※注意:このお話は前話である作品集61「スキマとキュウビ/零」「スキマとキュウビ/前夜」作品集62「スキマとキュウビ/宴の始まり」及び作品集67「スキマとキュウビ/胎動 」の続きです。
もし未読でしたら、お手数ですがそちらをご覧になって頂いてからの方がよりお楽しみ頂けます。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
宝永四年十一月初旬。
大地震より三十五日が経過したその日、三途の河及び彼岸は騒然となっていた。
人間の霊魂が三途の河を渡り閻魔の元へ訪れる五七日(いつなのか)を過ぎても尚、霊魂が全く三途の河に現れず、閑散としていたからだ。
各々の閻魔の使いの死神達が原因究明のために奔走する中、三途の河の渡し守である死神・小野塚小町はいつもと変わらず怠惰な日常を過ごしていた。
もちろん小町も上司の四季映姫から幻想郷に出て原因を探るよう仰せつかってはいたのだが、小町は無縁塚で無為な時間を潰していた。
なぜなら彼女には今回の霊魂が来ない件の主犯の目処が付いている。
確証は無いのだが、小町は五七日が過ぎても霊魂が来なかった時にすきま妖怪・八雲紫の姿が真っ先に思い浮かんでいた。
如何にして、どのような理由があってかは小町の知る由も無いのだが、ただ漠然とそんな気がする。
そして、それを自分の胸の内に留めておこうとも思っていた。
さしたる大きな理由があるわけではないのだが、その方が良いのかも、と考えていたからだ。
こうやって適当に時間を潰していても、映姫に浄玻璃の鏡で覗かれさえしなければそう咎められることもないだろう。
いや、映姫だってもしかしたらある程度の見当はついているのかもしれない。
もしかしたら彼女は主犯を知っていて、小町に形式上だけ原因の究明を命じた可能性もあるが、四季映姫が真実を隠しそれを通すというのは、彼女の性格から鑑みれば非常に考えづらい。
彼女の思惑もまた知る由もない。 だから小町は動く気が起こらずこうやって無縁塚へと足を運んでいた。
ふと小町は無縁塚に生えている紫の桜の木に目をやる。
花は枯れていた。 今はまだ咲く時期ではない。
幻想的な死の音に満ちた無縁塚でぼんやりと時間を潰す小町の鼻の頭に雪がひとつ落ちてきた。
少し早い初雪だ。
今年の冬は寒くなるかもしれない。
雪が早く降りてきて、冬が厳しい年は越冬出来ずに凍死する人間達が三途の河に多く訪れる。
大地震とは別の所で忙しくなるかもしれない。 そんな少し先の事を漠然と小町は思い描く。
賽の河原で、罪の償い方も知らぬ幼子の霊魂が、ただひたすら親のため石を積み上げていく様子を幻視すると、少しやるせない気持ちになった。
■■■■■■■■■■■■
「ア…ガッ……」
富士の遙か上空に居る九尾は今の一瞬自分に起きた出来事を理解するのに僅かの時間を要した。
質量を持たない蝶が八雲紫の元に訪れ、歌を中空に描き消えた後、すきま妖怪は豹変した。
筆舌し難い程昏く歪んだ笑顔を浮かべた八雲紫と彼女の周囲に浮かび上がった虹に一瞬目を奪われた刹那、自分の身体に幾つもの大穴が開いていた。
それを認識出来たのは、その大穴が自分の頭半分を持って行き視界が瞬時に半減したからである。
八雲紫は微動だにしない。 彼女の纏う洋服だけが風に乗って揺らいでいるだけだ。
朝日を背に逆光が顔を隠し、その暗い影の中から不吉な金色の眼が九尾を凝視する。
次の攻撃を仕掛けてくる気配はまだ、無い。
自分の認識の外から攻撃を受けた心的衝撃は残るものの、九尾は気持ちをすぐに切り替え、自身の身体を瞬く間に再生させる。
内に込めた妖気が形を取り、抉れた九尾の肉体を補填する。
ひとしきり消え失せた肉体の補填が終わると、九尾はすぐさま反撃の手を打つ。
低く静かに重い九尾の唸り声に呼応し、妖狐の体毛は逆立ち黒い妖気が表皮から巻き上がり巨大な球体を生み出す。
球体はどんどん膨れあがり、山の如き体躯を持つ九尾の身体より一回り小さい大きさにまでなると、膨張を止めた。
夥しい妖気が圧縮された黒球が、八雲紫の目の前およそ十尺程度の距離に現れて尚、彼女は微動だにせず、妖しく静かに佇んでいる。
空気が鈍い音を立てて震え、球体の大きさが僅かに縮んだ瞬間、突如巨大な爆発音を響かせ弾ける。
球体の爆発は八方に散るのではなく、全てその方向性が前方にあるすきま妖怪目掛けて襲いかかり、あっという間にすきま妖怪を飲み込んだ。
そして妖狐はその攻撃だけにとどまらず、追撃を行う。
上方に居ると思われる爆風の中の八雲紫目がけて、再生した口から城をも飲み込むが如き赤黒い炎を溜め込み、吐きだした。
一発、二発、三発。
黒い塊の爆風の中へ、激しい轟音を響かせ次々と炎を吐き出していく妖狐。
丁度十発目の炎を吐き出した所で九尾は攻撃を一端止めた。
巻き荒れる轟音や爆風、炎のおかげで八雲紫が居るであろう位置は全く視認できない状態である。
倒してはいない。 追いつめてもいないが、ある程度の攻撃は加えられた。 手応えもあった。
そう確信し、まだ口の端に残る赤黒い炎の残滓を噛み消し、九尾は八雲紫の居るであろう地点を凝視する。
妖狐が追撃を一度止めたのは視覚的に全く不全な状態である彼女の様子を確認するためだ。
しかし、妖狐は驚愕する。
九尾の攻撃が止むや否や、立ち上る黒煙の中からそれらをかき消し、無傷の八雲紫が姿を現す。
「ま……さか……」
あれ程の攻撃を受けて尚無傷。 洋服の一片ですら焦げついていない。
これまでの戦いから八雲紫の結界術は非常に高い防御力を誇っているのは承知済みであったが、ここまでの猛攻を受けても破ることは出来ないというのか。
一瞬硬直した九尾に対して、すきま妖怪は無言のまま反撃の仕草を取る。
片手に持っていた閉じた状態の洋傘を自身の頭の上へとゆっくり振り上げると、彼女の背後の空間が不気味な音を上げて円状に裂ける。
そして、くり抜かれた異空間の中から夥しい数の武器が、水に沈んだモノが浮かび上がってくるように姿を現す。
刀、剣、槍、斧、矢。
その数、百を超えて尚留まらず、千に届かん勢いで次々と顔を覗かせ、八雲紫が上げた洋傘を振り下ろすと、妖狐目掛けて一斉射出された。
火薬でも使用したかのような爆発のそれに近い射出音を響かせ次々と九尾の身体に刺さる武器達。
一本一本の威力は決して高くは無いが、その無数に降り注ぐ攻撃が大砲の如き射出の勢いも相まって、九尾はその衝撃により身動きが取れない。
一瞬の間断無く突き刺さる武器の雨に押され、耐えながらも僅かに九尾は飛行状態の高度を下げたが、その事実は妖狐の自尊心を刺激した。
九尾は下腹に力を込め空間を歪ませる程の大きな咆哮を捻り出し、縦横無尽に放たれたその強烈な音圧は武器の雨を悉くはじき飛ばす。
さらに大きく開いた口を一転、閉じる口で強く牙を打ち鳴らし、初撃の咆哮による空間の震動が収まらぬ内に二度目の咆哮と共に直接すきま妖怪に突撃を仕掛ける。
音速の素早い九尾の攻撃に微かに目を見開いた八雲紫は瞬時に攻撃を止め、九尾の足を止めるべく再び結界を発動させた。
初撃の咆哮による震動、二撃目の咆哮、そして本体による突撃の波状攻撃。
八雲紫の展開する結界が、逃げようのない暴力ともいえる音圧を結界で受け止める度に過剰なまでの爆発音が周囲に響き渡る。
その二度の激突に追尾して本体の突撃をも防ぐと、先の二度の攻撃とは比べものにならない音と震動が空間を支配した。
そして九尾は見る。
今度ははっきりとその結界が視認出来る。
これが先程の猛攻を凌ぎきった八雲紫の結界。
先日までの防御結界に形は似ているが、込められている妖力の密度が桁違いであった。
さらに数度九尾が首をのけぞり体当たりを試みると鈍い音が響く。
妖狐は結界に頭から直撃したがそれで止まるはずもなく、妖狐も自身の巨大な力を持って強引に結界を破ろうと試みる。
結界を鬩ぎ合う僅かな硬直が続き、そして次第に八雲紫の周囲に貼られた防御結界に綻びが生まれた。
金属が割れるそれに近い音が鳴り響き、結界が砕け散る。
妖狐の牙がすきま妖怪の眼前に迫る刹那、突如としてすきま妖怪の姿が消えた。
彼女お得意の空間移動である。
牙は虚しく空を切り、八雲紫は九尾の後方で空間の裂け目から姿を現す。
妖狐は尚も攻撃の手を休めることなく、振り返らずに九本の巨大な尻尾を振り回し、無数の体毛をすきま妖怪目掛けて飛ばす。
九尾の身体から離れた金毛はその一本一本に妖気が込められ、鋭い剣のごとく八雲紫を串刺しにせんと襲いかかる。
すきま妖怪はそれらを結界で防ぐかあるいは結界を発動させずにそれらをはたき落とすか。
九尾は瞬時に八雲紫の次の行動を予測し、防御しても再びすきまに潜ってやり過ごしても追撃が行えるよう備える。
しかし、すきま妖怪の行動は妖狐の予想を遙かに上回っていた。
妖狐の毛針は確かにそこに居た八雲紫の身体を貫いたのだが、毛針はすきま妖怪の身体をさながら水を打つかの如く通り抜けていった。
水面に映る影のような八雲紫の虚像は波紋を広げそのまま中空にゆらりと消える。
遅れて数瞬、九尾が振り返るとすきま妖怪は妖狐の上空から姿を現す。
そして九尾の周囲には幾重もの結界が、あたかも九尾の連続する認識の境界に突如強制的に差し込まれるかような刹那の間に張り巡らされていた。
「虚像と実像の境界。 貴女が攻撃したモノは私の影に過ぎない」
「いつの間……に」
妖狐の牙を避けた時か、はたまたそれよりも前からか。
それよりも驚愕すべきは九尾を取り囲む結界。
普段すきま妖怪が防御に使用していた結界で相手を囲う。
それはつまり、相手を決して逃れることの出来ない檻に閉じこめたのと同義だ。
「痛みと快楽の境界。 果たして貴女はどこまで耐えられるかしら」
八雲紫が不敵に微笑むと、結界の内側の空間から無数の穴が出現する。
その穴からは無機質な目がこちらを覗く。
刹那、穴から幾条もの青白い光線が逃げ場の無い九尾に向かって一斉放出された。
先程の武器群よりもさらに多い数の光線が次々に九尾を撃ち抜く。
被弾による爆発と、九尾の身体を貫いた光線が結界にぶつかり跳ね返る軌道が檻を完全に覆う。
紫色の光の結界と青白い光線の軌道。 そして爆発と煙が一つの大きな塊となって異様な形を組み上げていた。
ひとしきり攻撃が終わると八雲紫は結界を解き、射撃を止めた。
消え失せた結界から濃密に圧縮された煙が逃げ場を求めて上空へと立ち昇る。
僅かな間を置いて煙が晴れてくると、再生ももはやおぼつかないぼろ切れのような状態となった九尾が空中に漂っている姿が現れた。
まだ生きている。 もちろん八雲紫は九尾を滅していないことは結界の外側から感知していた。
なぜ滅しきらずに攻撃の手を止めたのか───平時の妖狐ならその疑問も浮かぶはずのだが、もはや現状の九尾にそのような余裕は全くない。
今九尾の僅かに残った身体は自分とすきま妖怪との圧倒的な力量差を如何に覆すか、何故ここまでの差があるのか。 それを考えるだけで精一杯であった。
九尾の狐のような高位の妖怪にとって肉体とは、本質である意識を持った妖気の塊を覆う外殻のようなもので、いくら肉体が損傷しようとも持ち合わせている妖気が残っているのであるならば死に至ることはない。
例え肉体全てが粉微塵に吹き飛ぼうとも。
しかし外殻を打ち破り、高密な妖気で攻撃されれば確実に生命を削られるし、また肉体の再生にはそれなりの妖気を消耗する。
八雲紫からあれだけの攻撃を喰らってなおまだ半壊しているとはいえ、原型を留めていると言える段階で存在し続けていられるのはやはり「九尾の狐」がどれだけの大妖怪であるかを納得させるに足るものである。
だがその大妖怪も現在は目の前にいる正体不明のすきま妖怪に為す術もなく醜態を晒していた。
───何故、何故、ここまでの力量差がある。 名も知らぬ目の前の小さな妖怪が何故これ程までの力を有する。 如何様にすれば目の前のすきま妖怪を撃破出来るというのだ。
今にも墜落しそうな九尾は、再び無言で自分を見下ろす八雲紫に目を向ける。
自分とあのすきま妖怪との間の力量差に微かな絶望を覚えた。
折れそうになる心、砕けゆく自らの身体を必死に支えながら僅かな勝機を模索する。
だがそれは絶望の悪循環。 どれだけ思惑を重ねようとも、現状の戦力差を埋める程の策は思い浮かばずただひたすら絶望が心を蝕む。
妖怪の本質は肉体の内側に存在する気質。 精神が蝕まれていけば相対的に力が低下する。
九尾の身体は徐々に綻びを見せ始め、薄れゆく意識が九尾の頭を自然に下方へ落とした。
だがそこには一つの僥倖。
目下に広がる景色が一瞬にして九尾を絶望の輪廻から脱却させる。
───勝機はまだあった。
そう、二者が対立している下方に広がるのは、人間達の絶望と恐怖という名の気質が集まった分厚い緞帳。
なぜ今まで気づかなかったのか、自分の愚鈍さに目眩を覚えながらも、九尾は自身にとって最も欲しい栄養が目の前に溢れんばかりに広がっていることに歓喜する。
このまま意識を失う振りをして墜落し、緞帳の中へと飛び込めば復活出来る。
いや、復活のみならずこれだけの量の気質を飲み込めば八雲紫をも凌駕する程の妖気も蓄えられる───
思考を終えるよりも先に九尾の身体から力が抜け墜落して行ったのは、歓喜のあまり張りつめた気の糸が途切れたからだろうか。
そうして、山ほどの巨体をもつ九尾は吸い込まれるように緞帳の中へと消えていった。
八雲紫はその姿を眉一つ動かさずに見つめている。
「金はどれだけ裏返しても成ることは出来ないわ。 貴女がどれだけ策を練ろうとも、それは釈迦の掌で踊る孫行者に過ぎないわ」
緞帳が目に見えて薄らいでいくのと同時に、まだ濃い雲海の部分に身を潜めながらも次第に膨れあがる九尾の妖気。
おそらく先に消耗した分の妖気は完全に回復出来るだろう。 それほどまでに緞帳の気質は濃密だった。
それどころか再び八雲紫の目の前に現れる頃には、殺生石から出てきた時よりも遙かに多量の妖気を所持して立ちはだかるに違いない。
それをわかっていながら八雲紫は九尾が緞帳へと降りていくことを止めなかった。 まるでそれを意にも介さないかのように。
溢れ出る程に膨れあがっている九尾の妖気を冷ややかに見つめながら、八雲紫の姿は空間の裂け目に飲み込まれ、跡形もなくその場から姿を消した。
「……あぁ、そう言えば貴女の子は孫行者に倒されたのでしたっけ。 そんなモノに例えられては貴女も不本意かしら」
二者が消え、何も残っていない空間から、ふと八雲紫の笑い声が小さく響いた。
■■■■■■■■■■■■
八雲紫と九尾が富士上空にて激闘を繰り広げているのとほぼ同時刻。
鈍い赤みと耐え難い熱が広がる暗い空間にて伊吹萃香は一人、杯を交わす相手もなく酒を呑んでいた。
「そろそろ二十五日。 刻限まで半分くらいってとこかね」
萃香は八雲紫と九尾の戦闘が始まる前後からこの場所に居座っている。
彼女は戦闘前に八雲紫からある事を頼まれ、それを為すためにこの場所に居た。
しかし傍目には彼女はただ横になって酒を飲み続けているようにしか見えない。
それでも萃香が二十日以上この場を動かないでいるのは、頼まれ事を遂行しているからなのだろう。
「それにしても退屈だ。 話す相手もいないし、酒の肴もない」
二十日以上既に拘束されているというのは、普段自由奔放に生きている伊吹萃香にとっては少々窮屈なものであった。
時折自分の身体の一部を霧化させ周囲の状況を確認したりしてはいるものの、鈍い赤色の光源が日に日により濃い色を成していく様子しか見て取れない。
「ここまで退屈とわかっていたなら、紫の話なんか受けなかったのにね。 まぁ、一度約束してしまった以上反故にするわけにもいかないし。 何か面白い事でもあればいいんだけれど」
「今この場で面白い事が起こってもらっても困りますわ」
「狐に逃げられでもしたのかい」
寝そべって酒を呑みながら絶え間なく続く萃香の愚痴に、突如横から口が挟まれた。
しかし、萃香は突然現れた相手に対しなんら驚くことも無く平然と言葉を返す。
「水入りよ。 あの様子なら十日程掛かるかしら」
「ふぅん。 じゃあ、今のところは紫の脚本通りというわけかい」
「概ね想定通りの展開ね。 地震によって産まれた人間達の負の気質はこの島国をほぼ覆っている。 私が一人で処理をしては何年もの時間を要するけれど、九尾のもつ器ならあの緞帳を七割方飲み込めるでしょうね」
紫にとって人間達の畏れは必要ではあっても、怨嗟渦巻くあの負の気質が作り出した巨大な緞帳は好むところではない。
一人で飲み込んだりして始末するのは非常に骨のいる話であるらしい。
萃香は自分の後ろに居る八雲紫の方へと顔は向けない。
ただひたすら鈍色の赤が熟成する様を酒を呑みながら見続けている。
「単に面倒くさいだけでしょ。 あんたのめんどくさがりな性格のおかげで私はこうやって暇を持て余しているんだ」
「あら心外ね。 最初は結構乗り気だったのに。 まぁ、事が無事済んだら極上の美酒でもお裾分けしてあげるわ」
一瞬萃香が八雲紫の方へと目だけ向ける。
「ふん、モノで釣ろうっていうのかい。 気に入らないけれど、有り難くお酒は頂くよ」
「それは重畳」
「ところで紫。 実際こいつで九尾はちゃんと仕留められるのかい。 紫の予想では相当な量の妖気を溜め込むんだろ、あの狐は」
これ。と萃香が指したのは萃香の前方に広がる鈍色の赤。
異常な熱気を孕み、光の届かないこの場所にて、黒い世界の中に一際赤が良く映えている。
「一応はそのつもりだけれど。 最悪、仕留めきれなかったとしても切り札の使用許可は閻魔からもらったから問題ないわ」
「そんなものがあったとは初耳だね。 切り札を持ちながら今まであれを仕留めようとしなかったのは、使えない理由でもあったのかい」
「本来ならば幻想郷を閉じる時にだけ使おうと思っていたのよ。 大きすぎる力というのは時として諸刃の刃になる。 この国の神々にとっては私は異邦者、故に余計な威嚇は無為な争いの元になるから避けていただけですわ」
八雲紫は直立不動の状態からそこらに転がっている岩に腰を掛けて静かに説明した。
一方萃香はその紫の言動があまり気に入らないものであったのか、少々不機嫌な口調になって切り返す。
「なんだよそれ。 天狗じゃないんだから、いちいち媚びへつらう必要なんかあるの? 気に入らなければ叩きのめせばいいだけじゃないか。 そういう紫の面倒な所は私は嫌いだよ」
「あら、私は貴女のそういう真っ直ぐな所は好きよ。 私には真似出来ないもの」
萃香はちくりと心が痛む。
「真っ直ぐな所」と言われてももちろん当たり前だとは思っているが、あけすけに、特に目の前にいるすきま妖怪に言われると、仲間と袂を分かち地上に一人残っている自分に対しての皮肉のように言われた気がした。
さしたる理由も無かった。 別に仲間と問題があったわけでもない。 地下の都に嫌気がさした訳でもない。
本当にただ「何となく」だった。 それはそのまま素直に自分のその時の気持ちだと言い張れるが、それで本当に良かったのか、という自問はいつもあった。
萃香の後ろに居るすきま妖怪はそんな彼女の気持ちを知ってか知らずか言葉を続ける。
「でも貴女の言う通り。 今回は私も少々頭に来たので、連中に対しささやかな示威行為をさせてもらうための舞台なのよ」
「それを最初からやっておけば今回みたいな騒動にはならなかったんじゃないか」
萃香の心情をわかっているのかわかっていないのか全く察することの出来ない紫に対して、ささやかに棘のある言葉を返した。
すると八雲紫はきょとんとした顔になる。
整った顔立ちが一瞬緩み、少女のように大きく目を見開くと、その後くすりと微笑んだ。
「確かにそうね。 思えば私はいつも物事をまずは傍観し、後手に回る事が多いわ。 でもね萃香、こうやって後手に回ることによって蜘蛛の巣のように入り組んだ糸を一本一本ほぐしていくのもまたひとつの面白さじゃないかしら」
「取って付けたような言い訳だね。 それに私にはそんな面倒なのは性に合わないよ」
八雲紫の方は一切見ずに萃香は手を振り「無理無理」と言っているかのような仕草を取る。
「萃香、貴女は秩序と混沌どちらを望むかしら」
突然脈絡のない会話が八雲紫の口から零れ出た。
会話の意図がよく汲み取れず思わず萃香は後ろにいる八雲紫の姿をちらりと覗き見た。
「秩序も混沌も私には興味のない代物さ。 私は私にとって住みやすい世界ならそれでいいし、それが秩序と言うのならば秩序を取る。 住みにくい世界なら住みやすい世界を作ればいいし、それが混沌と言うのならば混沌を取るよ」
「貴女らしい模範的な解答だわ」
「喧嘩売ってるのかい。 じゃあ、紫はどうなのさ」
抑揚のない声で萃香は紫の問いを返す。
八雲紫は少し押し黙った後に静かに口を開いた。
「私は存在そのものが混沌ですわ。 ただ、だからこそ私は秩序を求む。 境界に潜み操るすきま妖怪は、その実私自身が最も不安定なのですわ」
「それは矛盾じゃないのかい」
「矛盾……ね。 萃香、貴女は矛盾の意味を考えたことがあるかしら」
おそらく紫は萃香の心情を察しているのだろう。 だからこんな質問をしてきたのだ。
しかしそれを直接言わない彼女に対して、萃香は少々苛立たしげに「無い」と素っ気なく答えた。
「矛盾とは、『韓非子』の一遍。 何者をも貫く矛と何者をも通さない盾を売っている商人が客から指摘を受けたことに由来するわ」
「そんなのは知ってる。 最強の矛で最強の盾を突いたらどうなるんだ。 という下りでしょ」
「ええ。 それが転じて前後の文意の辻褄が合わないことを指すものとなっているけれど、実はこの故事を突き詰めると別の意味が汲み取れるのよ」
紫はどこからともなく出した扇を広げ口元を隠して言葉を続ける。
「最強の矛と最強の盾。 これらは商人が言っている時点ではどちらも最強無比なのよ。 それは、互いがぶつかり合う瞬間までは」
「はったりをかませば何でも良いというのかい」
「そう。 それは可能性の問題。 つまり矛と盾がぶつかり合うその時までどちらも最強である可能性がある、ということ。 矛は最強かもしれないし、そうでないかもしれない。 盾も最強かもしれないし、そうでないかもしれない。 もしかしたらどちらも最強ではないかもしれない」
「紫は結局何が言いたいんだい。 遠回しに言わずにはっきりと言え」
背中越しに八雲紫を覗いていた萃香は尚も苛立ちを抑えられずに、とうとう紫の方に向かって座り彼女を睨み付ける。
「極論を言えば、試行しなければ結果はわからない、という事。 この先人間の進歩によって我々、人外のモノは消え失せるかもしれないし、生き延びられるかもしれない」
「あぁ───」
以前、八雲紫は伊吹萃香に語ったことがある。
着実に進み続ける人間の技術はいずれ妖怪を駆逐する──
それは物理的に妖怪を人間の手で倒すのではなく、妖怪を畏れる心が失われ、妖怪の存在が人間にとって不要となり、いつしか忘れ去られた幻想となり存在が潰えるというお話。
数百年前、人間は南蛮人から鉄砲の技術を頂き、それによって人間同士の戦争は激変した。
そして妖怪に対しての畏れが減ることによって、この国に住まう妖怪達がそれ以前に比べて相対的に弱体化したのを目の当たりにした萃香には決して眉唾と吐き捨てられなかったのだ。
700年以上昔、まだ人間達の技術や知識が今と比べて拙かった時代、妖怪達は人間達の住む都を跋扈し、我が物顔で人間達を食い散らかすことが出来た。
しかし今の時代、江戸の都でそのようなことなど出来るはずもない。 江戸より妖怪が幅を利かせられる京でもおそらく以前ほどの所行は為せない。
日本の鎖国によって一時的に技術躍進はその足を緩めたものの、それでも日々進歩していく技術と太平の世による人口増加は、妖怪達の力を徐々に蝕んでいくのには十分であった。
そこで八雲紫は自らが腰を下ろしている幻想郷を安住の地として、日本の鎖国とは比較出来ない程の強固な結界を敷き、完全に外から隔離する計画を発案。
だがそれはあくまで苦肉の策。 可能であるのならば結界は現在のものに留め、幻想郷は多数の妖怪が住むひとつの辺境としておきたい、というのが紫の考えだ。
なぜなら幻想郷を閉じてしまえば、妖怪が畏怖の対象となるのはその閉じた世界である幻想郷に住まう限られた数の人間のみとなり、現状幻想郷及びその周辺地域、または日本全土にその名が轟くような妖怪ですら、目に見える程の弱体化は免れないからだ。
幻想郷を閉じた方がより強い力が得られる。 という状況にまで追い込まれない限り、幻想郷を閉じる計画を発露させてもそこに住まう数多の妖怪達は納得しないだろう。
まだその時代まで幾らか猶予はあるだろうが、萃香はその時代までおそらくあと三百年は無い、せいぜい二百年超が良いところだろうと考えていた。
八雲紫も彼女と同意見を持ち、現政権を握る徳川幕府が倒れ鎖国が解かれた時、その時代が訪れるのはさらに早まるであろう、という考えを萃香の意見に付随させている。
「紫、あんたはまだこの世界に希望を持っているんだね」
「可能性が完全に潰えない限り、私はやれることを全てやるだけよ。 混沌の中に秩序を見いだせるかもしれない」
伊吹萃香は理解する。
今回の一件、八雲紫は一番最初に月への再戦のためにかつての仇敵、九尾を手駒にすると言っていた。
そして次に彼女は、この島国に根を下ろしてから彼女を取り巻く天人や神々から受けた仕打ちの報復のため、と言った。
これら二つの目的はおそらくどれも真実でどれも真実では無い。
八雲紫にとっておそらく本当の目的とは、幻想郷を住処とし、この世界で生き続けること、在り続けることなのだろう。
とてもとても回りくどいくせに、彼女の辿るその道は鬼である萃香も羨むほどに真っ直ぐだ。
「私はあんたのそういう所は好きだよ、紫」
「あら、鬼の貴女にそういう風に言われるのは悪くないわね」
八雲紫は軽口を叩きながら口元に当てた扇を再びどこかへしまう。
そうしてひとしきり自分の言いたいことを言い終えたのか、立ち上がり彼女は伊吹萃香に声を掛けた。
「では、刻限までに宜しくお願い。 舞台を彩る演出は最高に派手に、如何な醜女ですら美しく見える程に、よ」
それだけ言い残して歪で曖昧な生き方をしながら誰よりも真っ直ぐに存在しているすきま妖怪は、萃香の返答を聞かずに空間の裂け目へと消えていった。
そして真っ直ぐ性格をしながらも、少し歪んだ生き方に自問する彼女の友人は、そんな自分を頼ってくれた事に対してほんの少しだけそれを誇りに思えた。
「石長比売も妖怪の我が儘に付き合わされるのは迷惑だろうね」
萃香はそんな自分の気持ちに対し照れ隠しの様に既に自分以外の誰もいない空間で毒づいた。
暗い空間にて胎動する鈍色の赤は鬼の萃めているモノのを吸収し、おおよそ人間には耐えられないほどの熱を帯び成長していっていた。
■■■■■■■■■■■■
宝永四年十一月十三日申の刻───。
九尾が逃げ出してから十日余りの時間が経過し、八雲紫は現在一面朱に染まりつつある三河の上空にて一人静かに待機している。
先の戦いの時に西洋風のドレスに身を包んでいた彼女は、今は大陸風の道士服を纏っていた。
すきま妖怪は閉じていた目を開け、眼下に広がる大地に目を落とす。
十日ほど前までは舞台と観客席を仕切るかの如く広がっていた巨大な緞帳は、今や見る影も無い。
僅かに食い散らかされた雲とも負の気質とも判別つかない状態の浮遊物が少々見て取れるだけであり、着実に復興へと向かう町々が見て取れた。
三河周辺だけでなく、東に目をやれば江戸、西に目をやれば京、果ては九州。
日本を覆っていた分厚い緞帳のほぼ八割は九尾が飲み込んだと見て良いだろう。
それだけの気を取り込んだ九尾の持つ妖力は、十日余り前に自身が消費した分の半分が回復した程度のそれを凌いでいると推測出来る。
相手は、その名轟く白面金毛九尾の狐だ。 下手な戦い方ではあっという間に飲み込まれてしまう。
先までの戦いでは、力も技術もすきま妖怪に分があったが、これから始まる第二幕では少なくとも力は相手に軍配が上がっている。
最初に小手調べを行い、その後圧倒的な力量差で相手を絶望させる。 そして自らより大きな力を持って復活した相手を優位に立たせる。
その上で九尾をさらに上回る攻撃をもって相手を完全に打ち負かす。 それによって九尾を完全に心服させ自らの駒とする。 というのが当初彼女が描いた今回の戦いに於ける脚本。
九尾が逃げる前の段階で打ち負かす事が出来ればそれに越したことはなかったのだが、残念ながらあの時の八雲紫では余裕こそ見せていたものの、練り込んでいた妖気の大半を攻撃にて使い切ってしまっていたためすんでの所で九尾を滅しきる事が出来なかった。
もちろん九尾の満身創痍の状態から鑑みれば、仕留めきるのは不可能な話ではなかったのだが、その場合負の気質が作り出した緞帳の始末を八雲紫自身の手で時間を掛けて行う必要があり、逃がした方が得策であると断じたからである。
それならばあらかじめ用意した布石で仕留めるまで。
しかもその布石を使って滅しきることが出来なかったとしても、さらにもう一段階上の策を使うことの許可ももらった。
ここからの戦いは、戦闘が始まる前に萃香に依頼した布石が熟すまで凌ぐ戦い。
八雲紫が最も懸念しているのはこの第二幕で仕込みが完成するまで凌ぎきれるかにあった。
神々及び天人達への示威行為、九尾の完全な調伏、そして人間達に畏れを抱かせるため。
様々に散らばった糸を一本の長い線と為すために今回行動を起こした彼女にとって、唯一の不確定要素が逃げだし再起した九尾の妖気の上昇具合。
人間達の生み出す負の気質がどれほどの量になるのか、またそれらを取り込んだ九尾がどれほどの力を手に入れるか。
ある程度の推算は戦闘前から戦闘開始後までも行っていたが、確実に凌ぎきれるという確信を得ることはついに出来なかった。
自らの脚本を完遂させるまでおよそ十日。
それまで八雲紫が九尾の攻撃を凌ぎきれば彼女の勝利はほぼ確定する。
彼女にとってそこまで持ち堪えられるかどうかは賭けではあるが、あくまでそれは当初の脚本に則った形の上での話であり、最悪の場合切り札を切れば良いだけの話。
その機会が早いか遅いかだけであり、極論から言えばこの戦いは詰み将棋に他ならない。
しかし彼女は敢えて札を伏せたまま戦いに臨むつもりであり、伏せられた札は最悪の事態を回避するためだけの保険。
それを念頭にこれから起こりうる戦局を想定し、思考の海に没すること数十回。
静寂は突然何もない空間から湧き出た巨大な妖気によって破られた。
「随分と待たせたようだな、虹よ」
「あら、もっとゆっくりしていっても良かったのだけれど」
濃密な妖気が徐々に形を為し、九尾の姿が顕現する。
その威圧感はつい十日前まで八雲紫が対峙していた妖狐と同じモノだとは思えない程に。
「貴様の事だ、我があれ程までに痛めつけられ、戦いの場からみすぼらしく逃れ、再びこうやって対峙することまで想定通りだったのだろう」
「その上でなお貴女が無様に舞台から退場するまで想定通りよ」
九尾が眼前にいるすきま妖怪に踊らされていることに気が付いたのは、傷が回復し始め思考が正常に戻った頃だった。
はじめは虚仮にされたことに対して例えようのない激昂に襲われ、すぐさますきま妖怪を喰い千切ろうと戻るつもりであったが、九尾は常態で完膚無きまでに叩きのめされた事を思い出し、ひとまず怒りを飲み込み島国を覆う負の気質を取り込むことに従事した。
おそらくそれすらも彼女の算段なのであろう。 それは妖狐もわかっていた。
ならば島国を覆う負の気質を飲み込んだ状態の自分をも倒す策もすきま妖怪は用意しているのであろう。
九尾が回復中に大きく思考を割いていたのは、八雲紫が如何にしてその状態の自分を倒すのかという方法について。
まず冷静になって状況を整理する。
すきま妖怪はここまでの戦闘に於いて、どれだけの割合の力を使っていたのか。
三割だろうか、六割だろうか、はたまた八割か全力だったか。
これまでに得られた情報を元に様々な仮説を組み立てていき、最も可能性として大きいのは七~八割程度の力だったのだろうと、九尾は断定する。
根拠としては過去三度の戦闘の中で最も高い妖気を放出していたと感じられた事と、自分が雲間に逃れることを許したこと。
例えその後九尾が再起しすきま妖怪の前に立ちはだかることを想定し、その用意をしていたとしてもあの場で自分を逃す理由が八雲紫には、無かった。
用意した策で止めを刺すのであれば、あの場で止めを刺せば良かったのだ。
つまり、あの時の八雲紫は九尾に対し止めを刺さなかったのではなく、出来なかったのだ。
可能性として他にあると考えられるのは第三者への演出的な意図。
だがこれとてあの場で倒してしまえば済む話ではある。 可能性は限りなく低い。
それらを総合し、全く無いとは言い切れない可能性を加味した上で先までの戦いに於いてすきま妖怪が割いていた力は、およそ七~八割程度だと九尾は結論付ける。
では次にどうやって自分を倒すのか。
九尾が推測するのは二つの方法。
まず第一に自身を滅ぼす方法として九尾が回復するまでの間にそれを凌ぐほどの力を得ることを考えた。
七~八割程度の力で先まで戦っていたのであれば、力を飲み込んだ自分を討ち滅ぼすのはまず不可能であるからだ。
ならば自身と同じようにそれ以上の力を得ることで打ち負かすのだろう、というのが九尾が考えた第一の方法。
次にすきま妖怪自身以外の力を使って九尾を滅ぼす方法。
これまでの情報から得られる答えとしてはこちらの方が可能性としては高い。
考えてみればあのすきま妖怪はこれまでも自分以外の力を利用していた。
仙人を利用したり、陰陽師を利用したり。
ならば今回もそうやって自分の力以外のものを利用して戦うことは容易に考えられる。
何を使って、誰を利用して戦うか───。
九尾は様々な状況を想定しながらこれまでの十日を過ごした。
そしてすきま妖怪・八雲紫と再び対峙することによっていくつか想定した可能性をさらに絞り込む。
まず、自身を倒す方法として第一に考えていたすきま妖怪が九尾をも上回る力を持って討ち滅ぼすという可能性は、十日前までの状態と服以外ほぼ変わらない八雲紫の姿を見て完全に九尾の中から消えた。
それならば考えられる可能性は第二のすきま妖怪が自分以外の力を利用して戦う可能性。
いつ、どのように、いかなる状況で利用するかは定かではない。
だがそこに注意を払って戦いを進めていけば、必ず出し抜く機会が訪れる。
九尾の中で一つの決意が固まると、内に溜めた濃密な妖気を外に徐々に溢れ出るように滲ませる。
───第二幕をはじめよう。
無言の合図である。
八雲紫も九尾の意図を汲み右手に握る洋傘を無造作に構え臨戦態勢に入る。
内側から溢れ出る禍々しい妖気を外側へ徐々に放出する九尾とは対照的に八雲紫は、自らの内側へ妖気を密に練る。
そして僅かの時間を置き、九尾の放つ妖気が自身の尾を象るかのように九本の指を持つ巨大な手のような形を織り成すと、弾け飛ぶかのように伸びてそれぞれが八雲紫へと襲いかかる。
九尾の正面約十間程の距離に居る八雲紫は、およそ人間の反応できる速度を遙かに超えて迫り来る九指の手を結界を使って防ぐのではなく、指が自身に触れる寸前に空間の隙間を縫って着弾点から抜ける。
反撃は無く、八雲紫はその攻撃に対し回避したのみであった。
しかし瞬きするよりも早くすきま妖怪が反撃をしてこないのを確信するや否や、九尾はその巨体からは全く想像出来ない程の速さで直接八雲紫へと牙を剥けた。
音が遅れて聞こえてくる程の速度で飛来する巨大な獣の牙は、八雲紫が結界を発動させる余裕も、隙間へ潜る時間さえも与えない。
「く……」
咄嗟に空中で身をよじって八雲紫は何とか直撃は避けることが出来たが、その代償に身体の左半分と九尾の多量の妖気の込められた直接攻撃で自身の妖力を大量に持って行かれる。
突撃の勢いで八雲紫はそのまま吹き飛び、一旦九尾から距離を置いて体勢を立て直すと、自らの内に練り込んだ妖気を発し身体の再生を試みると、内側から湧き出た妖気が瞬時に失った彼女の身体を服ごと具現化した。
そのまま九尾が通り抜けた先へ目をやると、妖狐は空中で慣性を無視するかのように急反転し、自らが放つ妖気を軌跡のように空中へ残すと再度すきま妖怪に向かって襲い掛かる。
しかし今度はすきま妖怪の回避は間に合い、空間の切れ目から九尾の真後ろへと潜り込み、右手に持った洋傘を振り青白い光線状の弾幕を撃ち放つ。
九尾は死角から十数発の攻撃を受け、肉体の一部が僅かに消し飛ぶものの、一向に気にする気配も無そのまま距離を離しく二度目の反転を行うと口を大きく開き炎を吐きだした。
反撃の体制から回避も防御も取れなかった八雲紫はたちまち炎の波に飲み込まれるが、再生した左手を大きく振ると炎は彼女の上方に巻き上げられ巨大な炎の玉が出来上がる。
それを九尾に向かって投げつける動作に入った刹那、九尾から放たれた咆哮による音圧がすきま妖怪を直撃した。
咆哮に当てられ炎は霧散し、すきま妖怪もそのまま衝撃の勢いに抗えず吹き飛ぶ。
そこへさらに飛びかかってきた九尾の山の形をも変える巨大な爪が八雲紫を追撃してきたが、八雲紫は体制こそ立て直せないものの、右手に持った洋傘に妖気を込め九尾へと投げつける。
槍のように放たれた洋傘の先端は、八雲紫まであと僅かのところまで迫った九尾の腕を貫き、根本から吹き飛ばした。
吹き飛んだ九尾の腕の破片はそのまま空中で煙の如く妖気を放ちながら消えると、立ち上った妖気が九尾の撃ち落とされた腕の根本に収束し、再び腕の形を成す。
ここで一旦両者動きが止まり、少しの間を置いて九尾がおもむろに口を開いた。
「どうしたというのだ、虹よ。 我を無様に舞台から退場させるのが貴様の脚本ではなかったのか」
「危機を演出した方が観客への受けも良いのよ」
八雲紫も九尾には攻撃を加えている。
しかし消耗の度合いはどちらが上かは語るまでもなく八雲紫であった。
すきま妖怪の言葉は自身の消耗度合いを明らかにしている。 挑発の言葉も今の九尾にしてみればすきま妖怪の強がり程にしか聞こえない。
しかしながら確実に優位に立っている筈の九尾は、それでも八雲紫がまだ秘策を隠していることを確信し、油断せず速やかに倒す算段を練っている。
今の攻防で自身がすきま妖怪よりも力では上回っている認識は得られた。
だがすきま妖怪の能力は力の上下を抜きにしても厄介である。
攻撃に使う力を極力減らし防御に専念した場合、彼女の空間を自由に移動する能力と結界の防御力を打ち崩すのは難しい。
彼女の秘策がもし発動させるのにまだ時間を要するものであった場合、長引かせれば長引かせる程に窮地に立たされるのは自分である。
ならば余計な事を考える時間は、無い。
「我を退場させるのが先か、貴様が我を討ち滅ぼすのが先か、賭けてみようではないか──!」
九尾は大きく身体を震わせると、その巨躯から多量の妖気が音を立てて溢れ出し、再び先程と同じ九本指の手を象る。
小手先の技ではすきま妖怪に避ける隙も防御する余裕も再生される余力も与えてしまう。
なれば、直接噛み砕くまで。 直接引き裂くまで。
九本指の手は一気に広がると今度は八雲紫を襲うのではなく、九尾の周囲で円を作り妖狐を取り囲み、回転しながら徐々に収縮していく妖気は、やがて九尾を覆う鎧となり、その姿は禍々しく黒く輝いていた。
漏れ出る九尾の妖気はやがて空間を歪ませる程に濃く染まっていき、地上から巻き上げられてきた木々の葉がその妖気に触れると、命の色を失い腐敗していき塵と化す。
憚ることのない九尾の殺気や威圧感に、八雲紫はすぐさま幾重もの結界を展開し突撃に備える。 九尾の突撃の速度は先程の攻撃から推測するに、ただ空間の切れ目を使用して避けるだけでは確実に間に合わない。
回避を行うのであれば、結界を展開し僅かに失速させた後に避ける他無いだろう。 少なくとも先の突撃以上の攻撃が確実な状態で、後の先を取って攻撃に転ずることは不可能だ。
九尾は目を伏せたままさらに多量の妖気を練り込み、八雲紫はその間に一枚でも多くの防御結界を展開していく。
五枚、六枚、七枚───
八枚目の結界を張り終えた直後、開かれた九尾の眼光が八雲紫の姿を正確に捉え、牙を打ち鳴らすと同時に巨大な黒い閃光は彼女へ向かって解き放たれた。
突撃開始時の妖気の開放による衝撃波が二十間近くも前方に居る八雲紫までに到達するよりも先に、閃光は一枚目の結界へと直撃する。
音が後から響くほどの速度で結界へ突撃してきた九尾は、そのまま一瞬の足止めを喰らうことなく一枚目の結界を何事もなかったかのように叩き割り、真っ直ぐ目標の八雲紫へと向かってきた。
全く速度の緩まる事のない九尾に対し、一瞬にして避ける事への思考を放棄すると八雲紫は九枚目の結界を自分自身に密着させるように展開させる。
そしてそのまま六枚目、七枚目、八枚目と無造作に突き破る九尾は、ついには八雲紫へと到達し、その禍々しいまでに凶暴な牙で彼女を噛み千切らんと迫り寄せるが、九枚目の結界を九尾自身の妖気の鎧と同じように身に纏った八雲紫は避けること無く逆に九尾の口の中へと敢えて突撃していった。
牙を辛くも逃れ九尾の口中から空間の切れ間を縫って脱出を試みようとするが、九尾はそれよりも一瞬早く口腔に炎を溜め込み射出する。
それをすんでの所で身に纏った九枚目の結界で防いだのだが、やはり現在の九尾の妖気を防ぎきるのは難しく、隙間へ入り込み九尾の口腔から脱出して外へ戻った時に現れた彼女の姿は、右腕と下半身が消し飛んでいるという無惨なものであったった。
突如口の中から消えた八雲紫の姿を一瞬見失った九尾が、再び彼女の位置を捉える間にすきま妖怪は肉体の再生を行い、距離を取る。 反撃を行う余裕等は微塵も無い。
現状の戦力差では完全に九尾が八雲紫を圧倒しているが、八雲紫自身は攻撃こそ出来ないものの、身体に残している余力はまだ十分にある。
今ぐらいの攻撃であれば、直撃しさえしなければ何度身体を吹き飛ばされようとも再生は容易だ。
山ほどの巨躯を持つ九尾と、人間と変わらない大きさの身体である八雲紫では再生にて消費する妖気の量が全く違うのは自明の理である。
それ故に肉体の損壊程度であれば、八雲紫に取っては大きな被害とはならない。
しかし先の九尾の突撃を喰らっていれば、多量の妖力でもって自らの妖力を大幅に削ぎ取られ、見た目以上の被害を受けることは必至であり、結界で大幅にその妖力を削ぐことが出来る間接攻撃ならば直接攻撃程の驚異は無い。
先に九尾の牙が掠めただけで受けた自身の妖気の損失具合から鑑みれば、彼女が直撃に耐えられるのはおそらく二度か三度が限界である。 だが、間接攻撃とて消耗が全くない訳ではないので、この後の被弾如何に依っては一撃すら耐えられない可能性も十二分に有り得る。
回避と防御に専念するのならば、間接攻撃の被弾はある程度諦め、直接攻撃にのみ注意を払い直撃を避けていれば、仕込んだ布石が使用できる十日後まで身体はもつだろう。
冷静に状況を分析し、喰らっても良い度合いの攻撃と絶対に避けるべき攻撃の優先順位を組み上げる。
後はその順位に従い、九尾の攻撃を凌いでいけば良い。
いつの間にか陽は完全に落ちて、美しい月が顔を覗かせ周囲を暗く美しく煌々と照らしていた。
妖狐は如何にして自らの牙と爪で八雲紫を引き裂くか───
八雲紫は如何にしてその牙と爪から逃れるか───
刻限の定められた戦いの最中、両者は時が止まったかのように硬直し、吹きすさぶ冬の風に乗って舞い踊る木の葉だけが時間が動いている事を明確に示していた。
■■■■■■■■■■■■
宝永四年十一月十六日。
その日冥界白玉楼に、一人の珍客が足を運んできた。
女性にしては少々大柄で、それよりもさらに大きな鎌を持った赤い髪の死神。
小野塚小町である。
先月彼女の上司である四季映姫に伺おうとした事がいくつかあったのだが、結局あやふやなまま尋ねることが出来ず仕舞いになり、そのまま十一月初旬にあった五七日を迎え、また一騒動が起きてしまいそのまま今に至っていた。
五七日の騒動に関して思い当たる節はあるものの、四季映姫には適当な報告をしてお茶を濁していた小町であったが、八雲紫の事で色々と気になる事柄が徐々に膨れあがり、この日彼女は調査という名目で彼岸を離れ白玉楼へと足を運んだのだ。
白玉楼に続く長い長い階段を足を使わずに登り切ると、城門に似た大きな白玉楼の門へとたどり着く。
一言大きく声をかけて敷居を跨ぐと、間もなく老人ながらも非常に体格の良い人物が屋敷の中から姿を現した。
白玉楼の庭師にして楼の主である西行寺幽々子の半人半霊の付添人、魂魄妖忌である。
「さて、この白玉楼に人の姿をして訪れる者は珍しい。 一体何用ぞ……あぁ、そなたは三途の河の」
「本日は西行寺のお嬢さんに伺いたい事があってね、足を運んだ次第ですよ」
主への取り次ぎを受けた妖忌はいかにも残念そうな顔をして口を開いた。
「それはなんと間の悪い。 主は本日お出かけになっておってな」
「あれま。 それじゃあ今日は戻らんのですかね」
「いやいや。 出がけの主の言葉では、あと二刻程すれば戻るとのこと。 だがあのお方のことだ、あまり当てにはせん方が良いだろう」
白玉楼の主については小町もよく知っている。
確かに根無し草のような彼女の性格では、いつ戻ってきても可笑しくはないし、今日このまま戻ってこないことも十分に考えられる。
五七日の騒動によって彼岸へ訪れる霊魂が少ない現在、小町の仕事は多いとは言えないため時間はどちらかといえば持て余し気味だ。
だから彼女は敢えて待ってみようかと思った。
「そちらに迷惑でなければ、お嬢さんの帰りを待たせてもらっても良いかな」
「粗茶と少々の茶請けくらいしか出せるものが無いが、それで良ければ」
「なに、突然押しかけておいて上等な物を出せと言う程あたいは厚かましくないよ」
それでは、と妖忌は小さく頷いて白玉楼の茶の間へと案内する。
小町もそれに従い、彼の後を追った。
からころと下駄の音を響かせる小町とは対照的に妖忌はすり足気味に歩き、足音はほとんど立たない。
白玉楼の玄関へ入る前にふと庭の方へと目をやると、目的も何も無く静かに浮遊している幽霊がいくつも見えた。
ここ白玉楼に魂魄妖忌以外の生者は存在しない。 外にも中にも静かに漂う幽霊達が多く潜んでいる。
玄関をくぐり中へ案内され、廊下を歩いている時にも多くの幽霊達とすれ違う。
屋敷内の長い廊下を抜け、中庭の見える縁側の廊下に出てしばらく歩いた客間と思われる一室に小町は案内された。
「それではここでしばし。 何かあればそこらにいる幽霊達に声をかけてくれれば儂に伝わる」
「ご丁寧にどうも。 適当に待って飽きたら帰るとするよ」
それだけのやり取りを済ませると、妖忌は静かに退室し、しばらくした後に手足の無い幽霊が器用にお茶と茶請けを届けに来てくれた。
小町は音の無い白玉楼の一室に一人でお茶を飲むと、静寂で満たされた白玉楼に小町の茶をすする小さな音が響いた。
そうして一息つくと朧気に幽々子に対しての質問をあれこれと思索する。
改めて考えてみると何を訊こうか等と全く考えていなかった。 ただ漠然と八雲紫の事について訊きたかっただけだった。
今回の大地震、そして五七日の騒動について、八雲紫は何を考え何をしようとしているのか。
何となくいくつか想像できる事はあるが、それが上手くまとまらない。 おそらく上司の映姫に訊いた所で自分の求める答えは得られない、とそう感じた。
今回の騒動が収まり、然るべき物が然るべき所へ収まった後で映姫に尋ねれば、全て綺麗に整った形で答えが得られるだろう。
本来ならばそれが筋というものではある。 そもそも小町は今回の騒動に何の関わりも無い。 せいぜい渡しの仕事が減った程度だ。
しかし一度気になってしまった事柄は、小町の中でどんどんと膨れあがり好奇心に負けて、小町なりに今回の騒動を整理したいと思ったから、今こうしてこの場に居る。
小町が現在知っているのは、西行寺幽々子と映姫の間でなにがしかの交渉事が行われたこと。 "おそらく"この騒動に八雲紫が一枚噛んでいること。
そして、それによって起きた事象、もしくはこれから起こす事象の後始末は八雲紫自身と"おそらく"四季映姫が負うことになるであろう、ということ。
一点問題があるとすれば白玉楼の主にこれら小町の疑問をぶつけた所ではたして回答を得られるか否かにある。
八雲紫もそうだが、西行寺幽々子はよく人の質問を綺麗にはぐらかし煙に巻く傾向がある。 否、彼女自身はこちらの問いに対して正しい回答を出しているのだろうが、こちらが彼女の言動に対し理解の範疇を越えてしまっているため彼女の意図を正しく汲み取ることが出来ないと言う方が正しいか。
しかしながら、敢えて相手の理解の範疇外の筋道で説明し、その意図を正しく汲み取らせない事で本音を隠している風にも取れないことはない。 それは小町の私見では西行寺幽々子よりどちらかと言えば八雲紫の方が傾向が強いと感じているが。
いずれにせよ理解出来る出来ないはこの際二の次にして、まずは訊かなければ小町の疑問が晴れることはない。
何から訊こうか。 何を訊こうか。
漠然と質問しようとする内容が浮かんでは消えていき、いつしか小町は室に敷かれている座布団を二つ折りにして枕代わりにすると、そのまま横になった。
庭師が言った通りの時間に帰ってくるとしてもおよそあと二刻程は掛かる。 もし帰ってこなくてもそのままゆっくりしていけばいい───
あれやこれやと思索している内に横になった小町は考えることを放棄し睡魔に襲われると、そのまま抵抗もせずしばし眠りに落ちていった。
「ん……う……」
「あら、意外と早く起きたのね」
ふと、小町が外から流れ込む空気に頬を突かれ目を覚ますと、室の障子が開け放たれ、縁側に座する一人の亡霊がそこにいた。
儚い色の着物に儚く生気を帯びていない肌、そして淡く薄く透き通る桜色の髪。
白玉楼の主、西行寺幽々子だ。
もう二刻ほど眠りこけていたのだろうか。
小町はお腹に手を当て腹時計の具合を確認する。
茶菓子を食べてしまっているので正確にはわからないが、腹の時計を察するに一刻から一刻半程度の時間しか経っていないような気もする。
「時間通りに帰ってこないというのは、何も定刻より遅れる事だけを言うものではないわ。 定刻より早く帰ってきても時間通りではないわ」
「あ……」
自分の腹時計の具合を確認して彼女の顔を見たからだろうか。
何を考えているかすっかり読まれてしまっている。
「あぁ……いや、これは恥ずかしい所を。 え、と……今日はちょっと色々と伺いたくて来たんですけどねぇ」
起きて目の前に目的の人物が居るということを小町は想定していなかった。
そのせいもあってか、次に紡ぐ言葉に困惑する。
そんな彼女を見て白玉楼の主は小町が質問するより先に一言放つ。
「紫の事なら知らないわよ」
「え……」
思いも寄らない西行寺幽々子の先手に小町は完全に言葉を失った。
「紫が何を考え、何をしようとしているかなんて私は知らないわ。 私がわかるのは、あの子が私に何を求めているのか。 そして結果どういう事が起こるのか、くらいなものよ」
幽々子は縁側に座し、中庭を見つめたまま小町の方へは顔を向けない。
そのため小町には幽々子の顔色を窺うことが出来ず、彼女の真意が全く汲み取れない。
否、よしんば見えたとしても相手は西行寺幽々子だ。 何を考えているか等、容易に理解できる筈も無いだろう。
そんな小町の思いをよそに幽々子は構わず言葉を続ける。
「これより数日後に神が降りてくるのよ。 "降りる"というより"昇る"の方が正確ね」
「それは一体……どういうことで」
「結果的に閻魔様にはだいぶ迷惑をかけちゃうでしょうけど。 その辺りは大目に見てもらえれば幸いね。 とは言っても彼女のことだからあまり融通も利きそうにないかしら」
それだけ言い終えると、白玉楼の主は小町の方に顔を向け、扇子で口元を隠すと「これ以上何も話すことはない」とばかりに次の言葉を続けなかった。
予想こそしてはいたものの、西行寺幽々子の話の突飛ぶりに小町は完全についていけていない。
だがひとつだけ判ったことがある。
これまでの一連の騒動、やはり八雲紫が関与していた、ということだ。
今まで小町にとって八雲紫が関与しているらしい、という漠然とした思いこみしかなかった。
しかし、西行寺幽々子の言に依ってその思いこみは確信となる。
現状小町が彼女から手に入れられる情報はおそらくそれのみなのだろう。
幽々子が小町を見る目から「あとは事が終わった後に閻魔に尋ねろ」と言わんばかりの視線を放っている。
これ以上彼女に質問を重ねても暖簾に腕押しであることは明白だ。
それならばさっさと退散した方が賢い。 いたずらに西行寺幽々子の機嫌を損ねても、自分に得することなど何も無い。
小町は立ち上がると卓の上に置かれていたお茶菓子の最後の一つを一口で食べ、帰り支度をする。
「じゃあ、あたいはこれにてお暇しますよ。 今の話、四季様に話しても良いことなんですかね」
「貴女が便宜を計ってくれるのなら、別に構わないわよ」
「あたいにはこれっぽっちも理解出来ませんでしたよ」
「では、閻魔様に一言一句漏らさず話しなさい。 彼女ならそれで全部理解してくれるわ」
「そういうもんですかね」と締めて小町は会話を切り、白玉楼を後にする。
白玉楼の玄関までは主が案内をしてくれたので、小町は妙に恐縮してしまった。
結局大地震後の五七日に霊魂が全く三途の河まで辿り着かない騒動の原因については何一つ情報を得ることが出来なかった。
とりあえず西行寺幽々子と会見した事を映姫に話そう───そうして小町は彼岸まで足早に向かった。
玄関で幽々子が小町を見送ると、庭から木々の手入れをしていた妖忌が顔を出し彼女に尋ねた。
「結局死神は何を話しに来たのですか」
「ちゃんと幽霊を管理しているかって見回りに来たそうよ。 だから私は言ってやったわ。 "十一月二十三日頃に大きなお花が咲くでしょう"って」
幽々子は死神が飛んでいった方向に向かってそう妖忌に答えた。
しばし空を見つめやがて死神が見えなくなると、突然主は再び口を開く。
「せめて手土産のひとつでもあれば、私の口ももう少し緩くなったのにね。 主に食べる方向に、だけれど」
「はぁ……」
既に理解することを半ば放棄した妖忌の口から思わず生返事が零れてしまった。
それを特に気にする風でもなく踵を返し主は楼の中へと戻っていく。
「年末は少し忙しくなるかもしれないわ。 正月くらいはゆっくりとお酒を飲みたいのに、紫も間が悪いわね」
冥界に音もなく冷たい風が吹く。
紅葉に彩られた秋も終わり、これから坂を転がり落ちるように景色から色が消えていき冬が訪れる。
肌寒い木枯らしは幽霊の冷たさにも似ていた。
■■■■■■■■■■■■
宝永四年十一月二十三日早朝。
八雲紫と九尾の妖狐との戦いは、十日前とは僅かにその様相を変えていた。
九尾の直接攻撃は紙一重でかわしながらも、幾重にも張り巡らされる九尾の弾幕に自ら被弾することによって被害を最小限にとどめてはいたが、この十日の間に百に届かん回数の肉体の損壊と再生の繰り返しで徐々に八雲紫は消耗していっている。
逆に妖狐の方は八雲紫が完全に防御に回っているので、攻撃の手を止めずただひたすら彼女を追い回していた。
常に全力を放ち続けていため、妖力の若干の消耗はあれど、八雲紫の消耗具合から比較すれば格段に九尾の方が余力を残している。
だが十日前と決定的に違うモノ。 それは九尾が明らかに焦りを見せていることにあった。
局面だけ見れば完全に九尾が一方的に八雲紫を痛めつけている図に相違ない。 だが、彼女はいまだに奥の手を見せてこない。
あのすきま妖怪に限って切り札も持たずに自分の前に立つことなど、まず考えられない。 確実に彼女は何か九尾を倒す術を用意している。
それが何かはわからないが、八雲紫の防戦一方の姿勢からおそらく機を待っているのだと推測は出来た。 だからこそ九尾は焦る。
この十日間の間に九尾から、または八雲紫の方から会話をもちかけ一時的に攻防の手を止める事もあった。
その時に彼女の布石を見抜こうとも試みたが、いまだにその全容は掴みきれない。
おそらくすきま妖怪の奥の手は発動させれば確実に九尾自身を捉える。 これだけ露骨に"待ち"に入っている以上そう考えるのが自然だ。
九尾としてはなんとしてでも八雲紫が奥の手を発動させる前に仕留めたい。 あれほど消耗しても尚、攻撃に転じず頑なに守りに入っているのはそれだけ奥の手に自信を持っているからだろう。
それは九尾にとっても背筋の凍る話だ。 想像が及ばないだけ余計に恐怖感を煽る。 だからこそ一刻でも早く倒したい。
しかしながら八雲紫の能力はやはり防御に於いて他に類を見ないほどの有能さがある。
弾幕からの多少の被弾は許していても、確実に九尾の牙と爪による直接攻撃だけは避けきっていた。
あと一歩攻撃が届かない事と、いつ来るかわからない彼女の奥の手に九尾の焦燥は徐々に募っていく。
巨大な妖気の弾幕を無数に展開し、九尾の爪と牙がその影から一気に襲いかかるも、弾幕に目を眩ませることなく爪と牙だけを正確に見据え回避を成功させる。
逆に牙と爪を陽動に巨大な妖気の弾を撃ち込もうとも、確実にそれらをやり過ごしその後に襲いかかる牙と爪を避けきれる距離を保たれる。
間接的な攻撃ではどうあってもすきま妖怪の結界によって相殺、ないし大幅に威力を削がれ彼女に致命的な被害を与えることが出来ない。
また結界を一気に打ち破れる程の威力をもたせればその分速度が殺されてしまうので、容易に空間の切れ間に逃げ込まれてしまう。
決定的な一撃を決めることは出来ないが、結果的に九尾が八雲紫を倒すには現状の消耗戦を続ければ、妖気の絶対量で勝っている妖狐に軍配が上がるのは必至だ。
しかし、間違いなく八雲紫はそれを計算に入れた上で消耗戦に臨んでいる。それはつまり彼女が消耗しきる前には確実に奥の手が発動されることを示している。
見た目には無傷の九尾とぼろ切れのように消耗したすきま妖怪だが、その内面では着実に八雲紫が押していっている。
九尾は得も言われぬ恐怖と焦燥と苛立ちがない交ぜになり、日が経つにつれ目に見えて攻撃が粗くなり、空振りが目立ってきた。
地上を見渡すと九尾の攻撃による爪痕が夥しく残り、原型を止めない程に破壊し尽くされた森や丘、村々が散見できる。
焦れてしまっては相手の思うつぼであることは重々承知している。 それでも、九尾は自らの内から沸き上がる暴虐性を抑えることが出来ずに猛々しく吼える。
そうやって十日目の朝を迎え、段々と単調になってしまっている攻撃はついには八雲紫に結界を展開させることもなく、身のこなしひとつだけで回避されるようになってしまった。
明らかに攻撃をする余裕があるはずなのに、それでも回避と防御に専念する八雲紫に対し、自重することの出来ない九尾の内面の黒い衝動がさらに噴き上がる。
九尾から放たれる無数の弾幕、そして牙、爪、全て八雲紫の身体を一瞬にして消し飛ばす程の威力を持ちながらも、半暴走状態の九尾の攻撃ではすきま妖怪に全く届かない。
地上に九尾の弾幕が雨のように降り注ぎ、山や森の形を造作もなく変えていく。
だがそれだけの威力を持ちながらもすきま妖怪には全く届かず、時間だけが無常に過ぎていき太陽が空の真上に昇る頃、十日目にしてようやっと、息を整えられる程までに回復した八雲紫は半暴走状態の九尾を下方に口を開いた。
「あれだけ妖力を派手に放ちながらも全然消耗している気配が無いのは流石と言うべきかしらね」
「…………」
幾度目の会話だろうか。
完全に頭に血が上った状態だった九尾はそのまま攻撃を続行させようとしたが、僅かの間を置いて一旦攻撃を停止させた。
徐々に暴走状態が解けてくると、周囲を見回しさらに落ち着きを取り戻そうとする。
いつの間にか二者は三河上空から富士上空に戻ってきていた。
黒ずんだ頭は徐々に晴れていき、思考が鮮明になってくると自分の位置より少し上方、ほとんど一足飛びに食いちぎれる程の距離にいるすきま妖怪を見据え九尾も口を開いた。
「虹よ、敢えて聞こう。 貴様は何を狙っている。 これ程までの状況になりながら如何様にして我を倒すつもりだ」
「九尾。 妖怪は何故人を好んで食べるのかしら」
質問に質問で切り返すすきま妖怪。
答えが出てくるとは九尾も思っていなかったが、すきま妖怪の言動の意図が汲めず、まずは沈黙で返す。
だが八雲紫は妖狐の沈黙など意にも介さずにそのまま言葉を続ける。
「そう。 妖怪が人を食べるのは、人の気質を最も好むから。 二十日前に貴女が雲状と化した人間達の気質を喰らったように。 そしてその気質を生み出す大本は人間の霊魂。 下等な妖怪共はそれを知ることなく本能で人間を肉ごと喰らうけれど、肉なんてものは所詮おまけに過ぎないわ。 それは商を支配し民から湧き出る負の気質を喰らっていた貴女ならわかることでしょう。 だって、肉ごと喰らってしまったらその人間から奪える気質はそれっきりですもの」
霊魂の事に関して興味を持ったことなど九尾には無かったが、八雲紫の話には納得出来る。
最も効率よく、極上の食事をすることを突き詰めた結果、人間達を生かしたまま絶望に落としそこから沸き上がる負の気質を得る方法を九尾はこれまで行ってきた。
確かに人間の肉は非常に美味ではある。 だが、人間の生み出す気質はそれを上回る極上の食料だ。
どちらかを取れと言われれば間違いなく気質、すきま妖怪風に言うならば霊魂を九尾も取る。
しかし、相変わらず彼女の言っている事は理解出来てもその意図がどこにあるか推し量れない九尾は無言のまま押し黙る。 そしてその無言を八雲紫は肯定の合図と受け取った。
「ではさらに突き詰めると、人間の霊魂とは一体妖怪にとってどういう作用をもたらすのかしら。 ただ食事を摂るだけならば人間や他の動物たちと同じような食事でも我々は一向に構わない。 そもそも食事とて妖力が余程消耗していない限りは我々妖怪にとってそれはただの享楽に過ぎないわ。 酒を嗜むのと同じ程度の話。 九尾、貴女はどう考えるかしら」
「酒を嗜む程度と言うのであれば、それこそが最大の理由であろう。 享楽こそが自身を活性化させ精神に作用する。 そしてその活性化こそが精神的な部分に大きく依存する我々により大きな力を与える。 それこそが大事であろう」
九尾の言葉を受け、我が意を得たとばかりに妖しい笑みを浮かべる八雲紫。
「霊魂は活性を促す。 我々はその霊魂を自らの内に取り込み自らの糧とする方法を知っているからこそ人間を極上の食料としている。 ただ肉が食いたいだけなら畜生でも妖怪でも大差無いのよ。 そして、その霊魂を糧として取り込み、活性させる方法を知っているのは我々だけではないわ。 例えばこの国の神仏なら"信仰"という言葉と形を取って人間の霊魂から生まれる気質を摂取し自らの力を活性化させ、力を強めることが出来るわ」
「偶像等の崇拝……か」
「ええ。 さらに言うのなら、霊魂が活性化させるのは我々や神々だけではない。 この世のあらゆるモノに作用するわ。 大地も山も海も」
ほんの僅かだが、すきま妖怪が言葉を放った直後に彼女の周囲の空気が凍り付く。
殺気に似たその雰囲気に九尾も身構える。
警戒を強めながら、彼女の見えない意図を慎重に探るように妖狐は質問を紡いだ。
「霊魂から漏れ出た気質ですらも周囲に影響を与える。 先日までこの島国を取り巻いていた負の気質はやがて雨となって大地に降り注ぎ、その水は土を腐らせ、木々は枯れ落ち川は毒を生んでいく。 それくらいは我にも判る。 虹よ、回りくどい説明は止せ。 貴様が時間を稼いでいる事は目に見えている。 これ以上下らぬ講釈を垂れ続けるのであれば即座に我のこの爪と牙がその身を引き裂くぞ」
「あら、出来もしない事は滅多に口にするものではないわ。 この十日間で貴女は一度でもその爪と牙で私を引き裂く事が出来たかしら」
「なら試してみようか……!」
安っぽい挑発だ。
だがそれでも九尾の理性を押しとどめる堰を切るのには容易な事であった。
一旦静まりかけた妖狐の気が再び禍々しく黒く染まっていく。
しかし八雲紫はそれを涼しげな顔で眺めると、九尾にとって衝撃的な一言を放ち、妖狐を硬直させた。
「私は最初から貴女の質問に答えているだけよ。 貴女がわかりやすいように順序立てて話しているだけに過ぎないわ。 かえって判り難かったかしら」
「我の質問……だと」
一瞬の遅れだった。
九尾が八雲紫の言葉を聞き、自分の質問の内容を思い出して一度練り込んだ妖気の緊張が僅かにほぐれた瞬間、突如として九尾の周囲八方の空間が裂けそこからなにかが射出された。
人間の腕だ。
奇怪な事に無数の手が空間の隙間から飛び出し、一本の腕の掌からさらにもう一本の腕が、その腕の掌からさらに次の、その次の掌から別の腕が無限に生えている。
その腕が何重にも重なり捩れ、一本の巨大な縄となって九尾を拘束する。
腕同士が九尾を何重にも巻き付き、さらに一本一本の手の指が九尾の毛を挟み込みしっかりと食い込む。
こうして、九尾の身体は完全に拘束された。
だが、一瞬の判断の遅れによって拘束されるという不覚を取ったが、その表情は余裕の笑みを浮かべている。
「これが、貴様の奥の手だと言うのか……。 片腹痛いわ。 この程度の拘束で我を縛り付けられるとでも思っていたのか」
九尾は自身の内側から巨大な妖気を込め、腕が織り成す拘束の縄を破壊しようと試みるが、腕は軋むだけで一向に九尾が放たれる様子は無い。
「無駄よ。 貴女に絡みついているソレは、直接間接問わず貴女が殺したり、貴女に恨みを抱いて死んでいった人間達の腕。 強い怨嗟が生み出す力の大きさは貴女もよく知っているでしょう。 まぁ、ある程度時間をかけていけば、今の貴女の力ではずせないこともないだろうけれど、流石にそこまで悠長な事はしないわよ」
「貴様……何を」
九尾は絡みつく腕に嫌悪感を覚えながらはずす事に力を大きく割く。
だが、死者達の腕は九尾が力を込めればそれに比例するようにより強く九尾を締め付ける。
「さて、お話はこれで最後。 霊魂があらゆるモノを活性化させるのは先に話した通り。 貴女はこの戦いが始まる際に起きた地震によって生み出された生者達の負の気質を取り込み強大な力を手に入れたわ。 そしてそれと同時にあの地震によって大地に住まう多くの人間達が死んだわ。 普通ならば死んだ人間の霊魂は三途の河を渡り彼岸へ向かい閻魔の元へ辿り着くでしょう。 では、貴女に問うわ。 もし、死者の霊魂が三途の河を渡らずに別の場所に萃まり、何かに取りこまれた場合、その何かは一体どうなるでしょう」
それだけ言うと八雲紫は九尾の遥か下へ視線を向ける。
釣られて九尾も自分の下に目をやると、眼下に広がる景色に背筋が凍りついた。
「まさか……虹よ、貴様の奥の手と言うのは……」
九尾の真下に広がるのは巨大な穴。
正確にはそれは火口。 霊峰富士の巨大な火口が九尾の真下に構えている。
火口から白く立ち上る煙はその噴火を今か今かと待ち望んでいるかのようにも思える。
そう、これが八雲紫の奥の手。 九尾を倒すために彼女が用意した策。
今思えばこれまでの彼女の戦闘時に於ける立ち回りは全てこのための伏線だった。
地上への攻撃を誘発させることによって立ち上る煙に違和感を覚えなくさせ、富士からの煙を意識させないようにする。 そしてそれ以外の時はほぼ常にすきま妖怪は九尾の上方に位置取っていた。
それは九尾に下を向けさせず、上方へ意識を集中させるため。 九尾は八雲紫の動向に注視するあまり、彼女の術中に完全に嵌ってしまっていた。
改めて考えてみればこの位置取りのせいで緞帳に気づくのが遅れたのだ。
つまり、九尾が八雲紫の奥の手の存在を意識するよりも前から、戦闘開始時から既に嵌っていたことになる。
九尾は自分の浅はかさに舌打ちをしながら、これから起こるであろう結末を眼下に広がる景色から想像し諦めに近い気持ちに襲われた。
富士の火口の中は大量の霊魂を取り込み活性化することで赤黒く光り唸りを上げ、年中雪に覆われている山頂付近は溶岩が放つ熱で雪だけでなくその周囲を取り巻く岩すらも溶かしている。
八雲紫は、苦悶する九尾の正面まで高度を下げると右手を前方に突き出す。
そして、微笑みも哀れみも怒りも悲しみも一切の表情も無く、八雲紫の右手が小さく上へと傾いた。
「さぁ九尾、受け取りなさい。 私の"死の幻想(ネクロファンタジア)"」
宝永四年十一月二十三日昼───
赤い龍が富士の山から天に向かって一気に駆け昇った。
■■■■■■■■■■■■
八雲紫と九尾が最後の対話をはじめる前後。
夥しい熱気に覆われる霊峰富士の地下にて伊吹萃香は、八雲紫より頼まれていた仕事の大詰めを行っている。
周囲に広がる溶岩の海は、八雲紫が境界をいじり三途の河の道程と富士の地下を繋げることによって運ばれてきた大量の霊魂を、萃香の能力で吸収することによって異常な速度で活性化している。
そして地震発生から四十九日の十一月二十三日、今まさに萃香の目の前に広がる灼熱の海は爆発寸前の状態であった。
「さて、後は私が一発大地に活を入れればそれで終わりだ」
萃香はその小柄な身体を大きく伸ばし深呼吸を行うと、右手の拳に力を込める。
徐々に妖気の密度が濃くなる萃香の右手は、彼女の身体と同じ程度の大きさの輝きを生むと、そこから一気に右手に光が収束していった。
「ふっ……!」
そしてそのまま大地に向かって拳を突き下ろす。
すると溶岩の広がる海と、僅かに残っている岩場が鳴動を始めた。
噴火の前兆である。 後は紫が最後の一押しをすれば彼女の望む形で噴火が起きる。
萃香の仕事はここまでだ。
この場に居ては噴火に巻き込まれてしまう。
"ただの"噴火であれば萃香程の力を持つ鬼ならば耐えることも出来ようが、この噴火は普通のそれとは違う。
これらは何万という人間の霊魂を吸収した溶岩だ。 加えて霊峰富士が霊魂の力をさらに強めている。
その噴火に飲み込まれれば肉体は勿論魂ですらも溶かし尽くすであろう。
萃香は自らの身体を霧状に変え、壁面の隙間を縫うように外に向かって出て行く。
手はず通りであれば今現在紫はこの富士上空に妖狐と共に居るはず。
例え居なくてもそこは萃香の与り知るところではない。 紫に頼まれた仕事とは十一月二十三日の昼までに富士山を噴火出来る状態にして欲しいということだけだからだ。
だから萃香は富士の地下から地上に戻ると、八雲紫と九尾が居ることなど確認もせずにそのまま幻想郷まで戻っていった。
幻想郷に戻るまでの間、萃香の頭の中は八雲紫と九尾の戦いや富士の地下での暇だった時間の事などとうに無く、紫が持ってきてくれる報酬の美酒の事だけで占められていた。
■■■■■■■■■■■■
「完全に……我の敗北……だな」
富士の火口から駆け昇った赤い龍に飲み込まれた九尾は、一瞬にして魂までも溶け消える事はなく、すんでの所でまだ生き残っていた。
しかし、その巨大な身体の大半は既に失われ、一向に途切れる事のない龍の身体の中から覗くのは、もはや事切れる寸前の九尾の眼光だけである。
その目を見つめるは九尾の仇敵、八雲紫。 彼女は立ち昇る龍を横に、結界を展開して熱と龍の身体から飛び散る溶岩をやり過ごしていた。
「まだ口が開ける程に存在しているなんて想像以上に頑丈ね。 そこから抜け出して最後の一戦といくつもりかしら」
「そのような力など、とうに残っていない事くらい判っているだろう……。 あとどれだけこうやっていられるのやら。 よしんば噴火が終わるまで耐えられたとしても、その時の我に……もはや勝ち目など、ない」
数万の霊魂が込められ昇龍の一撃は九尾の肉体を軽々と飲み込み、妖狐の全てを喰らい尽くした。
今ここに残っているのはその僅かな残骸。 おそらく四半刻もすれば消えてしまうであろう儚い九尾の残滓。
もはや九尾に反撃を行う余力等、無い。
「虹よ……最後にひとつ、訊かせろ」
「私に答えられることであれば」
「我はかつて最初に貴様と対峙した時から疑問だった。 貴様は……一体何者だ。 大妖として恐れられたこの我すらをも凌ぐ力を持ちながらも貴様の正体が全く見えぬ。 "虹"という人間達に自分を呼ばせる便宜上の名しか知らぬ、そんな相手に屈する事が、我にはどうしても納得出来ぬ」
心から悔しそうに呟く九尾を目の当たりにし、八雲紫は心底驚いたような顔をし、その後高らかに笑った。
そして、どこからともなく彼女が普段からよく持ち歩く扇を取り出すとそれを優雅に開いて口元に当てる。
「これはこれは滑稽なお話。 私はとっくの昔に私が何者であるか、貴女なら判っているとは思っていたのだけれどね。 いいわ、ならば私が何者なのか当ててみなさい。 "虹"というかつての私の偽りの名、四季の境界を操り、昼と夜の境界も操り、山と海の稜線を操作し空間をねじ曲げる。 境界を操るこの私は一体誰なのかしら。 貴女は、私を、知っているはずよ」
「我は貴様を……知っている、だと」
周囲は尚も勢いの衰える事のない噴火によって轟音が響き渡り、噴煙によって周囲の視界はほぼ最悪の状態となっている。
その中で八雲紫と九尾互いに見つめ合ったまま押し黙る。
九尾は逡巡する。
自分は目の前にいるすきま妖怪を知っている。 はたしてそれは一体。
現在から過去まで、自分の知る存在を思い返す。
「虹……境界を操る……四季も……昼も……ようか…い……いや、まさか…あれは……」
「気づくことが出来たかしら」
思い当たる存在がひとつだけ九尾にはあった。
だがそれは妖怪という枠に当てはまる程度の存在ではない。
およそ九尾にとってそれは神に等しく、遍く自然そのものと同義だった。
だからこれまで"妖怪"という枠に囚われていた自分には思い当たることも無かったのだ。
だが、妖狐にとってすきま妖怪が一体何者なのかという存在を問うた時、該当するモノはもはやただ一つしか思い当たらない。
一度そうだと思ってしまえば彼女とその存在はあまりに符号する。
「ま……さか、貴様が……ふふ、ふふふ……なんということだ。 我はそんなモノを相手にしていた……というのか……どう足掻いてもはじめからこの我に勝ち目など無かった……のだな」
「さぁ、九尾。 呼びなさい。 私の名を、そして平伏なさい」
八雲紫が一際大きく声を上げる。 そしてその声に呼応するかのように彼女の身体が光に包まれていく。
さらに八雲紫の輝く気に当てられ火山の噴火の勢いが増す。
轟音がより大きく響き渡り、周囲を浸食する熱量が加速度的に増加する。
九尾の身体はもはや完全に飲み込まれ、その原型を留めてはいない。
今、龍の腹の中から八雲紫を覗く眼光ももはや九尾の妖気の残滓に過ぎない。
九尾は最後の力を振り絞り、数千年に渡った闘争の締めくくりと、自らを完全に、完璧なまでに打ち破った相手に敗北を宣言する。
「我の負けだ! ×××××!!!」
八雲紫から発せられた巨大な光と共に九尾を最初に飲み込んだ噴火の第一波をさらに上回る勢いで吹き上げた第二波が九尾を完全に溶かし尽くす。
その最期に発した言葉は噴火の轟音に掻き消され、ただ一名九尾の目の前に居たであろう八雲紫を除いて誰一人として聞き取る事が出来なかった。
こうしてすきま妖怪・八雲紫と白面金毛九尾の狐との戦いは、後の宝永大噴火と呼ばれる記録の影で盛大に幕を閉じる。
富士山から噴き上がる巨大な赤い龍に混じって青白い龍が雲間を飛来している姿を見た者が多数居たが、やがてそれは噴火の影響で起きた雷雲によるものだと締めくくられ、広がる噴火の被害の影響もあってかやがては誰からもその事実は忘れ去られていった。
■■■■■■■■■■■■
九尾との決着から数刻後。
八雲紫は富士より僅かに離れた信濃の山中に居た。
大策を用い、自身の力を大きく使ってまで勝ち取った勝利。
その疲労度は九尾にこそ見せなかったが、彼女とてあと少し天秤が九尾に傾いていたらどうなっていたかも判らないほど消耗をしていた。
しかしまだ彼女は倒れるわけにはいかない。
その手に光る九尾の残滓が消えてしまわない内に事を終わらせなければならない。
九尾の今際の際に九尾の身体から抜き出した妖狐の魂。
九尾を従えさせる事が当初の目的。 これが成されないのであれば、目的の半分は達成出来ない。
「さぁ、起きなさい、九尾。 私の声が聞こえるかしら」
手に僅かな妖気を込め、九尾の儚い残滓を活性化させる。
僅かに間を置いた後に九尾が目覚めた。
『…………我は、消滅したのでは……なかったのか』
「最初に私は言ったでしょう。 貴女を従えると。 それは最初に交わした貴女と私の契約。 忘れたのかしら」
『あぁ……だが、我にはもう貴様に仕えるための肉体も、それを再生させる力も残っては、いない』
すると八雲紫は空いている片手で自身の髪を一部切り落とす。
切り落とした髪を握るとそれに妖気を込めて九尾の残滓に突き出した。
「身体は私が新しく貴女に与えるわ。 名前も貴女に与える。 貴女はその存在が消えても尚、一生涯私の式となって側にいなさい」
『…………良かろう。 それが最初に交わした貴様との契約。 依存は、無い』
もはや抵抗すらせず、先までの戦いの時とは比べものにならないほど穏やかな九尾の声が残滓から響く。
八雲紫も九尾の答えに満足し、速やかに作業を進め始めた。
「右手に残る九尾の魂に命ずる。 我が名と肉の一部を与え、其の名と肉とする。 其の名は八雲藍。 我に忠誠を誓い、我が式と成らん事を此処に契約する」
右手の九尾の残滓と左手の八雲紫の髪がそれぞれ宙に舞い、幾度か交差した後に合流するとひとつの光が生まれた。
その光は大きく輝いた後に徐々に収縮していくと、やがて人に似た形を取り、輝きが消えるとそこには八雲紫の式として生まれ変わり、主と同じような大陸風の意匠の導士服に身を包んだ九尾の狐、八雲藍が片膝を付き、頭を垂れ臣下の礼を取っていた。
「我が名は八雲藍。 主・八雲紫様に忠義を尽くし、この身果てようともお供致します」
「重畳。 これからよろしく、藍」
こうして、八雲紫は九尾の狐を調伏し自らの式として手に入れることに成功した。
これで自分が望むひとつの未来の形を織り成すための材料をひとつ手に入れることが出来た。
神々や天人達への威嚇も行うことが出来た。
人間達へ未知への畏れを植え付けることが出来た。
八雲紫の今回の目的は完全に達することが出来た。
達成の安堵感からか、酷使した身体が膝から崩れ落ちる。
「紫様!」
それを彼女の式が腕で抱き留める。
八雲藍がかつて九尾の狐という大妖怪であったことを示す、九本の大きな尻尾は健在だ。
自分の式の腕に包まれ、その大きな尻尾を眺めながら八雲紫は呟く。
「大丈夫よ。 貴女にはこれから私があの戦い最中に言った未来を見せてあげる。 いずれ神魔を含め妖怪達の力は年々衰えて行く、これはもう確定と言っても差し支えない程可能性の高い未来。 その時我々が生き残るために、貴女の力が必要よ、藍」
「……御意に」
今し方主となった者の、そして幾千年も前から知っている者からの突然の弱々しい呟きと、自分を認め頼られる事に対してどういった感情を出せば良いのか、藍は困惑する。
かつて九尾であった頃から思い起こし、自分がこうやって誰かに必要とされることなど決して無かった。
嘲り、侮蔑、嫉妬、憎悪、怒、怨嗟……負の感情をぶつけられるのには慣れている。 むしろそれが心地良かった。
それ故に今の自分の内から沸き上がりつつある感情の説明が上手く出来ない。
だからただ静かに主の言葉に頷く事しか出来なかった。
「貴女にはまずこれから、私が住まう幻想郷に張られている結界の管理をお願いするわ。 私の肉体の一部を使っているその身体なら私の張った結界に干渉出来る。 今回の件で私は神々や天人に対して大きな威圧をかけたわ。 今後私はなるべく外に姿を現さない事で逆に自分の存在感を誇示し、彼らを牽制することに務めるわ」
「……御意に」
肩で息をしながら、紫は藍を見つめる。
藍はそんな主の様をただ見つめ、主から発せられる言葉に頷くしか出来ない。
「……小さな小さなモノだけれど、私は、私と、私の幻想郷(せかい)を守り生きていくのよ」
そしてそれだけ言い終えると、紫は静かに寝息を立て眠りについた。
戦いの最中には一度も見ることが出来なかったが、彼女の体力、妖力の消耗具合はかなり限界に近かった。
無理をおして戦っていたのは明白だ。
結果的に見ればこの度彼女が張り巡らせていた策が諸処に与える結果は、それぞれ別の時、別の策をもって行っていればこれ程までに彼女が消耗することは無かった。
だが、彼女はそれを敢えて一度に全て行い、見事完遂させた。 故に彼女のここまでの消耗はある意味自業自得とも取れる。
しかし今の九尾・八雲藍には何故かそんな主に対して内からこみ上げてくる熱い感情で胸を締め付けられた。
不器用に歪みながらも、真っ直ぐに自分の信念を貫き、多くのものを背負ってきた彼女がはじめて誰かにその荷を預けようとしている。
そして自分が彼女から荷を預かったのだと、誰かから頼られたのだと感じると、尚も強く藍の心を強く打った。
それは新しい身体を得た影響からなのか、一度全てを失い真っ新になったからなのか、それは藍にはわからない。
沸き上がる初めて体験する感情を抑え、彼女はそんな主に対して改めて自分の胸の内で強く忠誠を誓うと、腕の中で眠る主を抱き上げた。
「貴女は……こんなにも軽かったのだな」
帰るべき場所は、主の身体の一部から分け与えられたこの身体が知っている。
藍は主を抱えると静かに空を飛び、二人の帰るべき場所へ向かっていった。
■■■■■■■■■■■■
───三百年近い時が流れた。
此処は幻想郷と外の世界との境界に位置する八雲紫と八雲藍の住まう邸宅。
八雲紫は自身の部屋にて無言で、半目の状態で佇んでいた。
その目は虚ろで意識の有無はその様子からは全く窺うことが出来ない。
「紫様、ただいま戻りました」
八雲紫の式、八雲藍が結界の管理の仕事を終え帰宅する。
主への挨拶に彼女の室の前へと訪れたのだが、主からの返事は無かった。
「紫様? ……失礼致します」
無礼であることは承知だったが、主の返事を待たずに彼女の室の障子を開け中の様子を窺う。
するとそこには気配も意識も虚ろな八雲紫が鎮座していた。
「紫様、いらっしゃったのですね。 気配も感じなかったので留守かと思っていました」
「……あぁ、藍。 おかえり。 ちょっと昔の事を思い出して意識が少し飛んでいたみたいだわ」
「昔の事……ですか」
昔と言っても彼女ら二人が刻んできた歴史は数千年にも及ぶ。
どこからが"昔"でどこからが"最近"なのかは非常に曖昧な表現である。
紫は首をかしげている藍の顔を見るとおもむろにくすくすと笑い出した。
「わ、私の顔に何かついています……か」
「いいえ。 ただ、私が思い耽っていた昔の事というのは、貴女と戦っていた時のことだったから、今の貴女とのギャップがおかしくてつい、ね」
「あ……」
藍は思わず顔が火照る。
別にかつての自分を恥じているわけではないが、どうにも以前の事でいじられると妙に恥ずかしくなってしまう。
それはおそらく紫が言うように、かつての自分と今の自分とのギャップを自分で認識した時にその変化の大きさに恥ずかしさを覚えてしまうからなのだろう。
「もう……あまりからかわないで下さい、紫様。 恥ずかしくて泣けてきますよ」
「あらあら。 今の貴女はこんなにも可愛いのに」
顔を真っ赤にさせてふくれている藍が大層おかしかったのか、紫はさらに笑い、その反応を楽しむかのように彼女をからかう。
藍も困った顔をさせながらも、そんな自分が今とても満たされている事を認識する。
そして紫はひとしきり笑った後にお腹を抱えて藍に我が儘を言い放つ。
「ねぇ、藍。 お仕事から戻ってきた所悪いんだけれど、お腹が空いちゃったのよ。 夕飯の買い物もついでにしてきたんでしょう。 私も今日は新しい博麗の巫女の面倒見てきて疲れちゃったから早く夕飯をお願い」
「は、はい。 あ、そうだ紫様。 博麗の巫女といえば、今代の巫女……霊夢、でしたっけ。 彼女はどんな感じなんですか。 私はまだ一度も見た事はないのですけれども」
「とてもとても優秀な子よ。 あと数年修行させて、5歳くらいになった頃に私と修行した記憶をあやふやにすれば、いずれは立派な幻想郷の巫女として妖怪達に恐れられるようになるでしょう」
紫は立ち上がると、障子を開け縁側に出て中庭を眺める。
季節は秋。 色とりどりの葉がそこら中に舞い散り、風景を彩る。
「何故記憶をあやふやにしてしまうのですか。 それだったらもし彼女と紫様が出会った場合、戦いになったりするのではないでしょうか」
「それでいいのよ。 幻想郷に於いて妖怪を退治する立場の人間が妖怪から手ほどきを受けた記憶があっては、彼女自身妖怪を退治することに躊躇いが生まれるかもしれない。 いずれ彼女が長じて状況が変われば多少の馴れ合いも悪くは無いと思うけれどね。 今はこれでいいのよ。 それに、あまり妖怪らしくない振る舞いばかりしていると閻魔に怒られてしまうわ」
自分で言って少々苦い思い出が甦った紫はため息をついた。
九尾との戦いの後、紫は幽々子と揃って閻魔に呼び出されこっぴどく叱られたのだ。
地震や噴火を誘発させ多くの人間に被害を与えた事に対してではなく、地震によって三途の河へ運ばれてくるはずの霊魂達を無断で使用した事に対してだ。
何故ここで幽々子まで閻魔の説教を喰らうはめになったのかというと、三途の河への道と富士の地下の境界を紫が操り、霊魂を富士の地下へと誘致していたのは他ならぬ幽々子の手によるものであったからだ。
三途の河や彼岸の事をよく知っており、尚かつ霊の扱いに長けている幽々子は、死神や閻魔をはじめとした彼岸の連中達を出し抜き見事富士の地下へと霊魂を送り込むことが出来た。 そのため、彼岸では五七日に霊魂が運ばれてこないという騒動が起きた。
自分の起こした事のけじめとして、閻魔に説教を喰らう事は覚悟していたが、想像以上に長い閻魔の説教と言うにおぞましい仕置きによって、紫と幽々子はだいぶ煮え湯を飲まされたのであった。
「さぁ、藍。 そんな事より早く夕飯をお願い。 私はお腹が空いてしまったわ」
紫はげんなりした様子を振り払うように藍の肩を掴み台所へと促す。
促されるまま主の部屋を後にし、縁側を歩いていると藍の顔に紅葉が一枚舞い降りてきた。
それを紫が「あら」と一言添えて藍の顔から取ろうとした時、紫と一瞬目が合う。
すると再び紫は顔を緩ませ笑顔で自分の式に声をかける。
「ねぇ、藍。 貴女の今の感情を私が言葉にしてあげましょうか」
「え……?」
「それは、"幸福"よ」
藍は無意識の内に自分の頬が緩んでいる事に全く気付いていなかった。
だが、今はその緩んだ頬に何の気恥ずかしさも無い。
幻想郷の秋はとかく美しく世界を紅色に暖かく染めていた。
──了
そこまでの興奮が一気に冷めました。なんだろうこの失速感。
この長さでもスルスルと読めました。
良いですねぇ、紫様の策と九尾の焦りと戦いの中での会話とか、
紫様がどれほど幻想郷を愛し、行動を起こしているのかというのも
感じられるようでした。
後日、幽々子さまと一緒に閻魔様の説教を受けるというのもまた
面白い一コマでもありますね。
最後の紫様と藍のほのぼの、少し真面目な話も
彼女たちの平穏な生活が垣間見れたような気がします。
顔を赤くして恥ずかしがる藍とそれをみて微笑む紫様が
良い家族をしていて良いですね。
戦闘、話などとても魅力的で面白いお話でした。
誤字というか文章の一部に疑問をもったので報告です。
>その霊魂が活性させるものは取り込み、糧とする方法を知っている我々だけではないわ。
『知っているのは』ではないかと思うのですが、その前の活性云々の文がちょっと疑問に。
「その霊魂が」となってますけど、これだと「その霊魂」が「活性させるものを取り込む」の
ような意味にもなると思いますが……。
私個人としての意見ではありますが、このような一例など。
>『その霊魂を糧として取り込み、活性させる方法を知っているのは我々だけではないわ。』
など、色々とあるとは思いますが、少し変えてみては如何でしょうか?
報告は以上ですが、長文失礼しました。(礼)
某灼眼のラノベファンとしては、こういう史実と絡めた物語は大好物ですね。
幼い藍を育てていく母性あふれる紫もいいですが、こういうガチバトルをして九尾を従者にするかっこいい紫も非常にいいと思います。
いやあ、面白かったです。続編も期待!
始めの幽々子と妖忌の将棋はとりあえず、将棋なんか知らないけどすごい。
次の白面金毛、妲己、玉藻をごっちゃは如何せん・・・あれかと。
比那名居家とゆかりんリミッター、てゐの素兎と日本神話の話はリアルでGJ。
最後に九尾と紫の戦闘はアツいですね、素敵です。
次のシリーズ、楽しみにしてます。
次も楽しみにしています!
広げた風呂敷をきっちり畳めるあたり素晴らしい。
あらゆる辛苦を呑み込んで来たのだな。
これからもゆかりんとお藍に幸福が続きますように
それと細かいことでうすが,誤字かな?
閻魔様の使うアイテムは,浄瑠璃の鏡ではなく浄玻璃の鏡
ゆかりん強え!
幽々子様や四季様のバトルが見れなかったのは残念でしたけど、ここまで緻密なシナリオはGJとしかいえません!
とても楽しませて頂き、ありがとうございました!
つーかそれ以上思い浮かばん。虹と言えばあれだし。でも今の紫様にはあわな…まてよ?寝てる…?
あ、そういう捉え方もできるか。なるほど。でも食ってるし…。
もし合っていた時の為に、作者の人の意向から、明確な名前は私も出しません。
でも合っていたら嬉しいですけど。
作品自体は紫様のカリスマが300%位にじみ出ていて信者としてはうれしい限りです。