Coolier - 新生・東方創想話

大気圏突破

2009/05/25 18:58:54
最終更新
サイズ
10.22KB
ページ数
1
閲覧数
1149
評価数
15/39
POINT
2250
Rate
11.38

分類タグ

 私は今狂喜にうちふるえていた。
―――まさか、このようなところで。
 重厚さを保ちつつも羽のように軽く、固くもありながら柔らかい。そんな矛盾をはらんだ存在。
 私は、手の震えを抑えてそれを手にした―――




―――――――――――――――――――――――――





 今日、私は眠りから目覚めた。体を起こした瞬間、冷気が襲ってくる。まだ冬の真っただ中のようだ。
 例年、こんなに早く目が覚めることはない。たまにはそんなこともあるかと思い、二度寝に入ろうとしたが―――
―――なんだこの波動は?
 違和感に気付く。それは、とても異質なもの。霊力でなければ、魔力でもなく、妖力でもない。
 私は布団をはねのけ、身支度をする。眠いが、異変を放っておくわけにはいかない。

 「藍、ちょっと出かけてくるから。」
 橙に膝枕をし、頭をなでていた藍は、起きている私を見て驚いた顔をしたが、それも一瞬のこと。私のただならぬ様子を見て、すぐに真剣な表情になる。
 「……どちらまで?」
 「わからないわ。……ただ、呼び出しにはすぐに応じられるようにしておきなさい。」
 異変ならば、藍の手を借りなければいけない事態も発生し得る。その旨を伝えると、私はすぐにスキマを開き飛び込む。
 「承知いたしました。どうかお気をつけて。」
 藍の声を背に受け、スキマを閉じた。


 
 まず向かったのは、博麗神社。すぐに霊夢の姿を探す。―――が、探すまでもなかったようだ。スキマから出た途端、札が襲い掛かってくる。私はまたスキマを開き、その中に身を落とす。
 「……一体、何の用かしら?紫。」
 スキマから出てみると、仏頂面をした霊夢が目の前にいた。それはいつものことだが、今回に限ってそれはおかしい。
 「霊夢。あなた、何も感じていないの?」
 博麗の巫女、博麗霊夢。彼女がこんなに大きな波動を見逃すはずがないのだ。しかし霊夢は表情をそのままに、皮肉を返してくる。
 「あぁ、アンタが来たせいで少し苛立ちを感じたわね。」
 「真面目に答えなさい、霊夢。」
 そこでやっとただならぬ気配を感じ取った霊夢は、表情を引き締め、こちらを真っ直ぐに見返してくる。
 「……なにも。アンタが寝てた間も、平和そのものだったしね。」
 「そう。お邪魔したわね。」
 そう言い残してまたスキマに飛び込む。後ろから霊夢が何か言っていたが、状況を説明する時間が惜しい。
―――これはいよいよ異常だ。
 何か異変が起こっているならば、その事態を真っ先に感じ取るべき博麗の巫女は何も気づいていない。
―――これは、一人でやるしかないわね。
 私はスキマを切り裂いた。

 次に下りた場所は白玉楼。ここの住人は皆生きていない。だから、幻想郷に存在するものの中で最も異質な力を操る。そこに私は共通点を見出したのだが―――
 「そう。でも残念ね、私は何も知らないわ。」
―――外れだったようだ。
 幽々子はそう言って、みかんを一房口に含む。
 「嘘、ついてないわよね?」
 「そんなことして何になるというのかしら?紫。あなたと敵対しても得られることなど一つもないわ。」
 「その通りね。愚問だったわ。」
 私はため息を一つつくと、炬燵から出て、すぐにスキマを開く。
 「あら、もう行っちゃうの?」
 「ええ。どうも、異変を感じているのは私だけみたいでね。今回は私が動かないとダメみたい。」
 そう言うと、幽々子は怪訝な表情をする。
 「博麗の巫女は?」
 「霊夢ですら何も気づいていなかったわ。」
 そう返すと、幽々子は口元に手を遣り、考え始めた。私も今はひたすらに意見がほしい、スキマを閉じ、腰を下ろす。
 そしてしばらくすると、幽々子が口を開く。
 「……そうね、私も何も感じないし、博麗の巫女も何も気づいていない。でもあなただけが、何かを感じる、ということよね?」
 「ええ。」
 私は手短に返し、続きを促す。
 「あなただけが気付いている、というところにヒントがあると思わない?」
 「つまり?」
 「博麗の巫女が感じ取ることができるものは、この幻想郷の中にある、またはあったものだけ。これは間違いないわよね?」
 頷く。厳密には似たようなものでも可なのだが、幽々子も分かって省いているのだろうから黙っている。
 「そしてあなたは外の世界にちょくちょく行っているわよね?」
 「……まさか。」
 幽々子は小さくうなずくと、続きを語る。
 「おそらく、外の世界から入って来た全く新しいもの、または概念を持つ何かでしょうね。それならばあなただけが感じ取れる、というのもうなずけるわ。」
 それを聞くと、私は立ち上がり、スキマを開く。
 「貸し1よ、紫。」
 「ええ、わかってるわ。それじゃね、幽々子。」
 そしてスキマを閉じた。


 
 そして最終的にたどり着いたのはここ、香霖堂。その前に外から流れ着いたものが集う無縁塚に行き、確認をしてみたがそこには残滓だけ。
 そして無縁塚には無いということは、誰かが持ち去った、ということ。そんなモノ好き、一人しかいない。先回りして店内で待っていると、やっと店主が帰ってきた。
 「おかえりなさい、お邪魔しておりますわ。こんな雪の中、お疲れさま。」
 「……どうしたんだい?こんな時期に。珍しいじゃないか。」
 店主、森近霖之助が大きな籠を背負い、店に帰って来た。
 「あなたの荷に用がありますの。少し、拝見いたしますわよ。」
 「いいけど、壊さないでくれよ。」
 「そんなこといたしません。目当てのものが見つかったらすぐに出ていきますわ。」
 
 

―――そして冒頭のシーンにつながる。
 原因がこれだったとは。なんという偶然!なんという幸運!なんという……ッ!
 私は震える手で財布を取り出し、開けようとするもなかなか開いてはくれない。
 「……何をやっているんだい?」
 私は舌打ちをひとつ、財布を放る。
 「釣りはいりませんわ。」
 少し多いかもしれないが、まあいいだろう。
 呆然とする店主を尻目に、スキマに身を落とした。
 
 スキマから出て、自室に降り立った私はまず姿見の前に行き、肩を合わせる。
―――ふむ。わたしに合わせてこれなら、霊夢にはぴったりのはずだ。
 「紫様?お帰りになられていたのです……か……。」
 ノックもせずに部屋に入って来たのは私の式神。口を半開きにしたまま、固まっている。
 「ノックくらいしなさいな、藍。」
 声をかけるも、返事がない。少し待とう。
 やっと再起動すると、戸惑ったような眼をこちらに向ける。
 「紫様、それは何でしょうか?」
 「外の世界でバ○アジャケットと呼ばれているものよ。」
 「……ババアジャケット?」
 「バリ○ジャケットよ!ババシャツの進化形みたいに言わないでちょうだい!」
 そう、無縁塚に流れ着き、私を惹きつけてやまなかったもの、それはこのバ○アジャケット。さすがにレプリカだが、特に問題ない。大事なのは見かけだ。
 全体的に白を基調とした詰め襟状のインナースーツ、肩部に赤い宝石をあしらいったジャケット。その前面を大きなリボンで止めている。そして下はロングスカートで、清楚さを最大限に引き出している。
 なぜ幻想郷に流れ着いたのかは知らないが、というかどうでもいいが、私にだけ感じ取れたのはおそらく幽々子の言ったとおり、というのもあろうが、それよりも私がこれを求めてやまなかった心が起こした奇跡だ。奇跡だ!
 私は外の世界でこれを初めて見たとき、衝撃に言葉を失った。このようなものが世界にあるとは。そして霊夢がこれを着た姿を想像した時、私の精神は成層圏を突き抜け、月にまで到達した。そしてこれを着た霊夢を抱きしめ、この腕の中で一枚ずつ脱がし(以下自主規制)
 その思いが無意識のうちに私を冬眠から目覚めさせた!これを奇跡と呼ばずなんとする!
 そんなことを考えていると、顔に出ていたのか藍が若干引いている。が、そんなことはこの魔法の呪文で一撃だ。
 「藍、想像してごらんなさいな。これを着た橙を!」
 唇に指をあてて考え込む藍。見る見るうちにだらしのない顔になってゆく。
 「素晴らしいです紫様!ぜひっ!是非ともそれを貸してはいただけませんでしょうか!」
 ちょろいもんね。しかし、
 「だめよ、藍。まずは霊夢に着せないと。」
 これだけは譲れない。
 「それではその後でいいので、どうか!」
 ま、それならいいでしょ。
 「ありがとうございます!」
 「じゃ、私はもう一度出かけるわ。それと、晩御飯はいらないから。」
 うまくいけば伽行きだし、ね。
 「わかりました、ご武運を!」
 「ありがと、藍。それじゃあね。」
 そう言い残し、スキマを開く。
 もちろん、行先は博麗神社だ―――



 異変が起きたらしいということで落ち着かない雰囲気を出しつつも、炬燵に入ってお茶をすすっている霊夢。その対面にスキマを開き、炬燵に入る。
 「早かったわね。で、首尾はどうだった?」
 「上々よ。」
 一応気にはなっていたらしく、すぐにそう聞いてくる。と、こちらもこの一件の顛末を話し、最後に例の服をスキマから取り出す。
 「それで、これを着てほしいの。」
 「嫌。」
 まぁ、そう来るとは思っていたわよ。でもね。
 「あなた、この異変に気付かなかったわよね?」
 「……。」
 霊夢はこう見えて責任感が強い。異変が起きた時、出ることを渋ることもあるが、必ず最終的には異変解決にかかわる。
 「それは問題よ、霊夢。博麗の巫女たるあなたがそんな様でどうするのよ。」
 そこをつく。
 「代わりに私が解決してきてあげたのよ?今回は放っておいても問題のないケースだったから良かったけど、外の世界からの侵攻、とかだったらどうするのよ。」
 まぁ、実際は今回は私にしか気付きようがないが、そんなこと、言う必要はない。要は霊夢にこれを着させればよいのだ。
 「と、言うことでこれ着て。」
 そう言うと、霊夢は一つ息を吐き。
 「……わかったわよ。確かに最近たるんでたかもしれないわ。それに借りを作っておくのも嫌だし、ね。」
 「さっすが霊夢、話が分かるぅ。」
 心の中で盛大にガッツポーズをとりつつも、そんなことは微塵も見せず服を差し出そす。
 「じゃ、早速着て。」
 「……それなんだけどね、紫。さすがの私にも羞恥心というものがあるわ。」
 「なによ、ここまで来て渋る気?」
 「そうじゃなくて。この服に慣れたいから1日だけ貸してくれない?」
 ふむ。霊夢の性格なら一瞬で着替えてハイ終わり、というのが最も予想された展開―――もっとも、そんなことできないように一回着たら私が解呪しないと脱げないようになる術を服に織り込んであるが―――なのだけれど。まぁ、やる気を出す分には構わない。
 「じゃ、それでいいわ。でも約束ね。破かない、捨てない、汚さないこと。この3つだけは守ってね。」
 まぁ、明日になれば間違いなく見れる、焦ることはない。これも一種の焦らしプレイだと思えばいいのだ。
 「わかってるわよ。私が約束を破ったこと、ある?」
 「あるわよ。……でもま、今回は信じるわ。」
 今回は負い目があるからね。さすがにそんなことはしないでしょう。
 「じゃあ、また明日ね。じっくりポーズの練習でもやっておきなさいな。」
 そう言ってウインクを一つ投げた後、霊夢の別れの言葉を背にしてスキマに入る。
―――明日が楽しみね。
 私はスキマを閉じた。






――――――――――――――――――――――――――――







 私はスキマが完璧に閉じたことを確認し、ほくそ笑んだ。
―――うまくいった。
 喉を静かにならす。
 まさか今回の異変もどきの原因がこれだとは思わなかった。前に香霖堂で見た本に載っていた服。
 私がそれを初めて見たとき、衝撃の余り精神は成層圏を突き抜けはるか高みまで上った。そしてこれを魔理沙に着せ、四肢の自由を奪い、背後から一枚一枚服を(以下自主規制)そんな光景を想像した私は、残りの精神を鼻から噴出した。
 これほど渇望していたものを、まさか紫が持ち込んでくるとは。
 結果として明日私も着ることになってしまったが、そんなことは些事。
 私はその服を丁寧に畳み、風呂敷に包む。そしてそれを背負うと、雪よけの結界を張り、霧雨魔法店に向けて飛び立った。この雪ならば、結界も張れない魔理沙は間違いなく家に閉じこもっているだろう。
―――今夜は楽しくなりそうだ。
 私は雪の降る曇天に溶けていった。




                                 End.
「バ○アジャケット」
 これを見たとき、私の精神は成層圏を突破し、遥か高みにまで上った。そして太陽に近づきすぎて蒸発した。
 そんな話。

 東方SS二作目がこんなんでいいのでしょうか、らすぼすです。ご意見、ご感想お願いいたします。
らすぼす
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1010簡易評価
5.100名前が無い程度の能力削除
いや、待て!リリ○ル○のは、幻想入りするにはまだ早すぎるぞ!!
だがそのシチュエーション、実に良い
6.100名前が無い程度の能力削除
紫→霊夢→魔理沙の悲しくも優しい愛の一方通行…

…なんてことは全くなかったぜ!皆が皆欲望に忠実過ぎる!
賢者様がこうなら幻想郷の平和は揺ぎ無いものだと確信できるなw
7.90煉獄削除
藍は橙に、紫様は霊夢に、霊夢は魔理沙にバリ○ジャケットを着せたいと……。
皆それを着る人を想像した結果、欲望のままに突き進んでて面白かったですよ。
8.100名前が無い程度の能力削除
紫→霊夢→魔理沙
↑     |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
というわけのわからない三角関係で修羅場が幻視出来てしまった!www
14.60名前が無い程度の能力削除
ババアジャケットでババシャツの進化系という解釈はステキでした。
あと、衣装が人気すぎて吹きました(笑)
15.90名前が無い程度の能力削除
一回着たら紫が解呪しないと脱げない服を、霊夢が魔理沙に着せたら…どうなるのかなぁ?
コレは続編を期待せざるを得まい!(w
16.70名前が無い程度の能力削除
次回は魔法少女リリカルまりさがはじまるんですね、わかります
19.100名前が無い程度の能力削除
吹いたわーババアジャケット吹いたわー
20.90名前が無い程度の能力削除
レイハさんならマスタースパークの発射くらいワケがない……とおもったけど、バリアジャケットのコスプレ衣装だけかw
24.100名前が無い程度の能力削除
まさにトライアングラーw
25.100名前が無い程度の能力削除
スペカがマスパからディバインバスターへと変化するんですね
26.30名前が無い程度の能力削除
ゆか→れいむタグを見て読んだ。
オチがまりさだった。
27.50名前が無い程度の能力削除
ん~……ゆか→れいむとしてはこんな点数
31.70名前が無い程度の能力削除
なるほどー。確かにゆか→(一方通行)→れいむだー。
33.無評価らすぼす削除
 すみません、らすぼすです。なぜか編集しようとするとエラーが発生するのであとがきの追記をこちらでやらせていただきます。

 まずはコメント、評価をくださった方々に最大の感謝を。ありがとうございました。
 まさか2000点に届くとは思いませんでした。構想2分、執筆3時間の代物だったので。それが前作に届きそうとなると、なかなか複雑なものがあります。
 内容については、
「これはバ○アジャケットよ」
「ババアジャケット?」
 このくだりがやりたかっただけなんですよね、はい。ですので期待してくださった方には申し訳ないのですが続編の予定はありません。あっても魔理沙ではなく妖夢に着せる話になるかと思われます。
 それと、タグが予想外の働きをしたらしく、ゆか→れいむタグを見てきてくださった方には申し訳ないことをしたと思っています。しかし、このタグは作品上意味のあるものなのでそのまま残させていただきます。すみません。

 それでは今回はこの辺で失礼します。次もまた、よろしくお願いします。
36.90名前が無い程度の能力削除
駄目だこいつら…早く何とかしないと…