美鈴が倒れた
咲夜のがうつったらしい
「何やってんのよ…」
たまたま、本片手に咲夜の様子を見に行ってみればこれだ
「申し訳ありません。気で何とかします」
「あんまり無茶するんじゃないわよ」
「何がですか?」
「"気"よ」
「どうして突然?」
「さっき…昔を思い出してたから」
「……私は守るべき物を守ると決めてここにいます。だからこういう時こそ頑張らないと」
「何がこういう時よ。もしまたあの時みたいに…」
何十年も前、美鈴と出会ったばかりの頃
「その時はお嬢様が何とかしてくれるんでしょう?」
交わした約束
「約束…だったわね」
「では少し、咲夜さんをお願いします」
あの時と変わらない笑顔
「なんか懐かしいわね」
『気を纏いし少女』
幻想郷に入って半年
どうやら幻想郷でも、まだ完全に人間との調和が出来きっていないらしく、たびたび人間との小競り合いがあった
私は度々めんどくさがりながらも、それに応戦していた
また、雑用のために妖精を数匹雇った
ある日の事だ
妖精メイドが行き倒れを一人拾って来た
「なんでいちいちそんな物拾ってくるかな~…」
妖精の好奇心の高さには呆れて声もでないってもんだ
「どうするって、あんた達が拾ってきたんでしょう?…まったく、食料庫にでも放り込んでおきなさい」
干からびた人間などそうおいしいものでもないが
翌日
「レミリア様ー!!」
掃除を任せていた妖精メイドがすっとんできた
「朝食中に何よ」
「申し訳ありません!ですけど、食料庫が!」
「食料庫が?」
「何者かに食い荒らされました!!」
「侵入者!?どうして気付かなかったの!!」
「それは…その…申し訳ありません」
やくにたたないメイド共だ
「食料庫に案内しなさい」
食料庫にいけば、かなりの食料が食い荒らされていた
普通に九割ぐらい減ってる
侵入者の形跡がないが…
・・・ただ、先日の行き倒れの腹が膨れていた
「起きなさい」
少女を蹴り飛ばすと、壁で跳ね、「ぐぇっ」と絵に書いたようなうめき声をあげた
少女は上半身を起こしてこちらを見た
長く、紅い髪が揺れ、燃え盛っているようにも見え…ない
ボロボロだ
「あの、ここはど(ゲフッ)しょうか」
大一声がゲップがテメェ
「ここは何処でしょうか」
言い直した
「紅魔館、吸血鬼の館よ。ところで、昨日干からびていた貴方は、何故今そんなに幸せ太りしているのかしらねぇ」
「え…?」と、暫く硬直してから
辺りを見渡し、
食い荒らされていた食料をみて
「夢じゃなかったんですか―――――!?」
よほどいい夢見だったらしい
「あ、ありのまま今起こったことを話しますと、私は行き倒れていると思ったらいつのまにか食い倒れていた…なにを言っているのか解らないと思いますが、私にもわかりま
「言いたいことはそれだけ?」
「い、命だけは~!!」
途端に土下座
つくづく人間らしいやつだ
人間…?
「貴方、人間?」
「ええ。そうですけど…なら何かってああ食べちゃうんですか!?血を吸い尽くすんですか!?血ならある程度提供しますからどうか命だけは~!!」
「落ち着きなさいよ…」
うるさいったらありゃしない
「喰われたくないんなら今晩までにあんたが食った分の食料捕ってきなさい」
「それでいいんですか!?」
「逃げようなんて思っちゃダメよ?吸血鬼から逃げられると思っているなら、試してみればいいけど。あくまで今晩がタイムリミットだから」
「お安い御用です!!一飯の恩は返します!恩は返すのがわが家の家訓なのです!」
「お安いって…まぁ期待しているわ」
唖然とした
本気でとってきやがった
「これで命は助けてくれるんですね!?」
「え、ええ…」
山積みの獲物の中には魚もあった
しかも本人はびしょ濡れな所を見ると、潜ってきたのか
冬の、霧の湖を?化け物か
そもそもあの食料庫だって
普通の人間が普通にそれなりの節約をしつつ食べれば、一年分はあったはずだ
それを九割も?
「貴方、本当に人間よね…?」
「ハイッ!!」
「いやぁ、悪いですね~。今朝大量に、それも勝手にご飯食べちゃったのに、晩御飯までご馳走になれるなんて」
「いえいえ、朝食べた分はもう返してくれたじゃない」
パチュリーが人当たりのいい笑顔で言った
八方美人め
「でも晩御飯までご馳走する道理なんてないんだけれど」
呆れたような声でレミリアが言う
「いいじゃない、カリスマ吸血鬼たるもの、懐が大きくないと」
「でもね…」
「貴方には…見えているんじゃないの?」
「貴方…」
「見えている?」
ハンバーグをお代わりしながら少女が尋ねた
「レミィは運命が見えるのよ」
「占い師なんですか?吸血鬼なのに?」
空気が凍った
………………………………………………
……………………………
………………
………
……
…
パチュリーが、ボソッと
「言葉には気をつけたほうがいいわよ」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
即座に土下座
もう疲れた
「パチェ、焼肉するわよ」
「嫌ーーーーーーーーーーー!!!」
「冗談よ…うるさいわね」
「レミィ…今の彼女の精神状態を考えなさいよ…」
「つくづく人間ね、彼女」
頭を抱えて隅にうずくまる彼女をみて、レミリアは笑った
だが、パチュリーは彼女らを…複雑な表情で見ていた……
なにもかもが寝静まった夜―――
紅髪の少女はもう遅いからといって家に泊まっていかせた
そして、レミリアの部屋で―――
「ねぇ、レミィ。貴方は彼女をどうするつもり?」
「………」
「貴方に見えている彼女の運命は、私にも想像できるわ」
「………」
「それとも、貴方には別の未来が見えているの?」
「………」
「………彼女は、人の身を逸した力を持っている。さらに彼女は尚もそれを高めようとして旅をして…幻想郷に来た。つまり、彼女は…」
「………その時が来れば、私が教え込んであげるわ。それまで…」
「ここに繋いでおく…」
「………。私は…まだ……また……見ているだけだから……」
「いやぁ本当ににありがとうございます!お泊りまでさせて貰えるなんて、光栄です」
「それはどうも…ねぇ、あなたはここで働くつもりはないかしら?」
「ええ!雇っていただけるんですか!?こんな私を!?」
「ええ。貴方ほど力があれば、門番の役目ぐらいはこなせると思って」
「私もそろそろ根を下ろそうと思っていた所です。何から何まで、本当にありがとうごさいます!」
意外にもあっさりと少女の就職は決まった
「そういえば、貴方、名前は?」
「紅美鈴ですっ!よろしくお願いします!」
人間…紅美鈴の門番の仕事が始まった
…だが、一般的な人間はそれをこなすことは出来ない
そして彼女は一般的な人間ではなかった
故に…悲劇は起こった
レミリアは、"視ている"ことしか出来なかった
美鈴は十二分に仕事をしてくれていた
当然だ。まだ出来たばかりの幻想郷では力を持つ妖怪は様子見ばかりで手を出しづらい
世界中から集まってるとあって、相手があまりに未知だからだ
故に、館に攻めてくるのは人間と、そんな危険などを考えない下級妖怪だ
おおよそ人の力量を越えている、美鈴の敵ではなかった
だが、彼女の心は人間側だ。命までは奪わないのが、彼女のやり方
「朝に体操するとすっきりしますね~」
朝霧が濃い早朝
おおよそ吸血鬼は爆睡タイムである
人間もこの時間によく来る
「近頃は減りましたね」
ここ二週間はそれらしい戦いは無かった
「やっと秩序が出来ましたか?里のほうでも」
と、思った瞬間だった
ヒュッ
不意に飛んで来た矢を、美鈴は手刀で叩き折った
「噂をすれば…奇襲ですか」
いままで見たことのない人数だった
十や二十じゃきかない
それでも美鈴は
「なんとか殺さずに凌げますかね…」
なんて言っていた
結論から言えば、人間が相手ならば、数がいても変わりは無かった
幸い美鈴のスタイルは格闘。加減はしやすい
だが、そんな美鈴がスタイルを崩し始めたのは
「!?」
人間達の中に妖怪が混じっていたからだ
上からの攻撃は、人間という地に足の着いたものの相手をしていた美鈴の不意をつくのは簡単だった
ギリギリ交わした美鈴だったが、鷹の目をもつ妖怪が逃がしはしない
「ッ!!」
右肩に矢の一本が突き刺さった
「人間と妖怪が手を組むなんて…では何故私達が狙われるんですか」
「私らは金で雇われた程度だよ」
なるほど、自己の利益主義の妖怪には道理に敵った話だ
実際は金だけじゃなく、紅魔館という共通の敵を倒し、自分の身の安全を得る
そういうつもりでもあるんだろう
突き刺さった矢を引き抜く
気の力を解放し、新陳代謝を高める
同時に、痛みを和らげる
飛んでくる矢には気を球状に固めて飛ばすことで応戦した
にしても数が多い。倒してもキリがない
三百六十度、加え、上からも攻められる
美鈴はすこしバテてきていた
(それでもっ…!!)
守ると決めた以上は、頼られている以上は戦わなくては
へたれている訳にはいかない
真後ろに回し蹴りを浴びせる
が、それは鉄製の盾に防がれた
凹んだ盾は美鈴の足を弾かない
「あ…!?」
足首を掴まれ、それを外そうとした瞬間に
右手が中を舞った
小柄な妖怪が持った斧が美鈴の右肩を捉えたのだ
「―――――っ!!」
あまりの事に声も出ない
不思議と痛みは感じない
来る所まで来てしまったというやつか
死ぬのか
たとえそうだとしても、諦めたくはない
私は最後まで戦ってみせる
今の私はこの館に命を預けてもよかったから
もう私は手加減が出来ない
夢中に拳を、脚を振るう
本能だけで戦う
不思議と私は、いつもより身体が軽かった
片腕が無くなったお陰か
私の全身が返り血に染まる
どうやら私は人殺しになったのか
なりふりも構っていられない
私は悪魔の飼い犬なんだ
あらかたの人間、妖怪を片付けた頃、正気を取り戻しつつあった私は初めて、目の前で怯えおののく人間の声が聞こえた
「化け物…」
化け物…そんな呼ばれ方をされるほど、今の私は醜い姿なのか
何人の返り血を浴びた姿
人間はなおも刃を向けてくる
後ろから来るものには振り返り様に裏拳を
左から来たものの手をとり、両手で勢いよく投げ飛ばす
右から来たものの腹部を右拳で…
右拳で…
右拳?両手?
「え…?」
右腕があった
綺麗に
傷一つない
いや、右腕だけじゃない
体中には傷一つついていなかった
否、消えていた
訳がわからなくなった
疑問ばかりが頭に浮かぶ
何故、私の右腕があるのか
何故、私の傷がこんなにも癒えているのか
何故、今、私が心臓を貫かれても死なないのか
何故、貫いた人間を触れただけで、彼が爆ぜてしまったのか
何故、何故、何故、何故、何故
答えは?
……嫌だ
それは認めたくない答え
「化け物!!」
嫌だ
嘘だ
嘘だ!!
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「そんな…寝ている間に…」
「いつかは…こうなるのは分かっていた。けれど、予想外に早かったわね。貴方はどうするの?運命は、貴方が見た通りになった。貴方は何をするの?」
「いつまで…そうしているの?」
「触れないでください。危ないですよ」
美鈴は門のまえから動かない
あれから、人間が攻めてくる事も無くなった
当然だ
彼女はそれなりの人数を殺してしまった
「自惚れないで頂戴。私はそんなんじゃ死なない」
美鈴は何も言わない
彼女が妖怪になってしまう事は運命に見えていた
でも今のレミリアにはそれを回避する術を持っていない
だから、暴走して被害が出る前に、ここに繋いでおくつもりだった
暴走したらすぐに止めるつもりだったのだが…
(過ぎたことを言ってもしかたないわね)
「貴方は、これからどうしたいの?」
「どう…?」
「ここに残る?それともまた、旅に出るのかしら」
「……」
「死にたければ殺してあげる。私にはそれが出来るわ」
レミリアは爪を美鈴の首筋にあてる
「私は
「私は捨てないわ」
美鈴はレミリアに向いた
自らの主人が、自分を捨てないと言った
「貴方がどうしてもっていうなら、捨てるわ。でも、でなければ私は捨てない。」
「……」
「生憎、私も化け物よ。力を教えてほしいなら、教えてあげる」
「ですが…」
「貴方はこの門を護ったじゃない」
「……レミリア様」
「貴方は、私が誇れる門番よ」
そういうと、いつの間にか美鈴は私に頭を下げていた
「ありがとう、ございます」
「その返答は?」
「私が守るのは、生涯ずっと、紅魔館だけです」
美鈴は目端に涙を浮かべながら、笑っていた
いつもの彼女の笑顔だった
「そう」
「ふふ、一応めでたくは終わったかしら?」
「そんなことないわ」
「そうなの?」
「私は"視ること"しか出来ない。自分で壊して、目を背けられるフランのほうが幸せかもしれないわね」
「確かにそうかもね」
「…私は、このままでいるつもりはない」
「どうするの?」
「私は、運命を操れるようになってみせる」
「結構な事を言うわね、そんな事が出来るのかしら」
「やってみせるわ。もうお母様も、美鈴も、見ているだけなのはもう嫌よ」
「……ええ。正直私も辛いわね」
「なら、協力してくれるわね?」
「親友のためなら、仕方ないわね」
この日レミリアは、強くなることを選んだ
再び悲劇に会わないために
そして、数十年後…
最後がどうなるのか、気になるところではありますね。
彼女が食料庫を食い荒らしたのは面白かったですよ。
それと…あっさりしすぎというか、地の文章を一つの文ごとに
区切ってあったりするのが多いかな…と。
それと人のセリフの終わりに『 」 』が付いていないことがありますが、
途中で他の人の言葉が割り込んでいるから…ということでしょうか?