東方の金曜日
第12話「栄枯盛衰:遥か昔から愛してる」
「そろそろね・・・。」
「もう行くの?やったー♪」
紅魔館の主、レミリアがそう言い、フランも楽しそうにはしゃぐ。
今は真夜中。妖怪達が活動的になる時間だ。レミリアにとっては至高の一時だ。
「(それにしても、神である神奈子すら倒すとは・・・T‐J、外の世界の人形風情にしてはやるな・・・。)」
咲夜から受け取った紅茶を飲みつつ、レミリアは思う。一体、T‐Jはどうしてこんなに反則的に強いのだ?
神奈子達の脱落情報を知った時、フランが楽しそうにT‐Jの所へ向かおうとするので、慌てて止めた。
何も、昼間に行動しなくても良いではないか?吸血鬼は夜行動するのが普通だ。
だからフランを説得して、真夜中になるまで寝ていたのだ。R島は暑くて、寝苦しかったが。
そして今宵は満月。自分にとっては好都合な時期だ。新月だと、幼女となって、うっかり咲夜の鼻にダメージを与えてしまうからだ。
満月は自分の力を全開に引き出すもの。それは妹のフランも同様だ。
妹でありながら、何でも壊すフラン。そういえば、彼女にとっては初めてのお外だな。
情緒不安定な為、いつも彼女を地下室に閉じ込めた自分。きっとそれは妹の能力に対する恐怖なのだろう。
「ねぇ、お姉さま。この腕時計取れないよー。」
「取れないのは私も同じよ。嫌なら、壊したら?」
「無理なのよ。さっきからこれの「目」が見当たらないの。きゅっとしてドカーンできないよ~。」
相変わらず幼い言い方だが、どうやらZはフランの能力でも壊せない設計になっているらしい。
全く、Zという人間には呆れてしまう。いつの間にか、自分達を調べ上げるなんてストーカーと言わざるを得ない。
「とりあえず、奴の居場所を突き止めないと・・・。」
「ですが、どちらに向かいます?」
「とりあえず、神奈子達が死んだ場所ね。犯人は証拠隠滅の為に戻ってくるというし。」
「わかりました。」
こうして、レミリア一行は神奈子とさとりが死んだ場所、O-215へと向かう。
やがて、先頭を進んでいる美鈴が声を発する。
「お嬢様。なにかいますよ。」
「T‐Jね・・・。やはり、私の勘は正しかったわ・・・。」
「いえ、どうもそれが、複数で・・・。」
「複数?」
レミリアはその言葉に首を傾げながらも、その影を見る。
よく見るとそれは・・・永遠亭の御姫様と従者である医者と兎2匹だった。
因幡てゐと鈴仙は永琳の指示通りに辺りを探していた。辺りはまさに焼け野原であった。
しかし、どう探しても何もなかった。
「永琳、これは少し、おかしいわね・・・。」
「そうですね・・・辺りを探しても神奈子達の死体が見当たりません。」
姫である輝夜の言葉に永琳は頷く。そう、神奈子達の死体が見当たらないのだ。
「では、T‐Jが2人を持っていたのでは・・・。」
鈴仙が恐る恐る尋ねるが、永琳は首を振る。
「最初、ルーミアが殺された時、T‐Jは何もせずに去っていた。ということはルーミア達のも放っておかれたのよ。けど、それが見当たらないとなれば・・・。」
「黒幕ですね・・・。何故、運び込んだのは分かりませんが・・・。」
永琳の言葉に合わせて輝夜は続ける。彼女達もT‐Jの背後に黒幕がいることに気づいた。
「あと、天狗2名、こいし、メディスンには『T‐Jの手により死亡』じゃなく、只の『死亡』と表示しているし、庭師剣士なんか『原因不明のLOST』なんてなにか変よ・・・。この任務どうやら・・・。」
息継ぎをして、輝夜は続ける。
「Zと関係ありそうな者の仕業ね・・・。それにはまず、Zの正体を探る事も必要だけど。」
「ですね・・・あら?あれは・・・?」
永琳が何かを発見したらしい。よく見るとそれは・・・紅魔館の吸血鬼一行だった。
何でこんな所に永遠亭の者達がいるんだ?咲夜は警戒態勢をとった。
月の異変以来、咲夜は輝夜達をずっと警戒していた(まぁ、医者の永琳には世話になったこともあるが)。
花の異変と天人による異変でも月の兎にちょっかい出された事もあった。
「それで、何か用なの?貴方達もT‐J退治?」
「そうね。所で、辺りを探したけど、神奈子達の死体が見当たらないのよ。」
「死体?それがどうしたの?」
「鈍いわね~コウモリ。T‐Jはその死体を持っていってない。けど、それが見当たらない。普通、分かるわよ。」
輝夜の一言に咲夜はカチンときた。
「(お嬢様は貴方達よりも500年も生きておられるのよ!薬漬けで不老不死になった貴方には言われたくない!)」
咲夜が怒気を募って思っていると、レミリアが眉をひそめる。
「・・・T‐Jの背後に誰かいるのか?」
「そう。目的とかは分かんないけど、恐らく、天狗達もそれを知って、口封じにあったのね・・・。」
「何故分かる?」
「あの天狗のことよ。きっと赤い円、T‐Jの出没場所に入って、何か凄い情報を得て殺されたのでしょう。」
それを聞き、レミリアはふっと笑う。
「ニートにしてはなかなかやるじゃないの。だが、その天狗が死んだ以上、その真実とやらは再び消えたでしょうね。」
「ニートは余計。その真実とやらはまだあるわよ。あの赤い円の中に。どうレミリア、手を貸してくれない?」
「一時同盟だと・・・?」
輝夜の一言にレミリアは絶句する。咲夜も驚いている。こいつ何か変わっていないか?
今までの輝夜はいつも引き籠って、パソコンとかをやっている上、困った時は従者頼みしていた姫様。
それが、まるで中身が入れ替わったかのように違う言動を行っていた。
「実は私達もT‐J退治を行おうとしているの。その前に敵の情報を探る為に赤い円へ入りたいけど、正直危険すぎて・・・。」
「利害の一致故に手を貸せと?・・・ふふふ、何を言っているかしら?お断りよ。」
レミリアの一言に今度は輝夜が眉をひそめる。
「あんたとは気が合いそうにないし、それに月の都に攻め入った時(儚月抄)、あんたの従者の弟子姉妹に苦渋を飲まされたし。第一、東方一のカリスマキャラであるレミリア・スカーレットが他人(ニート姫)の手助けをすると思っているのかい?」
レミリアは高らかにそう言うと、咲夜はなんだか気分が良くなったような感じになった。
「(そうよ。レミリアお嬢様に手助けは無用。お嬢様の運命を操る能力なら、きっとT‐Jを倒せるわ。)」
そんな中、静かににらみ合うレミリアと輝夜。それを似た者同士か美鈴と鈴仙がアタフタしている。
やがて、輝夜はため息をつき、こう言う。
「仕方がないわね・・・。もういいわ。こっちはこっちで行動するわ。けど、貴方に言いたいことがあるの。」
「何?」
そして、輝夜は信じられない事を言った。
「・・・死なないでね。貴方も貴方の妹や従者たちも・・・。」
「「なっ・・・・・・!」」
突然の言葉に驚くレミリアと咲夜。それに対し「行きましょう」と輝夜達は遥か彼方へと去っていた。
それをレミリアは凝視していたが、やがて拳をワナワナと震わせる。
「奴め・・・!この私があの機械人形にやられると思っているのか?ふん、面白い・・・T‐Jの首を取るのは・・・このレミリア・スカーレットだという事を徹底的に教えてやる!!」
そう高らかに宣言するレミリアお嬢様。真に勇ましい光景である。
「所で、何処へ行きます?」
「あっ・・・うー・・・。」
取りあえず美鈴が水を差したので、ナイフで気は使っても空気を読まない馬鹿中国を修正してやった。
「そろそろ行くか・・・。」
「慧音、頃合いなのか?」
一方で、ワーハクタクである慧音が立ち上がる。彼女の姿は満月により、ハクタク姿になっている。
妹紅は心配した。彼女は大丈夫だろうか?霊や神ですら殺せる殺人鬼機械人形相手に・・・。
「慧音・・・本当に戦うのか?」
「ああ・・・戦う。これ以上、奴のすきにはさせない・・・。妹紅・・・今思えば、楽しい毎日だったな。」
そう言う慧音に妹紅は絶句した。何故戦うんだ?どうしてそんなことを言うんだ?だからつい、大声を出してしまう。
「どうしてだ!?何故お前が闘わなきゃいけないのだ!何の理由もないのに!」
「理由はある・・・私は人間が好きだ・・・そして、妹紅も好きだ・・・。」
そう言う慧音に、妹紅はガシッと肩を掴む。
「ならお前が闘わなくてもいい!私がやる!私は不老不死だから!あいつ位、長いけど倒してやるから!」
そう言った直後、腹部に痛みが走る。慧音にみぞうちを殴られたのだ。
「けい・・・ね・・・?」
「すまない・・・これは私が選んだ道なんだ・・・妹紅には妹紅の道がある・・・。それぞれの道が皆あるんだ・・・。」
「慧音・・・・・・。」
「妹紅・・・行って来る・・・。愛しているぞ・・・。」
妹紅は薄れていく中で、慧音を思った。
慧音。最初はうっとうしい奴と思ったけど、しだいにお互いに引かれていた。
今思えば・・・それは慧音のまっすぐさにひかれたと思う。
そして、妹紅の思考はここで中断する。
「どこへ向かうのです?」
「あら、閻魔様?これは奇遇ね・・・。」
フラワーマスターである幽香は意外な人物と出会う。映姫である。
フルネームが長い上に説教も長く、いつも怠惰な死神に悩まされている。幽香にとっては嫌な奴だ。
「決まっているじゃない・・・。」
そう言い、冷たい眼を映姫に向ける。
「貴方の部下に裏切られ、死んだ下僕の仇打ちよ・・・!」
そう、幽香はT‐Jを抹殺し、更には、リグルを見殺しにした小町も殺すつもりだった。
何故、小町がそんな事をしたのか不明だが、リグルをT‐J に殺されることを企てた事は許せなかった。
リグルは自分の憂さ晴らしや花の成長の手助けなど、様々な雑用を行う下僕だった。
幽香にとってはどうでもいい奴だった。だが、そんな彼女の死に動揺していた。それは・・・。
「(きっと、私の心の10分の1があの子を気に入っているのね・・・。)」
だから、許せなかった。殺したT‐Jも見殺しにした小町も・・・。
それを見た映姫はため息をつき、こう言う。
「幽香さん・・・小町も悩んでいたんです・・・。」
「悩んでいた?・・・どうであれ、あの子を見殺しにしたのよ!同罪よ!それがどうしたのよ!?」
訳が分からない。思わず、幽香は感情的になってしまう。
「止めないで下さる?もし邪魔すらなら、容赦しないわ・・・!」
「落ち着きなさい。小町はかつて友を見殺しにして心に傷がついたのです。」
「それがどうしたのよ?なら、あいつは2回も見殺したのね?」
「それ以来、彼女は人が変わったのです・・・。話好きなのも寂しさを紛らわす為だったのです・・・。」
「う・・・うるさいっ!!貴方に・・・貴方に何が分かるのよ!!」
訳の分からない事を言う映姫に対し、幽香は怒鳴った。そんな理由であの死神を許すのか?閻魔らしくない!
そう言った雰囲気の中・・・。
「おや、どうしたんだい幽香?お前らしくもない・・・。」
声がした。振り返るとそこには・・・。
「魅魔・・・。」
魅魔がいた。魅魔はにっと笑い、近づく。
「霊夢達と少しの間別れたら、旧友に会うなんてな・・・。幽香、お前どうしたんだ?」
「何も・・・。そう言う貴方は・・・?」
そう言われ、魅魔は覚悟を決めたような表情をし、言う。
「手伝ってほしい・・・。あんたとあたしなら、奴を倒せると思う。」
「あら、悪霊さんがわざわざ同盟ごっこでも?」
「いや、聞いてほしい・・・。私は奴を初めて見た時から・・・闇の巫女の気を感じ取った・・・。」
「何っ!?」
闇の巫女だと?確かあれは・・・?驚く幽香の代わりに映姫が説明する。
「闇の巫女・・・。かつて、博麗神社の巫女の1人が闇の理に堕ち、暗黒の力を身にまとい、幻想郷全てを闇に落とそうとした者ですね・・・。新しい物好きでとても傲慢、残虐な性格で恐れられている、強靭・無敵・最強の闇の少女・・・。」
「ああ、そうさ・・・。闇の巫女の力はおっかない。神を殺すですら朝飯前の力さ・・・。」
「その名、久しいわね・・・。確か、スキマ妖怪と先代の巫女が彼女を封印したって聞いたことあるけど・・・。」
「正式には、あたしとあの魔界神もな。彼女はこの戦い以降すっかり傷ついてしまって、少し幻想郷にいられなくなっちまったんだ。」
「それは可哀想に・・・。噂じゃ、あの人形遣いが彼女の娘と言われているけど?」
「まぁ、あくまで噂だけどな。彼女に聞かないと分からんし・・・。」
幽香はしばしの間考えた。そしてこう言う。
「分かった、協力するわ。正直、1人で戦いたかったんだけど、闇の巫女の力を受け継いだものなら仕方がない。」
「私も同行させて頂きます・・・。闇の巫女の力がどうであれ、あの機械人形に判決を述べなければならないので。」
ふと、映姫ははっとなり魅魔に尋ねる。
「それにしても、よく闇の巫女の事を知っていますね?闇の巫女は今ではごく一部しか知らない筈ですが・・・。」
「あぁ、当たり前だ。何せ・・・。」そしてこう言う。
「闇の巫女は霊夢の先祖である先代の巫女の双子の妹だからな。」
「さてと・・・。」
萃香は愛用の瓢箪の酒を飲みながら、月を見つつ、辺りを見回る。
パルスィの死のことがあったろう、勇儀の寝顔は悲しく、疲れているように見えた。傍にはキスメがぐっすり眠っている
「どこへ行くんだい?」
ふと、そう言う声が掛けられる。振り返るとヤマネだった。
「ヤマネ・・・。」
「パルスィの仇打ちかい?」
「うん・・・だって、勇儀の大切な人だったし。」
萃香はそう寂しそうに言う。そうだ、自分は何もできなかった。パルシィが傷つき、死んでしまっても何もできなかった。
腕時計の脱落情報を見てみると、やはりT‐Jは生きているらしい。だから・・・。
「・・・萃香。勝てる道理はあるのかい?」
「分からない・・・けど・・・。」
「・・・仕方がない、私も行くよ。」
「えっ?」
突然の事に萃香は驚いた。
「な、何でさ・・・。」
「足手まといはしないからさ、勝率を上げる為だよ。それに、仲間を殺したあいつを許す訳ないだろ?」
「でも、キスメは・・・。」
「勇儀はいい奴だ、きっとキスメを大切にしているさ・・・おっと、死亡フラグだったかな?」
そう言って、ヤマネはフッと笑う。もはや梃子でも動かない様子だ。
「分かった・・・行こう。」
そう言い、萃香はヤマネと共に勇儀達の所から離れる。萃香は勇儀の寝顔を見つつ、こう思う。
「(勇儀・・・。またあんたを一人ぼっちにしてすまないね・・・。思い出すな、あの時・・・。)」
そして、勇儀達から去りながら、あの時を思い出す・・・。
それは萃香がまだ幼い時で鬼が幻想郷にたくさんいる時代・・・。
萃香がいつもの様に甘酒を飲みつつ、1人花見をしていると、泣き声が聞こえてきた。
何だろうと不思議がり、行ってみるとそこには自分とは少し年上の鬼娘が泣いていた。
顔はよく見れないが額には角があり、その角には星印が付いてあった。萃香はあることを思い出す。
「(確か、父ちゃんが仲間に入れようとしている星熊の一族か・・・。)」
星熊の一族。当時、角に星印がついている鬼は不吉の象徴とされ、その中の星熊の一族は徹底的に弾劾されていた。
きっと、他の鬼に苛められたのだろうな・・・。そう萃香は思ったら、その鬼娘に気づかれた。
顔立ちは整っており、成長すればきっと綺麗な鬼になるんだなと思う。
「見るな・・・そんな目で私を見るな―――!」
興味津々に見た筈が侮蔑の視線と誤解した鬼娘は走ろうとする。それを萃香は慌てて止める。
「待って。あたしは伊吹萃香。あんたを苛めないよ。」
「・・・本当?」
「本当よ。父ちゃんも優しいから星熊の一族を仲間として受け入れるつもりだよ。」
「・・・貴方は私の事、嫌じゃないの・・・?」
「嫌って何?あんたの角、鬼らしくて綺麗じゃないか。それに比べてうちの角は木の枝みたいで・・・。」
そう言い、萃香は自分の角を触りながら呆れる。鬼娘はそれをじっと見たが・・・。
「ちょっと動かないで・・・。」
「ふぇ?」
そう言われ、ふと、左の角に違和感が。よし、と言われ、萃香は鬼娘から鏡を受取、見る。
見ると、それにはリボンが付いてあった。鬼娘がふふと笑う。
「可愛い・・・。」
「え?そ、そうかな・・。あ、そうだ。1人じゃつまらないから花見しようよ。甘酒飲む?」
「私でよければ・・・。」
「そう言えば、名前は?」
「勇儀・・・。星熊勇儀・・・。」
そうして2人はいつも楽しい毎日を送っていたが、訳あって2人はその後、離れ離れになってしまった。
そして時は流れ、現在より少し前・・・。
ある時、萃香は霊夢に誘われ、地下に潜ることとなった。何か面白い物があるかな?と文、紫と共に前進する。
途中でヤマネやパルスィを撃退している中、ふと懐かしい様な感じの声が聞こえた。一方は魔理沙のだ。
「はっはっは!やるねぇあんたも!」
「やるねぇって・・・杯の酒を溢さずに戦うなんて、随分余裕満々な鬼だぜ・・・。」
見てみて、萃香は驚いた。
そこには、自分と同じ鬼だった。顔立ちはいかにも姉御肌っぽく、額には星印の角が・・・。そしてその鬼は言う。
「そのリボン・・・あんた、萃香なのか?」
「何で私の事・・・。っ!勇儀・・・?あんた、勇儀なの?」
「・・・やっぱりだ!萃香だー!」
「勇儀―――!」
そう言って、萃香は勇儀に抱きつく、何がどうなっているんだ?と霊夢達はキョトンとするがお構いなし。
「勇儀久し振り!やっぱり、戻って来たんだね!」
「ははは!お前も変わってなさそうだな!懐かしいな!」
そう言って笑いあったあの日々が懐かしい。
その思い出を・・・親友を・・・勇儀を守る為・・・私は闘う・・・。
「衣玖―。衣玖―。どこなのー?」
天人のMっ子、天子は探していた。従者であり、空気を読む衣玖がいないのだ。
「もう!衣玖ったら、空気が読めるくせにどこかへ行って~!一体どこでなにをしているかしら?」
ぷりぷり怒りながら、天子は歩き続けた。しかし、もう何処が何処だが、分からない状況だった。
「あうう・・・夜になったし、やたらと動き回るのはヤバいかも・・・。」
そう言い、少し休む天子。緋想の剣は少し前に衣玖に渡したのだ。全くの無防備である。
何で、衣玖は緋想の剣を借りようとしたのだろう?何かに使うのか?
そう考える天子の後ろに隠れている影が・・・衣玖である。
「(申し訳ございません、総領娘様・・・。)」
寂しそうに天子を見る衣玖。そして、覚悟を決めた顔になる。
「(ですが、空気を読んだ以上、私は行かなければなりません。黒幕と機械人形の野望を告げに・・・。)」
その衣玖の手には緋想の剣と・・・鴉天狗の手帳があった・・・。
レミリアはT‐J探しに戸惑っていた。R島が広すぎる上にどこにいるのかわからない。
このままだと朝になってしまう。朝はレミリアの天敵だ。
だから急いでいる。焦っているのである。
「もう・・・T‐Jはまだ見つからないの?」
「それが、偵察に行った中国が戻ってこないのです・・・。」
まさか・・・そう思い、咲夜はその思考を振り払う。まさか、いくらなんでもそれはない・・・。
すると、咲夜に聞き覚えのある声が。
「さ・・・咲夜さん・・・お嬢様・・・。」
見ると美鈴だった。だが・・・。
「美鈴!?」
「中国!?」
美鈴は傷ついていた。よたよたと歩き、倒れる。駆けつける咲夜。
「美鈴!美鈴!しっかりしなさい!何があったの!?」
「咲夜さん・・・見つけました・・・。」
そう言って指差す。見るとその先には・・・T‐Jがいた。
「T‐J・・・!」
咲夜は自分を責めた。自分の部下に危険な目に合わせてしまった・・・!
その時、美鈴は咲夜にこう言う。
「咲夜さん・・・お役に立てなくてすみません・・・。」
「な、何言ってるの美鈴!その程度の傷ぐらいで弱気にならないで!」
「咲夜さん・・・今まで・・・お世話になりました・・・。」
そう言い、美鈴は力尽きた・・・。
「美鈴――――――!!」
『Z-111 紅美鈴 T‐Jの手により死亡 現在脱落者25名』
それを黙って見ていたレミリアとフランが咲夜の前に進む。
「咲夜・・・貴方はここで待機よ・・・。」
「お嬢様・・・妹様・・・。」
「しっかり見てなさい・・・私の戦いぶりを・・・。」
そして、T‐Jに怒りのまなざしを向ける。
「うちの門番を殺した罰は、死をもって償ってもらうわ・・・。」
「美鈴のカタキ―――!!」
今、殺人鬼機械人形と吸血鬼姉妹・・・2つの最凶の戦いが始まる・・・と思いきや・・・。
ズドドドドドドドドドドド!!
突如、T‐Jの周りに爆発が起こる。吹っ飛ぶT‐Jだが、すぐに態勢を立て直す。
「何なの!?」
見ると、そこには・・・。
「お楽しみの所ですが・・・私達も彼に判決を言い渡したいのです・・・。」
「邪魔立ては無用よ・・・。」
「まぁ、手伝うなら仕方がないが・・・。」
映姫、幽香、魅魔。
「パルスィの仇討ちしたいんだけど・・・。」
「まぁ、あいつを狙う者は私等だけじゃないみたいだね・・・。」
萃香、ヤマネ。
そんな者達にレミリアは目を細める。
「何よ?邪魔するなら帰って。」
そんなレミリアに対し、魅魔はこう言う。
「まぁ、冷たいこと言うな。それより、あんたら2人じゃ勝てないだと思ってね・・・。」
「勝てないだと・・・!」
カチンときたレミリア。それに続けて、映姫も言う。
「レミリアさん。T‐Jには貴方が思っているのより、桁違いに強いのです。貴方達ではとても勝てそうにありません。」
「それに、私もうちの下僕を殺された恨みがあるからね・・・。」
そして幽香も続ける。それをフランが心配そうに見ている。
「お姉様・・・どうしよう・・・?」
レミリアは考えた。もし、あいつらの言う通り、T‐Jが予想以上に強いとなれば、きっと自分達でも苦戦するだろう・・・。
だから、レミリアは咲夜に言う。
「咲夜は安全な所で待機しなさい。」
「お嬢様・・・分かりました・・・お気をつけて・・・。」
「分かっているわよ・・・。さて、邪魔しないなら、手伝ってくれないかしら?」
そして、レミリアは魅魔に言う。それに頷く一同。
「まずは、奴の武器を何とかしないとな・・・。奴にはどうやら、幽霊対策のもあるし。」
魅魔が忌々しそうにT‐Jを見つつ、言う。そう言った直後、
T‐Jの持っている武器が消えたのだ。T‐Jもその異変に気付き、脚部のカバーを開く。
だが、それらしい武器が見当たらない。レミリア達も不審に思う。
「な、何だ?武器が消えたぞ。何かの罠か?」
「いや、それは違うぞ、萃香・・・。」
一同は振り返る。そこには、ハクタク姿をした慧音がいた。
「私の能力で、奴の武器の歴史を変えたのだ・・・。強さも我々並みしか下がれなかったが・・・今の奴は丸腰だ!」
どうやら、彼女の歴史を作る能力でT‐Jの武器を無かったことにしたらしい。流石はワーハクタク。
「ふん、余計な真似を・・・。まぁいい・・・行くぞっ!!」
そう言い、レミリア達はT‐Jに攻撃を行った。
チート殺人鬼対チート能力者軍団。今、状況はレミリア達の有利として傾いていた。
一方、謎の少女・キリュウは妖夢から奪った刀にこびり付いた血を洗い流していた。
その時、はっとなって頭をあげ、急に笑みを浮かべる。
「この気・・・。T‐Jとレミリアとフランと魅魔と幽香と映姫と萃香とヤマネと慧音・・・。殺人鬼と吸血鬼姉妹と悪霊と向日葵の妖怪と閻魔と鬼と蜘蛛とワーハクタクの殺し合い・・・。この殺し合い、この目でじっくり見ないといかんな・・・。」
T‐Jは確かに強い。だが、手を打ってあれば倒せない事はない。
まず、慧音の能力により、T‐Jの武器や防御力がなくなり、攻撃力を低下させる。
そうなれば、あとはもうリンチしまくりで叩きのめす。
ヤマネの蜘蛛の糸で足止めし、フラン、萃香、幽香、映姫、魅魔、そしてハクタクが一気に攻撃する。
T‐Jは精一杯、耐えたが、装甲にひびが生じ、動きも鈍くなり始めた。
「よし・・・では、判決を言い渡しましょう・・・。」
「あら奇遇ね・・・。私も止めを刺すつもりよ・・・。フラン、準備はいい?」
「いいわよ、お姉様!」
「さて、幽香。あたしらも行くか?」
「あれをやるの?いいわよ・・・。叩きのめす・・・!」
そう言い、レミリア、フラン、映姫、幽香、魅魔がスペルカードをセットする。
まずは映姫か、映姫の周りに光が生じる。
「T‐J・・・。貴方に判決を言い渡します・・・・・・有・罪!!」
その言葉と共に彼女の周りからレーザーの如く、光線がT‐Jに襲いかかる。
大爆発。しかしまだまだ終わらず、次は吸血鬼姉妹の番だ。
「フラン、今度は私達の番よ・・・。行ってきなさい!」
「イテキマース!!」
レミリアが渾身の力を込めて、赤き槍を投げる。それに乗っているのがフルパワーのフランだ。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
フランの一閃により、T‐Jはなんと赤い色の結晶に包まれた。そして今度は魅魔達の番となる。
「流石は吸血鬼だな・・・。よし、あたしらもやるか!」
「ええ!終わらせましょう!」
既にチャージ完了した魅魔と2人に分身した幽香が結晶に包まれたT‐Jに向けて最強の一撃を放つ。
「トワイライト・・・。」
「ダブル・・・。」
「「スパーク!!!」」
映姫以上の破壊力抜群の弾幕が降り注ぎ、一挙に大爆発が起こる。
辺りが、一瞬にして焼け野原となり、島の中央で大きなキノコ雲が上がる。
きっと、霊夢達もそれを見ているだろう。この一撃なら、T‐Jも倒れるだろう。
そして、意外な人物が現れる。
やっと、戦場についたばかりのキリュウである。彼女はこう文句を言う。
「ってもう終わりかいっ!せっかく、殺しあいを楽しみにしておったのに―!」
しかし、そんな悔しそうな声はレミリア達には聞こえなかった。
煙が晴れ、その中から影が現れた時、レミリア達は身構える。だが、大丈夫そうだった。
T‐Jはもう動かなくなっていたのである。装甲はひびだらけで、仮面の奥はもう光らなかった。
「・・・ふっ。流石の機械人形も私達の力の前には無力ね・・・。」
「ま、ワーハクタクの能力のおかげだがな。」
「いや、皆のおかげで勝てたのだ・・・だが、その分、犠牲は大きかった・・・。」
「でも・・・でも、これで皆の無念を晴らせたね・・・。」
「そうね・・・。」
「幽香さん・・・。」
「ねーねー、止めにT‐J壊していい?」
「いいわよ、フラン。徹底的に壊しなさい。」
「ヤター♪」
そう言い、フランは楽しそうに動かないT‐Jに近づく。
その時、T‐Jに異変が生じた・・・。
『ククク・・・クククク・・・!』
「「「何!?」」」
突如、謎の声が聞こえ、レミリア達は警戒する。どこから聞こえるんだ?そして、
「お嬢様!あれです!」
「ん?・・・なっ・・・!」
咲夜の言葉を聞いたレミリアはその方向を見る。それは・・・
T‐Jの体の中から、どす黒い煙が出ていた。そして、レミリア達の周りに寒気が襲う。
「な・・・何だ!?」
「ま、まさか・・・!?」
その光景を見て、魅魔は絶句する。あれは・・・。
「まさか、奴の体内に闇の巫女の魂が宿っているのか!?」
「「「闇の巫女?」」」
魅魔の言葉にレミリア、フラン、咲夜、萃香、ヤマネ、慧音は首を傾げる。やがて・・・。
T‐Jが立ち上がったのだ。黒き煙に包まれ、ゆっくりと。手を動かし、動けるかどうか確認している。
『ふむ・・・。代用の体にしては、まだいけるな・・・。』
T‐Jがしゃべっている!?レミリア達にとっては信じられない出来事だった。しかし、魅魔が叫ぶ。
「まさか・・・遂に蘇ったのか闇の巫女!?」
『うむ?』
それを聞き、T‐Jは首を魅魔達の方へ向ける。何だか、操り人形みたいな動き方だ。
だが、闇の巫女?レミリアには理解できない内容だった。この霊は何を知っているんだ?
『ふぅむ、何だと思ったら、魅魔ではないか?霊故に変わってないとは、なかなかのしたたかさだな・・・。』
そして辺りを見て言う。
『気が付いたら、訳の分からない所で変わった奴らと戦う羽目になるとは・・・。くっ!?』
そう言い、T‐Jは膝をつく。流石に大ダメージをくらっていることは確かだ。
『この体から離れぬ上にこんなにも傷つくとは・・・流石だと言いたいが・・・甘いぞ、豚骨共!!』
豚骨?そういう言葉に首を傾げる一同。その時、T‐Jの周りにあるどす黒い煙がどんどん多くなる。
「な、何!?」
「ななななぁにこれぇ!?」
いつもは楽しそうに弾幕をやっているフランも只事じゃないと後ずさる。
『貴様等は1つ、大事な事を忘れている・・・この我という史上最強の闇の巫女を覚醒させたということだ!!』
変なポーズを取り、そして、T‐J(?)はレミリア達に指さし、余裕のある口ぶりで言う。
『今から、我の特殊能力を発動する!この特殊能力により・・・!』
その時、T‐Jの体に異変が生じる。なんと装甲のひびが少しずつ消え始めたのだ。
『我の代用の体のダメージを回復させ、闇の符力により、攻撃力を上昇させる!正真正銘、貴様等の最後だ!!』
「何だか知らないが、させるかっ!お前の存在など、なかったことにしてやる!」
途端、慧音が勇敢にT‐Jに突進する。自慢の角でT‐Jを一突きにするらしい。
「止めろ、ワーハクタクの!奴は・・・!」
「くらえぇぇぇぇぇ!!」
そして、攻撃を行おうとする瞬間。
『ふぅむ・・・無駄だっ!』
ガシッ!なんと動けない筈のT‐Jが慧音の角を掴んだ!
「「何っ!?」」
「ぐ、ぐぐぐぅ・・・。」
角を掴まれ、身動きが取れない慧音。T‐Jは角を掴んだ腕に力を込める。
『・・・玉砕!!』
そして・・・慧音の片方の角が砕け、折れてしまった。
「け、慧音!?」
「ぐああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
襲いかかる痛みに慧音は頭を抱え、地面をのたうちまわる。余程、激痛だろう。
「な、何なのよ・・・。こんな能力があるなんて、聞いてないわよ!」
そう、レミリアは震えていた。500年でも、こんな思いは今までなかった。それは閻魔達も同様だろう。
そんな彼女達と違い、その光景を喜んでいる者がこっそりいた。キリュウである。
「とうとうT‐Jの本気が伺えるぞよ!いよいよ、わしの心を満たす最高の殺し合いの始まりじゃ!!」
そんな彼女の言葉はレミリア達には聞こえなかった・・・がその時、T‐Jがキリュウのいる方向に向く。
『うぅぅぅぅるさぁぁぁぁぁいっ!!!』
そう言い、手を差し出した瞬間、なんと黒い弾幕が出て来たのだ!
「へ?」←キリュウ
そして、弾幕はキリュウのいた場所を吹っ飛ばした。
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
レミリア達には気づかなかったが、キリュウはその弾幕の爆発により、吹っ飛ばされた。
『貴様のような覗き魔など何の用もないのだ!恥を知れ!』
突如、怒り出すT‐Jに一同はポカーンとした。だが、一つだけ分かったことがあった。
T‐Jも弾幕が撃てること・・・。
「(何なの?何で弾幕を出せるの?こいつ本当に外の世界の人形なの?いったい何なのよ!?)」
混乱するレミリアに対し、魅魔と幽香は叫んだ。
「闇の巫女!なぜこんな事をする!?」
「貴方だって、姉と同じく博麗神社の巫女の筈!?それなのにどうしてこんな事をするの!?」
闇の巫女?姉と同じ博麗神社の巫女?一体、どういうことだ?レミリアには理解できなかった。
だが、魅魔達の言葉にT‐Jは耳を貸さない。
『喚くな。正義や安らぎ、夢、そんなものなど永遠に必要のないことだ!これのようにな!』
そう言い、T‐Jは慧音の折れた角を慧音に投げつけた。あまりに凄いスピードである。
そして・・・角は慧音の腹部に刺さった。
「ぐふっ・・・!」
「け、慧音―――!!」
『次は貴様だ!受け取れっ!』
「え!?」
その瞬間、萃香の頭上に弾幕が降り注いだ。その爆発により、吹っ飛ぶ萃香。
『昂る・・・昂るぞ・・・!この殺戮の感触・・・この満喫感!そうだ、我はいつも戦いを楽しんでいた・・・。弱き者を虐げる度に、この我の体内の符力をかき乱し、そしてこの我の魂を熱くさせる!!』
そう言いながら、T‐Jは・・・T‐Jに取りついている謎の物体はヤマネ、映姫、幽香、魅魔に弾幕を発射する。
そのスピードに流石の魅魔ですら避けきれずに受けてしまう4人。
残るはレミリア、フラン、咲夜となってしまった。
『次は貴様等の番だな・・・。』
「な、何なの・・・何なのよ・・・!」
既にレミリアは怯えていた。あの時、T‐Jはもう動けない筈だった。なのに、どこにそんな力が・・・。
一方で既に戦意を失っているレミリアに対し、フランはやる気満々だった。
「ややややばそう・・・でも、やってやるもん!突撃―――!!」
「妹様!?」
「フラン止めなさい!」
しかし、フランは既にスペルカードを発動していた。一気に4人となるフラン。
「フォースオブアカインド!!これならどうよ!」
そして、4人のフランが一気に弾幕を撃ちまくる。だが・・・。
『ふふふふふ・・・で?そんな弾幕でどうしろと?』
「え?・・・うあっ!」
突如、T‐Jが弾幕を避けて、一人のフランの首を掴む。
『砕け散れっ!!』
そして、T‐Jはフランを投げ飛ばす。何もできずに倒れるフラン。それと同時に他のフランが消えてしまう。
「ありえない・・・!」
レミリアは悪夢を見ていた気分であった。自分でも手を焼かせたフランですら敵わないなんて・・・。
まさに悪夢でしかならない。
『そろそろ仕上げにしようか・・・?行くぞぉ!我の闇の符力により・・・。』
突如、黒き煙が集まり、何かの形に変わる・・・それはスペルカードだった。
「スペルカード!?何故、T‐Jが!?」
『その力を目に、胸に刻め!暗黒符・・・。』
そして・・・スペルカードが光り、その弾幕が現れる。魅魔が叫ぶ。
「闇の巫女、止めろ―――!!」
『断る!喰らえ雑魚共―――!夢想壊滅結界・だ―――!!』
今、T‐J(?)の弾幕が発動する。黒き弾が結界のように集まり、レミリア達に襲いかかる!
だが、レミリア達は覚えがあった。それは・・・。
「霊夢の・・・霊夢の夢想封印!?何故・・・何故奴が!?」
それは、霊夢の夢想封印に似ていた。そして、それ以上にでかかった。
大爆発が起こる。その威力はひとたまりもない。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
レミリアは直撃し、他のメンバーも吹っ飛んだ。全員が真っ逆様に落ちた。
「お嬢様ぁぁぁぁぁ!!」
咲夜は悲鳴をあげ、下へ向かう。お嬢様と妹様を救いに・・・。
『ふははははは・・・!見たか紫!貴様も見ているだろう!我の邪神を!・・・っ!』
突然、T‐Jの体に変化が現れ始めた。徐々に黒い煙が小さくなっていく。
『くっ・・・。そろそろ代用の体が、目覚めるのか・・・。まぁいい・・・この体ももはや限界の身・・・。覚醒は近い!』
その高笑いと共に黒い煙が消え、T‐Jの動きの調子が変っていた。
T‐Jは何事も無かったかのように辺りを見回す。まるで今までの行動を覚えていないかのように・・・。
ふと、背後に人の気配がしたので、振り返る。そこには・・・。
「やはり、吸血鬼ですら勝てないなんて・・・。貴方、これ以上多くの罪を作る気ね・・・。わかったわ・・・!」
それは、輝夜だった。笑っているが、目が笑っていない・・・。
「永琳や鈴仙を連れてこなくてよかったわ・・・。もう少し早かったら吸血鬼を救えたけど、今後悔しても仕方がない!」
そう言い、輝夜は服を脱ぎ捨てる。その下には・・・何やら動きやすそうな格闘技スタイルの服だった。
「こう言う時の為に火鼠の皮衣の余りを使って徹夜で作った戦闘服が役に立ってよかったわ・・・。」
T‐Jも戦闘態勢に入る。しかし、損傷は回復されているとはいえ、まだ全てが順調とは言えなかった。
それを見た輝夜は構えつつ、言う。
「貴方、随分と傷ついているわね・・・。でも容赦はしないわ。今、この戦いに決着をつける!!」
そう言い、輝夜はT‐Jに攻撃を仕掛ける。不老不死対謎の殺人鬼機械人形・・・今、その戦いが始まる・・・。
「ちっ・・・やはり、闇の巫女が蘇ったなんてな・・・。」
「私達は、T‐Jというパンドラの箱を開けてしまったわね・・・。」
魅魔と幽香はとある場所で横たわっていた。もはや動き出す気力が残っていない。
「もう・・・終わったわね・・・。」
「ああ・・・夢想壊滅結界・・・全てを破壊する究極にして禁断の結界だ・・・。あたしらも終わりか・・・。」
「残念ね・・・あと少しで倒せたものの・・・。」
「やはり、あたしらのような古い者の時代は終わったんだな・・・これからは霊夢達、新しい者の時代だ。」
「きやすく老人扱いしないでよ・・・。」
息が苦しい。いくら強い自分でもあの弾幕は異常に強かった。もはや意識が薄れてきた。
ふと見ると、空にリグルが浮いていた。幻なのか?迎えなのか?
彼女は幸せそうに笑っていた。それを見た幽香はふっと笑い、こう言う。
「何笑っているのよ・・・この馬鹿・・・。」
そう言い、幽香は眠る。永遠の眠りに・・・。それを魅魔は見ていた。
「さて・・・そろそろか・・・。魔理沙・・・あたしが教えた事・・・忘れるんじゃないよ・・・。」
そう言い、魅魔の体は・・・消えてしまった・・・。
『Y-213 風見幽香 T‐Jの手により死亡 現在脱落者26名』
『Y-213 魅魔 T‐Jの手により成仏 現在脱落者27名』
小町はあてもなく歩いていた。自分はこれからどうするんだ・・・。それは自分でも分からない。
ふと、頬に手を当てる。幽香に殴られた頬はまだ痛かった。
その時、またもや脱落者の情報を知らせる電子音が聞こえた。そして見て・・・絶句した。
「そ、そんな・・・。あの人が死んでしまうなんて・・・。」
今まで自分を叱っていたあの人が?いつも説教が長く、物事にうるさいあの人が?
死んでしまったのか?小町の頬に涙が流れる。
きっと、リグルを失った幽香もこんな心情なのだろう・・・。とてつもない悲しみが胸を締め付ける。
「うあぁ―――――――――――――――――!!!」
そして小町は泣いた。友を見殺したあの時のように・・・・。
『E-214 四季映姫・ヤマザナドゥ T‐Jの手により死亡 現在脱落者28名』
「・・・ね!慧音!しっかりしろ!」
懐かしい声が聞こえて、慧音は眼を覚ます。見ると、自分は妹紅に抱かれていた。
「良かった・・・大丈夫か?」
「も、妹紅・・・。すまない・・・勝てなかった・・・。」
「いいんだ・・・。お前はよく頑張ったよ・・・。」
いや・・・と慧音は首を振る。角の1つは折られ、その角が腹部に刺さっている。
「私は今まで、T‐Jを機械人形と思っていた・・・。だが、奴は只の器にすぎなかった・・・。本当は・・・うぅ。」
「慧音!?大丈夫か!?」
腹部に痛みが走り、意識が朦朧としていた。その時、慧音の眼に何か映った。
伝説では、半人半獣のハクタクは死に瀕する時、未来が読めると言われている。
それは伝説だと思っていたが、今、その光景がはっきり見える。
あれは懐かしの幻想郷・・・そのとある所で2人が対峙していた。
1人は博麗霊夢だ。左手に光る剣を持ち、肩で息をしている。よほど苦戦しているだろう。その後ろでは魔理沙達が心配している。
そしてその相手は・・・。
「(!?ま、まさか・・・そんな筈では・・・。)」
慧音は信じられなかった。何故彼女が霊夢と戦う?霊夢を苦戦させる力はどこから?
だが、はっきり分かったことがある。この惨劇は序章にすぎないと・・・。
「も、妹紅・・・頼みがある・・・。」
「?何だ?」
そして、慧音は愛すべき妹紅にこう言う。
「霊夢を・・・頼む・・・。あと・・・愛しているぞ・・・。」
そう言い、慧音は眼を閉じた・・・。
「慧音・・・?慧音!?死ぬんじゃない!慧音―――!!」
妹紅は必死に揺さぶるが、もはや慧音は眼を開かなかった・・・。妹紅の悲痛な叫びが辺りを包みこんだ。
『K-215 上白沢慧音 T‐Jの手により死亡 現在脱落者29名』
「相棒!しっかりしろ!ヤマネはどうした!?」
勇儀は傷つき倒れた親友を見つけ、必死に介抱していた。萃香は弱弱しく言う。
「勇儀・・・御免・・・私達の力ではあいつに・・・」
ふと、腕時計の電子音が鳴る。見ると予想もつかない事が書かれていた。
『Y-220 黒谷ヤマネ T‐Jの手により死亡 現在脱落者30名』
「キスメ、御免・・・私のせいでヤマネを死なせてしまった・・・。」
「萃香・・・。」
「・・・萃香お姉ちゃんは悪くない・・・。」
ふと、そんな声が聞こえる。キスメだ。彼女は目に涙をため、言う。
「萃香お姉ちゃんは悪くないよ・・・ヤマネお姉ちゃんもきっと萃香お姉ちゃんを恨んでないよ・・・。」
「キスメ・・・。すまない・・・。勇儀・・・。」
「ど、どうした?」
「また、一人ぼっちにして御免・・・大好きだ・・・。」
そう言い、萃香の手が力なく落ちた・・・。
「っ!相棒・・・・・相棒ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
天に向かって勇儀は叫んだ。溢れる悲しみの感情と共に・・・。
『S-220 伊吹萃香 T‐Jの手により死亡 現在脱落者31名』
「お嬢様!妹様!返事をしてください!」
そう言いながら、咲夜は必死に探す。自分は何もできなかった。主達が危険な目にあっているのに何もできなかった。
そんな思考の中、突如、声が聞こえる。
「聞こえているわよ・・・。」
「お嬢様!・・・っ!そ、そんな・・・妹様・・・!」
その声がした方向へ向かい、遂に咲夜は偉大なるお嬢様達を見つけた。だが・・・。
「咲夜・・・。フランはもう・・・手遅れだったわ・・・。」
そう言うレミリアが抱いているのは・・・動かなくなったフランだった・・・。
「妹様・・・。」
咲夜は自分を責めた。何故だ?何故、自分は誰も助けなかったんだ?
自分がしっかりしたら、中国も妹様も救えたのに・・・。皆と一緒に帰ると約束したじゃないか!
そう苦悩する咲夜に対し、レミリアは荒い息を吐きながら、こう言う。
「よかったわね、咲夜・・・。無事で・・・。」
「私は無能です・・・!お嬢様をこんな目に合わせてしまうなんて・・・!」
涙が流れる。何がメイド長だ。まるっきり役に立たないではないか。
そんな彼女にレミリアは手を乗せる。
「咲夜・・・。私では、T‐Jに勝てなかった・・・。奴に勝てるのは、霊夢、魔理沙、そして・・・貴方。」
「お嬢様・・・。」
「私は嬉しいと思う。いつも私の傍にいて、信頼できる人間は貴方しかいない・・・。」
そう言うと、咲夜の手が輝き始める。
「私の運命を・・・貴方に託すわ・・・。」
「お嬢様・・・!何故です!?私のような人間に何故そのようなことを!?」
「咲夜・・・貴方は私達の希望よ・・・紅魔館の代表よ・・・それを誇りに・・・思いなさい・・・。」
そう言い、レミリアは運命の力を咲夜に宿す。
「その運命の能力と霊夢達なら、きっと奴に勝てるわ・・・。咲夜、勝ちなさい・・・これが最後の命令・・・よ・・・。」
そう言って、レミリアは眼を閉じ・・・息絶えた・・・。
『R-224 レミリア・スカーレット
フランドール・スカーレット T‐Jの手により死亡 現在脱落者33名』
咲夜はしばらくしてから涙をぬぐった。そして言う。
「分かりました・・・。この十六夜咲夜、命を賭けて、T‐Jを倒します・・・!」
「そんな・・・皆が・・・レミリアですらやられるなんて・・・。」
腕時計の情報を見、霊夢は巨大な絶望感に襲われた。
こんなにも強い者達がたった1人の機械人形に・・・負けた・・・。まさに地獄といってもよい。
「許さねぇ・・・!」
そう言い、拳を握りしめているのは魔理沙だ。他の者も心配そうに見ている。
師匠を亡き者にした機械人形・・・そいつを許すわけにはいかなかった・・・。
「絶対、奴を生かしてはおけないぜ!霊夢行くぞ!魅魔様達の仇打ちだ!!」
「・・・無理よ・・・。」
「は?」
魔理沙は一瞬、耳を疑った。いつもの霊夢なら異変解決に実力を出す筈だ。
それなのに、何故戦意をなくす?何故そんなことが言える?
「無理なのよ・・・だって分かっているんでしょう?神である神奈子を始め、レミリアや魅魔、幽香ですら敵わないのに。」
魔理沙には理解できなかった。何故だ?何故、仲間を殺されてそんなことが言える?だから、つい大声で言ってしまう。
「止めろよ、霊夢っ!」
「私達はもう・・・勝てないのよ・・・。」
そこが、魔理沙の限界だった。彼女は霊夢の胸倉を掴み・・・。
「止めろっつってんだろう!!」
霊夢を殴り飛ばした。殴られて倒れる霊夢。
「魔理沙!」
「落ち着いて!」
パチュリーとアリスが慌てて落ち着かせようとする。しかし、魔理沙の怒りは収まりそうにない。
「お前がそんな弱気で臆病になってどうするんだよ!幻想郷で一番凄い神社、博麗神社の脇巫女は何処行っちまったんだよ!!」
魔理沙が叫ぶ。だが、霊夢は動きそうにない。それが魔理沙の怒りを更に煽らせる。
「・・・霊夢・・・!」
「・・・・・・・・。」
「もういい!お前がそんな奴だとは知らなかった!見損なったぜ!」
そう言い、魔理沙は霊夢に背を向け、去って行った。
決別。永遠に切れることのない友情で結ばれている筈の2人の決別である。
それを見送ってアタフタするアリスとにとり。冷静に考えているパチュリー。
その時、霊夢が言う。
「・・・さっさと行っちゃえば?」
その言葉にギョッとする一同。霊夢は嗚咽交じりに言う。
「笑っちゃうよね?博麗神社の巫女がこんな臆病者だったなんて・・・。見かけ倒しだったんだね・・・。震えが止まらないの・・・。早く、魔理沙の所に行きなさいよ・・・。臆病者の私は・・・もう放っといて・・・。」
しばしの沈黙・・・。すると、パチュリーが立ち上がる。
「霊夢・・・私は魔理沙の所に行くわ・・・。」
「パチュリー・・・あんた!」
その行動に咎めるアリス。しかし、パチュリーは物静かにこう言う。
「私は確かに魔理沙について行く・・・けど、霊夢。貴方も間違っていないわよ・・・。」
そう言われ、アリスは戸惑った。もし、魔理沙の身に何があったら・・・。
そしてアリスもこう言う。
「・・・霊夢・・・御免・・・。」
そして、魔法使い2人は霊夢をおいて魔理沙が行った方向へ向かった。
「霊夢・・・。」
最後に残ったにとりも魔理沙が心配なのか・・・ついて行ってしまった。ただ1人残る霊夢・・・。
「私は・・・私はどうすればいいの先代様・・・。」
そう言う霊夢の眼から大量の涙が溢れ出した・・・。
Aチルノ達は急いでいた。もう少しで、T‐Jのアジトに着くからだ。
レミリアを殺し終えたT‐Jの事だ。きっと、満足げに家に帰っている筈だ。そこを突いて奇襲するつもりだった。
変な少女に出会うまでは・・・。
チルノ達の前方には痛そうに尻をさすっている赤眼で白髪の少女がいた。こう言う場合は無視したいが、
「あたたた・・・。T‐Jめ・・・本気出したと思ったら、凄く傲慢になったのじゃな・・・。」
という言葉にAチルノは眼を細めた。こいつ、T‐Jの事を知っているのか?そして少女はこう言う。
「ん?おおぅ、チルノに大妖精にレティではないか!何故ここにいるのじゃ!?」
「な、何よあんた!何故あたい達を・・・。名前と種族を言いなさい!」
「ほほぅ?・・・わしの名はキリュウ!種族はT‐Jの未来の主じゃ!」
「何・・・!?」
その言葉にチルノはカチンときた。T‐Jの主?と言うことは・・・。
「あんたが・・・あんたが元凶かぁ!!」
怒りにまかせ、『ゼウス』に手を掛けるAチルノ。それをレティが押さえる。
「チルノ止めなさい!あの女の子の言う事は少し変よ!」
「うっさい!」
そう怒鳴り、レティを肘打ちで突き飛ばす。慌てて大妖精も言う。
「止めてよチルノちゃん!どうしたの!?いつものチルノちゃんじゃない!」
「うっさいうっさいうっさい!!『ゼウス』のサビになりたくなければ黙っててよ!!」
それを見て、少女・キリュウは感心する。
「ふむふむ・・・怒りと憎しみに心を奪われたのじゃな・・・。チルノのデータを改善せねば・・・。」
「T‐Jの主なら生かしてはおけないよ!」
そして、チルノはキリュウに飛びかかる!
「あと、あたいはAチルノだ――――――!!」
「面白い・・・久しぶりに魔力が劣っていないか試させてもらおうぞ・・・。」
そして皮肉にも、この出会いがAチルノの人生を変えてしまった。
悲しみと怒りが募るR島。
そして今、この惨劇に終りが近づき始めた・・・。まもなく夜が明ける・・・。
7月13日、13日の金曜日の始まりである・・・。
最終決戦に続く
第12話「栄枯盛衰:遥か昔から愛してる」
「そろそろね・・・。」
「もう行くの?やったー♪」
紅魔館の主、レミリアがそう言い、フランも楽しそうにはしゃぐ。
今は真夜中。妖怪達が活動的になる時間だ。レミリアにとっては至高の一時だ。
「(それにしても、神である神奈子すら倒すとは・・・T‐J、外の世界の人形風情にしてはやるな・・・。)」
咲夜から受け取った紅茶を飲みつつ、レミリアは思う。一体、T‐Jはどうしてこんなに反則的に強いのだ?
神奈子達の脱落情報を知った時、フランが楽しそうにT‐Jの所へ向かおうとするので、慌てて止めた。
何も、昼間に行動しなくても良いではないか?吸血鬼は夜行動するのが普通だ。
だからフランを説得して、真夜中になるまで寝ていたのだ。R島は暑くて、寝苦しかったが。
そして今宵は満月。自分にとっては好都合な時期だ。新月だと、幼女となって、うっかり咲夜の鼻にダメージを与えてしまうからだ。
満月は自分の力を全開に引き出すもの。それは妹のフランも同様だ。
妹でありながら、何でも壊すフラン。そういえば、彼女にとっては初めてのお外だな。
情緒不安定な為、いつも彼女を地下室に閉じ込めた自分。きっとそれは妹の能力に対する恐怖なのだろう。
「ねぇ、お姉さま。この腕時計取れないよー。」
「取れないのは私も同じよ。嫌なら、壊したら?」
「無理なのよ。さっきからこれの「目」が見当たらないの。きゅっとしてドカーンできないよ~。」
相変わらず幼い言い方だが、どうやらZはフランの能力でも壊せない設計になっているらしい。
全く、Zという人間には呆れてしまう。いつの間にか、自分達を調べ上げるなんてストーカーと言わざるを得ない。
「とりあえず、奴の居場所を突き止めないと・・・。」
「ですが、どちらに向かいます?」
「とりあえず、神奈子達が死んだ場所ね。犯人は証拠隠滅の為に戻ってくるというし。」
「わかりました。」
こうして、レミリア一行は神奈子とさとりが死んだ場所、O-215へと向かう。
やがて、先頭を進んでいる美鈴が声を発する。
「お嬢様。なにかいますよ。」
「T‐Jね・・・。やはり、私の勘は正しかったわ・・・。」
「いえ、どうもそれが、複数で・・・。」
「複数?」
レミリアはその言葉に首を傾げながらも、その影を見る。
よく見るとそれは・・・永遠亭の御姫様と従者である医者と兎2匹だった。
因幡てゐと鈴仙は永琳の指示通りに辺りを探していた。辺りはまさに焼け野原であった。
しかし、どう探しても何もなかった。
「永琳、これは少し、おかしいわね・・・。」
「そうですね・・・辺りを探しても神奈子達の死体が見当たりません。」
姫である輝夜の言葉に永琳は頷く。そう、神奈子達の死体が見当たらないのだ。
「では、T‐Jが2人を持っていたのでは・・・。」
鈴仙が恐る恐る尋ねるが、永琳は首を振る。
「最初、ルーミアが殺された時、T‐Jは何もせずに去っていた。ということはルーミア達のも放っておかれたのよ。けど、それが見当たらないとなれば・・・。」
「黒幕ですね・・・。何故、運び込んだのは分かりませんが・・・。」
永琳の言葉に合わせて輝夜は続ける。彼女達もT‐Jの背後に黒幕がいることに気づいた。
「あと、天狗2名、こいし、メディスンには『T‐Jの手により死亡』じゃなく、只の『死亡』と表示しているし、庭師剣士なんか『原因不明のLOST』なんてなにか変よ・・・。この任務どうやら・・・。」
息継ぎをして、輝夜は続ける。
「Zと関係ありそうな者の仕業ね・・・。それにはまず、Zの正体を探る事も必要だけど。」
「ですね・・・あら?あれは・・・?」
永琳が何かを発見したらしい。よく見るとそれは・・・紅魔館の吸血鬼一行だった。
何でこんな所に永遠亭の者達がいるんだ?咲夜は警戒態勢をとった。
月の異変以来、咲夜は輝夜達をずっと警戒していた(まぁ、医者の永琳には世話になったこともあるが)。
花の異変と天人による異変でも月の兎にちょっかい出された事もあった。
「それで、何か用なの?貴方達もT‐J退治?」
「そうね。所で、辺りを探したけど、神奈子達の死体が見当たらないのよ。」
「死体?それがどうしたの?」
「鈍いわね~コウモリ。T‐Jはその死体を持っていってない。けど、それが見当たらない。普通、分かるわよ。」
輝夜の一言に咲夜はカチンときた。
「(お嬢様は貴方達よりも500年も生きておられるのよ!薬漬けで不老不死になった貴方には言われたくない!)」
咲夜が怒気を募って思っていると、レミリアが眉をひそめる。
「・・・T‐Jの背後に誰かいるのか?」
「そう。目的とかは分かんないけど、恐らく、天狗達もそれを知って、口封じにあったのね・・・。」
「何故分かる?」
「あの天狗のことよ。きっと赤い円、T‐Jの出没場所に入って、何か凄い情報を得て殺されたのでしょう。」
それを聞き、レミリアはふっと笑う。
「ニートにしてはなかなかやるじゃないの。だが、その天狗が死んだ以上、その真実とやらは再び消えたでしょうね。」
「ニートは余計。その真実とやらはまだあるわよ。あの赤い円の中に。どうレミリア、手を貸してくれない?」
「一時同盟だと・・・?」
輝夜の一言にレミリアは絶句する。咲夜も驚いている。こいつ何か変わっていないか?
今までの輝夜はいつも引き籠って、パソコンとかをやっている上、困った時は従者頼みしていた姫様。
それが、まるで中身が入れ替わったかのように違う言動を行っていた。
「実は私達もT‐J退治を行おうとしているの。その前に敵の情報を探る為に赤い円へ入りたいけど、正直危険すぎて・・・。」
「利害の一致故に手を貸せと?・・・ふふふ、何を言っているかしら?お断りよ。」
レミリアの一言に今度は輝夜が眉をひそめる。
「あんたとは気が合いそうにないし、それに月の都に攻め入った時(儚月抄)、あんたの従者の弟子姉妹に苦渋を飲まされたし。第一、東方一のカリスマキャラであるレミリア・スカーレットが他人(ニート姫)の手助けをすると思っているのかい?」
レミリアは高らかにそう言うと、咲夜はなんだか気分が良くなったような感じになった。
「(そうよ。レミリアお嬢様に手助けは無用。お嬢様の運命を操る能力なら、きっとT‐Jを倒せるわ。)」
そんな中、静かににらみ合うレミリアと輝夜。それを似た者同士か美鈴と鈴仙がアタフタしている。
やがて、輝夜はため息をつき、こう言う。
「仕方がないわね・・・。もういいわ。こっちはこっちで行動するわ。けど、貴方に言いたいことがあるの。」
「何?」
そして、輝夜は信じられない事を言った。
「・・・死なないでね。貴方も貴方の妹や従者たちも・・・。」
「「なっ・・・・・・!」」
突然の言葉に驚くレミリアと咲夜。それに対し「行きましょう」と輝夜達は遥か彼方へと去っていた。
それをレミリアは凝視していたが、やがて拳をワナワナと震わせる。
「奴め・・・!この私があの機械人形にやられると思っているのか?ふん、面白い・・・T‐Jの首を取るのは・・・このレミリア・スカーレットだという事を徹底的に教えてやる!!」
そう高らかに宣言するレミリアお嬢様。真に勇ましい光景である。
「所で、何処へ行きます?」
「あっ・・・うー・・・。」
取りあえず美鈴が水を差したので、ナイフで気は使っても空気を読まない馬鹿中国を修正してやった。
「そろそろ行くか・・・。」
「慧音、頃合いなのか?」
一方で、ワーハクタクである慧音が立ち上がる。彼女の姿は満月により、ハクタク姿になっている。
妹紅は心配した。彼女は大丈夫だろうか?霊や神ですら殺せる殺人鬼機械人形相手に・・・。
「慧音・・・本当に戦うのか?」
「ああ・・・戦う。これ以上、奴のすきにはさせない・・・。妹紅・・・今思えば、楽しい毎日だったな。」
そう言う慧音に妹紅は絶句した。何故戦うんだ?どうしてそんなことを言うんだ?だからつい、大声を出してしまう。
「どうしてだ!?何故お前が闘わなきゃいけないのだ!何の理由もないのに!」
「理由はある・・・私は人間が好きだ・・・そして、妹紅も好きだ・・・。」
そう言う慧音に、妹紅はガシッと肩を掴む。
「ならお前が闘わなくてもいい!私がやる!私は不老不死だから!あいつ位、長いけど倒してやるから!」
そう言った直後、腹部に痛みが走る。慧音にみぞうちを殴られたのだ。
「けい・・・ね・・・?」
「すまない・・・これは私が選んだ道なんだ・・・妹紅には妹紅の道がある・・・。それぞれの道が皆あるんだ・・・。」
「慧音・・・・・・。」
「妹紅・・・行って来る・・・。愛しているぞ・・・。」
妹紅は薄れていく中で、慧音を思った。
慧音。最初はうっとうしい奴と思ったけど、しだいにお互いに引かれていた。
今思えば・・・それは慧音のまっすぐさにひかれたと思う。
そして、妹紅の思考はここで中断する。
「どこへ向かうのです?」
「あら、閻魔様?これは奇遇ね・・・。」
フラワーマスターである幽香は意外な人物と出会う。映姫である。
フルネームが長い上に説教も長く、いつも怠惰な死神に悩まされている。幽香にとっては嫌な奴だ。
「決まっているじゃない・・・。」
そう言い、冷たい眼を映姫に向ける。
「貴方の部下に裏切られ、死んだ下僕の仇打ちよ・・・!」
そう、幽香はT‐Jを抹殺し、更には、リグルを見殺しにした小町も殺すつもりだった。
何故、小町がそんな事をしたのか不明だが、リグルをT‐J に殺されることを企てた事は許せなかった。
リグルは自分の憂さ晴らしや花の成長の手助けなど、様々な雑用を行う下僕だった。
幽香にとってはどうでもいい奴だった。だが、そんな彼女の死に動揺していた。それは・・・。
「(きっと、私の心の10分の1があの子を気に入っているのね・・・。)」
だから、許せなかった。殺したT‐Jも見殺しにした小町も・・・。
それを見た映姫はため息をつき、こう言う。
「幽香さん・・・小町も悩んでいたんです・・・。」
「悩んでいた?・・・どうであれ、あの子を見殺しにしたのよ!同罪よ!それがどうしたのよ!?」
訳が分からない。思わず、幽香は感情的になってしまう。
「止めないで下さる?もし邪魔すらなら、容赦しないわ・・・!」
「落ち着きなさい。小町はかつて友を見殺しにして心に傷がついたのです。」
「それがどうしたのよ?なら、あいつは2回も見殺したのね?」
「それ以来、彼女は人が変わったのです・・・。話好きなのも寂しさを紛らわす為だったのです・・・。」
「う・・・うるさいっ!!貴方に・・・貴方に何が分かるのよ!!」
訳の分からない事を言う映姫に対し、幽香は怒鳴った。そんな理由であの死神を許すのか?閻魔らしくない!
そう言った雰囲気の中・・・。
「おや、どうしたんだい幽香?お前らしくもない・・・。」
声がした。振り返るとそこには・・・。
「魅魔・・・。」
魅魔がいた。魅魔はにっと笑い、近づく。
「霊夢達と少しの間別れたら、旧友に会うなんてな・・・。幽香、お前どうしたんだ?」
「何も・・・。そう言う貴方は・・・?」
そう言われ、魅魔は覚悟を決めたような表情をし、言う。
「手伝ってほしい・・・。あんたとあたしなら、奴を倒せると思う。」
「あら、悪霊さんがわざわざ同盟ごっこでも?」
「いや、聞いてほしい・・・。私は奴を初めて見た時から・・・闇の巫女の気を感じ取った・・・。」
「何っ!?」
闇の巫女だと?確かあれは・・・?驚く幽香の代わりに映姫が説明する。
「闇の巫女・・・。かつて、博麗神社の巫女の1人が闇の理に堕ち、暗黒の力を身にまとい、幻想郷全てを闇に落とそうとした者ですね・・・。新しい物好きでとても傲慢、残虐な性格で恐れられている、強靭・無敵・最強の闇の少女・・・。」
「ああ、そうさ・・・。闇の巫女の力はおっかない。神を殺すですら朝飯前の力さ・・・。」
「その名、久しいわね・・・。確か、スキマ妖怪と先代の巫女が彼女を封印したって聞いたことあるけど・・・。」
「正式には、あたしとあの魔界神もな。彼女はこの戦い以降すっかり傷ついてしまって、少し幻想郷にいられなくなっちまったんだ。」
「それは可哀想に・・・。噂じゃ、あの人形遣いが彼女の娘と言われているけど?」
「まぁ、あくまで噂だけどな。彼女に聞かないと分からんし・・・。」
幽香はしばしの間考えた。そしてこう言う。
「分かった、協力するわ。正直、1人で戦いたかったんだけど、闇の巫女の力を受け継いだものなら仕方がない。」
「私も同行させて頂きます・・・。闇の巫女の力がどうであれ、あの機械人形に判決を述べなければならないので。」
ふと、映姫ははっとなり魅魔に尋ねる。
「それにしても、よく闇の巫女の事を知っていますね?闇の巫女は今ではごく一部しか知らない筈ですが・・・。」
「あぁ、当たり前だ。何せ・・・。」そしてこう言う。
「闇の巫女は霊夢の先祖である先代の巫女の双子の妹だからな。」
「さてと・・・。」
萃香は愛用の瓢箪の酒を飲みながら、月を見つつ、辺りを見回る。
パルスィの死のことがあったろう、勇儀の寝顔は悲しく、疲れているように見えた。傍にはキスメがぐっすり眠っている
「どこへ行くんだい?」
ふと、そう言う声が掛けられる。振り返るとヤマネだった。
「ヤマネ・・・。」
「パルスィの仇打ちかい?」
「うん・・・だって、勇儀の大切な人だったし。」
萃香はそう寂しそうに言う。そうだ、自分は何もできなかった。パルシィが傷つき、死んでしまっても何もできなかった。
腕時計の脱落情報を見てみると、やはりT‐Jは生きているらしい。だから・・・。
「・・・萃香。勝てる道理はあるのかい?」
「分からない・・・けど・・・。」
「・・・仕方がない、私も行くよ。」
「えっ?」
突然の事に萃香は驚いた。
「な、何でさ・・・。」
「足手まといはしないからさ、勝率を上げる為だよ。それに、仲間を殺したあいつを許す訳ないだろ?」
「でも、キスメは・・・。」
「勇儀はいい奴だ、きっとキスメを大切にしているさ・・・おっと、死亡フラグだったかな?」
そう言って、ヤマネはフッと笑う。もはや梃子でも動かない様子だ。
「分かった・・・行こう。」
そう言い、萃香はヤマネと共に勇儀達の所から離れる。萃香は勇儀の寝顔を見つつ、こう思う。
「(勇儀・・・。またあんたを一人ぼっちにしてすまないね・・・。思い出すな、あの時・・・。)」
そして、勇儀達から去りながら、あの時を思い出す・・・。
それは萃香がまだ幼い時で鬼が幻想郷にたくさんいる時代・・・。
萃香がいつもの様に甘酒を飲みつつ、1人花見をしていると、泣き声が聞こえてきた。
何だろうと不思議がり、行ってみるとそこには自分とは少し年上の鬼娘が泣いていた。
顔はよく見れないが額には角があり、その角には星印が付いてあった。萃香はあることを思い出す。
「(確か、父ちゃんが仲間に入れようとしている星熊の一族か・・・。)」
星熊の一族。当時、角に星印がついている鬼は不吉の象徴とされ、その中の星熊の一族は徹底的に弾劾されていた。
きっと、他の鬼に苛められたのだろうな・・・。そう萃香は思ったら、その鬼娘に気づかれた。
顔立ちは整っており、成長すればきっと綺麗な鬼になるんだなと思う。
「見るな・・・そんな目で私を見るな―――!」
興味津々に見た筈が侮蔑の視線と誤解した鬼娘は走ろうとする。それを萃香は慌てて止める。
「待って。あたしは伊吹萃香。あんたを苛めないよ。」
「・・・本当?」
「本当よ。父ちゃんも優しいから星熊の一族を仲間として受け入れるつもりだよ。」
「・・・貴方は私の事、嫌じゃないの・・・?」
「嫌って何?あんたの角、鬼らしくて綺麗じゃないか。それに比べてうちの角は木の枝みたいで・・・。」
そう言い、萃香は自分の角を触りながら呆れる。鬼娘はそれをじっと見たが・・・。
「ちょっと動かないで・・・。」
「ふぇ?」
そう言われ、ふと、左の角に違和感が。よし、と言われ、萃香は鬼娘から鏡を受取、見る。
見ると、それにはリボンが付いてあった。鬼娘がふふと笑う。
「可愛い・・・。」
「え?そ、そうかな・・。あ、そうだ。1人じゃつまらないから花見しようよ。甘酒飲む?」
「私でよければ・・・。」
「そう言えば、名前は?」
「勇儀・・・。星熊勇儀・・・。」
そうして2人はいつも楽しい毎日を送っていたが、訳あって2人はその後、離れ離れになってしまった。
そして時は流れ、現在より少し前・・・。
ある時、萃香は霊夢に誘われ、地下に潜ることとなった。何か面白い物があるかな?と文、紫と共に前進する。
途中でヤマネやパルスィを撃退している中、ふと懐かしい様な感じの声が聞こえた。一方は魔理沙のだ。
「はっはっは!やるねぇあんたも!」
「やるねぇって・・・杯の酒を溢さずに戦うなんて、随分余裕満々な鬼だぜ・・・。」
見てみて、萃香は驚いた。
そこには、自分と同じ鬼だった。顔立ちはいかにも姉御肌っぽく、額には星印の角が・・・。そしてその鬼は言う。
「そのリボン・・・あんた、萃香なのか?」
「何で私の事・・・。っ!勇儀・・・?あんた、勇儀なの?」
「・・・やっぱりだ!萃香だー!」
「勇儀―――!」
そう言って、萃香は勇儀に抱きつく、何がどうなっているんだ?と霊夢達はキョトンとするがお構いなし。
「勇儀久し振り!やっぱり、戻って来たんだね!」
「ははは!お前も変わってなさそうだな!懐かしいな!」
そう言って笑いあったあの日々が懐かしい。
その思い出を・・・親友を・・・勇儀を守る為・・・私は闘う・・・。
「衣玖―。衣玖―。どこなのー?」
天人のMっ子、天子は探していた。従者であり、空気を読む衣玖がいないのだ。
「もう!衣玖ったら、空気が読めるくせにどこかへ行って~!一体どこでなにをしているかしら?」
ぷりぷり怒りながら、天子は歩き続けた。しかし、もう何処が何処だが、分からない状況だった。
「あうう・・・夜になったし、やたらと動き回るのはヤバいかも・・・。」
そう言い、少し休む天子。緋想の剣は少し前に衣玖に渡したのだ。全くの無防備である。
何で、衣玖は緋想の剣を借りようとしたのだろう?何かに使うのか?
そう考える天子の後ろに隠れている影が・・・衣玖である。
「(申し訳ございません、総領娘様・・・。)」
寂しそうに天子を見る衣玖。そして、覚悟を決めた顔になる。
「(ですが、空気を読んだ以上、私は行かなければなりません。黒幕と機械人形の野望を告げに・・・。)」
その衣玖の手には緋想の剣と・・・鴉天狗の手帳があった・・・。
レミリアはT‐J探しに戸惑っていた。R島が広すぎる上にどこにいるのかわからない。
このままだと朝になってしまう。朝はレミリアの天敵だ。
だから急いでいる。焦っているのである。
「もう・・・T‐Jはまだ見つからないの?」
「それが、偵察に行った中国が戻ってこないのです・・・。」
まさか・・・そう思い、咲夜はその思考を振り払う。まさか、いくらなんでもそれはない・・・。
すると、咲夜に聞き覚えのある声が。
「さ・・・咲夜さん・・・お嬢様・・・。」
見ると美鈴だった。だが・・・。
「美鈴!?」
「中国!?」
美鈴は傷ついていた。よたよたと歩き、倒れる。駆けつける咲夜。
「美鈴!美鈴!しっかりしなさい!何があったの!?」
「咲夜さん・・・見つけました・・・。」
そう言って指差す。見るとその先には・・・T‐Jがいた。
「T‐J・・・!」
咲夜は自分を責めた。自分の部下に危険な目に合わせてしまった・・・!
その時、美鈴は咲夜にこう言う。
「咲夜さん・・・お役に立てなくてすみません・・・。」
「な、何言ってるの美鈴!その程度の傷ぐらいで弱気にならないで!」
「咲夜さん・・・今まで・・・お世話になりました・・・。」
そう言い、美鈴は力尽きた・・・。
「美鈴――――――!!」
『Z-111 紅美鈴 T‐Jの手により死亡 現在脱落者25名』
それを黙って見ていたレミリアとフランが咲夜の前に進む。
「咲夜・・・貴方はここで待機よ・・・。」
「お嬢様・・・妹様・・・。」
「しっかり見てなさい・・・私の戦いぶりを・・・。」
そして、T‐Jに怒りのまなざしを向ける。
「うちの門番を殺した罰は、死をもって償ってもらうわ・・・。」
「美鈴のカタキ―――!!」
今、殺人鬼機械人形と吸血鬼姉妹・・・2つの最凶の戦いが始まる・・・と思いきや・・・。
ズドドドドドドドドドドド!!
突如、T‐Jの周りに爆発が起こる。吹っ飛ぶT‐Jだが、すぐに態勢を立て直す。
「何なの!?」
見ると、そこには・・・。
「お楽しみの所ですが・・・私達も彼に判決を言い渡したいのです・・・。」
「邪魔立ては無用よ・・・。」
「まぁ、手伝うなら仕方がないが・・・。」
映姫、幽香、魅魔。
「パルスィの仇討ちしたいんだけど・・・。」
「まぁ、あいつを狙う者は私等だけじゃないみたいだね・・・。」
萃香、ヤマネ。
そんな者達にレミリアは目を細める。
「何よ?邪魔するなら帰って。」
そんなレミリアに対し、魅魔はこう言う。
「まぁ、冷たいこと言うな。それより、あんたら2人じゃ勝てないだと思ってね・・・。」
「勝てないだと・・・!」
カチンときたレミリア。それに続けて、映姫も言う。
「レミリアさん。T‐Jには貴方が思っているのより、桁違いに強いのです。貴方達ではとても勝てそうにありません。」
「それに、私もうちの下僕を殺された恨みがあるからね・・・。」
そして幽香も続ける。それをフランが心配そうに見ている。
「お姉様・・・どうしよう・・・?」
レミリアは考えた。もし、あいつらの言う通り、T‐Jが予想以上に強いとなれば、きっと自分達でも苦戦するだろう・・・。
だから、レミリアは咲夜に言う。
「咲夜は安全な所で待機しなさい。」
「お嬢様・・・分かりました・・・お気をつけて・・・。」
「分かっているわよ・・・。さて、邪魔しないなら、手伝ってくれないかしら?」
そして、レミリアは魅魔に言う。それに頷く一同。
「まずは、奴の武器を何とかしないとな・・・。奴にはどうやら、幽霊対策のもあるし。」
魅魔が忌々しそうにT‐Jを見つつ、言う。そう言った直後、
T‐Jの持っている武器が消えたのだ。T‐Jもその異変に気付き、脚部のカバーを開く。
だが、それらしい武器が見当たらない。レミリア達も不審に思う。
「な、何だ?武器が消えたぞ。何かの罠か?」
「いや、それは違うぞ、萃香・・・。」
一同は振り返る。そこには、ハクタク姿をした慧音がいた。
「私の能力で、奴の武器の歴史を変えたのだ・・・。強さも我々並みしか下がれなかったが・・・今の奴は丸腰だ!」
どうやら、彼女の歴史を作る能力でT‐Jの武器を無かったことにしたらしい。流石はワーハクタク。
「ふん、余計な真似を・・・。まぁいい・・・行くぞっ!!」
そう言い、レミリア達はT‐Jに攻撃を行った。
チート殺人鬼対チート能力者軍団。今、状況はレミリア達の有利として傾いていた。
一方、謎の少女・キリュウは妖夢から奪った刀にこびり付いた血を洗い流していた。
その時、はっとなって頭をあげ、急に笑みを浮かべる。
「この気・・・。T‐Jとレミリアとフランと魅魔と幽香と映姫と萃香とヤマネと慧音・・・。殺人鬼と吸血鬼姉妹と悪霊と向日葵の妖怪と閻魔と鬼と蜘蛛とワーハクタクの殺し合い・・・。この殺し合い、この目でじっくり見ないといかんな・・・。」
T‐Jは確かに強い。だが、手を打ってあれば倒せない事はない。
まず、慧音の能力により、T‐Jの武器や防御力がなくなり、攻撃力を低下させる。
そうなれば、あとはもうリンチしまくりで叩きのめす。
ヤマネの蜘蛛の糸で足止めし、フラン、萃香、幽香、映姫、魅魔、そしてハクタクが一気に攻撃する。
T‐Jは精一杯、耐えたが、装甲にひびが生じ、動きも鈍くなり始めた。
「よし・・・では、判決を言い渡しましょう・・・。」
「あら奇遇ね・・・。私も止めを刺すつもりよ・・・。フラン、準備はいい?」
「いいわよ、お姉様!」
「さて、幽香。あたしらも行くか?」
「あれをやるの?いいわよ・・・。叩きのめす・・・!」
そう言い、レミリア、フラン、映姫、幽香、魅魔がスペルカードをセットする。
まずは映姫か、映姫の周りに光が生じる。
「T‐J・・・。貴方に判決を言い渡します・・・・・・有・罪!!」
その言葉と共に彼女の周りからレーザーの如く、光線がT‐Jに襲いかかる。
大爆発。しかしまだまだ終わらず、次は吸血鬼姉妹の番だ。
「フラン、今度は私達の番よ・・・。行ってきなさい!」
「イテキマース!!」
レミリアが渾身の力を込めて、赤き槍を投げる。それに乗っているのがフルパワーのフランだ。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
フランの一閃により、T‐Jはなんと赤い色の結晶に包まれた。そして今度は魅魔達の番となる。
「流石は吸血鬼だな・・・。よし、あたしらもやるか!」
「ええ!終わらせましょう!」
既にチャージ完了した魅魔と2人に分身した幽香が結晶に包まれたT‐Jに向けて最強の一撃を放つ。
「トワイライト・・・。」
「ダブル・・・。」
「「スパーク!!!」」
映姫以上の破壊力抜群の弾幕が降り注ぎ、一挙に大爆発が起こる。
辺りが、一瞬にして焼け野原となり、島の中央で大きなキノコ雲が上がる。
きっと、霊夢達もそれを見ているだろう。この一撃なら、T‐Jも倒れるだろう。
そして、意外な人物が現れる。
やっと、戦場についたばかりのキリュウである。彼女はこう文句を言う。
「ってもう終わりかいっ!せっかく、殺しあいを楽しみにしておったのに―!」
しかし、そんな悔しそうな声はレミリア達には聞こえなかった。
煙が晴れ、その中から影が現れた時、レミリア達は身構える。だが、大丈夫そうだった。
T‐Jはもう動かなくなっていたのである。装甲はひびだらけで、仮面の奥はもう光らなかった。
「・・・ふっ。流石の機械人形も私達の力の前には無力ね・・・。」
「ま、ワーハクタクの能力のおかげだがな。」
「いや、皆のおかげで勝てたのだ・・・だが、その分、犠牲は大きかった・・・。」
「でも・・・でも、これで皆の無念を晴らせたね・・・。」
「そうね・・・。」
「幽香さん・・・。」
「ねーねー、止めにT‐J壊していい?」
「いいわよ、フラン。徹底的に壊しなさい。」
「ヤター♪」
そう言い、フランは楽しそうに動かないT‐Jに近づく。
その時、T‐Jに異変が生じた・・・。
『ククク・・・クククク・・・!』
「「「何!?」」」
突如、謎の声が聞こえ、レミリア達は警戒する。どこから聞こえるんだ?そして、
「お嬢様!あれです!」
「ん?・・・なっ・・・!」
咲夜の言葉を聞いたレミリアはその方向を見る。それは・・・
T‐Jの体の中から、どす黒い煙が出ていた。そして、レミリア達の周りに寒気が襲う。
「な・・・何だ!?」
「ま、まさか・・・!?」
その光景を見て、魅魔は絶句する。あれは・・・。
「まさか、奴の体内に闇の巫女の魂が宿っているのか!?」
「「「闇の巫女?」」」
魅魔の言葉にレミリア、フラン、咲夜、萃香、ヤマネ、慧音は首を傾げる。やがて・・・。
T‐Jが立ち上がったのだ。黒き煙に包まれ、ゆっくりと。手を動かし、動けるかどうか確認している。
『ふむ・・・。代用の体にしては、まだいけるな・・・。』
T‐Jがしゃべっている!?レミリア達にとっては信じられない出来事だった。しかし、魅魔が叫ぶ。
「まさか・・・遂に蘇ったのか闇の巫女!?」
『うむ?』
それを聞き、T‐Jは首を魅魔達の方へ向ける。何だか、操り人形みたいな動き方だ。
だが、闇の巫女?レミリアには理解できない内容だった。この霊は何を知っているんだ?
『ふぅむ、何だと思ったら、魅魔ではないか?霊故に変わってないとは、なかなかのしたたかさだな・・・。』
そして辺りを見て言う。
『気が付いたら、訳の分からない所で変わった奴らと戦う羽目になるとは・・・。くっ!?』
そう言い、T‐Jは膝をつく。流石に大ダメージをくらっていることは確かだ。
『この体から離れぬ上にこんなにも傷つくとは・・・流石だと言いたいが・・・甘いぞ、豚骨共!!』
豚骨?そういう言葉に首を傾げる一同。その時、T‐Jの周りにあるどす黒い煙がどんどん多くなる。
「な、何!?」
「ななななぁにこれぇ!?」
いつもは楽しそうに弾幕をやっているフランも只事じゃないと後ずさる。
『貴様等は1つ、大事な事を忘れている・・・この我という史上最強の闇の巫女を覚醒させたということだ!!』
変なポーズを取り、そして、T‐J(?)はレミリア達に指さし、余裕のある口ぶりで言う。
『今から、我の特殊能力を発動する!この特殊能力により・・・!』
その時、T‐Jの体に異変が生じる。なんと装甲のひびが少しずつ消え始めたのだ。
『我の代用の体のダメージを回復させ、闇の符力により、攻撃力を上昇させる!正真正銘、貴様等の最後だ!!』
「何だか知らないが、させるかっ!お前の存在など、なかったことにしてやる!」
途端、慧音が勇敢にT‐Jに突進する。自慢の角でT‐Jを一突きにするらしい。
「止めろ、ワーハクタクの!奴は・・・!」
「くらえぇぇぇぇぇ!!」
そして、攻撃を行おうとする瞬間。
『ふぅむ・・・無駄だっ!』
ガシッ!なんと動けない筈のT‐Jが慧音の角を掴んだ!
「「何っ!?」」
「ぐ、ぐぐぐぅ・・・。」
角を掴まれ、身動きが取れない慧音。T‐Jは角を掴んだ腕に力を込める。
『・・・玉砕!!』
そして・・・慧音の片方の角が砕け、折れてしまった。
「け、慧音!?」
「ぐああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
襲いかかる痛みに慧音は頭を抱え、地面をのたうちまわる。余程、激痛だろう。
「な、何なのよ・・・。こんな能力があるなんて、聞いてないわよ!」
そう、レミリアは震えていた。500年でも、こんな思いは今までなかった。それは閻魔達も同様だろう。
そんな彼女達と違い、その光景を喜んでいる者がこっそりいた。キリュウである。
「とうとうT‐Jの本気が伺えるぞよ!いよいよ、わしの心を満たす最高の殺し合いの始まりじゃ!!」
そんな彼女の言葉はレミリア達には聞こえなかった・・・がその時、T‐Jがキリュウのいる方向に向く。
『うぅぅぅぅるさぁぁぁぁぁいっ!!!』
そう言い、手を差し出した瞬間、なんと黒い弾幕が出て来たのだ!
「へ?」←キリュウ
そして、弾幕はキリュウのいた場所を吹っ飛ばした。
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
レミリア達には気づかなかったが、キリュウはその弾幕の爆発により、吹っ飛ばされた。
『貴様のような覗き魔など何の用もないのだ!恥を知れ!』
突如、怒り出すT‐Jに一同はポカーンとした。だが、一つだけ分かったことがあった。
T‐Jも弾幕が撃てること・・・。
「(何なの?何で弾幕を出せるの?こいつ本当に外の世界の人形なの?いったい何なのよ!?)」
混乱するレミリアに対し、魅魔と幽香は叫んだ。
「闇の巫女!なぜこんな事をする!?」
「貴方だって、姉と同じく博麗神社の巫女の筈!?それなのにどうしてこんな事をするの!?」
闇の巫女?姉と同じ博麗神社の巫女?一体、どういうことだ?レミリアには理解できなかった。
だが、魅魔達の言葉にT‐Jは耳を貸さない。
『喚くな。正義や安らぎ、夢、そんなものなど永遠に必要のないことだ!これのようにな!』
そう言い、T‐Jは慧音の折れた角を慧音に投げつけた。あまりに凄いスピードである。
そして・・・角は慧音の腹部に刺さった。
「ぐふっ・・・!」
「け、慧音―――!!」
『次は貴様だ!受け取れっ!』
「え!?」
その瞬間、萃香の頭上に弾幕が降り注いだ。その爆発により、吹っ飛ぶ萃香。
『昂る・・・昂るぞ・・・!この殺戮の感触・・・この満喫感!そうだ、我はいつも戦いを楽しんでいた・・・。弱き者を虐げる度に、この我の体内の符力をかき乱し、そしてこの我の魂を熱くさせる!!』
そう言いながら、T‐Jは・・・T‐Jに取りついている謎の物体はヤマネ、映姫、幽香、魅魔に弾幕を発射する。
そのスピードに流石の魅魔ですら避けきれずに受けてしまう4人。
残るはレミリア、フラン、咲夜となってしまった。
『次は貴様等の番だな・・・。』
「な、何なの・・・何なのよ・・・!」
既にレミリアは怯えていた。あの時、T‐Jはもう動けない筈だった。なのに、どこにそんな力が・・・。
一方で既に戦意を失っているレミリアに対し、フランはやる気満々だった。
「ややややばそう・・・でも、やってやるもん!突撃―――!!」
「妹様!?」
「フラン止めなさい!」
しかし、フランは既にスペルカードを発動していた。一気に4人となるフラン。
「フォースオブアカインド!!これならどうよ!」
そして、4人のフランが一気に弾幕を撃ちまくる。だが・・・。
『ふふふふふ・・・で?そんな弾幕でどうしろと?』
「え?・・・うあっ!」
突如、T‐Jが弾幕を避けて、一人のフランの首を掴む。
『砕け散れっ!!』
そして、T‐Jはフランを投げ飛ばす。何もできずに倒れるフラン。それと同時に他のフランが消えてしまう。
「ありえない・・・!」
レミリアは悪夢を見ていた気分であった。自分でも手を焼かせたフランですら敵わないなんて・・・。
まさに悪夢でしかならない。
『そろそろ仕上げにしようか・・・?行くぞぉ!我の闇の符力により・・・。』
突如、黒き煙が集まり、何かの形に変わる・・・それはスペルカードだった。
「スペルカード!?何故、T‐Jが!?」
『その力を目に、胸に刻め!暗黒符・・・。』
そして・・・スペルカードが光り、その弾幕が現れる。魅魔が叫ぶ。
「闇の巫女、止めろ―――!!」
『断る!喰らえ雑魚共―――!夢想壊滅結界・だ―――!!』
今、T‐J(?)の弾幕が発動する。黒き弾が結界のように集まり、レミリア達に襲いかかる!
だが、レミリア達は覚えがあった。それは・・・。
「霊夢の・・・霊夢の夢想封印!?何故・・・何故奴が!?」
それは、霊夢の夢想封印に似ていた。そして、それ以上にでかかった。
大爆発が起こる。その威力はひとたまりもない。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
レミリアは直撃し、他のメンバーも吹っ飛んだ。全員が真っ逆様に落ちた。
「お嬢様ぁぁぁぁぁ!!」
咲夜は悲鳴をあげ、下へ向かう。お嬢様と妹様を救いに・・・。
『ふははははは・・・!見たか紫!貴様も見ているだろう!我の邪神を!・・・っ!』
突然、T‐Jの体に変化が現れ始めた。徐々に黒い煙が小さくなっていく。
『くっ・・・。そろそろ代用の体が、目覚めるのか・・・。まぁいい・・・この体ももはや限界の身・・・。覚醒は近い!』
その高笑いと共に黒い煙が消え、T‐Jの動きの調子が変っていた。
T‐Jは何事も無かったかのように辺りを見回す。まるで今までの行動を覚えていないかのように・・・。
ふと、背後に人の気配がしたので、振り返る。そこには・・・。
「やはり、吸血鬼ですら勝てないなんて・・・。貴方、これ以上多くの罪を作る気ね・・・。わかったわ・・・!」
それは、輝夜だった。笑っているが、目が笑っていない・・・。
「永琳や鈴仙を連れてこなくてよかったわ・・・。もう少し早かったら吸血鬼を救えたけど、今後悔しても仕方がない!」
そう言い、輝夜は服を脱ぎ捨てる。その下には・・・何やら動きやすそうな格闘技スタイルの服だった。
「こう言う時の為に火鼠の皮衣の余りを使って徹夜で作った戦闘服が役に立ってよかったわ・・・。」
T‐Jも戦闘態勢に入る。しかし、損傷は回復されているとはいえ、まだ全てが順調とは言えなかった。
それを見た輝夜は構えつつ、言う。
「貴方、随分と傷ついているわね・・・。でも容赦はしないわ。今、この戦いに決着をつける!!」
そう言い、輝夜はT‐Jに攻撃を仕掛ける。不老不死対謎の殺人鬼機械人形・・・今、その戦いが始まる・・・。
「ちっ・・・やはり、闇の巫女が蘇ったなんてな・・・。」
「私達は、T‐Jというパンドラの箱を開けてしまったわね・・・。」
魅魔と幽香はとある場所で横たわっていた。もはや動き出す気力が残っていない。
「もう・・・終わったわね・・・。」
「ああ・・・夢想壊滅結界・・・全てを破壊する究極にして禁断の結界だ・・・。あたしらも終わりか・・・。」
「残念ね・・・あと少しで倒せたものの・・・。」
「やはり、あたしらのような古い者の時代は終わったんだな・・・これからは霊夢達、新しい者の時代だ。」
「きやすく老人扱いしないでよ・・・。」
息が苦しい。いくら強い自分でもあの弾幕は異常に強かった。もはや意識が薄れてきた。
ふと見ると、空にリグルが浮いていた。幻なのか?迎えなのか?
彼女は幸せそうに笑っていた。それを見た幽香はふっと笑い、こう言う。
「何笑っているのよ・・・この馬鹿・・・。」
そう言い、幽香は眠る。永遠の眠りに・・・。それを魅魔は見ていた。
「さて・・・そろそろか・・・。魔理沙・・・あたしが教えた事・・・忘れるんじゃないよ・・・。」
そう言い、魅魔の体は・・・消えてしまった・・・。
『Y-213 風見幽香 T‐Jの手により死亡 現在脱落者26名』
『Y-213 魅魔 T‐Jの手により成仏 現在脱落者27名』
小町はあてもなく歩いていた。自分はこれからどうするんだ・・・。それは自分でも分からない。
ふと、頬に手を当てる。幽香に殴られた頬はまだ痛かった。
その時、またもや脱落者の情報を知らせる電子音が聞こえた。そして見て・・・絶句した。
「そ、そんな・・・。あの人が死んでしまうなんて・・・。」
今まで自分を叱っていたあの人が?いつも説教が長く、物事にうるさいあの人が?
死んでしまったのか?小町の頬に涙が流れる。
きっと、リグルを失った幽香もこんな心情なのだろう・・・。とてつもない悲しみが胸を締め付ける。
「うあぁ―――――――――――――――――!!!」
そして小町は泣いた。友を見殺したあの時のように・・・・。
『E-214 四季映姫・ヤマザナドゥ T‐Jの手により死亡 現在脱落者28名』
「・・・ね!慧音!しっかりしろ!」
懐かしい声が聞こえて、慧音は眼を覚ます。見ると、自分は妹紅に抱かれていた。
「良かった・・・大丈夫か?」
「も、妹紅・・・。すまない・・・勝てなかった・・・。」
「いいんだ・・・。お前はよく頑張ったよ・・・。」
いや・・・と慧音は首を振る。角の1つは折られ、その角が腹部に刺さっている。
「私は今まで、T‐Jを機械人形と思っていた・・・。だが、奴は只の器にすぎなかった・・・。本当は・・・うぅ。」
「慧音!?大丈夫か!?」
腹部に痛みが走り、意識が朦朧としていた。その時、慧音の眼に何か映った。
伝説では、半人半獣のハクタクは死に瀕する時、未来が読めると言われている。
それは伝説だと思っていたが、今、その光景がはっきり見える。
あれは懐かしの幻想郷・・・そのとある所で2人が対峙していた。
1人は博麗霊夢だ。左手に光る剣を持ち、肩で息をしている。よほど苦戦しているだろう。その後ろでは魔理沙達が心配している。
そしてその相手は・・・。
「(!?ま、まさか・・・そんな筈では・・・。)」
慧音は信じられなかった。何故彼女が霊夢と戦う?霊夢を苦戦させる力はどこから?
だが、はっきり分かったことがある。この惨劇は序章にすぎないと・・・。
「も、妹紅・・・頼みがある・・・。」
「?何だ?」
そして、慧音は愛すべき妹紅にこう言う。
「霊夢を・・・頼む・・・。あと・・・愛しているぞ・・・。」
そう言い、慧音は眼を閉じた・・・。
「慧音・・・?慧音!?死ぬんじゃない!慧音―――!!」
妹紅は必死に揺さぶるが、もはや慧音は眼を開かなかった・・・。妹紅の悲痛な叫びが辺りを包みこんだ。
『K-215 上白沢慧音 T‐Jの手により死亡 現在脱落者29名』
「相棒!しっかりしろ!ヤマネはどうした!?」
勇儀は傷つき倒れた親友を見つけ、必死に介抱していた。萃香は弱弱しく言う。
「勇儀・・・御免・・・私達の力ではあいつに・・・」
ふと、腕時計の電子音が鳴る。見ると予想もつかない事が書かれていた。
『Y-220 黒谷ヤマネ T‐Jの手により死亡 現在脱落者30名』
「キスメ、御免・・・私のせいでヤマネを死なせてしまった・・・。」
「萃香・・・。」
「・・・萃香お姉ちゃんは悪くない・・・。」
ふと、そんな声が聞こえる。キスメだ。彼女は目に涙をため、言う。
「萃香お姉ちゃんは悪くないよ・・・ヤマネお姉ちゃんもきっと萃香お姉ちゃんを恨んでないよ・・・。」
「キスメ・・・。すまない・・・。勇儀・・・。」
「ど、どうした?」
「また、一人ぼっちにして御免・・・大好きだ・・・。」
そう言い、萃香の手が力なく落ちた・・・。
「っ!相棒・・・・・相棒ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
天に向かって勇儀は叫んだ。溢れる悲しみの感情と共に・・・。
『S-220 伊吹萃香 T‐Jの手により死亡 現在脱落者31名』
「お嬢様!妹様!返事をしてください!」
そう言いながら、咲夜は必死に探す。自分は何もできなかった。主達が危険な目にあっているのに何もできなかった。
そんな思考の中、突如、声が聞こえる。
「聞こえているわよ・・・。」
「お嬢様!・・・っ!そ、そんな・・・妹様・・・!」
その声がした方向へ向かい、遂に咲夜は偉大なるお嬢様達を見つけた。だが・・・。
「咲夜・・・。フランはもう・・・手遅れだったわ・・・。」
そう言うレミリアが抱いているのは・・・動かなくなったフランだった・・・。
「妹様・・・。」
咲夜は自分を責めた。何故だ?何故、自分は誰も助けなかったんだ?
自分がしっかりしたら、中国も妹様も救えたのに・・・。皆と一緒に帰ると約束したじゃないか!
そう苦悩する咲夜に対し、レミリアは荒い息を吐きながら、こう言う。
「よかったわね、咲夜・・・。無事で・・・。」
「私は無能です・・・!お嬢様をこんな目に合わせてしまうなんて・・・!」
涙が流れる。何がメイド長だ。まるっきり役に立たないではないか。
そんな彼女にレミリアは手を乗せる。
「咲夜・・・。私では、T‐Jに勝てなかった・・・。奴に勝てるのは、霊夢、魔理沙、そして・・・貴方。」
「お嬢様・・・。」
「私は嬉しいと思う。いつも私の傍にいて、信頼できる人間は貴方しかいない・・・。」
そう言うと、咲夜の手が輝き始める。
「私の運命を・・・貴方に託すわ・・・。」
「お嬢様・・・!何故です!?私のような人間に何故そのようなことを!?」
「咲夜・・・貴方は私達の希望よ・・・紅魔館の代表よ・・・それを誇りに・・・思いなさい・・・。」
そう言い、レミリアは運命の力を咲夜に宿す。
「その運命の能力と霊夢達なら、きっと奴に勝てるわ・・・。咲夜、勝ちなさい・・・これが最後の命令・・・よ・・・。」
そう言って、レミリアは眼を閉じ・・・息絶えた・・・。
『R-224 レミリア・スカーレット
フランドール・スカーレット T‐Jの手により死亡 現在脱落者33名』
咲夜はしばらくしてから涙をぬぐった。そして言う。
「分かりました・・・。この十六夜咲夜、命を賭けて、T‐Jを倒します・・・!」
「そんな・・・皆が・・・レミリアですらやられるなんて・・・。」
腕時計の情報を見、霊夢は巨大な絶望感に襲われた。
こんなにも強い者達がたった1人の機械人形に・・・負けた・・・。まさに地獄といってもよい。
「許さねぇ・・・!」
そう言い、拳を握りしめているのは魔理沙だ。他の者も心配そうに見ている。
師匠を亡き者にした機械人形・・・そいつを許すわけにはいかなかった・・・。
「絶対、奴を生かしてはおけないぜ!霊夢行くぞ!魅魔様達の仇打ちだ!!」
「・・・無理よ・・・。」
「は?」
魔理沙は一瞬、耳を疑った。いつもの霊夢なら異変解決に実力を出す筈だ。
それなのに、何故戦意をなくす?何故そんなことが言える?
「無理なのよ・・・だって分かっているんでしょう?神である神奈子を始め、レミリアや魅魔、幽香ですら敵わないのに。」
魔理沙には理解できなかった。何故だ?何故、仲間を殺されてそんなことが言える?だから、つい大声で言ってしまう。
「止めろよ、霊夢っ!」
「私達はもう・・・勝てないのよ・・・。」
そこが、魔理沙の限界だった。彼女は霊夢の胸倉を掴み・・・。
「止めろっつってんだろう!!」
霊夢を殴り飛ばした。殴られて倒れる霊夢。
「魔理沙!」
「落ち着いて!」
パチュリーとアリスが慌てて落ち着かせようとする。しかし、魔理沙の怒りは収まりそうにない。
「お前がそんな弱気で臆病になってどうするんだよ!幻想郷で一番凄い神社、博麗神社の脇巫女は何処行っちまったんだよ!!」
魔理沙が叫ぶ。だが、霊夢は動きそうにない。それが魔理沙の怒りを更に煽らせる。
「・・・霊夢・・・!」
「・・・・・・・・。」
「もういい!お前がそんな奴だとは知らなかった!見損なったぜ!」
そう言い、魔理沙は霊夢に背を向け、去って行った。
決別。永遠に切れることのない友情で結ばれている筈の2人の決別である。
それを見送ってアタフタするアリスとにとり。冷静に考えているパチュリー。
その時、霊夢が言う。
「・・・さっさと行っちゃえば?」
その言葉にギョッとする一同。霊夢は嗚咽交じりに言う。
「笑っちゃうよね?博麗神社の巫女がこんな臆病者だったなんて・・・。見かけ倒しだったんだね・・・。震えが止まらないの・・・。早く、魔理沙の所に行きなさいよ・・・。臆病者の私は・・・もう放っといて・・・。」
しばしの沈黙・・・。すると、パチュリーが立ち上がる。
「霊夢・・・私は魔理沙の所に行くわ・・・。」
「パチュリー・・・あんた!」
その行動に咎めるアリス。しかし、パチュリーは物静かにこう言う。
「私は確かに魔理沙について行く・・・けど、霊夢。貴方も間違っていないわよ・・・。」
そう言われ、アリスは戸惑った。もし、魔理沙の身に何があったら・・・。
そしてアリスもこう言う。
「・・・霊夢・・・御免・・・。」
そして、魔法使い2人は霊夢をおいて魔理沙が行った方向へ向かった。
「霊夢・・・。」
最後に残ったにとりも魔理沙が心配なのか・・・ついて行ってしまった。ただ1人残る霊夢・・・。
「私は・・・私はどうすればいいの先代様・・・。」
そう言う霊夢の眼から大量の涙が溢れ出した・・・。
Aチルノ達は急いでいた。もう少しで、T‐Jのアジトに着くからだ。
レミリアを殺し終えたT‐Jの事だ。きっと、満足げに家に帰っている筈だ。そこを突いて奇襲するつもりだった。
変な少女に出会うまでは・・・。
チルノ達の前方には痛そうに尻をさすっている赤眼で白髪の少女がいた。こう言う場合は無視したいが、
「あたたた・・・。T‐Jめ・・・本気出したと思ったら、凄く傲慢になったのじゃな・・・。」
という言葉にAチルノは眼を細めた。こいつ、T‐Jの事を知っているのか?そして少女はこう言う。
「ん?おおぅ、チルノに大妖精にレティではないか!何故ここにいるのじゃ!?」
「な、何よあんた!何故あたい達を・・・。名前と種族を言いなさい!」
「ほほぅ?・・・わしの名はキリュウ!種族はT‐Jの未来の主じゃ!」
「何・・・!?」
その言葉にチルノはカチンときた。T‐Jの主?と言うことは・・・。
「あんたが・・・あんたが元凶かぁ!!」
怒りにまかせ、『ゼウス』に手を掛けるAチルノ。それをレティが押さえる。
「チルノ止めなさい!あの女の子の言う事は少し変よ!」
「うっさい!」
そう怒鳴り、レティを肘打ちで突き飛ばす。慌てて大妖精も言う。
「止めてよチルノちゃん!どうしたの!?いつものチルノちゃんじゃない!」
「うっさいうっさいうっさい!!『ゼウス』のサビになりたくなければ黙っててよ!!」
それを見て、少女・キリュウは感心する。
「ふむふむ・・・怒りと憎しみに心を奪われたのじゃな・・・。チルノのデータを改善せねば・・・。」
「T‐Jの主なら生かしてはおけないよ!」
そして、チルノはキリュウに飛びかかる!
「あと、あたいはAチルノだ――――――!!」
「面白い・・・久しぶりに魔力が劣っていないか試させてもらおうぞ・・・。」
そして皮肉にも、この出会いがAチルノの人生を変えてしまった。
悲しみと怒りが募るR島。
そして今、この惨劇に終りが近づき始めた・・・。まもなく夜が明ける・・・。
7月13日、13日の金曜日の始まりである・・・。
最終決戦に続く
確かにやばいな、Part1から
作者の脳の方がよっぽどヤバいって
それにしても遊戯ネタが多いと思うのは自分だけ?
ようやく気付いたのか
ここを評価してこの点数です。14話ならなお良かった。
誤字だったんですね
×黒谷ヤマネ
○黒谷ヤマメ
これが自虐ネタだというのならあんたのセンス悪くないわ