Coolier - 新生・東方創想話

変わる者、変える者

2009/05/02 21:26:55
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……とある用事で地下に行った時の帰り道であった。

「妬ましい……」

それは、地の底から響く様な声だった(実際地下だが……)。
その声は橋の下から聞こえた。

不穏な空気を纏う声だったため彼女はその声の主の事が気になった。

何故その様な不穏な空気を感じさせるのか?
何が其処まで妬ましいのだろうか?

空気を読む竜宮の使いとしては気になって仕方が無かった。

そして、彼女に出会った。


――



「お~いキスメ、オヤツにしよ~!」

ヤマメの明るい声が辺りいっぱいに響く。
彼女はキスメと一緒に遊ぶ事が多い。
そして、今日も二人は一緒に遊んでいた。

「うん、今行く~」

キスメはヤマメの声に嬉々として、ピョコピョコと器用に桶ごと飛び跳ねながら
彼女の元に向かう。

ヤマメは地面にシート敷いて持って来たお菓子を広げる。
広げられたお菓子は種類豊富で二人では食べ切れない程の量だったが
そんな事は彼女達は気にしない。
こういった物は量多ければ多い程楽しいからだ。
それに、余ればまた次の日のオヤツとなる。

「わぁ、いっぱいあるね」

「今お茶淹れるからちょっと待ってね」

嬉しそうなとキスメの声にヤマメはお茶の準備をする。

二人共楽しそうに、嬉しそうにしている。
そんな彼女達に声がかけられた。

「あら、随分楽しそうね?」

「「え?」」

その声に二人は同時に声を上げた。
聞き覚えのある声だった。
そして二人は声の方に視線を向ける。

そこには、
仲良くしている者達を妬み。
幸せそうな者を妬む。
嫉妬の象徴とも言える存在。
橋姫、水橋パルスィその人がいつの間にか立っていた。

その存在を確認して二人の表情が曇る。
先程まで楽しそうにしていた彼女達から考えられない表情であった。

別に二人はパルスィの事が嫌いなわけではない。

ただ、苦手なのだ。
一人でいる時ならいいのだが、二人で遊んでいる時には会いたくない相手であった。

「貴女達は本当に仲が良いのね?」

少し溜息交じりの彼女の声が聞こえた。
これからどうなるのか、想像する事は容易い。
『妬ましい』の一言から始まり、ツラツラと彼女の小言を聞かされるのだろう。

――もう、今日は楽しくない……

二人はその事を悟った。
今日は日が悪かった、天災の様な物だ。
そう思うと多少の諦めはついた。

しかし、橋姫の第一声は彼女達の予想を覆す物だった。

「羨ましいわ……」

それは優しい声だった。

「「へ?」」

二人はまた同時に声を上げた。
余りにも予想に反する言葉とイントネーションだった。
一瞬誰の声なのか考えた程である。

「本当に羨ましい、私には貴女達みたいに一緒にお菓子を食べる
友達もいないから、少し憧れるわね……」

彼女らしくない、少し悲しそうな顔と本当に羨ましそうな声だった。

「え?え~とじゃあ、一緒にどうですか?二人だとちょっと量が多いから……」

咄嗟にヤマメはそう言っていた。
あまりにも普段と雰囲気が違うため、つい言ってしまった言葉である。
いつもなら『妬ましい、妬ましい』と本当に負の感情いっぱいで言ってくるのに
今日はどうだ?まったくそんな事はない。
だから言ってみた。

今日の彼女は何かがおかしい、もしも普段の彼女にこんな事を言えば
『あら?他人を誘える余裕なんてあるのね……、本当に妬ましいわ』
などと言ってくるはずだ。

ヤマメは密かにソレを期待していた。

しかし、

「……いいの?私二人の邪魔にならないかしら?大丈夫?」

パルスィは少しオドオドしながらそう返してきた。

何か悪い物でも喰ったのか!?水橋パルスィ!!

二人は驚愕する。
自分達の知っている彼女とは明らかに違う。

「えと…、隣いいかしら?」

パルスィは驚く彼女達に気付く事なくキスメに確認をとる。

キスメはただ頷く事しかできなかった。

「それじゃあ、失礼するわね」

穏やかに言ってパルスィは座る。
そして、オヤツタイムもそのまま穏やかに、そして楽しく終った。



――



地下世界に衝撃が走った。
それは噂として瞬く間に旧都、地霊殿に伝わった。
そして、誰もが驚いた。

『あの』橋姫が穏やかになった!?

『今まで『妬ましい』と他人を妬み他者と壁を作っていた彼女が穏やかになった?』
最初は今までが今までだけに、ヤマメとキスメの冗談だろうと皆信用しなかったが、
日にちが過ぎるにつれて、旧都でも穏やかな橋姫の姿は目撃される様になった。

喫茶店で、服屋で、八百屋で、妬ましいなどと言わず
『羨ましい』と穏やかに他人を褒め微笑む彼女は美しかった。

ゆえに長い時間はいらなかった。
地下の住人達の中でアッチが橋姫の本当の素顔だと確定され、
その日から、彼女は地下世界でも指折りの人気者となった。



――



すらすらと筆を進め

「ふう……、こんなものですかね」

衣玖は筆を置き、目頭を押さえた。

「衣玖何してるの?」

その時ひょいと後ろから手が伸びてきて、天子に目の前にある紙が持っていかれた。



――



緊急アンケート 橋姫、水橋パルスィをどう思う?
※一部抜粋

地下入り口付近のKYさん
『最初はなんだか怖い人だと思っていたんですけど、話してみたらすごくいい人で
最近では色んな相談も聞いてもらってますし、一緒にお菓子を食べたりします』

地下旧都に住むHYさん
『んあ?あー、最近よく一緒に飲んでるよ、話は面白いし、料理も美味いからな
あんま聞かない料理だけどな、確かペルなんとかの料理って言ってわ』

地霊殿に住むKSさん
『ああ、橋姫ですか……、そうですね最近よく一緒にお茶を飲みますよ
今まででは考えられない事ですね。
今度二人で服でも買いに行こうと約束もしました、楽しみですね』

ペットKRさん(自称)
『んー、最近よくアタイの仕事の手伝いをしてくれるよ、おかげで
アタイはよくサボれて…、はっ、ゲフンモフン(本当にKRさんかは不明)』

同お⑨
『うん、こないだね……、何だっけ?』

この様に周りからも変わったとの言葉が集まりました。
アナタもきっと変わる事が出来ます。
もしも変わる事が出来なければ御代は結構です。
思い切って新しいアナタを見つけてみませんか?


            永江 衣玖



――



そのまま、天子はその紙を眺めて一言

「何コレ?」

「それは地下世界で聴取したアンケートの結果です」

衣玖は当然の様に答えるが、天子としては意味が解らない。
何故天界にいる彼女が地下のアンケートなど聴取しているのだろう?
思いはそのまま、疑問として発音された。

「地下のアンケート?何で貴女がこんな事してるの?」

「ああ、それはですね、最近どっかの天人が地上に要石を刺したおかげで
ただでさえ少なかった私の仕事がさらに減りましてね
副業でもしなければ食べていけなくなってしまったんですよ」

衣玖はニコリと微笑む。

「え?えーと……」

「まぁ、誰のせいとはいいませんがね」

ニコニコと上機嫌な衣玖の言葉に背筋がゾクリとした。
何故だろう?
彼女は笑顔のはずなのに妙な威圧感を感じる。

「ご、ごめんなさい」

何故だか無性に謝りたい気分になったので、天子は普通に謝罪する。
しかし、その言葉に衣玖は怪訝そうに眉を顰める。

「何を、謝るのですか総領娘様?総領娘様は地上の者達のために地震を減らしたのでは
ないですか、……私の仕事を奪って」

「い、衣玖怒ってるの?」

「いいえ、これっぽっちも怒っていませんわ」

「……(絶対嘘だ)」

天子は目を逸らす。
彼女はかなり怒ってる様だ、何とか話題を変えなければいけない。

「そ、そうだ衣玖は、これからどんな事しようとしてるの?」

「え?それはですね、こちらを見てください」

衣玖の雰囲気から緊張感が消えて天子はホッとする。
よかった、どうやら話題は逸らせた様だ。
天子は渡された紙に目を通す。



――



つい先日の事だ。
アホの天人のせいで地下に行く用事ができてしまった日の帰り道の事だった。
行く時も同じ橋を渡ったがその時は気が付かなかった。
しかし、帰りに不穏な言葉と空気を感じて、橋の周辺を捜し私は彼女と出合った。

橋姫と名乗った彼女の周囲の空気は澱み、近づく者を威圧する空気だった。

私は尋ねた。

『何がそこまで妬ましいのですか?』

私の言葉に彼女は眉を顰める。

『全てよ、この世の全てが妬ましいわ、仲良くしている奴らも
恵まれている奴らも、貴女の様に他人に興味が持てる様な奴も
全てが妬ましいのよ!』

語尾を強めて言う彼女の言葉
他者を寄せ付けぬ空気の中で私は一つ気が付く事ができた。

彼女は本当は『羨ましい』のだ。
妬ましいと口にしているがその実彼女は羨ましくてしょうがないのだ。

自分とは違い、友人や恋人のいる者達が、恵まれている者が
他者に興味が持てる者が羨ましくてしょうがないのだ。

しかし、彼女はその事に気付けないでいる。
だからこそ彼女は『妬ましい』と口にしている。
自分の中に芽生える感情が何なのか気が付く事ができないために
彼女は『妬ましい』と口にして他者を突き放す。
そうして、彼女は自分を騙し続けているのだ。

それは単純でもっとも簡単な嘘
しかし、それは他者だけでなく自分自身すらも貶めて傷付けている。

なんて、不器用なのだろう。
そんな彼女を救いたい。
私は私の中に不思議な感情が芽生えたのを感じた。

『パルスィさん、私が貴女を救って見せます』

気が付けば私はそう口にしていた。



――



天子はパラパラと渡された紙束を捲っていく
書かれているのは出来の悪いショートストーリーの様なもので
簡単に言えば、衣玖が地下で出あったパルスィと言う少女に話術を教える事により、
嫌われ者だった彼女が人気者になるという話であった。

「いかがでしょうか?後は誤字等の確認と清書を終えたら天狗に頼み
新聞と一緒に配っていただこうと思っています」

「……(二文目に悪意を感じる)」

最初の方の二文目の『アホの天人』に多大なる悪意を感じたが
下手な口出しは止めておこうと天子は思った。

とりあえず、このままで会話を進める事にした。

「えーと、つまり衣玖がやりたいのは」

「はい、話術カリキュラムです、なかなか友人の出来ない方、話すのが苦手な方、
もっと積極的になりたい方など今の自分を変えたい方をターゲットに簡単な話術の方法などを
手取り足取りお教えしようと考えています、受講料もリーズナブルにしようと思っています」

空気を読める彼女ならでは発想だろう。
空気が読めるゆえに衣玖はどんな場所にでも適応できる。
自分から中心になる事は殆ど無いが、その気になればソレも簡単だろう。
そんな彼女の授業ならば確かに何かしらの変化はあるだろう。

しかし、

「コレ上手くいくの?」

実際胡散臭い感じがする。
一応まだ纏まっていないものなのでこれからイロイロ編集するのだろうが
この時点で何だか物凄く胡散臭い。

「こういうのって、もっと実績があった方がいいんじゃないの?」

その言葉に衣玖は手を叩く

「では、総領娘様も体験してみてはどうでしょう?」

「へ?」

「私としても若干の不安があるので是非総領娘様の感想を聞かせてください」

天子は考える。
下手に嫌だとか言ったらまた衣玖の機嫌を損ねるだろう。
ならばココは、大人しくしているのが吉だろう。
それに、衣玖がどんな授業を行うのか多少なりとも興味がある。

「いいわ、じゃあ手伝ってあげる」

言った瞬間、衣玖の羽衣が天子を拘束する。

「え?ちょ、衣玖?何コレ?」

ギチギチと羽衣は天子の身体を拘束して、彼女の動きを完璧に止めてしまった。

「では、これから話術カリキュラムを始めますわ」

天子の言葉を気にせず嬉しそうに語る彼女の姿に再び背筋がゾクリとした。
嫌な予感しかしない。

「ま、待って衣玖!」

天子は咄嗟に叫んだ。

「どうしたのですか総領娘様?」

「始める前に答えて、何で私は身動きが取れない状態になっているの?」

「それは逃げない様にですよ?」

当然の様に衣玖は言う。

「逃げない様にって、別に逃げないわよ」

「いえ、でも電気使いますから、パルスィさんもそれで最初の頃はよく逃げていたので
まずは拘束する事にしたんですよ」

電気?え?それってどういう事?

「え?ちょ、電気って何よ?何に使うのよ!?」

「知っていますか総領娘様?」

「何を!?」

慌てる天子に対して衣玖はまったく動じる事はなく

「電圧によって、人は素直な自分を取り戻す事が出来るのですよ?」

冷たい笑みを衣玖は浮べた。

天子は頭の中で今の言葉を吟味する。
言われた言葉の意味を頭が理解する事を放棄していたのでじっくり考える。
そして

「いやーー!!さっきのストーリーに電圧なんて書いてなかったじゃなアババババババ」

暴れる天子に衣玖はさっそく三十万ボルト程度の電圧を流した。

「では、始めましょう総領娘様。本当は本人にどうなりたいのかを聞いてから始めるつもりですが、
総領娘様は少し御転婆がすぎるので、もっと御淑やかになるカリキュラムにしましょう。
期間は一週間ですので共に頑張りましょう?フフフ……」

彼女の微笑みは天子の耳には聞こえなかった。



――



それから暫くして
御淑やかなお嬢様の様な天子の姿が目撃される様になった。

パルスィ、天子の二人を変えた衣玖の話術スクールは有名になり
それなりに繁盛した。

ただ、受講を考える者が受講した者に講習の内容を聞くと
受講した者が突然痙攣を起こす怪現象が確認されるようになった。



――



竜宮の使い永江衣玖がマンツーマンで行う話術教室
コースは一日一時間一週間コースがお勧めです。
きっと、どんな方でも新しい自分を見つける事ができるはずです。
もしも駄目だった場合は料金は全額お返しします。

今まで受講した方は皆さん変わられています。
消極的だった方は積極的に、暗かった方は明るくなれています。
(詳しくは別紙をご覧下さい)

料金等は空気を読んでリーズナブルになっていますが
受講の方はお一人様づつとなりますのでお申し込みはお早めに……

                       永江衣玖
投稿十一度目となりました。

当初はパルスィ中心の話だったのですが、上手く纏まらず
気紛れで地下にまったく関係のない衣玖を織り交ぜたらこんな話に……
何だか衣玖さん中心の話っぽくなってしまいました。

ところで衣玖さん、それは授業じゃない、洗脳だ。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
感想や誤字脱字などの間違いがあれば教えてください。
H2O
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コメント



0.2070簡易評価
9.100煉獄削除
衣玖さん……ホントにそれは授業じゃないよ…。
でも天子が受けた事や内容を聞くと痙攣するというのに笑っちゃいましたねぇ。
洗n…ンン…もとい授業を受けたあとのパルスィが穏やかに
微笑むという光景が良いですね。
「羨ましい」って良いながらか……可愛いなぁ。
面白かったですよ。
17.90名前が無い程度の能力削除
調教というか,なんというかwww
21.80名前が無い程度の能力削除
なんじゃこりゃw
22.100名前が無い程度の能力削除
衣玖さん、それは授業じゃなくてなんだか危険な「治療」の匂いがしますよ……。

「妬ましい」を「羨ましい」に変換すると幸せになれるんですね。
お嬢様天子も見てみたいww
23.80とらねこ削除
暖かいお話だと思ったら、そう来るとは。
24.90名前が無い程度の能力削除
むしろ「調教」だぜ。

いやー、ほのぼのなのかと思ったら騙されたw
27.無評価H2O削除
煉獄様
パルスィの新たな可能性を見出したかったのです、そしたら衣玖さんの洗脳ネタになりました。
妬ましいって言わなけりゃパルスィは可愛いで終れるんじゃないかなぁ…、と思っています。
17様
やっぱり『洗脳』ですかね?または、すりこみとか?
21様
衣玖さんの話術とは名ばかりの『洗脳調教』でしょうか?
ただあの御方、緋想天のルート見る限りSの様な気がします。
22様
その内エーリン先生と手を組み、新たな『更生治療』を行いそうですね。
お嬢様天子はそれはそれは礼儀正しく、きっと紫様も敵視しないくらい大人しいのだと思います。
とらねこ様
コメディ大好き人間なので……
タグにコメディを付けた物は唯では終らない物を目指しています。
24様
『洗脳』ではなくやっぱり『調教』ですかね…
空気を読んだらこうなりました。
42.90名前が無い程度の能力削除
あばばばばw
43.無評価H2O削除
42様
心温まる和やかな調ky…、授業風景ですね……