スパイスである。
「あむ」
ルーミアは、一人寂しく食事を取っていた。
霖之助お手製のクリームシチュー。鶏肉に、里芋、人参、玉葱などをごろごろと言いそうな程荒く切り、じっくりと煮た男の料理だ。
「……おいしくない」
そう言いながらも、スプーンを口へ運ぶのを止めないのは、惰性かはたまた。
二人以上での食事は一人で食べるよりも美味だという。ならば、霖之助と二人、共に、否、伴に食べる食事に慣れたルーミアは、今食すシチューの味をどの様に感じるか。
「…………霖之助」
一人で食べるご飯は淋しいね。
ルーミアは、何時もにはない弱く、それでいて艶のある哀色を浮かべる。
幻想郷の大半の者に言えることだ。見た目通りの年月を生きてはいない、というのは。
「でも、うん。きっとおいしい。霖之助が作ったのだから」
その霖之助は、今はこの場所にいない。部屋、ではなく店の中全体を見回してだ。
「悪いのは私、うん、私」
つい、とスプーンで中空を掻き混ぜる。
「でも、嫌なものは嫌だし」
他の女の人と、楽しそうに笑ってるのを見ると胸が痛い。
仕事だから、仕方がないとしても。
そんな女心に、霖之助は反応出来ない。機微に気付けても、反応の仕方を知らない。
「霖之助……」
カチャ、はむ。サク。
サク。ごくん。
「人参、まだ堅いや」
シチューの白い色には、表情は写らない。写っていたのならば、ルーミアは自分の、泣き顔を見ていただろう。
「霖之助……、淋しいよ」
一人、食事を続ける。ルーミアは、その見た目通り、幼子のごとく涙を流し続けた。
食事の味が甘いからと言って、その浮かぶ感情や、空気までもが甘いとは限らない。その感情とのギャップに、より哀しく、せつない食事となることもあるのだ。
だが、こんなものは日常、どこにでもある。語る意味もないかもしれない。つまり本題とは違うわけだ。
「……リグル」
「な、なんだよ」
星空の下、幾種もの花々に囲まれながら、風見幽香とリグルは食事を取っていた。
カレーライス。古風に言うのならばライスカレイである。
「ちょっと、辛過ぎじゃないの、これ」
「いや、それでも甘いんだけど。紫からもらった箱にも甘口って書いてあったし」
「辛いわよ。これが甘かったら、砂糖は麻薬ね」
「いや、麻薬は言い過ぎだと思うけど」
カチャ。モニュ。
ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ。
カチャ。ゴクッ。
「噛まずに食べたら体に悪いって」
「妖怪なんだから、気にしても意味はないわよ。それにね、リグル。砂糖を一度も食したことのない人間に、ほんの一匙舐めさせてみなさい。もっともっとと欲しがるから」
「そんなに辛いかなぁ、これ」
「まあ、味の好みだとはわかるのだけど。おいしいし」
一匙、カレーソースを掬い、舌で舐める。
「リグルが作ってくれたものでもあるし。腕を上げたわね、リグル」
「切って、煮込んだだけだよ」
「それでもよ。前なら角々してごろごろした野菜が、中まで火が通らないまま食卓に。自分は女の子だなんて叫んでも、女の子らしいところなんて、ベッドの上だけだったものねぇ」
幽香はニヤニヤと笑みを浮かべ、舌先で角砂糖を蕩かす様に言葉を紡ぐ。そして、蕩ける砂糖の側、リグルは顔を真っ赤にして、カレー皿に顔を沈めた。もちろん比喩であるが。
「ゆ、幽香だって、あんなに」
「リグル。それ以上言葉を進めたら承知しないわよ」
「わ、わかったよ……」「辛いわね、カレー」
「そうだね」
幽香の口調がね。
リグルは、口には出さず、心の中で強く思った。
この様に、料理や会話は、辛くも甘くもなるものだ。それが、心の機微というスパイスならば、それを感じる舌は、聞き上手程肥えているのだろうか。
ただそれだけの話。つい思い出したから話したようなものだ。そう、本題なんかではない。
マエリベリーは鍋の前でおたまを振った。まるで魔法の杖のように。
「じっくりことこと煮込んだ蓮子」
「なんで私を煮込むのよ」
「じっくりことこと煮込んだ私だったら、カニバリさんじゃない」
「私は人間じゃないってことね、よくわかったわ」
蓮子は青筋を浮かべ、マエリベリーの頬を捻る。
「い、いひゃいわよ」
「メリーが悪い。それで、晩ご飯はなに?」
「うう、もうお嫁に行けない……。カレーとクリームシチューよ」
目を擦りながらマエリベリーが言う。
「いや、頬つねったぐらいで行けないとか。それに、なんで二種類も」
「違うわよ。カレーのルーとシチューのルーを合わせるの」
「うわ。絶対おいしくないわよ、それ」
「甘くておいしいわよ?それに、材料は似たようなものだし」
人参、玉葱、じゃがいも、ティキン。ほらね。
一つ一つ掲げながら示す。
「なんで鶏肉だけ英語なのよ……」
「昔のゲームやってたら、なんかね。アイテム取ったら、ティキンって聞こえるの」
「で、それを私に食べさせると」
「そう。手によりをかけるから任せない」
信じられないとばかりに頭を手をかける。
「信じられない?」
「それなりに。メリーの作るのはおいしいけど、こればっかりは」
「そう」
ことことと、鍋の中の蒸気が蓋を押し上げ、音を鳴らす。
「これも、私と蓮子。まったく違う二人が、一緒になにかを作るの」
「メリー」
「だから、蓮子。私は、あなたにこれを食べて欲しい」
「メリー……、嫌よ」
「そう言うと思ったわ、蓮子」
ことことと鍋が鳴る。ことことと、ことことと。
「じゃあ、蓮子は晩ご飯抜きね。これしか作ってないし」
「そ、それも困る」
「困りなさい、困りなさい。そしてクリームカレーシチューライスを食べるのよ」
「美味しくなったら怒るから」
「はいはい。わかったから待ってて。あと少しだから」
匂いを嗅げば、つんとスパイスの匂い。ぐぎゅると蓮子の腹がなり、
「……早くね」
顔を真っ赤にして、鍋の前から立ち去った。
「ふんふんふふふんふん」
こと、こと。
「……くす」
マエリベリーは笑う。
「おいしくなぁれ」
愛情も、また、スパイス。ならば、この料理は、とても美味しくなるだろう。
時には、辛さも、甘さもが合わさってしまうことがある。それは砂糖入りのコーヒーのように。
いくつもの日常、料理、愛情は、合わさって鍋の中で蕩けて、また新しい日常を作る。それは本題も同じようなものだ。
それで、本題は……、あれ?
ここに置いといたカレー、どこに行ったんだろ……。
あと秘封倶楽部サイコー
・・・くっ・・・禁断症状が・・・・もっともっと!
そして相変わらずの秘封倶楽部
こいつらはもう結婚しちゃえばいいのにw
しかし、このシリーズで本題はいつ見つかるんだろうかw
>「美味しくなったら怒るから」
脱字なのかマジなのか判断に困ります、先生!
ワイフを悲しませてはいかんぞ!!
肉じゃがだったんだよ!!!!!
ΩΩ.Ω<な,(ry