Coolier - 新生・東方創想話

幻想郷縁起・求聞手記

2009/05/02 19:51:45
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 序


 私、稗田阿求が今代の幻想郷縁起を編纂してからしばらくたつ。
 改めて振り返ると、今回で九冊目になる幻想郷縁起は、現在の幻想郷の実態を今風の文体、多くの挿絵など、なるべく読みやすいようにと心がけ、できるだけ多くの人に手にとってもらおうと努め、そして形となった作品である。

 その甲斐もあってか、幻想郷縁起は手軽に読める本という形で多く刷られ、結果、人間にも妖怪にも比較的好意的に受け入れられたようである。

 これは寺小屋の講師・上白沢慧音殿の惜しまぬ協力と、最近幻想郷に大量に流れ込んでくるようになった紙、そして香霖堂の店主がしぶしぶレンタルしてくれた印刷機のおかげという事を、まず最初に書き記したい。
 本の一部が外の世界に流れてしまったという噂があるが、確かめようもないので頭の隅に留めて程度にする。

 ともあれ無事一冊の本としての編纂が終了した幻想郷縁起であるが、最近また幻想郷には多くの動きがあり、それに伴い再度追加の編纂を求める声が多くなってきた。特に妖怪図鑑、英雄伝の項等は大幅な加筆が必要なようである。

 現在はまだ、調査、目撃情報、直接の講談などの機会が少ないため、ある程度纏まってから書き記したいと考えている。
 私自身は元より転生の準備まで編纂を続けるつもりであるので、それまでにまた本という形で人々に提供したい。




 ここから先は、現在纏まっている妖怪・英雄の項についてのメモ書き、また日記的な何かも含まれる取り留めのない内容になっている。

 なぜこのようなものを残すかと言うと、今回加筆をするにあたって必要とする妖怪、また人物にはその出自からして不明な点が多く、話を聞くにしても、それなりの心構えが必要と思われるからだ。
 話を聞く対象は出来る限り選ぶつもりだが、万が一という事もあり、その場合は自分の身を持ってその妖怪等の危険性を知らしめる事になるだろう。

 なお、無事に編纂を終えた場合、この端書きは密かに燃やそうと考えている。
 会話の内容は忘れることはないので、本来記録する必要がなく、私自身も無事でありたいという欲求が強いので、この紙には必要最低限の項目以外その時に思った事、感じた事、遊び心的なものをそのまま日記のように書き連ねる事もあるだろう。
 要は有事以外に見られるのはできるだけ避けたい代物だ。




●注意書き

 もし、書き手が故人の場合を除き、編纂中、あるいはその前にこの紙を見てしまった場合は、速やかに元に戻し、そのまま忘れてなかった事にして貰いたい。さもないと、阿礼の呪いが七代にわたって降りかかることだろう(※猫ではないが)
 

 それでは、注意書きを三回読んで、素敵な貴方により安全な幻想郷ライフを。


















■妖怪・英雄図鑑 追加項候補



[八百万の神]
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 秋 静葉(あき しずは)
 Aki Sizuha


 幻想郷の秋を司る姉妹神の姉である。
 彼女は幻想郷の木々を美しい色合いに染め、秋が訪れた事を知らせる役割をもつ。
 
 特に紅葉がお気に入りで、彼女がいる周辺は特に見事な色合いの木々が立ち並び、その場所を主な活動拠点とする。(※ようするにあまり動かない)
 人間に寛容な神々の一柱であり、危険性はほとんどないが、彼女の周りで秋を乱すような真似は慎もう。 



 

§ 目撃報告例 §


・この前珍しく静葉さんを見たよ。なんだか目立たないねぇ(匿名)
 姉の静葉は、自分の見せている美しい紅葉の影に隠れてしまって気がつきにくい。カモフラージュなのだろうか。(※忍法かも)

・それでも俺は静葉さんを応援するよ。(夢次)
 彼女自身は地味だが、歌人など風流な方々に人気がある。

・妹さんと一緒にいるのをあまり見かけないねぇ。一緒に来ればいいのに。(収穫祭実行委員)
 お祭りのような騒がしいのは好きじゃないらしい。



・付き合い方・

 彼女自身は静かに秋を楽しみたいだけなので特にその邪魔をしなければ特に問題はない。
 また、その美しい紅葉を楽しむため、近くまで紅葉狩りに出掛けるのもいいだろう。 
 彼女は紅葉を自慢したいため、許可をとれば快く受け入れてくれる筈だ。
 その際は紅葉狩りと言うと気を悪くするので、観楓、もみじみといった言葉を使った方が良いだろう(※実際に拾い集める場合も声をかけておこう。また、ゴミが出たらきちんと持ち帰りましょう。)







 秋 穣子(あき みのりこ)
 Aki Minoriko

 能力:豊穣を司る程度の能力

 危険度 低

 人間友好度 高

 主な活動場所 妖怪の山の麓など
 

 幻想郷の秋を司る姉妹神の妹である。 
 彼女は豊穣を司る能力を持ち、その力で多くの農作物・果実などに秋の恵みをもたらす。

 普段から果物や農作物の甘い香りを漂わす彼女は、人間にとってありがたい神様として人気が高く、毎年里で行われる収穫祭の特別ゲストとして呼ばれており馴染み深い。
  
 
§ 目撃報告例 §


・穣子さんをいつも収穫祭で呼ぶけど、不作の時もあるんだよなあ。何が悪かったのだろう(収穫祭実行委員)

 もしかしたら、収穫前に呼ばないと意味がないのかもしれない。(※でも特に指摘されてないから、そんな事もないのかも)

・あの香りのせいで近くにいると腹がへってしかたない。(匿名)

 収穫祭の打ち合わせの時に会うと私もお腹がへる。

・妖怪の山で巨大な栗を拾った。もしかしてあの神の仕業か? 森に持ってけば茸も育つかな。(霧雨魔理沙)

 彼女が普段居るところでは作物が異常に育つ傾向がある。だからといってその網で捕まえないように。

・冬に見かけたら元気がなかった。(匿名)

 木の葉が落ちると秋の神様の気も落ちる。来年までそっとしておこう。




・付き合い方・

 姉と同じく危険度は低い。ただ、神様であるのできちんと敬う必要がある。でないと来年のご飯が寂しいことになりかねない。
 収穫祭の最中はこの神様の相談コーナーも受け付けているので、作物について不安があったり質問があったらこの機会に訊ねてみるといいだろう。
 また、焼き芋など近くでやると嫌がられるので慎もう。(※しかし焼き芋は秋を満喫するのに最高のイベント)



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[厄神様]
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 鍵山 雛(かぎやま ひな) 
 Kagiyama Hina 

 古くから流し雛という儀式がある。
 これは自分に似せた人形を作り、それを自分に憑いている厄ごと川に流してしまうものである。
 彼女はその流された雛達の長である。
 
 彼女は厄払いで払われた厄を集め、ため込んでいく。 
 その為、その周りはただの人間の目でわかる程に多くの厄が渦巻いているという。
 彼女はその厄が人間の元に戻らないように、見張ってくれている。



 § 目撃報告例 §


・山の近くでくるくる回ってる赤い姿を見た。あれが噂のUFOというやつだろうか(匿名)

 それはUFOでなく、厄神様である。おそらく厄を集めていたのだろう。


・この前川で見た大量の人形は、流し雛だったんだねぇ。あのままどこに行くのだろう(匿名)

 彼女の姿が妖怪の山近くで多く見られることから、その辺りの川底に溜まっているのかもしれない。



 § 対策 §

 
 近寄らないのが一番である。
 目に見えるほど強力な厄は、それに触れた人間(※妖怪でも)たちどころに不幸にしてしまうだろう。 
 彼女もそれは望んでいないはずなので、我々はその存在を敬いつつも、遠くから眺めるしかない。 

 
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[河童]
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 河城 にとり(かわしろ にとり)
 Kawasiro Nitori

 我々の前では滅多に姿を現さない種族・河童だが、今回その一人の名を知ることが出来た。
 
 人間を見るとすぐ逃げてしまうその性質上、我々を避けているかと思いきや、
 どうやら彼等は人間を普段からよく観察しており、ある種の親近感まで持ち合わせているようである。

 河童の科学は幻想郷でも随一であり、その一部が各所で使われている事もあり(※龍神像の天気予報等)その恩恵は大きい。

 また、昨今新たなエネルギーを開発したとの情報も有り、今後益々の発展を遂げる可能性がある(※外の音楽を奏でる道具も作ってもらえるかもしれない)
 
 情報元からの仲介次第では、直接の対談に持ち込める可能性が十分にあり、
 今後も熱意を持って交渉を進める次第である(※あくまで編纂のため)


 § 目撃報告例 §


・なにか大きな荷物を持って歩いているのを見たよ。こちらに気づいたらすぐ逃げてしまったけど(匿名)

 仕事道具は職人の命。常に持ち歩いていないと不安なのかも知れない。   


・川縁でなにか作っているのを見たよ。こちらに気づいたらすぐ逃げてしまったけど(匿名) 

 河童の工作は日常である。置いてきぼりの品は未完成だろうから触れないでおこう。


・あんな服を着て、本当に泳げるのか?(霧雨魔理沙)

 河童の服は完全防水。泳ぎに支障をきたす事もない(※たまに流されるが)

 
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[天狗]
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 犬走 椛(いぬばしり もみじ)
 Inubashiri Momizi

 主に妖怪の山で見回りをしている。細かい種族は白狼天狗である。
 視覚・聴覚共に大変優れており、侵入者を瞬時に発見する。

 天狗の中では使いっぱしり部類に入るが、それでも人間には十分な脅威である。
 くれぐれも遊び半分で山に近づこうとしないように。


 § 目撃報告例 §


・山をずっと眺めていたら、こちらに飛んできて驚いたわい(山の翁)

 不審者と思われたのかも知れない。人間の何倍も目が良いので、誤解されるような行動は慎もう。 


・前に泣きながら新聞を配らされていた。少し可哀想に思えた(匿名)

 天狗社会は上下関係が厳しいので、上には逆らえないのだろう。 
 

・天狗達が遊んでいる大将棋というものを手に入れたが、これってどう遊ぶんだ?(匿名)

 それはあまりにも時間がかかる為、正直人間向けではない(参考文献・大将棋ノ遊ビ方全三十巻・稗田家書物庫よりレンタル)


・いやあ、便利ですねえ(射命丸 文)

 あまり下をこき使うと恨まれると思う。


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[人間]
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 東風谷 早苗(こちや さなえ)
 Kotiya Sanae


 最近、幻想郷の外からこちらに引っ越してきた人間である。
 一見、巫女のような格好をしているが、正確な職業は風祝(※風の神を祀る人間)だという。
  
 彼女の家は、一子相伝の秘術を持っており、それによって風の神の、雨や風を降らす奇跡を起こしていた。
 いつしかそれは風の神でなく、秘術を起こす人間が奇跡を起こしていると勘違いされるようになった。

 それにより、秘術を扱う人間自体が信仰を集めるようになり、神と同等の扱いを受けるように至った。これを現人神という。
 東風谷 早苗はその一族の末裔である。
 
 彼女は幼い頃から口伝でしか伝わっていない多くの秘術をマスターしていたのだという。
 現人神としても、今までよりさらに多くの信仰を集めるに相応しい器だったと言える。

 しかし、今、外の世界は神徳の優れた神様ですらほとんど信仰されない、未曾有の信仰不況だという。
 そのため、彼女もほとんどの場合、普通の人間として暮らしていたらしい。

 しかし、彼女の祀る神はそうはいかない。
 神様は信仰を失うと力も失う。神徳も出せなくなる。それは神の死に等しい。 
 
 ある時神は決断した。
 今の世界で、人間から信仰を集めるには限界がある。
 これからは妖怪の信仰を集める事も考えないといけない、と。

 彼女はその考えに賛同し、この幻想郷にやってきた。

 引っ越してきた当初、某神社の巫女と信仰を巡っての一悶着あったそうだが、今は比較的良好な関係らしい。
 現在は幻想郷各所を回って、信仰を集めて回っているのだと彼女は語っている。
 

 
 § 目撃報告例 §

・最近山の方から見慣れない巫女のような娘が降りてくるようになった。怪しい(彦左衛門)

 彼女は引っ越してきたばかりの(一応)普通の人間なので、親切にしてあげるといい。


・よく話してみると真面目ないい子のようだ。畑にも水を撒いてくれた(彦左衛門)

 人間、よく話してみると意外な良い一面が見られることもある。奇跡も気軽に頼んでよいそうだ。


・ああ、かわいいなあ(彦左衛門)

 畑仕事をしなさい。


・たまによくわからない言葉を口走る(匿名)

 外来人には往々にしてよくあること(※例 あれ、やっぱり携帯の電波通じないなあ、どうしよう。とか)



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[神様]
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 八坂 神奈子(やさか かなこ)
 Yasaka Kanako 

 最近、妖怪の山に突如新しい神社が出現した。
 それだけでなく、同時に大きな湖まで出現したというのだから驚きである。

 これらは外の世界からやってきたという守矢の神の業(わざ)である。と、前述の東風谷 早苗から情報がもたらされている。

 八坂(※無数の坂という意味)神奈子はその名前の通り、山の神様だが、実際は風雨の神様であったそうである。
 風や雨を司るという事は、おそらく農業の神として崇められていたのだろう。
 それがなぜ山の神として祀られるようになったのかは、定かではない。
 
 この神様は外の世界から信仰を得るため、幻想郷に引っ越してきたらしい(※東風谷 早苗の項参照)
 すでに妖怪の山については天狗の長と話がついており、信仰が確約しているそうだ。
 あとは人間の里のみだという。
 
 確かに、湖ごと幻想郷に引っ越してきたとしたら、それは恐るべき神力である。
 あやかりたい気持ちもあるが、それ以上になんだか胡散臭い(※新興宗教とはそも、そんなイメージ)ので、里の人間はまだ信じていいのか迷っている状況だ。
 妖怪の山という立地条件からしても里の人間の気楽な参拝は困難だろう(※某巫女の経営する神社しかり)




 § 目撃報告例 §

・今日も宴会でお酒を飲んで酔っぱらいで朝帰りで、ともかく介抱が大変でした(東風谷早苗)

 接待業務とはそんなものである。生温かく見守ろう。


・上の事はよくわかんないですけどねえ(射命丸文)

 その宴会もある意味トップ会談という事だろうか。 


・この前、話しかけられたよ。思った以上に陽気な神様で驚いた(彦左衛門)

 フランクな神というのが最近の流行りらしい。 
 

・最近、たまに降りてくるよ。分社が作りたいみたいだね(匿名)

 それなら人間も妖怪の山まで行かなくて済むので、いいアイディアなのかもしれない。
 


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[神様]
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 洩矢 諏訪子(もりや すわこ)
 Moriya Suwako 
 
 守矢の神社に住むもう一人の神である。
 なぜ神社に二人も神がいるのか、という疑問が残るが、これは情報元の人間(※東風谷早苗)にもよく判っていないようだ。


 洩矢という名の神だが、稗田家に残る文献には、この神は遙か古代に驚異的な信仰を得ていた『ミシャクジ様』を束ねていた神かもしれない事が示唆されている。
 ミシャクジ様とは万物の現象に関わる祟り神であり、当時、恐怖の主張でもあった。
 それをなだめ、コントロールできたのが洩矢の神だという。
 その信仰心は凄まじく、神を中心として王国が築かれる程だった。

 しかし、この王国は大和の神々に侵略され、滅んでいる。
 洩矢の神はその力の限り果敢に立ち向かったが、大和の神々はそれよりも強大で、その力の前に平伏した……となっている。


 残念ながらこの文献はここまでしか洩矢の神について(※後はそれらを調停した大和の神々の偉大さとかなんとか)書かれていないので、これから先は私の推測である。


 侵略した大和の神であるが、強大な祟り神であるミシャクジ様を制御できなかったのではなかろうか。
 となると、王国の人間達も順応せず、新しい大和の神を受け入れるはずもない。

 そこで大和の神は一計を案じる。
 元々いた洩矢の神様の名前を『守矢』と改めさせ、大和の神との融和を計ったのである。
 これにより、元洩矢の神様にそのまま王国(※ミシャクジ様も)を治めさせ、大和の神は名目上の支配者として君臨したのだ。


 守矢の神社にいる二人の神。
 ──嘗て争った、大和の神と洩矢の神の現在の姿なのかもしれない。



 § 目撃報告例 §

・今朝、また神奈子様とご飯の事で喧嘩していました(東風谷早苗)  
 
 『喧嘩するほど~』という格言通り、案外仲が良いのでしょう。


・あの帽子が気になるのよね(博麗霊夢)

 話に聞くと随分と変わった帽子のようだ。一度見てみたい。


・小さな女の子が池で大蝦蟇と話していたよ。食べられないかひやひやした(匿名)

 蛙の神でもあるようなので、どこかのお馬鹿な妖精と違って食べられはしない。


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[竜宮の使い]
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 永江 衣玖(ながえ いく)
 Nagae Iku

 龍の世界と人間の世界の間に棲む妖怪。
 竜宮の使いは常に雲の中で泳いで暮らしているため、滅多に生きたままの姿を人間が見ることは無い(※死体は偶にある)
 龍の言葉を理解し、重大な内容だけ人間や妖怪に伝えると言われる。
 身に纏う、緋色に光る衣は人間が纏うと空を飛べると言い伝えられており、人々に憧れられている。

 さて、この永江 衣玖という竜宮の使いだが、去る年の夏頃に多くの目撃情報が寄せられた。
 なんでも幻想郷を揺るがす大きな災害が近いとの話で、それを伝えるために各地を回っていたのだという。


 結局、何も起こらず人々は拍子抜けしたわけだが、実はそれを未然に防ぐ何かを博麗神社の地下に埋めたからだという。
 よくわからないが、とりあえず、珍しいものを見れたというだけで満足するべきだろう。

  

 § 目撃報告例 §

・緋色の雲の中を優雅に泳ぐ影があった。あれが世にも珍しき竜宮の使いか(空見る歌人)

 最近現れたので、今は世にも珍しくなくなってしまった。


・お刺身にしたら美味しいかしら(西行寺幽々子)

 幻魚や金目鯛など深海魚の刺身はおいしいのもあるそうだが……。 

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[天人?]
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 比那名居 天子(ひななゐ てんし)
Hinanui Tensi

 天人とは天界に住む人間である。俗世間から外れ、輪廻転生の輪からも外れ、永遠に天界に住む。

 天人には大きく分けて二種類があり、
 仙人が修行して不老不死に至り生きたまま天界に行った天人。
 優れた人格者等が死後に成仏して、天界に行った場合の天人。

 前者は肉体を持ち、後者は肉体を持たない。
 比那名居 天子は肉体を持つので、前者のカテゴリーに当てはまる。

 だが、彼女の場合は仙人の修行など積んでいないという。
 そればかりか、俗世に対する欲を捨てきれていないように見える(※というか全開に見える)
 天人は欲を持たないのが定説である。
 ならば彼女は天人ではないのか? と疑ってみたが、それを見透かしたかのように多くの証拠品を見せられる事になった(※桃とか) 

 彼女が天人に至った理由。それは比那名居の家柄に関するものらしい。
 彼女が天人らしからぬ振る舞いなのも、そこに原因があると見て、引き続き調査を進めたい。

 
 さて、去る夏に異常気象で作物が不作だった事があるが、その原因は彼女である。
 彼女は緋想の剣という天人にしか扱えぬ道具を使い、自在に人々の天候を制御したのだという。

 思えば、同じ天候がずっと続く時期があった。
 私はほとんど屋内で過ごしていたものだから気づかなかったが、外で仕事をする人の一部にはたまらなかったに違いない。

 なぜそんな事をしたのか、と問うと、下界の異変が面白そうで、自分もやってみたくなったと語った。
 要は暇つぶしらしい。迷惑にも程がある。

 噴飯して、天界まで殴りこみに行こうとするのもいいが、おそらく返り討ちに遭うだけなので、やめておこう(※むしろそれを狙って私に告げていた感がある)



 § 目撃報告例 §


・前に変わった格好の人間がうろうろしてたよ。特に変わったものもないのに珍しそうに商品を見てたなあ(道具屋の仁平)

 天界では無いものが珍しかったと思われる。


・それでそのまま持っていこうとしてたまげたよ(道具屋の仁平)

 天界では貨幣も存在していない模様。


・結局、天界の桃というもので払って貰ったんだけど、よかったのかなあ(道具屋の仁平)

 天界の桃は薄味(※私も貰った)


・ああ、天界に行って天人のように遊んで暮らしたいなあ(匿名)

 そのためにはその憧れる欲も捨てなければならないが、彼女を見てるとやや理不尽に感じられるかも。


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※ここから先は特に危険な妖怪についての情報が提示されている。心して読んでもらいたい。


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◇前項
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 地底の妖怪について


 地底の妖怪とは、昔、妖怪の中でも忌み嫌われる能力を持っていたがために、隔離、封印された存在の事である。
 彼等の一部は過去編纂したの幻想郷縁起にも書かれており、その恐るべき力と危険性について書かれている(※残念ながら、注意だけで実態を書いたものは少ない)
 
 さて、今回特別に項を設けた訳であるが、実はこの地底の妖怪に対する封印が、冬の間欠泉騒ぎとほぼ同時期に解けてしまったという話を、某所から伺っている。
 
 したがって、現在地上と地底は自由に行き来できる状態にあり、それに伴い地底の妖怪が地上でも見られる事となった。

 過去に封印された地底の妖怪に、現在の幻想郷の常識は通用しない。
 本来、この情報を得た時点で、地底妖怪が大挙してくる可能性を考えるべきであり、すぐにでも人里からの避難勧告を発令するべきだと考えた。
 しかしながら、情報元からの話によると現在の地底の妖怪達にはもはやそういった野心はなく、むしろ積極的に交流を持ちたい(※人間の味比べとかそういう意味でなく)と考える者の方が少数派のようである。

 となると、むしろ必要以上に地底妖怪を恐れてパニックになるほうが、大事になる可能性が高いと考え、しばらくこの胸に留めおく事とした。
 この問題については、編纂時でも十分憂慮して扱わなければならないだろう。
 

 以下、現在判明している地底の妖怪について記しておく。 


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[釣瓶落とし]
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 キスメ
 kisume

 暗い夜に道を歩いていると真上から落ちてきて、頭をぶつけてしまう恐怖の妖怪。

 このキスメという釣瓶落としに関しては、地底へと繋がる洞窟や井戸の底などで活動している模様。
 なんでも、いつも桶に入っている内気な妖怪だとか。 


 § 目撃報告例 §

・涸れた井戸の底を覗いたら、桶に入った女の子がいて、そのまま落ちていった(匿名)

 急に見られてびっくりしたのだろう。驚かす方が驚かされてしまってはどうにもアレだが。


・ああやって入ってるのを見ると引き吊り出したくなるな(霧雨魔理沙)  

 亀の本体を甲羅から引っぱり出すような真似はやめて。


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[土蜘蛛]
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 黒谷ヤマメ(くろだに やまめ)
 Kurodani Yamame

 地底にへと繋がる洞窟で主な活動しているという土蜘蛛の妖怪。病気(主に感染症)を操る。

 蟲の妖怪、と聞くと侮る方もいるかもしれない。
 だが元々蟲の妖怪は、現在のような底辺的なイメージとは程遠く、妖怪の中でもかなり強大な力を持っている。

 この黒谷ヤマメは昔ながらの妖怪の一であり、その能力も相まって大変危険である。
 決して、不用意に近寄ってはいけない(※とは言っても本人は地下が気に入っているらしく、地底に行こうとさえしなければまず遭遇する事はない)  


 § 目撃報告例 §

・最近風邪気味なのよ。あの蜘蛛のせいじゃないかしら(博麗霊夢)

 単に日頃の不摂生だと思う。
 

・やはり糸は尻から出るのか?(霧雨魔理沙)

 手からも出るかも知れない。


・あいつら川を汚すから嫌いだよ(???)

 川を使って感染症をばらまく場合もある。それにしても誰からの手紙だろうか。

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[橋姫]
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 水橋パルスィ(みずはし パルスィ)
 Mizuhashi Parsee

 嫉妬心を操る力を持つ、地上と地下を結ぶ番人である。

 その能力から予想される通り、本人もまた非常に嫉妬深いので、会ったらまず難癖をつけられると思って間違いはない。
 他人の嫉妬心を煽ることも可能で、もめ事を起こす達人とも言える。
 地上に嫉妬して出てこないのを祈るばかりである。


 § 目撃報告例 §

・縦穴の奥で、こいつに邪魔されたのよ(博麗霊夢)

 楽しそうに移動しているだけでも嫉妬されるようだ。


・帰り際に一人でぶつぶつ呟いていたぜ(霧雨魔理沙)

 自分相手に嫉妬していたかもしれない(※適当)

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[鬼]
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 星熊 勇儀(ほしぐま ゆうぎ)
 Hoshiguma Yugi

 昔、我々人間の前から姿を消した鬼という種族であるが、今回その所在が明らかになった。 
 どうやら現在、鬼達は地底に住んでいるようである。
 地底には旧都と呼ばれる都市があり、そこでは新しい社会が築かれているらしい。
 過去に地上との妖怪とのなにかしらの盟約があったと話もあるが、それについては詳しい内容は現在得られていない。

 この星熊 勇儀という鬼は元は山の四天王であり、この山とはすなわち妖怪の山を指す。
 おそらく、本気になったら今の人間の力ではどうやっても太刀打ちできないだろう。
 以前記した伊吹萃香とは旧知の間柄であり、これについては本人からの確認もとれている。
  
 今の地上に対してとりたてた関心はないようだが、地上のお酒には興味があるらしく、それをネタに宴会などに誘えば喜んで来てくれるかも知れない。


 § 目撃報告例 §

・この前、酒樽ごと買っていったよ。指一本で持ちながら、また来るって言ってたな(酒屋の弥一)

 地上の酒の危機が予想される。酒好きの方は買いだめしておこう。


・またみんなで山登りしたいねぇ(伊吹萃香)

 おそらく、それだけで妖怪社会を揺るがす大騒ぎになるだろうが……。


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[さとり]
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 古明地さとり(こめいじ さとり)
 Komeiji Satori

 地底の奥深く、そこには地霊殿と呼ばれる建物があるらしい。
 古明地さとりはそこの主である。

 地霊殿では多くのペットが飼われており、今回その内の一匹(※後述)が地底の事について多くを語ってくれた。
 その話によれば、この古明地さとりは地底でも最も強大な力を持つ者の一人らしい。
 彼女は地獄跡の管理を一手に引き受けており、ペットもその手伝いをしているのだと言う。

 物言わぬペット達にどのように指示を指示を下しているか気になる事だろう。
 彼女には心を読む力があるのだという。
 これは大変恐ろしい力だ。地底に封印されたのも頷ける。

 あまり直接の対談はしたくないので、その他の妖怪(※ペットとか)等から詳しく話を聞くに留めたい。


 § 目撃報告例 §


・こっちの考えてることを全部言い当ててきて、気味が悪かったわ(博麗霊夢)

 表層的な意識だけでなく、時間をかけると全ての記憶を読み取られる危険性がある。気をつけよう。


・いやぁ、さとり様は怖いよ。恐ろしいよ。近寄れないよ(火焔猫燐)

 ペットにも嫌われているのだろうか。

 
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[火車]
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 火焔猫 燐(かえんびょう りん)(通称:お燐)
 Kaenbyou Rin
 
 人が死ぬと、その亡骸がいつの間にか消えている事がある。
 死体を奪い去っていく妖怪、それが火車である。
 死神に魂を持って行かれる前に火車に死体を持って行かれると、幽霊になれず、怨霊にされてしまう。

 火車の正体、それはなにかしらで力を持った猫であることが多い。
 この火焔猫 燐という火車も例に漏れず、地獄の火の中に棲む火焔猫であり、名前よりお燐と呼ばれる事を好む。
 彼女は地霊殿の主、さとりのペットで、怨霊の管理を任されている。
 また、現在博麗神社でも飼われているという話である(※こちらは餌を貰うだけ)

 今回、地底の事について彼女は多くの事を語ってくれており、今後の調査でも欠かせない存在である。
 その事に十分に留意し、これからも懇意な関係を築きたいと考えている(※私が猫好きだからという訳でない) 


 § 目撃報告例 §

・なんだか最近黒猫をよく見かけるなあ。そういえば阿求ちゃんも飼ってたよね(花屋の娘)

 一応。こちらは妖怪ではないけど。 


・葬式前におじいちゃんの死体が無くなっちまったんだが(匿名)
 
 犯人は言及しないが、見慣れぬ黒猫が現れている間は死体の保存・管理を徹底しよう。


・たまにふらりとやってきて餌をねだられるけど……(博麗霊夢)

 飼っているというより、たかられているという感である。


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[地獄鴉 with 八咫烏]
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 霊烏路 空(れいうじ うつほ)(通称:おくう)
 Reiuzi Utsuho
  
 灼熱地獄に住む地獄烏。
 主に死体を啄ばみ、力をつける……のだが、この霊烏路空に関してはかなり異なる。
 
 彼女の体には太陽の化身・八咫烏が宿っている。

 左足に『分解の足』右足に『融合の足』
 そして右手にそれらを制御する『第三の足』

 これらを使い、その力で核融合という究極のエネルギーを操ることができるのだ。

 彼女も前述のお燐と同様、さとりのペットであるが、
 この力を得たがために、一時期地上への侵攻を企む程に増長していた時期があったという。

 幸い、地底の妖怪の機転と地上からやってきた人間の力でその野望は阻止され、地上焼け野原計画は未然に防がれた。(※現在では地上で神様達にこき使われているという話だが……)





 § 目撃報告例 §

・よく温泉卵食べに来るけど、あれって共食いになるのかね(霧雨魔理沙)

 鳥が鳥を襲うのは珍しくない。動物の世界は弱肉強食である(※例え卵でも)


・烏は言う事を聞くんだが、山の奴等に肝心のエネルギーをケチられて困るぜ(霧雨魔理沙)

 核融合は大きなエネルギーだけに悪用を考える者もいる。それを防ぐ措置である。諦めよう。 
 

・神社の宣伝になると思って一応温泉作ったけど、誰も来ない(博麗霊夢)

 温泉の宣伝と、行くまでの道の整備、それと安全性が確保できなければ里の人間の利用は難しい。私も温泉は入りたいので応援してる。


・ああ、やっぱたまらないねぇ(火焔猫燐)

 入りたいなぁ。


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[さとり]
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 古明地こいし(こめいじ こいし)

 
 地霊殿の主・古明地さとりの妹。
 種族も当然同じだが、彼女は心を読む眼を閉ざしてしまったという。
 それにより、心を読む能力を失ってたが、代わりに無意識を操る術を得た。

 無意識で行動する彼女は、姉でもその他の者でも気づかれる事がないそうだ。
 そのためか、普段は気ままにあちこちで遊んでいるという。
 間欠泉騒動の際も、地底に来たという人間を面白がり地上に訪れたそうだ。

 以来、こっそりと、あるいは堂々と興味を持った人間や妖怪達を観察して回ってるのだという。

 


 § 目撃報告例 §


・最近、どっかからか視線を感じるけど……(博麗霊夢)

 無意識を操る彼女の存在を気づく事は容易くはない。本人がその気なら別だが。


・屋根の上を飛び回っている女の子がいたのに、なぜか誰も気づかなかったんだよなぁ(匿名)

 あなたは気づいたようだが。悪戯の一種なのかも。 


・前は我々ペットがよく遊び相手を務めたものですが、今は色んなものが遊び相手だと、楽しそうに話しますよ(火焔猫燐)

 地上の事を姉やペットに話すのが最近の日課だそうである。


・羽を毟られた(霊烏路空)

 不憫な……。


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 ◇月の△

 今日は里の様子を見て回った。
 途中で寺子屋に寄ってみたら、多くの子供たちで賑わっていた。
 何事かと思い、講師の上白沢慧音に尋ねてみるとこれは入学式というもので、
 年に一度に多くの生徒を補充できる外の世界の儀式だという。

 丁度写真をとるところだったので、君も入っていきなさいと言われ、子供たちに並んで天狗の撮る写真に納まった。
 あとで記事に載せるのだという。……もしかしたら、私も入学したと見られるのだろうか。

 
 
 最近、人間の里はベビーブームで、子供が増えてきている。
 その理由として、昔と比べて出産時の事故も減り、医療も改善され、なによりその後、妖怪に襲われて食べられる事が少なくなっためであろう。
 特異な事例としては妖怪が産婆役を務めたという話まであるのだから、微笑ましい(※現場にいたらやや笑顔がひきつりそうだが)

 それ以外の原因としては考えられるのは、外の世界で子供が減っているという事だ。
 そういった内容の外の本があったという事は香霖堂の店主から話を伺っている(※でも見せてくれなかった)

 仮に、外の世界で子供がいなくなってしまったら、幻想郷は人間の子供で溢れ返るのだろうか?
 ……いや、おそらくそれはないだろう。元々狭い幻想郷である。
 その中のほんの一部である里に住む人間がいくら頑張ったところで(※変な意味でなく)そんなに人間が増えることも無いだろう。


 これも一時的なものだと楽観しつつ、里の新たな仲間達の笑顔を楽しみたい。
 


















 ◇月の■


 今日は久々に博麗神社を訪ねることにした。
 巫女は相変わらず暇そうにお茶を飲んでいたが、私達が訪ねると、嬉しそうに出迎えてくれ、賽銭箱を指差した。

 その後、里で行われる神事の依頼について、いくつかの打ち合わせをしているところで様々な妖怪達が訪ねてきた。
 顔見知りの相手も多かったので、気軽に挨拶を交わしていたのだが、私の護衛に付いてくれた里の人達には少々気の毒だったかもしれない。

 
 結局、後で誰かに送ってもらうから大丈夫と言って護衛を断ったのだが、
 涙声で最後までお守りしますとすがりつかれて少々困っていたところ妖怪・八雲紫に彼等は強制送還される。
 その後なんだかんだで夕方近くまで神社で過ごし、帰りは幻想郷最速の魔法使い(むしろ盗賊)を自称する霧雨魔理沙の箒に乗り、帰還する。


 二度と乗りたくない。


 ともあれ里に無事辿り着けたのだが、先に帰らされた護衛の人達中心に、妖怪神社からの救助隊なる徒党が組まれかけていた事に、自分の浅慮を思い知る。
     























 ◇月の●


 今日は里の商業会合に書記として参加した。

 最近、里では多くの収入があり、景気は上々の模様。これは客として里に訪れ、買い物をする妖怪達が増えているおかげらしい。
 それに伴い、里の中で商売や仕事を始めたいという妖怪の話があり、本日の議題はそこに焦点がいった。

 議論は白熱し、様々な案が交わされる中、私にまで意見が求められることもあり、結局記録は後日追々に記す事になるほど(※忘れないので)忙しいものとなった。

 結果、妖怪向けの酒屋・深夜営業などのアルバイター、または店そのものの経営を任せる事を実験的・また段階的に取り入れる事に決まり、
 それらの細かい配分、店の出費関係などについては後日に改めて話される事になった。
 これは人間と妖怪の新たなる関係作りの第一歩になるかも知れない。楽しみに思う。


 帰り際、商業部門の長に呼び止められ、やっぱり阿求ちゃんはえらいねぇと頭を撫でられ、飴を貰ったことにやや複雑な念を抱きながら、今日はおやすみ。

















 ◇月の☆

 今日は紅魔館のパーティーに招かれた。


 この招待に関して、来ないと後で怖いわよ、という暗喩も含まれているので、余程の事でない限り招かれた里の人間は出席する。
 私も例に漏れず、参加する意志を固めていたわけだが、洋風の紅魔館で行われるパーティーと聞いて、とりあえず服に困った。
 結局、外から流れてきたドレスを今風に仕立てて貰ったのだが、初めて着る洋服にかなり戸惑う事になる。

 実際、行ってみたら他の人は普段より上等程度の服装であり、着物でも構わなかった事を知り落胆する(※洋風の参加者もいるにはいたが)
 落胆ついでにスカートに躓いて転びかけたところ、紅魔館のメイド長・十六夜咲夜に支えられ、助けられた。
 つい先ほどまで遠くで料理を運んでいた筈だが、と不可思議に思いつつ、礼を言うと、メイドは軽く微笑みながら返礼した。瀟洒である。


 その後、ゆったりとパーティーを楽しんだのだが、お酒に酔ったせいか、いつの間にか屋敷の中に迷い込んでしまった。
 そこで館の主、の妹、フランドール・スカーレットに出会う。

 彼女は普段の格好でなく、小さくも上等なドレス着ていたのでこれからパーティーに参加するつもりだと思ったのだが、じっーと窓から外を眺めるだけで動きがなかった。
 私も緊張し、動けず困っていたところ、後ろからパジャマ姿のような魔法使い、パチュリー・ノーレッジに声をかけられ、外へと案内される。
 別れる直前にフランドール……彼女の事について尋ねたが、黙って首を振られてしまった。色々と複雑なご家庭なのかも知れない。

 



















 ◇月の×

 今日は何事もなく屋敷で過ごした。
 
 考えてみればここ最近、外出が多かった気がする。そのためか、色々な人が稗田家に訪ねて話をしてくれた(※井戸端会議に良いと評判)

 ここ最近、里ではある噂で持ちきりである。
 その噂とは、雲の切れ目に不思議な船が空を飛んでいるのが目撃されている、と言うことだった。
 その船は何かを探すかのように雲の間を回遊しているらしい。

 一説にはその船は七福神を乗せた宝船で、そこに一生不自由しないだけの富が詰まっている。
 その為、それを狙う欲深き者から逃げ回っているのだ……というものだ。

 なんとも春に相応しい眉唾くさい話であるが、里の人間も単に面白がっているだけに見える。
 買い物ついでにこちらに寄った、某人間の魔法使いにも手振りを交えて大げさに語っている様子からもそれは伺える。

 私もなんとなく空を仰いでみたが、心なしか紫かかって見える程度だった。平和である。


 それにしても、最近妙に体が重い。
 でも、明日は話を聞く約束があるので、それが済んでからゆっくりしよう。
























 ◇月の○







 ■■■■■────(墨がこぼれて汚れており、ところどころに皺が出来ている)
 




















































 


























 独白


 日も暖かくなり、幻想郷にも過ごしやすい時期が訪れた。
 とは言ってもここ最近、私は体調を崩し寝込んでいたわけであるが、ともあれ順調に快復することができ、こうしてまた筆を持てる事が喜ばしい。
 体調を崩した原因はあまり実感がないのだが疲れをためていたこと、それと季節の変わり目で気質的にそうなりやすかったのだと主治医から指摘されている。当主としての立場も考えて、これからは御自重下さいと涙混じりに言われてしまったので、程々に従おうと思う。


 さて、寝込んでいた間の事であるが、様々な見舞客が訪れたそうである。
 この様々とは主に最近知り合った人間・妖怪・猫等であるが、私の意識が無い間に何度か来てくれたり見舞い品を置いていったり死体をねだったりとしてくれたようだ。

 そして、それを見た何人かが勘違いをしたらしく、なにかしらの話を広め、結果、一度に大勢が稗田家に大挙した事件は記憶に新しい。

 私もその騒ぎでおちおち寝ていられず意識が覚めたわけであるが、横に席が設けられており、人の寝顔をつまみに酒を飲んで騒いでいるという状況は何事かと思った。
 ともあれ予期せぬ宴会が開かれ、それに床から参加する形になったのだが、集まった皆の暢気さに呆れる反面、病の事を忘れるくらいに楽しかったことを覚えている。

 人と妖怪が一つの事で騒ぎ、楽しむその光景は、私が幻想郷縁起を編纂している時に想い描いたもの、そのままだったからだ。

 そしてふと思う。阿一の時代、私はどのような想いで幻想郷縁起を纏めていたのだろうと。
 目立った妖怪について、その退治の方法や逃げ方。注意喚起。犠牲になった人々の記録等が纏められた初代のものは、淡々と文章が綴られており、自分で書いたものながらあまり感情を感じられないものである。これはその当時の人々に読ませるものというより、後世に遺す物であるという性質上、仕方なかった事はわかる。正直、資料としての価値しか見出せないものだろう。


 今の私はどうだろう。もしかしたら、今代の幻想郷縁起は資料としての価値が無いのかも知れない。
 なぜそう思うのか誰かに問われると、根拠は一つ。────今の幻想郷縁起は書いていて楽しいのである。
 今こうして無駄に時間と墨を費やしているのも、そのためである。

 多分に私的な感情が文にも入り交じり、こりゃ資料というより娯楽だよ。と、いつか後世に非難されるかもしれない。
 確かにそれは読みやすさや、人間と妖怪との円滑な関係を云々、という言い訳で済むものでもない。
 幻想郷縁起の意義は私の転生し続ける意味も含めて、未だに深く悩ませるものだ。


 もしかしたら、単に分ければいいだけの話かも知れない。格好つけて、記録として残すものと、皆に読ませる本としてのものと。
 
 そういう事を考えつつ、これから私は改めて縁起を綴るだろう。
 そしてこの紙は私が私に向けて書く、三つ目の幻想郷縁起となるかもしれないと思いつつ、今夜は筆を置く。


 最後に、幺楽団の音楽でも聞きつつ天狗に貰った宴会の時の写真でも張っておこう。


















      
   第百○×△季 ◇月の× 稗田家 大広間にて

                                              九代目阿礼乙女 稗田阿求

















 
百二十年後  幻想郷・稗田家書物庫奥にて
ネコん
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コメント



0.1410簡易評価
3.90名前が無い程度の能力削除
幻想郷縁起らしさ溢れる文を書けることに感服。
「◇月の○」からぞくぞく来ましたね。

あと彦左衛門自重。
6.100煉獄削除
求聞史記を読んでいるような楽しさがあって良いですね。
妖怪などの説明の後にちょこちょこっとその人達との
会話があったりして面白かったですよ。
そして、◇月の○に強烈な印象を受けました……。
ただ一文が書かれてあっただけなのに、かなり衝撃的でした。
阿求が綴ったこの手記はきっと次の代が読んでいるのでしょうね。
9.90名前が無い程度の能力削除
らしさがあってうまいなー。
危険度や友好度の再現もしてほしかった。
11.90名前が無い程度の能力削除
◇月の○・・・ッ!
19.100名前が無い程度の能力削除
危険度とかは欲しかったと苦言を呈しつつ、やっぱり読んでて面白かったです
お燐大活躍だなw
20.100てるる削除
文章が本当に幻想郷縁起を読んでる感じでした
つくづく上手いです
24.90名前が無い程度の能力削除
これこのまま求聞史紀に載せれるんじゃね?
25.90名前を忘れた程度の能力削除
ひじょうに本物っぽくて、よかったです。
しかも、n月の*シリーズのおかげで普通に面白いし。
ここまで本物っぽいなら危険度/友好度も再現してくれてたら・・・
と贅沢が言いたくなりますw
新作も、製品版が出たらぜひ頑張ってくださいませ。
37.100名前が無い程度の能力削除
再現がすごい上手かった
彦左衛門www
39.90名前が無い程度の能力削除
うまい
彦左衛門自重w