「いいから離してくれませんか。正直、鬱陶しいんですよあなたは」
憎々しげに吐き捨てるように目の前の人物は八雲 紫に言葉を送った。
紫はあまりに咄嗟の事に掴んでいたその人物の服の裾を反射的に離してしまった。離された着物をパッパッと払う。まるで汚い物に触られたとでも言いたげな仕草だ。
普段から他者へは大きな態度でいる事の多い紫だったが、自分がそのような行動を取られるのには慣れていない。実際ちょっぴり泣きそうだった。
目の前にいるのは間違いなく知った人物であり、むしろ主従関係にあったはずだ。自分はまだそこまで老いていないと紫は自分に言い聞かせる。アイムヤング。
念のため普段に比べれば相当優しい声で、眼前の眉間にしわを寄せて自分を見下す従者に話しかける。
「ね……ねぇ、藍?」
まだ何か用があるのか?としっかり顔に書いている表情でその人物、八雲 藍は再度吐き捨てる。
「なんですか、紫『さま』?」
『さま』にあからさまな嫌味の念が篭っており、紫は自分の心がボッキリと折れた音を確かに聞いた。
紫、涙が出ちゃう。女の子だもん。
さかのぼる事おおよそ十と三分。昨晩の博麗神社での宴会から帰宅した紫は人里のお父さんよろしく居間に大の字でそのまま寝入っていた。
酒に強い紫だったが、萃香がどこからか入手してきた『すぴりたす』なる酒をストレートで呑み続けた結果、ついにはまともにスキマを制御できないまでに酔い潰れてしまったのだ。
余談だがそんな紫に絡まれながらも背負ってマヨヒガの紫宅へ連れて帰ったのは霊夢だった。霊夢も『すぴりたす』を呑んではいたが、一口目で他の酒には無い辛味に警戒してあとは呑まなかった。残りは萃香がもったいないと呑んでいた。もちろんストレートで。
月の異変や間欠泉の際には少なからず紫の助力を得て異変を終結させたという恩もあったが、背中で「腋がすてきぃ」などとのたまうスキマ妖怪を飛行中に何度捨てようか迷ったと霊夢は後に語る。
ともあれ、霊夢から藍に譲渡された紫は今度は藍に「もふもふさせれー」と尻尾と数十分ずっともふり続けた。藍は日中の家事に疲れていたが主の普段見せない姿に少なからず母性が刺激されていたりもした。
ひとしきりもふった後、紫はそのまま寝入っていた。本来なら寝床へ運ぶものだが、藍も疲れが顕著だったためか心の中で謝罪を述べつつも掛け布団を持ってきて紫にそっとかけてあげた。
そして紫と奥の部屋で眠る橙を起こさぬよう、台所で明朝用の米をとぐと自身も寝床へ向かったのだった。
朝起きた紫は台所から聞こえる包丁のトントンというリズミカルな音と、漂う味噌汁の芳しい香りで目を覚ました。
そして目を開けた途端に強烈な頭痛に襲われる。確実な二日酔いであった。二日酔いなど一体何年ぶりであろうか。数えようかとも思ったが真剣に思い出せる自信も無く、なによりバケツをかぶらされてガンガンと棒でぶっ叩かれたような反響的頭痛がそれを邪魔した。
「あの小鬼……絶対にあれはストレートで呑むものじゃないじゃないの」
萃香への愚痴を独りごちるものの、霊夢のようにすぐにやめなかった自分にも責任がある事を完全に忘却の彼方へ追いやっていた。弱っていても八雲 紫その人である。
そして体を起こすと、肩までかかっていた布団がはらりと落ちた。ふっと口元が緩み、笑みがこぼれる事を紫は自覚した。己の式である藍がしてくれた事とすぐに理解し、掛け布団を綺麗にたたんで押入れに戻した。
藍とは主従関係ではあるが、紫は彼女にそれ以上の想いをかかえていた。きっとこれが愛という感情なのだろうと思い、ガラにもない事を思考する己に紫は今度は苦笑を漏らした。
しかし、耐え難い頭痛によりものの数秒で思考が遮断される。
「いたた……これはだめね。お水飲みたいわ……」
押入れの襖をしめると、紫はきびすを返して台所へ向かった。台所が近づくにつれて強くなる味噌汁の香り。二日酔い時の味噌汁は、以前にスキマ経由でちょろまかした『ふぁっちゅーちょん』なるスープ以上の究極のスープと言えよう。特に藍の作る豆腐とわかめの味噌汁は絶品中の絶品であると評価していた。
台所ののれんをくぐるとそこには藍が三角巾と割烹着をまとって朝食の準備を進めていた。
「おはよう藍。悪いけれど、お水を一杯もらえるかしら」
トントントントン。
藍は振り返っての朝の挨拶もせずに支度を進めていた。
(おかしいわね? 包丁の音のせいで聞こえなかったのかしら……)
疑問に思いつつも、紫は再度その背中に声をかける。
「藍? 聞こえていて? お水をいっぱ――」
ダンッ!
その音に紫は冗談抜きでビクッと萎縮した。
いきなり叩きつけられた包丁のせいで、切っていた大根の左側が勢いよく宙を舞う。そして藍は空いていた左手でその大根を見事にキャッチ。
ゆっくりと振り返る藍。紫は咳払いをひとつした後に流石に主従の上で注意をしようとしたが……、その考えはすぐに己の心の宝箱の中に施錠してしまう事にした。
目の前にいるのは誰? 間違いない。自身、八雲 紫の式である九尾の狐の妖怪である八雲 藍だ。顔も姿も佇まいも間違いなくそれであるのだが――
「ら、藍さん? 私は何かまずい事をしてしまいましたでしょうか?」
つい敬語になってしまうほど苦々しい面持ちだったのだ。悪く言えば『ガン』を飛ばしている状態だ。あきらかに敵意が篭っている。
おかしい、ここは自分の家だったはずだ。紫は落ち着くために奇数を数えた。前に何かの文献でそうすると落ち着くと記載があった事を思い出した。
しかし、数えても数えても落ち着くどころか睨まれている事に焦りが沸くばかりだった。数えるものが文献のものと違うと気づけないほど今の紫には平常心が崩壊していると言えよう。なお、この後も紫が落ち着こうとする際に奇数を数えるクセができたが、案の定落ち着く事はなかったと本人の談。
そんな紫を尻目に、深々とため息――ついでに言えば、至極どうでもいい奴の相手をしなければいけないといった感じで――をつくと、湯呑みに水瓶から水を注ぐと紫に無言で差し出した。
その迫力に気圧されるも、水を一気に飲み干すと作り笑いを浮かべて紫は藍に話しかけた。常人ならとっくに心が折れているが、そこは八雲 紫であった。
「ねぇ藍? も、もしかして昨日また迷惑をかけてしまったのかしら?
ごめんなさいね。つい楽しいお酒で盛り上がっちゃって、言われるがままに呑んじゃったのよ。
あ、でも勧めたのは萃香だからね? もぅ、あんな小さい子にかわいく頼まれたんじゃお姉さんも断れなくってって、
『あんたはお姉さんじゃないだろ』って、そりゃきついですわ藍さーん!」
ビシッと藍の肩へツッコミ。人は気まずくなると何故饒舌になるのだろうか。これを解明したら何か賞を得られるのではないだろうか。
完全なノーリアクションの藍に紫の心は有頂天まで飛びそうな勢いだったが、あの生意気な天人が高笑いしているように見えたため自我を取り戻した。
振り返る藍。明らかに先ほどよりも険悪な面持ちとしか形容できない、そんな顔だった。
「邪魔なんですけど、紫様」
今までに聞いたことの無いような冷たい声。紫はそう思った。ついでに泣きそうになり始めた。
「私は今、橙の朝食の用意をしているんです」
「そ、そうね。包丁を扱っている時に声をかけてしまって悪かったわ。……って藍?」
今の藍の言葉にふとした疑問が生じる。
「『橙の』って、私のご飯もあるのよね?」
「何でですか?」
「いえ、そこを強調してたから。うふふっ、ごめんなさいね変な事を聞いてしまって」
「はははっ、まったくですよ」
ひとしきり二人で笑った後、藍は急に真顔になると、
「もちろん、紫様の分はありませんよ」
有給休暇を使い切った死神の鎌を借りたの如く、一気に言葉の刃を主に叩きつけた。ゆかりんメガショック。
真っ白に燃え尽きて呆然とする紫を気にもせずに、藍は続けた。
「そもそも紫様はいつも外で食べるか、人里の弁当屋のお弁当を食べておられるでしょう。何故急に私のご飯を食べるなど?」
違和感。漢字にすれば三文字だが、それ以上のものが心に引っかかった。自分は間違いなく昨日も藍の朝食を食べたはずだ。目玉焼きと味噌汁と焼き海苔とお新香。大丈夫、記憶にスキマはできていない。
なのに何故彼女は『いつも』などと言うのか。理解ができず、気がつけば二日酔いが無くなっていた。紫はまだその事実に気づいていないが。
混乱が全軍突撃状態で紫から正常な思考を奪っていると、そこへ小さな姿がひょこりと現れた。
式である藍の式、橙である。
橙は呆けている紫を見つけると、心配そうにかけ寄った。
「紫さま、どうしたんですか!? 大丈夫ですか!?」
大きなその瞳を少し潤ませて、眉を漢数字の八のようにして心配そうに。
あぁ、藍はいつもこんな心境なのか。紫は切り裂かれた心に染み入る優しさを噛み締めていた。今なら橙をさらっても許されると思うんだ。紫は真剣にそう考えていた。ダメ、絶対。
ぷうっと頬を膨らませると、橙は藍に向き直った。
「もう、藍さまだめですよ。紫さまにいじわるしたら」
一変するとはまさにこの事。藍の表情が一気に『見慣れた』だらしない笑顔に変わる。
「そうだな、橙。私も悪ふざけが過ぎたよ」
「そうです、紫さまにちゃんとごめんなさいしてください」
「ああ、もちろんだ。紫様、すいませんでした」
目が笑ってない。むしろ「橙に言われたから謝ってるだけだぜ?」というような心境を隠してもいなかった。橙に背を向けているからだろう。
紫はもう脳内の会議室が制圧されてしまい、思考すらできずに「あうあう」と言っているばかりだった。カリスマなんてあったものではない。
そこへ再び橙がかけ寄り、ぽむと紫に正面から抱きついた。
「紫さま、いっしょにご飯を食べましょうね」
見上げた形で自分に言葉をかける橙に、紫は心底愛らしく思った。
「ったく、手のかかる奴だぜ。あたいがいなきゃ藍さまともろくに話せないなんてよ」
と藍に聞こえない小声で、まさに悪魔の微笑みを藍に背を向けているため自分だけに向けるまでは。
「ま、おかげで藍さまへの点数が稼げたから感謝するよ」
紫は笑顔のまま硬直中だった。パーフェクトフリーズEasyを被弾してしまったかのように信じられないという光景だったが、既に思考が死んでいたためそれ以上傷つかなくて済んだのが幸いか。
橙は紫から離れると、いつもの見慣れた笑顔に戻る。本来の紫なら橙の将来を思案するだろうが、無論できるはずもない。
そして藍はいつも通りのデレ顔の甘やかしモードだ。
「じゃあ藍さま、お茶碗とお椀を運びますね」
「ありがとう橙。橙は本当にいい子だな」
「えへへ、そんな事は無いですよぅ」
頭をなでなでされ、まさに猫よろしくごろにゃんとなる橙を見て、藍も気持ち悪いほどの笑顔で撫で続ける。
紫はようやく少女祈祷中から復活すると必死で表情を作り直す。できる限り冷静に、スマートに、そして主として静かな怒りを込めたような面持ちへ。
「藍」
凛とした声。今の紫には今までの衝撃による地盤崩壊を全て復旧し、その瞳には冷徹なまでの威厳が込められている。初見の者であればその恐怖にすくみ上がる事は必死だ。そのまま紫は続けた。
「私はあなたの主だったはずね。なのにその態度はどういう事なのかしら? 何か私に不満でもあるとでもいうの?」
決まった。紫はそう思いつつ、畳み掛けようとしたのだが、
「……そうですね」
「えっ?」
まさかこの状況で反論されるとは想定を一切していなかったため、紫の威厳は回避結界を使う余裕もなくブレイク。
「まず寝過ぎです。最近は良くなりましたが、それでも数日寝るとか怠惰にも程があります。
前なんか紫様が起きた後に布団を干そうとしたら、布団の下の畳からキノコが生えていましたよ。
どれだけ寝てる以外にも、どっかから菌でも持ち込んだんですか? 掃除するのは私なんですから、勘弁してくださいよ。
次は呑み過ぎです。昨日もそうですし、確か四日前も酔い潰れてはいませんでしたが、酒臭い事この上なかったですね。
最近は無くなりましたけど酔った勢いで[ピーーー]も露出なんて事もありました。
そしてその際に、成人指定がかかるような単語を連呼されてもいました。橙もいるんですから、情操教育上で不適切過ぎます。
そうそうお酒といえば、この前はお酒を切らしてしまった際に料理酒を呑まれましたね?
それだけならまだしも、みりんまで呑んでおられましたよね? 情けなくなるから本当にやめてくださいよ。
あとは――」
「申し訳ありませんでした」
紫は深々と頭を下げる。心の底からの謝罪の念を込めて。
というか藍さん。あなたも放送禁止用語を橙の目の前で仰られませんでしたでしょうか? などと思いつつも、確かに主という立場に甘えていたのは事実であった。紫は基本的に何を行うにも、自分の興味の及んだ事以外は不精なので誰かの都合に合わせる事は稀有だった。
藍は日頃からそんな紫に仕えて何年になろうか、ともあれ甲斐甲斐しく尽くしてき続けていたのだ。不満が一切無いなどと考えなかった自分を紫は恥じた。
しかし、いくらなんでもいきなりきつ過ぎやしないだろうか。思春期の男子を持つお母さんでももうちょっとソフトなもんじゃないだろうか。
紫は藍の服の裾を、苦笑を浮かべつつ――微笑を浮かべようとしたが顔が硬直していた――きゅっと握る。
「なんとか自制して今後の改善案とするから、ご飯をちょうだい」
にこっとこれまた苦しい作り笑い。
聞こえたのは藍のため息、差し出されたのは朝食ではあるのだが、
「では買い置きのこれをどうぞ」
最近、香霖堂に入荷するようになってたちまち大ヒット商品となった『かっぷぬぅどる』という熱湯を注いで3分待つだけ美味しい麺料理を食せる逸品だ。
そう言えば聞こえがいいが、要は手抜き料理の代名詞的存在である。いや霊夢のものを貰って食べたのは美味しかったけど、と紫は心中で付け足す。ちなみに霊夢から貰ったのではなく、霊夢の昼食を無断で食したと更に付け足しておく。
まめな性格の藍がこれを買っていた事も驚きだが、この状況で自分へ差し出す事の真意を紫は瞬時に悟った。
紫の顔面は青ざめ、背中にはもう嫌な汗しか流れなかった。
「えーっと……ら、藍?」
再度、深いため息。そして吐き捨てるように主へと言葉を向ける。
「いいから離してくれませんか。正直、鬱陶しいんですよあなたは」
その言葉にがくりと紫は膝をつき、話は冒頭へと帰還する。
「ふんだ、何よ藍ったら。いくら不満があるからってあそこまで言わなくてもいいじゃない」
あれから1時間ほど。衝撃から立ち直った紫はふよふよと空を漂っていた。
スキマを用いれば瞬時に移動も可能だが、なんとなくそんな気分になれなかったのだ。流石に泣く一歩手前までいってしまった事はある。
その間に、もしかしたら自分が酔ってスキマでも操作したのかと思ったが、性格の境界を操作しても藍の性格は戻らなかった。
むしろもう一度睨まれた。それを思い出すと、
「……ぐすっ」
訂正、若干泣きが入っていた。幻想郷の最上位に位置する妖怪の彼女といえど、身内からのはらわたをえぐる様な言葉の弾幕には耐性もなかったようである。
ともあれ、藍にせよ橙にせよあまりの豹変のため紫も何かあると考えた。とかく幻想郷には『異変』が恒例行事の如く数ヶ月に一度は発生している。
そのため、これまでの異変を解決してきた知り合いに確認とついで傷心を癒してもらおうという魂胆なのであった。
目指す先、そこは幻想郷の結界を統べる博麗神社。
しばらく飛ぶと、境内に箒をかける巫女の姿が見えた。紅白の巫女装束、後頭部の大きなリボン、真冬でも露出させていた腋。他の誰でもない、博麗 霊夢その人だ。
ゆっくりと上空から見つからないように後ろに回りこみ、一気に彼女に抱きついた。
「あ~ん、霊夢ちょっと聞いてよ」
「きゃっ!?」
彼女の驚く声に多少違和感を覚えたが、紫は構わずに続けた。
「藍ったら酷いのよ。いきなり私の扱いをヒエラルキーの底辺のような、まさにあれはゴミでも見るような目つきだったわ!
傷心のゆかりんを慰めて、霊夢~」
「そ、そうですか。とりあえず……その、離して頂けませんか?」
今日何度目かわからないが、ある意味で藍の時以上に感じた違和感に紫は霊夢の腰に回していた腕を離す。そして彼女の顔をまじまじ見つめる。その視線に霊夢はぽっと頬を赤らめる。
(か、可愛い……)
巫女装束、艶やかな黒髪、少し潤んだ大きな瞳、言葉で表すならばまさに清楚。男性が見れば瞬時に恋に落ちてしまいそうな、実際に女である紫でさえ虜にされそうな雰囲気が今の彼女にはあった。
無論、今までの霊夢に魅力が無い訳ではなかったが、良く言えば大らか。悪く言えば大雑把。霊夢はそんな少女だったはずだ。
だが今の彼女には藍の時とは真逆の相手を敬う精神が滲み出ているように思えた。自分の安全を確保する際に先ほどの言葉にも、嫌味というものが感じられなかったのだ。
「霊夢?」
「なんですか、紫『さん』?」
その言葉に紫は背中に冷たいものが伝うのを感じた。
紫は確信する。これは異変が起きている。
しかも、博麗の巫女たる霊夢さえも飲み込んだ状態で。
数分後。
藍と橙の様子がおかしかった事、そして霊夢自身も自分の知る性格ではない事を霊夢に打ち明けた紫に、霊夢は困惑の色を隠せなかった。
「えっと……申し訳ないのですが、私は前から――あ、自分を客観的に見たとしたらですけど、こんな性格だったと思います」
「んなアホな」
「その、ご期待に添えなくてごめんなさい……」
「いえ、こちらこそごめんなさい。あなたもどうも影響を受けてしまっているようだわ。気にしないで」
伏目がちに謝意を述べる彼女に紫は今彼女を襲っても許されるのではと考えたが、いや、今も思ってはいるがとにかく場を収めた。
現状でわかったのは二点。
まずは性格が反転しているという事。主従関係に忠実だった藍は実に無礼に、いい子だった(少なくとも表面上は)橙は黒い子に、そして竹を割ったような性格だった霊夢は非常に乙女な状態になっている事からこれは確定だった。
そして自分はその影響から免れている事。どのような異変かはわからないが人間と妖怪の双方に影響が出ている状態で自分だけ何故変わらないのか。
むしろ、変わっているが霊夢のように変わっている事に気づいていないだけではないのだろうか。
ぶるりと寒気を覚え、紫の思考は悪い方向にしか進まなくなっていく。
「紫さん。何か私にもお手伝い出来る事はないですか?」
振り返ると、霊夢が心配そうに自分を見やり、その腕の中には箒がぎゅっと抱かれていた。その箒になりたい、そう思ったが真剣な申し出に紫はすぐにその邪な考えを恥じて向き直る。
思えば今で霊夢と異変を解決してきた時、彼女をほぼ利用するような形で助力を得ていたのは自身が良くわかっていた。
彼女はこんな状態でも力を貸してくれるという。紫は胸の中に暖かいものを覚えた。藍や橙以外から感じるのは実に久しぶりの感覚で、やはり霊夢と関わっていて良かったと素直に思えた。
思えたのだが、
「いいえ、それには及ばないわ。だって……ふふふ、これは私のデマですもの。霊夢ったらすんなり信じちゃうから調子に乗ってしまったの。お掃除の邪魔をして悪かったわね」
「えっ? でも、異変だって……」
「いやね霊夢。このスキマ妖怪たる八雲 紫の言う事を真に受けたの? まだまだ巫女としての修行が足りないのではなくて?」
一瞬きょとんとすると、くすりと笑みを漏らし霊夢は困ったように続けた。
「もうっ、また騙されてしまいました。紫さん、あんまりからかわないでくださいよ。仰る通り私はまだまだ若輩の身ですから」
「そうね。私も悪ふざけは控える事にするわ。霊夢に嫌われたら生きていけそうにないから」
「えっ!? だ、だからからかわないでくださいってば!」
真っ赤になってうつむいてしまう彼女に、紫は案外本気だったりしたのだが、それを伝えたら今の霊夢なら卒倒しかねないので胸に収めたままにした。
再度、彼女に詫びを伝えると紫はスキマの中に消えていった。
これ以上、霊夢を余計な事に巻き込むべきではない、と胸中で自分に言い聞かせる。
さて、どうしたものか。そう思案しながら。
それから色々な人物と紫は会ってみたが、ことごとく反転した性格の知り合いにしか会えなかった。もちろん、全員が異変に巻き込まれているのだろうが。
職務怠慢な妖夢。煎餅片手に寝転がっていた。
その主人で紫の友人でもある幽々子は朝食―― 一応妖夢が作ったようだ――に出された人参が食べられずにべそをかいていた。ちなみに幽々子に好き嫌いはなかったはずだ。
他にも眼光鋭く門を守護する紅魔館の門番。生真面目に職務をこなす死神。カリスマ溢れる秋の豊穣の神(何故、春先に出会えたかはカリスマのせいと自分に言い聞かせた)。他者を敬い、謙虚な姿勢な橋姫などと出会った。
解決を期待した月の賢者である永琳は……彼女の人権保護のためここでの説明は控えておこう。
あとは人間の魔法使いの魔理沙。いつもの白黒ではなく紫(むらさき)の魔導士の衣装で楽しげに「うふふ」と笑みを浮かべていた。その際、紫はなんともいえぬ切なさを覚えた。
しばらく様々な人々と話してみたが、皆の性格は反転しており、また現在の性格が自分の性格であると一様に口を揃えた。
誰かが音頭を取って自分をからかっているのかとも考えたが、いくらなんでも幻想郷全域にそれを広めるのには無理がある。ゴシップ好きな鴉天狗の仕業かと思い、本人に話を聞いたが何の事はない。真実の報道を追い求める自分がそのような事をするはずないと怒られた挙句、報道の是非について小一時間説教を受けたのだった。
つまるところは自身の考えである異変が真実である事を裏付ける事しかできなかったのだ。その事実に彼女は焦りを覚える。あの霊夢でさえ影響を受けてしまい、先の見えない闇に放り込まれたような、そんな感覚を払拭する事ができなかった。
「まさか、ずっとこのままなんて事に……」
誰に相談する訳でもなく、スキマの中で紫は独りごちた。
人がいる中で孤独を味わうとは、やはり生きていれば様々な事が起こって飽きさせてくれない。ただし、今回は愉快な事ではないため何とかしたいとしか思えないが。
彼女は苦笑いを漏らすと、今までわかった事からある一人の人物に思い至る。
全てが逆の性格。それであるならば――
「なるほど、それで私の所まで来たという訳だね」
普段交流がほぼ無いため忘れていた人物に会い、異変について説明するとその人物――チルノは木に背を預け、腕を組んだ。その面持ちには以前の子供らしい無邪気さはかけらも無く、知性に溢れて冷静に説明された事を客観的に分析したようだった。
最初は流石にチルノへ相談すべきか迷っていた紫だったが、話す内に明らかに永琳のそれと似た雰囲気の彼女に頼るのが得策と考えを改めたのだった。
しばし思案を巡らせると、チルノは紫に向き直り告げた。
「結論から言おう。おそらく君がスキマを――おそらく性格の境界とでも言った方がいいかな。それを操作した事による異変だ」
「待って、あなたの仮説が正しいとして、何で私が操作した事実を知らないのかしら?」
紫の言葉に臆する事なく、むしろその言葉を待ち構えていたかのように続ける。
「君は昨晩、ひどく泥酔していた。実際どうやって帰ってきたのかわからないのだろう? おそらくその際に操作したんじゃないかな」
確かにそう言われると昨晩の宴会の途中から記憶がスッポリと抜け落ちている。その時したと言えば状況証拠は揃っている。しかしだ、
「それなら私がわかるはずでしょう。いくらなんでも己の能力を管理できないほどもうろくしていないわ」
「そう、問題はそこなんだ」
チルノは木から離れ、顎に指を当てると目を閉じてうなる。
「境界を操作するのなら君がすぐに戻せるはず。まぁ、今やってみてくれてもいいが、やらないところを見ると既に試していて、結果は出せなかったという事だね。
ならば考えられるのはどこかにその境界操作の起因を落としてしまった――あぁ、今は落としたと表現したが、無くしたでも構わない。起因が無ければ我々の能力は扱えないのは君も知っているね」
「え、えぇ……」
しかし、やたらと上から言われているような状態が気になったが、紫はそのまま説明を促した。
「例えば私の氷を発生させる能力。これには水――もっと正確に言えば大気中の水蒸気が必要となる。事実上だけど、この幻想郷には空気が満ちているため水蒸気もわずかながらどこにでもあるため、私はどこでも氷を作れるんだ。
どの能力にもそんな起因が必要になるはず。それが無ければ君が今この状態を元に戻せないのも道理という訳だ」
「境界を操るための起因が動くなんてありえるのかしら」
「もちろん仮説さ。だが私の場合の水蒸気は大気中を絶えずに移動している。他の者が使う霊力や魔力、妖力も留まらずに流れを作り、そこを流れ続ける。
君の能力だけがそこから逸するほどのものだとういうのは、少々傲慢に思えるな」
「そうね。では何故、起因の喪失による異変と言い切れて? 例えば私だけが別の世界に来てしまったとか……」
紫の言葉にやや目を大きくして驚きを見せ、チルノは続けた。
「確かにそれも考慮できるね。…………いや、やはりそれは無い可能性の方が高い」
「理由は?」
「君自身さ。君自身がこの性格の反転劇を『異変』として捉えている」
言葉が飲み込めず、紫は首をひねる。
「だからそれ自体が世界が違うからではないの?」
「平行世界、確かに君の言う可能性も一見あるように思える。だが君自身の存在がそれを否定しているんだ。
何故なら仮に君がこの世界の八雲 紫ではなく、平行世界の八雲 紫なら、この世界に元々いたはずの八雲 紫はどこにいったというんだい?」
「それは私の方の世界に――」
「そう、普通に考えるなら入れ替わったと考えるのが妥当だ。
でも疑問に思わないか? 性格が逆の世界ならば、この世界の君の性格も逆だったと考えるのが自然。
私やこの幻想郷の知り合い達は何故『八雲 紫の性格が違う』と思わないんだい?」
「……あっ」
気づいている事を理解していたが、あえてチルノは答える。
「もちろん並行世界の八雲 紫が元々で今の君の性格だったという事も否定はできない。だから可能性と言ったんだよ。
だが君の能力、現状、他者の性格のみの豹変。この状況を整理すれば、やはりこれが今の私が出せる結論だ」
ガッ。
「痛いじゃないか」
ついイラッときた紫はチルノにチョップを入れた。
頭をさすりつつ、しかしその冷静さをかけらも失わない彼女に紫は少々たじろぐ。あまりに今までと違い過ぎるというのは藍の時と同じように紫といえど、焦りを生んでしまうようだ。
「それで、起因はどこにあるのかしら?」
紫の質問に対し、チルノはふむとうなると口を開く。
「ひとつの起因は君、八雲 紫だというのはわかったね」
「境界の扱いは私しかできないわね」
「つまり君自身が解決のヒントだと思う」
「私が?」
「この異変の中、仮説通りならば君は影響を受けていない――異変前と変わっていないと言える」
紫が頷き、チルノは説明を続ける。
「起因の一端が変わらないのであれば、もう一端である境界も変わっていないと考えた方がいいだろう。
どうだろう、今まで会った人で以前と変わらないものはなかったか?」
「変わらないって、皆が皆の性格が違って――あっ!」
「ふむ、どうやら思い当たるフシがあるようだね」
「えぇ、さっきの言葉は訂正するわ。私も随分ともうろくしたようね」
くつくつと、初めてチルノが笑い声を漏らす。外見相応とは言えないが、可愛らしい笑顔に安堵を覚えた。
チルノとは今までからかって遊ぶ程度だったが、もうちょっと優しく接していれば良かったかなどとも考えを改めたいと紫は思った。
「ならば行くといい。きっと異変が収まれば私は――考えたくないが、君に迷惑をかけるような存在になるのだろうね」
「まったくだわ」
二人揃って苦笑。
「ありがとう、助かったわ。じゃあ私は行くわね」
「待ってくれ紫」
チルノの声に、紫はスキマを開ける手を止めて、彼女に向き直る。
「性格のみ変わっていて、人々との関係性は変わっていなかったのか?」
「そういえば……そうね。藍は一応、私を主として見ていたし、霊夢も交流はあるようだったわ」
その言葉にチルノはやや頬を赤らめ、苦笑を浮かべた。
「なら、ひとつだけ言わせてくれ」
「何かしら?」
「私は君をいたく気に入っている。そう、まるで姉のように慕っているとでも言えるね。つまりはそういう事だ。君の知るチルノもよろしく頼むよ」
唐突の告白に、自身の頬も熱を帯びた事を紫は自覚した。あの手の性格の人物は告白もえらくストレートのようだ。
照れ隠しに急いでスキマに向き直ると、紫は背越しに答える。
「そうね、今後も馬鹿をやらなければ考えておくわ」
「私も覚えていれば、努力する」
声の調子から、きっとチルノはまた苦笑を浮かべているのだろう。そして自分も、紫はそう感じた。
スキマを閉じ、紫は思い当たる人物へと再度足を向けた。正確にはスキマだけど。
「うざいんですけど」
開口一番に藍は紫に対して暴言をストレートで投げつけた。
ひるむものの、紫は藍にそれ以上臆する事無く見つめる。
今までの性格の反転の中で変わらなかったのは自身である八雲 紫の性格。
そしてもうひとつは目の前にいまだガンを飛ばし続ける八雲 藍と――
「藍さまー、どうしたんですか?」
「なんでもないよ、橙」
橙との互いに向けられている性格である。本当であれば橙も紫に向ける藍の性格のように、下克上状態になっているはずなのだ。
『起因の一端が変わらないのであれば、もう一端である境界も変わっていないと考えた方がいいだろう』
チルノの言葉を思い出す。まさかこんなに近くにいて気づかないとは。本当に自分は彼女らへの愛を錆びつかせてしまっていたようだ。紫はスキマへと――二人の間に流れる性格の境界へ手を伸ばす。カチリというような感覚を覚える。境界を操作する際にいつも感じている身知ったものだった。
急にスキマに手を伸ばす主に怪訝な視線を向ける藍と橙。そんな二人に、今度はきっと心からできているはず、そう思いつつ紫は告げた。
「ごめんなさい、二人とも。馬鹿な主で」
「紫さま?」
「それはわかりますが、そのスキマはなんですか?」
地味に藍の言葉に傷つき、これは本来の性格の裏であると考えれば――なんと自分は幸せなんだろうとも思える。
「馬鹿な私が起こした異変への後始末よ」
答えて、瞬間、視界が白に覆われた。
「――――様っ!紫様っ!!」
揺すられる感覚に紫は目を覚ます。どうもスキマの操作の衝撃で気を失って倒れてしまったらしい。眼前には紫を抱きかかえ、今にも泣き出しそうな藍の沈痛な面持ちがあった。その後ろには、既に泣いている橙の同様の面持ち。
境界を元に戻せた事に安堵し、そしていつもの藍と橙にそれ以上の安堵を与えられた。
「ごめんなさい、ちょっとした立ちくらみよ」
「ゆ、ゆ……紫様ぁっ!」
がばっと藍は紫に抱きつき、涙を流した。自分が倒れただけでここまで心配させてしまった事を恥じた。しかも酔った勢いで。
優しく藍の頭を撫でると、紫は慈愛に満ちたで今の精一杯の心を言の葉として紡ぐ。
「本当にごめんなさい。私も気をつけるわ。それに……ふふふっ、橙が見ているのにしっかりなさい。
あなたは私の式であり、橙の主でもあるのよ。」
「ぞっ、ぞんなの私はきっと紫様に似たんですっ。ずびっ。だから紫様も気をつけてください」
「あらあら、私ってばそんなに泣き虫だったのかしら?」
橙が二人の間に割って入り、涙がまだ残っているが嬉しそうに言う。
「えへへ~、紫さまだってちょっと泣いてますよ」
紫本人もわかってはいたが、少し涙がつたっていた。もちろん彼女はそれを隠そうともしなかった。家族とはきっとそういうものだから。
藍と橙をぎゅっと抱くと、紫は『いつもの』という日常の幸福を知るのであった。
それから数日後、天気は快晴、絶好の洗濯日和。紫宅の庭に白いシーツが風に舞った。
他の洗濯物である衣服をパンと一払いして物干しにかけるのは家事を仕切る藍……、ではなく、その主である八雲 紫であった。
普段に藍が着用している三角巾と割烹着を着て――えらい似合っていた――、鼻歌を歌いながら次々と洗濯物を並べて行く。元々、家事も紫が藍に教えたため、彼女自身も家事は本当は大の得意なのだ。今までは藍がやってくれるようになったため、面倒でやらなくなったのだが。
「紫様、やっぱり私がやりますよ」
縁側に腰をかけていた藍が、落ち着きなくそわそわしていたかと思ったら、そんな事を進言する。もう何度目だったか。紫は数えるのも面倒になっていた。
「いいから藍は休んでなさい。今まであなたを働かせ過ぎていた事が今回の私の失態だったのよ」
「この前の倒れられた時ですか? それなら尚更です。お休み頂かないと」
「ううん、私も自分を過信して何もしなかった事が原因という事。それは私自身が何とかするしかないのではなくて?」
「そ、それは……まぁ……」
正論で、しかも紫本人が己を見直してくれたようなので、藍としても少々願ったりのところもあった。そのため、それ以上の言及ができなかった。
そこへチルノを連れた橙が戻ってきた。どうも前々から仲は良かったようだが、自分はそこまで橙の事に無関心だったのかと、紫はまた自分を戒めた。
「おーっす、紫! あたいが来てやったわよ!」
「こ、こらっ! 紫様に失礼だろう!」
「えー。別にあたいは紫の式じゃないし、仕えてもないからいいじゃん」
いきなりの礼儀のかけらも無い挨拶に、藍は血相を変える。紫が怒ればチルノなどひとたまりもなく、蒸発させられてしまうかもしれないのだ。
チルノもチルノで我を行く人物のためそんな事をのたまう。
だが、当の紫は極めて穏やかな面持ちで藍に告げた。
「そうね、いいのよ藍。私は別に権力者になりたい訳ではないわ」
「はぁ……」
紫は洗濯物を干し終わり、いくつかあった干しかごをまとめるとカラカラとサンダルを鳴らして橙とチルノに歩み寄る。
「二人ともいらっしゃい。おやつに幽々子からもらった桜餅があるわ」
「やったー、おやつだ!」
「お待ちなさい!」
ダッとおやつへそのまま向かおうとする橙に紫が一喝を入れたのである。
びくりと止まり、恐る恐る紫へと向き直る橙。そんな彼女を見て、きつ過ぎたかとまた反省するも続ける。
「ちゃんと手を洗って、うがいをしてからおあがりなさい」
多少しゅんとするも、橙はすぐにぺこりと頭を下げ、笑顔に戻る。
「はーい、紫さまごめんなさい」
「いいのよ。これは藍の教育不足という事であとでお説教しておくから」
「えぇっ!?」
いきなり話を振られて、藍はすっとんきょうな声を上げる。
「何を驚いているの。式の教育は主の仕事でしょう? 食事は清潔な状態で、なんて人里の子供でもわかるわよ」
「ゆ、紫さま! これは私が悪いのであって、藍さまは――」
「まったく、橙は優しいわね。でもね、悪いところは自分ではなかなか見えないものなの。それを戒める機会を逃すと、次がいつになるかわからない。だから、気づいた時に教えるのも、そして教えてもらうのも大事なのよ」
「す、凄いです紫さま! 私、感動しました!」
きらきらと目を輝かせ、紫の言葉に心酔する橙。そしてその後ろでますます冷や汗を流す藍。藍にとってみれば、唯一の味方があっさりと言いくるめられたため、絶望するのもしょうがない。
「あたいは手を洗ったし、うがいもしてきたわ!」
静かだと思ったら、チルノは既におやつへの準備を終えていたようだ。橙は焦って「いってきまーす」と洗面所へ猛ダッシュで消えていった。
「それじゃあ、おやつの準備しますか。藍、手伝ってちょうだい」
「…………」
「藍」
「はっ、はいっ!」
「ふふっ、まったくもう」
困ったような面持ち、でも本当は困ってないような、そのように藍には今の紫が見えた。
サンダルを脱ぐと、そのまま紫はかごを縁側に置き、台所へと向かった。
その途中、チルノに向き直ると、
「チルノ」
「んー、何?」
居間へ向かおうとしたチルノは振り返る。
「私の事、好きかしら?」
「もっちろん! 橙はあたいの友達だから、橙の家族はあたいの友達だよ!」
「橙を抜いたらどう?」
「うーん……」
思案するも数秒、チルノはパッと氷の妖精なのに太陽のような笑顔を見せた。
「それでも紫は好きだよ! おやつはくれるし、話は面白いから大好き!」
「……そう、ありがとう」
「気にする事はないって。あたいは最強だから大らかな心が売りなのさっ。んで、何で急にそんな事を聞くの?」
当然なチルノの問いに、紫も当然のように、口元で人差し指を立てて返す。
「それは秘密」
「なんだよー、ケチー」
「まぁまぁ、いらっしゃいな。ほら、おやつにするのでしょう」
「そうだ! 桜餅っ!」
バタバタと廊下を駆けて行くチルノ。紫も満足そうにその後をゆっくりと歩む。
そんな二人の背中を、藍も満足そうに見つめる。いつだったか、自分が紫に拾われた際もあんな感じだったような覚えがある。優しくて、暖かくて、まるで母親のような存在で――。
「いかんいかん。私も日和ってきたかな」
確かにこれは主からお説教を貰わないと、と彼女は苦笑を浮かべる。
そこへ橙がバタバタと戻ってきた。急いで来たためか、手も口元も水でべたべたである。
「こら、橙。ちゃんと拭かないとだめじゃないか」
「わわわっ、ごめんなさい藍さま」
「まったく……」
ハンカチを取り出すと、まずは橙の口元を拭いてやり、そして橙にハンカチを渡して手を拭かせた。紫に言わせればこんなところも甘過ぎと言われてしまうかもしれない、などと考えた。
「それにしても藍さま」
「どうした橙?」
手を拭き終わり、ハンカチを藍に差し出しつつ、橙は続ける。
「紫さま、凄くお優しくなっていませんか?」
「んー、まぁ、本来は元々あのような感じだったけど、それでも今は私がわかるくらいにお優しいな」
二人は顔を見合わせ、居間から聞こえてくる楽しそうな主の笑い声を聞いた。
そして藍は、自分の考えた仮説に苦笑を漏らしつつ、口を開く。
「まるで性格が反転してしまわれたようだ」
次回も楽しみにしておきますよっと
楽しんで読むことが出来ました。
藍しゃまと橙こえぇ・・・
次回楽しみにしてますね!
とても素晴らしい八雲一家+チルノでした
ゆかりんは幸せものですね
チルノかっけぇW
あと反転チルノ吹いた えーりんは一体どうなってたんだ
上の反転えーりん想像できない。
それにしてもオチが上手い
すばらしい作品をありがとうございます。
次回も楽しみにします。
最後が特にほのぼのとしていて、眼福でした。
家族の作った味噌汁が一番おいしいよ
たまにインスタントもの飲みたくなるけど
最初はどうなるのかと思いましたが、なんとか自体も治まり
関係も前より良くなってホッとした感じです。
三角巾と割烹着を着た紫様って良いですねぇ…。
家事をしてるお姿が新鮮というか、皆で楽しく過ごしているのが
とても和みました。
面白かったですよ。
脱字の報告
>パーフェクトフーズEasy
『パーフェクトフリーズEasy』ではないですか?
素数だよ素数wwwwww
クーデレチルノ最高!
面白かったですw
誤字発見しましたので
「違和感、言葉にしたら三文字。」
→四文字?
霊夢のくだりで「節目がち」
→伏し目?
誤訂正だったらすみません
箒になりたい・・・
誤字のご報告
「予断だが」は「余談だが」でしょうか。
投稿から一晩明けて、あまりの高評価にぶったまげました。
ちなみに、ペヤ○グは先ほど美味しく頂きました。ペヤングイズマキシマム。
読んで頂いた方々、まことにありがとうございました。
自分でもそう思ってはいましたが、やはりチルノがいい意味で濃いですね。
そのせいか、霊夢が薄くなってしまって。いえ、あえて霊夢の部分は少なくしているのですが。
では以下、修正報告です。
>クーデレというより素直クールだな
>クーデレと素直クールはまったくの別物だからなぁと
そうなのですか、いやはやクンフーが足りませんでした。
ジャンルの見極め難しいです。
>反転
逆転では誤表現かわかりづらいですね。
作中の逆転という記載を全て反転に変更しました。
>『パーフェクトフリーズEasy』ではないですか?
パーフェクトフーズってどこの食品会社でしょうかね。
指摘を頂き、見直してしばし自分で笑っておりました。
修正させて頂きました。
>「違和感、言葉にしたら三文字。」
>→四文字?
これまた誤表現ですね。
修正させて頂いた通り、言いたかったのは『漢字で三文字』でした。
>→伏し目?
仰る通りです。修正致しました。
PCの変換に頼ると、本当に文字の意味を考えなくなるのが悪い癖です。
>「予断だが」は「余談だが」でしょうか。
これも仰る通りです。
なんというかそれなりの回数を見直したはずなのですが、自分の目はザルのようです。
あとは自分で気がついた誤字や脱字、くどい表現等も少々修正を入れました。
ちなみに永琳は……あれ、なんか矢が飛んできt(満身創痍
一遍 → 一変
微分ながら → 微少ながらorわずかながら
文章は流麗では全然無いけど、ストレートにアイデアを展開する力強さがそれを補っていると感じました。
最後の藍のセリフによるオチはとても綺麗で、これ以上無い終わり方だと思います。
それにしても反転霊夢の可愛らしさは異常。
時々発作的に性格が反転すればいいのになあ……。
そして、チルノがクーデレならば、るみゃは…
後、何気に気になったのが、
>他者を敬い、謙虚な姿勢な橋姫
…もう、『橋姫』じゃ無くない?
楽しく読ませてもらいました
話がおもしろくて、時間を感じなくなるほどすらすら読めました。
キャラもよかったですし!
ところですみません、この一文ですが。
>「もう、藍さまだめですよ。紫様にいじわるしたら」
前後の文章から「紫さま」ではないでしょうか。
まちがってたらごめんなさい。
最後になりましたが、いいお話をありがとうございました。
チル姉とゆかりんはカリスマ漂うなぁ。
・・・因みにおぜうさまは「どっち」で反転したんだろうww
アリスは背が縮んで性格も押さなくなっていたんですねわかります
何かあの感じのキャラはいい!
誤字
>なかな見えない(ラスト近くの紫の、橙を味方につけるシーン)
多分、なかなか見えないの間違いかと
他にも肉体派のパチェや社交的で顔の広いアリスや、ものすごく常識的な早苗さんが居るんでしょうねw
本当に読んでくださった方々、ありがとうございました。
あまりの嬉しさにU○Oを買って来たい衝動にかられています。
>一遍 → 一変
>微分ながら → 微少ながらorわずかながら
一遍の方は誤字ですが、微分は調べて書いた覚えが。お恥ずかしい限りです。
また文章の稚拙さへのご指摘、恐れ入ります。
回りくどい表現や描写が多く、自分でも課題としております。
>>他者を敬い、謙虚な姿勢な橋姫
>…もう、『橋姫』じゃ無くない?
ゆかりんが前の三人のように面識は少しあるけど名前を知らない、
というような相手を記号として見ているという事です。わかりづらい表現で申し訳ありません。
>「もう、藍さまだめですよ。紫様にいじわるしたら」
>前後の文章から「紫さま」ではないでしょうか。
>多分、なかなか見えないの間違いかと
合わせて修正致しました。これで修正箇所は何箇所でしょうか。
ざるやきそば。への改名も近いかもしれません。
これからも優しくしないとまた知性派チルノが出現してしまいますね。
……たまにはいいかもしれない
オチも綺麗でした。
チルノ賢すぎw
ゆかりんが笑顔で終わって良かった良かった。
しかしやきそばは日清の袋焼きそばが至高。
若しくは名城の。
ストーリーには惹かれ、ギャグやシリアスが巧くマッチされていて、オチも綺麗に。
文句なく100点です。
―が一つ足りないのぜー!
チルノがハルヒの佐々木になってて吹いた
しかしえーりんが⑨になってる光景はなかなか想像できないですw
あと誤字というか、パーフェクトフリーズEASYじゃなくてアイシクルフォールEASYでは・・・
いや、どっちも簡単ですけどねw
チルノかっけぇ
えーりんがめっちゃ気になるwwwちぇんは黒い子。
綺麗にまとまっていて良かったと思います。
まさかここまでなろうとは。
とりあえず、自分へのご褒美(笑)としてペヤン○とUF○とBAG○ONと大盛りいか焼○そば買って来ました。
>しかしやきそばは日清の袋焼きそばが至高。
○ヤングこそ究極です。
見せてやろうじゃないの、究極の焼きそばってやつを! ……気にしないでください。
>―が一つ足りないのぜー!
直したと思っていたら、残っていました。
ありがとうございます、修正しました。
>パーフェクトフリーズEASYじゃなくてアイシクルフォールEASYでは・・・
にゅ、ニュアンス伝わればOKという事で! ……お願いします、本気で。
>鎮痛な⇒沈痛な ではないでしょうか?
普通な誤字ですね。修正致しました。
言葉を知らないで書くと後が大変ですが、その分覚えますね。レッツポジティブシンキン。
オチもギャグも全部ひっくるめてまとまりのあるssだと思います。
ですので迷わずこの点数を。
読後感最高の傑作だと思います。
世界全体に影響を与える性格の境界側に操作起因が無くなったため戻せなくなり、
ゆかりん同様変化がなかった境界(藍と橙の互いに向けられる性格)に
滞留していた起因を操作して戻したという事です。
滞留した理由はチルノの仮説通りですが、詳細は省いておりました。イッツテヌーキ。
わかりづらくて申し訳ありませんでした。精進させて頂きます。
上手く笑わせるなぁ、お見事。
慧音や阿求はどうなるんだ!
kake^ruさん発行のメガチルなら対等でも違和感ないな…
面白かったです。
万点越えも納得
こんな紫もいいなぁー
まったく、チルノったら最強ねっ!
なんだか優しい気持ちになれました。
性格が反転した永琳、見てえ、超見てえ。
魔理沙は魔梨沙で原点回帰してるしwww
楽しませていただきました、オチが巧いですね