Coolier - 新生・東方創想話

ある男の懺悔 射命丸文の取材記録より

2009/04/29 20:22:38
最終更新
サイズ
7.82KB
ページ数
1
閲覧数
807
評価数
7/20
POINT
990
Rate
9.67

分類タグ


 求聞史紀を読んで、私は十六夜咲夜の謎めいた生い立ちに興味を持った。
 そして、ある情報筋から、十六夜咲夜とよく似た特徴を持つ少女がかつて住んでいたという村を訪ね、
 一人の人間男性にインタビューする機会を得た。


 ―この村にメイド長とよく似た人が住んでいらしたというのは本当ですか?

 そうだな、十数年前の事になる。
 僕の住んでいる村に、不思議な力を持った女の子が住んでいた。
 その子は銀色の髪をした美しい少女で、ほぼ同年代の僕とある一人の友人はその子とよく遊んだ。
 それで、その女の子のどこが不思議かというと、何もない所から物を取り出して見せたり、
 僕と友人が彼女の噂話をしていると、いきなり目の前に現れて怒られたりしたんだ。
 彼女が現れるときは決まって、周りの空間が歪んだような違和感を感じるんだよ。
 それはまるで時間を止める力でも持っているかのようだったな。

 ―彼女は村でいじめられたりしませんでしたか?

 その通り、彼女の力は村にとっては異質すぎた。
 いまでこそ、人里に暮らす妖怪や妖精も普通になってきているが、
 当時はまだそういった事ができる雰囲気ではなかったんだ。
 うちの村は当時でも特に妖怪を嫌う所で、
 だから彼女も次第に疑いの目で見られるようになったわけだ、
 お前は村に潜り込んで悪さを企む妖怪ではないか、と。
 僕の友人は、明らかにその子に惚れていた。
 両思いだったかどうかはついに知る事ができなかったが、少なくとも友人は本気だった。
 なぜなら、彼女が村の大人たちから因縁をつけられている時、毅然とした態度で彼女を擁護したんだ。
 なにしろ僕なら睨み付けられただけで怯むような、いかつい大人たちとも対等に言い合ったんだ。
 僕にはそんな彼が眩しくてしょうがなかったよ。
 彼の努力が実を結んで、なんとか彼女も人里でそれなりに生きていけるようになった。

 ―だとしたら何故彼女はここを離れることに?

 でもある日決定的な事件が起きた。
 当時の僕たちより年下の子供が数人、山へ遊びに行って帰ってこなかった。
 村の大人たちはもちろん、僕らも探しに行った。
 日が暮れるまで探したが、誰も子供たちを見つけることができなかった。
 その後、なんと彼女がぐったりして動かなくなった子供を抱えて戻ってきたんだよ。
 彼女は能力を駆使して空を飛び……―何でも、時間を操る者は空間も操れるとかいうそうだが、僕には詳しいことはわからないけどね―遠く離れた崖に落ちて死んでいるところを見つけたのだという。

 それから彼女はどうなったか? 
 ご想像の通り、大人たちは彼女が怪しげな術を使って子供を殺したんだと言いがかりをつけた。
 よく考えれば、彼女が生贄の儀式か何かに子供の遺体を使うのなら、
 堂々と皆の前に運ぶのはおかしいじゃないか。
 彼女は善意で能力を使い、子供を助け出そうとしたんだ。
 だが村の大人たちはそうは考えなかった。彼女の不思議な能力と、当時存在した妖怪排斥を訴える結社の宣伝、なにより子供の死が引き金となって、それまで村人が抱いていた彼女に対する差別感、というより、恐怖感が暴発したんだ。
 (うつむいて)そこから先は……できれば言いたくない。(再び顔を向けて)だが敢えて言わせてくれ、誰かにこの事を聞いて欲しいんだ。これを聞くことで貴方が不愉快な気分になるかもしれない、それでも聞いてくれるだろうか。

 ―そこまで言われたら余計聞きたくなるじゃないですか

 そうか、そうだね。ありがとう。(湯飲みを取り、のどを潤す)
 話をもとに戻す、
 村の大人たちは彼女をリンチにかけた、罵声を浴びせながら……ああ、思い出すだけで辛い、
 殴り、蹴り、衣服の一部を剥いだ。
 友人は必死になって愛する彼女をかばおうとした、
 そんな彼もリンチの対象になった、二人ともボロボロにされていた。
 僕は……情けないことに割って入るだけの勇気を持たず、
 近くの自警団の人にこれをやめさせてくれと頼んだが、
 そいつはほどほどにしておけよと言うだけで、積極的に止めようとしなかった。(涙声になってくる)

 村人たちのリンチで、友人のほうは気絶して動かなくなっていた、
 彼女の身代わりになって殴られ続けたのだ。
 彼女は友人の名前を叫んで泣いていた。
 自警団の男はお前もあいつらの仲間だろうと僕に言った。

 (しばらく沈黙、涙を拭きながら)

 僕は、僕は、軽蔑してくれてもかまわないが、首を振って否定した、あんな奴らは知らないと、
 そうしたら皆は僕にお前も石を投げろ、人間ならできるはずだと迫った、
 僕は周りの空気に逆らえず、我が身かわいさに二人に向かって石を投げた。
 こんな事を言っても言い訳に過ぎないが、
 そこで拒否していたらどんな目に合わされるか分からなかった。怖かったんだ。
 それに石はわざと当たらないように投げた。
 それでも、僕が二人を裏切ったことに変わりはない。
 石を投げた事に変わりはない。
 僕が加害者の一人であることに変わりはない。

 ―お二人はその後どうなりました?

 彼女は僕の方をただ悲しげな目で見つめ、それから目を伏せて動かなくなった友人を抱きしめ、
 そこから嘘のように二人の姿がパッと消えた、不思議な力を使ったのだろう。
 その後二人は二度と姿を現さなかった。

 今でも後悔の念に駆られるよ、あの時どうして友人たちをかばえなかったのかと、
 こんな弱いものいじめはやめろと、当たり前のことをどうして言えなかったのかと。
 空気に逆らえなかった自分が本当に憎い。
 もし二人にもう一度会えるのなら謝りたい、そこで殺されるのならそれでいいと思った。

 何年かたって僕は成人になった。
 村でできた作物を売るため、僕は行商として他の村へ行く途中、
 道に迷い妖怪に食べられそうになった。
 そこを紅魔館のメイドに助けられた。
 メイドの顔と、彼女が現れたときの空気の違和感で心臓が跳ね上がったよ。
 明らかに僕が見捨てた、あの女の子だった。生きていてくれたんだ。

 ―その人は十六夜咲夜本人?

 分からない、十六夜咲夜という人がいるのは知ってるが、顔は見たことがない。
 少なくとも、そのメイドは明らかに彼女自身だったよ。
 彼女は僕を助けて目的地への正しい道筋を教えてくれた後、そのままどこかへと立ち去ろうとした。
 僕は彼女に土下座した。ごめん、怖さのあまり君たちを裏切ってしまったと、
 許されるとは思っていない、でも一度謝罪させてくれと願った。
 でもメイドは一言、『人違いですわ』といって音もなく消え去った。
 友人はその後どうなったのかも聞こうとしたが、でも僕にはもう確かめるすべはなかった。

 僕や村人たちは紅魔館に足を向けて眠れないと思う、
 思えば彼女と友人が姿を消したとき、やろうと思えば僕らを皆殺しにすることもできたはずだ。
 僕が妖怪に襲われたとき、見殺しにすることもできたはずだ。
 でも彼女はそうしなかった。
 まあ、それは優しさからではなく、僕らが殺すにも値しない存在だったからかも知れないがね。

 ―村の人たちはどう反応しましたか?

 僕が村に帰ってそのことを話すと、みんなはショックを隠せなかった、
 『あの時ひどいことをした』と何人かの人は言った。なんとリンチに関わった者、
 それを黙認した自警団の男からもそうした言葉が出た。
 二人を迫害することに罪悪感を感じていた人は少なくなかったんだよ。
 二人に石を投げた大人たちでさえ、普段から言動も外見も根っからの悪者だったわけではなく、
 普通に田畑を耕し、物を売り、家族を守るただの人だったわけだ。
 一人ひとりは善良でも、群集心理の狂気にとりつかれて暴走してしまう。
 みんな、あいつは悪い奴だから、ここで石を投げないと俺も裏切り者になってしまう、
 そんな空気を読みすぎてあんな事をしてしまったのだ(もちろん僕もだ)。
 妖怪である貴方は、僕の言い分を愚かな人間のただの弁明と思うだろうか?

―いえ、人間の性質としてあり得ると思います

 もしあそこで誰かが声を上げたら、僕にもしその勇気があったなら、
 それがみんなに伝わり、二人は今でもこの村で暮らしていて、所帯も持てていたかもしれない。
 しかし何もかもがもう遅すぎたな。
 古今東西、どんな悪い行為も、どこかにはっきりと『○○から奪い、侵してやるぞ』という、
 明確な意思を持ったボスがいて、そいつがみんなを明示的に脅すか洗脳するかして、
 それで暴挙に至らせる場合ばかりじゃないんだ。
 むしろただの人が空気を読みすぎてそうなってしまうことの方が多いのではないか。
 この事で僕はそう感じた。

―最後にみんなに伝えたい事はありますか?

 僕の懺悔を聞いて下さった皆さん、
 不運にも同じような状況に巻き込まれた時、
 どうか場の空気に流されない意思を少しでも持って欲しい、
 きっと貴方の勇気ある一言を待っている味方がいるから。
 あの二人のような目にあう人を二度と出さないようにして欲しい。
 僕が伝えたい事は以上です。

―今日は、インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。








 その後、メイド長が紅魔館周辺にある小さな墓に花束を捧げているのを見つけ、
 質問内容を細切れにしてそれとなくインタビューを試みたが、適当にはぐらかされてしまった。
 埋葬されている人がインタビューに応じた男性の友人なのか、十六夜咲夜と関係があるのか、
 いつごろまで存命だったかは現時点では定かではない。





 
 冬扇さまの『Mixed chorus(作品集11)』に影響を受けて作りました。
 そのコメント欄でも書かせていただいたのですが、もし自分が『Mixed chorus』における村人の立場だったとして、このような状況下にいたらどんな振る舞いをしただろうか、と考え、『Mixed chorus』における村人側の視点を再現するつもりで書いてみました。
 主人公はおそらく私が書いた創想話男性オリキャラのなかで最もヘタレですが、それだけに等身大の自分に最も近そうな人物になりました(苦笑)。この告白のシチュエーションは、文々。新聞の取材でも、彼の死後映季さまの前での懺悔でも、どんな設定でも構いません。
 別にこの作品中での考えを皆様に押し付けるつもりはありませんが、どんなに低い点数でも良いのでなにか感じたことを教えていただければ幸いです。

 09/05/01 やっぱり文の取材ということにしました。あと評判の悪い最後の文と、文章全体を少し変えました。
とらねこ
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.510簡易評価
2.70煉獄削除
もう少し改行するなり行間を空けるなりしたほうが
読みやすくなるかと思います。
それとも彼の心を表しているのかもとも思いますが。
話は面白かったと思いますよ。

脱字の報告
>よく考えば、彼女が生贄の儀式か何かに
『よく考えれば』ですよ。
7.30名前が無い程度の能力削除
自分の意思を持ち、それをはっきりと他人に伝えることができたら良いのかなぁ。
でもそれだけで周りを変えることはできるのか?
周りを動かすには、意思と勇気だけでなく"意志"と力も必要なんじゃないかと思います。
(権力, 武力, 知力, etc...)

あと、
>告白のシチュエーションは、文々。新聞の取材でも、彼の死後映季さまの前での懺悔でも、どんな設定でも構いません。
この設定はむしろハッキリ決めてて欲しかった。
というのもこの作品、なんだか幻想郷の人間ではなく作者さんの懺悔に見えてしまったのです。(!!)
せめて、死後である、映姫様の前にいる、文から取材を受けている、
などのようなことをほのめかす表現が本文中に有れば、こうは感じなかったと思います。

ほのぼのした話が大好物な私だけれど、たまにはこんな話もいいね。
8.80DDD削除
お話としては少し短いけどよかったと思います。
ただ、やはり読みにくいかと。
10.70名前が無い程度の能力削除
展開が駆け足過ぎるのと最後がひぐらしパロみたいになっているのが残念。
でも弱さに対する無理が無く、前を向いて読める作品でした。
12.80名前が無い程度の能力削除
オリキャラはうけつけないがこの作品は大丈夫でした。
咲夜さんが結局幸せなのか分からないので、全体的に後ろ向きになっているのは仕様かな。

だとしても、最後のひぐらしはあまりにも有名な文だから変えた方がいいと思います。
14.10名前が無い程度の能力削除
東方でやらなくてもいいのでは?


伝聞のくせに、書き方があからさま過ぎる。
伝聞ならば、もう少し非確定要素を増やすべきでは?
話が分かりやすすぎる。
そもそも書き出しが射命丸らしくない。まるでレポート。
新聞記事とレポートの違いはわかりますか?


そもそも、男の態度が気に食わない。
リンチを後悔したから、許してもらいたいんですか?
実は見て見ぬ振りだから、許されるのか?
ありえない。
罪悪感があるなら許されるのか?反省したから許されるのか?
……作者の良心を疑う。

慧音はいない村なのか?
幻想郷に村がたくさんあったのですか?
それは知りませんでした。
16.70名前が無い程度の能力削除
>>15
幻想郷にいくつかの集落が点在してるというのは公式設定。
慧音が全部の集落にいるとでも思ってたの?ww

それと、この手の話は過去にもいくつかあったからそういうコメントを今さらするのも基地外すぎると思う。
てか、もっとよく見ようよ。新聞記事だなんてどこにも書いてない。取材記録と書いてあるのが読めなかったのかな?ww
小学生からやり直してきなよww

てかおまえ、東方やったことないニコニコで知ったにわかの厨房だろ。
知ってるのならありえないコメント多すぎなんだよねwwwww


作品自体はありがちだけど、よかったよ!
15みたいな気違いにめげるな!