Coolier - 新生・東方創想話

女伊達血染満月

2009/05/02 23:14:44
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(これより前の部分は、すでに失われて久しい……と、彼女は言った)







六幕目  

紅魔城天守の場



・チヨボ
 浦島遊んだ竜宮に、寅吉迷うた天狗の国。
 本朝に仙境は数あれど、とりわけ暢気は幻想郷。
 そを惑わせし不埒の紅霧、いざ我が手で絶やさんと、紅白まとった揚羽蝶、博麗のかんなぎ夜を飛ぶ。
 急ぎの足は韋駄天の、天祐ありて城の奥、王手飛車角最後の詰めに、待ツたをかける無粋の追手。


   咲夜、下手より出やる。


咲夜 アアコリヤコリヤ、鬼よりも恐ろしきは姫様(ひいさま)の御勘気。
   南無参、せめては矢の一本でもへし折って、忠義の奉公。
   (ト小柄構へ)

霊夢 エエ猪口才な。女中ならば味噌の壱合、塵紙を壱帳、求めに出るがせいぜい奉公。
   (ト幣帛構へ)


   舞台いツぱいの立ち回り。
   霊夢、相手を組み伏せ見得。
   咲夜、上手に引ツ込み、チヨンチヨンにて返し。


霊夢 枯尾花かまことの魔物か、サア正念場。正体見せよや小童め。


   ドロドロ鳴る。
   黎魅、花道スツポンより出やる。
   

黎魅 テモ頼みとならぬは人の身ぢやわいな。

霊夢 ハテ先の女中、人であツたか。


・チヨボ
 墨を流せる天穹に、星は見えねどぽツかりと、鮮やか浮かぶは血染めの月。
 薔薇も椿も下にィ下にィ、地べたで生きる一切へ、まことの紅さを教えおく、天文中の天文を、隠す不遜の蝙蝠の、翼広げて呵呵大笑。
 これぞ南蛮百鬼の親玉、通り名をば深紅の黎魅、牙を光らせいよいよお出ましィ。


黎魅 アア情けなや、おことは殺生戒を破りしぞ。

霊夢 イヤせいぜいひとり、勘定の内にはあらず。

黎魅 オオ。
   (ト思入れ)

霊夢 サテ聞かつしやれ。そこもとの、いけシヤアシヤアの暮らしぶり、我ら一同はなはだ迷惑。

黎魅 短気は損気の古言もあろうに、剣呑剣呑。訳も知らずに何をおつしやる。

霊夢 エエ問答無用。罷れい罷れい。

黎魅 ここは我が城、我が住処。罷るべきは、おことならんや。

霊夢 うつし世より罷れと申したるぞ。

   
   ドロドロ強く鳴る。
   双方詰め寄る。


黎魅 夕餉も済んだ先から、なんとも是非の無い話ぢや。

霊夢 女中ごときに身を守らせたるとは笑いぐさ、猛き平家武者の一門とて海の泡と消えつるを、箱入りの弱姫ならば語るもおろか。

黎魅 咲夜は優れたる箒役、およそ雑魚首ひとつ我が前に投げ出すことなきものを。

霊夢 ムウ。そこもとが武辺、ドレドレいかほどなりや。


   ドロドロ止。
   代はつて下座、伴天連節『亡き姫しのぶ七重神楽』しづかに鳴らす。


黎魅 知らんわい。日輪のもとに置く身無ければ、土を踏むのも玉手箱。

霊夢 箱入りだけに。オオよく出来たよく出来た。

黎魅 サテ。望月のかくも美事に紅ならば、おことが玉の緒、霧に消ゆべし。

霊夢 サテサテ。望月のかくも美事に紅なれど。

黎魅 楽しき夜と、アなりそうぢやわいな。

霊夢 永き夜と、アなりそうぢやのう。



   両者きツと見得。



(これより後の部分は、汚損が激しく判読不能)
 そのタイトルを、彼女は、
「おんなだて・ちぞめの・もちつき」
 と読んだ。
 私の頭に渦巻く『歴史』をいくら検索しても、合致する名は一件も見当たらない。

 そんな私の困惑顔を嬉しそうに眺めながら、彼女は説明を続ける。


「この脚本が実演されたのは歴史上ただ一度、享保十三年の市村座公演においてのみ。『女形による荒事』という全く新しい発想によって生まれたこの実験作は、四代竹之丞をはじめとする市村座の面々によって見事に演じ切られました。江戸市民たちの評判も上々で、当時、再演を望む声は高かったと聞いています。しかし、質素倹約を至上の美徳と考える将軍吉宗にとって、ド派手で豪奢な舞台装置を用いるこの作品は、とうてい看過できぬものでありました」

 私はしばし、瞑目する。
 古今を通じ、『外』の人間は歴史を尊ぶ心を知らぬ。

「加えて、欧州から輸入された妖怪たちが舞台上に跋扈しているのだからな。キリスト教文化の伝播・拡散を何よりも恐れる幕府が、即座に発禁処分を下すのも当然の成り行きだろう」
「お察しの通り。台本は全て召し上げられ、焼かれました。で、お上の目を逃れて密かに残っていたこの一冊も、また」
「幾たびもの水火と戦災に曝され続けた結果、このザマか。痛ましいな」
「はい。でもまあ、たとえ一部であっても、これが貴重な資料であるという事実は揺らぎません。そんなレアものが向こうから飛び込んできてくれるなんて、この上ない僥倖ですよ」
「そうだね。幻想郷に生まれた幸せに、感謝せねばならんな」
「かく言う私も、これを道端で偶然に拾った時の感動たるや……ええ、ええ、筆舌に尽くしがたいほどでしたよ」
「だろうな! 埋もれた歴史の発掘以上に楽しい仕事はないからな!」
「全くで! あ、ちなみにこれを書いたのは太田屋酔虎という人物なんですが、その来歴も本名も一切不明でして……」
「ふふふ……しかし、意外だなぁ!」
「え」
「君が、こんなにも文学史に精通していたとはね。その立て板に水の語り口こそ、芝居の台詞じみている」
「そりゃまあ、何度も練習し……おっとと、長年に渡って勉強を重ねて参りましたからね」
「うむ、実に良いことだ。うちの生徒たちにも見習わせたいよ」
「へへえ。そうですねぇ。こういうユニークな資料なら、授業のテキストとしても重宝しそうですねぇ」
「この私ですら知らなかった、全くの新発見だからな。まあ正直、内容はちょっとシュールと言うか、とてもとても戯作の心得のある者が書いたものとは思えないんだが」
「ぎくり」
「この破綻ぶり……他に類をみない奔放さを、かえって愛でたくなった。それに、幻想郷伝説に取材した作品である以上、この私が放っておくわけにもいくまい」
「お、それじゃあ!」
「ああ、君の言い値で買わせてもらおう」
「はははは。いやー、貴方のように歴史的な歴史家に貰われて、こいつもさぞや満足していることでしょう」
「はははは。いやいやなんの」
「はははは、今日はなんとも、あは、めでたい日ですねぇ、はは、ははは……くっくくくく」


 うむ、全くだ。
 流石は幸せの運び手、実に良い買い物をさせてもらったよ白兎殿!






(追記)
ご批評ありがとうございます。
しょせんは悪ふざけの一発ネタ、せいぜい読み飛ばしてもらえればいいや……
と思っておりましたが、確かに読者に対してやや不親切だったやも。
千両役者が切る見得のごとく、痛快インパクトあふれる文章を書くのは難しいものです。
また、真に芸能通の方から見れば色々とおかしい文章だとも思いますが、まあウ詐欺師の筆によるものとしてお目こぼし下さいまし。

それでは、失礼しました。
すこぶる
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コメント



0.660簡易評価
1.10名前が無い程度の能力削除
なにがしたいのかサッパリです。
3.無評価名前が無い程度の能力削除
日本語なんだけど、何が書いてあるのかわからない罠。
勉強してる人はわかるんだろうなあ。
不勉強な自分にはさっぱりだった。
意味がわかればたのしそうなんだけど。
4.80J.D削除
あはははは。さすがてゐさん。
次は魔理沙版売らないとね。
6.70煉獄削除
う~ん…てゐが慧音に言葉巧みにその本を売ったというのは面白いのですよ。
でも、もう少し本文のほうを読みやすくしてくれたらな…とは
個人的にですが思いました。
でも「江戸」という年代的なものでいえば、普通なのかもしれないんですよね。
9.100名前が無い程度の能力削除
お美事なりかな東方歌舞伎郷
10.100名前が無い程度の能力削除
賛否はわかれると思いますが、私は面白いと思いました。
台詞の置き換えが上手い。
ただ、内容が内容だけに、一発ネタな感じはしますが ^^;
13.70名前が無い程度の能力削除
訳文を併記して欲しいなw
15.90名前が無い程度の能力削除
ある程度わかると思うけど、わからない人の為の超簡単解説。

本文:紅魔郷ステージ6(霊夢)を歌舞伎?風に書き上げたもの。

後書:それを曰くありげな代物としててゐが慧音に言葉巧みに売りつける。

一発ネタですが面白かったです。
16.80名前が無い程度の能力削除
実験的文章かなとおもいきや、ちゃんとした話になってたんだ。

初めに注意がきした方が途中飛ばして酷評する人が減ると思いますよ。
19.90名前が無い程度の能力削除
>新しい発想によって生まれたこの実験作
この投稿自体も、またしかり。

>ちょっとシュール
こんなパロディを考えた、あなたの頭の中身も!

これは、ちょっとした奇襲でした。
二度とは使えない手だとは思いますが、個人的には嫌いじゃないです。
22.90つくし削除
これはオモチロイ。翻訳というか、翻案の妙が利いておりました。
23.90名前が無い程度の能力削除
これが噂に聞くスーパー歌舞伎ってやつですか?
歌舞伎役者が腋巫女コスプレで芝居している姿を想像して、吹いた。
25.100名前が無い程度の能力削除
>代はつて下座、伴天連節『亡き姫しのぶ七重神楽』しづかに鳴らす。

かっけぇぇ!!
こりゃええわ。ドツボに入った。
27.80名前が無い程度の能力削除
私個人的にはコメ15のおかげで評価が一変した作品。
縁取りとかしたお嬢さん達がこんな台詞で会話してるだろう様はまさにシュール。
面白かったです。
28.100名前が無い程度の能力削除
お美事、お美事に御座います
29.無評価名前が無い程度の能力削除
何と言う粋な文章!!
読みやすいこのリズムに憧れます
30.100名前が無い程度の能力削除
↑すみません…点数忘れてました
35.100名前が無い程度の能力削除
おみごと
拍手、ぱちぱち
37.100リペヤー削除
まさに「粋」
日本に伝わる見事な文体をありがとうございました

レミリアの漢字読みは「れいみ」で良いのかな?
39.90名前が無い程度の能力削除
平家武者吹いたw
これはいいパロディ。魔理沙バージョンも読んでみたかったですね。