私は小悪魔である
名前はまだない
きっと一生ない
それはともかく、私はパチュリー様の命令(我が儘)に付き合う従者(パシリ)だ
レミリアお嬢様とパチュリー様が揃って読書にふけってしまったので
せっかくだから私の昔話でもしようかと思います
誰に?貴方にですよ。これを読んでいる貴方
『あまりにも小さな悪魔』
パチュリーは思った
「めんどくさい」
いや、口に出てるし
それはともかく、パチュリーはめんどくさいのだ
なにがって?本をとるのが
私は喘息だから激しい運動はできない
本を取るぐらいで激しい運動とは言わないだと?
そう思うんならこの図書館に来てみるといい
面積は六桁だ。どうだ驚いたか
え、単位?ミリだよ畜生、悪かったな
でもめんどくさいじゃん
わがままとかいうな
自分で何とかするんだから
何をするかって?
使い魔を召喚するの
結局他人本願ですって?
いいじゃない使い魔は使うから使い魔なのよ
えっと使い魔の本は…
<使い魔の召喚>
一般的にホムンクルスと呼ばれる、使い魔を精製するタイプについての本だ
必要な物は…
水35L
炭素20g
アンモニア4L
石灰1.5kg
リン800g
塩分250g
硝石100g
イオウ80g
フッ素7.5g
鉄5g
ケイ素3g
その他少量の15の元素…
って、人体の構成物質じゃん!!
人体錬成したい訳じゃない
真理も見たい訳じゃない
だが書いている分は仕方ない
用意
幸い子供の小遣いでも全部買えちまうらしい
…近くに市場があればな!
他の方法を探そう
<使い魔との契約>
こちらは魔界の悪魔と主従の契約を結び、呼び出すという手順の本
ある意味こっちのほうが召喚っぽいという謎
用意する物は…
契約書
血肉
らしいじゃない
ちょっと単純な気もするけど
契約書はカカッと書いてしまうとして
血肉ね…
やっぱり自分の肉じゃないといけないのかしら?
鶏肉とかじゃ駄目?
……鶏に頭下げられたら困るな
ん?待てよ
血肉だから"血と肉"じゃない
なら血か肉のどちらかということでも、いいんじゃないかしら
床に置いた契約書の裏に召喚の魔法陣を書く
その中央に血を垂らした
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
と、いうような感じの空気が流れる
魔法陣が光り輝き、広がり、パチュリーの視界が失せ――
気付けば目の前に一匹の悪魔が倒れていた
赤く長い髪で、頭には小さな羽、背中にもある
服はミニスカ、赤ネクタイのスーツ
いかにも仕える者といった服だ
いや、メイド服じゃなくて
……起きる様子がない
「起きなさい」
試しに蹴ってみる
「あと5分……」
寝ぼけてやがる
こんなのが使い魔だと?
舐めてるのか
「起きなさい」
「あと10分……」
増やすな
「起きろって」
「嫌だぁ…」
拒否された
仕える気ないのかこの使い魔
「…………」
「すー……すー……」
いい寝顔だ
潰しがいがあるってもんだ
火苻「アグニシャイン」
「あっちちちちちちぃ!?」
叫びながら転げ回る
なんてリアクションだ
昭和の芸人か
「ぬぁにすんですかアンタはっ!?」
アンタってか
いまから仕える人にアンタってか
これは調教が大変そうだ
火苻「アグニシャイン」
「あああっづぁぁぁぁぁあちっあちちっ」
「言葉に気をつけなさい」
悪魔は涙目で、しかし怒りをあらわに私を見上げ、言った
「何様よ!?」
「ご主人様よ!!」
「使い魔ぁ!?私が!?……で、ですか?」
いちいちリアクションの大きい悪魔だ
「使い魔じゃなけりゃ何なのよ」
「私は名も無き小悪魔ちゃん(ピー)8歳、ちょっとお茶目な女の子ですよ♪」
キメポーズ。キラッ☆
…うぜぇ
しかも歳は私とさして変わらんと来た
不安ったらありゃしない
「いい加減にしないと郷ひ〇みの歌にこめられた真理を知ることになるわよ」
「なんですかそれ」
「……燃えてるんだろうか」
「燃えてますね、私燃やされましたね。自慢の赤髪がボロボロです」
……もう戻っているあたり、魔界の悪魔という事でで問題はなさそうだが
「……とにかくっ!私が使い魔ってどういう事ですか!?」
「そういう事よ」
「いや、私は使い魔じゃありません」
「でも、使い魔の契約をして貴方が出て来たのは事実よ」
パチュリーは契約書を彼女に見せた
「んなアホな……いいですか?使い魔というのは、一定の魔力を持つ者しかなれません。個人差はありますが、人間界時間でおおよそ80年でなります。ちなみに、私は落ちこぼれなので90歳以上が目安になってます。今68歳の私が使い魔なんて……」
さりげなく年齢暴露
さっきの伏せ字は何のために
いやそれはともかく
「パッとしないわね、人間年齢でたとえて頂戴」
「15です」
「…ガキじゃん」
「ガキですよ」
今、心底後悔している
「それで?私が材料に肉を抜いたからって言いたいの?」
「それしかないでしょう。レシピどうりに作らないと完成品はできません」
「貴方は完成品じゃないの?」
「まぁ、召喚自体は成功しています。これは材料は足りないなりに、貴方の魔力で底上げされ、無理に完成させようとした結果、私のような中途半端な使い魔崩れがでてきてしまったって訳です」
自分で言ってて悲しくはならないのだろうか
だが、実際の所、十五歳でも使い魔崩れでも一行に構わない
私は使い魔にボディーガードしてほしい訳じゃなく、単に本をとったりしまったりしてくれればいいだけだ
「空くらいは飛べるでしょう。羽が四枚もあるんだし、速いんじゃない?」
「ここは神曲奏界じゃありません。生憎、浮遊なんて二分浮ければ頑張ったほうです。高さも三分メートルに頭が届けば自画自賛できます。あ、ちなみに私の身長は171センチですけど」
私より五センチも上じゃない
道理でさっきから正面に無駄に高い双丘を見せ付けられているわけか
「まぁ、私で出来ることなんて無い訳でして」
「だったらどうするのよ?」
「私は魔界に戻りたいんですが」
まぁ、仕方ないか
浮遊三メートルでは確かに役に立たない
うちの図書館は高さ五メートルだし
階段も置いてないし
「んじゃ、戻して新たな使い魔を出そうかしらね」
「そうしてください。ていうかなんでわざわざ材料抜いたんですか」
「そりゃあ自分の肉なんて……」
「自分の肉じゃなくても鶏肉とかでもいいんですけど」
いいのかよ!!
杞憂だった
先入観とは恐ろしい
「……それじゃ、さようなら」
「はい、さようなら」
私は彼女に別れを告げた
……
………
…………
……………
…………………
……………………………
……………………………………………??
「……………」
「……………」
あれ?
「……どうしたんですか?」
「それはこっちの台詞なんだけど……?」
互いに別れを告げて5分
彼女はまだ私の目の前にいた
「「…………」」
しばらく見つめ合って、同時に口を開いた
「もしかして、帰り方が解らないのかしら?」
「もしかして、帰し方が解らないのですか?」
思わすこめかみを押さえた
……困った
結局、彼女は魔界に帰る術が解るまでここに居ることになった
どうやって魔界に帰るのか
私は空間転送の魔術は扱えるが、転送先を頭にイメージしなければならないので、知らないところへは送れない
ましてや異界となると、自信が無い
次に、そもそもどうやって彼女は魔界からここに来たのか
来た理屈は解る
一時的に魔界に通ずる門を開いた、とでも言えば解りやすいか
だが生憎、契約で開いた魔界の門は一方通行だ
「なんでそんな事になってるんでしょうかね」
なんで魔界出身のやつにそれを問われなければならんのか
「侵略を防ぐとか、そんなところでしょ」
「……最近魔界では外から巫女が来てはよく喧嘩してまわってるって聞いてるんですけど。この前、神綺様も……ああ、神綺様は魔界の王様とかそんな立場の人なんですけど」
「知らないわよ。あらゆるものに例外はある。その巫女が異常な奴ってだけでしょう」
それにしても資料を漁ってもなかなか出てこない
魔界の記述の本は意外と少なかった
「参ったわね」
二人で溜め息を一つ
その時だ、一つ名案が浮かんだのは
「無ければ作ればいいのよ……!」
「何を?部活?」
「違うわよ。何よ部活って」
「いやなんでも」
「力よ、力」
「は?」
パチュリーは百万$にはやや足らない程度の笑顔で言った
「貴方を最高の使い魔に教育してあげるッ!!」
かくして名も無き悪魔の特訓が始まった!
特訓メニューは…
「本?」
彼女の目の前にドサリと置かれたのはハードカバーの数々
どれも魔法系ファンタジー
「魔力と魔法を扱う技術は別物よ。魔法とはイメージして扱うの。まずはそれに慣れる事。無理に大量の魔力を持ったら危ないから」
「成る程」
道理には敵ってるし、とくに大変でも無い
読む
…………………………
……………………
……………
「……多いですね」
(読む速さには定評のある自分だったが、それにしても多い。そもそも何故魔法系ファンタジーというジャンルだけでこんなにあるんだろう?)
「外で魔法の技術が捨てられたのは知っているかしら」
「ええ……まあ……風の噂で」
「事情を説明しても解らないような子供に魔法は幻想であったということを認識させるために、伝記を脚色して物語にして処理したの」
「……ひどい話ですね」
ひどい話だが、世間の流れだと割り切るしかなかった
自分の尊敬していた魔術師も科学に討たれ、偉業はただの幻想となってしまった
「そんなことより、いい加減貴方の名前を教えなさい」
「言いませんでしたか?小悪魔ですよ」
「それは……名前なの?」
「自己申告です。魔界では、自分の生まれた時点で配属が決まっています。私は使い魔として生まれましたから、そういう環境で育てられたんです。で、使い魔は主人に仕えてなんぼなんで、名前は主人に付けてもらうのが普通です。それまでの名前は自己申告です。ああ、パチュリー様が名前を下さりますか?」
「いや、いいわ」
「じゃ、そういうことで」
数週間後
小悪魔は魔力の増強トレーニングをせずとも、様々な魔法をあつかえるようになっていた
「9メートル!9メートルも飛びました!最高にHigh(高い)って奴だァァァァァァ!!」
テンションたけーなオイ
「ま、腐っても魔界の悪魔だし」
「はいっ!!腐っても悪魔でした!!」
……まあ、本人がいいならいいけど
「ま、何はともあれ、貴方は今日から正式に私の使い魔よ」
「…………」
何故か小悪魔は寂しそうな顔を見せた
「どうしたの?」
小悪魔はゆっくりと私の前に降り
「すいません」
と告げた
小悪魔の瞳から一筋、涙が零れた
それを見た私は、嫌な事を考えてしまった
考えたくない事を
「どうして、謝るのよ?」
認めたくないから、こんな事を言う
それは"逃げ"だった
「例え、悪魔として力がつこうとも、使い魔のしきたりは無視なんて出来ないんです」
「そんな…」
小悪魔が涙を流しながら、しかし百万$以上の笑顔で言う
「すいませんでした。そして、ありがとうございます。パチュリー様のお陰で私は立派な悪魔になれました。私は小悪魔。でも本当はこれ、仲間にいじめられて付けられたあだ名なんです」
私は二の句が告げない
考えるのを拒否しているからだ
結論にたどり着くのが嫌だから
私は逃げつつけた
「私は、魔界に強制送還されます」
でも逃げられるものではなかった
「小悪魔っ!!」
パチュリーはとっさに小悪魔の手をとった
「すいませんパチュリー様。もう決まった事なんです」
「嘘よ!」
パチュリーは小悪魔を抱き寄せる
「貴方は、ここに居るじゃない!貴方は、私の使い魔よ!」
「さようなら。パチュリー様」
小悪魔はそういい残し、消えた
消えた
小悪魔が
さっきまでいたのに
さっきまでわたしと抱き合っていたのに
あっさりと消えてしまった
時は流れ
一人の少女が立っている
目の前には紙が一枚
紙の裏には魔法陣が書かれてある
「なんだって持って行きなさい」
指を切り、自らの体に血の紋を描く
「返しなさいよ!たった一人の司書なのよ!!」
パチュリーは血にまみれた手をついた
この日からパチュリーは一生拭えない傷
"喘息"を負った
そして、光の中からは目端に涙を浮かべ、しかし満面の笑みを浮かべた小悪魔の姿が――――――
「「パチュリー様っ!!」「小悪魔っ!!」互いの名を叫んだ二人は熱い抱擁を――――――
「何ホラぶっこいとんじゃああああああああ!!」
パチュリー様のドロップキック!
みぞおちにあたった!
こうかはばつぐんだ!
「なに最後盛大に改ざんしてんの!?とゆうかなんで最後人体錬成みたいになってんの!?鳥肉でもいいんじゃなかったの!?しかも喘息は持病だって言ってるじゃない!!それにお迎えが来るなら最初にわたわた帰り方探したのは何の為!?創作ならもっとマシなもの作りなさい!!」
うわー律義にもひとつひとつ丁寧に突っ込んでくれてるよこの人
つくづくいい主人だと思う
我が侭だけど
「読み会終わったなら言ってくれても・・・」
ギロッ
「あーえっと…こ、紅茶、入れ替えてきますね」
後ろから舌打ちが聞こえて気がしたけど気のせいでしょう
どこから嘘かって?
・・・どこでしたっけねぇ
案外嘘をついているのはパチュリー様というのもあるんですけどねぇ
いや、言わないでおきましょう
この話はコメディですし、ね
これはうまいと思った。
小悪魔はパッチェさんに召喚されて幸せになったんだと思う。なんだかんだでパッチェさんは小悪魔のこと認めてるだろうし。