※ はじめに
このSSの幽々子様は、原作、及び創想話で一般的に書かれる幽々子様とは少し違うキャラかもしれません。
ギャグ的なキャラ崩壊ではないですが、その点を留意して頂ければ幸いです。
「幽々子様……申し訳ございません!!」
「あらあら妖夢、どうしたの?」
「幽々子様が大事にしていた扇子に……傷をつけてしまいました!
かくなる上は魂魄妖夢、切腹してお詫びを……」
「ちょっとちょっと待ちなさい妖夢!」
「しかし……」
「扇子ぐらいどうってことないわ。それよりあなたが落ち付きなさい。
もういいから、夕飯を作ってちょうだいな。」
「……はい。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
それは、紫様のお付合いで、白玉楼に出向いた時のこと。
私と妖夢が二人並んで、お二人の食事を用意している時に起こった。
「いたっ!」
隣で野菜を切り分けていたはずの妖夢から、小さな悲鳴が漏れた。
慌てて横を見ると、妖夢の指先から血が出ている。
どうやら誤って指を切ってしまったようだ。
「おいおい、大丈夫か?」
「すいません藍さん、うっかりしてました。
たいしたことないですから、大丈夫です。」
確かにケガ自体はたいしたこと無い。こんなもの、妖夢からすればケガのうちにも入らないだろう。
しかし私はケガよりも、妖夢がこんなミスをしたということの方が心配だった。
確かに妖夢は何かと未熟と言われる存在ではあるが、
それでも自らの指を切ってしまうようなミスをする娘では無いはずである。
そもそも妖夢は最近様子がおかしかった。ぼーっとしていたり、何かを考えていたり…
まるで何か悩み事でも抱えているかのよう。
今回のコレも、きっとその悩みとやらを考えながら作業していたため起きたミスだろう。
以上、プロファイリング終わり。伊達に数学に強いわけじゃないのだよ。
では、ちょっとお節介をかいてやるかな。
「まぁ待て。そんなキズでも放っておくと化膿してしまうかもしれない。
私が手当てしてやろう。さあ行こうか。」
「だ、大丈夫ですよぉ。というか私達二人がここを離れるわけにはいかないでしょう。
この作りかけの料理、どうするんですか?」
「ふむ、それもそうだな……よし、」
私は大きく息を吸いこみ、大声で叫んだ。
「ゆかりさま~!!私と妖夢は少し外しますんで、料理の続きやっといてくださ~い!!!」
うむ、これでよし。
「ええええ!?紫様にやらせるんですかあああ!?」
「心配ないよ、これでも私が幼い頃は紫様が料理してたんだから。
確かに今の姿からは想像できないだろうが、料理の腕は私が保証する。」
「確かに意外……ではなくて!!従者の私達が主人に押し付けるなんて!」
「いいんだよいつも寝ることしかしてないんだからたまには働けってんだ。」
「それが本音!?」
妖夢と漫才のような掛け合いをしていると、紫様が慌てた様子でスキマから現れた
まったくこういう時だけは俊敏なんだから。
「ねぇ藍、よく聞こえなかったんだけど、もう一度言ってくれない?」
「ええ、妖夢が指先をケガしてしまったので、私が見てやろうかと。
ですからその間、紫様にはこの続きをやってほしいなと思いまして。」
「そんなのケガのうちに入らないじゃない!
この前私が頭に針刺さって血だらけで帰ってきた時も、『ツバつけときゃ直りますよ。』
って言って相手にしてくれなかったじゃないの!!」
「あれは紫様が霊夢にちょっかい出すのが悪いんです。自業自得です。
過酷な労働の結果の妖夢のケガと一緒にしないでください。」
「だ、だからって主人であるこの私に……」
ふむ、なかなか手強いな。仕方ない、殺し文句を使うか。
「……久しぶりに食べたくなったんですよ、紫様の『母の味』をね……」
「よーし☆ゆかりん頑張って料理しちゃうぞ☆」
さてこれでよし。私達とのやりとりを見て呆然としてる妖夢を引っ張り、
救急箱があるであろう部屋へ連れていった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「……これでよし、と。」
「あ、ありがとうございます。」
妖夢の指を消毒し、包帯を巻いてやった。
ひとまずこれで処置としてはOKだろう。
「でも本当にいいんですか?紫様にあんなことさせて……」
「大丈夫大丈夫。ああ見えて紫様はやる人だから。」
「あれぐらいの傷でしたら、私は平気でしたのに……」
「だろうな。」
「へ?」
突然の切り返しに戸惑う妖夢。私は続ける。
「私も妖夢にとってはあれぐらいの傷なんてどうってことないぐらい分かっていたさ。
むしろ私が心配したのはあんなミスをした妖夢自身でね。
私の知っている妖夢は料理中に考え事をして自分の指を切るほどどんくさくはない。」
「すみません……」
「いや、責めているんじゃないんだ。ただ、何か悩みでもあるんじゃないかと思ってね。」
「……!!」
妖夢の顔が歪む。どうやらビンゴだったようだ。
「まぁ大方お前のことだ。幽々子殿についてのことだろう?」
「……あはは、やっぱり藍さんには適わないなぁ。」
「私も同じ道を通ってきたからな。きっと力になれる、相談してくれ。」
「はい……」
そして妖夢は、自らの悩みを語り始めた。
「私、幽々子様に愛想をつかされたかもしれません。」
なんと。大きく出たな。
「幽々子殿が?どうしてそう思う。」
「先日、私はミスを犯してしまいました。幽々子様の愛用している扇子に、傷をつけてしまったのです。
私はどのようなお叱りを受けることも覚悟し、幽々子様に謝罪をしました。」
「ふむ、それで物凄く叱られた、と?」
「いえ、何も言われませんでした。」
「ならいいじゃないか。」
「よくありません!!」
うおっ!!急に叫ぶな、びっくりするじゃないか。
「だって考えてもみてください!普段あれほど大事になさっている扇子を傷つけた!
これほどの失礼はありません!私は、切腹する覚悟で謝罪しました。
でも何も言われない。きっともう私には何も期待されていないんです。
いつまでたっても未熟で、そんな私に見切りをつけたんじゃないかと……」
「でも無視されているわけじゃないんだろ?見たところ今日も何時も通りに見えたけどな。」
「はい。ですが逆に言えば、ただ幽々子様の食事を用意するだけ、ただ庭を管理するだけ、
それだけの存在になっている気がしてならないのです。
いざ幽々子様を守ろうとしても、失敗したり逆に守られる始末。
そんな私にふがいなさを感じているんじゃないかと……」
いかんな、完全に思考がマイナス方向に傾いている。
私から言わせれば幽々子殿が妖夢を見切るなどありえないし、
妖夢はもっと自分に自信を持つべきだと思う。
……少なくともあの大食い娘の食事を管理しているだけでも尊敬に値する。
妖夢は決して弱くない。ただ周りにいるのが私を含めて規格外ばかりだから、そう感じてしまうのも無理は無いのかもしれないな。
「……妖夢。私から言えるアドバイスは、1つだけだ。」
「はい。」
「幽々子殿を信じろ。あの方はお前を見切るなどありえない。私が断言する。」
「……はい。」
若干納得がいかないというような返事だな。
だが現状ではこう言う他あるまい。
これはむしろ、幽々子殿に働きかけた方が効果的かもしれんな。今晩、紫様に相談してみよう。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
場所は移って、白玉楼厨房。
~少女?料理中~
「ちょっと!『?』って何よ!」
「どうしたの?急に怒鳴ったりして。」
「……いえ、なんかみょんなノイズを受信したのよ。」
「あらあら、みょんと使っていいのは妖夢だけよ?紫には絶望的に似合わないから。」
「ねぇ幽々子あなたまでそんなこと言うの。藍みたいなこと言わないで頂戴!」
紫は藍と妖夢に押しつけられた料理の続きをしていた。
流石は幼い藍を育てあげた母親と言うべきか、料理の腕は藍にも劣らない。
とそこに、1人で待ちくたびれた幽々子がやってきて、今に至る。
「あ~~ん。おいし~い♪」
「だから幽々子!つまみ食いはやめなさい!」
「あら、妖夢はつまみ食いしても怒らないわよ~?」
「諦められてるのよ。そうそう、妖夢だけどね、なんかあったの?元気無いみたいだけど。」
「やっぱり紫もそう思う?あのことを気にしてるのかしらねぇ。」
「あのこと?」
「妖夢が私の扇子に傷をつけちゃってねぇ。そのことを物凄い気に病んでるみたいで。」
「扇子ってあなたのお気に入りの?凄く大事にしてたわよねぇ、それは気に病むでしょう。」
「でも流石に『切腹します!』はやり過ぎよ。」
「まぁ、あの娘なら言いそうだけどね……」
「扇子ももちろん、大事なものだけどね。もっと大事なものがあるのよ。」
「大好きなのねぇ。」
「ええ、大好きよ。扇子なんかより、ずっとね。」
主語が抜けた会話だが、二人に主語は必要無かった。
その主語があらわすものなんて、ひとつしかないのだから。
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結局料理は最後まで紫が作った。
料理が完成した頃に戻ってきた藍と妖夢を交えて、四人への食事。
妖夢は終始申し訳なさそうにしていた。藍は終始おいしそうに食べていた。
紫は終始藍を睨みつけていた。しかし藍も終始それを受け流していた。
そんな八雲主従の見えざる戦いなどどこ吹く風で、幽々子は久々に食べる紫の手料理にご機嫌な様子だった。
そして妖夢は、最後まで浮かない顔が晴れることは無かった。
「じゃあ私たちはこれで。二人とも、ごきげんよう。」
「はい!紫様、手料理、ありがとうございました。」
「私がただ寝てるだけじゃないってのが分かったでしょう?もっと褒めていいのよ。」
「まぁ紫がやったのは途中からだから、手料理とは言いがたいけどね。」
「今度は最初から紫様に作らせましょう。」
「あ、それいいわねぇ。」
「こらそこの二人!勝手に変な話を進めないの!!」
紫手料理計画を進める幽々子と藍にツッコみながらも、スキマを展開する。
「じゃ、藍、行くわよ。」
「はい。ではお二人とも、お元気で。」
そして二人はスキマの中に入り、白玉楼を後にした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
スキマ内部。これからこのスキマを通じて自宅へと帰る。
そこに通じる道を歩きながら、藍は紫に相談した。
「紫様、どうやら、妖夢が思い悩んでいるようです。」
「みたいねぇ。私も幽々子から聞いたけど、扇子を傷つけたことを気に病んでいるのでしょう?」
「それだけでなく、自分が幽々子殿に見切られただの、愛想をつかされただの、
そこまで悩みが飛躍してしまっています。」
「で、あなたはなんて答えたの?」
「幽々子殿を信じろ、と。」
「まぁ間違いではないわね。でも、それじゃあまだあの子の不安は癒せない。」
「というと?」
「あの子は欲しがってるのよ。幽々子が自分を必要としてくれているっていう、確かな証拠を。」
「私から言わせれば、何故幽々子殿の普段の態度から分からないのかと思いますがね。」
「まぁそこはまだ妖夢の未熟なところね。でも、それを解決する方法を思いついたわ。」
「それはどのような方法ですか?」
「聞いて驚きなさい、名付けて、『幽々子☆ドッキリ☆大作戦』よ!」
藍は体内の二酸化炭素を全て吐き出すかの勢いで、猛烈にため息をはいた。
「何よその反応は!!」
「いえすいません。紫様と『☆』のミスマッチ具合に絶望感を覚えまして。」
「そこなの!?……まぁいいわ。作戦名はともかく、中身はちゃんとしたものだから。」
「まあ紫様のことだ、過程はともかく最終的にはよい結果になると思いますよ。」
「あら、素直じゃない。」
「私ではよい解決案が浮かばないもので。もう紫様に任せようかなと。」
「なんか釈然としないものを感じるけど、まぁいいわ。
じゃあ貴方にやってほしいことがあるんだけど。」
「なんなりとご命令ください。」
「風見幽香に、ドッキリの協力を要請してきて。」
藍は逃げ出した!!
しかし、回りこまれた!
「ふふ、スキマ内で私から逃げられるわけないでしょう?」
「イヤです!私に死ねと言うのですか!!」
「死ねなんて言ってないわ。あなたなら3割殺しぐらいで済むはず。」
「それでもイヤですよ!何故よりにもよってあのサディスティッククリーチャーと!」
「まぁ強いて言うなら、今日の仕返し?」
「ぶっちゃけやがったこのスキマ!」
「じゃあ内容はこの紙に書いてあるから、なんとかして協力にこぎつけなさい。
スキマで向日葵畑に落としてあげるわ。ゆかりんやっさし~い!」
「鬼!鬼畜!靴下!……うわぁぁ……」
「行ってらっしゃ~い!」
哀れ藍、サディスティッククリーチャーへの元へと落ちていった……
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
白玉楼、朝。
妖夢の朝は早い。幽々子よりも1時間以上早く起きる。
身支度を整え、朝食を用意し、そして幽々子を起こすのだ。
八雲家ではほぼ毎朝寝起きの悪い紫と藍との壮絶なバトルが繰り広げられるが、
白玉楼ではそんなことない。むしろ「朝ご飯ですよ。」と一声かけるだけで飛び起きる。
「ふわぁ、眠い……」
とは言え妖夢も女の子。どちらかというと朝には弱い。
だからこそしっかりと目が覚めるために、幽々子より1時間早く起きて準備をするのだ。
身支度は整えた。さて、これから朝食を作ろうと厨房に向かうその途中
足元にスキマが現れた。
「へ?うわあああ!!」
まだ完全に覚醒してなかった妖夢は、そのスキマの穴へと落ちていった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「きゃっ!」
どすん!と妖夢は尻餅をついた。今の悲鳴はあまり人に聞かれたくないな、と思っていたら、
人ではないが妖怪二人がすぐ傍に居た。もちろん八雲紫と八雲藍である。
紫は妖夢を見てニヤニヤしている。そして藍は、何故かボロボロだった。
「お、おはようございます紫様……それと藍さん、なんでそんなボロボロなんですか?」
「気のせいだろ。」
「いや、どう見ても……」
「気のせいだろ。」
どう見ても気のせいでは無くボロボロである。
これはもちろん風見幽香に協力要請した時に出来た傷であり、名誉の負傷と言えなくもない。
あの風見幽香がただで協力してくれるわけがなく、
1時間サンドバックをされることでようやく許可を貰ったのだ。
「さて妖夢、あなたは今悩んでいるわね?」
「な、何故それを……藍さん!」
「すまんな妖夢。」
秘密をバラされたと思った妖夢は藍に非難の視線を向ける。
それに対して詫びつつも、フォローをいれる。
「確かに紫様に知られたくないって気持ちは死ぬほどわかるが、
これでも幽々子様の友人であり、お前のことも大事に思っている人だ。
悪いようにはしないはずさ。」
「でも……」
「まぁゆかりんに任せなさい。あ、コレ借りるわよ?」
紫は妖夢の頭に手をかけると、するりと妖夢のリボンをほどいた。
「さて、これを……こうします!」
紫はちょうどボロボロで出血していた藍の膝に、妖夢のリボンをすりつけた。
見る見るうちにリボンは真っ赤に染まってしまう。
「あー!何するんですかぁ!私のリボンが!」
流石の妖夢も真っ赤に染まったリボンを見て声をあげる
あまりオシャレなどはする機会が無い妖夢だが、実はリボンは数少ないオシャレポイントだったのだ。
それを血で汚されたら、そりゃ困惑する。
藍は直接汚してはいないものの、汚しているのは自分の血液なので、罪悪感を感じていた。
もちろん紫はそんなもの微塵も感じていない。
「まぁ落ち付きなさい。あなたのリボンを汚したのは謝るわ。
でもこのリボン、もしこれだけ置いてあったら、幽々子はどう感じると思う?」
「え?」
「さらに!風見幽香の向日葵の花がここにあります。
これとリボンをセットにして置いたら、幽々子が何を感じとるかわかるわよね?」
「わ、私の身に何かあったと……」
「ご名答!その幽々子の様子を、私達がスキマで観察するってわけ。」
「だ、ダメですよそんなの!余計な心配をかけちゃいます!
帰ります……わぷっ!」
家を飛び出そうとした妖夢を、藍が腕で受けとめた。
背の高さは藍の方が圧倒的に高いため、ちょうど腕の部分に顔があたることになる。
「ぷはっ……藍さんまで!」
「まぁ確かに抵抗はあるだろう。しかし考えてみろ、これでわかるんじゃないか?
幽々子様がお前のことをどう思っているか。お前が今一番知りたいことだろう?」
「そ、そうですが……もし、もしも……」
「反応してくれなかったら怖い、か?」
「はい……」
不安げに俯く妖夢の頭を藍は優しく撫でた。
「大丈夫だ。昨日も言ったが、幽々子様を信じろ。」
妖夢はそれを聞いて、不安ながらも頷いた。
「……はい。」
『妖夢~!起きたわよ~う?』
とここで、スキマの中から声が聞こえてきた。
どうやら幽々子が起きたようである。
「紫様、早く!」
「わかってるわ!えっと……セット!
あとは幽々子がこのリボンと向日葵の花を見てどういう反応を見せるか、ね……。」
3人はスキマから幽々子の様子を観察する。
いつまで立っても妖夢が現れないため、しびれを切らして妖夢の部屋へと向かっているようだ。
『妖夢~?まだ起きてないの~?寝坊はダメよ……って、あら?』
どうやら血のついたリボンと向日葵に気がついたようである。
息を飲み見守る3人。
幽々子はリボンを手に取り、そしてそのリボンが血に染まっていることに気付く。
そして、叫んだ。
『妖夢!?』
顔を歪め、驚きと悲しみが入り混じった悲鳴。
いつものふわふわとした飛び方ではなく、慌ててながらまっすぐと白玉楼を飛び出した。
その様子はいつもおだやかでふわふわしている幽々子とは思えない。
妖夢自身、そんな幽々子は始めて見るのであった。
「ゆ、幽々子様……?」
「しっかりと見なさい魂魄妖夢。これが、あなたを愛する幽々子の姿よ。」
紫は一旦スキマを閉じ、もう一度スキマを開いた。
そこには、向日葵畑が写っていた。そしてその中央には、風見幽香もいる。
「あのスピードでしたら、そろそろ到着する頃でしょうか?」
「そうねぇ。あ、ほら、来たみたいよ。」
ほどなくして、向日葵畑に幽々子が現れた。
息を乱し、顔を歪めるその姿からは、いつもの余裕はまったく感じとれない。
『あら西行寺幽々子。こんな朝早くにどうしたの?
そんなに息を乱して、似合ってないわよぉ?その姿。』
『ふざけないで……!妖夢は、妖夢はどこにいるの!?』
『ああ、あの子?この前ウチの花を踏みつけて謝りもせず通ったからねぇ、
おしおきの最中よ。昨日の夜中から、ずっとね。』
『無礼をしたことは私が謝るわ。だから妖夢を開放して!』
『イヤよ。まだまだこれからが面白いところなんだから。
ようやく意識を失ったの。これから更に痛めつけて、
そうねぇ、死ぬ一歩手前になったら、返却してあげてもいいわよ?』
『……!!』
幽々子はその言葉を聞くと同時に、幽香につかみかかった。
『あら、怖ぁい。』
だが幽香はそんな幽々子をものともせず、振り払う。
『そうねぇ、だったら返してあげなくも無いわよ。』
『本当!?』
『ええ。でもねぇ、2つ条件があるわ。
1つは、あなたが代わりに、あの子の受けているお仕置きを受けること。
そしてもう1つ……この場で、跪いて、土下座しなさい。』
その言葉をスキマ越しに聞いて、藍と紫は慌てはじめる。
もちろん妖夢には聞こえないように、ひそひそ声で。
(ちょっと紫様!流石にやり過ぎじゃないですか!?)
(わ、私が指示したのは1つ目の条件だけよ!土下座なんて、言ってないわ!)
(あの妖怪が素直に指示を聞くわけないでしょう!バカですかあなたは!このバカ!)
(そ、それはあなたの交渉が下手だったのよ!殴られるだけで、何もできてないじゃないの!)
そろそろひそひそ声の範囲からはみ出る声量になってきたところで、スキマから幽々子の声が聞こえた。
『……いいわ。それで妖夢を助けてくれるなら、やってあげる。』
それが限界だった。腰の刀を手にし、妖夢が走りだす。
慌てて、藍が走り出そうとする妖夢を押さえ付ける。
「離してください!もういいでしょう!!こんなことさせて何がドッキリだ、ふざけるな!!」
「落ち付け妖夢!もう少し、もう少し待て!」
「待てるか!!幽々子様は、私なんかのためにそんなことをしていい人じゃない!!」
叫び続ける妖夢。それを必死で押さえ付ける藍。
力では藍の方に分があるが、このままでは抜けるのは時間の問題である。
しかし、紫は暴れる妖夢の前に立ち、静かに語りかける。
「まだ分かっていないわ貴方は。
『私なんかのために』なんて言っているようでは、あなたをあの場に行かせるわけには いかない。」
『へぇ、あんな弱い庭師のためにそこまでするの?信じられないわ。
あんなの、ただの便利な召使じゃない。
あなた1人守ることが出来ず、逆に主人に守られる始末。
そんなものに土下座までする価値はあるのかしら?』
スキマの中から、幽香の問いかけが聞こえる。
これはあらかじめ紫が用意してしゃべらせたものだ。
「離してください!離せ!私は……!」
「聞け!聞くんだ妖夢!これはお前が望んだことだ!!」
『……あるわ。』
スキマの中から声が聞こえる。幽々子様の声だ。
『私はあの子のためなら、土下座だって出来る。扇子を折られたっていい。』
やめてください幽々子様。私は、そこまでしてもらうほどの存在じゃありません。
『確かにあの子はまだ未熟。強くなったけど、まだまだ私より弱いし、貴方より弱い。
いろいろな面で、私が守っていかなきゃいけないと思っているわ。』
そうです、そしてそんなことを主人にさせるなんて、私は従者失格……
『でもね、あの子は私をある物からずっと守ってくれているの。
それは私だけではどうしようもできなくて、私が一番嫌いで、私が一番怖いモノ。それは……』
それは……?
『孤独、よ』
こど、く?
『私は弱いわ。だって1人でいると、どうしようもなく寂しく、どうしようもなく怖くなる。
そんな時あの子が傍に居て、「幽々子様」って言ってくれるの。こんな幸せは無いわ。
妖忌もいなくなった今、ずっと傍に居て私を守ってくれるのは妖夢だけよ。
妖夢のためなら、私は土下座だろうとなんだってやってやるわ。』
ゆゆこ……様!!
その言葉を聞いて、私は理解した。
「自分は愛想をつかされた」?「自分なんて必要ない」?
なんと愚かな考えをしていたんだろう。
だって今、幽々子様はあんなにも私を求めている。
幽々子様を『孤独』からお守りできるのは、自分だけなんだ!!
「ようやく理解したようね。幽々子の貴方に対する気持ちが。」
紫様が優しく語り掛ける。きっとこれを聞かせるために、ずっと我慢をさせていたんだろう。
「あなたはこんなにも愛されてる。こんなにも必要とされている。
だからもう、『私なんかのために』なんて言わないで。
幽々子は、あなたを一番に考えているのだから。」
ふと私にかかっていた力が抜ける。藍さんが拘束を解いたんだ。
「さあ妖夢、行ってこい。はやく行かないと、本当に土下座してしまうぞ?」
そして背中を押される。私は振り向かずに、幽々子様の元へ駆け出した。
「白玉楼庭師、魂魄妖夢!幽々子様、いざ参ります!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
時間にして10秒もかからなかった。
私は風見幽香と幽々子様の間に立ち、幽々子様と向き合った。
「申し訳ありません幽々子様、今までのは全て狂言でした……
私は幽香に捕まってもいませんし、お仕置きも受けておりません。
紫様の家にて……うわっ!」
最後まで言うことが出来なかった。
幽々子様が、私を力いっぱい抱きしめたからだ。
「ようむぅ……ようむぅ……」
そして泣きじゃくる幽々子様。
そんな顔しないでください、あなたはふわふわ笑いながら私をからかっているのが一番似合っていますよ?
「良かった……良かったわ……ようむぅ……」
幽々子様、お止めください。
あんなこと聞かされた後で、こんなに暖かく抱きしめられてしまうと……
「すみ……ませんでした……ゆゆこ……さまあ……っ!」
私も釣られて、泣いてしまうではありませんか。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
抱き合いながら泣きじゃくる二人を見て、ようやく問題は解決したと確信した。
私と紫様もスキマを通って、向日葵畑に降りる。
「お疲れ様、ゆうかりん。」
「ゆうかりん言うな、殺すぞ。お疲れ様、紫ババァ。」
「おほほ、見逃すのは今回だけでしてよ?」
非常に殺伐としたねぎらいの言葉の掛け合いをしている二人。
私は巻き込まれたくないから、こっそりと一歩下がった。
「しかしねぇ、土下座はやり過ぎでしょ?お仕置きだけって言ったじゃない。」
「でもそのお仕置きも実際はやらないんでしょう?
せっかく協力したんだから、何かしら形になるものを残したかったのよ。」
「それが土下座?相変わらずサディストねぇ。」
「褒め言葉として受けとっておくわ。」
サディストを褒め言葉と受け取るとは、流石としか言い様がない。
「さて、じゃあ私はちょっと用事が出来たから、行ってくるわ。」
「あら?なんの用事?」
「さっきの様子を鴉天狗が撮っていたのよ。ちょっと〆てくるわ。
おおかた西行寺が取り乱す姿を見て、記事にしようと思ったんでしょうけど。」
「優しいんですね。」
「勘違いしないでね。別に西行寺のためにやるわけじゃないわ。
こんな作られたドッキリをさも真実のように伝えられるのが不愉快なだけよ。
いずれドッキリではなく本当に私が上だと言うことを証明する時のお楽しみにとっておくのよ。」
「うわぁ、藍、今の聞いてどう思った?」
「物凄くテンプレートなツンデレです、本当にありがとうございました。」
「う、うるさいわね!!とにかく!もうこんなのはこれっきりにしてよね!!」
そう叫びながら、幽香が妖怪の山方面へと飛び立っていった。
鴉天狗はご愁傷様だ。まぁ私の時より2割増しぐらい殺しで済むだろう。
「で、藍。あなたは今回のことをどう見る?」
今度は私が紫様に問われた。ふむ、私の見解か……
「そうですね、今回はやはり、妖夢が未熟だった故に起きたことかと。
従者であれば主が自分に何を求めているのかは言葉にせずとも感じとらなければいけません。
今回のはそれを感じ取ることが出来なかった妖夢が原因かと私は考えています。」
「厳しいわね。でもね、確かに妖夢はもう少し感じ取るべきだったけど、
幽々子もね、もう少し自分の気持ちを伝えるべきだったと思うわね。
妖夢が未熟だってことは幽々子が一番分かっていたはずだし、
たとえ未熟でなくても、言葉にしなくては本当の気持ちは伝わらないわ。」
「へぇ……」
「なによ。」
「いえ、どの口がそんなことをおっしゃるのかと思いまして。」
「ひどっ!何を言っているのよ!私がそうじゃないと言いたいの!?」
「本音隠しまくりの寝てばっかりーのの妖怪が何をおっしゃいますか。」
「ていうか、あなた今主が何を求めているのかを感じ取るのが従者の役割とか言ってたけど、
じゃああなたは私が何を求めていると思うの?その生意気な口調も私が求めていたものとでも言うのかしら?」
紫様がニヤリと笑いながら言う、どうやら改心の返しだと思っているようだ。
しかし紫様、残念でした。
「はい。紫様が求めているものは忠実な従者ではありません。
大妖怪である自分にも物怖じせず意見し、時には喧嘩もして、
しかし自分のことを一番に考えてくれる、そんな従者でございます。」
私もまた、ニヤリとしながら言葉を返す。
「つまり貴方は、私が生意気な従者を求めていたと言いたいわけね?」
「はい。ですから私が生意気なのは、貴方の望みなのです。」
「そう。」
紫様は諦めたように息をついた。
「私の望みじゃ、しょうがないわね。」
「恐縮です。」
わざとらしく礼をしてみせる。
さっき言ったことは事実だ。無論今では、霊夢など対等に話せる方が増えたが、
幻想郷が出来たばかりの頃、紫様は孤独であった。
自分の周りに居る者は敵か、服従させた者か、自分を恐れる者のみ。
そして私は気付いた。紫様は対等な関係で、好き勝手言い合える関係の誰かを望んでいると。
だから私は、従者でありながらもそこに近づこうとした。
今では幽々子様も転生され、紫様を恐れる者も少なくなり、幸せな関係を築けるようになった。
それでも私がこのスタイルをやめないのは……いじられる紫様の反応が面白いから。
まったく、私も幽香のことを言えないな。
「でも藍、やっぱりね、言葉にするのは大事なことだと思うのよ。
確かに私の意思は伝わってるかもしれないけど、あなたの意思は伝わってないわ。」
「何を今更。私があなたをどう思っているかなんて、今更言う必要もないでしょうに。」
「でも聞きたいわ。たまにはいいでしょう?こういう機会はあまりないわよ?」
やれやれ……結局はそこに持っていきたかっただけじゃないかと思う。
まぁでも、私達もドッキリをしかけられてはたまらないからな。
仕方ない、少し恥ずかしいが。
「心の底から、あなたをお慕いしておりますよ、紫様。」
「私も、あなたのことが大好きよ、藍。」
かくして、八雲と冥界の主従、そして風見幽香を巻きこんだ騒動は、ようやく決着がついたのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あの騒動から数日たった後、再び白玉楼の主従がやってきた。
以前よりもさらに距離が近くなったようで、とても幸せそうに歩いてきた。
……しかし手まで繋いでいるというのはどうだろう?
私はやってきた二人にお茶菓子を出し、紫様を叩きおこし、自分も席についた。
「それで、今日は何の用?言っておくけど、ドッキリのことは謝らないわよ?」
「いえ、そういうわけではなくて、お礼をしようと思いまして。」
「そうよ~あのおかげで私と妖夢はもっと仲良くなれたものね~!」
「はい!」
イラッ
ん?なんだろうか、この感情は……
「ほら見て~!このチョコ、私が作ったのよ~?」
「え?幽々子料理できたっけ?」
「も~紫なら分かるでしょ?妖夢に教えてもらったのよ~!」
イラッ
あ、紫様からも同じ感情の波を感じる
「私も分かったわ。これからは妖夢への愛情をもっとストレートに出して行こうって!」
「そして私も、幽々子様の愛を正面から受け止めます!」
「だから私達がより仲良くなれるきっかけを作ってくれたあなた達に、」
「あ、先に言わないでくださいよぉ~」
「分かった分かった、じゃあ一緒に言いましょう、ね?」
「はい!」
私と紫様は一瞬でアイコンタクトを取った。
普段何かと言い争っている私達だが、今の心はひとつだ。
今ならどんな敵でも二人のコンビネーションで乗りきれそうな気がする。
互いに頷き、アイコンタクト完了。
せ~~の!!
「「ありがとうございました~!」」
「「帰れ!!バカップルが!!」」
(了)
このSSの幽々子様は、原作、及び創想話で一般的に書かれる幽々子様とは少し違うキャラかもしれません。
ギャグ的なキャラ崩壊ではないですが、その点を留意して頂ければ幸いです。
「幽々子様……申し訳ございません!!」
「あらあら妖夢、どうしたの?」
「幽々子様が大事にしていた扇子に……傷をつけてしまいました!
かくなる上は魂魄妖夢、切腹してお詫びを……」
「ちょっとちょっと待ちなさい妖夢!」
「しかし……」
「扇子ぐらいどうってことないわ。それよりあなたが落ち付きなさい。
もういいから、夕飯を作ってちょうだいな。」
「……はい。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
それは、紫様のお付合いで、白玉楼に出向いた時のこと。
私と妖夢が二人並んで、お二人の食事を用意している時に起こった。
「いたっ!」
隣で野菜を切り分けていたはずの妖夢から、小さな悲鳴が漏れた。
慌てて横を見ると、妖夢の指先から血が出ている。
どうやら誤って指を切ってしまったようだ。
「おいおい、大丈夫か?」
「すいません藍さん、うっかりしてました。
たいしたことないですから、大丈夫です。」
確かにケガ自体はたいしたこと無い。こんなもの、妖夢からすればケガのうちにも入らないだろう。
しかし私はケガよりも、妖夢がこんなミスをしたということの方が心配だった。
確かに妖夢は何かと未熟と言われる存在ではあるが、
それでも自らの指を切ってしまうようなミスをする娘では無いはずである。
そもそも妖夢は最近様子がおかしかった。ぼーっとしていたり、何かを考えていたり…
まるで何か悩み事でも抱えているかのよう。
今回のコレも、きっとその悩みとやらを考えながら作業していたため起きたミスだろう。
以上、プロファイリング終わり。伊達に数学に強いわけじゃないのだよ。
では、ちょっとお節介をかいてやるかな。
「まぁ待て。そんなキズでも放っておくと化膿してしまうかもしれない。
私が手当てしてやろう。さあ行こうか。」
「だ、大丈夫ですよぉ。というか私達二人がここを離れるわけにはいかないでしょう。
この作りかけの料理、どうするんですか?」
「ふむ、それもそうだな……よし、」
私は大きく息を吸いこみ、大声で叫んだ。
「ゆかりさま~!!私と妖夢は少し外しますんで、料理の続きやっといてくださ~い!!!」
うむ、これでよし。
「ええええ!?紫様にやらせるんですかあああ!?」
「心配ないよ、これでも私が幼い頃は紫様が料理してたんだから。
確かに今の姿からは想像できないだろうが、料理の腕は私が保証する。」
「確かに意外……ではなくて!!従者の私達が主人に押し付けるなんて!」
「いいんだよいつも寝ることしかしてないんだからたまには働けってんだ。」
「それが本音!?」
妖夢と漫才のような掛け合いをしていると、紫様が慌てた様子でスキマから現れた
まったくこういう時だけは俊敏なんだから。
「ねぇ藍、よく聞こえなかったんだけど、もう一度言ってくれない?」
「ええ、妖夢が指先をケガしてしまったので、私が見てやろうかと。
ですからその間、紫様にはこの続きをやってほしいなと思いまして。」
「そんなのケガのうちに入らないじゃない!
この前私が頭に針刺さって血だらけで帰ってきた時も、『ツバつけときゃ直りますよ。』
って言って相手にしてくれなかったじゃないの!!」
「あれは紫様が霊夢にちょっかい出すのが悪いんです。自業自得です。
過酷な労働の結果の妖夢のケガと一緒にしないでください。」
「だ、だからって主人であるこの私に……」
ふむ、なかなか手強いな。仕方ない、殺し文句を使うか。
「……久しぶりに食べたくなったんですよ、紫様の『母の味』をね……」
「よーし☆ゆかりん頑張って料理しちゃうぞ☆」
さてこれでよし。私達とのやりとりを見て呆然としてる妖夢を引っ張り、
救急箱があるであろう部屋へ連れていった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「……これでよし、と。」
「あ、ありがとうございます。」
妖夢の指を消毒し、包帯を巻いてやった。
ひとまずこれで処置としてはOKだろう。
「でも本当にいいんですか?紫様にあんなことさせて……」
「大丈夫大丈夫。ああ見えて紫様はやる人だから。」
「あれぐらいの傷でしたら、私は平気でしたのに……」
「だろうな。」
「へ?」
突然の切り返しに戸惑う妖夢。私は続ける。
「私も妖夢にとってはあれぐらいの傷なんてどうってことないぐらい分かっていたさ。
むしろ私が心配したのはあんなミスをした妖夢自身でね。
私の知っている妖夢は料理中に考え事をして自分の指を切るほどどんくさくはない。」
「すみません……」
「いや、責めているんじゃないんだ。ただ、何か悩みでもあるんじゃないかと思ってね。」
「……!!」
妖夢の顔が歪む。どうやらビンゴだったようだ。
「まぁ大方お前のことだ。幽々子殿についてのことだろう?」
「……あはは、やっぱり藍さんには適わないなぁ。」
「私も同じ道を通ってきたからな。きっと力になれる、相談してくれ。」
「はい……」
そして妖夢は、自らの悩みを語り始めた。
「私、幽々子様に愛想をつかされたかもしれません。」
なんと。大きく出たな。
「幽々子殿が?どうしてそう思う。」
「先日、私はミスを犯してしまいました。幽々子様の愛用している扇子に、傷をつけてしまったのです。
私はどのようなお叱りを受けることも覚悟し、幽々子様に謝罪をしました。」
「ふむ、それで物凄く叱られた、と?」
「いえ、何も言われませんでした。」
「ならいいじゃないか。」
「よくありません!!」
うおっ!!急に叫ぶな、びっくりするじゃないか。
「だって考えてもみてください!普段あれほど大事になさっている扇子を傷つけた!
これほどの失礼はありません!私は、切腹する覚悟で謝罪しました。
でも何も言われない。きっともう私には何も期待されていないんです。
いつまでたっても未熟で、そんな私に見切りをつけたんじゃないかと……」
「でも無視されているわけじゃないんだろ?見たところ今日も何時も通りに見えたけどな。」
「はい。ですが逆に言えば、ただ幽々子様の食事を用意するだけ、ただ庭を管理するだけ、
それだけの存在になっている気がしてならないのです。
いざ幽々子様を守ろうとしても、失敗したり逆に守られる始末。
そんな私にふがいなさを感じているんじゃないかと……」
いかんな、完全に思考がマイナス方向に傾いている。
私から言わせれば幽々子殿が妖夢を見切るなどありえないし、
妖夢はもっと自分に自信を持つべきだと思う。
……少なくともあの大食い娘の食事を管理しているだけでも尊敬に値する。
妖夢は決して弱くない。ただ周りにいるのが私を含めて規格外ばかりだから、そう感じてしまうのも無理は無いのかもしれないな。
「……妖夢。私から言えるアドバイスは、1つだけだ。」
「はい。」
「幽々子殿を信じろ。あの方はお前を見切るなどありえない。私が断言する。」
「……はい。」
若干納得がいかないというような返事だな。
だが現状ではこう言う他あるまい。
これはむしろ、幽々子殿に働きかけた方が効果的かもしれんな。今晩、紫様に相談してみよう。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
場所は移って、白玉楼厨房。
~少女?料理中~
「ちょっと!『?』って何よ!」
「どうしたの?急に怒鳴ったりして。」
「……いえ、なんかみょんなノイズを受信したのよ。」
「あらあら、みょんと使っていいのは妖夢だけよ?紫には絶望的に似合わないから。」
「ねぇ幽々子あなたまでそんなこと言うの。藍みたいなこと言わないで頂戴!」
紫は藍と妖夢に押しつけられた料理の続きをしていた。
流石は幼い藍を育てあげた母親と言うべきか、料理の腕は藍にも劣らない。
とそこに、1人で待ちくたびれた幽々子がやってきて、今に至る。
「あ~~ん。おいし~い♪」
「だから幽々子!つまみ食いはやめなさい!」
「あら、妖夢はつまみ食いしても怒らないわよ~?」
「諦められてるのよ。そうそう、妖夢だけどね、なんかあったの?元気無いみたいだけど。」
「やっぱり紫もそう思う?あのことを気にしてるのかしらねぇ。」
「あのこと?」
「妖夢が私の扇子に傷をつけちゃってねぇ。そのことを物凄い気に病んでるみたいで。」
「扇子ってあなたのお気に入りの?凄く大事にしてたわよねぇ、それは気に病むでしょう。」
「でも流石に『切腹します!』はやり過ぎよ。」
「まぁ、あの娘なら言いそうだけどね……」
「扇子ももちろん、大事なものだけどね。もっと大事なものがあるのよ。」
「大好きなのねぇ。」
「ええ、大好きよ。扇子なんかより、ずっとね。」
主語が抜けた会話だが、二人に主語は必要無かった。
その主語があらわすものなんて、ひとつしかないのだから。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
結局料理は最後まで紫が作った。
料理が完成した頃に戻ってきた藍と妖夢を交えて、四人への食事。
妖夢は終始申し訳なさそうにしていた。藍は終始おいしそうに食べていた。
紫は終始藍を睨みつけていた。しかし藍も終始それを受け流していた。
そんな八雲主従の見えざる戦いなどどこ吹く風で、幽々子は久々に食べる紫の手料理にご機嫌な様子だった。
そして妖夢は、最後まで浮かない顔が晴れることは無かった。
「じゃあ私たちはこれで。二人とも、ごきげんよう。」
「はい!紫様、手料理、ありがとうございました。」
「私がただ寝てるだけじゃないってのが分かったでしょう?もっと褒めていいのよ。」
「まぁ紫がやったのは途中からだから、手料理とは言いがたいけどね。」
「今度は最初から紫様に作らせましょう。」
「あ、それいいわねぇ。」
「こらそこの二人!勝手に変な話を進めないの!!」
紫手料理計画を進める幽々子と藍にツッコみながらも、スキマを展開する。
「じゃ、藍、行くわよ。」
「はい。ではお二人とも、お元気で。」
そして二人はスキマの中に入り、白玉楼を後にした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
スキマ内部。これからこのスキマを通じて自宅へと帰る。
そこに通じる道を歩きながら、藍は紫に相談した。
「紫様、どうやら、妖夢が思い悩んでいるようです。」
「みたいねぇ。私も幽々子から聞いたけど、扇子を傷つけたことを気に病んでいるのでしょう?」
「それだけでなく、自分が幽々子殿に見切られただの、愛想をつかされただの、
そこまで悩みが飛躍してしまっています。」
「で、あなたはなんて答えたの?」
「幽々子殿を信じろ、と。」
「まぁ間違いではないわね。でも、それじゃあまだあの子の不安は癒せない。」
「というと?」
「あの子は欲しがってるのよ。幽々子が自分を必要としてくれているっていう、確かな証拠を。」
「私から言わせれば、何故幽々子殿の普段の態度から分からないのかと思いますがね。」
「まぁそこはまだ妖夢の未熟なところね。でも、それを解決する方法を思いついたわ。」
「それはどのような方法ですか?」
「聞いて驚きなさい、名付けて、『幽々子☆ドッキリ☆大作戦』よ!」
藍は体内の二酸化炭素を全て吐き出すかの勢いで、猛烈にため息をはいた。
「何よその反応は!!」
「いえすいません。紫様と『☆』のミスマッチ具合に絶望感を覚えまして。」
「そこなの!?……まぁいいわ。作戦名はともかく、中身はちゃんとしたものだから。」
「まあ紫様のことだ、過程はともかく最終的にはよい結果になると思いますよ。」
「あら、素直じゃない。」
「私ではよい解決案が浮かばないもので。もう紫様に任せようかなと。」
「なんか釈然としないものを感じるけど、まぁいいわ。
じゃあ貴方にやってほしいことがあるんだけど。」
「なんなりとご命令ください。」
「風見幽香に、ドッキリの協力を要請してきて。」
藍は逃げ出した!!
しかし、回りこまれた!
「ふふ、スキマ内で私から逃げられるわけないでしょう?」
「イヤです!私に死ねと言うのですか!!」
「死ねなんて言ってないわ。あなたなら3割殺しぐらいで済むはず。」
「それでもイヤですよ!何故よりにもよってあのサディスティッククリーチャーと!」
「まぁ強いて言うなら、今日の仕返し?」
「ぶっちゃけやがったこのスキマ!」
「じゃあ内容はこの紙に書いてあるから、なんとかして協力にこぎつけなさい。
スキマで向日葵畑に落としてあげるわ。ゆかりんやっさし~い!」
「鬼!鬼畜!靴下!……うわぁぁ……」
「行ってらっしゃ~い!」
哀れ藍、サディスティッククリーチャーへの元へと落ちていった……
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
白玉楼、朝。
妖夢の朝は早い。幽々子よりも1時間以上早く起きる。
身支度を整え、朝食を用意し、そして幽々子を起こすのだ。
八雲家ではほぼ毎朝寝起きの悪い紫と藍との壮絶なバトルが繰り広げられるが、
白玉楼ではそんなことない。むしろ「朝ご飯ですよ。」と一声かけるだけで飛び起きる。
「ふわぁ、眠い……」
とは言え妖夢も女の子。どちらかというと朝には弱い。
だからこそしっかりと目が覚めるために、幽々子より1時間早く起きて準備をするのだ。
身支度は整えた。さて、これから朝食を作ろうと厨房に向かうその途中
足元にスキマが現れた。
「へ?うわあああ!!」
まだ完全に覚醒してなかった妖夢は、そのスキマの穴へと落ちていった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「きゃっ!」
どすん!と妖夢は尻餅をついた。今の悲鳴はあまり人に聞かれたくないな、と思っていたら、
人ではないが妖怪二人がすぐ傍に居た。もちろん八雲紫と八雲藍である。
紫は妖夢を見てニヤニヤしている。そして藍は、何故かボロボロだった。
「お、おはようございます紫様……それと藍さん、なんでそんなボロボロなんですか?」
「気のせいだろ。」
「いや、どう見ても……」
「気のせいだろ。」
どう見ても気のせいでは無くボロボロである。
これはもちろん風見幽香に協力要請した時に出来た傷であり、名誉の負傷と言えなくもない。
あの風見幽香がただで協力してくれるわけがなく、
1時間サンドバックをされることでようやく許可を貰ったのだ。
「さて妖夢、あなたは今悩んでいるわね?」
「な、何故それを……藍さん!」
「すまんな妖夢。」
秘密をバラされたと思った妖夢は藍に非難の視線を向ける。
それに対して詫びつつも、フォローをいれる。
「確かに紫様に知られたくないって気持ちは死ぬほどわかるが、
これでも幽々子様の友人であり、お前のことも大事に思っている人だ。
悪いようにはしないはずさ。」
「でも……」
「まぁゆかりんに任せなさい。あ、コレ借りるわよ?」
紫は妖夢の頭に手をかけると、するりと妖夢のリボンをほどいた。
「さて、これを……こうします!」
紫はちょうどボロボロで出血していた藍の膝に、妖夢のリボンをすりつけた。
見る見るうちにリボンは真っ赤に染まってしまう。
「あー!何するんですかぁ!私のリボンが!」
流石の妖夢も真っ赤に染まったリボンを見て声をあげる
あまりオシャレなどはする機会が無い妖夢だが、実はリボンは数少ないオシャレポイントだったのだ。
それを血で汚されたら、そりゃ困惑する。
藍は直接汚してはいないものの、汚しているのは自分の血液なので、罪悪感を感じていた。
もちろん紫はそんなもの微塵も感じていない。
「まぁ落ち付きなさい。あなたのリボンを汚したのは謝るわ。
でもこのリボン、もしこれだけ置いてあったら、幽々子はどう感じると思う?」
「え?」
「さらに!風見幽香の向日葵の花がここにあります。
これとリボンをセットにして置いたら、幽々子が何を感じとるかわかるわよね?」
「わ、私の身に何かあったと……」
「ご名答!その幽々子の様子を、私達がスキマで観察するってわけ。」
「だ、ダメですよそんなの!余計な心配をかけちゃいます!
帰ります……わぷっ!」
家を飛び出そうとした妖夢を、藍が腕で受けとめた。
背の高さは藍の方が圧倒的に高いため、ちょうど腕の部分に顔があたることになる。
「ぷはっ……藍さんまで!」
「まぁ確かに抵抗はあるだろう。しかし考えてみろ、これでわかるんじゃないか?
幽々子様がお前のことをどう思っているか。お前が今一番知りたいことだろう?」
「そ、そうですが……もし、もしも……」
「反応してくれなかったら怖い、か?」
「はい……」
不安げに俯く妖夢の頭を藍は優しく撫でた。
「大丈夫だ。昨日も言ったが、幽々子様を信じろ。」
妖夢はそれを聞いて、不安ながらも頷いた。
「……はい。」
『妖夢~!起きたわよ~う?』
とここで、スキマの中から声が聞こえてきた。
どうやら幽々子が起きたようである。
「紫様、早く!」
「わかってるわ!えっと……セット!
あとは幽々子がこのリボンと向日葵の花を見てどういう反応を見せるか、ね……。」
3人はスキマから幽々子の様子を観察する。
いつまで立っても妖夢が現れないため、しびれを切らして妖夢の部屋へと向かっているようだ。
『妖夢~?まだ起きてないの~?寝坊はダメよ……って、あら?』
どうやら血のついたリボンと向日葵に気がついたようである。
息を飲み見守る3人。
幽々子はリボンを手に取り、そしてそのリボンが血に染まっていることに気付く。
そして、叫んだ。
『妖夢!?』
顔を歪め、驚きと悲しみが入り混じった悲鳴。
いつものふわふわとした飛び方ではなく、慌ててながらまっすぐと白玉楼を飛び出した。
その様子はいつもおだやかでふわふわしている幽々子とは思えない。
妖夢自身、そんな幽々子は始めて見るのであった。
「ゆ、幽々子様……?」
「しっかりと見なさい魂魄妖夢。これが、あなたを愛する幽々子の姿よ。」
紫は一旦スキマを閉じ、もう一度スキマを開いた。
そこには、向日葵畑が写っていた。そしてその中央には、風見幽香もいる。
「あのスピードでしたら、そろそろ到着する頃でしょうか?」
「そうねぇ。あ、ほら、来たみたいよ。」
ほどなくして、向日葵畑に幽々子が現れた。
息を乱し、顔を歪めるその姿からは、いつもの余裕はまったく感じとれない。
『あら西行寺幽々子。こんな朝早くにどうしたの?
そんなに息を乱して、似合ってないわよぉ?その姿。』
『ふざけないで……!妖夢は、妖夢はどこにいるの!?』
『ああ、あの子?この前ウチの花を踏みつけて謝りもせず通ったからねぇ、
おしおきの最中よ。昨日の夜中から、ずっとね。』
『無礼をしたことは私が謝るわ。だから妖夢を開放して!』
『イヤよ。まだまだこれからが面白いところなんだから。
ようやく意識を失ったの。これから更に痛めつけて、
そうねぇ、死ぬ一歩手前になったら、返却してあげてもいいわよ?』
『……!!』
幽々子はその言葉を聞くと同時に、幽香につかみかかった。
『あら、怖ぁい。』
だが幽香はそんな幽々子をものともせず、振り払う。
『そうねぇ、だったら返してあげなくも無いわよ。』
『本当!?』
『ええ。でもねぇ、2つ条件があるわ。
1つは、あなたが代わりに、あの子の受けているお仕置きを受けること。
そしてもう1つ……この場で、跪いて、土下座しなさい。』
その言葉をスキマ越しに聞いて、藍と紫は慌てはじめる。
もちろん妖夢には聞こえないように、ひそひそ声で。
(ちょっと紫様!流石にやり過ぎじゃないですか!?)
(わ、私が指示したのは1つ目の条件だけよ!土下座なんて、言ってないわ!)
(あの妖怪が素直に指示を聞くわけないでしょう!バカですかあなたは!このバカ!)
(そ、それはあなたの交渉が下手だったのよ!殴られるだけで、何もできてないじゃないの!)
そろそろひそひそ声の範囲からはみ出る声量になってきたところで、スキマから幽々子の声が聞こえた。
『……いいわ。それで妖夢を助けてくれるなら、やってあげる。』
それが限界だった。腰の刀を手にし、妖夢が走りだす。
慌てて、藍が走り出そうとする妖夢を押さえ付ける。
「離してください!もういいでしょう!!こんなことさせて何がドッキリだ、ふざけるな!!」
「落ち付け妖夢!もう少し、もう少し待て!」
「待てるか!!幽々子様は、私なんかのためにそんなことをしていい人じゃない!!」
叫び続ける妖夢。それを必死で押さえ付ける藍。
力では藍の方に分があるが、このままでは抜けるのは時間の問題である。
しかし、紫は暴れる妖夢の前に立ち、静かに語りかける。
「まだ分かっていないわ貴方は。
『私なんかのために』なんて言っているようでは、あなたをあの場に行かせるわけには いかない。」
『へぇ、あんな弱い庭師のためにそこまでするの?信じられないわ。
あんなの、ただの便利な召使じゃない。
あなた1人守ることが出来ず、逆に主人に守られる始末。
そんなものに土下座までする価値はあるのかしら?』
スキマの中から、幽香の問いかけが聞こえる。
これはあらかじめ紫が用意してしゃべらせたものだ。
「離してください!離せ!私は……!」
「聞け!聞くんだ妖夢!これはお前が望んだことだ!!」
『……あるわ。』
スキマの中から声が聞こえる。幽々子様の声だ。
『私はあの子のためなら、土下座だって出来る。扇子を折られたっていい。』
やめてください幽々子様。私は、そこまでしてもらうほどの存在じゃありません。
『確かにあの子はまだ未熟。強くなったけど、まだまだ私より弱いし、貴方より弱い。
いろいろな面で、私が守っていかなきゃいけないと思っているわ。』
そうです、そしてそんなことを主人にさせるなんて、私は従者失格……
『でもね、あの子は私をある物からずっと守ってくれているの。
それは私だけではどうしようもできなくて、私が一番嫌いで、私が一番怖いモノ。それは……』
それは……?
『孤独、よ』
こど、く?
『私は弱いわ。だって1人でいると、どうしようもなく寂しく、どうしようもなく怖くなる。
そんな時あの子が傍に居て、「幽々子様」って言ってくれるの。こんな幸せは無いわ。
妖忌もいなくなった今、ずっと傍に居て私を守ってくれるのは妖夢だけよ。
妖夢のためなら、私は土下座だろうとなんだってやってやるわ。』
ゆゆこ……様!!
その言葉を聞いて、私は理解した。
「自分は愛想をつかされた」?「自分なんて必要ない」?
なんと愚かな考えをしていたんだろう。
だって今、幽々子様はあんなにも私を求めている。
幽々子様を『孤独』からお守りできるのは、自分だけなんだ!!
「ようやく理解したようね。幽々子の貴方に対する気持ちが。」
紫様が優しく語り掛ける。きっとこれを聞かせるために、ずっと我慢をさせていたんだろう。
「あなたはこんなにも愛されてる。こんなにも必要とされている。
だからもう、『私なんかのために』なんて言わないで。
幽々子は、あなたを一番に考えているのだから。」
ふと私にかかっていた力が抜ける。藍さんが拘束を解いたんだ。
「さあ妖夢、行ってこい。はやく行かないと、本当に土下座してしまうぞ?」
そして背中を押される。私は振り向かずに、幽々子様の元へ駆け出した。
「白玉楼庭師、魂魄妖夢!幽々子様、いざ参ります!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
時間にして10秒もかからなかった。
私は風見幽香と幽々子様の間に立ち、幽々子様と向き合った。
「申し訳ありません幽々子様、今までのは全て狂言でした……
私は幽香に捕まってもいませんし、お仕置きも受けておりません。
紫様の家にて……うわっ!」
最後まで言うことが出来なかった。
幽々子様が、私を力いっぱい抱きしめたからだ。
「ようむぅ……ようむぅ……」
そして泣きじゃくる幽々子様。
そんな顔しないでください、あなたはふわふわ笑いながら私をからかっているのが一番似合っていますよ?
「良かった……良かったわ……ようむぅ……」
幽々子様、お止めください。
あんなこと聞かされた後で、こんなに暖かく抱きしめられてしまうと……
「すみ……ませんでした……ゆゆこ……さまあ……っ!」
私も釣られて、泣いてしまうではありませんか。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
抱き合いながら泣きじゃくる二人を見て、ようやく問題は解決したと確信した。
私と紫様もスキマを通って、向日葵畑に降りる。
「お疲れ様、ゆうかりん。」
「ゆうかりん言うな、殺すぞ。お疲れ様、紫ババァ。」
「おほほ、見逃すのは今回だけでしてよ?」
非常に殺伐としたねぎらいの言葉の掛け合いをしている二人。
私は巻き込まれたくないから、こっそりと一歩下がった。
「しかしねぇ、土下座はやり過ぎでしょ?お仕置きだけって言ったじゃない。」
「でもそのお仕置きも実際はやらないんでしょう?
せっかく協力したんだから、何かしら形になるものを残したかったのよ。」
「それが土下座?相変わらずサディストねぇ。」
「褒め言葉として受けとっておくわ。」
サディストを褒め言葉と受け取るとは、流石としか言い様がない。
「さて、じゃあ私はちょっと用事が出来たから、行ってくるわ。」
「あら?なんの用事?」
「さっきの様子を鴉天狗が撮っていたのよ。ちょっと〆てくるわ。
おおかた西行寺が取り乱す姿を見て、記事にしようと思ったんでしょうけど。」
「優しいんですね。」
「勘違いしないでね。別に西行寺のためにやるわけじゃないわ。
こんな作られたドッキリをさも真実のように伝えられるのが不愉快なだけよ。
いずれドッキリではなく本当に私が上だと言うことを証明する時のお楽しみにとっておくのよ。」
「うわぁ、藍、今の聞いてどう思った?」
「物凄くテンプレートなツンデレです、本当にありがとうございました。」
「う、うるさいわね!!とにかく!もうこんなのはこれっきりにしてよね!!」
そう叫びながら、幽香が妖怪の山方面へと飛び立っていった。
鴉天狗はご愁傷様だ。まぁ私の時より2割増しぐらい殺しで済むだろう。
「で、藍。あなたは今回のことをどう見る?」
今度は私が紫様に問われた。ふむ、私の見解か……
「そうですね、今回はやはり、妖夢が未熟だった故に起きたことかと。
従者であれば主が自分に何を求めているのかは言葉にせずとも感じとらなければいけません。
今回のはそれを感じ取ることが出来なかった妖夢が原因かと私は考えています。」
「厳しいわね。でもね、確かに妖夢はもう少し感じ取るべきだったけど、
幽々子もね、もう少し自分の気持ちを伝えるべきだったと思うわね。
妖夢が未熟だってことは幽々子が一番分かっていたはずだし、
たとえ未熟でなくても、言葉にしなくては本当の気持ちは伝わらないわ。」
「へぇ……」
「なによ。」
「いえ、どの口がそんなことをおっしゃるのかと思いまして。」
「ひどっ!何を言っているのよ!私がそうじゃないと言いたいの!?」
「本音隠しまくりの寝てばっかりーのの妖怪が何をおっしゃいますか。」
「ていうか、あなた今主が何を求めているのかを感じ取るのが従者の役割とか言ってたけど、
じゃああなたは私が何を求めていると思うの?その生意気な口調も私が求めていたものとでも言うのかしら?」
紫様がニヤリと笑いながら言う、どうやら改心の返しだと思っているようだ。
しかし紫様、残念でした。
「はい。紫様が求めているものは忠実な従者ではありません。
大妖怪である自分にも物怖じせず意見し、時には喧嘩もして、
しかし自分のことを一番に考えてくれる、そんな従者でございます。」
私もまた、ニヤリとしながら言葉を返す。
「つまり貴方は、私が生意気な従者を求めていたと言いたいわけね?」
「はい。ですから私が生意気なのは、貴方の望みなのです。」
「そう。」
紫様は諦めたように息をついた。
「私の望みじゃ、しょうがないわね。」
「恐縮です。」
わざとらしく礼をしてみせる。
さっき言ったことは事実だ。無論今では、霊夢など対等に話せる方が増えたが、
幻想郷が出来たばかりの頃、紫様は孤独であった。
自分の周りに居る者は敵か、服従させた者か、自分を恐れる者のみ。
そして私は気付いた。紫様は対等な関係で、好き勝手言い合える関係の誰かを望んでいると。
だから私は、従者でありながらもそこに近づこうとした。
今では幽々子様も転生され、紫様を恐れる者も少なくなり、幸せな関係を築けるようになった。
それでも私がこのスタイルをやめないのは……いじられる紫様の反応が面白いから。
まったく、私も幽香のことを言えないな。
「でも藍、やっぱりね、言葉にするのは大事なことだと思うのよ。
確かに私の意思は伝わってるかもしれないけど、あなたの意思は伝わってないわ。」
「何を今更。私があなたをどう思っているかなんて、今更言う必要もないでしょうに。」
「でも聞きたいわ。たまにはいいでしょう?こういう機会はあまりないわよ?」
やれやれ……結局はそこに持っていきたかっただけじゃないかと思う。
まぁでも、私達もドッキリをしかけられてはたまらないからな。
仕方ない、少し恥ずかしいが。
「心の底から、あなたをお慕いしておりますよ、紫様。」
「私も、あなたのことが大好きよ、藍。」
かくして、八雲と冥界の主従、そして風見幽香を巻きこんだ騒動は、ようやく決着がついたのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あの騒動から数日たった後、再び白玉楼の主従がやってきた。
以前よりもさらに距離が近くなったようで、とても幸せそうに歩いてきた。
……しかし手まで繋いでいるというのはどうだろう?
私はやってきた二人にお茶菓子を出し、紫様を叩きおこし、自分も席についた。
「それで、今日は何の用?言っておくけど、ドッキリのことは謝らないわよ?」
「いえ、そういうわけではなくて、お礼をしようと思いまして。」
「そうよ~あのおかげで私と妖夢はもっと仲良くなれたものね~!」
「はい!」
イラッ
ん?なんだろうか、この感情は……
「ほら見て~!このチョコ、私が作ったのよ~?」
「え?幽々子料理できたっけ?」
「も~紫なら分かるでしょ?妖夢に教えてもらったのよ~!」
イラッ
あ、紫様からも同じ感情の波を感じる
「私も分かったわ。これからは妖夢への愛情をもっとストレートに出して行こうって!」
「そして私も、幽々子様の愛を正面から受け止めます!」
「だから私達がより仲良くなれるきっかけを作ってくれたあなた達に、」
「あ、先に言わないでくださいよぉ~」
「分かった分かった、じゃあ一緒に言いましょう、ね?」
「はい!」
私と紫様は一瞬でアイコンタクトを取った。
普段何かと言い争っている私達だが、今の心はひとつだ。
今ならどんな敵でも二人のコンビネーションで乗りきれそうな気がする。
互いに頷き、アイコンタクト完了。
せ~~の!!
「「ありがとうございました~!」」
「「帰れ!!バカップルが!!」」
(了)
確かにあまり見ないタイプのゆゆ様だけど、アリかナシかで言われればアリ!すごくアリ!
八雲もゆうかりんも妖夢も良かったです。最高でした
これぞまさしく主の鏡…
至高のゆゆみょんでした
そして紫様と藍様のコンビネーションも素晴らしい
どれだけ妖夢のことを想っているのかというのが伝わってきますね…。
妖夢を抱きしめる幽々子様がとても良いですね。
最後にはラブラブしてて微笑ましいというかなんというか。
紫様の「ゆかりん頑張って料理しちゃうぞ☆」というのも
やっぱり藍に「母の味」と言われるとやはり母として
やりたとくもなりますよね。
良いお話でした。
誤字・脱字の報告
>一般的に書かれる書かれる
注意書きのところですが重複してましたよ。
>記事しようと思ったんでしょうけど。
『記事にしようと』ですよね。
>寝てばかっかりーのの妖怪が
『寝てばっかりーのの妖怪が』です。
以上、報告でした。(礼)
皆結構過保護だよねぇ。特に藍しゃまとか魔界神とかww
主としての幽々子の優しさがすごく感じられました。
こういうキャラ崩壊はいい方だと思います。
>この前私が頭に針刺さって血だらけで帰ってきた時も、『ツバつけときゃ直りますよ。』
この惨劇を見て冷静でいられる藍の精神が凄い。
ドッキリの引き際で,幽香がおかしなスクープを狙った文を〆に行く
部分は幽香に対するツンデレフォローは秀逸だと思いました。
(まぁ,文には気の毒ですがw)
ゆゆみょん万歳
これこそが私の思う通りのゆゆみょんです!
ゆゆさまと妖夢はこういう深い主従愛で結ばれているのです!
私はこのような作品をどんどん書いていきたいと思います!
素晴らしきゆゆみょんをありがとうございました!
100点では足りない!10000点だ!
ゆゆみょんは私のジャスティスだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!