断末魔が聞こえる。
これから食されていく者達の悲鳴が。
生きながらに喰われる者達の断末魔が。
食いちぎられ、皮を剥がれ、頭をねじ切られる。
そうしてまた捕食者の口の中に消えてゆく。
とうの昔に第三の瞳は閉じたのに。
それでもその声は私を苛む。
食べられるために生み出されたのに。
それを知らない彼らは、仲間の一人が無惨に食いちぎられた所でようやく自分達の運命を悟るのだ。
そうして彼らは、最後まで抗い続ける。
助けてと訴えながら。
食べられたくないと泣き叫びながら。
それでも一人、また一人と消えてゆく仲間の姿に自分を重ね、自らの未来を悟り、絶望する。
次は自分の番だと。
そうでないにしても、いずれそう遠くない未来には、その順番は巡って来る。
ここまで来ると、諦める者が殆どだ。
だが捕食者達は、更に残酷に、無慈悲に、彼らを追いつめてゆく。
捕食者達は知らない。
咬み千切られたときの焼けるような痛みを。
皮を剥がれたときの魂を削られるような痛みを。
そして、これから食べられる者達は知らない。
なぶり殺しさえ生温く感じる本当の地獄を。
「こいし?」
私の名前を呼ばれた。
ビクン、と肩が震える。
恐る恐る顔を上げると、お姉ちゃんが心配そうにこちらを見ていた。
「食欲が無いの?」
私は返答に窮した。
確かにお腹は空いていた。
だが。
この惨状を見て、彼らを食することに対し、抵抗を感じてしまった。
「熱でもあるんですか?」
ペットの火車が聞いてくる。
それに対し、無言で首を左右に振る。
「美味しいですよ?」
ペットの地獄鴉が、半分に分けられ、未だに中身がこぼれ落ち続けるそれを、私に勧める。
少し頭の悪い所があるが、表裏のない性格で私もお姉ちゃんも気に入っている。
もしこれを断ったなら、きっとこの子は残念そうな顔をするのだろう。
それは、私を含めてここにいる全員の本意ではない。
だから、私は。
大好きな家族のそんな表情を見たくないという一心で。
意を決して。
ソレを口にした。
・・・・・・
結論から言えば、それはとても美味しかった。
今まで食べた中でも五本の指に入るほどに、ソレは美味しかった。
だから。
私はその感情を認めたく無かったから。
気分が悪いと、やはり食欲が無いと理由を付けて。
家族の団らんの場所から逃げ出した。
口の中に残るのは、甘美な残滓。
途中から、溢れてくる涙のせいで、その味は薄い塩の味に変わった。
走って、走って走って走って。
私の部屋の扉を力任せに開け、そのままベッドに飛び込んだ。
後ろで、ドアが大きな音を立てて閉まる。
私はそれを聞きながら、枕に顔を押しつけて、泣いた。
ごめんなさいと、何度も何度も謝った。
美味しかった。
食べたくなかった。
甘美だった。
苦しかった。
それだから。
それなのに。
また食べたいと無意識に嗤い。
もう食べたくないと意識して泣いた。
覚という、忌み嫌われる力を持つ妖怪だからこんな感情を抱いたのだろうか。
それともこれは、その力を拒絶した私だからこそ抱いた感情なのだろうか。
人間なら、どう思うのだろうか。
他の妖怪は、どう思うのだろうか。
泣きはらした後の私には、そんな考えがよぎった。
だから。
私はまた、地上へ行く。
この感情が間違っていないと証明するために。
そして、補食する者の覚悟を得るために。
誰にも認識されない私は。
やはり誰にも認識されずに地上に出た。
見送りはいない。
見送りは必要ない。
これは、私の為に私自身の力で見付けなくては意味のない事だから。
お姉ちゃん、燐、空。
今度帰ってくるときは、ちゃんと向き合ってみせるから。
その時は、一緒に食べることが出来るくらい、強く心を持てるから。
だから。
その時は一緒に食べようね。
===== 銘菓 ひよこ饅頭を =====
ひよこ饅頭(リアル)
って感じですね
こいしがかわいかった。
くっ……まさか銘菓ひよこ饅頭だとは思わなかったですね。
最後にこんな素晴らしいオチを持ってくるのは、流石と言えましょう。
こいしが悲壮感ただよわせているからソレ系なんだと思ってましたが、
良い意味で裏切られましたね。
私もつい先日、東京土産のひよこ饅頭を頭から噛り付いていましたから
余計に笑えましたね。
面白いお話でした。お見事です。
見事にだまされました
尻から一口に食べるか
それが問題だ
ってのは置いといて見事に騙されました。夜だってのに声に出して笑ってしまった・・・
単純に面白かったの一言に尽きる
>19さん
自分は頭派
これは一本取られました。
騙されたww
なんかそんな感じ
2週目読んでもニヤニヤできない
ゆかりん!それは幻想入りさせちゃいかんぜよww
シリアスだと思ってた小説がひよこだった
な、なにを言ってるのかわからねえと思うが俺も何がどうなったのかさっぱりだった
橙がナズーリンを追っかけてたとかそんな次元の話じゃなかった
泣きそうな顔でヒヨコ食べてることりたん(;´Д`)ハァハァ
さあ、みんな早くだまされるんだ
しかしこいしの場合、第三の目を閉じてしまったことで余計に想像力(妄想力)が育ってしまったんじゃないだろうか…。
こいしちゃんの症状もある意味中二?
勉強になります!
でも実際良く出来ているお菓子とか食べ物は口にするのを躊躇ってしまうことはありますね。
ひよ子可愛いし。でも容赦なく喰います。それが食べ物として生まれてきた彼らに対する礼儀です。
とかやってた、私の子供時代。
オチで全てをさらって行く話が好きなんですよ。
今回は大成功でしたねぇ(しみじみ)
以下、コメ返しです。
※名前のない程度の能力の方が多いので、十人ほどで勘弁してください。
煉獄 さん>
ひよこ饅頭食べたいですねぇ。
本店が九州から移ってしまったおかげで、地方では手が届きません。
奇声を発する程度の能力 さん>
オチは鮮やかに決めるのが良いのです。
私は頭から千切って食べますねぇ・・・・・・
ネコん さん>
騙されるなんて人聞きの悪いwww
さあ、皆さん早く騙されるんだ
R さん>
一思いに両断するのも一つの優しさ、と言うことで。
たこ焼き さん>
勉強になるのならば幸いですねぇ。
ネコ輔 さん>
千鳥饅頭も九州の銘菓だっつんてんだろうがこンのだらずがぁ!(有難うございますの意)
そうですねぇ・・・まあ、せめて苦しまぬように食べるのが最低限の礼儀ですかねぇ。
#15 さん>
あれって一口で食べることが出来る大きさでしたっけ?
私も子供時代にそんな事していた記憶が・・・
5 さん>
済みません・・・それに関しては心の目を閉じて下さいとしか言いようがありません。
23 さん>
スゴイ食べ方ですねぇ・・・
中身が手にくっつきませんか?
30 さん>
ちなみに私、鳩サブレは半分に折って頭から食べます。
43 さん>
それ以上は夜伽になりますねぇ・・・
46 さん>
たい焼きの話は思ったよりも難航していますねぇ・・・
57 さん>
あれは可愛いですよねぇ・・・
58 さん>
どんな次元の話ですか;
72 さん>
大正解です。
そんな貴方にはこのスーパーこいしちゃん人形を。
80 さん>
まあ、感受性豊かな年頃と言うことでwww
84 さん>
リアルな食べ方ですねぇ;
最後に一言。
SSも、パワーだぜ!!
この一文で全ての緊張の糸が切れてしまったw
まぁ踊り食いには違いないwww