Coolier - 新生・東方創想話

駆り立てるのは骨と皮

2009/04/19 23:21:16
最終更新
サイズ
8.38KB
ページ数
1
閲覧数
1039
評価数
13/48
POINT
2620
Rate
10.80

分類タグ

 横たわるのは犬と豚と諏訪子だった。

 意識を取り戻した諏訪子は地面に突っ伏したまま、ことのいきさつを思い出す。 


◇ ◇ ◇


 幻想郷の子供たちは春休みへと突入していた。わたし、洩矢諏訪子も休暇の幸せを享受する一柱。今日も投石トレーニングをしてレベル上げをする毎日だった。土着神の頂点たるもの、日々の鍛錬は怠らない。少しでも怠けると月の姫や式の式に追い抜かれてしまうのだ。

「諏訪子さま、諏訪子さま。ファミコンは1日1時間ですよ」
「ちょっとくらい良いじゃない。輝夜のトコなんか1日7時間も8時間もやってるんだよ!」
「よそはよそ! ウチはウチです!! 大体、電力だってファミコンに使っている程余裕が無いんだから」
「セーブできるところまでまっててね。セーブしたら終わるから」

 なんでこの娘はなんでもかんでもファミコン、ファミコンなんだろう。早苗はわたしに注意しながら電子レンジで昨日の残り物を温めている。貴重な電力をバカ食いする代物には大きく早苗専用と書いてあった。

「まったく……。注意しても全然聞いてくれないんですから。そんなことより宿題は終わったんです? 春休みだからって宿題ないと思ったら大間違いですよ。慧音先生はお家で勉強するためにお休みをくれたんですからね」

 すっかりと教育ママな早苗。

「今日の分は終わったんだよ」
「だったら明日の分をやればいいじゃないですか!」

 無茶言うな。わたしは早苗の理不尽さに憤りを感じながらも説明する。

「今日で終わりなんだって、観察日記。完璧、パーフェクトだよ」
「昨日つけ始めたばかりだと言うのに、本当ですか……?」
「ホントだってば!」
「じゃあ、ちょっと見せてください」
「えぇ。あとでいいでしょ?」
「だめです」
「あぅ……わかったよ。はい、コレ」

 わたしは早苗に一冊のノートを差し出した。完璧でつけいる隙の無い観察絵日記だ。

『すわこ春の自由研究、おんばしらかんさつ日記。
一日目 御柱を埋めて成長を観察します。すくすくと伸びゆくさまを、こと細かに』

「なるほど。神奈子さまの御柱が一つ無くなっていたのは諏訪子さまが原因だったんですね。ふふっ。可愛らしい絵だこと」

 早苗は渾身の絵日記を見て感心していた。わたしに対する畏怖の念を思い出し、敬っているに違いない。

「二日目はっ、と」

 ページをめくる早苗。あ、固まった。

『二日目 腐りおった。鈴蘭畑の中心であぅを叫んだわてくし。完』

「ダメじゃない!」

 早苗はプルプルと身体を震わせノートを床へ投げつけた。

「ダ、メ、じゃ、な、い、で、す、か!!」

 ガチャガチャガチャリ、ガチャリ。
 リズミカルにリセットボタンを叩く早苗。

「あああああ! 私のハボリム先生が!」
「セーブもせずにファミコンやってるのがいけないんです! 宿題、やりなおしです! 私は人里にお買い物行ってきますので、宿題しながら神奈子さまと一緒にお留守番しててください。良い子にしてればお土産買ってきてあげますから。良い子にしていないと目でピーナッツ噛んでもらいますからね!」

 早苗はそういうとさっさと出て行ってしまった。
 いつの間にかこの家のお母さんポジションを奪われていたことに首を傾げながら早苗を見送るわたしだった。


◇ ◇ ◇


 電子レンジの中から昨日の残りの早苗ご飯を取り出しながら奥で酒を呑んでいる神奈子に問いかける。

「神奈子ー」
「ん?」
「なんだかさぁ、最近早苗ちょっと調子に乗りすぎでない? 早苗のクセになまいきだー」
「そうかい、最初っからあんなモンでしょ? こちら側に来たばっかりの頃は、そりゃちょっと人見知りもしたけど」

 今じゃすっかり幻想郷の人間だよ、と神奈子は言う。御神酒をぐびり。真昼間からよっぱだ。

「でもさぁ」
「んー。けどさ、そう思うんなら多分それは諏訪子にも原因があるんじゃないかい?」
「わたしに?」
「大体さ、私が立案した人里の侵略計画。諏訪子覚えてる?」
「あ」

 そうだった。異文化コミュニケーションと称してわたしが人里に通っているのも神奈子の作戦の内だったのだ。慧音先生の授業が楽しくてすっかり忘れていた。

「土着神が頂点、洩矢諏訪子様におきましては眩いばかりの御姿、常日ごろから接する人の身と致しましては、恐れ多くも神格を真似せんと涙ぐましい努力を弛まぬが故。諏訪子は早苗のお手本なんだからもう少ししっかりして欲しいねぇ」
「むー。神奈子は良いよねぇ。ずっと父親ポジションだもの。やっぱり雄雄しくそそり立つモノがあるからだよね」
「そうやって品の無いことを言うから早苗はお前に愛想を尽かすんじゃないのかい?」
「あぅ……」
「ま、元のIGENを取り戻したければ昔を思い出せば良いんじゃない。昔の諏訪子はカッコよかったなぁ」

 ぐびり。

「洩矢の千年王国を率いていた頃?」
「そ」

 まつろわぬ民には溢れん限りの祟りを与え、剣を向けてわたしに背く者は臓腑を引きずり出し、千里を血で染めた。わたしの一言が神気を纏い、わたしの一句が多くの人間を惑わせた。神としての栄華を極めんとしていたあの頃のわたし。神奈子とまみえなければ千年王国は万年先まで君臨し続けていただろう。

「まーったく。潰した神がよく言うよ」
「無責任なことを言って逃げ……もとい、子を導くのが父親の役目だろ」

 ぐびぐび。よくみれば豚汁だアレ。はいはい、わかりましたよ、神奈子パパ。


◇ ◇ ◇


 わたしは一人、書を開いて思索を巡らせる。攻略本の類ではない。呪詛の法、言霊。

 この国には古くから伝わる言霊というシステムがある。言葉には魂が宿る、という魔術信仰のコトだ。物に名づけられた本当の名――言霊を掌握すれば、思い通りに操ることができる。故に、使い方を違えてしまうととんでもないことにもなる。例えば人間が自らの真名を知られてしまうと、絶対服従を余儀なくされてしまう。紅い館のメイド長なんかがいい例だろう。もっとも、彼女はその上に違う意味付けの言霊を与えられ、二重にも三重にも束縛されている。わたしの力を以ってすればそんな呪いなど児戯に過ぎないのだが、幼き紅い月と面倒ごとは起こしたくない。別に頼まれてもいないからどうでもいい。

 さて、言霊のことである。人間は言霊を操る法を継承させようという本能が働いているらしい。歳をとると、これ、それ、あれ、どれなんていう代名詞が多くなるのもその一環だ。年老いた人間は若い人間に漠然とした指示を出して、言霊の持つ本来の意味を再認識させる。「この件でしたらそのようにしておきましたので」なんていう言葉でも意思疎通が十分にはかれるようになるのだ。当然、この世界の妖怪たちも言霊を扱うことには長けている。「藍、あの件はどうなったかしら?」「咲夜、例のあれを」「妖夢ぅ~、おゆはん、あれがいいわぁ」などと、自らの従者を優秀な言霊遣いとして育成すべく、日夜の努力を怠らないのだ。私も早苗を強力な言霊遣いとすべく「今日、アレの日?」なんてマネしてやってみたら思いっきりビンタされた。二度とやるまいと心に固く誓う。

 恐ろしい呪いと、優れた情報伝達の手段。それが言の葉、言霊である。わたしも、昔はこの言霊を巧みに操り、人心を支配したものだ。わたしの威厳を取り戻すには、再び強力な言霊を編み、早苗を篭絡する必要があった。


◇ ◇ ◇


「ぬっふっふっふっふ~」

 ペタリ。庭を歩く。わたし。流石のケロちゃん。早苗を見返す必殺の言霊を難なく紡ぎだした。ひとたび放てば早苗の心を深く穿ち、必ずやわたしへの信仰を取り戻すだろう。さっき神奈子に試してきたけど効果は抜群だった。今も隅っこの方でヨヨヨと泣いているハズだ。早く帰ってこないかな、早苗。

「あっ」

 突然わたしの前に降り立つ巫女装束。予想に反して現れたのは早苗の2Pカラーである博麗の巫女だった。邪悪な気を纏って、今にも襲いかからんとしている。血走った目で何かを呟いていた。彼女の意見をかいつまんで説明すると「分社のショバ代寄越せ!」らしい。うなり声と同時に聞こえるのはアレの腹の音だろう。早苗は今留守だし、神奈子はまだ立ち直っていない。洩矢の千年王国が潰えた今となっては、わたしの拠り処は3人仲良くつつましく暮らすこの社だけ。愛しき我が家を守れるのはわたし、ケロちゃんだけなのだ。カチリと戦闘モードのスイッチが入る。

 命に代えてもここを通すわけにはいかない。博麗の巫女には一度、敗北を喫している。洩矢に二度の敗北などあってはならぬ。しかしながら同じスペルカードルールで挑んでも再び打ち負かされてしまうのが道理。

 そこで先の言霊である。博麗霊夢の真名さえ識ってしまえばそんな苦労もしなくて済むのだけど、仮にも幻想郷の守護者。そう易々と真名を晒すような醜態はするまい。博麗と霊夢の境界に隠された真の名の組み合わせは無限大である。然らば、戦わずして戦意を失わせ、霊夢を撃退する強力な言霊が必要なのは必定にて。

 例えば、土着神としての威厳タップリに『帰れ』と言い放ったとしよう。霊夢にはきっと逆効果だ。「かえる。とでも言うと思ったか両生類!!」などと強引に侵入された上に、早苗が四日ぶりに作ってくれたお昼ご飯の残りを奪われてしまうに違いない。逆に穏便に済まそうと腰を低くしてみたらどうだろう。「あんたはそうやってケロケロ鳴いてればいいのよ。お邪魔するわ」とやはり強引に侵入されて早苗ご飯を略奪されてしまう嫌な予感しかしなかった。ケロちゃん紅白に負けず。早苗ご飯を守るには、起死回生の一撃が必要だった。

 霊夢は荒い呼吸を繰り返し、今にも飛びかかってきそうだ。最早一刻の猶予も無かった。窮蛙巫女を噛む。先ほど神奈子に放った言霊がわたしの脳裏に浮かぶ。神でさえ恐れおののくという究極の言霊だ。ひとたび見舞えば如何に博麗の巫女とはいえ、涙を流して崩れ落ちるに違いない。相手の魂に喰らいついて離さない。それほど強力なのだ、言霊というものは。

 洩矢の呪詛を小さき矮躯に刻み込むが良い。

「残念だけど、あんたはここから進めないよ」

 わたしは帽子の両端から伸びるしょっぱい紐をちゅーちゅーしながら霊夢に必殺の言霊を放つ。
 
「悪いね、霊夢。このお社、実は3人用なんだ」

 霊夢は激怒した。
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1560簡易評価
3.100名前が無い程度の能力削除
ハボリムw
5.80煉獄削除
なんというか……早苗が厳しいねぇ。
そして寺子屋に通う諏訪子様とは……見てみたい気もしますが。
言霊云々は面白かったですよ。
早苗に「アレの日?」とかもそうですが、言霊の説明など
良かったと思います。

誤字?の報告
>鈴蘭畑の中心であぅを叫んだわてくし。
わたくし……ではないでしょうか?
6.70名前が無い程度の能力削除
三人用の神社て不良物件じゃないかw
8.70K-999削除
横たわるのはなんだろうとクリックした結果がこれだよ!
それにしてもこんな駄目な諏訪子様見たことねぇよ……!
あと、ハボリム&ペトロクラウドは死者の宮殿以外では禁止すべきだと思うんだ! 強すぎるもん!

>>今日、アレの日?
 アホスwwwwwwwwwww
9.90名前が無い程度の能力削除
早苗こええぇー
14.90名前が無い程度の能力削除
諏訪子様がアホの子になってるw
17.100名前が無い程度の能力削除
タクティクスオウガだ!FFTなんてパクリゲー(人前で言うと怒られる)とは格が違うのですよ!!
それと諏訪子は先生捨てて神父をニンジャで育てるべき。

……ダメだ、まともな感想しようとしてもゲーム画面が頭から離れない……
27.70名前が無い程度の能力削除
噛むな噛むなwww
28.70名前が無い程度の能力削除
タイトルも目でピーナッツも一日一時間ネタもわかったけど
オチだけわからずに悔しい…!ビクンビクンな俺
29.80名前が無い程度の能力削除
神様って暇なんだな!
三人で手を取り合って、ぜひラストダンジョンをクリアして欲しい。
32.80名前が無い程度の能力削除
ああオウガだ、タクティクスだ!
とおもいクリックしたら内容で噴いたwwwwwww
34.90名前が無い程度の能力削除
なんだよ、しょっぱい紐ってww
39.70名前が無い程度の能力削除
ス○オwwwwww