!?」
殴った。
全力で……
昼間のリプレイを眺めるかのように、放物線を描く蓮子。
やがてどしゃりと床に落ちる蓮子を見て、私はただ、留まることのないため息を虚空に向けてついたのだった。
陽炎が揺らめいていたアスファルトには影がさし、スカイブルーの空は茜に染まる。
オレンジ色の世界。
全講義が終了し、人も疎らとなったキャンパス内を、私と蓮子は武道館にむけてよたよたと歩いていた。
彼女の話しによると、蓮子の一目惚れ相手は多分、今の時間は武道館に居る、とのこと。
相変わらずの行動力だけど、何時調べたのだろう?
武道館はグラウンドに側した体育館と校舎の間を更に奥へ行ったところに存在している。
それほどに広くはない空間を、主に柔道や剣道等のサークルが交代で使っている……と、小耳に挟んだことがある。
仕方がないのよ、私は蓮子と違って運動神経がいい訳でもないし、自分から進んで関わろうとも思わないし。
ま、まぁ、たまに運動不足かなぁと、思わないこともないけど……
「着いたわー」
そんな事を考えていると、不意に声がかけられる。
蓮子の言葉に、ぴたりと足を止めた。
武道館だ。
実際来るのは初めてなのだが、流石は武道館。
その厳格な雰囲気に少なからず気圧される。
「さ、さ、中に入りましょー」
そう言って、入口の引き戸を開ける蓮子。
カラカラカラと滑りよく開いた先には簀の子が敷かれ、『土足厳禁』と達筆な字で書かれた小さな看板が置かれていた。
「道場って、裸足のほうがいいわよね?」
靴を脱ぎながら、そう尋ねてくる蓮子。
「そうね。板張りの床に靴下ってのはマズいわ。滑るだろうし」
「そうな――」
蓮子が靴下を脱ごうと片脚をあげた瞬間ずるりと滑った。
時がゆっくりと流れ、蓮子が中を舞う。
ふわりとめくれ上がるスカート。
あ、白と水色のしましま……
刹那、そんな思考を持ちながら、蓮子が落下して行くのをただただ見届け…
次の瞬間――
「うきゃん!」
そんなかわいらしい悲鳴をあげつつ、蓮子はお尻から床に突っ込んだ。
遅れて床につくスカート。
一瞬、先の喫茶店の事を思い出し、罰が当たったのよとか考えてしまったが、直ぐにその考えは飲み込んだ。
い、痛そう。
「れ、蓮子?今、かなり凄い音がしたけど……大丈夫?」
心配になり、蓮子の顔を覗き込んでみる。
すると、案の定彼女は肩を震わせつつ瞳に涙を溜めて――
「い、いっ…たくない…」
そんなことを宣った。
……いや、痛いだろ。
「嘘、めっちゃ目潤んでるじゃない……」
「いっ、痛くない……」
「立てる?お尻痛いだろうから手貸すけど?」
「……痛くない……はず……」
よく言えば感動、悪く言えば呆れ、心配する気も失せた。
どこまで彼女は強情なのだろうか?
素直に痛いと言えばいいのに。
苦笑いしつつ、蓮子に手を貸して立たせようとした瞬間――
「おや?誰かいるのかい?」
道場の奥から男性の声が響いてきた。
サークル活動していた人だろうか?
入口からひょっこりと男性が顔を出した。
脱色や髪染めなどまるでしていない黒く、長い髪を後ろで纏めあげ、黒淵の眼鏡が目を引く。
身長はそれほど高くなく、私や蓮子よりも少し高い程度。
が、その体はどちらかといえば武道家にしては細過ぎると印章を受けるほどである。
「め、メリー。あの人……」
傍らで頬を染めつつ、ぼそぼそと耳打ちしてくる蓮子。
成る程、その反応から察するに、彼が蓮子の思いの人、と。
偶然って恐ろしいわ……
「ん、入部希望かい?」
そう言って、男性がつかつかと近づいてくる。
と思えば、ぴたりと動きを止め――
「う……」
何故か勢いよく視線を逸らす男性……
なんだその反応は?
「す、すまん!」
そのまま、わけも判らず頭を下げられた。
いや、なんで――
「その、早く立ったほうがいい、他の連中が来る前に……」
視線を外したまま、蓮子に向け、そんな事を言う男性。
早く立ったほうがいい?
立つのは判るが、何故早く?
そんな調子で、男性の言葉に疑問を感じつつ、床で座り込む蓮子に視線を下げ……
――――
固まった。
「な、なに?私になんか付いてる?」
相変わらずわけわからないといった表情で首を傾げる蓮子。
気付かないのなら、言いにくいが答えてあげるのが礼儀だろうか?
相変わらず男性は顔を真っ赤にしたまま視線を逸らしている。
はぁと溜息をつきつつ、腹をくくる。
言うしかないか……
「蓮子、落ち着いて足元を見てみなさい」
「足元?」
私の言葉に怪訝そうに眉を潜めた後、蓮子はゆっくりと視線を落として――
「あ゙」
そんな言葉を漏らした。
場の空気が凍る。
状況の掴めない方々にも判るように説明すると、
『スカートがめくれて、パンツが見えちゃった(はぁと)』
と。
「判ったなら早く――「いゃぁぁぁぁぁぁああ!」
素っ頓狂な叫びをあげながら、人とは思えぬ俊敏な動作で立ち上がり……
「れ、蓮子、落ち着――」
「この、変態っ!」
「おごぉ!?」
私を押しのけ、明らかにお門違いな事を叫びながら、あろうことか男性に殴り掛かった。
勿論グーで。
絶対痛いだろうな……グーだし、変な音したし……
放物線状に飛び散る男性の鼻血と、哀れな姿を視線で追いつつ、私は蓮子の失恋を確信したのだった。
あーめん。
*******
「人生には失敗は付き物だわ」
赤ら顔の女は、私の問いにそう答えた。
呼んでもいないのにアパートに押しかけ、眠いー等と宣いつつ私のベットに突っ伏した女、宇佐美蓮子は、現在私の隣でカクテルをぐびぐびと飲んでいた……
床には既に四本の空き缶が転がっていて、そのうちの四本。
つまり、全てが蓮子の空けたものである。
因みに、私はまだ、一本目をちびちびとやっている。
「むしろ、人生は失敗なのよ」
酔っているのか、不必要に大きな声で話す蓮子。
実に気持ちが良さそうだ。
出来上がっているのかも知れない。
「極論に跳んだわね」
蓮子の話しを遮るように、意見を述べる。
普通は失敗は成功の元とか言うべきところじゃないかしら?。
まぁ違う意味で私達は普通ではないのだけれど……
「失敗してから後の事は考えればいいのに、なんだって行動しないのかしら?」
「行動を起こした場合のリスクを、知らず知らずのうちに考えてしまうのよ」
つまるところの、人間の恐怖感、恐怖心とゆうやつだ。
もし、変化をきたして、回りの人々まで変わってしまったら……そう考えてしまう。
「リスク?」
眉ねを寄せ、眉間に深いシワを寄せながら首を傾げる蓮子。
「そう、リスク。例えば、このアパートにあと何年もいなくちゃいけないのに、行動を起こした結果、蓮子が大騒ぎして居心地が悪くなってしまうとか?」
まぁ、今なお煩いのには変わりないのだけれど……
くすくすと笑っていると、蓮子は不機嫌そうに頬を膨らませる。
「何で疑問系なのよ?っというかメリー、私の事をそんな目で見ていたの?」
メリーの活けずーなどと訳の判らないことをぼやく蓮子。
まぁ、ニヤついているから、きっと楽しいんだろう。
そのあまりのかわいらしさに、思わず吹いてしまう…
つられて蓮子も笑いだし、狭い部屋には二人の笑い声が響いた。
「仕方ないじゃない、自分でもよくわからないんだから」
それに例え話だし、と続ける。
ぐいっと五本目を飲み干した蓮子は、次なるターゲットを探しに傍らに置かれた小型冷蔵庫を漁り始める。
因みに、この冷蔵庫は蓮子の持ち込みだったりするのよね。
全く関係ないけど……
「ふぅん…でも私だったらこう考えるな…『出来事をうやむやにやり過ごしていくうちに自分がわからなくなってしまう』そんなリスクの方が大きいとは思わない?って」
私にお尻を向けたまま、そう続ける蓮子。
うん、成る程。
正しいかもしれない……
流石は行動力のある彼女の意見、といったところか。
やはり、彼女には私にないものがある。
「そうね。なんでそんな事に気付かなかったのかしら?そのほうがよっぽど怖いじゃないの」
これだから彼女との会話はやめられない。
「でしょ?だったら動いたもん勝ちなのよ」
ばっと立ち上がり、腰に手を当てカクテル一気に飲み干す蓮子。
くるりとまわり、千鳥足で窓辺へとむかう。
空には星々が爛々と輝き、狭い窓の隙間からでも見てとれた。
「ん、十一時三十九分二十秒!」
何が嬉しいのか、弾んだ声で突然叫ぶ蓮子。
「つーわけで…」
トレードマークでもある、つば付きの帽子を指で弾き、こちらに向き直る。
「いくわよ、メリー!」
ニヒルな笑みを浮かべ、彼女はそう宣言した。
だが……
何処に行く気なのよ。
つーか、蓮子煩い。
「まぁ、蓮子が何を言ったところで、失恋の事実は変わらないわよ?」
ぴしゃりと言い切ると、蓮子の笑顔が崩壊した。
「うわぁぁぁぁん!メリーの馬鹿あ!」
そう言って、ぽかぽかと殴りつけてくる蓮子。
いた、痛い…
「おたんこなす!オニババァ!」
……幼稚だ。
幼稚すぎる……
酔ってる?
ねぇ、酔ってるわよね?
「そんなこと言ったって、私はそんな幼稚な挑発には乗らな――」
「寸胴!右肩上がりの体重計!メリーなんか将来メタボになっちゃえばいいのよ!」
―――
―――
私の中で、なにかが切れる音がした。
「デブと言ったかぁぁぁぁあ!?」
「うぐはっ!?」
殴った。
全力で……
昼間のリプレイを眺めるかのように、放物線を描く蓮子。
やがてどしゃりと床に落ちる蓮子を見て、私はただ、留まることのないため息を虚空に向けてついたのだった。
普通に和めました!wb
和ませて頂きました。