いつもの定例会の後。
帰ろうとしていた八坂神奈子と洩矢諏訪子は、場の主である八雲紫に呼びとめられた。
他の者に聞かせる訳にはいかないのだろう、わざわざ手招きを向けられる。
神々は顔を見合わせ、首を捻った。
紫の表情は、平時の澄ましたものではなく、微かな、けれど、感じ取れる程度には険しいものになっていたからだ。
紫自身は自身のそのような表情に気付いていない。
ただ事ではないなと、二柱は身を少し強張らせる。
そして、やはり、紫はそんな彼女達の変化に気付かなかった。
有り体に言うと、今の紫に、最強の妖怪に、他者を気遣えるほどの余裕はなかったのだ。
「神奈子、諏訪子。教えて頂戴。貴女達がいた頃の、外はどうなっていたかを――」
守矢神社にて。
東風谷早苗は困っていた。
賢明な早苗は、まずその要因を考える。
雨が続いた。うっかりしていた。枚数を数え誤っていた。
いくつかの理由を浮かべた後、賢明な彼女は首を振り、考えるのを止めた。
次に対する対策を立てるのであれば別だが、現状としてはいくら考えても意味がない。
肩を落とし溜息を吐き、自室の箪笥を漁る。
『ひょっとしたら』の思いが彼女を無為な行為に駆り立てる。
そう、無為なのだ。何故なら、もう何度も開け閉めをして確認していたのだから。
もう一度息を吐き、さてどうしようかと頭を捻る。
今は一人だから構わない。
違和感は拭えないが、耐えられないほどでもなかった。
けれど、もうすぐ来るであろう友人達を迎えるのに、今の状態でははしたない。
(スースーするなぁ……)
はしたない。
そんな彼女の手に、奇跡か、或いは天啓か、触れる物があった。
箪笥の奥。奥の奥。衣替え時にも触れなかった其処に、反応がある。
ありがとうございます、神奈子様、諏訪子様!――家を空けている二柱に感謝しつつ、引っ張りだす。
一瞬後、感謝は苦情に変わった。
「是は……なんでこんなのが……」
引っ張り出した物をまじまじと見つめ、引っ張る。
「うわ……」
呟きに込められていた感情の大部分は羞恥。
賢明な早苗は、また考えた。
何故、こんな物が箪笥の中にあるのか。
すぐに思い浮かんだ。外にいた時、節介な級友から贈られたのだ。
『東風谷さん、大人しそうだから、偶にはこういうのはいて弾けてみない?』
(こっちに来てから弾けてるけどなぁ……)
――被弾していると言う意味である。
賢明な彼女は、やはり首を振り、思い出した記憶を追いやった。
今考えるべきは是非である。
つまり、はくか否か。
東風谷早苗は、困っていた――。
紫の問いに、神奈子と諏訪子はかわるがわる的確に応える。
ある程度の情報を聞き終え、紫は片手を出し話を止めた。
応えは、概ね、彼女の考えていた通りであった。
故に、目を閉じ、息を吐く。
一拍後、開かれた瞳に、二柱は見る。
神奈子が感じたのは、闘争。
諏訪子が感じたのは、慈愛。
そして、その先にある、絶望の先の決意。
感じとりながらも、二柱は問うた。
「……何を考えている、八雲紫」
「……まさか、外の世界に手を出すつもり?」
いい勘をしている――思いつつ、紫は口を歪め、毅然と言った。
「幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ」
虚勢だと、自身で感じながら――。
早苗は引き続き困っていた。
友人――博麗霊夢と霧雨魔理沙が来るまで、もうそれほど時間もない。
普通に考えれば、はくべきである。
いくら気が置けない友人とは言え、現状で対応するのはどうかと思われた。
万が一にも感づかれてしまうと、気まずい空気では済まされない雰囲気となってしまうだろう。
(うーん……でも……)
変に意識さえしなければ、案外はいてない事に感づかれる事もないのではなかろうか。
早苗の頭にそんな考えが浮かぶ。
所謂、フラグ。
(だけど、そう思うと、はいても一緒なのよね……)
へし折った。
そもそも、はこうがはかまいが、袴の下なのだから見えはしない。
ならばいっそ、はいてみようか。
興味はある。
仮に袴がめくれ、丸見えになってしまったとしても女同士。さほど気にする事ではないのかもしれない。
(むしろ、見せつけようか……?)
はしたない。
こちこちと、単三電池で動いている目覚まし時計は時が進んでいることを告げる。
友人達がやってくるまで後わずか。
猶予はもはや、ない。
早苗は、とても困っていた。
――己の感情は見透かされていたのだろうか。
紫の頭に、そんな思いが苦く広がる。
彼女は今、二柱に抱きしめられていた。
強い、或いは優しい想いが伝わってくる。
神奈子と諏訪子は嘆きを押しとどめ、どうにか言葉に変えて、言った。
「馬鹿だよ、お前は……」
「無理に決まってるじゃん……」
震える響きに目を細め、紫は二柱の手を柔らかく外す。
天と地の想いは受け取った。
「……勝てるの?」
「目がなければやらないわ」
「そっか。流石だね、紫」
見上げてくる諏訪子に、紫は微笑み応える。
珍しく見せる偽りのない笑み。
言葉にも嘘はない。
故に、土着神も無理やりな笑みで返した。
けれど、天つ神は見抜いていた。
「違う、違うんだ、諏訪子。勝利なんてないんだ。仮にあったとしても――」
濡れる瞳で見下ろしてくる神奈子に、それでも紫は微笑んでいる。
「……紫。お前が言う、目とは、何割ある? 何分か? いや、何厘だ!?」
吐き出すように問う神奈子。声を荒げなければ、保っていられない。
二柱から半歩離れ、紫は、静かに、笑った。
「……諏訪子、神奈子も流石、戦神ね。いい所をついてくる。――浄もあれば、十分だわ」
歯を食いしばる。
目をきつくとじる。
握られた拳からは、一筋の赤い血が流れていた。
「今ほど、我が身を悔いた事はない」
「……ねぇ、私やレミリア、さとりなら」
「駄目よ。神奈子や永琳、幽々子も駄目。私しか、いないのよ」
紫は振り向き、結界を見据える。
その動作に、一切の躊躇はなかった。
是より受ける羞恥を、嫌と言うほど解っていると言うのに。
滲む細い肩に、神奈子は言った。
「お前に、勝利と正義を」
おぼろげになっていく肩が竦められる。
「正義なんてないわ。
私がただ、それを否定したいだけ。
……そもそも、正義なんて勝った側の押しつけよ?」
消えゆく姿に、諏訪子は言った。
「だから、――そう言う事だよ」
一瞬、紫は揺らぎ、そして、振り向き、また笑った。
「押しつけろと言うのね。ふふ、正義を語る大妖怪、か。悪くないわ――ありがとう、神奈子、諏訪子」
勝ってくるわ――言葉を残し姿が消える。
二柱が見た彼女の顔は、黒くなっていた――。
早苗は、はいた。
友人たちを、出迎えた。
そして、転んだ。お約束。
「み、見ました!?」
返答はない。
それゆえ、早苗は理解した。
袴の裾を強く掴み、座った姿勢ゆえ霊夢と魔理沙を見上げながら、まくしたてる。
「こ、是はその! 違います! 雨でうっかりしていて過ちを犯したんですっ!」
聞き様によっては破廉恥な捉え方が出来る言いざま。
魔理沙は頬を掻き苦笑いを浮かべつつ、意味を整えた。
霊夢は半眼になっている。けれど、視線は逸らされていた。
俯いていく早苗。
視線が完全に落ちる前、肩に手が載せられた。
羞恥に頬を染めたまま見上げると、はにかむような笑みに受け止められる。
視線の先に居たのは魔理沙。
「驚いたけどさ。その、なんだ、似合ってると思うぜ」
「で、ですから! 似合うとかそんなんじゃありがとうございます!」
「おっとと!? はは、早苗は恥ずかしがり屋だな。女同士なんだから、気にする事でもないだろ」
抱きつくと、言葉と共に優しく背を撫でられた。
ゆっくり心が落ち着いていくのを、早苗は感じる。
と、霊夢の、どこか拗ねたような響きのある声が耳に入った。
「……じゃあ、あんたも見せてあげたら?」
「おま、なに、何時気付いた!?」
「えっと……?」
首を傾げて見つめると、魔理沙は観念したのか身を少し離し、何時もより心持ち長いスカートを両手でつまみ、まくる。
「……あ」
呟きに、スカートから手を離し帽子を深く被りつつ、早口で返した。
「店屋で見かけてな、その、ちょっといいかなって」
「香霖堂!? 霖之助さん、遂にそんな物まで扱うように……!」
「早まるな霊夢、とりあえず勘違いで香霖を滅さないでくれ。ください」
滾る殺気に、言いなおす。一瞬の躊躇いはあったが、霊力最大の針は収められた。
「と言うか、そうだったらまず私が滅してる。是は、里で買ったんだ」
「驚きです。扱っていたんですか……」
「入荷したばっかりだったぜ」
羞恥心よりも旺盛な好奇心に、早苗は小さく笑みを浮かべる。
言い返そうとした魔理沙は、けれど、同じく笑った。
少女二人の笑い声が玄関に響く。
もう一人の少女が、半眼を向けていた。
「なんだよ、霊夢。仲間外れにされて怒ったか?」
「……馬鹿馬鹿しい。なんで私がそんな事で怒るのよ」
「仲間外れ、と言う事は、霊夢さんは何時も通りなんですか?」
問いは、そっぽを向くと言う動作で返される。
故に、早苗はスペルカードを取り出した。
割と強め。
「大奇跡――」
「んな事で『力』を使うなー!」
突っ込みの言葉を笑顔で受け止める。
何故か、霊夢の背筋に冷たいものが走った。
「いや、なぁ、準備は……?」
魔理沙による指摘は的確だったが、対峙する二人には届かない。
半眼のまま、続けられる。
「何時も通りに決まってるでしょ。あんな面倒くさそうなの、ご免だもの」
言い切られた言葉。
背けられる顔。
竦められる肩。
だから、早苗は手を口に当て、くすりと笑んだ。
「――それとも、私が、あんなのに興味あると思う?」
「では魔理沙さん、そのお店に連れて行って下さい」
「なんでそうなるのよ!? 人の話を聞けー!」
迫りくる拳を両手で包み、跳ねるような足取りで玄関へと進む。
しばしの間戸惑っていた魔理沙も、早苗の笑顔に頷き歩きだす。
霊夢だけは未だ仏頂面を改める事もせず、引きずられていた。
「霊夢さんも女の子なんですから、流行の一つや二つ、おさえておきませんと」
「う、うるさーい!」
引く力は、既に導くだけの弱いものであったが――。
――幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ
自身の言葉。
覆すつもりもない。
故に、紫は外に赴き、抗った。
ヒトリきりのこの戦いに、正義はなく、勝利もまた、ない。
あるのは各々の信念であり、緩慢な敗北である。
既に先兵は放たれていた。
穿たれた穴が広がるのは時間の問題であろう。
一瞬後か、数年後か……数十年後か。其処までは解らない。
けれど。
紫は抗う。
それは彼女個人の信念の為。
卑小な我儘であると自身で認識しているが故、『力』も使わない。
或いは彼女の愛する幻想郷を守る為、保つ為、紫はヒトリ、抗っていた。
その手に、パーソナルハンディフォンを握って――。
「えーまじー? 超MMぅ-」
当然ながら、通話相手はいない。
「ママー、あのおねーちゃん、お顔が真っ黒だよー。ご病気?」
「あら、懐かしい。ママが学生の頃に流行っていたお化粧よ」
「それに、靴下も変だよ? ドムみたい」
ドムってなにかしら。
心の内で泣きながら、好奇の視線に晒されているのを感じつつ、紫はソックタッチを手に取り、目一杯白い裏地に塗りこんだ。
「たまに見かけるけどね。あれだけ気合いが入っているのは久しぶりに見たわ。また、流行りだしたのかしら」
ヒトリきりの聖戦は続く。彼女の正義を押し付ける為。彼女の愛する幻想郷を保つ為。彼女の愛する少女達を守る為――。
<了>
帰ろうとしていた八坂神奈子と洩矢諏訪子は、場の主である八雲紫に呼びとめられた。
他の者に聞かせる訳にはいかないのだろう、わざわざ手招きを向けられる。
神々は顔を見合わせ、首を捻った。
紫の表情は、平時の澄ましたものではなく、微かな、けれど、感じ取れる程度には険しいものになっていたからだ。
紫自身は自身のそのような表情に気付いていない。
ただ事ではないなと、二柱は身を少し強張らせる。
そして、やはり、紫はそんな彼女達の変化に気付かなかった。
有り体に言うと、今の紫に、最強の妖怪に、他者を気遣えるほどの余裕はなかったのだ。
「神奈子、諏訪子。教えて頂戴。貴女達がいた頃の、外はどうなっていたかを――」
守矢神社にて。
東風谷早苗は困っていた。
賢明な早苗は、まずその要因を考える。
雨が続いた。うっかりしていた。枚数を数え誤っていた。
いくつかの理由を浮かべた後、賢明な彼女は首を振り、考えるのを止めた。
次に対する対策を立てるのであれば別だが、現状としてはいくら考えても意味がない。
肩を落とし溜息を吐き、自室の箪笥を漁る。
『ひょっとしたら』の思いが彼女を無為な行為に駆り立てる。
そう、無為なのだ。何故なら、もう何度も開け閉めをして確認していたのだから。
もう一度息を吐き、さてどうしようかと頭を捻る。
今は一人だから構わない。
違和感は拭えないが、耐えられないほどでもなかった。
けれど、もうすぐ来るであろう友人達を迎えるのに、今の状態でははしたない。
(スースーするなぁ……)
はしたない。
そんな彼女の手に、奇跡か、或いは天啓か、触れる物があった。
箪笥の奥。奥の奥。衣替え時にも触れなかった其処に、反応がある。
ありがとうございます、神奈子様、諏訪子様!――家を空けている二柱に感謝しつつ、引っ張りだす。
一瞬後、感謝は苦情に変わった。
「是は……なんでこんなのが……」
引っ張り出した物をまじまじと見つめ、引っ張る。
「うわ……」
呟きに込められていた感情の大部分は羞恥。
賢明な早苗は、また考えた。
何故、こんな物が箪笥の中にあるのか。
すぐに思い浮かんだ。外にいた時、節介な級友から贈られたのだ。
『東風谷さん、大人しそうだから、偶にはこういうのはいて弾けてみない?』
(こっちに来てから弾けてるけどなぁ……)
――被弾していると言う意味である。
賢明な彼女は、やはり首を振り、思い出した記憶を追いやった。
今考えるべきは是非である。
つまり、はくか否か。
東風谷早苗は、困っていた――。
紫の問いに、神奈子と諏訪子はかわるがわる的確に応える。
ある程度の情報を聞き終え、紫は片手を出し話を止めた。
応えは、概ね、彼女の考えていた通りであった。
故に、目を閉じ、息を吐く。
一拍後、開かれた瞳に、二柱は見る。
神奈子が感じたのは、闘争。
諏訪子が感じたのは、慈愛。
そして、その先にある、絶望の先の決意。
感じとりながらも、二柱は問うた。
「……何を考えている、八雲紫」
「……まさか、外の世界に手を出すつもり?」
いい勘をしている――思いつつ、紫は口を歪め、毅然と言った。
「幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ」
虚勢だと、自身で感じながら――。
早苗は引き続き困っていた。
友人――博麗霊夢と霧雨魔理沙が来るまで、もうそれほど時間もない。
普通に考えれば、はくべきである。
いくら気が置けない友人とは言え、現状で対応するのはどうかと思われた。
万が一にも感づかれてしまうと、気まずい空気では済まされない雰囲気となってしまうだろう。
(うーん……でも……)
変に意識さえしなければ、案外はいてない事に感づかれる事もないのではなかろうか。
早苗の頭にそんな考えが浮かぶ。
所謂、フラグ。
(だけど、そう思うと、はいても一緒なのよね……)
へし折った。
そもそも、はこうがはかまいが、袴の下なのだから見えはしない。
ならばいっそ、はいてみようか。
興味はある。
仮に袴がめくれ、丸見えになってしまったとしても女同士。さほど気にする事ではないのかもしれない。
(むしろ、見せつけようか……?)
はしたない。
こちこちと、単三電池で動いている目覚まし時計は時が進んでいることを告げる。
友人達がやってくるまで後わずか。
猶予はもはや、ない。
早苗は、とても困っていた。
――己の感情は見透かされていたのだろうか。
紫の頭に、そんな思いが苦く広がる。
彼女は今、二柱に抱きしめられていた。
強い、或いは優しい想いが伝わってくる。
神奈子と諏訪子は嘆きを押しとどめ、どうにか言葉に変えて、言った。
「馬鹿だよ、お前は……」
「無理に決まってるじゃん……」
震える響きに目を細め、紫は二柱の手を柔らかく外す。
天と地の想いは受け取った。
「……勝てるの?」
「目がなければやらないわ」
「そっか。流石だね、紫」
見上げてくる諏訪子に、紫は微笑み応える。
珍しく見せる偽りのない笑み。
言葉にも嘘はない。
故に、土着神も無理やりな笑みで返した。
けれど、天つ神は見抜いていた。
「違う、違うんだ、諏訪子。勝利なんてないんだ。仮にあったとしても――」
濡れる瞳で見下ろしてくる神奈子に、それでも紫は微笑んでいる。
「……紫。お前が言う、目とは、何割ある? 何分か? いや、何厘だ!?」
吐き出すように問う神奈子。声を荒げなければ、保っていられない。
二柱から半歩離れ、紫は、静かに、笑った。
「……諏訪子、神奈子も流石、戦神ね。いい所をついてくる。――浄もあれば、十分だわ」
歯を食いしばる。
目をきつくとじる。
握られた拳からは、一筋の赤い血が流れていた。
「今ほど、我が身を悔いた事はない」
「……ねぇ、私やレミリア、さとりなら」
「駄目よ。神奈子や永琳、幽々子も駄目。私しか、いないのよ」
紫は振り向き、結界を見据える。
その動作に、一切の躊躇はなかった。
是より受ける羞恥を、嫌と言うほど解っていると言うのに。
滲む細い肩に、神奈子は言った。
「お前に、勝利と正義を」
おぼろげになっていく肩が竦められる。
「正義なんてないわ。
私がただ、それを否定したいだけ。
……そもそも、正義なんて勝った側の押しつけよ?」
消えゆく姿に、諏訪子は言った。
「だから、――そう言う事だよ」
一瞬、紫は揺らぎ、そして、振り向き、また笑った。
「押しつけろと言うのね。ふふ、正義を語る大妖怪、か。悪くないわ――ありがとう、神奈子、諏訪子」
勝ってくるわ――言葉を残し姿が消える。
二柱が見た彼女の顔は、黒くなっていた――。
早苗は、はいた。
友人たちを、出迎えた。
そして、転んだ。お約束。
「み、見ました!?」
返答はない。
それゆえ、早苗は理解した。
袴の裾を強く掴み、座った姿勢ゆえ霊夢と魔理沙を見上げながら、まくしたてる。
「こ、是はその! 違います! 雨でうっかりしていて過ちを犯したんですっ!」
聞き様によっては破廉恥な捉え方が出来る言いざま。
魔理沙は頬を掻き苦笑いを浮かべつつ、意味を整えた。
霊夢は半眼になっている。けれど、視線は逸らされていた。
俯いていく早苗。
視線が完全に落ちる前、肩に手が載せられた。
羞恥に頬を染めたまま見上げると、はにかむような笑みに受け止められる。
視線の先に居たのは魔理沙。
「驚いたけどさ。その、なんだ、似合ってると思うぜ」
「で、ですから! 似合うとかそんなんじゃありがとうございます!」
「おっとと!? はは、早苗は恥ずかしがり屋だな。女同士なんだから、気にする事でもないだろ」
抱きつくと、言葉と共に優しく背を撫でられた。
ゆっくり心が落ち着いていくのを、早苗は感じる。
と、霊夢の、どこか拗ねたような響きのある声が耳に入った。
「……じゃあ、あんたも見せてあげたら?」
「おま、なに、何時気付いた!?」
「えっと……?」
首を傾げて見つめると、魔理沙は観念したのか身を少し離し、何時もより心持ち長いスカートを両手でつまみ、まくる。
「……あ」
呟きに、スカートから手を離し帽子を深く被りつつ、早口で返した。
「店屋で見かけてな、その、ちょっといいかなって」
「香霖堂!? 霖之助さん、遂にそんな物まで扱うように……!」
「早まるな霊夢、とりあえず勘違いで香霖を滅さないでくれ。ください」
滾る殺気に、言いなおす。一瞬の躊躇いはあったが、霊力最大の針は収められた。
「と言うか、そうだったらまず私が滅してる。是は、里で買ったんだ」
「驚きです。扱っていたんですか……」
「入荷したばっかりだったぜ」
羞恥心よりも旺盛な好奇心に、早苗は小さく笑みを浮かべる。
言い返そうとした魔理沙は、けれど、同じく笑った。
少女二人の笑い声が玄関に響く。
もう一人の少女が、半眼を向けていた。
「なんだよ、霊夢。仲間外れにされて怒ったか?」
「……馬鹿馬鹿しい。なんで私がそんな事で怒るのよ」
「仲間外れ、と言う事は、霊夢さんは何時も通りなんですか?」
問いは、そっぽを向くと言う動作で返される。
故に、早苗はスペルカードを取り出した。
割と強め。
「大奇跡――」
「んな事で『力』を使うなー!」
突っ込みの言葉を笑顔で受け止める。
何故か、霊夢の背筋に冷たいものが走った。
「いや、なぁ、準備は……?」
魔理沙による指摘は的確だったが、対峙する二人には届かない。
半眼のまま、続けられる。
「何時も通りに決まってるでしょ。あんな面倒くさそうなの、ご免だもの」
言い切られた言葉。
背けられる顔。
竦められる肩。
だから、早苗は手を口に当て、くすりと笑んだ。
「――それとも、私が、あんなのに興味あると思う?」
「では魔理沙さん、そのお店に連れて行って下さい」
「なんでそうなるのよ!? 人の話を聞けー!」
迫りくる拳を両手で包み、跳ねるような足取りで玄関へと進む。
しばしの間戸惑っていた魔理沙も、早苗の笑顔に頷き歩きだす。
霊夢だけは未だ仏頂面を改める事もせず、引きずられていた。
「霊夢さんも女の子なんですから、流行の一つや二つ、おさえておきませんと」
「う、うるさーい!」
引く力は、既に導くだけの弱いものであったが――。
――幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ
自身の言葉。
覆すつもりもない。
故に、紫は外に赴き、抗った。
ヒトリきりのこの戦いに、正義はなく、勝利もまた、ない。
あるのは各々の信念であり、緩慢な敗北である。
既に先兵は放たれていた。
穿たれた穴が広がるのは時間の問題であろう。
一瞬後か、数年後か……数十年後か。其処までは解らない。
けれど。
紫は抗う。
それは彼女個人の信念の為。
卑小な我儘であると自身で認識しているが故、『力』も使わない。
或いは彼女の愛する幻想郷を守る為、保つ為、紫はヒトリ、抗っていた。
その手に、パーソナルハンディフォンを握って――。
「えーまじー? 超MMぅ-」
当然ながら、通話相手はいない。
「ママー、あのおねーちゃん、お顔が真っ黒だよー。ご病気?」
「あら、懐かしい。ママが学生の頃に流行っていたお化粧よ」
「それに、靴下も変だよ? ドムみたい」
ドムってなにかしら。
心の内で泣きながら、好奇の視線に晒されているのを感じつつ、紫はソックタッチを手に取り、目一杯白い裏地に塗りこんだ。
「たまに見かけるけどね。あれだけ気合いが入っているのは久しぶりに見たわ。また、流行りだしたのかしら」
ヒトリきりの聖戦は続く。彼女の正義を押し付ける為。彼女の愛する幻想郷を保つ為。彼女の愛する少女達を守る為――。
<了>
取りあえず、紫様の勇姿に乾杯。
しかしコギャルファッションですか……懐かしいというか何というか…。
それが幻想郷に…? イヤだなぁ…全員がコギャルファッションとか
見たくないですねぇ。
しかし子供の「ドムみたい」はニヤニヤしましたね。
紫様のその志と聖戦には勝利してほしいものですね。
面白かったですよ。
因みにスキマ妖怪は山姥にシフトチェンジしたんですか?ww
ほんの少し涙が出た
複雑なもの描けるはずないじゃないか
あれで可愛いと思ってやっていたんだから始末におえないよ。
ガングロ金髪、白のアイシャドウと白の口紅、頭にはハイビスカス…始めてみた時マジで何処かの民俗かと思ったよ。
ってかゆかりん自重しろwww
頑張れ…頑張るんだ…
PHSとか、懐かしすぎるなぁ。とりあえず、一連のファッションに染まった幻想郷は見たくないw
紫様はまさしく英雄だ。
がんばれゆかりん、彼女たちの笑顔を守れるのは君だけだ!
けどね、ソックタッチは脚のほうに塗らないと留まらないのよ…
…そして、通りすがりのお母さんが、とっても優しい点を突き詰めたい
ゆかりんは俺たちのヒーローだぜ
幻想入りしちゃったら、そりゃあもう恐ろしいことに……!
〉「駄目よ。神奈子や永琳、幽々子も駄目。私しか、いないのよ」
実は遠回しに幻想郷でコギャルが出来る見た目(年齢)は私しかいないと言っている。
と邪推してみたりする。
☆ゆかりん☆16才☆ピッチピチの女子高生よ☆キャピ☆
紫さまの覚悟に乾杯…
ドラゴンボールのバーダックみたいなタイトルつけやがって!
いや、でも悲壮感漂うなぁ……
……でも別にいいじゃんガングロぐらい、と思っちゃう俺はダメな人なんだろうか
だって、つけ爪つけた魔理沙(厚化粧)が道端にウンコ座りしながら片手で髪を弄りつつ、もう片手でケータイを弄ってるところとか似合いそうだと思わないか!? ダメか!?
やられたとしかいいようがないw早苗の話が間間に挟まれるのが意味分からんかったけどそういうことだったのかw
紫様の健闘にいろんな意味で泣いた……www
チョベリバですね
あーあ、もうとんと聞かなくなったなあこの言葉w