*この話は第11話に当たります。が、学園モノだと思えば10話(作品集74)を読んでくださればあまり問題ありません。
*ちなみに1話~3話は作品集72に、4~7話は作品集73に、8、9話は作品集74にあります。
*舞台はここではない現代日本です。弾幕はありません。
*秘封倶楽部の2人には出番が無いです。
*それでも構わない、尚且つ、時間を潰す覚悟と余裕のあるお方がいれば、読んでくださると幸いです。
P.m.01:15
少女着替え中
Side:K
「妬ましい、妬ましいわ……」
少し離れたところで、一度私の方を見た水橋さんが何かを呟いている。どうかしたのだろうか?この学校は、体育の授業用の更衣室という物がない。一部運動部の生徒は、部の更衣室で着替えているみたいだが、大半の生徒は教室で着替えをする。当然私も自分の席で着替えるのだが、昔からあまり着替えの時間というのは好きではない。気のせいかもしれないが、妙に視線を感じるような気がするし、空気が悪いような気もするのだ。普段はクールな咲夜も、妙に刺々しいし。一体なんなんだ?ハーフパンツを穿いて、後は、体操服を着るだけ。やっぱり、少し窮屈だな。まだ着替えている妹紅に声をかけておくか。
「準備があるから先に行ってるぞ?」
「うん、わかった」
「……っ」
「?」
ん?咲夜が何か言った様な気がしたが、気のせいか?妹紅と咲夜が喋ってるのを見て、私は教室から出た。
Side:M
「妬ましい、妬ましいわ……」
以前慧音が『着替えている時に、妙に視線を感じるような気がするんだが』と言っていたが、その通りだ。今日も慧音は皆の視線を、文字通り一身に集めている。見慣れている私でもつい目が行ってしまう。全体的にすらっとしてるのに、なんでそんな凄いんだろ。水橋の気持ちは良くわかる。慧音見てると、TVに出てるグラビアアイドルがしょぼく感じられるもの。頭良くて、運動も家事も出来て、凄い美人で、天に二物を与えてもらっている……こないだ、一緒に買い物に行った時の事を思い出した。
「お客様のサイズとなると、かなり限られてしまいますね……もう一人のお客様の方でしたら種類があるのですが」
すっげぇ悔しかった。クラス委員の慧音は準備があるので先に行くらしい。そういうのって、日直とかの仕事な気もするけどな。
「準備があるから先に行ってるぞ?」
「うん、わかった」
「あれはただの脂肪よ、咲夜っ」
「?」
あ~、ほら、スレンダーにはスレンダーの魅力と、ファン層があると思うんだ。唇を噛み締める咲夜の肩に手を乗せた。
「大丈夫だって。まだまだ私たちにも未来はあるよ」
「あんな未来は一生来ないわよ」
……だよね。教室から慧音が出て行った直後、クラスのほぼ全員から溜息が漏れてきた。先生たちと違って、あれで同い年だもんなぁ。世の中、超えられない才能ばかりだ。
P.m.03:11
6時間目:英語
Side:K
「It’s foolish to think that pretty has little to do with justice.じゃあ、この文章の訳を、メルランさん」
「えっと~、『可愛いことと、正義が関係無いと思うのは愚かなことです』」
「その通り。Have to do with~で、~と関係がある。と言う構文よ。よく使われる構文の一つだから、ちゃんと覚えておくように」
本日最後の授業は、レティ・ホワイトロック先生の英語だ。日本人の父親と、イギリス人の母を持つハーフで、本名は白石レティ。わざわざ外国風の籍を名乗るのは、雰囲気作りらしい。白石なら『ホワイトストーン』じゃないかとも思うのだが……あまり英語は得意ではない私が聞いても、綺麗な発音だと思う。流石、アメリカ生まれのアメリカ育ち。ん?国籍どこなんだ?アメリカ人なのか?そんな事を考えている間にも授業は進んでいく。定期的に小テストがあるし、結構厳しい先生なのでちゃんと聞いておかないとな。妹紅に後で説明することになるんだろうし。それにしても、あれだけ付きっ切りで教えたと言うのに、なんで妹紅はあんなギリギリな点なのだ?私の教え方が悪いのか?
アンアアンアンアアン
っと、今日の授業はこれで終わりか。帰ったら復習しないといけないな。
Side:M
「It’s foolish to think that pretty has little to do with justice.じゃあ、この文章の訳を、メルランさん」
「えっと~、『可愛いことと、正義が関係無いと思うのは愚かなことです』」
「その通り。Have to do with~で、~と関係がある。と言う構文よ。よく使われる構文の一つだから、ちゃんと覚えておくように」
あ゛~、サッパリ覚えらんない!また構文なの?何個あるのよホントに……頭の周りで日の丸センス持った妖精が踊り始めてきたよ、マジで。ってか、メルランに聞いてどうする、メルランに。アメリカ人じゃん。英語分かって当たり前じゃん。いや、だからって私に指されても困るんだけどさ。この間のテストも、あんま良くなかったしなぁ。あんまり悪い点取ると、慧音が恐いし。先生に負けず劣らずのスパルタなんだもん。はぁ、ほんっと、英語は憂鬱になるよ。
アンアアンアンアアン
っと、今日の授業はこれで終わりか。やれやれ、ようやくグータラできるよ。
P.m.03:40
放課後
Side:K
帰りのHRも終わり、教室で雑談する者、帰路につく者、部活へ向かう者と様々だ。今日は部活もないし、本来なら妹紅と共に帰るところなんだが。
「慧音、今日は定例会なんだっけ?」
「あぁ、これから会議室だ。先に帰っててくれ」
「わかった。クラス委員ってのも大変だね~」
「そう思うってくれるのなら、たまには自力で予習をして欲しいものだな」
「……善処します」
「ふふっ、それじゃ、また後でな」
釘を刺しておかないと、私がいないのをいい事に昼寝しかねないからな。教えること事態は嫌いじゃないが、私に頼りきりになってしまうのは、妹紅のためにも良くないことだ。出来ることは、ちゃんと自分でやらないと。
この学校は基本的に月1回、各クラス委員と、生徒会役員が集まっての会議がある。大体は、その月の学校行事に関することの打ち合わせだそうだ。と言っても、大掛かりな行事には専門の委員会が組織されるので、大した仕事があるわけではない。簡単な確認で終わることが多いのだ。会議室へと向かっている途中、見覚えのある少女の後姿が見えたので声をかけた。
「鈴仙」
「あ、慧音さん」
呼びかけると笑顔で返してくれた。彼女は中学時代からの友人で、1-Bのクラス委員を務めている因幡鈴仙。 従姉の影響からか、医者になるのが夢だそうだ。雑談をしながら会議室へと歩みを進める。相変わらず、お嬢様と姉と従姉の我儘に振り回されているらしい。彼女のスタイル維持の秘訣はそれかもしれない。会議室の中へと入ると、半分ほどは集まっているようだった。集合時間は16:00だったはずだし、まだ時間はあるな。
Side:M
やっと学校が終わった。あまり記憶が無いけど、今日も良く頑張ったはずだ。多分偉いぞ、私。別に部活には入ってないし、普段なら慧音と一緒に帰るところだけど、
「慧音、今日は定例会なんだっけ?」
朝、学校に来る途中でそんな事を言ってたような記憶がある。そしてそれは、記憶違いではなかったみたいだ。
「あぁ、これから会議室だ。先に帰っててくれ」
「わかった。クラス委員ってのも大変だね~」
「そう思ってくれるのなら、たまには自力で予習をして欲しいものだな」
「……善処します」
「ふふっ、それじゃ、また後でな」
うぐぅ……慧音にからかわれてしまった。いや、努力はしてるんだって。しても分からないから慧音を頼ってるんであって、決して、昼寝しようなんて思ってなかったからね。会議室に向かう慧音とは教室の入り口のところで別れた。さて、まっすぐ帰ろうか。とも思ったけど、天気もいいし、少し寄り道していこうかな?そう思った私は、校舎の裏手にある花壇の方へと向かうことにした。
P.m.04:15
放課後
Side:K
「おっくれました~♪」
「何が『♪』ですか!」
「きゃん!」
会議に遅れて入ってきた大柄な女性が、こめかみに青筋を浮かべた、彼女の胸元くらいまでしかない小柄な女性に扇子でおでこを殴られていた。
「いてて。酷いじゃないですか、会長。私何もしてないじゃないですか?」
「そうですね。あなたがするはずの報告がまだなんですから、何もしてないでしょうとも。で、遅刻の理由は?」
「先にそれを聞いてから折檻しましょうよ……カルシウム足りてないんじゃないですか?」
「皮肉ですね?それはあなたの胸元までしか身長のない私に対する皮肉ですね?チビだからって馬鹿にしてるんですね!?」
そう言って、背の低い方の女性が怒り出した。彼女は、東方学園高等部生徒会長・四季映姫先輩。品行方正・成績優秀・公明正大で知られた先輩で、中学時代から4期連続で生徒会長の職についている偉大な先輩だ。ただ、見た目は阿求先生と大差のないミ○モニ。系で、中学時代からあまり成長したように見えない。前、妹紅に「会長は可愛いからきっとモテるんだろうな」と言ったら、「モテたくない層にモテそうだよね」と返された。どういう意味だろう?
一方、そんな会長の怒りなど何処吹く風。ニコニコ笑顔の大柄の女性は、風紀委員長・小野塚小町先輩。品行ぐ~たら・成績普通・自分が楽なら他人はどうでもいい先輩だ。ちなみに、彼女もその時々で役職こそ違うものの、4期連続で生徒会役員を務めている。グータラだが、やる気を出せば仕事はかなり効率よくこなせるらしく、何よりも、会長である四季映姫先輩との相性が抜群にいい。ぴったり嵌まる凸凹コンビとして昔から有名だ。両者とも、毎回他薦で出ているらしい。生徒からの支持率は抜群だ。
「いやだなぁ、穿ち過ぎですって。ちょっと寝坊しただけですよ」
「学校で寝坊って、何考えてるんですか!それでも風紀委員長ですか!?」
「そうは言っても、あったかいし、何より最近肩こりがして、」
「良く分かりました。喧嘩を売ってるということが。あれですか?ほしの○きと変わらぬ荷物が邪魔だと言いたいんですね?彼女のウエストと殆ど変わらぬ私を壮大に見下してますね!?」
「いや、それじゃサバ分含めても細すぎでしょう?それにあたいあの人ほど小さく、きゃん!ちょ、待ってください!今のはあたいが、痛い!」
「小町!あなたはっ!持たぬ者への配慮が、足りなさ過ぎます!人の痛みをっ、理解する心がっ!あなたには、足りないっ!」
怒りに我を失った会長が、富める者に凄絶なストンピングを食らわせている。中学時代から見慣れた、いつものイチャイチャ折檻だ。何かあるたびにこうしてコントを見せてくれるのは楽しいのだが、
「会議、始まらないね」
「そうだな」
会長、かれこれ30分過ぎてます。結局、予定より40分も遅れて会議が始まった。これでも支持率絶大なのだから、まぁいいんだろう。今日の議題は、GW明けに行われる2泊3日の校外学習についてだった。途中妙な乱入者が現れたが、おおむね無事に終わったと言えるだろう。帰ったら、妹紅には説明しておこう。あいつ、HRの時に寝るからな。
Side:M
グラウンドや体育館では、部活に汗を流す生徒たちの声が響いている。それと比べると、校舎裏と言うのは静かなものだ。何せ誰もいない。いや、私がいるか。と、視界に花壇が見えてきた。この学校の花壇は結構綺麗に手入れされている。そのため、見ていてとても心が安らぐ。人もいないし、意外とお気に入りなのだ。綺麗な花々を想像しながら花壇の方へ歩いていくと、ふと歌声が聞こえてきた。どうやら先客がいるようだ。
「~♪~♪」
「あれ?誰だろ?」
制服じゃない所を見ると、どうやら生徒ではないらしい。チェックのスカートとベスト……か、風見先生!私はとっさに物陰に隠れてしまった。生物学科教師・風見幽香。怒らせると超恐いことで有名で、生徒をいたぶるのが趣味なドS疑惑のある先生だ。こんなところで何してるんだろう?そっと耳を済ませて、様子を窺ってみる。
「綺麗なお花を咲かせましょ~♪うふふ、可愛く咲きまちたね~♪お水でちゅよ~♪るんるるんるるん♪」
パシャパシャパシャ
えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……誰、あの素敵な笑顔の人?花に赤ちゃん言葉って、いや、似合わね~。普段の先生と全然違うじゃない。うわっ、なんか如雨露持ってその場でターン始めた。そうして次の花壇へ軽やかな足取りで向かっていく。意外と少女チックなのかこの先生?私もこっそりとその後をつけていくことにした。歌ってるの、『sak○ra』かな?可愛い声だなぁ。
「聞いてくれる~?今日もね、紫のやつに難癖付けられたのよ?大体アイツ、学生時代から絡みすぎだっつうのよ。いい年こいて『ゆかりん♪』とか、もうアホじゃないの?ってのよ。えーりんと言いさぁ、そういうのは、可愛い系にしか許されないのにねぇ?ゆうかりん、イヤになっちゃうわ♪」
………………帰ろう。きっとそれがお互いのためだ。『ゆかりん♪』は私もどうかと思うけど、『ゆうかりん♪』も無理があるでしょうよ。それに『えーりん』は本名の時点で『永琳』なんだから引き合いに出してもしょうがないじゃないの。私は、幸せそうな生物教師をそのままに家路へと向かった。
「やっぱり、女の子なんだな」
花を前にして、普段は見せない愛くるしい笑顔を浮かべていたゆうかりんの顔を思い出すと、そんな感想が出てきた。夕飯のおかず代わりに、慧音に教えてあげよう。
P.m08:45
男子禁制の時間
Side:K
「お、霊夢たちも今から風呂なのか?」
「よ」
妹紅と一緒に大浴場へと向かっていると、前方にクラスメイトの姿が見えた。紫先生のサークル……『秘封倶楽部』と言ったかな?そのサークルメンバーだ。どんな事をやってるのか良くわからないが、仲良さそうにしているのを見ると、それなりに何かをしてるんじゃないかと思う。最初は3人だったと思うのだが、いつの間にか留学生のアリス・マーガトロイドさんも加わっているようだ。多分、魔理沙に巻き込まれたんだろうが。って、おや?もしかして、射命丸文か?妹紅も彼女に気付いたようだ。
「あれ?ブン屋も一緒なの?」
「えぇ、先ほどはどうも」
妹紅が声をかけると、彼女はそう返してきた。今日は、彼女には会ってない筈だ。となると、妹紅に言ってるのか?
「ん?妹紅と会ったのか?」
「へ?」
「あややっ、なんでもないです!」
変なヤツだな?まぁ、今に始まったことじゃないか。それにしても、折角風呂に入る前に会えたんだし、クラスメイト同士交流を深めるのもいいだろう。普段そんなに喋るわけでもないしな。そう思い声をかけようとしたのだが、階段の所で彼女たちが足を止めている。どうしたんだ?何かあったのか?
「ん?どうした?入らないのか?」
「え?あぁ、は、入る入る!」
声をかけられて、はっとしたかのように、霊夢が慌てて声を出した。ふむ……良く分からないが、とりあえず誘っておこう。
「そうか。折角だし、一緒に入ろうじゃないか」
「「「「「え゛?」」」」」
快く誘いを受けてくれた霊夢たちと共に、浴場へと向かうことにした。そう言えば、こんな大人数で入るのは久々だな♪
「なんだ?随分ゆっくり脱ぐんだな?先に入ってるぞ」
脱衣場につき、さっさと服を脱いだ。皆を待たせるのも悪いしな。と思っていたのに、いざ用意が出来たら、皆ほとんど服を脱いでいない。別段おしゃべりをしていたようにも思えなかったが。私、そんなに着替えるの速かったか?この格好で待ってるのも寒いし、先に浴場の中で待ってるとするか。それに、どうも脱衣場ってのは居心地が悪いし。
その後、霊夢たちとのんびりとお風呂を楽しんだ。やっぱり、こういう付き合いは大事だな。
Side:M
「お、霊夢たちも今から風呂なのか?」
「よ」
慧音と一緒に大浴場へと向かっていると、前方にクラスメイトの姿を発見。とりあえず声をかけた。紫先生のサークル……なんだっけ?とりあえずそのサークルメンバーだ。どんな事をやってるのかは良くわからない。あの先生の作ったサークルに、よく入ったもんよね。まぁ、霊夢は逃げ道がなかったようにも思えるけどさ。それにしても、いつの間にかアリスも入ってるんだ。どうせ、魔理沙に巻き込まれたんだろうけどな。って、あれ?射命丸か?こいつら、仲良かったのか?
「あれ?ブン屋も一緒なの?」
「えぇ、先ほどはどうも」
先ほど?慧音と会ったのかな?そう思ったら、慧音から意外な事を聞かれた。
「ん?妹紅と会ったのか?」
「へ?」
慧音じゃないの?あれ?私今日こいつと会ったっけ?記憶を辿ってみても、そんな覚えはない。
「あややっ、なんでもないです!」
眉間にしわを寄せて考えていると、射命丸が慌てて『何でもない』と言ってきた。変なヤツだな。ま、今さらだけど。と、一旦慧音と歩き始めたのだが、階段の所で霊夢たちは足を止めている。どうしたんだ?何かあったのか?慧音も不思議に思ったのか、彼女たちに声をかけた。
「ん?どうした?入らないのか?」
「え?あぁ、は、入る入る!」
「そうか。折角だし、一緒に入ろうじゃないか」
「「「「「え゛?」」」」」
慧音に一緒に入ろうと言われて、急に濁った声を出した。あぁ、そういう事ね。慧音は全く気付いていないようだけど、私はすぐにピンときた。慧音と一緒に入ることを躊躇ってるんだろうな。やっぱ、気になるもんねぇ。思わず苦笑いを浮かべてしまう。そんな様子に気付くこともなく、嬉しそうに先を行く慧音を、私は慌てて追いかけた。
「なんだ、随分ゆっくり脱ぐんだな?先に入ってるぞ」
そういうと、身体にタオルを巻いて、一足先に慧音は浴室の中へと入っていった。それを見て、ようやく霊夢たちは服を脱ぎ始めた。いや~、ドヨンとした顔してるなぁ。思わず、微苦笑を浮かべてしまう。とりあえず、当たり障りのない慰めをしてやるか。
「そのうち慣れるよ」
「藤原さんは慣れたの?」
逆に古明地さんに質問された。あ~、そういう私も3年経っても慣れてないな。っていうか、『藤原さん』って呼ばれるのは照れるなぁ。
「それが全然。毎日見てるんだけどね。それと、妹紅でいいよ。なんか照れくさいし」
「そうか。じゃあこいつらのことも『霊夢』『さとり』『アリス』で構わないぜ?って、あいたっ」
「魔理沙になんでその権限があるのよ?別に構わないけれど」
「なら殴るなよ」
「あら?じゃあ霊夢が今握ってる物の方がよかったわけ?」
言われて霊夢の手元を見ると、なんだそれ!?畳針か!?怖っ!怖いよこいつ!魔理沙もかなりビビッたようだ。
「うぉい、何で風呂場にまで持ってきてるんだよ!?」
「念のためよ」
リボンを解きながら、霊夢が澄ました顔で嘯いてくれた。いや、それは女子高生が念のために持つ物じゃないでしょ。まさか、浴室にまで持っていかないよな?あ、籠に入れた。ならいいか。それにしても、綺麗な髪の毛してるなこいつ。黒いのに光り輝いてるよ。
「それにしても、凄いわよね彼女。休みにたまに国に帰るけど、同世代であんな娘、殆ど見たことないわよ?日本人ってスレンダーな人ばかりだと思ってたけど、二次元以外でもああいうスタイルの娘って、いるもんなのね。あなたもそれなりにあるし」
「そ、そうかな?アリスだって、そんなに変わらないと思うけど」
イギリスからだっけ?留学生のアリスが、脱いだブラウスを丁寧にたたみながら私に話しかけてきた。二次元って、漫画とかアニメの事だよね?比較対象がどうかとも思うが、まぁ、昔と比べりゃ発育いいんじゃないの?今の人って。30年前ならグラビアアイドルになれそうな人が結構普通にいると思う。私だって、人並みのはずだ。そして、何となく霊夢たちの方を見た瞬間だった。
「悪かったわね、人並み以下で」
「い゛?!いや、どうしたの急に?」
「む、なんか失礼なこと考えてたのか?」
「ま、まさかぁ」
心を読んでいるかのようなさとりの発言に、魔理沙も反応してきた。思わず声が裏返った私に、さとりが更に追い討ちをかけてきた。
「そう?私たちを見た後で、『私ぐらいが人並みだな』って思わなかった?」
「ほ~、それは遠まわしに『あんたらはちっさいけど』と言ってるわけだ」
「言ってないって!」
3人にジト目で睨まれた。な、なんでばれたの?いや、別に馬鹿にしたわけじゃなくて、本当に一瞬だけ、『私より小さいなぁ』って思っただけなのに。たじろぐ私に、ブン屋が助け舟を出してくれる。飛び火を恐れたんだろうけど、ありがたい。
「そ、それにしても慧音さん、中学の時から凄いとは思ってましたけど、まだ成長なさってるんですね……流石学園三傑」
「三傑って、同じ位のが他に2人もいるのか?」
魔理沙がその話題に食いついた。ふぅ、助かった。それにしても、服のたたみ方ぐちゃぐちゃだな。アリスとえらい違いだ……私もたたみ直そう。
「はい。多分知ってると思いますよ?」
「そうなの?」
「えぇ。一人は紅魔館の門番さんですよ。1-Bの紅美鈴さん」
「あぁ、あの娘?って言うか、同学年だったんだ」
「門番?」
こーまかん?なんだそりゃ?女子高生と門番って、結びつかなくないか?そんな事を考えていると、ブン屋がもう一人の名前を出した。確かにその先輩は内部生なら誰でも知ってるわ。
「もう一人は、生徒会の常連で、現風紀委員長の小野塚小町さんですね」
「あの見るからに健康そうな先輩か。身長も大きいしね」
「と言うか、そんなの調査してるんだ。まさか、個人情報流れてるんじゃないでしょうね?」
「いや、そんなことはないですよ?別に正確なデータがあるわけじゃないですよ。ただ、数値を計るまでもなく、生徒の中では群を抜いてますから」
アリスが嫌そうな顔をしてブン屋に問いただした。が、別に生徒の最重要機密が流出しているわけではないらしい。ならいいけど。そんな会話をしてる最中、霊夢が慧音の脱衣籠を漁り、アレを手に取って、胸元に当てる。見てて哀れだからやめてよ。その後、何を思ったか今度は顔に当てはじめる。一歩間違えれば二人用の帽子に見えそうだ。霊夢は悲壮な顔でそれを籠に戻した。無茶しやがって。その様子を見ていた彼女たちからは一切の会話が消えてしまった。その後お風呂に入っている最中、彼女たちは笑顔を浮かべながら背中で泣いていた。大丈夫、次からは泣かないでも入れるよ。経験者が言うんだから、間違いない。
P.m.11:00
就寝
Side:K
霊夢たちとのお風呂タイムは実に有意義だった。時折寂しげな笑顔を浮かべていたような気もするが、きっと気のせいだろう。それにしても、風呂上りの牛乳はやっぱり最高だな。どうやら霊夢たちもそうらしい。アリスまで風呂上りの一本を飲んでいたのは以外だったが、日本文化に造詣の深い彼女のこと、きっと誰かに教わったんだろう。お気に入りの赤べこパジャマに着替え、ジャージ姿の妹紅と明日の授業の確認。小さい頃からの習慣だ。おかげで私は、忘れ物をしたことは殆どない。逆に中学の最初の頃は、妹紅は忘れ物が多かった。今はそんなことは無いが。昔の事を思い出していると、妹紅が「ふぅ」と一息ついた。多分確認が終わったのだろう、後は寝るだけだな。
「よし、寝るか」
「だね」
「おやすみ、妹紅」
「うん。お休みなさい、慧音」
妹紅が布団に入ってから、明かりを消した。明日も一日、頑張ろう。
Side:M
「ふぅ」
あ~、ようやく一日が終わった。特に見たいTVもないし、さっさと寝よう。と、その前に時間割とかの確認しなきゃ。そういう習慣が付いてなかったころはしょっちゅう忘れ物をしてたけど、慧音と一緒に暮らすようになって、忘れ物をするようなことは殆どなくなった。ありがと、慧音。にしても、涙ぐましかったなぁ。慧音が牛乳飲み始めた途端に我も我もと。全然関係無い、他の人も何人か買って飲んでたし。そのうち、購買から感謝状がもらえるんじゃなかろうか?正直、無駄な努力だと思うけどな。それで慧音みたいになれるんなら、何よりも私がそうなってるはずだ。そう思い、溜息をつくと、慧音が声をかけてきた。
「よし、寝るか」
「だね」
「おやすみ、妹紅」
「うん。お休みなさい、慧音」
私が布団に入ってから、慧音が明かりを消してくれる。お疲れ様、今日の私。
翌日
Side:Y
朝、目覚ましの音で目が覚めると、家に同居人の姿はなかった。時刻は既に8時を回っている。今日は早い時間の授業がないから、少し遅めに目覚ましかけたんだっけ。多分、研究で疲れている私を起こすまいと気を遣ってくれたのだろう。全然生活音はしなかった。それでも、私の分の朝食が用意されていた。メモに書いてあるように、味噌汁を温め、グリルの中にある魚を取り出す。美味し♪
学校に着いても、まだ欠伸が出そうになる。我慢我慢。生徒の目がある以上、イメージが大事なのだ。皆生徒の前ではキリっとしてるが、職員室では案外大あくびをしていたりするものだ。皆が皆、と言うわけでもないが、勇儀は違うけど、この学校の教師陣は、大学での研究者も兼ねている人が多い。人の怪我を見て嬉しそうな顔をする永琳だって、肩書きは立派に薬学博士だし、幽々子も、確か和歌の研究者。サッカーキ○ガイだって、見た目はあんなでも准教授だ。私もそう。そういった先生たちは、土日以外にも週1日、研究日として休みが設けられている。大学も成果主義の時代になってきたのだ。
そんな時代に私も含めて同期の連中が、自分の研究もあるのに、わざわざ高校で授業を教えているのは、収入面(ちなみに、この齢でもボーナスで自動車が買える)もあるが、この学校が好きだから、と言うのも大きいのだ。口に出して言っているわけじゃないが、皆そうなんだろうと思っている。普段は厳しくしてたって、生徒のことは好きだし、大事に思っている。だからこそ、生徒の前ではしっかりしていないとダメなのだ。だと言うのに、
「あっ、こんにちは先生♪」
「こんにちは~!」
「こんにちは」
クスクスッ
「?」
「ぷぷっ」
「どうかした?」
「い、いえ!何でもありません!」
ヒソヒソ、ヒソヒソ
「なんなのよ、一体」
どうも、生徒たちの視線が気になる。普段と違い、私を見たりすれ違ったりする時に、妙に親しげに声をかけてきたり、何がおかしいのか笑いをこらえたり。疑問に思いながら職員室に入ると、珍しい奴がいた。
「おっ、今出勤かい?」
「あら、勇儀じゃないの。体育教員室はこっちじゃないわよ?」
体育教師の星熊勇儀。高校時代からの友人だ。普段は第一体育館にある体育教員室にいるのだが、何か用事でもあったらしい。今日は、イヤリングが星型だ。しかも見たことのないヤツ。本当に、星型アクセを大量に持ってるわね。
「いや~、ちょっと、書類がね。それにしても」
そう言うと、私の事をじろじろ見てくる。
「何よ?何かついてる?」
「い~や、別に。そう怖い顔すんなよ。折角の可愛い顔が台無しだよ?ぷぷっ」
「はぁ?」
なんだこいつ。普段言わないような事を言ったかと思ったら、急に笑い出した。いや、それはいつものことか。何が可笑しいのか、私の肩をバンバンと叩き、職員室から出て行った。痛いのよ、このバカ力。私の肩は瓦20枚より遥かに脆いんだ。少しは加減しろ。
「じゃ、あとでな……ん」
「?」
最後、何か言ったかしら?まぁいいわ。机に荷物を置いて、と。最初は3年だっけ?棟が違うから面倒なのよね。教材を手に、3年の教室へと向かう。途中、赤と青の、センスが良いのか悪いのかよくわからないスーツに、白衣を重ねた教師と出会った。彼女の名は八意永琳。中学時代から、天才の呼び名をほしいままにした知り合いだ。
「おはよう」
「あら、おはよう」
クスクス
こいつもか。ワケもわからず笑いものにされるのは流石に気分が悪い。理由を問いただそうとしたら、先に彼女の方が口を開いた。
「ギャップ萌えって、どう思う?」
「はぁ?」
何言ってんのこいつ?マッドサイエンティストにどうギャップをつけるつもりよ?他の属性にしたって、ギャップのつけようが無い気がするし。今更ロリ系やバカっ娘にでもなるつもりかしら?キモイだけだからやめといた方が良いと思うわよ?まぁ、こいつがどう思われようと別にいいけど。そう思ったが、どうやらこいつ自身の事ではないらしい。何がそんなに楽しいのか、満面の笑顔で私に意見を求めてきた。
「ああいうのも、ツンデレって言うのかしらね?」
「何の話よ?」
いや、ホントに話が見えない。こいつ、ホント昔から理解できないことばっかり言うのよね。怪訝な顔をする私をみて、クスクスと笑いながら横を通り過ぎていく。
「教師も、人気は大事よね」
「さぁ?ま、あるに越したことはないかもね」
「うらやましいわ……りん」
「?」
なんだ?自分の名前がどうかしたのか?あぁ、そういうキャラ付けか。語尾に『にゃん』とか『ですぅ』とか。似合わないにも程がある。廊下の先へと姿を消す彼女に、哀れみの視線を贈ってあげた。私ってば、優しいわ。
「あ~、もう!」
教室から出て、思わず苛立った声を上げてしまう。あの後、2つの授業を行ったが、終始後ろでヒソヒソと話をしている奴らがいた。普段ならそいつに怒るところなのだが、なにせ、クラスのほぼ全員と来たものだ。基本的に問題児のいない、真面目な学校の、真面目なクラスの、真面目な生徒まで授業中に笑いをこらえてるとなると、怒るより先に気味が悪くなってくる。私、何かしたかしら?思い返してみても、全く思い当たることがない。何かついてたりするのかと、休み時間に化粧室で全身くまなくチェックしたが、顔やスタイルを始め、称えられるような所はあっても、笑われるようなところは何処にもなかった。なのに、笑われる。なんなのよもう。ぶつけようのない怒りを抱えながら廊下を歩いていると、上の階から同僚が降りてきた。八雲紫。よりによって、こういうときには一番会いたくないヤツに。案の定、不機嫌な私を見ると、いつものように楽しげな笑みを浮かべている。
「何が可笑しいのよ?」
「あら、やだ。そう怒らないでよ『ゆうかりん』♪ぷぷっ」
「んなっ!?」
なん……だと……?その瞬間世界が凍りついたような錯覚に襲われた。なぜ、なぜ!?頭がまるで働かない。動揺からか、歯がカチカチとかみ合わない音を鳴らしている。きっと、瞳孔も開ききっているだろう。そんな私をとても愉快そうに、おなかを抱えて笑っている女がいる。私は、必死に声を振り絞った。
「な、なんで?」
「くくっ、そっかそっか。あなた、今日遅番だから号外読んでないのよね?ま、あの娘の事だからそれを把握した上でやったんでしょうけど」
そう言うと、私に一枚の紙切れを手渡してきた。震える手でそれを受け取った。これは、新聞?
東方学園新聞 号外!
厳しさの裏には愛情あり!フラワーマスター☆ゆうかりん♪
校舎裏に花壇があることはご存知だろうか?普段は行くことのない場所なので、見たことが無いという人も多いことかと思うが、こじんまりとした場所ながら、学園屈指の景観を誇るスポットである。その美しい景観を作り上げているのは、誰あろう、生物学科教師の風見幽香先生なのだ。生徒に厳しいと言われる風見先生だが、本当は心優しい教師であることを新入生諸氏にも理解していただくためにも、昨日撮れたばかりのスペシャルフォトと、先生の一言をご覧頂きたい。
「あ、あ……」
その記事を見た私は、全身をガタガタと震わせた。目の前に写っているものが信じられない。
そこには2枚の小さな写真と、コメント付きの大きめの写真が掲載されている。とても可愛らしい笑顔を浮かべる私、如雨露を持ってターンする私、そして、目を閉じて、花にキスをしている私。その横には
『フラワーマスター☆ゆうかりん!な~んてね♪』
……み、見られて、嘘、嘘、嘘っ!?
「い、いやああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
*ちなみに1話~3話は作品集72に、4~7話は作品集73に、8、9話は作品集74にあります。
*舞台はここではない現代日本です。弾幕はありません。
*秘封倶楽部の2人には出番が無いです。
*それでも構わない、尚且つ、時間を潰す覚悟と余裕のあるお方がいれば、読んでくださると幸いです。
P.m.01:15
少女着替え中
Side:K
「妬ましい、妬ましいわ……」
少し離れたところで、一度私の方を見た水橋さんが何かを呟いている。どうかしたのだろうか?この学校は、体育の授業用の更衣室という物がない。一部運動部の生徒は、部の更衣室で着替えているみたいだが、大半の生徒は教室で着替えをする。当然私も自分の席で着替えるのだが、昔からあまり着替えの時間というのは好きではない。気のせいかもしれないが、妙に視線を感じるような気がするし、空気が悪いような気もするのだ。普段はクールな咲夜も、妙に刺々しいし。一体なんなんだ?ハーフパンツを穿いて、後は、体操服を着るだけ。やっぱり、少し窮屈だな。まだ着替えている妹紅に声をかけておくか。
「準備があるから先に行ってるぞ?」
「うん、わかった」
「……っ」
「?」
ん?咲夜が何か言った様な気がしたが、気のせいか?妹紅と咲夜が喋ってるのを見て、私は教室から出た。
Side:M
「妬ましい、妬ましいわ……」
以前慧音が『着替えている時に、妙に視線を感じるような気がするんだが』と言っていたが、その通りだ。今日も慧音は皆の視線を、文字通り一身に集めている。見慣れている私でもつい目が行ってしまう。全体的にすらっとしてるのに、なんでそんな凄いんだろ。水橋の気持ちは良くわかる。慧音見てると、TVに出てるグラビアアイドルがしょぼく感じられるもの。頭良くて、運動も家事も出来て、凄い美人で、天に二物を与えてもらっている……こないだ、一緒に買い物に行った時の事を思い出した。
「お客様のサイズとなると、かなり限られてしまいますね……もう一人のお客様の方でしたら種類があるのですが」
すっげぇ悔しかった。クラス委員の慧音は準備があるので先に行くらしい。そういうのって、日直とかの仕事な気もするけどな。
「準備があるから先に行ってるぞ?」
「うん、わかった」
「あれはただの脂肪よ、咲夜っ」
「?」
あ~、ほら、スレンダーにはスレンダーの魅力と、ファン層があると思うんだ。唇を噛み締める咲夜の肩に手を乗せた。
「大丈夫だって。まだまだ私たちにも未来はあるよ」
「あんな未来は一生来ないわよ」
……だよね。教室から慧音が出て行った直後、クラスのほぼ全員から溜息が漏れてきた。先生たちと違って、あれで同い年だもんなぁ。世の中、超えられない才能ばかりだ。
P.m.03:11
6時間目:英語
Side:K
「It’s foolish to think that pretty has little to do with justice.じゃあ、この文章の訳を、メルランさん」
「えっと~、『可愛いことと、正義が関係無いと思うのは愚かなことです』」
「その通り。Have to do with~で、~と関係がある。と言う構文よ。よく使われる構文の一つだから、ちゃんと覚えておくように」
本日最後の授業は、レティ・ホワイトロック先生の英語だ。日本人の父親と、イギリス人の母を持つハーフで、本名は白石レティ。わざわざ外国風の籍を名乗るのは、雰囲気作りらしい。白石なら『ホワイトストーン』じゃないかとも思うのだが……あまり英語は得意ではない私が聞いても、綺麗な発音だと思う。流石、アメリカ生まれのアメリカ育ち。ん?国籍どこなんだ?アメリカ人なのか?そんな事を考えている間にも授業は進んでいく。定期的に小テストがあるし、結構厳しい先生なのでちゃんと聞いておかないとな。妹紅に後で説明することになるんだろうし。それにしても、あれだけ付きっ切りで教えたと言うのに、なんで妹紅はあんなギリギリな点なのだ?私の教え方が悪いのか?
アンアアンアンアアン
っと、今日の授業はこれで終わりか。帰ったら復習しないといけないな。
Side:M
「It’s foolish to think that pretty has little to do with justice.じゃあ、この文章の訳を、メルランさん」
「えっと~、『可愛いことと、正義が関係無いと思うのは愚かなことです』」
「その通り。Have to do with~で、~と関係がある。と言う構文よ。よく使われる構文の一つだから、ちゃんと覚えておくように」
あ゛~、サッパリ覚えらんない!また構文なの?何個あるのよホントに……頭の周りで日の丸センス持った妖精が踊り始めてきたよ、マジで。ってか、メルランに聞いてどうする、メルランに。アメリカ人じゃん。英語分かって当たり前じゃん。いや、だからって私に指されても困るんだけどさ。この間のテストも、あんま良くなかったしなぁ。あんまり悪い点取ると、慧音が恐いし。先生に負けず劣らずのスパルタなんだもん。はぁ、ほんっと、英語は憂鬱になるよ。
アンアアンアンアアン
っと、今日の授業はこれで終わりか。やれやれ、ようやくグータラできるよ。
P.m.03:40
放課後
Side:K
帰りのHRも終わり、教室で雑談する者、帰路につく者、部活へ向かう者と様々だ。今日は部活もないし、本来なら妹紅と共に帰るところなんだが。
「慧音、今日は定例会なんだっけ?」
「あぁ、これから会議室だ。先に帰っててくれ」
「わかった。クラス委員ってのも大変だね~」
「そう思うってくれるのなら、たまには自力で予習をして欲しいものだな」
「……善処します」
「ふふっ、それじゃ、また後でな」
釘を刺しておかないと、私がいないのをいい事に昼寝しかねないからな。教えること事態は嫌いじゃないが、私に頼りきりになってしまうのは、妹紅のためにも良くないことだ。出来ることは、ちゃんと自分でやらないと。
この学校は基本的に月1回、各クラス委員と、生徒会役員が集まっての会議がある。大体は、その月の学校行事に関することの打ち合わせだそうだ。と言っても、大掛かりな行事には専門の委員会が組織されるので、大した仕事があるわけではない。簡単な確認で終わることが多いのだ。会議室へと向かっている途中、見覚えのある少女の後姿が見えたので声をかけた。
「鈴仙」
「あ、慧音さん」
呼びかけると笑顔で返してくれた。彼女は中学時代からの友人で、1-Bのクラス委員を務めている因幡鈴仙。 従姉の影響からか、医者になるのが夢だそうだ。雑談をしながら会議室へと歩みを進める。相変わらず、お嬢様と姉と従姉の我儘に振り回されているらしい。彼女のスタイル維持の秘訣はそれかもしれない。会議室の中へと入ると、半分ほどは集まっているようだった。集合時間は16:00だったはずだし、まだ時間はあるな。
Side:M
やっと学校が終わった。あまり記憶が無いけど、今日も良く頑張ったはずだ。多分偉いぞ、私。別に部活には入ってないし、普段なら慧音と一緒に帰るところだけど、
「慧音、今日は定例会なんだっけ?」
朝、学校に来る途中でそんな事を言ってたような記憶がある。そしてそれは、記憶違いではなかったみたいだ。
「あぁ、これから会議室だ。先に帰っててくれ」
「わかった。クラス委員ってのも大変だね~」
「そう思ってくれるのなら、たまには自力で予習をして欲しいものだな」
「……善処します」
「ふふっ、それじゃ、また後でな」
うぐぅ……慧音にからかわれてしまった。いや、努力はしてるんだって。しても分からないから慧音を頼ってるんであって、決して、昼寝しようなんて思ってなかったからね。会議室に向かう慧音とは教室の入り口のところで別れた。さて、まっすぐ帰ろうか。とも思ったけど、天気もいいし、少し寄り道していこうかな?そう思った私は、校舎の裏手にある花壇の方へと向かうことにした。
P.m.04:15
放課後
Side:K
「おっくれました~♪」
「何が『♪』ですか!」
「きゃん!」
会議に遅れて入ってきた大柄な女性が、こめかみに青筋を浮かべた、彼女の胸元くらいまでしかない小柄な女性に扇子でおでこを殴られていた。
「いてて。酷いじゃないですか、会長。私何もしてないじゃないですか?」
「そうですね。あなたがするはずの報告がまだなんですから、何もしてないでしょうとも。で、遅刻の理由は?」
「先にそれを聞いてから折檻しましょうよ……カルシウム足りてないんじゃないですか?」
「皮肉ですね?それはあなたの胸元までしか身長のない私に対する皮肉ですね?チビだからって馬鹿にしてるんですね!?」
そう言って、背の低い方の女性が怒り出した。彼女は、東方学園高等部生徒会長・四季映姫先輩。品行方正・成績優秀・公明正大で知られた先輩で、中学時代から4期連続で生徒会長の職についている偉大な先輩だ。ただ、見た目は阿求先生と大差のないミ○モニ。系で、中学時代からあまり成長したように見えない。前、妹紅に「会長は可愛いからきっとモテるんだろうな」と言ったら、「モテたくない層にモテそうだよね」と返された。どういう意味だろう?
一方、そんな会長の怒りなど何処吹く風。ニコニコ笑顔の大柄の女性は、風紀委員長・小野塚小町先輩。品行ぐ~たら・成績普通・自分が楽なら他人はどうでもいい先輩だ。ちなみに、彼女もその時々で役職こそ違うものの、4期連続で生徒会役員を務めている。グータラだが、やる気を出せば仕事はかなり効率よくこなせるらしく、何よりも、会長である四季映姫先輩との相性が抜群にいい。ぴったり嵌まる凸凹コンビとして昔から有名だ。両者とも、毎回他薦で出ているらしい。生徒からの支持率は抜群だ。
「いやだなぁ、穿ち過ぎですって。ちょっと寝坊しただけですよ」
「学校で寝坊って、何考えてるんですか!それでも風紀委員長ですか!?」
「そうは言っても、あったかいし、何より最近肩こりがして、」
「良く分かりました。喧嘩を売ってるということが。あれですか?ほしの○きと変わらぬ荷物が邪魔だと言いたいんですね?彼女のウエストと殆ど変わらぬ私を壮大に見下してますね!?」
「いや、それじゃサバ分含めても細すぎでしょう?それにあたいあの人ほど小さく、きゃん!ちょ、待ってください!今のはあたいが、痛い!」
「小町!あなたはっ!持たぬ者への配慮が、足りなさ過ぎます!人の痛みをっ、理解する心がっ!あなたには、足りないっ!」
怒りに我を失った会長が、富める者に凄絶なストンピングを食らわせている。中学時代から見慣れた、いつものイチャイチャ折檻だ。何かあるたびにこうしてコントを見せてくれるのは楽しいのだが、
「会議、始まらないね」
「そうだな」
会長、かれこれ30分過ぎてます。結局、予定より40分も遅れて会議が始まった。これでも支持率絶大なのだから、まぁいいんだろう。今日の議題は、GW明けに行われる2泊3日の校外学習についてだった。途中妙な乱入者が現れたが、おおむね無事に終わったと言えるだろう。帰ったら、妹紅には説明しておこう。あいつ、HRの時に寝るからな。
Side:M
グラウンドや体育館では、部活に汗を流す生徒たちの声が響いている。それと比べると、校舎裏と言うのは静かなものだ。何せ誰もいない。いや、私がいるか。と、視界に花壇が見えてきた。この学校の花壇は結構綺麗に手入れされている。そのため、見ていてとても心が安らぐ。人もいないし、意外とお気に入りなのだ。綺麗な花々を想像しながら花壇の方へ歩いていくと、ふと歌声が聞こえてきた。どうやら先客がいるようだ。
「~♪~♪」
「あれ?誰だろ?」
制服じゃない所を見ると、どうやら生徒ではないらしい。チェックのスカートとベスト……か、風見先生!私はとっさに物陰に隠れてしまった。生物学科教師・風見幽香。怒らせると超恐いことで有名で、生徒をいたぶるのが趣味なドS疑惑のある先生だ。こんなところで何してるんだろう?そっと耳を済ませて、様子を窺ってみる。
「綺麗なお花を咲かせましょ~♪うふふ、可愛く咲きまちたね~♪お水でちゅよ~♪るんるるんるるん♪」
パシャパシャパシャ
えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……誰、あの素敵な笑顔の人?花に赤ちゃん言葉って、いや、似合わね~。普段の先生と全然違うじゃない。うわっ、なんか如雨露持ってその場でターン始めた。そうして次の花壇へ軽やかな足取りで向かっていく。意外と少女チックなのかこの先生?私もこっそりとその後をつけていくことにした。歌ってるの、『sak○ra』かな?可愛い声だなぁ。
「聞いてくれる~?今日もね、紫のやつに難癖付けられたのよ?大体アイツ、学生時代から絡みすぎだっつうのよ。いい年こいて『ゆかりん♪』とか、もうアホじゃないの?ってのよ。えーりんと言いさぁ、そういうのは、可愛い系にしか許されないのにねぇ?ゆうかりん、イヤになっちゃうわ♪」
………………帰ろう。きっとそれがお互いのためだ。『ゆかりん♪』は私もどうかと思うけど、『ゆうかりん♪』も無理があるでしょうよ。それに『えーりん』は本名の時点で『永琳』なんだから引き合いに出してもしょうがないじゃないの。私は、幸せそうな生物教師をそのままに家路へと向かった。
「やっぱり、女の子なんだな」
花を前にして、普段は見せない愛くるしい笑顔を浮かべていたゆうかりんの顔を思い出すと、そんな感想が出てきた。夕飯のおかず代わりに、慧音に教えてあげよう。
P.m08:45
男子禁制の時間
Side:K
「お、霊夢たちも今から風呂なのか?」
「よ」
妹紅と一緒に大浴場へと向かっていると、前方にクラスメイトの姿が見えた。紫先生のサークル……『秘封倶楽部』と言ったかな?そのサークルメンバーだ。どんな事をやってるのか良くわからないが、仲良さそうにしているのを見ると、それなりに何かをしてるんじゃないかと思う。最初は3人だったと思うのだが、いつの間にか留学生のアリス・マーガトロイドさんも加わっているようだ。多分、魔理沙に巻き込まれたんだろうが。って、おや?もしかして、射命丸文か?妹紅も彼女に気付いたようだ。
「あれ?ブン屋も一緒なの?」
「えぇ、先ほどはどうも」
妹紅が声をかけると、彼女はそう返してきた。今日は、彼女には会ってない筈だ。となると、妹紅に言ってるのか?
「ん?妹紅と会ったのか?」
「へ?」
「あややっ、なんでもないです!」
変なヤツだな?まぁ、今に始まったことじゃないか。それにしても、折角風呂に入る前に会えたんだし、クラスメイト同士交流を深めるのもいいだろう。普段そんなに喋るわけでもないしな。そう思い声をかけようとしたのだが、階段の所で彼女たちが足を止めている。どうしたんだ?何かあったのか?
「ん?どうした?入らないのか?」
「え?あぁ、は、入る入る!」
声をかけられて、はっとしたかのように、霊夢が慌てて声を出した。ふむ……良く分からないが、とりあえず誘っておこう。
「そうか。折角だし、一緒に入ろうじゃないか」
「「「「「え゛?」」」」」
快く誘いを受けてくれた霊夢たちと共に、浴場へと向かうことにした。そう言えば、こんな大人数で入るのは久々だな♪
「なんだ?随分ゆっくり脱ぐんだな?先に入ってるぞ」
脱衣場につき、さっさと服を脱いだ。皆を待たせるのも悪いしな。と思っていたのに、いざ用意が出来たら、皆ほとんど服を脱いでいない。別段おしゃべりをしていたようにも思えなかったが。私、そんなに着替えるの速かったか?この格好で待ってるのも寒いし、先に浴場の中で待ってるとするか。それに、どうも脱衣場ってのは居心地が悪いし。
その後、霊夢たちとのんびりとお風呂を楽しんだ。やっぱり、こういう付き合いは大事だな。
Side:M
「お、霊夢たちも今から風呂なのか?」
「よ」
慧音と一緒に大浴場へと向かっていると、前方にクラスメイトの姿を発見。とりあえず声をかけた。紫先生のサークル……なんだっけ?とりあえずそのサークルメンバーだ。どんな事をやってるのかは良くわからない。あの先生の作ったサークルに、よく入ったもんよね。まぁ、霊夢は逃げ道がなかったようにも思えるけどさ。それにしても、いつの間にかアリスも入ってるんだ。どうせ、魔理沙に巻き込まれたんだろうけどな。って、あれ?射命丸か?こいつら、仲良かったのか?
「あれ?ブン屋も一緒なの?」
「えぇ、先ほどはどうも」
先ほど?慧音と会ったのかな?そう思ったら、慧音から意外な事を聞かれた。
「ん?妹紅と会ったのか?」
「へ?」
慧音じゃないの?あれ?私今日こいつと会ったっけ?記憶を辿ってみても、そんな覚えはない。
「あややっ、なんでもないです!」
眉間にしわを寄せて考えていると、射命丸が慌てて『何でもない』と言ってきた。変なヤツだな。ま、今さらだけど。と、一旦慧音と歩き始めたのだが、階段の所で霊夢たちは足を止めている。どうしたんだ?何かあったのか?慧音も不思議に思ったのか、彼女たちに声をかけた。
「ん?どうした?入らないのか?」
「え?あぁ、は、入る入る!」
「そうか。折角だし、一緒に入ろうじゃないか」
「「「「「え゛?」」」」」
慧音に一緒に入ろうと言われて、急に濁った声を出した。あぁ、そういう事ね。慧音は全く気付いていないようだけど、私はすぐにピンときた。慧音と一緒に入ることを躊躇ってるんだろうな。やっぱ、気になるもんねぇ。思わず苦笑いを浮かべてしまう。そんな様子に気付くこともなく、嬉しそうに先を行く慧音を、私は慌てて追いかけた。
「なんだ、随分ゆっくり脱ぐんだな?先に入ってるぞ」
そういうと、身体にタオルを巻いて、一足先に慧音は浴室の中へと入っていった。それを見て、ようやく霊夢たちは服を脱ぎ始めた。いや~、ドヨンとした顔してるなぁ。思わず、微苦笑を浮かべてしまう。とりあえず、当たり障りのない慰めをしてやるか。
「そのうち慣れるよ」
「藤原さんは慣れたの?」
逆に古明地さんに質問された。あ~、そういう私も3年経っても慣れてないな。っていうか、『藤原さん』って呼ばれるのは照れるなぁ。
「それが全然。毎日見てるんだけどね。それと、妹紅でいいよ。なんか照れくさいし」
「そうか。じゃあこいつらのことも『霊夢』『さとり』『アリス』で構わないぜ?って、あいたっ」
「魔理沙になんでその権限があるのよ?別に構わないけれど」
「なら殴るなよ」
「あら?じゃあ霊夢が今握ってる物の方がよかったわけ?」
言われて霊夢の手元を見ると、なんだそれ!?畳針か!?怖っ!怖いよこいつ!魔理沙もかなりビビッたようだ。
「うぉい、何で風呂場にまで持ってきてるんだよ!?」
「念のためよ」
リボンを解きながら、霊夢が澄ました顔で嘯いてくれた。いや、それは女子高生が念のために持つ物じゃないでしょ。まさか、浴室にまで持っていかないよな?あ、籠に入れた。ならいいか。それにしても、綺麗な髪の毛してるなこいつ。黒いのに光り輝いてるよ。
「それにしても、凄いわよね彼女。休みにたまに国に帰るけど、同世代であんな娘、殆ど見たことないわよ?日本人ってスレンダーな人ばかりだと思ってたけど、二次元以外でもああいうスタイルの娘って、いるもんなのね。あなたもそれなりにあるし」
「そ、そうかな?アリスだって、そんなに変わらないと思うけど」
イギリスからだっけ?留学生のアリスが、脱いだブラウスを丁寧にたたみながら私に話しかけてきた。二次元って、漫画とかアニメの事だよね?比較対象がどうかとも思うが、まぁ、昔と比べりゃ発育いいんじゃないの?今の人って。30年前ならグラビアアイドルになれそうな人が結構普通にいると思う。私だって、人並みのはずだ。そして、何となく霊夢たちの方を見た瞬間だった。
「悪かったわね、人並み以下で」
「い゛?!いや、どうしたの急に?」
「む、なんか失礼なこと考えてたのか?」
「ま、まさかぁ」
心を読んでいるかのようなさとりの発言に、魔理沙も反応してきた。思わず声が裏返った私に、さとりが更に追い討ちをかけてきた。
「そう?私たちを見た後で、『私ぐらいが人並みだな』って思わなかった?」
「ほ~、それは遠まわしに『あんたらはちっさいけど』と言ってるわけだ」
「言ってないって!」
3人にジト目で睨まれた。な、なんでばれたの?いや、別に馬鹿にしたわけじゃなくて、本当に一瞬だけ、『私より小さいなぁ』って思っただけなのに。たじろぐ私に、ブン屋が助け舟を出してくれる。飛び火を恐れたんだろうけど、ありがたい。
「そ、それにしても慧音さん、中学の時から凄いとは思ってましたけど、まだ成長なさってるんですね……流石学園三傑」
「三傑って、同じ位のが他に2人もいるのか?」
魔理沙がその話題に食いついた。ふぅ、助かった。それにしても、服のたたみ方ぐちゃぐちゃだな。アリスとえらい違いだ……私もたたみ直そう。
「はい。多分知ってると思いますよ?」
「そうなの?」
「えぇ。一人は紅魔館の門番さんですよ。1-Bの紅美鈴さん」
「あぁ、あの娘?って言うか、同学年だったんだ」
「門番?」
こーまかん?なんだそりゃ?女子高生と門番って、結びつかなくないか?そんな事を考えていると、ブン屋がもう一人の名前を出した。確かにその先輩は内部生なら誰でも知ってるわ。
「もう一人は、生徒会の常連で、現風紀委員長の小野塚小町さんですね」
「あの見るからに健康そうな先輩か。身長も大きいしね」
「と言うか、そんなの調査してるんだ。まさか、個人情報流れてるんじゃないでしょうね?」
「いや、そんなことはないですよ?別に正確なデータがあるわけじゃないですよ。ただ、数値を計るまでもなく、生徒の中では群を抜いてますから」
アリスが嫌そうな顔をしてブン屋に問いただした。が、別に生徒の最重要機密が流出しているわけではないらしい。ならいいけど。そんな会話をしてる最中、霊夢が慧音の脱衣籠を漁り、アレを手に取って、胸元に当てる。見てて哀れだからやめてよ。その後、何を思ったか今度は顔に当てはじめる。一歩間違えれば二人用の帽子に見えそうだ。霊夢は悲壮な顔でそれを籠に戻した。無茶しやがって。その様子を見ていた彼女たちからは一切の会話が消えてしまった。その後お風呂に入っている最中、彼女たちは笑顔を浮かべながら背中で泣いていた。大丈夫、次からは泣かないでも入れるよ。経験者が言うんだから、間違いない。
P.m.11:00
就寝
Side:K
霊夢たちとのお風呂タイムは実に有意義だった。時折寂しげな笑顔を浮かべていたような気もするが、きっと気のせいだろう。それにしても、風呂上りの牛乳はやっぱり最高だな。どうやら霊夢たちもそうらしい。アリスまで風呂上りの一本を飲んでいたのは以外だったが、日本文化に造詣の深い彼女のこと、きっと誰かに教わったんだろう。お気に入りの赤べこパジャマに着替え、ジャージ姿の妹紅と明日の授業の確認。小さい頃からの習慣だ。おかげで私は、忘れ物をしたことは殆どない。逆に中学の最初の頃は、妹紅は忘れ物が多かった。今はそんなことは無いが。昔の事を思い出していると、妹紅が「ふぅ」と一息ついた。多分確認が終わったのだろう、後は寝るだけだな。
「よし、寝るか」
「だね」
「おやすみ、妹紅」
「うん。お休みなさい、慧音」
妹紅が布団に入ってから、明かりを消した。明日も一日、頑張ろう。
Side:M
「ふぅ」
あ~、ようやく一日が終わった。特に見たいTVもないし、さっさと寝よう。と、その前に時間割とかの確認しなきゃ。そういう習慣が付いてなかったころはしょっちゅう忘れ物をしてたけど、慧音と一緒に暮らすようになって、忘れ物をするようなことは殆どなくなった。ありがと、慧音。にしても、涙ぐましかったなぁ。慧音が牛乳飲み始めた途端に我も我もと。全然関係無い、他の人も何人か買って飲んでたし。そのうち、購買から感謝状がもらえるんじゃなかろうか?正直、無駄な努力だと思うけどな。それで慧音みたいになれるんなら、何よりも私がそうなってるはずだ。そう思い、溜息をつくと、慧音が声をかけてきた。
「よし、寝るか」
「だね」
「おやすみ、妹紅」
「うん。お休みなさい、慧音」
私が布団に入ってから、慧音が明かりを消してくれる。お疲れ様、今日の私。
翌日
Side:Y
朝、目覚ましの音で目が覚めると、家に同居人の姿はなかった。時刻は既に8時を回っている。今日は早い時間の授業がないから、少し遅めに目覚ましかけたんだっけ。多分、研究で疲れている私を起こすまいと気を遣ってくれたのだろう。全然生活音はしなかった。それでも、私の分の朝食が用意されていた。メモに書いてあるように、味噌汁を温め、グリルの中にある魚を取り出す。美味し♪
学校に着いても、まだ欠伸が出そうになる。我慢我慢。生徒の目がある以上、イメージが大事なのだ。皆生徒の前ではキリっとしてるが、職員室では案外大あくびをしていたりするものだ。皆が皆、と言うわけでもないが、勇儀は違うけど、この学校の教師陣は、大学での研究者も兼ねている人が多い。人の怪我を見て嬉しそうな顔をする永琳だって、肩書きは立派に薬学博士だし、幽々子も、確か和歌の研究者。サッカーキ○ガイだって、見た目はあんなでも准教授だ。私もそう。そういった先生たちは、土日以外にも週1日、研究日として休みが設けられている。大学も成果主義の時代になってきたのだ。
そんな時代に私も含めて同期の連中が、自分の研究もあるのに、わざわざ高校で授業を教えているのは、収入面(ちなみに、この齢でもボーナスで自動車が買える)もあるが、この学校が好きだから、と言うのも大きいのだ。口に出して言っているわけじゃないが、皆そうなんだろうと思っている。普段は厳しくしてたって、生徒のことは好きだし、大事に思っている。だからこそ、生徒の前ではしっかりしていないとダメなのだ。だと言うのに、
「あっ、こんにちは先生♪」
「こんにちは~!」
「こんにちは」
クスクスッ
「?」
「ぷぷっ」
「どうかした?」
「い、いえ!何でもありません!」
ヒソヒソ、ヒソヒソ
「なんなのよ、一体」
どうも、生徒たちの視線が気になる。普段と違い、私を見たりすれ違ったりする時に、妙に親しげに声をかけてきたり、何がおかしいのか笑いをこらえたり。疑問に思いながら職員室に入ると、珍しい奴がいた。
「おっ、今出勤かい?」
「あら、勇儀じゃないの。体育教員室はこっちじゃないわよ?」
体育教師の星熊勇儀。高校時代からの友人だ。普段は第一体育館にある体育教員室にいるのだが、何か用事でもあったらしい。今日は、イヤリングが星型だ。しかも見たことのないヤツ。本当に、星型アクセを大量に持ってるわね。
「いや~、ちょっと、書類がね。それにしても」
そう言うと、私の事をじろじろ見てくる。
「何よ?何かついてる?」
「い~や、別に。そう怖い顔すんなよ。折角の可愛い顔が台無しだよ?ぷぷっ」
「はぁ?」
なんだこいつ。普段言わないような事を言ったかと思ったら、急に笑い出した。いや、それはいつものことか。何が可笑しいのか、私の肩をバンバンと叩き、職員室から出て行った。痛いのよ、このバカ力。私の肩は瓦20枚より遥かに脆いんだ。少しは加減しろ。
「じゃ、あとでな……ん」
「?」
最後、何か言ったかしら?まぁいいわ。机に荷物を置いて、と。最初は3年だっけ?棟が違うから面倒なのよね。教材を手に、3年の教室へと向かう。途中、赤と青の、センスが良いのか悪いのかよくわからないスーツに、白衣を重ねた教師と出会った。彼女の名は八意永琳。中学時代から、天才の呼び名をほしいままにした知り合いだ。
「おはよう」
「あら、おはよう」
クスクス
こいつもか。ワケもわからず笑いものにされるのは流石に気分が悪い。理由を問いただそうとしたら、先に彼女の方が口を開いた。
「ギャップ萌えって、どう思う?」
「はぁ?」
何言ってんのこいつ?マッドサイエンティストにどうギャップをつけるつもりよ?他の属性にしたって、ギャップのつけようが無い気がするし。今更ロリ系やバカっ娘にでもなるつもりかしら?キモイだけだからやめといた方が良いと思うわよ?まぁ、こいつがどう思われようと別にいいけど。そう思ったが、どうやらこいつ自身の事ではないらしい。何がそんなに楽しいのか、満面の笑顔で私に意見を求めてきた。
「ああいうのも、ツンデレって言うのかしらね?」
「何の話よ?」
いや、ホントに話が見えない。こいつ、ホント昔から理解できないことばっかり言うのよね。怪訝な顔をする私をみて、クスクスと笑いながら横を通り過ぎていく。
「教師も、人気は大事よね」
「さぁ?ま、あるに越したことはないかもね」
「うらやましいわ……りん」
「?」
なんだ?自分の名前がどうかしたのか?あぁ、そういうキャラ付けか。語尾に『にゃん』とか『ですぅ』とか。似合わないにも程がある。廊下の先へと姿を消す彼女に、哀れみの視線を贈ってあげた。私ってば、優しいわ。
「あ~、もう!」
教室から出て、思わず苛立った声を上げてしまう。あの後、2つの授業を行ったが、終始後ろでヒソヒソと話をしている奴らがいた。普段ならそいつに怒るところなのだが、なにせ、クラスのほぼ全員と来たものだ。基本的に問題児のいない、真面目な学校の、真面目なクラスの、真面目な生徒まで授業中に笑いをこらえてるとなると、怒るより先に気味が悪くなってくる。私、何かしたかしら?思い返してみても、全く思い当たることがない。何かついてたりするのかと、休み時間に化粧室で全身くまなくチェックしたが、顔やスタイルを始め、称えられるような所はあっても、笑われるようなところは何処にもなかった。なのに、笑われる。なんなのよもう。ぶつけようのない怒りを抱えながら廊下を歩いていると、上の階から同僚が降りてきた。八雲紫。よりによって、こういうときには一番会いたくないヤツに。案の定、不機嫌な私を見ると、いつものように楽しげな笑みを浮かべている。
「何が可笑しいのよ?」
「あら、やだ。そう怒らないでよ『ゆうかりん』♪ぷぷっ」
「んなっ!?」
なん……だと……?その瞬間世界が凍りついたような錯覚に襲われた。なぜ、なぜ!?頭がまるで働かない。動揺からか、歯がカチカチとかみ合わない音を鳴らしている。きっと、瞳孔も開ききっているだろう。そんな私をとても愉快そうに、おなかを抱えて笑っている女がいる。私は、必死に声を振り絞った。
「な、なんで?」
「くくっ、そっかそっか。あなた、今日遅番だから号外読んでないのよね?ま、あの娘の事だからそれを把握した上でやったんでしょうけど」
そう言うと、私に一枚の紙切れを手渡してきた。震える手でそれを受け取った。これは、新聞?
東方学園新聞 号外!
厳しさの裏には愛情あり!フラワーマスター☆ゆうかりん♪
校舎裏に花壇があることはご存知だろうか?普段は行くことのない場所なので、見たことが無いという人も多いことかと思うが、こじんまりとした場所ながら、学園屈指の景観を誇るスポットである。その美しい景観を作り上げているのは、誰あろう、生物学科教師の風見幽香先生なのだ。生徒に厳しいと言われる風見先生だが、本当は心優しい教師であることを新入生諸氏にも理解していただくためにも、昨日撮れたばかりのスペシャルフォトと、先生の一言をご覧頂きたい。
「あ、あ……」
その記事を見た私は、全身をガタガタと震わせた。目の前に写っているものが信じられない。
そこには2枚の小さな写真と、コメント付きの大きめの写真が掲載されている。とても可愛らしい笑顔を浮かべる私、如雨露を持ってターンする私、そして、目を閉じて、花にキスをしている私。その横には
『フラワーマスター☆ゆうかりん!な~んてね♪』
……み、見られて、嘘、嘘、嘘っ!?
「い、いやああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
ニヤニヤがとまらなあ~~~~~~~い!!
マジでニヤニヤが止まらん。さっさと治れ…俺の顔面…!
そして新聞に掲載されてしまう…と。
しかし慧音の胸の話は読んでてニヤニヤしたりしてました。
皆が注目したりとか、脱衣所で霊夢がブラを弄ってたときは
笑いが漏れてしまいましたねぇ。
いつかきっと成長するよ……。
ほのぼのとしてて、賑やかな面白いお話でした。
終始にやにやしっぱなしです。ゴチソウサマ。
どうどう……落ち着いてゆうかりん。
それにしても射命丸・・・なんて命知らずな。
フラワーマスター最高だよ!!
今回もとても面白かったです!
幽香ちゃんかわいいね。