地面の冷たきこと冷たきこと。
頬をつけて味わうまで、勘七はそれを知らなかった。大気は夏の到来を予見させるが、大地はまだまだ春の気分。浮かれ陽気が抜けないらしく、火照った身体にはありがたい。これがたらふく食った後の余興であれば、尚のこと良かったものを。
勘七は好きこのんで倒れているわけではなかった。腹の虫が我慢しきれず、宿主に対しての抗議活動を続けているのだ。現代では意欲溢れる若者が減ったと聞いていたが、なかなか血気盛んな虫共である。勘七としても、ここらで手打ちといきたいところだったが、生憎と手持ちの食料は底をついた。
地面に寝そべって半日。そのうち誰かが通るだろうと思っていたが、未だに人っ子一人通りやしない。本当にこの道は使われているのかと、疑ってしまう程である。ロクな下調べもしなかった事を、今更ながらに後悔した。
ああ、このまま自分は果てるのか。まだ女の尻も満足に触っていないし、美味い酒も飲み足りない。食料と反比例するように、積み重なる未練。薄暗い森のこと。通行人を期待すること自体が間違っていたのだ。
次第に心を絶望が埋め尽くしていく。助かる見込みは皆無に等しい。
勘七はやがて目蓋を開けている事も辛くなり、重力に導かれるまま、ゆっくりと目を閉じていった。いよいよ耳もおかしくなってしまったらしい。子供の鼻歌が聞こえてくるではないか。
こんな物騒で誰も寄りつかない森。子供なんて、通るわけがないのに。
そして勘七は意識を失いかけ、
「ぐえっ!」
「あうっ!」
何者かに踏みつけられて意識を取り戻したのだった。
幼い頃、友達が持っていた本を何冊か貸してもらことがある。大層人気の本らしくて、モノの試しにと勘七も読んでみることにしたのだ。やたらと甘ったるいくせに主人公が軟弱な話は勘七には合わず、なんでこんな腑抜け野郎がモテるんだと友人に尋ねたことがあった。
不意にそんな事を思い出したのは、あの本と似たような状況に陥った為。僅かに記憶が混乱したらしく、懐かしい記憶が蘇ってきたのかもしれない。
主人公と少女は曲がり角でぶつかり、そこから恋が始まるのだ。だが、敢えて本と現実を見比べるなら大雑把に違うところが二つ。一つは勘七が軟弱でなく、腕っ節のたつ男だということ。もう一つはぶつかったわけでなく、踏まれているということだ。
それも少女なんかではない。何か得体の知れない闇が勘七の腹を踏みつけていた。闇のくせに小癪にも体重があり、鍛え抜かれた腹筋を抉ってくる。
「おお?」
不思議そうな声と共に、闇は思い切り足を捻った。あげた悲鳴は、もはや声にもならない。降りろ降りろと叫んだつもりでも、口から漏れ出すのは声なき悲鳴。以心伝心の仲じゃあるまいし、それで伝わるわけがない。
足を泳ぐようにばたつかせ、押しのけようと闇に手を伸ばす。そこはそれ、質力を持たぬ闇のこと。当然のごとく勘七の手はすり抜けたのだが、代わりに掴んだのは懐かしき人肌の感触だった。何故と考える余裕もなく、その人肌を突き飛ばす。
「うわっ!」
闇は仰天した声をあげ、勘七から離れていく。麻の服には皺が残り、服の下では痛みがまだ燻っていた。さすがに鍛えた勘七だけあって、それしきの痛みで泣くような真似はしない。しばらく腹を押さえていれば、やがて喋れるぐらいには回復した。
そうして気付いたのだ。いかにも視界の悪い森の中と言えども、木々の隙間から木漏れ日が顔を覗かせている。そうそうに闇などありはしないのに、どういうわけか勘七の目の前には完全な闇がふわふわと浮いていた。何の知識も無かったならば、自分の目を疑っているところだ。
感謝すべきは幻想郷縁起。目を通した者ならば、この不思議な闇が何なのか簡単に分かる。
宵闇の妖怪、ルーミア。
予期せぬ出会いに、思わず勘七は口の端を歪めた。わざわざ辺鄙な森まで来たのは、全て彼女に会う為だったのだから。出会いの形は不意打ちなれど、結果が良ければ文句は言わない。会うべくして会ったのだから、後は目的を果たして帰るだけだ。
「誰かいるの?」
濃黒の闇が自分の目も眩ませているというのは、どうやら正鵠を射ていたらしい。あれだけ強烈に踏みつけておきながら、わざわざ質問しているのだから。これで本当は見えているのだとしたら、単に性格が歪んでいるだけのこと。勘七としては、そちらの方が有り難かったが。
ルーミアに返す答えは無い。こちらに気付いていないのならば、それは好都合というもの。不意打ちには不意打ちの法則を用い、このまま捕獲してしまうのが一番だ。勘七は両の拳を握りしめ、呼吸の回数を減らした。
「んー? いないの?」
子供のように無邪気で、邪心の籠もらない声色。絵にもあったが、相手は妖怪と言えども幼子の姿をしている。仮に闇がない状態で出会ったとしたら、勘七の良心がさぞや熱心な抵抗運動を繰り広げただろう。いくら仕事とはいえ、子供を捕獲するというのは楽しいものではない。
もっとも、大人の姿をしていても楽しめるわけでもないが。いずれにせよ仕事なのだから仕方がない。
覚悟を決め、勘七は音を鳴らさないように一歩目を踏み出した。
途端に、視界が歪む。よもや妖術か何かで誑かされたかと危惧してみたが、何のことはない。勘七は行き倒れていたのだ。いくら目の前に目標があるからといって、それで腹が満たされるわけではなかった。
腹の虫を鳴らしながら、勘七は再び倒れる。大きな音を響かせたおかげで、さすがのルーミアも気付いてしまったようだ。
「やっぱり誰かいたんだね。誰?」
声がこちらに近づいてくる。噂では人を喰らうらしいが、果たして筋肉だらけの勘七を食べて美味しいものかどうか。亡霊になって出会う機会があるのなら、是非とも尋ねたいところである。
勘七は目を閉じ、やがて意識を失った。
奇妙な事に、倒れた人間には姿がなかった。正確には姿が見えないわけだが、それならば無いのと同じこと。音はしたので誰かいるのは確実なのだが、姿が見えないのではどうしようもない。
「んんん? ああ、暗闇出しっぱなしだった」
ルーミアがやってしまううっかりミス、その栄えある第一位は暗闇を出したままで忘れてしまうことである。眼鏡を頭に差したままで眼鏡を探すご老人のように、気が付けば暗闇を引っ込めたつもりになってしまうのだ。だからなのか、その為なのか、ルーミアにはあまり時間の感覚というものがない。
今が夜なのか、それとも昼なのか。昼だとしても暗闇で真っ暗なのだから、きっと夜なのだろう。そうに違いない。などという勘違いを繰り返していては、原子時計だって時刻を忘れる。
「おお、人間だぁ!」
暗闇を引っ込めて、初めて気付いた人間の姿。ただの道なら多少の匂いで分かるものを、この森は木々の匂いが強烈すぎる。よほど強い体臭でもしていない限り、ルーミアの鼻に気付いて貰えることはない。
とすると、先程踏みつけたのもこの男なのか。飛ぶのに疲れたから一休みしようと降りてみれば、何やら奇妙な大地の感触。ぬかるんでいるのかとも思ったが、踏みしめた感じだとそういうわけでもないらしい。現に何かがルーミアの足を掴んで、思い切り放り投げてくれた。
これは人間の仕業だろうと思っていたが、暗闇が邪魔して見つける事が出来なかったのだ。今となっては視界良好、倒れた男の表情までよく見える。実に苦しそうだが、ひょっとして踏みつけたせいか。
しかし、それを腹の虫が否定してくれる。一瞬、自分のものかとお腹を押さえたが発生源はもっと地面に近い。本当に虫が鳴いていることを除けば、男の虫の仕業に違いない。どうやら男は空腹で倒れてしまったようだ。
可哀想に思うけど、思うけど。それよりも先立つのは食欲。随分と昔から人間の肉にありつけていない。一応は木の実や獣の肉を代用品にしているけれど、やはり一番好きなのは人間のお肉だ。いつのまにか涎を垂らしてしまうほど、ルーミアの舌に合っている。
男は服を着ていてもわかるほど筋肉質で、見るからに固そうだ。棍棒のような腕など、とても食べる気にはなれない。それでも所詮は人間。鍛えられない箇所など、山のようにある。要はそこだけ食べればいいのだ。
在りし日のルーミアなら、ここから先は愉快で楽しげなお食事風景に早変わりしただろう。しかし此処は無秩序のようで確固たるルールがある幻想郷。無闇矢鱈に人を食す事は巫女が許しはしない。
「うーん、せっかくのお肉を見捨てるのは嫌だし。でも、霊夢怖いからなあ。退治されるのはもっといやー」
美味げな食材を足下に、うんうんとルーミアの葛藤が始まる。これが死人だったら話は幾分か早い。死人を食べることは禁じていないし、そもそもルーミアが食べようとしない。死んだばかりというなら話は別だが、死体は固すぎて味も落ちる。とても食べられたものではない。
死んでいるなら、いっそ見捨てられるものを。変に息があるものだから、あまりしたくない懊悩を抱え込んでしまうのだ。
「そういえば死ぬ価値のない人間は食べても良いって聞いたことがあるような……。でも、この人間の価値なんてわかんないし。食べてもいいのかな? いいよね、うん良い。よし、食べよう!」
悶々とした葛藤の果てに、ルーミアは食事という答えを導き出した。そうと決まれば膳は急げだとばかりに、男の服に手をかける。服ごと食べるなど、そんな馬鹿らしい真似はしない。
服を剥がそうとしたところで、ルーミアは手を止めた。筋肉質は筋肉質なのだが、あまりにも細すぎる。本来ならば、もっと腹だって膨れていていいはずだ。どうやら空腹が男から栄養を奪ってしまったらしい。
よくよく考えれば行き倒れた男。野菜に例えるなら枯れた状態。しなびたレタスなど、食べて美味しいものではない。
急に、食欲が失せた。せっかくの食材も、飢えているのなら食べる気がしない。せめて食事ぐらいはしっかり取ってから、ここで行き倒れて欲しかった。などと思ってたところで、はたとルーミアは気付いたのだ。
「そうだ! 何か食べさせれば回復するかも!」
飢えて不味そうなのだから、肥やして美味しそうにすればいい。今までは野に生えた木の実をとっていた原人が、農耕を覚えたような画期的なアイデアだ。例え大きな問題を孕んでいたとしても、ルーミアの目にはその神がかった閃きしか見えていない。
服を剥ぐのではなく掴み、闇を出すことなく、ねぐらへと戻る。あそこだったら、いざという時の蓄えが充分に用意されている。それを分け与えるのは惜しいけれど、将来を見据えれば安いものだ。
なかなかに重い男を抱え、おぼつかない飛び方でねぐらへと戻ったのは、一時間ほど経ってのことだった。顔からは汗が漏れ出すように垂れ、帰ると同時に水瓶へ顔を突っ込んだ。こうすれば顔を洗いながら水が飲めて、一石二鳥である。
「ぷはーっ」
顔をあげて、ついでに男の顔にもかけてやった。口を閉じたままでは、満足に食事を運ぶこともできないのだ。男はくぐもった声をあげて、僅かに口を開いた。魚をまるごと放り込むには不十分な大きさだけれど、割ったクルミを与えることならできる。
石で割ったクルミを放り込み、鹿の肉を放り込もうとしたところで止める。確か人間は鹿の肉を生では食べない。仕方なくルーミアは火を熾して肉を焼き、こんがり香ばしく焼けあがったところで男の口に投げ入れた。気絶しているので、咀嚼もルーミアが手伝う。顎と頭を押さえ、くるみ割り人形のように動かした。
面倒なことはあまり好きじゃないけれど、これも全ては食事の為。いずれ人肉が食べられると思えば、多少の面倒にも目を瞑ることができる。ルーミアはそう信じ、男が目を覚ますまで甲斐甲斐しい程の看護を続けたのである。
商家の主というのは、陰険で腹黒で根性の曲がった奴でないと勤まらないのか。自分の雇い主を見ていると、つくづくそう思える。
勘七は妖怪退治を生業としていた。このご時世、巫女だけでは手の回らない異変が山のようにあるのだ。それを無力なただの一般市民が解決することなど出来ない。そこで勘七のような腕っ節に自信のある人間が、悪さをする妖怪を退治して回っているのだ。
その中でも、勘七はちょっとした有名人だ。無論、博麗の巫女のように凄い力があるわけではない。空も飛べないし、お札も使えない。腕力が強いだけの、ただの人間。しかし人間だって、腕力を極めればなかなか妖怪とも渡り合えるものである。勘七は力だけで、数々の妖怪を葬り去ってきた。
だから当然のごとく、菊一という男に呼ばれたのも妖怪退治の頼まれ事だと思ったのだ。
「この妖怪を捕獲しろ」
雇われ人に使う敬語はないとばかりに横柄な態度で、差し出されたのは一匹の妖怪の絵。幻想郷縁起から切り抜かれたらしき妖怪の横には、ルーミアという名前が大きく載っていた。
「妖怪関連のことなら頼まれれば引き受けますが、捕獲ですかい? そいつは、ちょいと難しい依頼ですね。それで、どの程度まで傷つけていいんですか?」
菊一は傲慢そうに鼻を鳴らし、顔に埋もれそうな唇を開く。
「傷など許さんぞ! もしも傷があったら、お前にはびた一文とて払いはせん!」
「無傷で捕獲ですか。いやはや、厳しいことをおっしゃる。しかし、何でまた妖怪なんぞの捕獲をしようと思ったんですかい?」
でっぷりと肥えた腹を叩き、菊一は顔を歪める。普段なら事情など聞きはしないが、今回は条件が条件だ。これぐらいは尋ねても良いだろう。
「儂には十五になる息子がおった。ゆくゆくはこの店も任そうと思っておったぐらいの、よく出来た息子がな。しかしな、その息子はつい先日、妖怪に喰われしまったんだ! そこの、ルーミアとかいう妖怪に!」
幻想郷縁起の項目には、人を喰らうとは書いていない。しかし、そこは妖怪。ある程度の実力者でもなければ、暴走して掟や理を破るものだって現れてくる。勘七が受けた依頼の殆ども、親族や友人、あるいは恋人を妖怪に殺された者ばかりだ。だから、これもさして珍しい話ではないのだが。
「お話はごもっともですが、どうしてそいつが捕獲になるんですかい? あっしなら殺してやりたいと思うんですが」
そんなことも分からないのかと、馬鹿を見るような目で見下される。雇い主でなければ、今頃殴り飛ばしていた。
「殺して首を持って返ったところで、儂の気は晴れたりせん。せめてこの手でその妖怪を殺さねば、怒りは治まんだろう」
「ああ、なるほど」
依頼人の中には、直接妖怪を殺してやりたいと嘆く人も少なくない。それが出来ないこその勘七だったが、捕獲という手段は考えたことがなかった。大妖怪ならいざ知らず、ただの妖怪程度なら商家の主にだって手を下すことはできるだろう。それを残酷とは言うまい。殺してどうなるものでもないが、殺さねば気が済まぬ者もいるのだ。
所詮は雇われ者だと馬鹿にした態度は気にならなかったが、勘七はこの依頼を受けることに決めた。そしてルーミアの住処を突き止め、薄暗い森の中へと踏み入ったわけだが。
「あん?」
目を覚ませば真っ暗な洞窟。行き倒れたはずなのに、これは一体どういうことだ。勘七は身を起こし、口の中の違和感に気付いた。もごもごと動かし、取り出してみる。何やら得体のしれない肉片が入っていた。寝ているうちにコウモリでも食ってしまったか。考えにくいが、空腹状態が飛んで消えてしまってることを思うと笑うに笑えない。
もっともそれで命が助かったとすれば御の字に尽きる。死ぬよりはマシだ。それにコウモリだって、ちゃんと調理すれば美味しいはず。食べられないなら、そもそも勘七はこうして起きあがったり出来ない。
手の感覚を確かめるように握っては開き、固くなっていた肩を回して筋肉を解す。最初は暗くて何も見えなかった洞窟の中も、やがて目が慣れてきたのか、少しずつだが見えるようになってきた。
暗闇も慣れれば怖くない。などと思い、頭の中で何かが鐘を鳴らす。思い出せと思い出せとあまりに五月蠅いので、勘七の脳みそは仕舞い込んだ記憶を奥から引っ張り出してきた。
「ああっ!」
そして全てを思い出す。ルーミアを見つけ、空腹で倒れてしまったことまで。
勘七は顔を押さえ、うずくまった。なんと恥ずかしいことだろう。妖怪退治を生業だと豪語しているくせに、目標を前にして腹ぺこで倒れてしまうなど。同業者が聞けば失笑をかい、雇い主が知れば噂は瞬く間に里中に広がるだろう。明日から退治の依頼が来なくなっても、全くもって不思議ではない。
誰にも見られなかったのが幸いだ。それにしても、てっきりあの妖怪は自分を喰らうものだと思っていたのに。勘七は手や足を覗き込んでみるも、どこか齧られたような後もない。食べられて死ぬのも嫌だが、何もされていないというのも不気味だ。
「おおっ、起きたのか?」
暢気そうな声が壁に反射し、洞窟の中を木霊する。本能的に勘七は立ち上がり、即座に声の主を羽交い締めにする。腕はしっかりと首にまわし、何か不埒な動きを見せようものなら躊躇わず折るつもりだった。
「元気になったね、人間」
腕の中で囁く声。闇の中でも眩しい金髪が、勘七の鼻先をくすぐる。よもや、でもひょっとして。
勘七は腕を離し、その妖怪を真っ向から捉える。予想した通り、そこにいたのはルーミアに他ならなかった。
「いやはや、こいつはどういう事で。俺は森の中で倒れてたはずなのに、いつのまにか妖怪と洞窟の中にいるたぁ、奇妙な話があったもんだ」
「奇妙じゃないよ、私が運んだんだもん」
「たは……そいつは益々奇妙だよ」
巫山戯た口調は緊張を解そうとする癖で、実際は対峙しながら警戒の籠もった目で睨み付けている。正体を確かめる為とはいえ、離れてしまったのは失策だったか。
「てっきり俺は喰われて死んじまうもんとばかり思ってたのに、どういう気まぐれだい?」
「んー、教えてあげようか。あのね、痩けてて美味しくなさそうだったから、太らせて食べるつもりだったのだー」
さも名案だとばかりに発表してくれたのは良いが、どうにも穴だらけで指摘するのも躊躇われる。無論、勘七はこのまま太るだけ太って妖怪の肥やしになるつもりはない。とっととルーミアを捕まえて、里へと戻るのが勘七の依頼。
どうだと胸を張るルーミアを、今ならあっさりと捕まえることができるだろう。先程の動きを見てわかるとおり、瞬発力なら勘七の方が上だ。捕まえようと思ったら、ルーミアが抵抗するより早く、首に再び腕が巻き付くことだろう。
だが、しかし。
「あー、満足げにしてるところ悪いんだがね、飢えてる奴に餌をやったら元気になって逃げるとは思わないかい?」
「あ」
初めて気が付いたと、言わんばかりにルーミアは言葉に詰まる。猪突猛進というか、一度目標を決めてしまったら欠点も目に入らずに突っ込んでしまう子らしい。勘七は頭を掻いて、背中を向けた。
「それじゃあ、俺は逃げさせて貰いやす。本当はあんたを退治というか捕獲する為に来たんですけど、その気も失せました」
「私を退治しに来たのか?」
「ええ、つい先程までね。しかしながら、これでも一応は義理や人情に厚い身でして。理由はどうあれ、行き倒れていた所を助けて貰ったんだから、何かしらお礼をしなけりゃ気が済まんのですよ。生憎と持ち合わせもないし、ここで見逃すことを御代とさせてもらいやすわ」
「私ね、どうせならお肉が食べたい。人間のお肉」
「あー、どうにも聞いちゃいませんね、この子ときたら」
さすがに兎じゃあるまいし、自分の身体を炎にくべるつもりもない。勘七は苦笑いを残し、逆に捕まらないよう気を付けながら洞窟を出て行く。
「次に会ったら、容赦なく捕まえさせて貰いやすよ。それが嫌なら、もう人間は食べないことです」
勘七が任務を失敗からといって、あの商家が諦めるとは思えない。大方、また別の人間でも雇ってルーミアを捕獲させようとするのだろう。それを助けるほど肩入れするわけではない。いずれにせよルーミアは人を喰った妖怪。商家に捕まらずとも、いずれは誰かに退治されてしまうだろう。
それが早いか、遅いかの違いがあるだけで。悪さをした妖怪は人間に退治されるのが世の理なのだ。
「さて」
勘七は足を止め、空を仰ぎ見た。相変わらず、鬱蒼と茂った林が視界を邪魔している。
「どっちに向かったもんですかね」
腹は膨れど、迷ったままで。
出るに出られず、勘七は途方に暮れた。
森からの脱出は奇跡が助けてくれたけれど、菊一の叱責には差し伸べる手が無かったようだ。予想していた事とはいえ、怒鳴られて嬉しい性癖の持ち主でもなく、文句の言葉を右から左に垂れ流し、菊一の口から解雇の言葉が出るのを今や遅しと待ちわびていた。
「高い金を払っておきながら、妖怪の一匹もロクに捕まえることができんのか! 噂に聞いていた勘七という名前も、ただの虚仮威しか? 腕力ばかり振るっているから、脳みそが無くなったんじゃああるまいな?」
馬鹿にするように頭を叩かれた時はさすがに怒りを覚えたが、失敗したのは自分の責任。ここで菊一にやり返すようでは、明日からの職に困るというもの。個人的な頼みであったなら、五月蠅いと殴り返しているところだ。
「これだから学のない馬鹿は嫌いなのだ! 力だけで何でも解決しようとする! どうやらお前も、そんな愚かしい人間の一人だったようだ。まったく、それでよくも儂の前に戻ることが出来たな。儂なら恥ずかしくて自害しておった」
見え透いた嘘は放っておくとして、明日からが問題だ。この調子だと菊一は有ること無いことを言いふらすだろう。それで仕事が来るのかどうか、それが最大の問題だ。菊一の言葉を疑うものがあったとしても、任務に失敗したのは間違いないわけで。たかが一回の失敗と侮っていては、この稼業を続けることは難しい。
とりあえずしばらくは護衛やら何やらで稼ぐとして。勘七がそんな事を思っていると、やおら菊一が口を閉じた。無視していたのがばれたのか。
しかし菊一は呼吸を荒くするばかりで、どうやら怒るのに疲れたらしい。体力がないと叱責するのも一苦労だと知っていたが、まさか途中でばてるとは。どうやらその贅肉は飾りでしかないらしい。当たり前だが。
「まぁ、よいわ」
息を整えながら、菊一はそう言った。予期せぬ言葉に、顔が思わずしかめっ面になる。
「なんだ、その顔は」
「いえ、てっきり解雇されるもんだとばかり思ってましたんで」
忌々しげに腹を叩きながら、鼻をならす菊一。
「よっぽどそうしてやろうかと思ったわ。だが、今更雇い直すのも面倒くさい。退治屋というのも、それほど数はおらんしな」
元々、妖怪に立ち向かおうという人間が酔狂なのだ。そんな輩、多いはずがない。勘七を含めたとて、片手で数え終わるだろう。そのくせ、妖怪による被害は後は絶たないのだから改めて雇うのに難色を示すのも分かる。
しかし、出来ることなら解雇して貰った方が良かった。またあの森に行くのかと思うと気が重い。一度見逃した妖怪を、再び捕まえにいくというのは何とも複雑な心境だ。
「だが次はないぞ。いいな、今度こそあの妖怪を捕まえて儂の前に引きずりだせ」
「……了解」
どんなに傲慢だろうと、あくどかろうと依頼主は依頼主。一端引き受けたからには、余程の事がないかぎり依頼をまっとうするのが勤め。勘七は渋々了承し、再びルーミアのいるあの森へと足を運んだ。
今回は目印用の縄を木にくくりつけ、帰り道がわかるようにするつもりだ。非常食も用意してあるし、前回のような失態は起こらないと思いたい。
「しかしどうにも、やっぱりねぇ……」
逃した兎を捕まえ直すというのは、思ったより辛い。
森の中を行く勘七だったが、心のどこかではこのままルーミアが見つからないよう祈っていたのかもしれない。その願いは聞き入れて貰えなかったわけだが。
「おおー、こないだの人間。また迷ったの?」
何日もかけて出会った前回。そして一時間もかけずに出会った今回。
望めば見つからず、望まなければ見つかる。運命というのは、随分と捻くれものらしい。
「迷ったわけじゃありやせん。今日はちょいと、お嬢さんに用がありまして」
「私に?」
「ええ、まぁ」
濁った答えを返しつつ、勘七は即座にルーミアの背後に回りこむ。あっさりと後ろをとられたルーミアはさしたる抵抗もしない。首に腕を巻き付け、ルーミアの両腕も封じる。拍子抜けするほど簡単に捕獲することができた。ここまで抵抗がないと、むしろ何かの罠かと疑いたくなる。
「なにやってるの?」
ここまでされて、何も糞もないのだが。ルーミアには理解できていないようだ。馬鹿というよりは、純心すぎると言った方が良いのかもしれない。
「一度見逃しておいて言うのも何ですが、あんたを恨んでる方がおられてね。その方があんたを捕まえてくれと言われたんだ。悪いね、これからあんたをそいつの所へ連れて行く」
「ふーん」
自分のことなのか興味がないのか、ルーミアの言葉は素っ気ない。これからどういう目に遭うのか、想像できないわけでもないだろうに。なんだ、この余裕は。
「でもさ、何で私が恨まれてるの? そんな事、した覚えがないんだけど」
「……人間を喰ったでしょう。それで喰われた親御さんが、大層お怒りなんですよ」
ルーミアは頬を膨らませて言った。
「食べたことはあるけどさ、それってすっごく昔の話だよ。もう殆ど味も忘れそうなぐらい昔。最近は全然食べてないのに、何で恨まれるかなあ」
菊一の話と齟齬が生じる。菊一はつい先日、息子が喰われたと言っていた。妖怪にとっての昔が、つい先日と同じ意味であるとは考えにくい。菊一が嘘を言ったのか、あるいはルーミアが助かりたい一心で嘘をついているか。
退治する者としては菊一の言葉を信じたいけれど、ルーミアの純心さにも信じるにたる要素があるのは事実。
「まぁ、いずれにせよ、ちょいとばかりご足労願いましょうか」
どちらが嘘を言っているにせよ、勘七のやるべき事は一つだ。
腕に力を籠め、ルーミアの意識を刈り取った。
菊一の家へ立ち寄る前に、色々と調べた事が馬鹿らしくなるぐらいの反応だった。ルーミアを見るや否や、菊一は駆け出し、珍獣でも眺めるかのようにしげしげとルーミアを四方から観察する。
時折、おお、などという感嘆の声もあがった。さて、これが息子の仇を見る目か否か。判断するのも煩わしい。
「よくやった! さすがは噂に名高い勘七だ。うむ、報酬は後で渡そう」
「そいつは大変ありがたいんですが、ちょいと訊きたいことが一つほどありやしてね。それで、是非とも旦那様にはお答え願おうかと思ってる次第なんですが」
「質問だと? おお、良いだろう。答えられるものであれば、何でも答えてやろう」
何故か上機嫌の菊一は、頬を緩ませながらそう答えた。まるで欲しかった玩具を手に入れた子供だ。
「いやね、簡単な話です。何でも、旦那様には奥方がいてもご子息はいらっしゃらなかったとか」
面白いぐらいピタリと、菊一は動きを止めた。
「その奥方様とも一年半前に別れられたようですが、結局ご子息には恵まれなかったようですね。いやはや、心中お察し致します」
弛みきった頬を振るわせながら、それでも菊一は何も言わない。
「しかしそうなると、妙なのは旦那様のお話。ご子息を妖怪に喰い殺されたというのに、肝心のご子息がいらっしゃらないとは、一体どういう事なんでしょうかね。ああ、そういえば旦那様。最近、妙な趣味に凝ってらっしゃると聞きましたけど?」
趣味の二文字で、菊一の身体が分かりやすいぐらいに震える。ここまで反応してくれると、質問する側にも張り合いが出てくるというものだ。
「何でも、妖怪の剥製を飾るのが趣味だとか。いやぁ、随分と愉快な趣味をお持ちですね。本当、反吐が出るほど素晴らしい趣味だ」
勘七とて、好きこのんで妖怪を退治しているわけではない。あちらにも色々な事情があると知ったうえで、こちらの事情を優先させる為に退治しているだけのこと。中にはルーミアのように人殺しが駄目だと分かってくれる妖怪もいる。だが、そんな奴ばかりではないのが世の常。
自分が正しいとは思わないけれど、罪深い存在だとは認識している。それなのに、目の前の男は。
「家族を殺され、恨みがあるというから依頼を引き受けさせて貰いやした。まぁ、ロクな調査もしなかった私にも落ち度はありますがね」
踏み込み、そして菊一に近づく。右手は彼の首を締めていた。
「ですが、事実を知った以上は依頼も破棄させて貰いやす。人形作りの手伝いを、頼まれた覚えはないんでね」
顔を真っ赤に染めた菊一に、果たしてその言葉は届いただろうか。どっちにせよ、もうこんな所に用はない。
菊一を離し、ルーミアを抱き上げる。本当の被害者がいたとしたら、それは間違いなくこの妖怪なのだろう。いきなり現れた男に捕獲され、あやうく剥製にされるところだったのだから。
「んっと、そういや一つ聞き忘れた事があったなあ」
思い出した頃には、菊一は気絶してしまっている。起こして訊くわけにもいかず、仕方なく勘七は店を出て行った。
どうしてルーミアを狙ったのか、その答えを知ることもなく。
だが、尋ねたところで拍子抜けするのが精々だろう。何のことはない。菊一はただ、たまたま見かけたルーミアの美しさに惚れ込んだだけの話。
それを聞いた勘七は怒るか、それとも美しいという部分に納得してしまうのか。
分かることは一生なかった。
ルーミアが目を覚ますや否や、勘七は思い切り頭をさげた。さげすぎて、額が地面につくぐらいに。
「申し訳ない!」
ただ、当のルーミアは何故謝っているのか理解できていない様子で。とりあえず後頭部をぺしぺしと叩いてみた後、不思議そうな声色で言った。
「何を謝ってるの?」
「ロクな調査もせずに、おめおめとあんたを危険な目に遭わせてしまったことを謝ってるんだ」
「うーん? 別に謝って貰うような事じゃないと思うけど」
「男、勘七。この不始末の代償は、命……は死ぬのが嫌だから駄目だとしても、腕の一本ぐらいならあげる覚悟だ!」
「腕……」
さすがは人を喰らう妖怪。妙な所で反応してきた。
勿論、腕を食べさせてくれと言うなら食べさせるつもりだ。痛いし、不便だろうけど、それぐらいの代償は必要なのである。
「腕はいいや。なんか固くて、美味しくなさそう」
「そ、そうかい……」
断られたものの、内心では安堵していた。覚悟はしているものの、怖いものは怖い。
「だったら、何か一つぐらい願いを言ってくれ。叶えられる範囲のものなら、全力をもって叶えてやる」
ルーミアはしばし考え込み、やがて意地悪そうな笑みを浮かべて言った。
「だったら、人間よりも美味しい食べ物を私に食べさせて」
「う……む」
難しい話である。そもそも、勘七は人間を食べたことがない。だから、それよりも美味しいと言われてもピンとこないのだ。確か鶏肉に似たような味がすると、どこぞの妖怪は言っていた。
それに、勘七は美食家というわけでもない。腹が満たされれば、味など関係ない部類の人間。美味しいものを紹介しろと言われるだけで、頭を抱える。
勘七は記憶を辿る。乏しい食の記憶の中で、何か究極の一品はないかと探しているのだ。
だが、どれもこれも人間より美味しいのかと聞かれれば返答に困る。人間の舌を唸らせる食べ物が世にはごまんとあるのに、まだ人を喰らう妖怪がいるのだ。食べる気はないけれど、彼女らにとっては余程美味しいご馳走なのだろう。人間というのは。
それよりも美味しいとなれば、さてどうしたものか。
考えに考えて、疲れ切ってしまった勘七。動いてもいないのに、額からは汗が川のように流れ落ちる。
そこで、はたと閃いた。
「ああ、一つありやした」
「本当?」
答えなど期待していなかったのだろう。ルーミアは驚きと猜疑に満ちた声で尋ねる。
勘七は力強く頷いた。
「勿論。つきましては、明日、もう一度森の入り口に来て貰えますかい?」
「美味しいものが食べられるなら、喜んで」
翌日、勘七がルーミアに差し出したものは何の変哲もないクワだった。桑の実ではない、鉄製のクワだ。
しげしげと農機具を見つめ、勘七に視線を戻す。
「これを食べるの?」
食べられてはたまらない。これはあくまで道具なのだ。
「いえいえ、それで畑を耕すんですよ」
「食べ物は?」
「まぁ、それはおいおいということで」
「……なんか、騙されてる気がする」
騙しているつもりはない。ちゃんと食べ物も用意してあるが、それの出番はまだ先というだけのこと。そもそも、時刻は朝を過ぎたあたり。朝食には遅いし、昼食には早い。
「それじゃあ、やりましょうかい」
「何を?」
「クワを持って、畑に向かう。そう聞けば、大体の察しはつくでしょう」
言ってから気付いたが、相手は妖怪なのだ。察しのつかない可能性がある。
しかし、それは杞憂に終わった。不思議そうな顔で、ルーミアは頷いてくれたのだ。だとしたら、話は早い。二人は里はずれの寂れた畑へと足を運んだ。
「とりあえず、こいつを耕しちまいましょう。さぁ、クワ持って」
「うん」
一応、勘七には農業の経験があった。退治の仕事がない時は、よく臨時の助っ人として畑にかり出されたものである。クワを振る手つきも慣れたものだ。
一方のルーミアは散々で、クワをあげればそちらに引っ張られ、降ろした時にはまったく畑から外れたところに刺さっている始末。硬軟織り交ぜた畑の土にも慣れないようで、よく足をとられてはこけていた。
結果から言えば、ルーミアはあまり役には立たなかった。だが、そもそも勘七の目的はルーミアに農業を体験させることではない。あくまでこれは、前菜に過ぎないのだ。
太陽が天高くのぼるまで、クワを振り続けた二人。勘七はまだまだ余力を残していたが、休憩にしましょう、という言葉でルーミアはその場に座り込んだ。
「つーかーれーたー」
服が汚れるのも構わず、そのままルーミアは寝そべってしまう。良く言えば子供っぽく、悪く言っても子供っぽい。
「美味しいものが食べられるって期待してたのに、何でこんなことしなくちゃいけないのよ! もういやー! お腹減ったー!」
「そう言うと思って、用意しておいたのがコレです」
朝早くから作っておいた秘密兵器を、ようやく出す機会がやってきた。寝そべりながら駄々をこねるルーミアに、ふっくらと膨らんだタケノコの皮を手渡す。
「これ何?」
「開ければ分かりやす」
言われるがままに、タケノコの皮を開く。茶色い包みを剥いで出てきたものは、白く眩しい握り飯が三つ。太陽の光を反射しているのは、味付けの塩だろう。
「そして、これです」
用意していた湯飲みから煙る湯気。そして中に満たされた熱いお茶。
よほどお腹が減っていたのか、ルーミアは握り飯を一個まるごと口に運んだ。もしゃもしゃと咀嚼しながら、一気に飲み込む。そして、お茶を一口啜った。暑い時は冷たいものが欲しくなりがちだが、熱いものも趣があって良い。
ルーミアは湯飲みを握りしめたまま、呆けたように空を見ている。時折、思い出したように握り飯を喰らい、そしてまたお茶を啜るの繰り返し。見ているこちらは作業的に思えても、当人にはそんな意識はないのだろう。
やがて、ルーミアは全ての握り飯をたいらげた。
「どうでしたか?」
最後のお茶を啜り、ルーミアは不思議そうに答える。
「なんで、ただのおにぎりとお茶がこんなに美味しいの?」
「そりゃあ、あんたが汗して働いたからでさ。労働の後の握り飯とお茶は、何にも勝る食い物だとあっしは思ってやすからね」
空腹は最大の調味料と、どこかで聞いた覚えがある。どんなに美味しい料理だろうと、満腹で食べては意味がない。空腹の時の料理ほど、美味しく思えるものはないのだ。それも、働いた後の空腹ほど心地よい。
「働いた後のご飯だから、美味しいのかー」
「人間よりは、美味しかったでしょ」
空を見上げたまま、ルーミアは答えない。
ただ、手の中にあるのは空っぽになったタケノコの皮と湯飲み。
それが全ての答えを表しているようにも思えた。
勘七も腰も降ろし、自分の分としてとっておいた握り飯を取り出す。横から伸びてきた手が、あっさりと奪い取っていったが。
恨みがましく、隣のルーミアを見た。
「ただ、量が足りなかったかも」
無邪気な顔でそう言われると、返す言葉もなくなる。仕方なく、勘七は昼食を抜くことにした。
空腹は最大の調味料。そう思いながら、腹の虫と格闘する。
案の定、菊一は恨みを晴らすかの如く勘七の悪い噂を広めていった。もっとも、さほど信用がおかれている人物ではなかったらしく、それで減った仕事は数えるほど。さして生活に影響があるわけではない。
ただ毎日のように妖怪退治の依頼があるわけでもなく、基本的には護衛をしている日の方が多い。こちらには強大な商売敵がいるのであまり儲からないのが現状だが。特に迷いの竹林あたりに向かう者は、大概そちらに頼んでいる。
今日は運良く、妖怪の山の麓まで出かけるという者の護衛を担当することができた。かなり危険な依頼であるのは間違いないが、それだけ値が張るので断る理由はない。勿論、事前の調査は怠らなかった。
山へと向かう道すがら。退屈になったのか、依頼主の男が口を開く。
「そういえば、最近妙なことが起こってるんだと。あんた知ってるか?」
妙なことと言われても、思い当たる節は幾つかある。異変と幻想郷は切っても切り離せないものらしく、たびたび奇妙なことが起こるのだ。
「なんでもよ、畑仕事を手伝う妖怪がいるそうだよ」
「へぇ、そいつは……確かに珍しい」
脳裏に、金髪のよく似合う無邪気な少女の姿が浮かぶ。
「最初は全然役に立たなかったそうだが、最近じゃ随分と重宝されてるらしいぜ。握り飯とお茶さえあれば、人間よりも働くそうだ」
「そりゃ凄い」
人間も妖怪も、やり続ければ何でも上達するものである。
「しかし、俺には分からんね。一体全体、何で妖怪なんぞが畑仕事を手伝うようになったんだか」
男は腕を組みながら、勘七に尋ねる。
「あんた、何か分かるかい?」
勘七は笑いながら言った。
「きっと、人間よりも美味しいものを見つけたんでしょう」
男は不思議そうに首を傾げ、再び歩き出した。
この意味をわかるのは、きっと勘七とルーミアの二人だけ。そう思うと、何だか悪い気はしない。
またいつか、会いに行ってみようかな。
握り飯の入ったタケノコの皮を小脇に抱えながら、勘七はそう思うのであった。
いい話でした、ごちそうさまです。
いい話でした。
幻想郷に相応しいハッピーエンドがたまらなく好きです。
それにしても、ルーミアかわいいよルーミア♪
美味しかったですw
ほんとにどんな思考回路しとるんすか?
マジで羨ましい…
るみゃ可愛いよ
微妙に剣呑なようで実体は暢気という感じの幻想郷ですね。
こういうのは大好物です。
とぼけた味わいであっさり風味のルーミアも好みですわ♪
きっちり筋を通す勘七も好印象。
良いお話でした、ありがとうございます。
ご飯五杯以上は食えるよ。
しかも消費カロリーが多いから太らないと来た。最高だぜ
何処かのSSで見たけど最高に美味しい食べ物はルーミア自身の肉とか・・・
なんか清々しいし!
もうただただそこに惹かれてしまったぜ!!!!
まぁでもコレはコレでw
ルーミア「の」では?
素晴らしい
ごちそうさまでした。
仕事後のご飯は最高においしいですよね。
心のホッカイロ作品でした。
それも納得の一品、ゴチになりました
ルーミア可愛いよルーミア
ルーミアも可愛かったですw
こういうハッピーエンドはとても好きです。
本当に幻想郷に居そうなタイプですね。
とにかくかっけぇ
そんでもってルーミアが可愛いじゃねぇかこんちくしょうめww
ルーミアかわいいよルーミア
ルーミアもかわいいし文句なし
すげえいい
人間と妖怪の付き合い方の、新たな、素敵な可能性ですね。
後腐れ無く、清々しい気分になれた