「ぐはあっ!」
とつぜん胸を押さえて苦しみだした妹紅に、私は思わず攻撃の手を止めた。
聞いたことのないほど低く、思わず体が震えてしまうような声を絞り出している。
「な、何、どうしたの!?」
今の言葉が、私の攻撃を受けての断末魔なら気にすることはない。
だけど、私はまだ何もしていない。ただ、しようとしただけだ。なのに何だこの苦しみようは。
まるで、万力で喉を挟まれているかのような声だ。
ギリギリ、という音さえ聞こえてくるような気がした。
殺し合いの最中だということも忘れて、思わずうずくまる妹紅に駆け寄る。胸を押さえて苦しむ妹紅。
その肩に手を置こうとしたのに、妹紅は私の手を乱暴に振り払った。
「さわるなっ! 大したことない!」
払われた手が痛かったけど、思っていたよりも元気そうな声で安心する。
「大丈夫なのね?」と念を押すと、ゆっくりだけど妹紅も立ち上がった。
「ぐ……!」
だけど崩れて、またうずくまる。
血でも吐きそうな声を出しながら、胸を押さえる。その口から出るのは荒い息。どこからどう見てもただごとじゃない。
「今永琳呼んでくるから!」
「いい! これはただの病気じゃ――ぐうっ!」
病気? 病気なのか!?
そんなの聞いたことない!
「妹紅、病気って何、どういうことなの!?」
「うるさい! お前たちはあの薬を飲んでも平気だったろう、だけどな!」
「だけど!?」
「私は地球人だぞ、お前たちの作った月のものが――」
最後まで言うことも叶わず、妹紅は左手を地面についた。相変わらず妹紅の声は私への憎しみのせいか死にそうな人とは離れているけど、さっきとはちがい額には汗が浮かんでいる。顔も真っ赤だ。
月のもの? 月のものがダメだったのか!
そうか……妹紅は私たちとはちがう。月の人が大丈夫で、地球人には合わない成分が蓬莱の薬に含まれていたんだ。
何てことだ、妹紅は――!
よくない想像がいくつも頭を過ぎったけれど、どうなるのか、それは私にはわからない。
おそらく、永琳でさえも。
「ぐ……うう……」
体がうずくのか、男のように低い声でうなっている。地面に転がり、体を抱きかかえるかのようにしてうめく。乱れた服から、肌を覆う包帯が見えた。
まるでミイラのようで、ぞおっと寒いものが走った。
しかし、そっちに注意なんて払ってられない。
妹紅の苦しみかたが、溺れている人のようだ。生きようと、でも死にそうな姿。
でも、でも――私は浮き輪なんて持っていない。妹紅を助けることが出来ない。
歯がゆいけど、永琳しか助けられる人はいないのだ。
「永琳を呼ぶからね!」
「邪魔だ、どけッ!」
「あっ!」
妹紅は私を突き飛ばし、自分の家の方角へと向かっていった。何度か、空から落ちてしまいそうになって。
私はそんな彼女を、追うことはできなかった。
「妹紅……」
拒絶された、という気持ちが私の中にいつまでも座っていた。
◆
あれから何年も経った。
それまでに何度か妹紅に会ったけど、いつでも元気そうだったのを覚えている。
でも私は、それがどうしてか、あの病気はいったい何だったのか、聞くことが出来なかった。
聞こうとするといつも、拒絶されたあの日のことがよみがえったのだ。
「輝夜、勝負だ!」
ふすまを蹴破り、私の部屋へと飛び込む妹紅。
よかった、今日も元気そうだ。
だけど、この怒りの表情の裏には、どれほどの苦しみが隠されていることだろう。私の知らない痛みを、どれほど経験しているのだろう。
あの日の妹紅が、常に頭から離れない。またあんなことになってしまうのではないか、と考えると胸が潰れそうだった。
永琳に一度、妹紅のことに付いて相談したことがある。永琳は、黙って首を横に振った。
私は永琳につかみかかり、「何とかしてよ!」と叫んだ。だけど永琳は、黙ったまま。
妹紅を助けることが出来ないという絶望感が、私の中を満たした。
「何してる、はやく立て」
動かない私の肩をつかんだ妹紅が、無理やり立たせようとする。
「……あ、何?」
その手を、思わずつかんだ。すると、妹紅が引っぱるのを止めた。
「妹紅」
「何だよ」
「あの病気、治ったの?」
「は?」
妹紅は「何だそれ」と言いたそうな顔をしている。
「治ったのね!」
じわりと心にあたたかいものが広がり、胸をほうっとなでおろす。
よかった、治ってたんだ……。
「何だよ病気って」
「妹紅昔よく言ってたじゃない、『ぐ……静まれ、静まれ私の腕よ!』とか『くそっ、こんなときまでヤツらが……!』って! それに、たしか包帯もいっぱい巻いてたよね。
永琳に聞いたんだけどあれってちゅ――」
その言葉を言い終わる前に、目の前に妹紅の拳が飛んできた。拳の向こうに見える妹紅は、なぜか真っ赤になっている。
拳が当たる直前、なぜか時間の流れがスローモーションのように感じられて、あれ、どうしたんだろう――とぼうっと考えていた。
その答えを出すよりはやくに骨が砕ける音がして、それっきり何も聞こえなくなった。
私はいったい何をまちがえたんだろう。
そんなことを考えながら、私の意識は闇に溺れていった。
だけど死ねない!
残酷!
なぁ、妹紅(ニヤニヤ
期待した俺が馬鹿だったwww
こういう勢いのある作品好きです
というかあれか、おれの精神の中にもこたんINしたお!
って状態だったのか。そう考えるとあの黒歴史もなんか誇らしいな。
だがそれでも面白いwww
もこたんにも若い頃があったんだな…
そういうことかwwwwwwwww
そりゃ妹紅も恥ずかしくなってくるわw
若さ故の過ちというものを。
もっと痛々しい記憶を披露してほしい。もこたんたん。
これはワロタw
たしかにタイトルは正しいwww
しかし輝夜がやけに優しいなw
昔の古傷がうずくぜええええええええええええ
大昔の忌むべき記憶が復活したんですが?
黒歴史が脳内に展開されていくあの羞恥を久々に体感しました。
あれは、恥ずかしい。とても、恥ずかしいのです。
ですからキャラクターにとても感情移入することが出来ました。
無論、輝夜ではなく妹紅に。
素晴しい作品です。素晴しい!
あああ、古傷が疼く。疼く。
もこたんにもそんな時期があったんですねwww
こんなに痛いのなら! 苦しいのなら! 哀などいらぬ!
そんな自身の境遇に酔ってみるのも悪くないかも?w
いやいや、面白かったです。
重いぜ
タグに騙されたけど悔いはない、しかし作者よあんたの罪は大きいwwwww
とか思いながらスクロールしたらこれだよ! やられた!
あと輝夜かわいい
俺が出てるよ?
たしかここまではブログで返したはず……合ってますように。
>>122さま
ごめんなさい、こっそり出演をお願いしてたのです。
自分の役に納得していただけたでしょうか。
笑ったw