とっぷりと夜が更け、本来なら辺りを静寂が支配するべき時間。
ここ、博麗神社の境内は、そんなことお構いなしに賑わっていた。
「萃香のいいとっこ見てみったい!」
「あ、それ、一気! 一気!」
「妖夢~。それ食べてみたいわ。ちょっと頂戴?」
「え、でも食べかけですよ……って、もう食べてるし!」
幻想郷に住まう、多くの人間、妖怪の双方が集い、久しぶりの邂逅を祝い日頃の確執を忘れて。
ストレス解消、家内安全、弱肉強食、様々な思いを交わし笑い声と笑顔が満ちあふれる場所。たまに怒号が飛び交っていたりもするがご愛敬。
そんな、宴会の場にはあまりにも似つかわしくない表情で酒を酌み交わす二人がいた。
「四季様。せっかくの宴会なんですから、いつまでもそんな顔してないでくださいよ~」
「……知りません」
四季映姫=ヤマザナドゥは怒っていた。むくれていた。拗ねていた。いろいろな表現ができるが、有り体にいえばヘソを曲げていた。
藤をあしらったおろし立てと思われる紫色の着物に身を包み、緑の髪に鼈甲の簪。唇には薄く紅を引いていた。
彼女を知らない人物に見せれば、いや、知っている者でさえ深窓のご令嬢です、と言って通用してしまうほどに。
生来持ち合わせた気品ある振る舞いからも、その主張は補強されてしまいかねない。
一方の小野塚 小町は困り顔。非番であるから仕事道具の鎌こそ持っていないものの、普段の着物に髪型も、化粧っけの無さもいつも通りだ。
加えて、彼女は映姫が不機嫌な理由が今ひとつ掴めていない。
あのときは、あんなに嬉しそうだったのに。
※
※
※
「四季様。来週の末、何かご予定ありますか?」
「なんです、藪から棒に」
映姫の執務室。仕事上がりに顔を出した小町から突然発された言葉にも、書類を処理する手は止まらない。
「いや、もしお暇なら付き合って欲しいところがありまして」
かたん。
映姫の手から判が滑り落ちる。当の映姫に、そのことに気づくだけの余裕などない。部下の突然の言葉に、すっかりパニックを起こしていた。
(小町からデートの誘い!? お、落ち着きなさいヤマザナドゥ。ここでの返答は、あなたの生死を分かつと考えなさい。そう、ここはさりげなく、上司としての威厳と風格をもって受け入れること。それが今の私にできる善行です)
「私は多忙です。責任の大半は、どこかの死神にありますが」
(ちょ、何を口走ってるんですか私は! バカバカ私のバカ! こんな時くらい仕事モードから脱却しなさい!)
「う……そうですか。それじゃあ、またの機会にということで……」
しょんぼりと肩を下げ、項垂れた様子で執務室を出て行こうとする小町。
こうなると、自業自得とはいえ映姫もなりふり構っていられない。
「ま、待ちなさい! 多忙とは言いましたが、別に時間が取れない訳ではありません。かわいい部下の頼みを無碍に断るのも不憫ですし、小町さえ良ければ、その、付き合ってあげることもやぶさかではありません」
「本当ですか!?」
「私の職を思い出しなさい。嘘をついたりはしませんよ」
その瞬間、沈んでいた小町の表情が一気に華やぐ。つられて映姫の顔にも赤みが差す。
「よかったぁ、楽しみにしてますね。当日は、あたいが迎えにいきますから!」
「ええ、わかりましてよ」
動揺のあまり、おかしな言葉使いになってしまっている映姫に気づく者は、この執務室にはいなかった。
それじゃ、失礼しますねと出て行く小町に、ごきげんようと返してしまったのも今では笑い話に過ぎない。
それからの映姫は精力的だった。
仕事をいつもの倍近いペースで仕上げ、少ない時間を使って里の仕立屋に赴き、着物を新調した。口の堅い女性の死神に頭を下げ、装飾品やら化粧品やらを選んでもらった。
ああ、それなのに。だというのに。
※
※
※
「なんで、こんなことになっているんでしょうか……」
思えば、小町が迎えに来た段階で気づくべきだったのだ。とてもエスコートなどという言葉からは、かけ離れた小町の姿を見たときに。
そして今、映姫は境内の隅でちびちびと酒を煽っている。
彼女たちの半径5mほどに人影は無い。
映姫にしてみれば、今は誰とも話したくない気分だったし、自分の職業を鑑みれば好きこのんで近づいてくる物好きも居るまい、と考えていたが実際は違う。
いつもの宴会に突然現れた美少女の存在に、誰しも興味を引かれていた。加えて、その美少女が四季映姫=ヤマザナドゥだと知れたときは、ちょっとした騒ぎになったものだ。
だが、映姫の発する暗黒と言っていいほどの不機嫌なオーラに、誰もが気押されていた。
そんな中、平然と(困惑気味ではあったが)傍らで酒を呑んでいられる猛者など、普段から不機嫌オーラを浴び慣れている小町以外にいなかっただけの事なのだ。
「四季様、機嫌直してくださいってば~」
小町が、我儘な子供をあやすような口調で懇願する。
大体にして、この『四季様』という呼び方も映姫は気に入らない。今は休みなのだ、非番なのだ、OFFなのだ。
こんな時くらい、平素の上下など気にしないで楽しめると思っていたのに。目の前の鈍い死神は、自分のことを四季様と呼ぶ。
それが、とても辛くて、悲しかった。
ぽたり、ぽたり。
手にした杯にあらたな水がこぼれ落ちる。同時に会場の一部から、どよめきが上がる。
ここで、困惑からいきなり驚愕へと追い立てられてしまったのは小町だ。
今日も、出会い頭に少しだけ失望の入り交じった表情を向けられ、宴会場に着いてからも、ふて腐れた様子で杯を重ねていく映姫に、どう対応したものか分からなかった。
そして、今度は突然泣き出されてしまった。
「四季……様?」
繰り返されていたその一言が、映姫の感情に火を付けた。
「なんですかさっきから! 人のことを四季様、四季様と! 私は四季様なんて名前ではありません。私は小町と楽しく出かけたかっただけなんです! 本当なら私だって笑っていたい。大好きな人の横で渋い顔をしながら酒に溺れていたくなんて無い!」
会場が静まりかえる。夜の静寂が一時だけ勢力を取り戻し、じわり、と境内に広がってゆく。
「すいません」
静寂を破ったのは小町の謝罪だった。それ以外の音はしない。
「謝らないでください、惨めになるじゃないですか」
映姫が俯いたまま言葉を紡ぐ。力なく、今にも倒れそうな顔色で、精一杯の言葉を吐き出す。
「すいません……本当にすいません」
小町は映姫の言葉に従わなかった。謝罪の言葉を口にしながらも、その瞳にある決意が満ちていくのがわかる。
映姫の両肩を抱き、俯いた顔を上げさせ、小町は嘘偽りない言葉を送り出す。
「いくら謝っても、謝り足りないですけど。し……映姫がやめてくれって言うならやめます。でも、聞いてください。あたいは、たまにここでの宴会に呼ばれるんですけど、その度にいつも思うんです『ああ、どうして今、あたいの隣に映姫がいないんだろう』って」
今度は映姫が驚く番だった。今、小町はなんと言った?
「貴女が愛する幻想郷はこんなにも騒がしくて、笑顔にあふれてて。それが確認できるこの場所に、どうして、あたいの大好きな人はいないんだろうって、そう思って。勝手に一線を引いちゃってたんですね、あたいは。今日だって、出てきた映姫を見て『綺麗だ』って思ったけど口には出せなくて」
とつとつと、しかしはっきりと、小町は自分の想いを伝えていく。
砂利が敷き詰められているはずの境内に、小町の発する言葉だけが響く。他の参加者達は一様に、固唾を呑んで行く末を見守るしかなかった。
「あたいのせいで、映姫に不安な思いをさせていたんだったら謝りたい。でも、今はそれよりも伝えたい言葉があります」
「映姫、私は貴女を愛しています」
ドカーン!!!!
そう表現するほかない程の歓声がわき起こる。参加者達は絶叫に近い何事かを喚きながら、手に手に持った酒を祝福の名目で二人に浴びせていく。
映姫は、酒をかけられていることも気にならなかった。小町に抱きしめられながら、爆発させた感情の後に染みこんできた小町の言葉を、心の中で繰り返す。
愛しています。確かに小町はそう言った。
素直になれなくて、叱ってばかりで、お世辞にもいい上司とは言えないであろう自分を。愛していると言ったのだ。
先ほどとは真逆の要因からあふれ出る涙を、映姫は止めることが出来なかった。
小町は、参加者達の手厚い祝福の中、腕に映姫を庇いながらも晴れ晴れとした気持ちでいた。
簡単なことだったのだ。言葉にすること、ただそれだけのことにどれだけ回り道をしたのだろう。自らの不甲斐なさを噛みしめて、飲み込んで、この人は自分が護る。と決意を新たにしていた。
祝福という名の酒の雨からは、全然護りきれていなかったが。
※
※
※
「まったく、困ったものよね」
宴会場の家主たる博麗 霊夢は、自らの寝室で眠りこける昨晩の主役二人を見やりながら、困惑の表情を隠さぬまま、そう漏らす。
それからが大変だった。祝福が一段落ついた後は、二人を肴に今まで以上の勢いで宴会は盛り上がり、参加者は次々と二人の杯に酒を注ぐ。
その隙を突いて烏天狗の質問攻めが始まり、興味深そうに聞き耳を立てる者多数。
八雲 紫が解散の音頭を取る頃には、地平線に朝日が顔を覗かせていた。
「そうね。片付けも、いつも以上に大変そうだものね」
「ぐ……この二人にも、手伝って貰うべきよね」
「おやめなさい。馬に蹴られて死にたく無ければ、ね」
「わかってるわよ」
霊夢は、紫の言葉にしぶしぶ頷く。こんなにも幸せそうに寄り添って眠る二人を、どうこうしようなどという気は、霊夢には無かった。
むしろ、羨ましいとすら思う。
「そのまま、寝かせて置いてあげなさい。あまりうるさくするのもなんですから、片付けは後にしましょう。藍に手伝わせますから」
霊夢が不憫な藍の未来に苦笑したところで、布団からなにやら声がした。
「もう、なんてベタなのかしら」
「違うわ、霊夢。あれは、ベタではなくてベタベタですのよ」
笑い合う。二人を起こさないように気を遣いながら。
「ん……こまち…………」
「えい……き……」
こうして、幻想郷の多くの住人に見守られながら、不器用な二人は結ばれたのであった。
~~おまけ~~
目が覚めた二人の会話
「四季様、四季様。起きてくださいよ」
「む、呼び方が戻っていますよ、小町」
「えっと、すいません。……この呼び方で察していただけると助かるんですが」
「何をですか?」
「今日は普通に仕事ありますよ、ね?」
「…………あ」
ここ、博麗神社の境内は、そんなことお構いなしに賑わっていた。
「萃香のいいとっこ見てみったい!」
「あ、それ、一気! 一気!」
「妖夢~。それ食べてみたいわ。ちょっと頂戴?」
「え、でも食べかけですよ……って、もう食べてるし!」
幻想郷に住まう、多くの人間、妖怪の双方が集い、久しぶりの邂逅を祝い日頃の確執を忘れて。
ストレス解消、家内安全、弱肉強食、様々な思いを交わし笑い声と笑顔が満ちあふれる場所。たまに怒号が飛び交っていたりもするがご愛敬。
そんな、宴会の場にはあまりにも似つかわしくない表情で酒を酌み交わす二人がいた。
「四季様。せっかくの宴会なんですから、いつまでもそんな顔してないでくださいよ~」
「……知りません」
四季映姫=ヤマザナドゥは怒っていた。むくれていた。拗ねていた。いろいろな表現ができるが、有り体にいえばヘソを曲げていた。
藤をあしらったおろし立てと思われる紫色の着物に身を包み、緑の髪に鼈甲の簪。唇には薄く紅を引いていた。
彼女を知らない人物に見せれば、いや、知っている者でさえ深窓のご令嬢です、と言って通用してしまうほどに。
生来持ち合わせた気品ある振る舞いからも、その主張は補強されてしまいかねない。
一方の小野塚 小町は困り顔。非番であるから仕事道具の鎌こそ持っていないものの、普段の着物に髪型も、化粧っけの無さもいつも通りだ。
加えて、彼女は映姫が不機嫌な理由が今ひとつ掴めていない。
あのときは、あんなに嬉しそうだったのに。
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「四季様。来週の末、何かご予定ありますか?」
「なんです、藪から棒に」
映姫の執務室。仕事上がりに顔を出した小町から突然発された言葉にも、書類を処理する手は止まらない。
「いや、もしお暇なら付き合って欲しいところがありまして」
かたん。
映姫の手から判が滑り落ちる。当の映姫に、そのことに気づくだけの余裕などない。部下の突然の言葉に、すっかりパニックを起こしていた。
(小町からデートの誘い!? お、落ち着きなさいヤマザナドゥ。ここでの返答は、あなたの生死を分かつと考えなさい。そう、ここはさりげなく、上司としての威厳と風格をもって受け入れること。それが今の私にできる善行です)
「私は多忙です。責任の大半は、どこかの死神にありますが」
(ちょ、何を口走ってるんですか私は! バカバカ私のバカ! こんな時くらい仕事モードから脱却しなさい!)
「う……そうですか。それじゃあ、またの機会にということで……」
しょんぼりと肩を下げ、項垂れた様子で執務室を出て行こうとする小町。
こうなると、自業自得とはいえ映姫もなりふり構っていられない。
「ま、待ちなさい! 多忙とは言いましたが、別に時間が取れない訳ではありません。かわいい部下の頼みを無碍に断るのも不憫ですし、小町さえ良ければ、その、付き合ってあげることもやぶさかではありません」
「本当ですか!?」
「私の職を思い出しなさい。嘘をついたりはしませんよ」
その瞬間、沈んでいた小町の表情が一気に華やぐ。つられて映姫の顔にも赤みが差す。
「よかったぁ、楽しみにしてますね。当日は、あたいが迎えにいきますから!」
「ええ、わかりましてよ」
動揺のあまり、おかしな言葉使いになってしまっている映姫に気づく者は、この執務室にはいなかった。
それじゃ、失礼しますねと出て行く小町に、ごきげんようと返してしまったのも今では笑い話に過ぎない。
それからの映姫は精力的だった。
仕事をいつもの倍近いペースで仕上げ、少ない時間を使って里の仕立屋に赴き、着物を新調した。口の堅い女性の死神に頭を下げ、装飾品やら化粧品やらを選んでもらった。
ああ、それなのに。だというのに。
※
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「なんで、こんなことになっているんでしょうか……」
思えば、小町が迎えに来た段階で気づくべきだったのだ。とてもエスコートなどという言葉からは、かけ離れた小町の姿を見たときに。
そして今、映姫は境内の隅でちびちびと酒を煽っている。
彼女たちの半径5mほどに人影は無い。
映姫にしてみれば、今は誰とも話したくない気分だったし、自分の職業を鑑みれば好きこのんで近づいてくる物好きも居るまい、と考えていたが実際は違う。
いつもの宴会に突然現れた美少女の存在に、誰しも興味を引かれていた。加えて、その美少女が四季映姫=ヤマザナドゥだと知れたときは、ちょっとした騒ぎになったものだ。
だが、映姫の発する暗黒と言っていいほどの不機嫌なオーラに、誰もが気押されていた。
そんな中、平然と(困惑気味ではあったが)傍らで酒を呑んでいられる猛者など、普段から不機嫌オーラを浴び慣れている小町以外にいなかっただけの事なのだ。
「四季様、機嫌直してくださいってば~」
小町が、我儘な子供をあやすような口調で懇願する。
大体にして、この『四季様』という呼び方も映姫は気に入らない。今は休みなのだ、非番なのだ、OFFなのだ。
こんな時くらい、平素の上下など気にしないで楽しめると思っていたのに。目の前の鈍い死神は、自分のことを四季様と呼ぶ。
それが、とても辛くて、悲しかった。
ぽたり、ぽたり。
手にした杯にあらたな水がこぼれ落ちる。同時に会場の一部から、どよめきが上がる。
ここで、困惑からいきなり驚愕へと追い立てられてしまったのは小町だ。
今日も、出会い頭に少しだけ失望の入り交じった表情を向けられ、宴会場に着いてからも、ふて腐れた様子で杯を重ねていく映姫に、どう対応したものか分からなかった。
そして、今度は突然泣き出されてしまった。
「四季……様?」
繰り返されていたその一言が、映姫の感情に火を付けた。
「なんですかさっきから! 人のことを四季様、四季様と! 私は四季様なんて名前ではありません。私は小町と楽しく出かけたかっただけなんです! 本当なら私だって笑っていたい。大好きな人の横で渋い顔をしながら酒に溺れていたくなんて無い!」
会場が静まりかえる。夜の静寂が一時だけ勢力を取り戻し、じわり、と境内に広がってゆく。
「すいません」
静寂を破ったのは小町の謝罪だった。それ以外の音はしない。
「謝らないでください、惨めになるじゃないですか」
映姫が俯いたまま言葉を紡ぐ。力なく、今にも倒れそうな顔色で、精一杯の言葉を吐き出す。
「すいません……本当にすいません」
小町は映姫の言葉に従わなかった。謝罪の言葉を口にしながらも、その瞳にある決意が満ちていくのがわかる。
映姫の両肩を抱き、俯いた顔を上げさせ、小町は嘘偽りない言葉を送り出す。
「いくら謝っても、謝り足りないですけど。し……映姫がやめてくれって言うならやめます。でも、聞いてください。あたいは、たまにここでの宴会に呼ばれるんですけど、その度にいつも思うんです『ああ、どうして今、あたいの隣に映姫がいないんだろう』って」
今度は映姫が驚く番だった。今、小町はなんと言った?
「貴女が愛する幻想郷はこんなにも騒がしくて、笑顔にあふれてて。それが確認できるこの場所に、どうして、あたいの大好きな人はいないんだろうって、そう思って。勝手に一線を引いちゃってたんですね、あたいは。今日だって、出てきた映姫を見て『綺麗だ』って思ったけど口には出せなくて」
とつとつと、しかしはっきりと、小町は自分の想いを伝えていく。
砂利が敷き詰められているはずの境内に、小町の発する言葉だけが響く。他の参加者達は一様に、固唾を呑んで行く末を見守るしかなかった。
「あたいのせいで、映姫に不安な思いをさせていたんだったら謝りたい。でも、今はそれよりも伝えたい言葉があります」
「映姫、私は貴女を愛しています」
ドカーン!!!!
そう表現するほかない程の歓声がわき起こる。参加者達は絶叫に近い何事かを喚きながら、手に手に持った酒を祝福の名目で二人に浴びせていく。
映姫は、酒をかけられていることも気にならなかった。小町に抱きしめられながら、爆発させた感情の後に染みこんできた小町の言葉を、心の中で繰り返す。
愛しています。確かに小町はそう言った。
素直になれなくて、叱ってばかりで、お世辞にもいい上司とは言えないであろう自分を。愛していると言ったのだ。
先ほどとは真逆の要因からあふれ出る涙を、映姫は止めることが出来なかった。
小町は、参加者達の手厚い祝福の中、腕に映姫を庇いながらも晴れ晴れとした気持ちでいた。
簡単なことだったのだ。言葉にすること、ただそれだけのことにどれだけ回り道をしたのだろう。自らの不甲斐なさを噛みしめて、飲み込んで、この人は自分が護る。と決意を新たにしていた。
祝福という名の酒の雨からは、全然護りきれていなかったが。
※
※
※
「まったく、困ったものよね」
宴会場の家主たる博麗 霊夢は、自らの寝室で眠りこける昨晩の主役二人を見やりながら、困惑の表情を隠さぬまま、そう漏らす。
それからが大変だった。祝福が一段落ついた後は、二人を肴に今まで以上の勢いで宴会は盛り上がり、参加者は次々と二人の杯に酒を注ぐ。
その隙を突いて烏天狗の質問攻めが始まり、興味深そうに聞き耳を立てる者多数。
八雲 紫が解散の音頭を取る頃には、地平線に朝日が顔を覗かせていた。
「そうね。片付けも、いつも以上に大変そうだものね」
「ぐ……この二人にも、手伝って貰うべきよね」
「おやめなさい。馬に蹴られて死にたく無ければ、ね」
「わかってるわよ」
霊夢は、紫の言葉にしぶしぶ頷く。こんなにも幸せそうに寄り添って眠る二人を、どうこうしようなどという気は、霊夢には無かった。
むしろ、羨ましいとすら思う。
「そのまま、寝かせて置いてあげなさい。あまりうるさくするのもなんですから、片付けは後にしましょう。藍に手伝わせますから」
霊夢が不憫な藍の未来に苦笑したところで、布団からなにやら声がした。
「もう、なんてベタなのかしら」
「違うわ、霊夢。あれは、ベタではなくてベタベタですのよ」
笑い合う。二人を起こさないように気を遣いながら。
「ん……こまち…………」
「えい……き……」
こうして、幻想郷の多くの住人に見守られながら、不器用な二人は結ばれたのであった。
~~おまけ~~
目が覚めた二人の会話
「四季様、四季様。起きてくださいよ」
「む、呼び方が戻っていますよ、小町」
「えっと、すいません。……この呼び方で察していただけると助かるんですが」
「何をですか?」
「今日は普通に仕事ありますよ、ね?」
「…………あ」
>>素直になれない閻魔と、にぶちんな死神。
>>そんな二人の物語があってもいいと思う。
右に同じく。
しかし私めのジャスティスは「割と私生活と仕事じゃない素の部分が奔放な閻魔様」と「サボり魔として認識されがちだけれど実は苦労人な小町っちゃん」なのです(何そのチラシの裏)
映姫様にはまりそうです。
甘くて死ねるぜw
血糖値がかなりヤバイ事にw
甘いけど甘いなりにすらすらと読めました、
好感ですw
やれ、もっとやれw
これは糖尿にならざるをえない。
糖尿になって死にそうだ
こちらが望んだ以上の反響に小躍りしておりますw
「これが、俺の(糖分)100%だ! 受け取れ!!」
さて、120%を書けるように頑張りますか
だがそれが(ry
甘々GJ