夜。熱帯夜。体、特に額と腋がジワジワと蒸されて汗ばんでいき、さっぱり寝付けずに不快な夜間を過ごしている。
手に余るほどに体が火照り、寝返りを打ち頬でベットの冷たい場所を探すがどこも体温を吸収してしまっている。ああん、冷たくない! 寝れない!
度が過ぎている暑さに嫌気がさし、お腹にだけかけていたタオルケットを足を巧みに動かし蹴り上げて、ガバッと身を起こし窓越しの景色から時間帯を確認する!
…案の定、山と空の境界線から太陽さんが『お前十分寝ただろ。いけるいける』と指を指して笑うかの様に顔を出し、夜更けの素晴らしい朝焼けが空一面に展開されていた。きれい。
春宵一刻値千金とは誰が言ったのか! 嘘つき…、嘘つき!
「ああっ、もう! なんで今日が仕事なのよ、毎日ゴールデンウィークでもいいじゃない! 金土土土土土土日でいいじゃん!」
心の中のいらだちを抑えられず、左手で窓を開けて顔を覗かし、叫ぶ! 叫んだが、…私の声は反響すらせずに、スッと山々に吸い込まれてしまった。
変わらず私を照らしている朝焼けが妙に自己主張をしている様に感じて、込み上げてくる恥ずかしさを髪のえりをいじくることで誤魔化して、サッと窓にカーテンを敷きまだ業務時間には早いためスウェット姿のままでベットの上に寝転がった。
私が体を起こしたからかベットは先ほどよりも多少冷えていたが、すぐに私の体温を取り込んで元の蒸し暑いベットへと早変わり。
右手を頬にまで上げて掻こうとしたのだが、どうも右手の感触が無い事に気付く。…痺れてるのかな。それすらわからないくらいに、疲れているのかな。
最近、仕事は失敗続き。お嬢様に運ぶ紅茶と、美鈴にちょっかいを出すために飛び切り渋い茶葉を長時間滝れたものと間違えて運んだり、トレイを持って歩いている途中に手が震えだしてトレイ上の食べ物や飲み物が散乱して見るも無残になったり、メイド服は後ろ前反対に着たり。
靴下を片っぽだけ履いていない事を指摘された時には駄目だと思ったわね。それで、お嬢様に『ゴールデン・ウィークよ!』と告げられ休暇を貰ったのだけれど。
元々あまり趣味などが無かった私はどこに向かう事も無く館の中でゴロゴロしていた。その休暇も終わり、いよいよ仕事だぞ! と自分に檄を入れなければならないはずなんだけど…。
「…あーあ。ああっ、なんか腹が立つ!」
…自分のふがいなさに、まだ踏ん切りがついていないのだと思う。思うだとか、そんな抽象的な言葉を使う自分にも、『お前には明確な意思が無いのか!』と自己嫌悪してまたむかむかが込み上げてくる悪循環。
きっと、夜の蒸し暑さを感じていた原因もそれだろうな。寝れなかった理由も、ずっと考え込んでいたから。あーあ、やめたやめた! こんな思考をしても、何も起こらないのですもの!
私は十六夜咲夜! 一人の少女! 胸内に溜め込むなんてよくないわ、今日は美鈴を思い切りからかってやりましょう!
チーズケーキ作って、美鈴の部屋に持ち込んで、美鈴の業務を妨害してやるの!
そしてずっと美鈴と一緒に居て、仕事さぼったからお互いに怒られて…。どうだ、巻き添えにしてやったぞ! ザマアミロ!
ふふふ、楽しみだなあ。今日の計画が決まった所で気分は高揚し、早く業務の時間帯にならないかなあと考える。
業務時間の始まりの目安としては、朝焼けが消えなんとも哀愁を感じる紫色の空を見上げるくらいだろうか。
爽快な青い空の色と、朝焼けの間ぐらいと言うべきか。ともかく、完全に日が上がり朝になってしまったら完全に遅刻、まあ意識していれば大丈夫だろう。
…いや、今の内に準備くらいしておこうかな、べたついた体の汗を流すためにすぐお風呂に入りたいし。どちらにしろ、完全に頭が覚醒しないことには始まらない。
まだ寝足り無い! と睡眠を要求する体の赴くままにあくびをして、むにゃむにゃと口を噛み締め腕を頭にまであげて簡易的な枕代わりにする。右手の感触は無いままだなあ、けれど腕は動くみたい。
後頭部に手のぬくもりを感じる、意識が活性化している証拠だ。ああ、今日も一日が始まるんだなあ…。
「むぎゅ」
変な音が聞こえた。音の鳴る人形を押した音でも、誤ってブーブークッションを踏んでしまった音でもない。なんというか、『人間らしい』? 生命力あふれる、みなぎった音というか、…声?
頭にはなんだかカサカサとまさぐられているというか、叩かれているというのだろうか。こしょばゆい、ムズムズした感触がする。
うーん、疲れてるんだな。寝るに限る。
「…ぐる、し」
聞きたくなかった。確かめたくもなかった。世の中の人類は全ての物事を究明する必要は無いと思う、だって別にブラックボックスだっていいじゃない?
私は私なりの考えがある、蓼食う虫も好き好き。例え他人に指摘されようが、私は一向に考えを変える気はありません。
臭いものには蓋をする、なかった事にする!!
「あ゛あ、くるじ、ぐるじ…」
後頭部に感じる衝撃がカサカサというものからポカポカというものに変わってきた。鼻息というか、私のもの以外の呼吸音を感じ、それが荒くなっていっている様な気がする。
とうとう右手は私の髪を引っ張ってきた、なにをするこのアンポンタン! 私の髪はウェーブかかってるんだぞ、わざわざ時を止めてまで里の美容室に通ってセットしてもらった一級品だぞ!!
もう我慢できん、私は右腕を思い切り振り上げ、その姿を確認した!
「あ、きゃあ~!? あ、あら、助かった? …助かった、なんとかとりとめました、神奈子様、諏訪子様~! やっぱり奇跡ってあるんですね! 私風祝なのに疑ってそんなもんないだろとか思っちゃいました、ああ! 生きてるって素晴らしい!
い! い、い…。…い、…?」
私の右手に寄生されていた、一人の少女。
ちょこまかと小さい腕と手を動かして生き延びた感動を体全体で表していたが、その内私の存在に気付きまじまじと目を合わせる。そのまま硬直した。
足は無い、ぱっと見胴から上の部分が私の右手の部分に成り代わっているようだ。服はちゃんと着せられていて、ミニチュアサイズの可愛らしい青と白の巫女服を纏っていた。
緑色のサラサラで長い髪が、私の腕にかかる。…私が現状を理解し、行動を起こすまで、そう長くはかからなかった。
「い、」
「いあ、あ、…」
「い…」
「い?」
『いやあああああああああああああ~~~~~~~っ!!!』
我が右手は寄生人っ!?
何、何、なにこれ! なんでこんな事になっているの、何が起きたというの!?
私はたまらなく叫んだ! 叫んで、思わず立ち上がってしまった体からふにゃりと力が抜ける感触がして、思わず床に倒れこんでしまい、尻餅をついてしまった…。
「あ、あ、誰ですかあんた!」
いきなり、右手元から叫ばれてしまった! 私が聞きたい位だ、なんなんだお前は…!
私は右腕を引き寄せ手を顔前まで運び、よくわかんないこいつに聞き返した!
「あ、…あんた~!? あんたこそ誰よ、勝手に人の右手に寄生してる癖に!」
「私が誰かなんてどうでもいいことです、あんたこそ誰ですか!」
「ああもうらちがあかない! 得体の知れないあんたなんか、こうして、巻き付けてやるっ」
「なんですか人の頭を勝手に押さえつけて! 頭は崇高なる不可侵の場所なんですよ、下手に触るのはやめて貰いまあ、ちょっとやめて、そんな包帯でぐるぐる巻かれると視界見えなくなるし、きっと息できなくなります、止めて」
ちびちびと動く腕と頭を取り押さえ、何故か足元に転がっていた包帯を右手全体にぐるぐると巻きつけてこいつの運動を拘束する!
巻いている途中も細い腕を駆使して抵抗していたが、所詮右腕が自由に動かせてこいつの移動を思うがままにできる私の敵ではない!
全体を隠すように巻き終わった後もジタバタと暴れていたがすぐに静かになり、なんとか騒動は去った。
臭いものには蓋をする、得体の知れないものは隠す! これでいいんだ、これで何も無かった事に…。
…手のひらの感触こそ無いが、どこからかコフーコフーと息のする音が聞こえる。
包帯をぐるぐる巻きにした手に注目すると、さっきの少女の口元に当たる部分だろうか。湿り気がどんどん現れてきて、その内包帯の中越しに力無くぐったりと横にもたれてしまい…
「ごっ、ごめん! 本当にごめん! もう軽率な行動はしないから、息を吹き返して! お願い、包帯は取るから! もうサウナ室からは開放してあげるから、どうか気を確かにい~!」
☆
「…あの」
「あの」
「ああいえいえ! そちらからどうぞ、私は聞きます」
「いえいえ、お構いなく! あなたからどうぞ、私は後で自己紹介するので…」
沈黙。突然出会った私たち、気まずくならない方がおかしかった。私は部屋のベットの上で正座をし、自分の右手の手のひらと向き合う様に腕を伸ばし一人会話劇と見られてもおかしくない行動を取っていた。
お互い同じ目線の高さを維持するため、腕を垂直に伸ばしている。なんだか腕がプルプル震えてきた、もうだめだ。
「あう、私を降ろさないでくださいよ~」
右手が仰向けにベットに寝そべる形で言葉を喋る。可愛い。
冷静になって判断してみたところ、具体的な所はさっき認識したものでいいようだ。この胴体から上だけの体、はたからみると昔流行ったパペット人形の様なものに見える。
ちょこんと申し訳程度に動かす手、ぷにぷにとした柔らかい頬。上質のお人形みたいだ、ひょっとしたら会う人会う人に『パペット人形始めたんですよ~』と言えば通じるかもしれない。無理を通すことを前提に。
「…私、東風谷早苗です。山の神社で風祝をやっています。なんでこうなったかは、知りません」
仰向けになったまま、右手が挨拶を継げる。…東風谷、守矢神社か。最近引っ越してきただとか何とか言っていたっけ。
ご丁寧に、挨拶が出来るなんて凄いでちゅね~。私も、彼女に挨拶を返す。
「十六夜、咲夜よ。さっきまで寝てた。そしたらあなたが寄生してた。どうしよう」
「ムッ…。…じゅうろくや、さくや? 変な名前ですねえ、じゅうろくや~! 特徴的な名前ですね! よろしくお願いします」
「理解してるでしょ。絶対に、そこはかとなく何から何まで理解してるでしょ。ねえ」
変な右手からあしらわれる様に、からかわれる様な返事を貰う。何よ、立場的にはあんたの方が下の癖に!
あんたの行動なんか私が制限も動かすも自由に行えるんだから! ふんだ、何さ何さ!
「あれえ、ひょっとして違ってました? いっけない早苗、おっちょこちょいさんなんだから! ね、16さん?」
「何よ、人の名前を馬鹿にして! 私が『じゅうろくや』ならあんたなんか『かぜいわい』よ風邪祝い!
『祝! 風邪を引いて、学校休めるぞ!』『それなら私が祝ってあげるわ、ハアアアア~!』とかやってるんでしょ、違いないでしょ!?」
「な、ななななななんですか人の神道を馬鹿にして! 今のあんたの発言は私だけではない、神奈子様も諏訪子様も神社に関わっている人皆を馬鹿にした発言ですよ!? 撤回してください!」
「いやっだね~。あれえ、私耳が悪くなったのかな? そんな豆粒ほどの大きさの声、蚊がかすれた様な音がしてさっぱり聞こえないよ!」
「ムキキキキキキキ…! ふんだ! あんたなんか、白髪! 冷酷、けちんぼ女!」
「何さ! ケチ! 性悪! 牛乳を雑巾で拭いた時のきつい臭い!」
「馬鹿! アホ! とんま!」
「まぬけ! 愚鈍! 気の利かないドジ!」
ぐっ、やるな、私の心に響くヤジを言うなんて…!
私たちはヤジを飛ばしあう! やるかやられるか、お互いのプライドを賭けた『正義』の戦い…! 負けられない、負けたら終わり!
右手の表情もだんだんと余裕のない表情へと変化していき、私たちはお互いにベットの上に倒れこんだ!
「…やりますね、私のハートにボディブローをぶちこむなんて」
「あなたのフックも中々のものだったわよ」
私たちは拳を叩き合う。彼女は自分から動けないから、私が左手に引き寄せてだけど。
もわもわと、私の体から立つ蒸気。無駄に汗をかいてしまった、ああ、余計にべたべたする…。
「…もう、日が昇っていますね」
「ええ。立ち込めているわ」
さっき閉めたはずのカーテンが都合よく開いていた。ぐったりとした体をごろんと転がり動かし、外の景色を眺めると、全国民に清清しい朝を告げる、すばらしい朝日が立ち上げていた。
ちゅんちゅんと鳥がさえずる、素晴らしい快晴の空。私は感動し、左手を胸に当て、当に過ぎた勤務時間の事など気にせずとりあえずべたついて不快極まりない体の汗を流すため浴場へ赴くことにした。
窓に映る私の頬が、綻んでいることに気が付く。私は、今日の仕事もサボることにした。
がんばって下さい。気になりますww
ダレる上に微妙なのです。
面白いと思ってやってるなら、おめでたいですね
さらに言うと、その後も微妙。
おとなしくプチに行ってて下さい
テストなら、あとがきにでもこの後どうなるか、プロットくらい書いてよ。
読み手は判断材料が作品だけなんだから。
8日あるーw
むしろ美鳥の日々…いやいや!
二人の会話もワケわかりません。何で話してるのに字で見てるような反応するんですか?
ギャグのつもりならかなり寒いですよ。