いつの事だったか。
あの橋に独り佇む少女に気づいたのは。
いつからだろうか。
あの少女の事を忘れられなくなったのは。
その日、勇儀は早めに宴会を切り上げ、辺りを散歩していた。
地底から地獄が切り離されて以来、地底での生活は退屈そのものだった。
鬼は退屈を楽しめるほど落ち着きのある生き物ではない。地底に残った鬼達も例に漏れず、日々を持て余し、毎晩のように宴会を開いては愚痴を言うのだった。
昔は楽しかった。少なくとも、生きがいみたいなものがあった。
今はやることもないし、こうして呑むくらいしか楽しみがない。まあ、これもいいもんだが。
はは、まったくだ。
こんな他愛もない話でさえ、鬼達にとってはいい気晴らしになっていた。
勇儀もこの宴会に参加し気分を紛らわしていたが、どうもその日は酒が美味く感じられなかった。
体調が悪いわけではない。おそらく気持ちの問題なのだろう。
勇儀はすっと立ち上がり、申し訳なさそうに言った。
「さてと…私はこの辺で失礼するよ。」
「勇儀姐さん、今日は早いですね。どうかしたんですかい?」
「いや、どうも気分が乗らなくてね。少し風に当たることにするよ。悪いね、皆。」
勇儀は迷っていた。
このまま宴会だけの日々を続けるのはいかがなものか。しかし、何か案があるわけでもない。かといって、こうして毎晩酒を呑む日々にもいささか飽きた。さて、どうしたものか…
悩んでいるうちに、いつの間にか街から出ていた。そして、地底と地上を結ぶ橋の袂までやってきていた。
不意に、重たい空気が流れ込んできた。勇儀が顔を上げると、少女が橋の傍の岩に独り腰掛けていた。
この雰囲気の主は彼女だろうか。しかしまあ、寂しいだろうに。
「やあ。あんた見ない顔だね。」
勇儀は声をかけることにした。顔は見えなかったが、独り佇むその少女が悲しんでいるような気がしたから。
少女は顔を上げた。
そのときの彼女の瞳を、勇儀は一生忘れないだろう。
その緑眼は雫を湛え、艶やかに輝く。
その瞳の奥に、憎悪、慟哭、そしてその奥にある純粋な愛が見えた。
ああ、どうりで。
この雰囲気の元は―嫉妬か。
少女は勇儀を睨んだ。先程の艶のある瞳ではなく、激しい怒りに満ちた眼で。
「あ、ああ、すまなかった。びっくりさせるつもりじゃなかったんだよ。あんたが独りで座ってるもんだから、ちょっと心配で」
「帰れ」
心配、という単語が出た瞬間、少女の瞳孔が開いた。そしてすぐさまたった一言、返れと言い放ったのだ。
相手がここまで怒っていると気づかなかった勇儀は、突然の言葉に戸惑った。
何か言わなければ。
しどろもどろになりながらも、勇儀は言葉を続ける。
「ご、ごめん。私が悪かったよ。ただちょっと気になっただけ」
「帰れって言ってるでしょ!!」
そう叫んだ彼女の表情はまさに『鬼』だった。勇儀達のように、自由に生きる角のある妖怪の事ではない。人間達の間で語られる、恐ろしい存在としての『鬼』が、まさにそこにいた。
勇儀は言葉を失った。気圧されたわけではない。勇儀ほどの実力者がこの程度で威圧されるはずはなかった。
ただ、ショックを受けたのは事実だ。この少女の心を垣間見た勇儀には、嫉妬に呑まれる彼女の姿が不憫で仕方なかった。
「そ、そうか。じゃあ帰るよ。悪かった。またな」
そう言って勇儀は手を振った。案の定返されはしなかったが、彼女の顔は元の可愛らしい少女のそれに戻っていた。
* * *
それから勇儀は彼女の事を徹底的に調べ上げた。
顔の広い事が幸いして、すぐに様々な事がわかった。
彼女が橋姫という種族であること。
橋姫は昔嫉妬に呑まれ夫を殺し、それだけでは飽き足らず多くの人間を殺したこと。
嫉妬とは恐ろしいものだ。人を豹変させ、罪悪をもたらす。
けれども、嫉妬は愛から生まれるものだ。それはあの子の眼を見てわかっている。伝承での橋姫だって、夫への愛が浅いものであったならば、心を黒く染め上げることもなかっただろう。
彼女は救われなければいけない。嫉妬から逃れようとして苦しむ姿をただ黙っているわけにはいかない。
勇儀はもう一度あの橋へ行くことにした。
少女はその日も独り座っていた。
俯いていて、その表情は計り知れない。
「やあ、元気かい?」
少女は驚いたように顔を上げた。
呆れ果て、うんざりした様子だが、幸い怒りは抱いていないようだ。
おそらく、昨日あの剣幕で怒られてもやってきた勇儀に呆れる気持ちが強いのだろう。
少し安心して、勇儀は続けた。
「いや、昨日は本当にすまなかったね。悪気はなかったんだよ。少し私が酔ってたのもあるし…なんていうか、その…」
「謝る必要はない。帰って」
意外なことに、少女は返事をした。
勇儀が驚いていると、少女は言葉を付け足した。
「あなたが何をしたいのかはわからないけど、私は一人がいいの。だから帰って。それにもう怒ってないから謝らなくていいわ。」
独りがいい?独りでいれば、嫉妬する相手がいないから?でもなんであの日は泣いていたんだ?本当は…誰かと一緒にいたいんじゃないのか?
聞きたい事が勇儀の頭に一気に浮かんできた。しかし、彼女は知っていた。今この質問をしたところで、怒り出すだけだ。
少しずつでいい。じっくり時間をかけて、少しずつ私に心を開いてくれたらそれでいい。
勇儀はこの質問を胸にしまった。そして、代わりに別の質問をすることにした。
「じゃあ、今日の所は帰るよ。また明日、来てもいいかな?」
それまで無表情を貫いていた少女の顔が歪む。
またか、といわんばかりに嫌そうな顔をした後、ため息をついた。
「…どうせ来るなっていっても来ちゃうんでしょ?今日みたいに。…邪魔はしないでよね」
「そうか!じゃあまた明日な!あ、そういえば名前まだ聞いてなかったね。私は星熊勇儀。あんたは?」
「水橋パルスィよ。さあ帰りなさい」
勇儀を追い払って、パルスィはため息をつく。
その表情は哀しげでありながら、不思議な微笑を浮かべていた。
その日から毎日勇儀はパルスィの処へ通い続けた。
勝手に来て、勝手に話し、勝手に帰る。毎日がそれの繰り返しだった。
この日以来、受け答えは殆どなくなってしまったが、それでも一緒にいる時間は少しずつ長くなっていった。
そしてもうひとつ、勇儀は自分のある大きな変化に気がついた。
退屈を感じない。
今日はパルスィと何を話そうか。今日は返事をしてくれるかな。前は相槌くらいしてくれたから、今日は呼びかけてみようか。
パルスィの事を考えている間、勇儀は退屈を一切感じなくなった。
それどころか、その時間が楽しくて仕方なかった。
これは勇儀が初めて抱く感情だった。
仲間達といるときの楽しさとは違う、もっと不思議な気持ち。温かくて優しい、ふわふわした気持ち。
それが恋だと勇儀が知るのは、それから数日後のこと。
パルスィも自らの心の変化に気づいていた。
今まで彼女は独りになろうと努めてきた。周りに誰もいなければ、無駄な嫉妬をせずに済むから。
でも、独りでいるのは苦痛に他ならなかった。
どうして私が寂しい思いをしなければならないのか。そう思っているうちに、自分の運命を呪い出す。そうすると、この世の全てが憎くなる。そしてまた、そんな事を考えるどうしようもない自分が妬ましくなる。この繰り返しで、彼女の心は傷だらけだった。
そこに、あいつが現れた。
あいつはどんなに怒ってみせても翌日必ずやってきた。
たぶん、あいつには私の辛さなんてわからない。でも、それを受け止めようとしてくれているのがわかる。それだけで、本当にうれしかった。
あいつが…勇儀だけが、私を救おうとしてくれた。出来る事なら、ずっと勇儀と一緒にいたい。
でも、それはできない。私には嫉妬から離れるなんてできない。ずっとこの闇とともに生きていかなければならない。もし傍に勇儀がいたら、いつか彼女に当たってしまうことがあるかもしれない。
私は勇儀が好きだから…だから、一緒にはいられない。
* * *
「祭?ここでかい?」
ある日、勇儀は仲間の鬼に呼ばれた。昼間から相談なんて珍しいなと思いつつ勇儀が向かうと、妙に意気込んだ仲間達が彼女を迎えた。
「はい!久しくこの街でも祭をしてなかったでしょう?ここらでひとつ景気よくどーんとかまして、街全体を活気づけようってわけです!」
「なるほど、面白そうだね。じゃあ指揮は任せたよ。私には用があるからね」
そう言うと勇儀は走り出した。まっすぐ、例の橋の方向へ。
「また来たの。今日は何?」
この頃になると、パルスィもよく話すようになっていた。口数が多いわけではないが、コミュニケーションには事欠かない。
「ふっふっふっ、聞いて驚くなよパルスィ!なんと、今度街で祭りがあるんだ!それで、なんだが…パルスィ、私と一緒に祭りに来てくれ!」
「人混みは嫌。」
呆気なく断られ、勇儀は少し残念そうに言った。
「そ、そうか。なら仕方ないな。嫌っていうのを無理やりになんて嫌いだし。」
その言葉を聞いて、少し考えた後パルスィは言った。
「…行ってあげてもいいわよ。」
「ほ、ほんとかい!?」
パルスィの言葉を聞いて、勇儀の曇った顔が輝いた。
「一人で街に行くのは嫌だから、ちゃんと迎えに来なさいよね。」
パルスィの頬は仄かに赤らんでいた。
「ああ、じゃあ明日な!」
そう言うと、勇儀はうれしそうに街へ帰っていった。
もし勇儀のことをなんとも思っていなければ、簡単に断ることができただろう。
しかし、パルスィにとって勇儀は既にかけがえのない存在だった。
彼女と一緒に行きたい。でも、一緒にいてはいけない。
二つの思いの狭間で、パルスィは苦しんでいた。
勇儀はというと、ただ純粋にパルスィと一緒に行きたいと思っただけだった。パルスィの事が好きだとか、そういう気持ちは全く意識していなかった。
ただ、パルスィと一緒に過ごしたい。一緒にいたい。
その気持ちが、勇儀を突き動かしていた。
そんな折、勇儀は思いもよらない事態に巻き込まれる。
「なんだって!当日は自由時間なし!?」
勇儀は愕然とした。一応この街の代表でもある勇儀が祭の主賓の席を離れるわけにはいかない。だから最近お気に入りのあの子と出かけるのは諦めてくれ、とのことだった。
「すみません、姐さん。今回は地霊殿からもお客様がいらっしゃいますから、私達だけではお迎えできないんです。堪忍してください!」
部下の必死で謝る姿を見ては、勇儀も断れない。
「仕方ないね。よし、任せな!さあ、そうと決まったら準備だ!忙しくなりそうだね!」
勇儀の言葉通り、準備はかなり忙しかった。
鬼達にも怠け癖が浸透していたらしく、祭の前日にもかかわらず殆ど準備が出来ていない状態だった。
その日は一日中勇儀の指揮の下で準備が進行し、なんとか用意が出来た。
そのせいで、パルスィに迎えに行けない旨を伝える機会を逸してしまったのは誤算だったが。
* * *
祭当日は大盛況だった。
特にこれといった娯楽がない地底で暇を持て余していたのは鬼だけではなかったようだ。地底の入り口付近の妖怪はもちろん、旧灼熱地獄跡のほうからも妖怪や怨霊が集まってきた。
皆が楽しげな顔をする中、勇儀はほんの少しだけ寂しそうな顔をしていた。
祭の主役である自分が寂しそうな顔をしていてはせっかくの祭りが台無しだ。だから勇儀は極力周りに気づかれないように努めた。
しかし、勇儀の想いは彼女に筒抜けだったようだ。
「どうかなさったのですか?貴女の哀しそうな顔は珍しいですね。」
声をかけられ、勇儀は驚いた。必死で表情を変えないようにしていたのに、どうして気づかれたのだろう。
しかし、声の主を見て勇儀は納得した。成程、彼女ならほんの僅かな変化でも読み取れるだろう。
「いや、なんでもないよ。」
勇儀は嘘を吐いた。
鬼にとって、嘘を吐く事は苦痛どころの話ではない。文字通り、心を痛めることになるからだ。
それでも、勇儀は嘘を吐いた。こんなことさとりには無意味だとわかっている。
でも、皆が待ち望んだこの祭りを台無しにする事だけは避けたかった。
勇儀の顔を見て、さとりはふふっ、と笑った。
「そういうことにしましょうか。でも、気づいていませんか?今なら皆気分が高揚しているから、貴女がいなくなっても気づく人はいませんよ?」
やはり見抜かれたか。本当に便利な能力だ。言葉を尽くさずとも、相手の気持ちを理解する事ができるのだから。
勇儀は動揺していた。
パルスィの処に行きたくないといえば嘘になる。でも、やはり自分はここにいなければいけない。だけど――
「貴女、自分の想いに気づいていませんね。」
さとりの言葉に、勇儀はまた戸惑った。
私の想い?私はただ、パルスィと一緒にいたいだけだ。それ以上でも、それ以下でもない。ただパルスィと一緒にいて、話をして、共に同じ時間を過ごす。そうしたいだけなのだ。
悩む勇儀に、さとりはある言葉を教える事にした。
勇儀さん。貴女がパルスィに抱いている気持ちを、人は恋と呼ぶのですよ。
恋。意味は知っていた。でも、実際にそれがどういうものなのか勇儀は知らなかった。
さとりは言葉を続ける。
「恋とは誰かと共に過ごしたいと思うことです。二人で同じ時間を共有したいと思うこと。それが、誰かに恋をするということなのです。」
「じ、じゃあ私は…」
「ええ、していますね。」
勇儀の顔がみるみるうちに紅く染まる。
「だ、だけど…」
「まだ言い訳をするのですか?自分に正直に、いつも自由に。それが鬼というものでしょう?」
その一言で、勇儀は強く決意した。
そう、私は鬼。幻想郷で一番素直で自由な生き物。
その私が、今恋をしている。だったら、この想いを伝えないわけにはいかない。
気づけば、勇儀は走り出していた。
仲間の一人が気づき声をかけるも全く聞いていない。
その仲間が困っていると、さとりが優しく声をかけた。
「勇儀さんは鬼の本分に従ったのです。私達は私達で楽しみましょう。」
それもそうだ、というような顔をした後、鬼はさとりの杯に酒を注いだ。
彼女はその日もそこにいた。
橋の袂に一人座し、俯いていた。
勇儀が近づくと、泣いている事がわかった。
ああ、ずっと待っていてくれたんだ。
ここは地上と地底の境だから、ここを通って旧地獄の街に入る妖怪も多い。
きっと彼らは幸せそうな顔をしていただろう。
それを見ながら、ただ一人私を待っていてくれたのか。
「パルスィ…」
かける言葉が見つからなかった。自分の想いには気づいた。でも、私はパルスィを傷つけた。彼女の心を癒すにはどうしたらいいのか。
勇儀が想いを告げられずにいると、パルスィがぽつりと言った。
「もう、来ないで。」
勇儀は動揺した。
許してくれとは言わない。ただ、気持ちだけ、この気持ちだけは聞いてほしかった。
「すまなかった。祭の準備とか、やらなきゃいけないことがたくさんあってね。ちゃんと伝える時間もなくて…本当にごめん。」
「謝る必要なんてない。もう二度とここに来ないで。貴女といると辛いの。」
勇儀は泣き出したくてたまらなかった。自分が一緒にいたいと望んだ相手は、自分といると辛いという。伝える前から想いを否定された気がして、心が引き裂かれる思いだった。
でも、これだけは伝えなければ。この想いを伝えずに別れるなんて、私にはできない。
「パルスィ、ずっと言えなかった事があるんだ。私は、お前を…お前の事を」
「もう帰ってよ!これ以上、私の心に入ってこないでよ…」
どういうことだろうか。勇儀は、自分の事を嫌いになったのだとばかり思っていた。
しかし、どうやらそんな単純な問題ではないらしい。
勇儀はパルスィの言葉を待った。やがて、パルスィが自らの想いを語りだした。
「貴女が本当の事を言ったから、私も本当の事を言うわ。私も…貴女の事が好き。だけどね、私には好きな人がいてはいけないのよ。その人を恨んでしまうから。
今まで貴女を追い返したのだって、貴女を妬ましく思ってしまいそうだったから。でも、私は諦められなかった。こんな私をお祭に誘ってくれた。貴女とずっと一緒にいたい。いつしか、私はそう思っていた。
でもね、駄目なの。私は嫉妬に負けた。今日、貴女を待っているときに思ってしまったの。貴女が妬ましいって。きっとまた、いつか貴女を恨む日が来るわ。わかる?大好きな人を憎む気持ち。本当に辛いの。大好きなのに、妬ましい。ほんとうに、苦しい…」
そこでパルスィは言葉を詰まらせた。涙と嗚咽で、次の言葉が出てこなくなった。
勇儀はパルスィの言葉を聞いていたが、我慢できなくなってパルスィを抱きしめようとした。
パルスィは勇儀の手を振り払いながら叫んだ。
「やめてよ!!ねえ、どうして?どうして貴女は私の心に入ってくるの?いくら払っても、すぐにまたやってきて…」
「お前の事が大好きだからさ」
「お願いだからやめて!!もうこれ以上、苦しい思いをさせないで…貴女にはこんな姿見せたくないのに…」
パルスィの顔はすでに涙でぐしゃぐしゃだった。可愛らしい少女の面影はそこにはない。
その場にしゃがみ込んだパルスィを、ついに勇儀が抱きしめた。
当然パルスィは抵抗したが、彼女が何か言い出す前に勇儀が想いを告げた。
「パルスィ、私はお前の事が大好きだ。そして、お前も私を好きだといってくれた。それでいいじゃないか。一緒に過ごし、時間を共有したいと思う。それが、好きってことだろ?」
「だから私は」
「わかってる。お前が嫉妬に呑まれやすいことは知ってる。
私が守るから。もし苦しい思いをしたら、私が受け止めてやるから。そういう所も全部ひっくるめて、私はお前を愛してる。だから、ずっと一緒にいたいんだ。」
そこまで言って、勇儀はパルスィから体を離した。
「だから…これからも、来ていいかい?」
ほんとうに、馬鹿な鬼だ。こちらの話を全然聞こうとしない。まあ、そんな奴に惹かれてしまったのだから、きっと私も馬鹿なのだろう。
パルスィは何も答えなかった。
その反応に、勇儀は俯いた。その瞬間――
それはほんの一瞬だった。
もしかしたら、勇儀の勘違いだったのかもしれない。
しかし、勇儀は確かに、柔らかな唇が触れるのを感じた。
勇儀は何も言えずにいた。というより、混乱して何がなんだかわからない状態だった。
頬を染めたパルスィが何事もなかったかのように答える。
「来たいなら勝手に来ればいい。まあ、別に貴女の事、嫌いじゃないし」
覚でなくとも、彼女の心を窺い知ることは容易だ。
―たとえそれがあの鈍い鬼であったとしても。
「ふふ、そうか。いや、よかった。」
「何ニヤニヤしてるのよ、気持ち悪い」
「いや、なんでもないさ。じゃあ、また明日。」
勇儀は帰り際手を振った。
パルスィはほんの僅かに手を動かした。
あれで振ってるつもりなのか?まあ、あいつらしい。
勇儀は苦笑しながらも、うれしそうに街へ帰っていった。
まったく、えらいのに気に入られたものだわ。来るなって言っても来るし、あんな恥ずかしい台詞を平気で吐くし。まあ、私はもっと大胆な事をしてしまったけれど。
ふふ、妬ましい。こんな素敵な気持ちになってしまうなんて…本当に妬ましいわ。
いい!
これでもう少し黒さが混ざるとなお良し!
ニヤニユニヤニユ
初々しい感じがありだな。
続きを期待してまう
勇パルが好きになって来たけど、この作品のおかげで
完全に好きになりました!!
ですが折角創想話ですし、恋愛話やるならもう少し紆余曲折さが混じってもいいような。
とりあえず、甘いんじゃゴルァアッ!!
勇儀のひたむきな想いが良いですね。
ああ妬ましい
妬ましい
詠み人知らず
↑きっと松尾芭蕉だよw