y東方の金曜日
第13話「T‐Jの最期、最後の犠牲」
朝を迎えたR島。だが、それでも戦いは終わっていなかった。
氷の洞窟。R島で唯一、寒い場所である。何故あるのかは不明だが、氷に囲まれた神秘の場所である。
その場所で激闘を繰り広げている2名。輝夜とT‐Jである。
既に輝夜は傷ついていた。血を吐いたのはこれで何回目だろう?何回死んだことになっているんだろう?
肩で息しつつ、輝夜は苦戦していた。やはり御姫様が殺人鬼機械人形には勝てないのだ。
「(やはり、永琳の言う通り、外で遊んだほうが良かったかな・・・。)」
長年、引き籠ったつけだと輝夜は自嘲気に笑い、T‐Jに弾幕を張った。
T‐Jは神奈子やレミリア達との戦いに勝ったとはいえ、決して無傷ではなかった。だが、輝夜の弾幕をかわしている。
武器がないとはいえ、素手で輝夜に応戦する。T‐J自体がT‐Jの凶器だ。
そして、手刀による突きで輝夜の胸を貫いた。再び、血を吐く輝夜。
自分の力はここまでなのか?不老不死であろうと、奴には勝てないのか?皆の無念を晴らせないのか?
そう言う絶望感に襲われた時、輝夜はある場所を発見する。
それは氷の壁だった。ふと、輝夜はある提案を思いつく。
「(・・・これなら・・・5つの難題を上回るこれさえあれば、奴を倒さずとも・・・勝てる・・・。)」
確かにあれは打倒妹紅の為に取っておいたもの。危険は大きいが、今こそ使うべきだ。
そして輝夜は自分の胸を貫いたT‐Jの手を掴み、はなさまいと力を込める。
「これで、終わりよ・・・。」
幻想郷と月の平和の共存。それは輝夜にとって、2つの故郷に対する思いやりの願いであった・・・。
だからこそ、彼女は発動する。妹紅の炎に対抗する手段の力を。
「永琳・・・鈴仙・・・てゐ・・・永遠はきっとあるよ・・・。」
それが、輝夜の最後の言葉だった・・・。
「そ、そんな・・・。嘘よ・・・。」
氷の洞窟に入り、その光景を見た永琳は絶句する。鈴仙達も同様だった。
姫が行方不明だという事に気付き、必死の思いで探す3人。そして氷の洞窟で見たものは・・・。
氷に包まれ、動かなくなった輝夜の姿だった・・・。
「輝夜・・・!どうして・・・!」
氷に阻まれつつも彼女の顔に手を置き、泣き崩れる永琳。まただ。また自分は彼女をひどい目に合わせてしまった。
確かに輝夜は不老不死だ。だが、死なないとはいえ、氷の中では意識不明になってしまうのだ。
てゐが持っている杵で氷を壊そうとするが、鈴仙が止める。何故だと顔をあげるてゐ。
「あれは、蓬莱家に伝えられる伝説の難題『冷酷の氷』・・・。伝説だと、一瞬にして凍らせ、その氷は本人の意思でしか壊せない仕組みになっているの・・・。」
そう言い、鈴仙は項垂れた。誰も輝夜を救えない・・・そんな絶望感が辺りを包む。
「御免・・・御免ね、輝夜・・・また、貴方を苦しめて・・・。」
だが、その声は穏やかに眠る輝夜には全く届かなかった・・・。傍の氷から何かの右腕が突き刺さっている事も誰も気づかない。
『K-152 蓬莱山輝夜 T‐Jとの戦闘により戦闘不能 現在脱落者34名』
Aチルノは6本の剣を駆使しつつ、闘っていた。相手はT‐Jの主の少女・キリュウだ。
彼女は一生懸命に戦った。仲間を殺された怒りとT‐Jに対する憎しみを込めて。
だが、それをからかうかのようにキリュウはその剣さばきを避けている上、何も攻撃してこない。
それがAチルノの怒りを募らせる。
「馬鹿にして・・・もう容赦しないわよ!これは初めてだから、あんたが第1号だからね!」
「ほほぉ?それはラッキーじゃ。ほれほれ、ドーンとかかってこんかい。」
「行くわよ!あたいの必殺技・・・パート⑨!」
そう言い、チルノは全神経を剣に集中する。すると、
『ゼウス』を中心に残りの剣が集まり、合体していった・・・。Aチルノは徐々に力がみなぎる感じがした。
「必殺・・・パーフェクトダイヤモンドスラッシャ――――――――――!!!」
早口でそう言い、Aチルノは合体剣でキリュウに突っ込んだ。この時、初めてキリュウが表情を変えた。
「あの力・・・わしの魔力と同じではないか!?どういうこと・・・ぐおわぁぁぁぁぁ!!」
話し終わらない内にAチルノの剣に突っ込まれ、吹っ飛ぶ。辺りに血しぶきが舞う。
「やった・・・遂に黒幕を退治したわ!・・・ありゃ、何かベトベトする・・・?・・・っ!」
戦いに勝ってはしゃぐAチルノだったが、両手についているものを見て、絶句する。血であった。
「これが・・・これが血?んじゃ、あたいは人を殺したの・・・?違う!あいつは黒幕よ!死んで当然だわ!」
「チルノちゃん・・・。」
「チルノ・・・。」
初めての血に混乱し、怯えるAチルノに大妖精とレティが落ち着かせようとする。その時、
突如、キリュウがAチルノを羽交い絞めにしたのだ。重症の筈がピンピンしているような感じだった。
「な、何!?生きている!?」
「驚いたぞ・・・まさか奴がこういう物を作るとは・・・だが、その原動力はわしの物。ならば・・・。」
その時、2人を青い煙が包む。
「どの位わしの魔力とこの剣の魔力・・・ぬしには耐えられるか見ものじゃ!」
そう言うと、青い煙が徐々に濃くなる。最初は平気なAチルノだが・・・。
「っ!!」
突如、自分の不調に気付く。まるで心臓を鷲掴みにされ、暑い炎で焼かれるような・・・。心が壊れるような気分だ。
それに合わせるかのように、Aチルノの周りに稲妻が襲いかかる。内と外の痛みにAチルノは叫んだ。
「ウワァァァ――――――――!!くあっ・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
そんな彼女の叫びに対してもレティ達は動けなかった。大妖精は震えている。
「(このままじゃ、チルノが・・・死んでしまう・・・!)」
だけど、レティは動くことができずにいた。そしてどれ位の時間がたったのだろう・・・。
キリュウが離すと、遂にAチルノは倒れた。キリュウが荒い呼吸で言う。
「有り得ない・・・何故、氷の妖精如きがわしの魔力に死なない・・・!それ所か気絶したとはいえ、魔力を吸収したとは・・・!」
Aチルノが倒れたのを見、大妖精が駆け寄る。幸い、衰弱しているものの、息はあった。
「ふむ・・・気に入ったぞ・・・。どれ、せっかくだから頂くかの~?」
そう言い、キリュウはAチルノに近づくが、大妖精は彼女を抱き、レティがキリュウの前に立ちはだかる。
「止めて・・・チルノちゃんに手を出さないで!」
「貴方は一体何なの!?T‐Jとはどういう関係!?」
それを聞き、キリュウはやれやれとため息をつき、さっきとは違う色の煙を出す。
まさか殺す気か!?と思いきや、眠気が走る。レティ達は必死に耐えたが、遂に眠りに落ちた。
それを満足げにキリュウは笑う。
「くくく・・・ぬしらを殺せば、チルノがキレるからの・・・。まぁ、ある意味ラッキーじゃな♪」
魔理沙は只、歩いていた。正直、霊夢になんて言おうと悩んでいた。
最初、霊夢の言ったことに腹が立ったが、考えてみると霊夢が落ち込むのは仕方がないと思った。
霊夢は仲間の死にショックを受けていた。
妖怪でも人間でも親しげに接していた彼女。そんな彼女だからこそ、仲間の死には過剰に反応してしまう。
それなのに、自分は霊夢を殴ってしまった。臆病者呼ばわりしてしまった。きっと更に傷ついているだろう。
「(恥ずかしいぜ・・・自分で縁を切っちまうなんて・・・。)」
だけど、戻れなかった。確かに、霊夢とはもう一度仲良くなりたい。
だが、自分の過ちの原因であり、師、魅魔様を殺したT‐Jを許せなかったのだ。だから先に奴を叩く。
例え、1人では敵わなくても、アリスとパチュリーとにとりがいれば・・・あれ?
「あれ?パチュリーとにとりはどこだ??」
みると今いるのはアリスしかいない。アリスも首を傾げる。
「おかしいわね・・・。パチュリーが先に行ったのは見たし、にとりは霊夢の所に行っているかしら?」
アリスが言った瞬間、爆発音が聞こえた。そして、遠くの方で小さな光が見えた。
「あれは・・・パチュリーの魔法攻撃!まさか・・・!アリスはにとりを探してくれ!」
そう言い、魔理沙は箒に跨り、遠い所へ向かった。
「魔理沙!ど、どうしましょう・・・。あら?」
ふと、アリスは聞き慣れた声を聞いた。にとりでも霊夢でもないが、あれは・・・。
そう言い、アリスはこそりとその場所へ向かい、「彼女」を見つける。
「(あれは・・・。っ!この話・・・ま、まさか・・・!)」
無線で「彼女」との話を聞いたアリスは絶句した。まさか「彼女」が黒幕の一味とは。そして黒幕が彼だったとは・・・。
そして、アリスは決心した。「彼女」が無線で話し終えるのを待ち・・・。
「待ちなさいっ!」
そして、後ろから「彼女」を捕まえた。片手で。
「ムギュー!」
アリスに捕まった「彼女」は遂に音をあげた。
「はぁ、はぁ・・・なかなかやるわね・・・ボロボロの状態なのに・・・。」
息を荒げながらパチュリーは相手を睨む。無論、相手はT‐Jだ。
T‐Jは輝夜から離れ、何とか『冷酷の氷』から脱したが、右腕がその氷に捕まり、仕方がなく切り離したのだ。
片手でその上、装甲も慧音の歴史変えとレミリアの攻撃により限界寸前なT‐J。やれるのは今だとパチュリーは思った。
勿論、レミリア達を殺ったのは中にいる『闇の巫女』だという事には気づかなかった。
「レミィ・・・貴方の戦いを無駄にはしないわ・・・グフッ!」
そう言うや否や、パチュリーはむせる。ふさいだ手には血がベットリ付いていた。
パチュリーは距離を取りつつ、魔法攻撃を行っていたので外傷はない筈だが・・・。
「はぁ、はぁ・・・遂に・・・来たのね・・・。」
そしてパチュリーは約1週間前に来た永琳の言葉を思い出した。
『残念だけど・・・手遅れね・・・。』
不調の為に呼んだ永琳がそう言う。何故?そう尋ねるとこう言った。
喘息による肺癌・・・。普通有り得ない病気だが、それは百年も引き籠ったのが原因だった。
そして続きを言われ、パチュリーは更に絶望する。
余命は僅か2,3週間。魔法使いらしくない死だ。
パチュリーはその間、自暴自棄になった。小悪魔や親友のレミィですら図書室に入れさせなかった。
1つは泣くのを見られたくなかった。もう皆に会えないからだ。そして、自分の人生を変えた魔理沙にもう会えないのは辛いのだ。
もう一つはある魔法を完成させたかった。レミィの異変後、魔理沙の登場により順調に進んでいないからだ。
その魔法は究極の力を持つ精霊を呼び出す魔法であった。魔法使いにとっては憧れの魔法である。
だから、パチュリーは僅かな余命をそれに捧げたのだ。
そして、遂に完成したと同時にZに呼ばれたのだ。唯一レミリアがR島に行くのを止めようとしたが、何とか説得した。
これも何かの運命だと思った。だから、R島に向かったのだ。
そしてその魔法が使う機会が今やって来たのだ。今やらずにいつやるんだ?
だから、パチュリーは戦う。最後の戦いを・・・。
「これが私の最後の魔法かもしれない・・・行くわよ・・・。」
そう言い、詠唱を始める。意外にも短いのが、発音が難しいのだ。そして詠唱が終わり、召喚を始める。
「出でよ、幻想郷の中で強く、且つ美しき精霊・・・エレメンタル・レインボードラゴン!!!」
その瞬間、パチュリーの前方に光が生じ、その精霊が明らかになる。
それは虹色の龍であった。美しく、巨大な龍であった。それを見、涙ぐむパチュリー
「や、やった・・・遂に・・・美しい・・・。」
そう言い、膝をつくパチュリー。だが、感心している場合ではない。攻撃を命じなければならない。
「行くわよ、エレメンタル・レインボードラゴン・・・攻撃!」
標的をT‐Jに向け、エレメンタル・レインボードラゴンに攻撃を指示する。その精霊の口から光が生じる。
「賢者・大精霊弾!!」
エレメンタル・レインボードラゴンが咆哮と共に一撃必殺の光を発射した。その一撃にT‐Jは吹っ飛んだ。
T‐Jの生死は分からない。だが、その精霊を召喚するのに代償が大きかった。
代償は・・・その者の気力だった。喘息持ちのパチュリーにとっては死に繋がるものだった。
「終わった・・・これで何もかも・・・だけど、もう何も思い残すことはないわ・・・。」
そう言い、パチュリーは後ろに倒れる。すると、誰かが受け取った。
魔理沙と小悪魔である。2人は心配そうに自分とエレメンタル・レインボードラゴンを交互に見ている。
「パチュリー様大丈夫ですか?」
「パチュリー、T‐Jはどうした?それと、こいつは何なんだ?」
あぁ、魔理沙・・・貴方は私にとって人生を変えてくれた人間。貴方と会えてよかった。
「魔理沙・・・。」
「な、何だ・・・?」
「腕時計には、情報がまだない・・・とすると、T‐Jはまだ生きている・・・だから・・・後を宜しく・・・。」
そう言い、パチュリーは目を閉じた・・・。主を失った精霊は咆哮と共に消えっていった・・・。
『P-193 パチュリー・ノーレッジ T‐Jとの戦闘で自滅 現在脱落者35名』
「っ!パチュリー様・・・パチュリー様・・・パチュリー様―――!!。」
「パチュリー・・・・・・・!・・・分かった・・・お前らの為に・・・奴の息の根を止めてやるぜ!!」
目に溜まった涙を拭い、魔理沙はそう言った。皆の為にT‐Jを倒すことを心に誓い。
霊夢は只ボンヤリと座っていた。自分はもはや博麗神社の巫女失格なのか?そう言う思考が離れられない。
もし、先代だったら、誰も死なずに済んだ。T‐Jなんて一撃で倒せると思う。
私は、もはや巫女でもない。ただの臆病者だ。今までの異変解決したのはまぐれに決まっている。
そんな悲壮な思考が霊夢の頭から離れられない。
「私は・・・誰なんだろ・・・?」
「おや、記憶喪失ですか?流石にボケる年頃ではないですし・・・。」
ふと声がする。見ると、衣玖だった。
「衣玖・・・。」
「どうなさいました?いつもの貴方らしくありませんよ・・・。」
「放っておいてよ・・・。」
「・・・霊夢さん。貴方に知らせたいことが・・・っ!」
ふと、衣玖ははっとなって振り向く。霊夢もその方向へ首を向ける。
そこは、黒こげのT‐Jだった。片腕で、ズタボロの状態だったが、まだ動いていた。パチュリーに吹っ飛ばされたのだ。
霊夢は愕然した。何故、奴がここにいる?魔理沙達はどうしたんだ・・・?
絶望感に囚われている霊夢になんと衣玖が立ちはだかった。手には緋想の剣をもっている。
「霊夢さんは幻想郷の希望・・・何としてでもお守りします!」
その言葉に霊夢は驚いた。何故だ?何故、自分のような者を守ろうとする?私は見掛け倒しにすぎないのに。
だけど・・・分かったような気がする。自分を信じる者達がいるから、私は戦えたのかもしれない・・・。
T‐Jはすぐに霊夢達を見るや否や、高速で近づき、衣玖に手刀で攻撃した。手の下にはカッターが。
傷ついているとはいえ、あまりの早さに衣玖も付いていけなかった。
「は、速い・・・!相当なダメージを受けているのに、総領娘様より速いです!」
驚く衣玖。もう緋想の剣を振っても間に合わない。カッター付きの手刀が衣玖の顔前に・・・。
「駄目ぇ!!」
霊夢が衣玖を突き飛ばす。その瞬間・・・。
ズバッ!・・・ドサッ
霊夢は右手に強烈な痛みを感じた。そしてその先にあるものは・・・。
切られた自分の右手首だった・・・。
「霊夢さんっ!!」
「くっ・・・!」
霊夢は、左手で衣玖を引っ張り、走り逃げた。飛んだ方がいいが、高いジャンプ力かアイスエッジ攻撃でやられるからだ。
T‐Jもダメージに負けじと2人を追って行く。
やっと、静かな場所で衣玖は羽衣と同じ衣で霊夢の右腕の傷口を包んだ。天人の衣故か痛みが徐々に引いていく。
「霊夢さん・・・すみません・・・。」
「いいのよ・・・私、かっこ悪いわね・・・あんな醜態を見せて・・・。」
「そんなことありません・・・。」
そう衣玖は言う。
「霊夢さんは今までだって、色んな異変を解決したじゃないですか。霊夢さんにはきっと凄い能力があるんです。」
「凄い能力・・・?」
そう尋ねる霊夢に衣玖は微笑んで、こう言う。
「それは、誰とでも親しまれる事です。確かにお賽銭は残念そうですが、霊夢さんの周りには楽しそうな方々違います。総領娘様や私はもちろん、吸血鬼や妖怪、妖精、幽霊、神、そして人間ですら仲良くなれる雰囲気が霊夢さんにはあるんです。」
そして、衣玖は手帳を霊夢に渡す。確かこれは文の・・・。
「これって・・・。」
「射命丸さんは真実を知り、死にました。そこにはきっとT‐Jの正体や黒幕が分かる筈です。」
そう言い、衣玖は来た道へ戻る。霊夢は慌てて止める。
「衣玖!?どこへ行くの?・・・まさか!」
「霊夢さん・・・私は空気を読んだ者・・・ですから、きっとT‐Jは倒れます・・・。」
そう言い、飛びあがる衣玖。
「待って!死ぬ気なの!?もう止めて!これ以上誰も死なせたくない!」
「では!霊夢さんは皆さんが黒幕の本当の野望に巻き込まれてもいいのですか!?」
突然の衣玖の大声に霊夢は驚く。黒幕の本当の野望?一体、何なんだそれは?
そして衣玖はこう言う。
「さようなら、霊夢さん・・・。思えば、貴方と出会ったこと自体、奇跡でした・・・。総領娘様を頼みます・・・。」
そう言った衣玖は飛んで行った。霊夢すら追いつけないほど、速く。
「衣玖―――――――――――――!!!」
霊夢の悲痛な声が響き渡った。
そして・・・衣玖とT‐Jは最後の決戦として闘っていた。
衣玖は霊夢に被害がないように、T‐Jに雷撃を与え、わざと、Z-111という場所へおびき寄せたのである。
衣玖は周りの空気を読む事で、T‐Jの殺気を感じ、なんとか避ける事が可能となったのである。
しかし、T‐Jの執拗な攻撃に衣玖も苦戦してしまう。
衣玖は考えた。何故、総領娘様の緋想の剣を持っているのに、使わないのだ?何故、あれを持って来たのだ?と。
ふと、衣玖はある空気を読んだ。T‐Jを倒す唯一の手掛かりであった。しかし・・・。
「(確かに、これなら・・・ですが・・・。しかし、やらなくてはいけません・・・。)」
衣玖は今までの出来事を思い浮かべる。元は地震を伝えに来た筈が、霊夢達に犯人だと決めつけられ、コテンパンにされたあの時。
あれは懐かしかったなと思う。それを思い浮かべて衣玖は決心する。
「T‐J・・・貴方の最後です・・・。行きますっ!!」
そう言い、T‐Jに突っ込む衣玖。真っ直ぐ、そして高速に。
T‐Jが左腕をかざし、応戦に入ろうとする。
タイミングが重要だ。それを逃したら、チャンスはない。
T‐Jは左の手刀を衣玖の頭めがけて繰り出した・・・その瞬間!
「そこですっ!」
その言葉と共に帽子が飛んだ。衣玖はしゃがんで、T‐Jの攻撃を避けたのだ。
もし、輝夜が『冷酷の氷』を使わなかったら、右腕があって、今度こそ衣玖を貫く筈だった。
そして、慧音の歴史変えがなければ、T‐Jはわざわざ素手を使う必要がなかったのだ。
ふと、衣玖はT‐Jの胸倉めがけて、あるものを突き出した。
それは・・・藍が使ったのと同じ特殊爆弾だった。それをT‐Jの胸倉へ突っ込ませる。
そして・・・頑丈な筈のT‐Jの胸部装甲が砕け散り、特殊爆弾が中へ入った。それは慧音の歴史変えだけではない。
パルスィの五寸釘が、
萃香、ヤマネ、映姫、幽香、魅魔、レミリア、フランの攻撃が、
そしてパチュリーの精霊攻撃が、このような結果に導いたのだ。
彼女達の行為は決して無駄ではなかったのだ。
「外側は頑丈でも・・・内側はそうじゃないらしいですね!これでお別れですっ!!」
そして、衣玖はT‐Jの内部で特殊爆弾を起動した。
突然の閃光が瞬き、物凄い暑さと共に衣玖の意識はそこで途絶えた・・・。
「・・・衣玖・・・衣玖・・・!」
ふと、呼ばれて、衣玖は目覚めた。見ると、霊夢が心配そうに見ていた。
動こうとするが、体中が痛い。いくら天人でも0距離での爆発は痛かった。
「・・・・・っ!?T‐Jはどうなさいました?」
霊夢が指をさす。見るとそこには・・・無残にも破壊されたT‐Jがいた・・・。
かつて、反則的な強さで多くの仲間を殺した殺人鬼機械人形。それが今倒されたのだ。
こう言う事なら喜べ衣玖。お前は仲間の仇を取ったのだ。だが、衣玖の表情には喜びが感じられない。
「これで・・・これで終わったんだね・・・。戦いはもう終わったんだね・・・。」
「いえ・・・まだです・・・むしろ、恐ろしい事態の幕開けです・・・。」
「えっ・・・?」
霊夢が不思議がると突如、電子音がなった。見てみるとそこには・・・。
『Z-111 T‐J 永江衣玖により破壊 これによりバトルロワイヤルを開始する』
バトルロワイヤル?一体何だそれは?Zは何を言っているんだ?
混乱する霊夢に衣玖が言う。
「霊夢さん・・・いよいよ始まったのです・・・恐ろしい事態が・・・。」
そう言われ、霊夢はキョトンとなった。どういう事だ?一体何が始まるんだ?
「だ、だって、T‐Jはもう倒れているし・・・そ、それに殺すのは1人だと言ってたし・・・。」
「そうです、Zが言った言葉はその通りです。ですが、思い出してください。私達が文句を言った後、Zが何を言ったのか?」
「えっ?えーと・・・『T‐Jを殺した最後の1人は願いを叶える』って・・・。それが・・・?」
「そうです・・・殺す対象はT‐Jだけじゃないのです・・・例えば、貴方には私といった様に・・・。」
「なっ!?何言ってるの!?冗談にしてはヤバいわよそれ!」
霊夢の言葉に衣玖は痛みに苦しみながらも、こう言う。
「霊夢さん・・・まだ分かっていないのですか・・・?Zの言う『最後の1人』、そして『バトルロワイヤル』それは・・・。」
「今生き残っている私達の殺し合いなのです・・・・。」
え?今何言った?殺し合い?混乱する霊夢に衣玖は説明する。
「T‐Jは只の盛り上げ役に過ぎなかったのです・・・。T‐Jの手から生き残った者が殺し合いをし、生き残った最後の1人が願いを叶える、という仕組みだったのです・・・。黒幕はZだったのです・・・。」
「な、何言ってるの?何でZがそんなことを・・・?」
「わかりません・・・。只、Zが恐ろしい計画を立てているのです・・・。」
「何を根拠に・・・?」
「証拠は鴉天狗の手帳です。一部しか見ていませんが、T‐Jは只の試作機だったのです。私達の能力を試す為に・・・。」
「何で・・・何で私達が?」
「分かりませんが、恐らく、外の世界にとって幻想郷の住人である私達の殺し合いはさぞかし、楽しいとお思いでしょう・・・。」
「黙ってよ・・・。」
「霊夢さん・・・。早く、Zの野望を止めなければなりません・・・。そうしないと他の皆さんが・・・。」
「うるさいっ!黙っててよ!!」
耐えきれずに霊夢は怒鳴った。
「そんな事はない・・・そんな事はないじゃない!だって、私達が殺し合っても何の得もないじゃない!Zも変だけど、信用できる奴よ!ホテルへ戻りましょう!衣玖が倒したんだから、願いを叶える権利は衣玖の物よ!」
必死に動揺を隠しながら、霊夢は周りを見る。殺し合いだなんて馬鹿げている。そんな事はありえない。
帰り道を探すことで冷静さを取り戻そうとする霊夢に声がかかる。
「そう・・・Zは私達の信じやすい所を利用したのです・・・。もう私は総領娘様を殺すなど・・・できません・・・。」
振り返ると、そこには緋想の剣を首に突き付ける衣玖が。
「既に自分の死は空気を読んだ事で分かっていました・・・。お別れですね・・・。」
そう言って、衣玖は・・・自分の首を切った。血が噴出した。
「・・・霊夢さん・・・あと・・・を・・・お願い・・・しま・・・す・・・。」
そう言って、衣玖は倒れた・・・。
『Z-111 永江衣玖 バトルロワイヤル中に自殺 現在脱落者36名』
霊夢は衣玖の亡骸を見て、絶句した。
衣玖が死んだ?何故?
バトルロワイヤル?何で私達が殺し合うの?
Z?本当に黒幕なの?
訳が分からなかった。何もかもが信じられなかった。
へたり込む霊夢。目から涙が流れる。
「何で・・・何でこうなっちゃうの・・・?」
そう言った瞬間・・・・乾いた音が聞こえた。
「え・・・?」
気づいた時には体中に鋭い痛みが走り、血が出ていた。
霊夢はそこで自分が撃たれた事に気づいた。そして撃ったのは・・・。
「・・・Z・・・?」
周りに銃を構えた男達に囲まれたZだった。
「・・・素晴らしいショーでしたよ霊夢様・・・。」
そう言い、拍手するZ。
「恐れ入りましたよ。まさか皆様の仲間に対する思いやりがこれ程とは・・・。」
「Z・・・衣玖の言った事は・・・本当なの・・・?」
霊夢は痛みに顔をしかめながら尋ねる。Zはしばしの後、笑ってこう言う。
「はい、そうです。T‐Jを作り出したのは私達と・・・。」
そう言い、移動して、霊夢に見せる。「彼女、にとり様です。」
見ると、にとりだった。兵隊に取り押さえられ、身動きできない状態のにとりだった。
「正確には、にとり様は皆様達の情報を自分の知っている限りまで情報提供しましたが。」
霊夢は納得した。だから、T‐Jは機械人形でありながら、妖怪や幽霊にも対処できたのか。
「にとり・・・どうして・・・。」
「私だって、盟友である霊夢達を殺したくなかったの・・・。」
にとりは涙ぐみながら言った。
「でも、情報教えなきゃ河を破壊するって!河童達を皆殺しにするって言ったから!・・・御免なさい・・・!」
「正確には『手荒い事は嫌いですが、河童達が2度と見れなくなります。』、と強引に交渉しましたから、許してあげてださい。」
そうか・・・。霊夢は再び納得する。にとりはZに脅されていたのか。
「けど・・・。何で私達がこうしなきゃいけないの!目的は何!?」
霊夢が必死に力を振り絞り、叫ぶ。Zは笑みを浮かべながらこう言う。
「目的は・・・貴方の遺伝子・・・能力です。」
「遺伝子?能力?」
理解できない霊夢にZは説明する。
「我々の世界は今も戦争しているのです。そこで、貴方達の能力を軍事目的に使用するのです。例えば、フラン様の能力であれば、どんなに強力な軍隊も一撃で葬り、レミリア様の能力なら戦況をひっくり返し、幽々子様の能力では、バイオテロよりも強烈な死を与え、紫様の能力で軍隊を敵陣の死角に移動させたり、お空様の能力なら、核が大量に使えまくりですし。」
「つ、つまり、何なの?貴方達は私達の能力を自分の争いに勝つ為に使用するの?」
「はい。ちなみに私がお金持ちなのは、軍事品を軍国に売りまくったお陰なのです。」
「じゃぁ!じゃあ何故私達を殺し合おうとするのよ!どうしてT‐Jを利用して殺すのよ!?」
「勿論、死んだ方が遺伝子取りやすいじゃないですか?ちなみにルーミア様を始め、お亡くなりになった方々は我々が回収し、記憶や遺伝子を回収しているのです。T‐Jもこの実験で欠陥点を調べているのです。」
それだけ?それだけの理由で皆を殺したの?霊夢は深い絶望感に襲われた。
Zは笑みを絶やさず、霊夢に言う。
「さて・・・もう質問はそれ位にしておきましょう。まず、貴方とにとり様を殺します。そして、貴方達の腕時計で偽の情報を流して、他の方々を疑心暗鬼に陥れ、殺し合いをさせます。あ、T‐Jに殺されたという情報は本当ですよ?」
そう言い、Zは腕をあげ、部下に指示を与える。兵士が霊夢に銃を構える。にとりが叫びだす。
「止めて!霊夢を撃たないで!撃つなら私を撃って!」
「まぁまぁ落ち着いてくださいにとり様。霊夢様は撃たれているから可哀想じゃないですか?あとでにとり様もお望み通りに行いますので、ご心配なく。それから霊夢様を殺した者はそうですね・・・魔理沙様にしておきますよ。親友ですし。」
ビギッ!
そのZの言葉を聞いた霊夢はもう我慢の限界だった・・・。だから、左腕の緋想の剣を上に掲げる。
Zがキョトンとなる。
「何をなさるんですか霊夢様?」
「決まっているんじゃない・・・願い叶えさせてよね・・・。」
「?あぁ、成程・・・。遺言ですか?いいですよ。誰に何ていいます?」
「違うわよ・・・私が望む者は・・・。」
そして霊夢は激しい怒りと悲しみと共に・・・
「あんた達の死だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
力を込めて、緋想の剣を地面に突き立てた。
それは、霊夢がまた幼い頃・・・。
神社に悲痛な声が響く。そして幼い霊夢がプンプン怒りながら目の前のを睨みつける。
目の前にあるのは猫だった。逆さまに吊るされ、許してくれと声を上げる。
「そんな事を言っても駄目よ!家の魚を盗んだ罰だから!」
「・・・お止めなさい霊夢・・・。」
ふと、声が聞こえる。優しい声だ。振り向くと、霊夢の母親だった。
彼女は微笑んで、霊夢を撫で、猫を下に下ろす。猫は自由になった途端、どこかへと消えた。
「ああっ!お母様、何で!?だって、あいつ・・・。」
「霊夢・・・負の感情に捕らわれてはいけません・・・。」
優しい母に言われ、霊夢はチンプンカンプンになった。負の感情?何だそれは?
そう考える霊夢に母は優しく説明する。
「生きている者には、喜び等の感情があるのです。怒り、憎しみ、嫉妬、妬み、欲望、絶望・・・これらの事を負の感情と言うのです。」
「お母様、負の感情に捕まるとどうなるの?」
「私達博麗神社の巫女が負の感情に捕らわれると、闇の理を授かれ、永遠の苦しみを受け続けるのです・・・。だから霊夢、貴方は負の感情に捕らわれてはいけません。例え相手が敵でも、許す心を持ちなさい・・・。」
そう言い、霊夢に微笑む母。あの頃を思い出すのは全くの偶然か?それとも・・・。
それは、奇跡か、霊夢の符力か、はたまた空気を読んだ衣玖の仕業か・・・?
突如、天人しか発動できない緋想の剣が光を放ち・・・天子の能力同様、地震を起こしたのだ。
とてつもない地震に地が裂け、兵士達が悲鳴を上げながら裂け目に落ちてしまう。
しかし、そんな状況にもかかわらず、Zは笑っていた。必死に立ちながら、笑っていた。
「素晴らしい霊夢様・・・貴方は正直、凄い事を行うかと楽しみにしまいましたが・・・本当に素晴らしいです!」
霊夢はそんな事を聞いてなかった。必死に立ち上がり、片手で緋想の剣を抜き、一気にZに近づく。
「仲間の無念・・・晴らさせてもらうわよZ!死になさい!!」
そう言い、霊夢は・・・緋想の剣をZの胸に突き刺した。
そしてどの位時間が経ったのだろうか?Zを刺した霊夢ははっとなる。
「あんた・・・あんたは一体・・・何なのよ!」
霊夢が叫ぶ。なんとZは・・・人間ではなかった。
刺さった場所から火花が出、割れた仮面の下には銀色の肌が露わになっていた。しかしZは笑いながら言った。
「・・・外の世界の人間の・・・狂気の塊ですよ・・・。」
「そう・・・なら、貴方は生物じゃないのね・・・。」
「何故わかったのです?」
「生き物にはありとあらゆる感情があって、様々な経験を通して生きている。嬉しい事や悲しい事も一緒に・・・。貴方はそう言った感情がない・・・。貴方は生きている感じがしない・・・貴方は一体、なんなの!?」
「まぁ、そうですね・・・T‐Jのお兄さんという事でしょう・・・。それにしても完敗でした霊夢様・・・まさか、貴方にそんな力が残っているとは思いませんでした。では、悪役の如くもう一つ言いましょう。射命丸様を殺したのは我々ではありません。」
「!?あんた達でもT‐Jでもないなら何なの!?」
「彼女の名はキリュウ・・・。闇の巫女封印に参加した魔界神、神綺のクローン戦士です・・・。」
「なっ!?」
キリュウが文を・・・。いやそれよりも闇の巫女?神綺のクローンって?いつの間に遺伝子を取ったんだこいつ?
「ふふふ・・・では、機会がありましたらまた会いましょう・・・博麗霊夢様・・・。」
そのZの言葉を最後に・・・Z-111は完全に壊滅した・・・。
中心で煙を上げているR島。そこから去る船が数隻・・・。その内の1隻にはキリュウがいた。
「ふっ、Zめ・・・奴等を試すつもりが、負けるとは・・・。だが、おかげでいい土産ができた。」
振り返ると、そこにはT‐Jに似た機械人形が。T‐Jよりスペックが落ちているものの量産されていたのだ。
寂しそうにR島を見るキリュウ。彼女にとっては生まれ故郷に近いものだった。
「だが、本当の故郷は魔界・・・幻想郷にある・・・。そこで少しは楽しもうかの?それにしても・・・。」
と、キリュウは1体の機械人形に抱えられているものを見る。
それは霊夢だった・・・。疲れ果て、気絶しているのだ。ちなみににとりも確保した。
「博麗霊夢・・・噂以上に殺しがいのある奴じゃ・・・。寝顔はまぁいいが。」
その霊夢の頬を涙が伝った・・・。
最終回に続く
第13話「T‐Jの最期、最後の犠牲」
朝を迎えたR島。だが、それでも戦いは終わっていなかった。
氷の洞窟。R島で唯一、寒い場所である。何故あるのかは不明だが、氷に囲まれた神秘の場所である。
その場所で激闘を繰り広げている2名。輝夜とT‐Jである。
既に輝夜は傷ついていた。血を吐いたのはこれで何回目だろう?何回死んだことになっているんだろう?
肩で息しつつ、輝夜は苦戦していた。やはり御姫様が殺人鬼機械人形には勝てないのだ。
「(やはり、永琳の言う通り、外で遊んだほうが良かったかな・・・。)」
長年、引き籠ったつけだと輝夜は自嘲気に笑い、T‐Jに弾幕を張った。
T‐Jは神奈子やレミリア達との戦いに勝ったとはいえ、決して無傷ではなかった。だが、輝夜の弾幕をかわしている。
武器がないとはいえ、素手で輝夜に応戦する。T‐J自体がT‐Jの凶器だ。
そして、手刀による突きで輝夜の胸を貫いた。再び、血を吐く輝夜。
自分の力はここまでなのか?不老不死であろうと、奴には勝てないのか?皆の無念を晴らせないのか?
そう言う絶望感に襲われた時、輝夜はある場所を発見する。
それは氷の壁だった。ふと、輝夜はある提案を思いつく。
「(・・・これなら・・・5つの難題を上回るこれさえあれば、奴を倒さずとも・・・勝てる・・・。)」
確かにあれは打倒妹紅の為に取っておいたもの。危険は大きいが、今こそ使うべきだ。
そして輝夜は自分の胸を貫いたT‐Jの手を掴み、はなさまいと力を込める。
「これで、終わりよ・・・。」
幻想郷と月の平和の共存。それは輝夜にとって、2つの故郷に対する思いやりの願いであった・・・。
だからこそ、彼女は発動する。妹紅の炎に対抗する手段の力を。
「永琳・・・鈴仙・・・てゐ・・・永遠はきっとあるよ・・・。」
それが、輝夜の最後の言葉だった・・・。
「そ、そんな・・・。嘘よ・・・。」
氷の洞窟に入り、その光景を見た永琳は絶句する。鈴仙達も同様だった。
姫が行方不明だという事に気付き、必死の思いで探す3人。そして氷の洞窟で見たものは・・・。
氷に包まれ、動かなくなった輝夜の姿だった・・・。
「輝夜・・・!どうして・・・!」
氷に阻まれつつも彼女の顔に手を置き、泣き崩れる永琳。まただ。また自分は彼女をひどい目に合わせてしまった。
確かに輝夜は不老不死だ。だが、死なないとはいえ、氷の中では意識不明になってしまうのだ。
てゐが持っている杵で氷を壊そうとするが、鈴仙が止める。何故だと顔をあげるてゐ。
「あれは、蓬莱家に伝えられる伝説の難題『冷酷の氷』・・・。伝説だと、一瞬にして凍らせ、その氷は本人の意思でしか壊せない仕組みになっているの・・・。」
そう言い、鈴仙は項垂れた。誰も輝夜を救えない・・・そんな絶望感が辺りを包む。
「御免・・・御免ね、輝夜・・・また、貴方を苦しめて・・・。」
だが、その声は穏やかに眠る輝夜には全く届かなかった・・・。傍の氷から何かの右腕が突き刺さっている事も誰も気づかない。
『K-152 蓬莱山輝夜 T‐Jとの戦闘により戦闘不能 現在脱落者34名』
Aチルノは6本の剣を駆使しつつ、闘っていた。相手はT‐Jの主の少女・キリュウだ。
彼女は一生懸命に戦った。仲間を殺された怒りとT‐Jに対する憎しみを込めて。
だが、それをからかうかのようにキリュウはその剣さばきを避けている上、何も攻撃してこない。
それがAチルノの怒りを募らせる。
「馬鹿にして・・・もう容赦しないわよ!これは初めてだから、あんたが第1号だからね!」
「ほほぉ?それはラッキーじゃ。ほれほれ、ドーンとかかってこんかい。」
「行くわよ!あたいの必殺技・・・パート⑨!」
そう言い、チルノは全神経を剣に集中する。すると、
『ゼウス』を中心に残りの剣が集まり、合体していった・・・。Aチルノは徐々に力がみなぎる感じがした。
「必殺・・・パーフェクトダイヤモンドスラッシャ――――――――――!!!」
早口でそう言い、Aチルノは合体剣でキリュウに突っ込んだ。この時、初めてキリュウが表情を変えた。
「あの力・・・わしの魔力と同じではないか!?どういうこと・・・ぐおわぁぁぁぁぁ!!」
話し終わらない内にAチルノの剣に突っ込まれ、吹っ飛ぶ。辺りに血しぶきが舞う。
「やった・・・遂に黒幕を退治したわ!・・・ありゃ、何かベトベトする・・・?・・・っ!」
戦いに勝ってはしゃぐAチルノだったが、両手についているものを見て、絶句する。血であった。
「これが・・・これが血?んじゃ、あたいは人を殺したの・・・?違う!あいつは黒幕よ!死んで当然だわ!」
「チルノちゃん・・・。」
「チルノ・・・。」
初めての血に混乱し、怯えるAチルノに大妖精とレティが落ち着かせようとする。その時、
突如、キリュウがAチルノを羽交い絞めにしたのだ。重症の筈がピンピンしているような感じだった。
「な、何!?生きている!?」
「驚いたぞ・・・まさか奴がこういう物を作るとは・・・だが、その原動力はわしの物。ならば・・・。」
その時、2人を青い煙が包む。
「どの位わしの魔力とこの剣の魔力・・・ぬしには耐えられるか見ものじゃ!」
そう言うと、青い煙が徐々に濃くなる。最初は平気なAチルノだが・・・。
「っ!!」
突如、自分の不調に気付く。まるで心臓を鷲掴みにされ、暑い炎で焼かれるような・・・。心が壊れるような気分だ。
それに合わせるかのように、Aチルノの周りに稲妻が襲いかかる。内と外の痛みにAチルノは叫んだ。
「ウワァァァ――――――――!!くあっ・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
そんな彼女の叫びに対してもレティ達は動けなかった。大妖精は震えている。
「(このままじゃ、チルノが・・・死んでしまう・・・!)」
だけど、レティは動くことができずにいた。そしてどれ位の時間がたったのだろう・・・。
キリュウが離すと、遂にAチルノは倒れた。キリュウが荒い呼吸で言う。
「有り得ない・・・何故、氷の妖精如きがわしの魔力に死なない・・・!それ所か気絶したとはいえ、魔力を吸収したとは・・・!」
Aチルノが倒れたのを見、大妖精が駆け寄る。幸い、衰弱しているものの、息はあった。
「ふむ・・・気に入ったぞ・・・。どれ、せっかくだから頂くかの~?」
そう言い、キリュウはAチルノに近づくが、大妖精は彼女を抱き、レティがキリュウの前に立ちはだかる。
「止めて・・・チルノちゃんに手を出さないで!」
「貴方は一体何なの!?T‐Jとはどういう関係!?」
それを聞き、キリュウはやれやれとため息をつき、さっきとは違う色の煙を出す。
まさか殺す気か!?と思いきや、眠気が走る。レティ達は必死に耐えたが、遂に眠りに落ちた。
それを満足げにキリュウは笑う。
「くくく・・・ぬしらを殺せば、チルノがキレるからの・・・。まぁ、ある意味ラッキーじゃな♪」
魔理沙は只、歩いていた。正直、霊夢になんて言おうと悩んでいた。
最初、霊夢の言ったことに腹が立ったが、考えてみると霊夢が落ち込むのは仕方がないと思った。
霊夢は仲間の死にショックを受けていた。
妖怪でも人間でも親しげに接していた彼女。そんな彼女だからこそ、仲間の死には過剰に反応してしまう。
それなのに、自分は霊夢を殴ってしまった。臆病者呼ばわりしてしまった。きっと更に傷ついているだろう。
「(恥ずかしいぜ・・・自分で縁を切っちまうなんて・・・。)」
だけど、戻れなかった。確かに、霊夢とはもう一度仲良くなりたい。
だが、自分の過ちの原因であり、師、魅魔様を殺したT‐Jを許せなかったのだ。だから先に奴を叩く。
例え、1人では敵わなくても、アリスとパチュリーとにとりがいれば・・・あれ?
「あれ?パチュリーとにとりはどこだ??」
みると今いるのはアリスしかいない。アリスも首を傾げる。
「おかしいわね・・・。パチュリーが先に行ったのは見たし、にとりは霊夢の所に行っているかしら?」
アリスが言った瞬間、爆発音が聞こえた。そして、遠くの方で小さな光が見えた。
「あれは・・・パチュリーの魔法攻撃!まさか・・・!アリスはにとりを探してくれ!」
そう言い、魔理沙は箒に跨り、遠い所へ向かった。
「魔理沙!ど、どうしましょう・・・。あら?」
ふと、アリスは聞き慣れた声を聞いた。にとりでも霊夢でもないが、あれは・・・。
そう言い、アリスはこそりとその場所へ向かい、「彼女」を見つける。
「(あれは・・・。っ!この話・・・ま、まさか・・・!)」
無線で「彼女」との話を聞いたアリスは絶句した。まさか「彼女」が黒幕の一味とは。そして黒幕が彼だったとは・・・。
そして、アリスは決心した。「彼女」が無線で話し終えるのを待ち・・・。
「待ちなさいっ!」
そして、後ろから「彼女」を捕まえた。片手で。
「ムギュー!」
アリスに捕まった「彼女」は遂に音をあげた。
「はぁ、はぁ・・・なかなかやるわね・・・ボロボロの状態なのに・・・。」
息を荒げながらパチュリーは相手を睨む。無論、相手はT‐Jだ。
T‐Jは輝夜から離れ、何とか『冷酷の氷』から脱したが、右腕がその氷に捕まり、仕方がなく切り離したのだ。
片手でその上、装甲も慧音の歴史変えとレミリアの攻撃により限界寸前なT‐J。やれるのは今だとパチュリーは思った。
勿論、レミリア達を殺ったのは中にいる『闇の巫女』だという事には気づかなかった。
「レミィ・・・貴方の戦いを無駄にはしないわ・・・グフッ!」
そう言うや否や、パチュリーはむせる。ふさいだ手には血がベットリ付いていた。
パチュリーは距離を取りつつ、魔法攻撃を行っていたので外傷はない筈だが・・・。
「はぁ、はぁ・・・遂に・・・来たのね・・・。」
そしてパチュリーは約1週間前に来た永琳の言葉を思い出した。
『残念だけど・・・手遅れね・・・。』
不調の為に呼んだ永琳がそう言う。何故?そう尋ねるとこう言った。
喘息による肺癌・・・。普通有り得ない病気だが、それは百年も引き籠ったのが原因だった。
そして続きを言われ、パチュリーは更に絶望する。
余命は僅か2,3週間。魔法使いらしくない死だ。
パチュリーはその間、自暴自棄になった。小悪魔や親友のレミィですら図書室に入れさせなかった。
1つは泣くのを見られたくなかった。もう皆に会えないからだ。そして、自分の人生を変えた魔理沙にもう会えないのは辛いのだ。
もう一つはある魔法を完成させたかった。レミィの異変後、魔理沙の登場により順調に進んでいないからだ。
その魔法は究極の力を持つ精霊を呼び出す魔法であった。魔法使いにとっては憧れの魔法である。
だから、パチュリーは僅かな余命をそれに捧げたのだ。
そして、遂に完成したと同時にZに呼ばれたのだ。唯一レミリアがR島に行くのを止めようとしたが、何とか説得した。
これも何かの運命だと思った。だから、R島に向かったのだ。
そしてその魔法が使う機会が今やって来たのだ。今やらずにいつやるんだ?
だから、パチュリーは戦う。最後の戦いを・・・。
「これが私の最後の魔法かもしれない・・・行くわよ・・・。」
そう言い、詠唱を始める。意外にも短いのが、発音が難しいのだ。そして詠唱が終わり、召喚を始める。
「出でよ、幻想郷の中で強く、且つ美しき精霊・・・エレメンタル・レインボードラゴン!!!」
その瞬間、パチュリーの前方に光が生じ、その精霊が明らかになる。
それは虹色の龍であった。美しく、巨大な龍であった。それを見、涙ぐむパチュリー
「や、やった・・・遂に・・・美しい・・・。」
そう言い、膝をつくパチュリー。だが、感心している場合ではない。攻撃を命じなければならない。
「行くわよ、エレメンタル・レインボードラゴン・・・攻撃!」
標的をT‐Jに向け、エレメンタル・レインボードラゴンに攻撃を指示する。その精霊の口から光が生じる。
「賢者・大精霊弾!!」
エレメンタル・レインボードラゴンが咆哮と共に一撃必殺の光を発射した。その一撃にT‐Jは吹っ飛んだ。
T‐Jの生死は分からない。だが、その精霊を召喚するのに代償が大きかった。
代償は・・・その者の気力だった。喘息持ちのパチュリーにとっては死に繋がるものだった。
「終わった・・・これで何もかも・・・だけど、もう何も思い残すことはないわ・・・。」
そう言い、パチュリーは後ろに倒れる。すると、誰かが受け取った。
魔理沙と小悪魔である。2人は心配そうに自分とエレメンタル・レインボードラゴンを交互に見ている。
「パチュリー様大丈夫ですか?」
「パチュリー、T‐Jはどうした?それと、こいつは何なんだ?」
あぁ、魔理沙・・・貴方は私にとって人生を変えてくれた人間。貴方と会えてよかった。
「魔理沙・・・。」
「な、何だ・・・?」
「腕時計には、情報がまだない・・・とすると、T‐Jはまだ生きている・・・だから・・・後を宜しく・・・。」
そう言い、パチュリーは目を閉じた・・・。主を失った精霊は咆哮と共に消えっていった・・・。
『P-193 パチュリー・ノーレッジ T‐Jとの戦闘で自滅 現在脱落者35名』
「っ!パチュリー様・・・パチュリー様・・・パチュリー様―――!!。」
「パチュリー・・・・・・・!・・・分かった・・・お前らの為に・・・奴の息の根を止めてやるぜ!!」
目に溜まった涙を拭い、魔理沙はそう言った。皆の為にT‐Jを倒すことを心に誓い。
霊夢は只ボンヤリと座っていた。自分はもはや博麗神社の巫女失格なのか?そう言う思考が離れられない。
もし、先代だったら、誰も死なずに済んだ。T‐Jなんて一撃で倒せると思う。
私は、もはや巫女でもない。ただの臆病者だ。今までの異変解決したのはまぐれに決まっている。
そんな悲壮な思考が霊夢の頭から離れられない。
「私は・・・誰なんだろ・・・?」
「おや、記憶喪失ですか?流石にボケる年頃ではないですし・・・。」
ふと声がする。見ると、衣玖だった。
「衣玖・・・。」
「どうなさいました?いつもの貴方らしくありませんよ・・・。」
「放っておいてよ・・・。」
「・・・霊夢さん。貴方に知らせたいことが・・・っ!」
ふと、衣玖ははっとなって振り向く。霊夢もその方向へ首を向ける。
そこは、黒こげのT‐Jだった。片腕で、ズタボロの状態だったが、まだ動いていた。パチュリーに吹っ飛ばされたのだ。
霊夢は愕然した。何故、奴がここにいる?魔理沙達はどうしたんだ・・・?
絶望感に囚われている霊夢になんと衣玖が立ちはだかった。手には緋想の剣をもっている。
「霊夢さんは幻想郷の希望・・・何としてでもお守りします!」
その言葉に霊夢は驚いた。何故だ?何故、自分のような者を守ろうとする?私は見掛け倒しにすぎないのに。
だけど・・・分かったような気がする。自分を信じる者達がいるから、私は戦えたのかもしれない・・・。
T‐Jはすぐに霊夢達を見るや否や、高速で近づき、衣玖に手刀で攻撃した。手の下にはカッターが。
傷ついているとはいえ、あまりの早さに衣玖も付いていけなかった。
「は、速い・・・!相当なダメージを受けているのに、総領娘様より速いです!」
驚く衣玖。もう緋想の剣を振っても間に合わない。カッター付きの手刀が衣玖の顔前に・・・。
「駄目ぇ!!」
霊夢が衣玖を突き飛ばす。その瞬間・・・。
ズバッ!・・・ドサッ
霊夢は右手に強烈な痛みを感じた。そしてその先にあるものは・・・。
切られた自分の右手首だった・・・。
「霊夢さんっ!!」
「くっ・・・!」
霊夢は、左手で衣玖を引っ張り、走り逃げた。飛んだ方がいいが、高いジャンプ力かアイスエッジ攻撃でやられるからだ。
T‐Jもダメージに負けじと2人を追って行く。
やっと、静かな場所で衣玖は羽衣と同じ衣で霊夢の右腕の傷口を包んだ。天人の衣故か痛みが徐々に引いていく。
「霊夢さん・・・すみません・・・。」
「いいのよ・・・私、かっこ悪いわね・・・あんな醜態を見せて・・・。」
「そんなことありません・・・。」
そう衣玖は言う。
「霊夢さんは今までだって、色んな異変を解決したじゃないですか。霊夢さんにはきっと凄い能力があるんです。」
「凄い能力・・・?」
そう尋ねる霊夢に衣玖は微笑んで、こう言う。
「それは、誰とでも親しまれる事です。確かにお賽銭は残念そうですが、霊夢さんの周りには楽しそうな方々違います。総領娘様や私はもちろん、吸血鬼や妖怪、妖精、幽霊、神、そして人間ですら仲良くなれる雰囲気が霊夢さんにはあるんです。」
そして、衣玖は手帳を霊夢に渡す。確かこれは文の・・・。
「これって・・・。」
「射命丸さんは真実を知り、死にました。そこにはきっとT‐Jの正体や黒幕が分かる筈です。」
そう言い、衣玖は来た道へ戻る。霊夢は慌てて止める。
「衣玖!?どこへ行くの?・・・まさか!」
「霊夢さん・・・私は空気を読んだ者・・・ですから、きっとT‐Jは倒れます・・・。」
そう言い、飛びあがる衣玖。
「待って!死ぬ気なの!?もう止めて!これ以上誰も死なせたくない!」
「では!霊夢さんは皆さんが黒幕の本当の野望に巻き込まれてもいいのですか!?」
突然の衣玖の大声に霊夢は驚く。黒幕の本当の野望?一体、何なんだそれは?
そして衣玖はこう言う。
「さようなら、霊夢さん・・・。思えば、貴方と出会ったこと自体、奇跡でした・・・。総領娘様を頼みます・・・。」
そう言った衣玖は飛んで行った。霊夢すら追いつけないほど、速く。
「衣玖―――――――――――――!!!」
霊夢の悲痛な声が響き渡った。
そして・・・衣玖とT‐Jは最後の決戦として闘っていた。
衣玖は霊夢に被害がないように、T‐Jに雷撃を与え、わざと、Z-111という場所へおびき寄せたのである。
衣玖は周りの空気を読む事で、T‐Jの殺気を感じ、なんとか避ける事が可能となったのである。
しかし、T‐Jの執拗な攻撃に衣玖も苦戦してしまう。
衣玖は考えた。何故、総領娘様の緋想の剣を持っているのに、使わないのだ?何故、あれを持って来たのだ?と。
ふと、衣玖はある空気を読んだ。T‐Jを倒す唯一の手掛かりであった。しかし・・・。
「(確かに、これなら・・・ですが・・・。しかし、やらなくてはいけません・・・。)」
衣玖は今までの出来事を思い浮かべる。元は地震を伝えに来た筈が、霊夢達に犯人だと決めつけられ、コテンパンにされたあの時。
あれは懐かしかったなと思う。それを思い浮かべて衣玖は決心する。
「T‐J・・・貴方の最後です・・・。行きますっ!!」
そう言い、T‐Jに突っ込む衣玖。真っ直ぐ、そして高速に。
T‐Jが左腕をかざし、応戦に入ろうとする。
タイミングが重要だ。それを逃したら、チャンスはない。
T‐Jは左の手刀を衣玖の頭めがけて繰り出した・・・その瞬間!
「そこですっ!」
その言葉と共に帽子が飛んだ。衣玖はしゃがんで、T‐Jの攻撃を避けたのだ。
もし、輝夜が『冷酷の氷』を使わなかったら、右腕があって、今度こそ衣玖を貫く筈だった。
そして、慧音の歴史変えがなければ、T‐Jはわざわざ素手を使う必要がなかったのだ。
ふと、衣玖はT‐Jの胸倉めがけて、あるものを突き出した。
それは・・・藍が使ったのと同じ特殊爆弾だった。それをT‐Jの胸倉へ突っ込ませる。
そして・・・頑丈な筈のT‐Jの胸部装甲が砕け散り、特殊爆弾が中へ入った。それは慧音の歴史変えだけではない。
パルスィの五寸釘が、
萃香、ヤマネ、映姫、幽香、魅魔、レミリア、フランの攻撃が、
そしてパチュリーの精霊攻撃が、このような結果に導いたのだ。
彼女達の行為は決して無駄ではなかったのだ。
「外側は頑丈でも・・・内側はそうじゃないらしいですね!これでお別れですっ!!」
そして、衣玖はT‐Jの内部で特殊爆弾を起動した。
突然の閃光が瞬き、物凄い暑さと共に衣玖の意識はそこで途絶えた・・・。
「・・・衣玖・・・衣玖・・・!」
ふと、呼ばれて、衣玖は目覚めた。見ると、霊夢が心配そうに見ていた。
動こうとするが、体中が痛い。いくら天人でも0距離での爆発は痛かった。
「・・・・・っ!?T‐Jはどうなさいました?」
霊夢が指をさす。見るとそこには・・・無残にも破壊されたT‐Jがいた・・・。
かつて、反則的な強さで多くの仲間を殺した殺人鬼機械人形。それが今倒されたのだ。
こう言う事なら喜べ衣玖。お前は仲間の仇を取ったのだ。だが、衣玖の表情には喜びが感じられない。
「これで・・・これで終わったんだね・・・。戦いはもう終わったんだね・・・。」
「いえ・・・まだです・・・むしろ、恐ろしい事態の幕開けです・・・。」
「えっ・・・?」
霊夢が不思議がると突如、電子音がなった。見てみるとそこには・・・。
『Z-111 T‐J 永江衣玖により破壊 これによりバトルロワイヤルを開始する』
バトルロワイヤル?一体何だそれは?Zは何を言っているんだ?
混乱する霊夢に衣玖が言う。
「霊夢さん・・・いよいよ始まったのです・・・恐ろしい事態が・・・。」
そう言われ、霊夢はキョトンとなった。どういう事だ?一体何が始まるんだ?
「だ、だって、T‐Jはもう倒れているし・・・そ、それに殺すのは1人だと言ってたし・・・。」
「そうです、Zが言った言葉はその通りです。ですが、思い出してください。私達が文句を言った後、Zが何を言ったのか?」
「えっ?えーと・・・『T‐Jを殺した最後の1人は願いを叶える』って・・・。それが・・・?」
「そうです・・・殺す対象はT‐Jだけじゃないのです・・・例えば、貴方には私といった様に・・・。」
「なっ!?何言ってるの!?冗談にしてはヤバいわよそれ!」
霊夢の言葉に衣玖は痛みに苦しみながらも、こう言う。
「霊夢さん・・・まだ分かっていないのですか・・・?Zの言う『最後の1人』、そして『バトルロワイヤル』それは・・・。」
「今生き残っている私達の殺し合いなのです・・・・。」
え?今何言った?殺し合い?混乱する霊夢に衣玖は説明する。
「T‐Jは只の盛り上げ役に過ぎなかったのです・・・。T‐Jの手から生き残った者が殺し合いをし、生き残った最後の1人が願いを叶える、という仕組みだったのです・・・。黒幕はZだったのです・・・。」
「な、何言ってるの?何でZがそんなことを・・・?」
「わかりません・・・。只、Zが恐ろしい計画を立てているのです・・・。」
「何を根拠に・・・?」
「証拠は鴉天狗の手帳です。一部しか見ていませんが、T‐Jは只の試作機だったのです。私達の能力を試す為に・・・。」
「何で・・・何で私達が?」
「分かりませんが、恐らく、外の世界にとって幻想郷の住人である私達の殺し合いはさぞかし、楽しいとお思いでしょう・・・。」
「黙ってよ・・・。」
「霊夢さん・・・。早く、Zの野望を止めなければなりません・・・。そうしないと他の皆さんが・・・。」
「うるさいっ!黙っててよ!!」
耐えきれずに霊夢は怒鳴った。
「そんな事はない・・・そんな事はないじゃない!だって、私達が殺し合っても何の得もないじゃない!Zも変だけど、信用できる奴よ!ホテルへ戻りましょう!衣玖が倒したんだから、願いを叶える権利は衣玖の物よ!」
必死に動揺を隠しながら、霊夢は周りを見る。殺し合いだなんて馬鹿げている。そんな事はありえない。
帰り道を探すことで冷静さを取り戻そうとする霊夢に声がかかる。
「そう・・・Zは私達の信じやすい所を利用したのです・・・。もう私は総領娘様を殺すなど・・・できません・・・。」
振り返ると、そこには緋想の剣を首に突き付ける衣玖が。
「既に自分の死は空気を読んだ事で分かっていました・・・。お別れですね・・・。」
そう言って、衣玖は・・・自分の首を切った。血が噴出した。
「・・・霊夢さん・・・あと・・・を・・・お願い・・・しま・・・す・・・。」
そう言って、衣玖は倒れた・・・。
『Z-111 永江衣玖 バトルロワイヤル中に自殺 現在脱落者36名』
霊夢は衣玖の亡骸を見て、絶句した。
衣玖が死んだ?何故?
バトルロワイヤル?何で私達が殺し合うの?
Z?本当に黒幕なの?
訳が分からなかった。何もかもが信じられなかった。
へたり込む霊夢。目から涙が流れる。
「何で・・・何でこうなっちゃうの・・・?」
そう言った瞬間・・・・乾いた音が聞こえた。
「え・・・?」
気づいた時には体中に鋭い痛みが走り、血が出ていた。
霊夢はそこで自分が撃たれた事に気づいた。そして撃ったのは・・・。
「・・・Z・・・?」
周りに銃を構えた男達に囲まれたZだった。
「・・・素晴らしいショーでしたよ霊夢様・・・。」
そう言い、拍手するZ。
「恐れ入りましたよ。まさか皆様の仲間に対する思いやりがこれ程とは・・・。」
「Z・・・衣玖の言った事は・・・本当なの・・・?」
霊夢は痛みに顔をしかめながら尋ねる。Zはしばしの後、笑ってこう言う。
「はい、そうです。T‐Jを作り出したのは私達と・・・。」
そう言い、移動して、霊夢に見せる。「彼女、にとり様です。」
見ると、にとりだった。兵隊に取り押さえられ、身動きできない状態のにとりだった。
「正確には、にとり様は皆様達の情報を自分の知っている限りまで情報提供しましたが。」
霊夢は納得した。だから、T‐Jは機械人形でありながら、妖怪や幽霊にも対処できたのか。
「にとり・・・どうして・・・。」
「私だって、盟友である霊夢達を殺したくなかったの・・・。」
にとりは涙ぐみながら言った。
「でも、情報教えなきゃ河を破壊するって!河童達を皆殺しにするって言ったから!・・・御免なさい・・・!」
「正確には『手荒い事は嫌いですが、河童達が2度と見れなくなります。』、と強引に交渉しましたから、許してあげてださい。」
そうか・・・。霊夢は再び納得する。にとりはZに脅されていたのか。
「けど・・・。何で私達がこうしなきゃいけないの!目的は何!?」
霊夢が必死に力を振り絞り、叫ぶ。Zは笑みを浮かべながらこう言う。
「目的は・・・貴方の遺伝子・・・能力です。」
「遺伝子?能力?」
理解できない霊夢にZは説明する。
「我々の世界は今も戦争しているのです。そこで、貴方達の能力を軍事目的に使用するのです。例えば、フラン様の能力であれば、どんなに強力な軍隊も一撃で葬り、レミリア様の能力なら戦況をひっくり返し、幽々子様の能力では、バイオテロよりも強烈な死を与え、紫様の能力で軍隊を敵陣の死角に移動させたり、お空様の能力なら、核が大量に使えまくりですし。」
「つ、つまり、何なの?貴方達は私達の能力を自分の争いに勝つ為に使用するの?」
「はい。ちなみに私がお金持ちなのは、軍事品を軍国に売りまくったお陰なのです。」
「じゃぁ!じゃあ何故私達を殺し合おうとするのよ!どうしてT‐Jを利用して殺すのよ!?」
「勿論、死んだ方が遺伝子取りやすいじゃないですか?ちなみにルーミア様を始め、お亡くなりになった方々は我々が回収し、記憶や遺伝子を回収しているのです。T‐Jもこの実験で欠陥点を調べているのです。」
それだけ?それだけの理由で皆を殺したの?霊夢は深い絶望感に襲われた。
Zは笑みを絶やさず、霊夢に言う。
「さて・・・もう質問はそれ位にしておきましょう。まず、貴方とにとり様を殺します。そして、貴方達の腕時計で偽の情報を流して、他の方々を疑心暗鬼に陥れ、殺し合いをさせます。あ、T‐Jに殺されたという情報は本当ですよ?」
そう言い、Zは腕をあげ、部下に指示を与える。兵士が霊夢に銃を構える。にとりが叫びだす。
「止めて!霊夢を撃たないで!撃つなら私を撃って!」
「まぁまぁ落ち着いてくださいにとり様。霊夢様は撃たれているから可哀想じゃないですか?あとでにとり様もお望み通りに行いますので、ご心配なく。それから霊夢様を殺した者はそうですね・・・魔理沙様にしておきますよ。親友ですし。」
ビギッ!
そのZの言葉を聞いた霊夢はもう我慢の限界だった・・・。だから、左腕の緋想の剣を上に掲げる。
Zがキョトンとなる。
「何をなさるんですか霊夢様?」
「決まっているんじゃない・・・願い叶えさせてよね・・・。」
「?あぁ、成程・・・。遺言ですか?いいですよ。誰に何ていいます?」
「違うわよ・・・私が望む者は・・・。」
そして霊夢は激しい怒りと悲しみと共に・・・
「あんた達の死だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
力を込めて、緋想の剣を地面に突き立てた。
それは、霊夢がまた幼い頃・・・。
神社に悲痛な声が響く。そして幼い霊夢がプンプン怒りながら目の前のを睨みつける。
目の前にあるのは猫だった。逆さまに吊るされ、許してくれと声を上げる。
「そんな事を言っても駄目よ!家の魚を盗んだ罰だから!」
「・・・お止めなさい霊夢・・・。」
ふと、声が聞こえる。優しい声だ。振り向くと、霊夢の母親だった。
彼女は微笑んで、霊夢を撫で、猫を下に下ろす。猫は自由になった途端、どこかへと消えた。
「ああっ!お母様、何で!?だって、あいつ・・・。」
「霊夢・・・負の感情に捕らわれてはいけません・・・。」
優しい母に言われ、霊夢はチンプンカンプンになった。負の感情?何だそれは?
そう考える霊夢に母は優しく説明する。
「生きている者には、喜び等の感情があるのです。怒り、憎しみ、嫉妬、妬み、欲望、絶望・・・これらの事を負の感情と言うのです。」
「お母様、負の感情に捕まるとどうなるの?」
「私達博麗神社の巫女が負の感情に捕らわれると、闇の理を授かれ、永遠の苦しみを受け続けるのです・・・。だから霊夢、貴方は負の感情に捕らわれてはいけません。例え相手が敵でも、許す心を持ちなさい・・・。」
そう言い、霊夢に微笑む母。あの頃を思い出すのは全くの偶然か?それとも・・・。
それは、奇跡か、霊夢の符力か、はたまた空気を読んだ衣玖の仕業か・・・?
突如、天人しか発動できない緋想の剣が光を放ち・・・天子の能力同様、地震を起こしたのだ。
とてつもない地震に地が裂け、兵士達が悲鳴を上げながら裂け目に落ちてしまう。
しかし、そんな状況にもかかわらず、Zは笑っていた。必死に立ちながら、笑っていた。
「素晴らしい霊夢様・・・貴方は正直、凄い事を行うかと楽しみにしまいましたが・・・本当に素晴らしいです!」
霊夢はそんな事を聞いてなかった。必死に立ち上がり、片手で緋想の剣を抜き、一気にZに近づく。
「仲間の無念・・・晴らさせてもらうわよZ!死になさい!!」
そう言い、霊夢は・・・緋想の剣をZの胸に突き刺した。
そしてどの位時間が経ったのだろうか?Zを刺した霊夢ははっとなる。
「あんた・・・あんたは一体・・・何なのよ!」
霊夢が叫ぶ。なんとZは・・・人間ではなかった。
刺さった場所から火花が出、割れた仮面の下には銀色の肌が露わになっていた。しかしZは笑いながら言った。
「・・・外の世界の人間の・・・狂気の塊ですよ・・・。」
「そう・・・なら、貴方は生物じゃないのね・・・。」
「何故わかったのです?」
「生き物にはありとあらゆる感情があって、様々な経験を通して生きている。嬉しい事や悲しい事も一緒に・・・。貴方はそう言った感情がない・・・。貴方は生きている感じがしない・・・貴方は一体、なんなの!?」
「まぁ、そうですね・・・T‐Jのお兄さんという事でしょう・・・。それにしても完敗でした霊夢様・・・まさか、貴方にそんな力が残っているとは思いませんでした。では、悪役の如くもう一つ言いましょう。射命丸様を殺したのは我々ではありません。」
「!?あんた達でもT‐Jでもないなら何なの!?」
「彼女の名はキリュウ・・・。闇の巫女封印に参加した魔界神、神綺のクローン戦士です・・・。」
「なっ!?」
キリュウが文を・・・。いやそれよりも闇の巫女?神綺のクローンって?いつの間に遺伝子を取ったんだこいつ?
「ふふふ・・・では、機会がありましたらまた会いましょう・・・博麗霊夢様・・・。」
そのZの言葉を最後に・・・Z-111は完全に壊滅した・・・。
中心で煙を上げているR島。そこから去る船が数隻・・・。その内の1隻にはキリュウがいた。
「ふっ、Zめ・・・奴等を試すつもりが、負けるとは・・・。だが、おかげでいい土産ができた。」
振り返ると、そこにはT‐Jに似た機械人形が。T‐Jよりスペックが落ちているものの量産されていたのだ。
寂しそうにR島を見るキリュウ。彼女にとっては生まれ故郷に近いものだった。
「だが、本当の故郷は魔界・・・幻想郷にある・・・。そこで少しは楽しもうかの?それにしても・・・。」
と、キリュウは1体の機械人形に抱えられているものを見る。
それは霊夢だった・・・。疲れ果て、気絶しているのだ。ちなみににとりも確保した。
「博麗霊夢・・・噂以上に殺しがいのある奴じゃ・・・。寝顔はまぁいいが。」
その霊夢の頬を涙が伝った・・・。
最終回に続く
まぁ期待してますよ。
だから酷い二次設定をあたりまえのように使うし、原作キャラをゴミクズのように扱うことも出来る。
正直この作品が好きって人は東方嫌いなんじゃないですかね?
それにしてもやっぱり黒幕がZとは・・・。
最終回、とりあえず期待しておきます
これだけの酷評を受けながらも完結させようという心意気やよし。
最終回期待。
アンガールズの片割れか?
あいつ妖怪だったんだ
また誤字かよ!ダメじゃん!
という訳で50点(なかったら60点だが)
ド厨房の頃とかって、批判されてても理解できないから聞き流すんだよな。
単に何を言われてるのか分かってないだけだと思った。
あと一個で終わりというのがただ目出度く、その一点のみが点数に値する。
何も突っ込まない。
あれだけ言われて何事も無かったかのように続ける作者に10点
ハマり初めの頃は、意気高揚って感じで妄想垂れ流しになるのはよくある事(通称「黒歴史」)だけど、そろそろ自重した方がいいと思うなあ。
まぁ最終回も頑張れ
そーなのかー
チルノがどうなったのか心配だー
此処まで根気強くここまで書き続けてきたあなたに、次で終わる喜びの意味をこめて10点です