~~ 紅魔館 ~~
日差しの心地よい昼下がり。美鈴は普段どおり門の前に立っていた。
心地よい睡魔に襲われ、うつらうつらしている事さえ普段となんら変わらない。
そんななか、不意に感じた気配によって、美鈴の意識は覚醒された。
気配は1つ。門の内側から。
様は館からやってくるのだから、特段警戒する必要など無い。
そうでなくても、美鈴が感じた気配は自分が一番好きな者のだ。
自然と頬が緩む。
足音が聞こえてきたところを見計らって、美鈴はゆっくりと後ろを振り返った。
「あれ?」
不思議そうな声を出す美鈴。
思ってた人物と違った訳ではない。自分が間違える筈も無い。
しかし、おかしいのは当の人物の様子であった。
視線を常に下に落とし、それでもゆっくりとこちらへ向かってくる。
「咲夜さん?・・・・・おやつの時間には少し早いですよね?」
ちょっと冗談めかしてみたものの、彼女ー 十六夜咲夜は全くの無反応だった。
「どうか、したんですか?咲夜さん?」
今度は心配になって声を掛けるが、それでも咲夜は地面を顔を向けたまま、表情を窺わせようとはしなかった。
徐々に美鈴との距離を詰めていき、ついには無言のまま美鈴の目前で・・・・・止まらなかった。
此処(美鈴)がゴールだと言わんばかりに、密着してきたのだ。
「ちょっ!?さ、咲夜さん?一体どうし、」
これには流石の美鈴も動揺した。したのだが・・・・・咲夜がしっかりと抱きついてきて漸く、その意図を理解した。
「もぅ・・・・・はっきり言ってくれないと、分からないですよ。咲夜。」
咲夜がゆっくりと顔を上げる。うっすらと頬を上気させながら、潤んだ瞳で上目遣いに美鈴を見上げてきた。
それはもう、目に入れても痛くないほどの、可愛い娘の素顔だった。
「時間が空いたから、会いに着ただけ。」
そう言って、嬉しそうな笑みを浮かべる咲夜。
「迷惑だった?」
「とんでもない。私も会いたかったですよ、咲夜。」
幸せそうに抱き合い、囁き合う二人。そんな親子のとっても平穏な昼下がり。
「あの二人またイチャついてる・・・・・。」
「ホントだ。今日で何度目?」
「さぁ・・・・・?一時間に一回はああしてるんじゃない?」
紅魔館の親子は、毎日が平穏なようだった。
~~ ??? ~~
そこは幻想郷のどこかにある洞穴。そこで身を潜める様にひっそりと暮らす妖怪。
それが私。レティ・ホワイトロックだ。
冬の季節しか力を振るう事の出来ない私は、冬を過ぎては誰にも見つからないように隠れている必要があるのだ。
それは寂しい事だ。年の四分の三はこうして孤独に過ごさねば成らないのだから。
しかし、ここ数年でそれにも変化があった。
「レティ・・・・・起きてる?」
気遣わしげな幼い声を聞き、私はゆっくりと身を起こした。
彼女こそが、変化の原因──チルノちゃんだ。
「うん。起きてるよ。入っておいで。」
私の返事を聞くと、チルノちゃんは凄い勢いで入ってきた。
「レティ!元気だった!?」
「うん。チルノちゃんのお陰でね。」
本当のところは立ち上がるのも億劫で、女の子座りが精一杯だ。
チルノちゃんはそんな私の腰にしっかりとしがみ付いている。
「チルノちゃん・・・・・そんなに騒いだら、レティさんの身体に障るよ・・・・・?」
もう1つ気遣わしげな声。こちらはチルノちゃんよりも若干大人びてる。
チルノちゃんの保護者として、私が絶対の信頼を置いている大妖精こと、大ちゃんだ。
きっと彼女も私のことをそう思ってくれているだろう。
なにせチルノちゃんについて一晩中語り明かした仲だ。世間様も私と彼女は、チルノちゃんの保護者として認知されている様だ。
「レティ・・・・・あたい迷惑だった?」
しゅんとなるチルノちゃん。可愛いけど、やっぱり貴女には笑顔が一番。
「そんなことないわ。それどころか、チルノちゃんが居ると涼しくなるから。少し元気になれるのよ。」
嘘ではない。冷気を常に放っているチルノちゃんが近くに居ると、幾分活気が戻ってくる。
チルノちゃんの可愛さもあって、相乗効果は抜群だ。それでも流石に、間も無く初夏を迎える今の季節では外に出るには至らない。
「ホント!?やったあ!あたいったらレティのやくにたってるんだ!!」
嬉しそうに甘えてくるチルノちゃん。
「なんなら、今日は泊まっていく?」
なにも無い所だけど、一緒に居るだけで楽しいし、チルノちゃんはそれだけでも喜んでくれる。
そんな優しい子だから、こんな所にも足を運んでくれる。
「良いの!?泊まる泊まる!アタイったら、こうまかんの門番から、いっぱいおかし貰ってきたんだ!」
「そう?それじぁあ次の冬にはお礼に行かないとね?」
二つ返事で返って来た返事に満足しながら、チルノちゃんの頭を撫でてやる。
本格的な夏が始まるまで・・・・・もう少し時間がある。
夏が始まってしまえば、私は全く動けなくなってしまうのだ。
それまでの間・・・・・少しでも多くの時間を共有できたら良いなと・・・・・。
とうに冬も過ぎたというのに、未練たらしい私はそんなことを思うのだった。
~~ 白玉楼 ~~
縁側でお茶を啜り、日側で用意されるお茶請けを頬張る。これが彼女、西行寺幽々子の幸福の1つだ。
実際のところ、幽々子にとって食事を摂ることが絶対の幸福であり、詰るところ食べられればなんだったて良いのも事実だが。
閑話休題。
さて、今日も今日とて桜餅を頬張り幸せそうな顔をする幽々子の傍らには、彼女の従者である魂魄妖夢の姿があった。
今日も美味しいお茶の時間を提供してくれた礼を言おうと、幽々子は彼女の方に顔を向けた。
「この桜餅、とってもおいしいわぁ。ありがとう、妖夢。」
「勿体無きお言葉・・・・・。」
「貴女も食べれば?」
「お気持ちだけ頂戴いたします・・・・・。」
間髪入れず返ってくる従者然とする言葉に、幽々子は一抹の寂しさを感じた。
昔の妖夢は、『幽々子様、幽々子様』っと甘えてきたものだ。
そこで幽々子は閃いた。
「妖夢?」
「はい、何でしょうか、幽々子様。」
「膝枕、してあげましょうか?」
「・・・・・はい?」
先程までの神妙な顔つきはどこへ行ったのやら・・・・・妖夢の表情は、驚愕へと一変した。
「一体どうして・・・・・?」
「偶にはいいじゃない?それとも、私の膝の上じゃ不服かしら?」
「そっそんな滅相も無い!!」
「じゃあ良いじゃない、ね?」
慌てる妖夢も、また可愛い。
そんな不埒なことを考えながらも、幽々子は膝を叩いて催促する。
一方妖夢は、あまりの恥ずかしさに顔を真っ赤にしながら固まってしまった。
「膝枕、嫌?」
「っ・・・・・・・・!」
幽々子の上目遣いに当等折れた妖夢が、身体を硬くしながらもゆっくりとその頭を幽々子の膝へと預けた。
「ふふふっ・・・・・。素直でよろしい♪」
そう言って妖夢の頭を優しくなでてやる。すると始めは硬直していた妖夢からも、次第に力が抜けていった様だ。
「妖夢・・・・・貴女は、妖忌の背中ばかり見てるようだけど・・・・・」
寂しげな幽々子の声色に、妖夢は思わず顔を上げようとするが、幽々子に優しく制された。
「私のことも見てくれないと、私、寂しくて死んじゃうわ。」
あら、もう死んでたかしら。と可笑しそうに笑う幽々子だったが、その声色は、やはりどこか寂しそうに妖夢には感じられた。
自分は、従者としての有り様ばかりに気を取られ、感じの主を蔑ろにしていたのだ。
そう思い、悔しさに妖夢は下唇を噛んだ。
「私はね、貴女が傍に居てくれるだけで良いの・・・・・だから、もっと肩の力を抜きなさい。ね?」
「はい・・・・・ありがとう、ございます。幽々子様・・・・・。」
ああ、それに引き換え我が主の何と優しい事か・・・・・こんな私にまだチャンスをくれると言うのか。
「風が・・・・・気持ち良いわね、妖夢。」
「はい・・・・・幽々子様・・・・・・。」
精進しよう。この人の為に・・・・・。
「妖夢?・・・・・寝ちゃったのね。ふふふっ、寝顔はまだまだ、可愛い子供ね。」
ーーー大丈夫、私はいつでも貴女を見守ってるわーーー
まどろむ意識の中、確かに妖夢はそんな声を聞いたのだった。
~~ マヨヒガ ~~
ーこの仔が元気な顔で見上げてくれるだけで、私は嬉しくなる。
ーこの仔の事を思うだけで、私は優しくなれる。
ーこの仔が傍に居てくれるだけで、私は強くなれる。
その笑顔を、その温もりを、しょうがない程にいとおしく感じる。
「藍しゃま・・・?どうしました、ぼぉっとされて?」
そんな愛しい橙の声に、私は現実に引き戻された。
「いや、なに。考え事をしてただけさ。それより、橙。包丁を持つ時は注意してくれよ。何かあったら大変だ。」
場所は台所。時は夕暮れ時。晩御飯の仕度を橙と二人、していたところだ。
手伝いは、橙から買って出てくれた。前々から手伝いたいという申し出を受けてはいたのだが、つい最近まで、私はそれをやんわりと断ってきた。
理由は単純。橙に何かあっては大変だからだ。
しかし、遂には私が折れる形で時々こうして手伝わせているのだ。
「大丈夫ですよ。藍しゃまは少し心配性です。」
他所様からすれば、過保護らしいがそんなことは知ったことではない。
他所には他所の、八雲家には八雲家の育て方があるというものだ。
その名も、“超溺愛”である。
「むっ。そんな反抗的なことを言うのはこの口か?」
そう言って私は、橙の軟らかい頬を突っつく。抓るなんてもっての他だ。橙の顔が腫れてしまっては一大事だ。
橙は擽ったそうに身を捩った。
「らっらんしゃま、くすぐったいですぅ。藍しゃま~~。」
笑顔で泣き言をいう橙。まずい、これは辛抱たまら・・・・・
こほん。
突っつくのを止めてやると、橙は再び包丁を握りなおした。
この仔の事を見ていると、自分がまだ幼かった頃の事を思い出す。
紫様に優しく、守られていた頃を・・・・・。
あの方は、今私がこの仔に感じているように、当時の私のことを愛してくれていたに違いない。
自信がある訳ではない。かと言って、疑うつもりなど毛頭無い。
でなければー
「なぁ、橙?・・・・・何か食べたいおかずはあるかい?」
「えっ?藍しゃま、献立はもう決まってるんじゃ・・・・・?」
「いやなに。一品ぐらい、構わないさ。」
「本当ですか!?えっと、それじゃあ、それじゃあ!」
今の私には成り得ないのだから・・・・・
『さぁ、藍!今日のおかずは何がいいかしら?何でも好きなものを言いなさい!』
『本当ですか!?お母様!藍は、藍は油揚げが食べたいです!!』
『ふふふっ、藍は好きね、油揚げ。』
『はい!』
『任せない!油揚げだって何だって、藍が望むなら、何だってあげちゃうんだから!』
~~ 永遠亭 ~~
「ほら、輝夜じっとして。もうすぐ終わるんだから。」
永琳が私のことを、“輝夜”と呼ぶ時は、何を言ったって聞く耳を持ってくれない。
そんな事は百も承知だ。承知なのだが・・・・・言わずには要られない。
「もう、永琳?耳掻きぐらい自分でできるわ。」
「そんなこと言って・・・・・傷つけたら大変でしょう?」
はい、この通り。ちなみに爪切りも同様だ。深爪したら大変らしい。
また私の耳を掻くことに集中し始める永琳。
相当集中しているのか・・・・・部屋を覗く1つの視線に全く気付いてないみたい。
やれやれ、こんなところ。因幡達には見られたくなかったというのに。
“こんなところ”とは耳掻きをされている状態、即ち“膝枕”をされてる状態を指す。
「はい、お終い。」
「そう。それじゃあ交代ね。」
「交代?」
不思議そうな顔をする永淋だったが、漸く私達以外の存在に気付いたようだ。
「ほら鈴仙。そんなところで突っ立ってないで入りなさいな。」
私が声を掛けると、彼女は襖越しに飛び上がるのが見えた。
そんなに驚かなくてもいいのに。
「優曇華・・・・・貴女・・・・・」
「すすすす、すいません!覗くつもりじゃなかったんです!!」
「それじゃあどういうつもり?」
「ひっ、姫様!・・・・・姫様に手紙をと、その・・・・・妹紅さんから。」
そういって差し出された手紙を私は軽い気持ちで受け取った。
どうせ果たし状だろう。
「なになに・・・・・ふ~ん・・・・・」
「姫、余り無茶は・・・・・」
「分かってるわ。夕飯までには戻るから。」
どうせ殺しあうんだけど。
「それじゃあ後は、ごゆっくりぃ♪」
この後の展開が見れないのは残念だが、そこはそこ。空気を読むと致しましょう。
全く・・・・・という永琳の小言を受け流しながら、私は自室を出た。
「全く・・・・・姫は。」
師匠は小言を言いながらも顔は消して曇ってはいなかった。
なんだか、やんちゃな子供見守る母親の様な・・・・・そんな感じ。
「それで、優曇華?」
「はっはい!」
急に呼ばれて、私はまた声が裏返ってしまう。
師匠はまだ正座をしたままだ。
「貴女もして欲しいの?耳掻き。」
「・・・・・えっ?」
思わず聞き返してしまった。だってまさか師匠の膝の上で耳掻きなんて・・・・・
「どうなの?」
「・・・・・して欲しいです。」
悲しいほど、自分に素直な私であった。
「ほら、ここに頭を置いて。そう、どっちからでもいいから。」
そう言われておずおずと頭を乗せる。ここからでは師匠の表情が伺えないから、不安にもなりそうだが、暖かな温もりに包まれると、なんだか無性にほっとしてしまった。
「しかし、この耳を掻くには骨が折れそうね。」
「師匠・・・・・それは、」
「ふふふっ、冗談よ。」
付け耳を弄りながら冗談まで言ってくれるとは、本当に甘えてしまって良いということかしら。
それにしてもよもやこんな要望が通ってしまうとは思わなかった。
本当に気持ちがいい・・・・・・
「師匠・・・・・?本当に良かったのですか・・・・・?」
「別に遠慮することは無いわ。」
「でも・・・・・」
「遠慮は無用と言っているのよ。私にとって、貴女たちは可愛い・・・・・」
可愛い・・・・なんだろう?やはり“弟子”だろうか。
貴女たち、なんて言うんだから“ペット”なんかもありえそう・・・・・。
せめて家族が良いなぁ、なんて。ペットも立派な家族だろう。
だけど、どうせなら・・・・・。
「・・・娘のようなものだもの。」
「し、師匠!!」
師匠の言葉を聴いたとき、私はとっさに、それこそ我を忘れて師匠の腰に抱きついた。
それはきっと、私が一番求めていた言葉だったから・・・・・。
師匠の腰に纏わりつき、おへその辺りに顔を埋める。
もちろん耳掻きの体制からそんなことをするものだから、師匠は驚きの声を上げた。
「ちょ、ちょっと優曇華?いきなり動いたら危ないじゃない。」
「ししょ~~お~~。」
尚も縋り付く私に、師匠は諦めたのか、私の頭を撫でてくれた。
「もう・・・・・しょうがない娘(こ)ね・・・・・」
優しく、何度も何度も・・・・・
その手はまさしく、お母さんだった。
~~ 守矢神社 ~~
早苗が洗濯物を干している。そんな守矢神社では日常的な光景を、神奈子と諏訪子は何をするでもなく眺めていた。
次々に並べられていく洗濯物。実に手際がいい。
「よし、終わり♪」
どうやら干し終わったらしい。早苗のそんな声がした。
その姿に、神奈子は満足げに頷いた。
「炊事、洗濯、掃除と・・・・・昔じゃ当たり前だったけど、現代じゃ出来ない娘が多いそうじゃないか。
その分、早苗は立派さね。どれをとっても申し分ない。」
同意するように、諏訪子もうんうんと頷く。
「本当だね。いつ嫁に出しても恥ずかしくないよ。」
しかし、神奈子は何気ない諏訪子のそんな一言に、ぎょっとした表情をみせた。
「嫁だって!?それは何かの冗談かい!?」
「何をそんなに驚いてるの・・・・・?早苗だって女の子だよ。いずれは伴侶を見つけて、」
「嫁に出すってのかい?私には到底考えられないね。諏訪子は早苗が可愛くないのかい?」
流石に今の言葉には、諏訪子もカチンっときた。
「可愛いに決まってるじゃん!だからこそ、女としての幸せを考えてあげるべきじゃない!?」
「なんだい?それじゃあ早苗が私達といて幸せじゃないとでも!?」
「そうは言ってないないでしょう!?」
ついには立ち上がって睨み合う二人。
そこへ今しがた洗濯物を干し終えた早苗が戻ってきた。
「神奈子様、諏訪子様。わたしこれから人間の里まで買出しに・・・・・って二人とも何睨み合ってるんですか!?」
早苗の登場に、二人は同時に鼻を鳴らしながら、そっぽを向いて座りなおした。
「一体何があったんですか?」
「聞いて早苗!神奈子ったら、早苗を嫁に出さないなんて言い出すんだよ!?」
「嫁に出さない、ですか?」
全く理解できない早苗はとりあえず喧嘩の理由を双方から聞き出すことにした。
「それはどうしてですか、神奈子様?」
「・・・・・早苗にはずっと私達の傍に居て欲しいからさ。」
流石に身勝手な発言だと気が引けたのか、声色が大分落ち着いている。
が、意見を変える気は更々ないらしい。
「酷い話だよね?ずっと傍に居て欲しいから嫁に出さないなんて、どこの頑固親父だよっ。
時代錯誤にも程があるね。いい加減、子離れして欲しいもんだよね。ね、早苗?」
てっきり同意が貰えるとばかり思っている諏訪子だったが、そうはいかないのが東風谷早苗という少女。
既に彼女の感性は常識には囚われてはいない(笑)。
「それで諏訪子様はどうしてそれに御怒りになられたんですか?」
この子、全く理解してない。諏訪子は戦慄を覚えたという。
─早苗、恐ろしい子・・・・・・
「いやだって、そんなの当人達の自由じゃん!一生を誓った伴侶と一緒に居ないなんておかしいじゃない?」
今度こそ、今度こそ理解して貰おうと、諏訪子は必死に言葉を取り繕う。
正直なんで私の方が必死になってるのか・・・・・私の方が理解できない。
くっ・・・!神奈子の奴、薄ら笑い浮かべやがって・・・・・覚えておけよ。
「分かりました。」
やった!諏訪子は想いが伝わったであろう事に歓喜した。
しかし、それを見事に裏切ってみせるのが東風谷早苗と(ry
既に彼女の(ry
「お婿さんを探してくれば良いのですね!?」
「「はい・・・・・?」」
一人我が意を得たりと、得心するも実はかなり見当ハズレな思い違いをしているであろう早苗に、二人は唖然とした。
「ど、どうしてそうなるんだい?」
辛うじて神奈子が口を開く事に成功した。
「お嫁には行かず、伴侶と生活を共にする・・・・・この二つの条件を満たす方法・・・・・。
それはズバリお婿さんを迎えるという事に他なりません!!」
成る程、そう来たか。二人はそう思った。
「それでは早速探してきますね、お婿さん。」
「探すって・・・・・これから?」
「はい。」
「ちょっ、ちょっと待ちなよ早苗!」
「どうされました?」
「早苗?これはあくまで将来の話っ!無理に今探さなくったて良いんだよ!?」
「そうだったんですか。私てっきりお二人の御意志かと・・・・・。」
「いやいやいや、そんなこと微塵も思ってないよ。・・・・・大体当てはあったのかい?」
「いえ、全く。」
二人揃って絶句した。塞がらなくなりそうな口を無理やり戻し、意識を保とうと頭を振った。
「それじゃあ一体、どうやって探すつもりだったんだい?」
「それはもちろん、一人一人お願いして回るんです。信仰を集めるのと一緒ですね。」
アンタはそれしか知らないんかい。心中でも二人の突っ込みは1つだった。
「どうやらこの件は急務ではないようですね。それでは私は予定通り買出しに行きたいと思います。」
気を取り直し、買い物鞄を持ち直す早苗。
「それでは、行って来ます。お二方とも、喧嘩は程々にお願いしますね?」
そういって去っていく早苗を、二人は呆然とその背中が見えなくなるまで見送った。
「・・・・・・それにしても。」
不意に口を開いた神奈子の方に、諏訪子の視線は自然とそとらへと向いた。
「・・・・・・?」
「当てはないんだってね・・・・・・。」
妙に嬉しそうな神奈子のその一言に、諏訪子は再び嘆息するのであった。
~~ 博麗神社 ~~
「それじゃあ、私達はこれで失礼するぜ。」
「お邪魔したわね、霊夢。」
珍しい事だ。普段ならこんな日が落ちきってもいない時間に帰るだなんて言わない連中が、自発的に帰るなどと言っている。
特に魔理沙なんかは帰れと言っても帰らず、終いには夕飯まで食べていこうとするなんてざらなくらいだ。
「なんか用でもあるの?」
「ああ!母さ、・・・じゃなかった。魅魔様が来るんだよ。だから迎える準備をしないとな!」
と、魔理沙。
「私も母さ、・・・じゃないわ。神綺様がいらっしゃるのよ。」
と、アリス。
「それじゃあ、またな!(またね)」
幸せそうに去っていく二人を見送ると、霊夢はひとり溜息をついた。
自分の生い立ちを、今更振り返ったところで、むなしくなるだけなので、しない。
でも、“母親がいない”という事実には変わりないわけで・・・・・・
(そんなに良いもんかしらね、お母さん。)
無い物強請りは意味を成さない。霊夢はその事をよく理解している。
母親も、お賽銭も、参拝客も・・・・・無い物は無いのだ。
やる気を失い。手に持っていた箒を蔵にしまった。
(こういうときは熱燗できゅーと・・・・・)
等と考えながら部屋に戻ると、
「お邪魔していますわ、霊夢。」
スキマ婆がいた。
(なんでこのタイミングで・・・・・)
「アンタ・・・・・狙って入ってきたんじゃないでしょうね?」
「ふふふっ・・・・・私にはあの子達はちょっと姦し過ぎるわね。」
なんだ、それだけの事か。“お母さん”の話題をしていた為に、変に勘ぐりすぎた。
いや・・・・・そうであって欲しいという己の願望か。
「何よ、それじゃあ私は妙に落ち着いた婆だとでも言いたいわけ?」
「さぁどうかしら?でもお茶を啜る姿が様になるのは、お年寄りと貴女ぐらいのものですわね。」
なんだろうなぁ、全く。
普段どおりの紫を見ているだけで、何か切ない気持ちになってきた。
「・・・・・お母さん。」
「・・・・・え?」
誰に対して言ったのか分からず、ポカンとしている紫。
対して霊夢は、自分の発言が恥ずかしくなって顔を赤くしてモジモジし始めた。
「わ、私だって甘えたくなることぐらい・・・・・あるのよ。」
流石と言うべきなのか、今更というべきなのか・・・・・
紫にも彼女が言わんとしている事が、否、求めている事が分かってきた。
紫は優しげに目を細め、霊夢を手招いた。
「そう・・・・・だったらそんなところに突っ立ってないで、こっちへいらっしゃいな。」
「うん・・・・・。」
「ほら、それでどうして欲しいのかしら?」
「えっ?・・・・・・あ、その・・・・・。」
「こうかしら?」
そう言って、すぐ傍まで近づいていた霊夢を抱き寄せる。
霊夢は一瞬、ほんの一瞬身を硬くしたが、すぐに身を任せるように紫にぴったりと寄り添った。
「優しく撫でて・・・・・。」
「ふふふっ、はいはい。」
胸元まで抱き寄せた霊夢の頭を、紫は慣れた手つきで撫でてやる。
「どうですの?心行くまで堪能できた?」
「う~ん・・・・・後、ごはん作って。」
「ごはん・・・・・?」
「そう、手料理。」
「全くこの子は、どれだけ我侭を・・・・」
「駄目・・・・・なの?」
「うっ・・・・・だ、駄目とは言ってませんわ。分かりました。作るわよ、手料理。」
霊夢の上目遣いに根負けする形で、紫が折れた。
「作れるの・・・・・?」
「貴女・・・・・頼んでおいてそれは失礼ですわよ?」
若干青筋を立てながらも、紫は一人台所に向かう。
「さて昔を思い出すわね・・・・・なにから作ろうかしら♪」
何故知ってるのか、博麗神社の台所から手際よく調理器具を取り出していく紫。
足りない器具や食料は、スキマから引っ張り出している。
そんな紫を、案外様になってるなと感じる霊夢。
そんな霊夢もまた、普段の守銭奴は成りを潜め、母親の手料理を待ちわびる子供の様であった。
~~ マヨヒガ ~~
スキマを腰掛けに、見上げる夜月。
「眠れないのですか・・・・・?」
ふと、下から気遣わせな声がしたので視線を落とす。
「ええ・・・・・ちょっと今日は普段と違う事をしたからかしら・・・・・。」
「・・・・・私も驚きました。晩御飯が入らないなんて、ここ数十年聞いた覚えがありませんでしたから。」
「それは悪かったですわ。でもその代わり、久々に親子水入らず出来たでしょう?」
「まぁ・・・・・それもそうですが。」
すっと、藍が隣に並んだ。
「今日はどうされてたんですか?」
「一時、そう一時的にだけど、霊夢の“母親”になってきたわ。」
「母親・・・・・ですか。」
「そう。ふふふっ・・・・・手料理なんて何時以来かしらね。昔を懐かしむ反面、妙に新鮮でしたわ。
あの子が・・・・・いいえ、“博麗の巫女”が他人に依存するなんて過去に例が無い。」
一瞬だが、紫の目が鋭くなる。
「変わってしまったのかしら・・・・・この幻想郷も。それとも、変わったのは私かしら・・・・・。」
そして、少し不安げな表情に変わった。
そんな紫を見て、藍は胸を締め付けらた気がした。紫様にはそんな顔は似合わない。紫様にはもっと・・・・・笑っていて欲しい。
藍は心中で必死に言葉を探す。ああ、自慢の演算能力も今回ばかりは当てにならない。
「紫様・・・・・私は、今の幻想郷が大好きです。そしてその今があるのは、誰でもない紫様お陰です。」
「藍・・・・・。」
「それでも・・・・・中には変わらないものだってありましょう。」
「それは・・・・・何?」
「心です。紫様の幻想郷を想う時に見せるその済んだ瞳・・・・・ずっと昔から変わっておりませんよ。」
そして・・・・・私が貴女を想う気持ちも。
「ありがとう・・・・・藍。」
紫の言葉に、恭しく頭を下げる藍。
そんな藍を見て、この子も大人になったものだと紫は思う。
それは変わってしまったと言うことだろうか?
紫は傍らで頭を下げている藍を不意に抱き寄せた。
「え?」
「貴女はどうなのかしら?」
分かってる。聞かずとも、分かっているつもりだ。
だけどー
「えっと・・・・・言わないと、駄目ですか?」
「ええ、もちろん。」
紫の腕の中で、恥ずかしそうに頬を掻く藍。
「仕方がありませんね・・・・・・心から、お慕い申しております。紫様。」
「もう、固いわね・・・・・。ま、でも許してあげるとしましょう。なんせ可愛い、愛娘ですから。」
綺麗な星空の下、二つの影が仲良く重なっていた。
きっと、この幻想郷はそんな親子の絆で深く繋がっているのだと・・・・・
きっと、これからもそんな暖かな温もりが受け継がれていくのだと・・・・・
人間も、妖怪も関係ない・・・・・そんな楽園が築かれていくのだと・・・・・
二人は信じて疑わないのであった・・・・・
「紫様。」
「なにかしら、藍?」
「紫様は、さしずめ『幻想郷のお母さん』ですね。」
「それは、私が老けてるってことかしら?」
「いえ、そうではなくて・・・・・」
「分かってますわ、冗談よ・・・・・ありがとう、藍。」
「はい・・・・・お母様。」
~~ おわり ~~
こっちのがくすぐったいわ!!www
ダイレクトに魔理沙が魅魔を母さんと呼ぶのに違和感を感じました。
魔理沙には実際に血の繋がった母親がいるのですから、
それをあえて魔理沙自身が無かったことにしているならつじつまが合いますが、
それだとほのぼのから残酷な話へ様変わりしてしまいますね
気になったのはここだけです。それ以外は良かったと思います
藍と橙のほのぼのとした調理風景や、藍の過去の思いでも良かったですし
霊夢が紫様に甘える光景や彼女のために料理を作ったりするなど、
とても微笑ましく、面白かったですよ。
誤字?の報告
>ー早苗、恐ろしい子・・・・・・
『─(罫線)』のほうが良いと思いますよ。
数々のご指摘・ご感想ありがとうございます。
4番の方、そうですね・・・・・実のところ私も魅魔様のところは悩んだんですが、タイトルがタイトルなので強引にいかせて頂きました。次は気をつけます。
6番の方、─(罫線)ですね。直ぐに直します。ありがとうございました。
そのほかの方々も本当にありがとうございました。
でもまあ、今年はないかなと思った本命のゆからんが見れたから、GJ!
しかしたまには父性話も読みたい
え?東方に男はいない?
・・・お父さん話・・・無理か…
魔界に母の日があるか分からんけれど
うわぁぁん
なッ泣かないで下さい!
満足して頂けるか分かりませんが、即興で作りました。
・・・・・今更でしょうか(^^;
ありがとうございました。
早苗さんがお婿どころかしっかりお嫁に行ってしまいましたね……神奈子さまの心中はいかに……